80歳以上の高齢者19名に対し, 腹部手術後のせん妄の発生頻度, 背景因子, 術前併存疾患との関連および周手術期の看護上の問題点について検討した. 対象は, 胃疾患患者10名, 大腸疾患患者9名である. 術後せん妄は19名中7名 (37%) に発症した. せん妄をきたした7名をA群, せん妄のない12名をB群として, 術後せん妄の背景因子を検討した. まず, 術式をみると, 大腸手術を受けた患者は, 胃手術を受けた患者に比べて, 有意に術後せん妄の発症率は高かった (p=0.0198). 一方, 術前Hb値, 肺活量, 1秒率, 出血量, 術後Na, Clの最低値に関しては, 両群間に差は認めなかった. これらについては, 今後さらに症例を重ねて検討したい. 術後せん妄が術後回復過程に及ぼす影響をみると, 術後排ガス日は, A群5±1日, B群4±1日であり, A群で有意に遅かった (p=0.0064). 排便日もA群で遅い傾向にあった. 術前併存疾患との関連をみると, 大腸がんイレウスのため術前にIVH管理を各13日, 33日, 37日施行した3名は全例が術後せん妄をきたした. 以上より, 80歳以上の高齢者の術後せん妄の予防と対策の視点から, 従来の様々な留意点に加えて, 次の2点にも十分配慮してケアすべきと考えた. 1) 術前に大腸がんイレウス等で絶食・IVH管理を必要とした患者では, 術後せん妄の発生に十分注意する必要があり, その予防や早期発見・治療に努める. 2) 術後せん妄をきたした患者は, 術後の排ガスや排便が遅れるので, 体位交換や早期離床等の援助を十分に行う.
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