果樹などの健全苗木育成のための圃場の既存線虫相を把握するため,気候条件が類似し土壌条件が異なる,神奈川県下の二つの果樹園について,土壌層位別の線虫相と土壌の理化学性を調査検討した.調査圃場は大和市のミザクラを栽植してある厚層多腐植質黒ボク土(以下,大和土壌と呼ぶ)と,平塚市のクリを栽植してある粗粒褐色低地土(以下,平塚土壌と呼ぶ)であった.
1)大和土壌は深さ1m付近までに7層に分かれ,各層位とも腐植にすこぶる富み,PHは微酸性でほぼ一定していた.平塚土壌は深さ1m付近までに5層に分かれ,各層位の腐植はきわめて少なく,pHは下層に向かって高くなっていた.また,土壌3相およびち密度の分布も大和,平塚でかなりの相違がみられた.したがって,大和,平塚の両土壌では,理化学的性質が異なっていることが認められた.
2)ベルマン法による線虫の分離検出によると,植物寄生性線虫は大和土壌から9属,平塚土壌から5属検出され,自由生活性線虫は両土壌から検出された.分離線虫数の種類別構成比は,大和土壌で植物寄生性線虫の占める割合が大きく,平塚土壌で自由生活性線虫の占める割合が大きかった.
3)線虫の種類によって分布の深さに違いがみられ,深層まで分布する線虫は,大和土壌の中では
Paratylenchus, Pratylenohusおよび自由生活性線虫で,平塚土壌の中では
Pratylenchus,Tylenchusおよび自由生活性線虫であった.他の線虫はだいたい表層に分布していた.
4)線虫密度と土壌3相との関係では,大和,平塚ともに気相,液相で相関が高かった.このことは,気相および液相の割合が線虫の生息分布に対して,一つの制限要因をなしているものと考えられる.
5)大和,平塚土壌共に表層できわめて高い線虫密度を示したが,大和土壌で深さ65cm(IVA層),平塚土壌で深さ13cm(C層)を超えると線虫密度が急減した.これには,土壌のち密度が大きく関与しているものと考えられる.すなわち,土壌断面がち密度6kg/cm
3付近以上の値を超えると,それより下層の線虫密度が激減することが認められた.
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