日本口腔顔面痛学会雑誌
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2 巻, 1 号
December
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総説
  • 武田 守, 松本 茂二
    2009 年 2 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    疼痛は大別して生理的疼痛と病的疼痛の二つに分類される.生理的疼痛は生体に加えられた侵害刺激により組織が損傷することから身を守るための警告信号の役割を果たすが,病的疼痛は,もはや警告信号の役割を果たさない.一般に,末梢組織の炎症または神経損傷は感覚情報伝導路のニューロン活動を変調させることにより痛覚過敏,アロディニアを伴う病的疼痛を引き起こすことが知られている.感覚情報の最初の中継地点である脊髄後角内のグリア細胞が病的疼痛に関わることは多くの報告があるが,最近,一次感覚神経節内のグリア細胞(サテライトグリア細胞)が病的疼痛(痛覚過敏,アロディニア)発現に重要な役割を演ずることが示唆されている. 実際, ニューロン及びグリア細胞からパラクリン(傍分泌)機構により分泌された神経伝達物質,修飾物質が慢性疼痛の引き金となり, 一次求心性神経の活動を過興奮させ,その結果, 中枢性に疼痛伝達ニューロンの活動を感作する事実が報告されている.本総説では,最近までの感覚神経節内におけるグリア細胞の活性化が病的疼痛発現に関わる知見をまとめ,解説するとともにニューロンーグリア細胞間の相互作用が病的疼痛発現を防ぐ治療の標的になることに焦点を当て解説する.
原著
  • 石垣 尚一, 廣川 雅之, 矢谷 博文
    2009 年 2 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    目的:顎関節症を始めとする慢性疼痛疾患は女性に多くみられ,このような性差の存在について種々の観点から仮説が提言されているが,その解明には至っていない.本研究の目的は,三叉神経領域における温度刺激に対する知覚および疼痛閾値の性差を明らかにすることである.
    方法:被験者として健常成人80名(男女各40名,平均24.7歳)を選択した.三叉神経領域における温度刺激に対する知覚および疼痛閾値の測定には,定量的感覚検査機器(TSA-II®, Medoc)を用い,両側頬部皮膚に温度刺激を加えた.性差,左右側差の影響の有無について二元配置分散分析を用いて検討を行い、平均値の差の検定にはt検定を用いた.解析にはSPSS Statistics® 17.0を用いた.
    結果:温刺激に対する知覚閾値には性差が有意に影響しており(P=.001),女性の温刺激に対する知覚閾値の平均値は男性に比べ有意に低かった(P=.001).冷刺激に対する知覚閾値には性差の影響を認めなかった.温刺激に対する疼痛閾値にも性差が有意に影響しており(P=.003),女性の温刺激に対する疼痛閾値の平均値は男性に比べ有意に低かった(P=.003).冷刺激に対する疼痛閾値には性差の影響を認めなかった.いずれの計測値にも左右側差の影響を認めなかった.
    結論:三叉神経領域における温度刺激に対する知覚および疼痛閾値には性差が存在し,温刺激時の知覚閾値および疼痛閾値は女性が男性に比べて低いことが明らかとなった.
臨床論文
  • 由良 晋也
    2009 年 2 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    目的:これまでに,全身麻酔下に複数の埋伏智歯を抜歯した後の疼痛発現に関係する因子を調査した報告は少ない.本研究の目的は,全身麻酔下に複数の埋伏智歯を抜歯した患者の鎮痛薬服用状況を調査し,鎮痛薬服用数に影響する因子を分析することである.
    方法:対象は,全身麻酔下に複数の埋伏智歯を抜歯した70名である.術後痛発現状況については,術後24時間および72時間の鎮痛薬服用数を調査した.鎮痛薬服用数に影響する因子の分析に際しては,鎮痛薬服用数を従属変数,性別,年齢,抜歯歯数,手術時間,麻酔時間,フェンタニル投与量,手術翌日のCRPの7項目を独立変数として,重回帰分析を用いて解析した.
    結果:70名中,鎮痛薬を服用した患者は66名(94.3%)であった.術後72時間以内の鎮痛薬服用数は,0錠から10錠(中央値6錠)であった.鎮痛薬服用数に影響する因子は,認められなかった.CRPを2変数(<2.0mg/dl,≥2.0mg/dl)として分析したところ,CRPレベルが高い患者において鎮痛薬服用数は有意に多かった.
