日本口腔顔面痛学会雑誌
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10 巻, 1 号
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原著論文
  • 瓜谷 大輔, 川上 哲司, 岡澤 信之, 桐田 忠昭
    2017 年 10 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    目的:痛みの心理社会的要因の一つである運動恐怖の評価に使用されるTampa Scale for Kinesiophobia(TSK)の顎関節症版であるTSK-TMDの日本語版(TSK-TMD-J)を作成し,その有用性を検証すること.
    方法:はじめにTSK-TMDと日本語版TSKを基に原作者の許可を得てTSK-TMDを日本語に訳し,その逆翻訳を原作者に確認することを経てTSK-TMD-Jを作成した.パイロット調査として日本顎関節学会専門医に診断された顎関節症患者38名にTSK-TMD-Jの回答を求め,合計点と2つの下位項目(Activity Avoidance:AA,Somatic Function:SF)の点数を算出した.それぞれの点数について平均点,最高点,最低点を算出し,点数の度数分布を確認した.また内的整合性を示すクロンバックα係数を算出した.さらに研究期間中に2回診察に訪れた者で,2回の診察間に主観的な病状変化がなかったものを対象に級内相関係数を算出してTSK-TMD-Jの再現性を評価した.有意水準は5%未満とした.
    結果:TSK-TMD-J 合計点の平均点は26.7±4.7点,最高点は36点(1名,2.6%),最低点は14点(1名,2.6%)であった.AAは平均点が14.8±3.1点,最低点が9点(3名,7.9%),最高点が21点(1名,2.6%)であった.SFは平均点が11.8点±2.6点,最低点が5点(1名,2.6%),最高点が17点(1名,2.6%)であった.クロンバックα係数は0.77であった.2回の測定間の級内相関係数は0.89(95%信頼区間0.65-0.97)であった.
    結論:各項目の点数の度数分布より,天井効果,床効果はないと示唆された.またTSK-TMD-Jの内的整合性,再現性が高いことが示唆された.
  • —睡眠質問票を用いた調査—
    安陪 晋, 桃田 幸弘, 松香 芳三, 大川 敏永, 堀川 恵理子, 葉山 莉香, 大倉 一夫, 河野 文昭
    2017 年 10 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    目的:慢性痛は睡眠に影響を及ぼすと考えられているが,口腔顔面痛と睡眠との関係は明確ではない.本研究では慢性的な口腔顔面痛として舌痛症患者の睡眠状態を検討することを目的とした.
    方法:舌痛症患者群は2012年6月から2015年12月の間に徳島大学病院を来院し,一次性舌痛症と診断された患者(13名;男性1名,女性12名)と,培養検査で口腔内にカンジダの存在が確認された二次性舌痛症患者(14名;男性3名,女性11名)である.対照群として補綴治療希望患者のうち,全身状態が良好で口腔粘膜に痛みを伴わない者(14名;男性2名,女性12名)を抽出した.年齢・男女比は患者群と同じ構成になるように抽出した.
    質問表はピッツバーグ睡眠質問表日本語版(PSQI-J)を用いた.睡眠の質や睡眠障害は睡眠関連項目7要素とPSQI global score (PSQIG)で評価した.
    結果:一次性と二次性舌痛症患者の受診までの病悩期間に有意差はなく,痛み強度も有意差を認めなかった.一方,全舌痛症患者の睡眠の質は対照群よりも低下していた.一次性,二次性舌痛症患者ともに対照群に比べて睡眠の質が有意に低下していた(P=0.03,P=0.02).また,二次性舌痛症患者では対照群に比べて,睡眠障害を示すPSQIGにおいて有意な増加を認めた(P=0.04).
    結論:慢性的な口腔顔面痛である舌痛症患者は睡眠の質が対照群に比べて良くなく,睡眠障害があることが示された.
  • 井川 雅子, 山田 和男
    2017 年 10 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    身体の様々な部位の異常感を奇妙な表現で訴える症例を,一般にセネストパチー(cenesthopathy)と呼ぶ.歯科を受診する本疾患の患者のほとんどは高齢者で,口腔内の異常感を単一症状的に訴える狭義のセネストパチーである.セネストパチーは従来より難治と考えられてきたが,その半数は治療で改善するという報告もある.本報告では向精神薬が著効した3例を供覧し,その病態生理と治療法について考察する.