    結論:複数の埋伏智歯抜歯後には,72時間で最大10錠の鎮痛薬処方が必要である.特にCRP2.0mg/dl以上の患者には,多くの鎮痛薬が必要とされた.
症例報告
  • 谷口 威夫
    2009 年 2 巻 1 号 p. 27-34
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    目的:口腔顔面痛専門医が少ない現状では,プライマリーケアの機関としての開業医は口腔顔面痛の知識を常に持ち,開業医にできる範囲で最大限の処置をすることが必要である.
    口腔顔面痛は相互に関連するいくつかのファクターが積み重なってひとつの症状を作っている.それらのファクターの中で開業医レベルでできる炎症や咬合性外傷のコントロールおよび咬合因子の除去などを行うことにより,それ以外の身体症状,神経症状などの問題点が浮き上がってくる.その反応を再評価した上で専門の医療機関などに紹介するのが良いと考える.また,歯科処置が他のファクターにも影響して緩快してゆくこともある.そのため口腔顔面痛の患者に対し,私は次のように対処している
    1.患者の物語を徹底的に傾聴し,不安を取り除き,希望を与える.
    2.炎症,咬合性外傷,咬合因子の除去などの処置をする.特に咬合性外傷(ブラキシズム)が多くの口腔顔面痛の誘因になっていることがあるので,ブラキシズムのコントロールは欠かせない処置である.
    3. 医療介入は最小限にとどめる.ブラキシズムのコントロールは認知行動(自己暗示)療法を主体にしており,オクルーザルスプリントは補助的に使用する.
    今回は3症例を通して開業医としての口腔顔面痛の対処法を記す.
  • 野田 隆夫, 齋藤 幸彦
    2009 年 2 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例1:16歳,女子.主訴は,食事の際,醤油等の刺激により該当部位に痛みが誘発されると言うものである.右下犬歯は,随意的タッピング時に垂直的動揺を示し,当該歯歯根近傍の頬側歯肉と舌側歯肉に卵円形の口内炎を生じていた.症例2:42歳,男性.主訴はインレー脱離.左上犬歯は,随意的グラインディングにより,臨在歯と比較して著明な頬側変位が観察され,当該歯の歯頸部から同側第二小臼歯の頬側歯肉に口内炎を生じていた.症例3:31歳,女性.定期検診で来院.左下犬歯は,随意的タッピング時に垂直的動揺を示し,当該歯歯根近傍の頬側歯肉に卵円形の口内炎を生じていた.症例4:41歳,女性.定期検診で来院.右上第二小臼歯は,随意的グラインディングにより著明な頬側変位を示し,当該歯歯根近傍の頬側歯肉に卵円形の口内炎を生じていた.症例5:33歳,女性.矯正治療中.右上第一大臼歯は,随意的グラインディングにより著明な頬側変位を示し,当該歯歯根近傍の頬側歯肉に卵円形の口内炎を生じていた.
    口内炎の症状は,発赤と浮腫で,潰瘍は認めず,触診で無痛であった.ただし,症例1のみ,触診で1/10(VAS)の疼痛があった.これらの口内炎は,当該歯の咬合調整後,消失した.
    考察:タッピング,あるいはグラインディング時の歯の変位により,歯周組織に過剰な負荷が伝達されたためこの口内炎が生じたと考えられた.一方,当該歯の咬合調整により歯の過剰な負荷を取り除くと,口内炎は消失した.すなわち,今回経験した口内炎5例は,咬合性外傷の結果生じた可能性が示唆された.
  • 山口 博康, 三浦 一恵, 別部 智司
    2009 年 2 巻 1 号 p. 43-48
    発行日: 2009年
    公開日: 2011/02/16
    ジャーナル フリー
    症例の概要:本症例報告は根管治療後の難治性疼痛歯内療法の2症例である.この処置として浸潤麻酔下で根尖狭窄部までの根管形成おこなったところ疼痛は消失した.
    第1症例:32歳女性2年前に他院にて6のRCT後の改善が認められなかった.エンドドンティックメーターTMのRテストで診断したところ,残存炎が確定され,診断的局所麻酔によって疼痛は消失した.
    第2症例:58歳男性 開業医からの当病院への根管治療依頼である.
    7は根管充填されていた.この歯は術後疼痛が続いていた.根充材除去後,根尖側部分に残髄が認められ,診断的局所麻酔によって疼痛は消失した.
    考察:以上のことより根管治療後難治性疼痛症例には,確実な作業長の設定と残髄の除去が必要である.
    結論:難治性疼痛の根管治療は確実な作業長の設定が重要である.
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