    症例の概要:①65歳,男性.歯肉から糸やコイル状の金属が出ると訴えていた.アリピプラゾール6mg/日で9か月半後に症状はほぼ消失した.②60歳,男性.上顎左側側切歯から左胸部にかけて“神経の糸”のようなものがつながっており,ぐるぐる回ると訴えていた.うつ病治療のために服用していたアミトリプチリン50mg/日に,新たにリスペリドン1mg/日を加えたところ1年後に症状はほぼ消失した.③45歳,女性.下顎左側臼歯部に痛みの電流が流れ円を描いて回っていると訴えていたが,アミトリプチリン75mg/日で3か月後に症状はほぼ消失した.
    考察:高齢者に多い口腔内セネストパチーには,統合失調症圏またはうつ病圏の病態に加え,加齢に伴う脳器質的変化が体感異常に関与している可能性がある.
    結論:治療の第一選択として向精神薬療法を用いること,また治療薬としては,抗精神病薬のみではなく,抗うつ薬も選択肢に入れることを検討すべきであろう.
  • 臼田 頌, 村岡 渡, 西須 大徳, 佐藤 仁, 黄地 健仁, 吉川 桃子, 莇生田 整治, 河奈 裕正, 中川 種昭, 和嶋 浩一
    2017 年 10 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    目的:国際頭痛分類第3版beta版(以下ICHD-3β)では,三叉神経痛(13.1)は,典型的三叉神経痛(13.1.1)と,従来,症候性三叉神経痛とされた有痛性三叉神経ニューロパチー(13.1.2)に分類される.今回われわれは,口腔顔面痛外来における三叉神経痛の臨床統計を行い,その特徴を検討することとした.
    方法:慶應義塾大学病院歯科・口腔外科,川崎市立井田病院,日野市立病院の口腔顔面痛外来において,三叉神経痛の患者69例の各病態の割合,治療結果等についてレトロスペクティブな検討を行った.
    結果:各病態の割合は,有痛性三叉神経ニューロパチーの下位分類である外傷後有痛性三叉神経ニューロパチー(13.1.2.3)が51%でもっとも多かった.ついで典型的三叉神経痛(13.1.1)の純粋発作性(13.1.1.1)が28%,持続性顔面痛を伴うもの(13.1.1.2)が6%であった.また,外傷の原因の66%は抜歯であった.治療は,外傷後有痛性三叉神経ニューロパチーでは,おもにプレガバリンが使用され51%に改善を認めた.典型的三叉神経痛はおもにカルバマゼピンが使用され,純粋発作性は63%,持続性顔面痛を伴うものは25%に改善が認められた.
    結論:口腔顔面痛外来における三叉神経痛の病態ごとの経過の特徴や薬物療法の有効性には差があることが明らかになった.
  • 西須 大徳, 村岡 渡, 牧野 泉, 遠藤 友樹, 臼田 頌, 佐藤 仁, 池田 浩子, 莇生田 整治, 河奈 裕正, 中川 種昭, 西原 ...
    2017 年 10 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    目的:腫瘍に随伴する三叉神経痛は占拠性病変による有痛性三叉神経ニューロパチー(ICHD3β:13.1.2.5,以下PTN-SOL)に分類される.三叉神経痛の約10%がPTN-SOLとされ,歯科領域からの報告も多く,三叉神経痛はPTN-SOLの可能性も考慮した早期診断が重要である.今回われわれは,12脳神経検査で早期診断に至ったPTN-SOLの1例を経験したので報告する.
    症例:70代女性,下顎右側歯痛を主訴に来院した.2012年12月,食事中に下顎右側小臼歯部に一過性の強い痛みを自覚し近歯科受診した.三叉神経痛疑いで当科紹介となるも,痛みが消失したためすぐに受診せず,2013年7月に痛みが再発したため当科初診となった.疼痛構造化問診では,食事や歯磨きで誘発される痛みで,中〜強度の数分続く発作痛と軽度の20分続く持続痛であり,しびれを随伴していた.典型的三叉神経痛ではないため,より詳細な医療面接を行ったところ,右側オトガイ部の知覚鈍麻を認めた.また12脳神経検査では,右側三叉神経第3枝の知覚低下,複視および眼球運動障害が確認された.MRIでは鞍結節および海綿静脈洞周囲の腫瘍性病変が認められたため脳神経外科に診察を依頼した.
    結果:最終診断としては,鞍結節および海綿静脈洞髄膜腫によるPTN-SOLと考えられた.
    結論:PTN-SOLの早期診断のために12脳神経検査の重要性が示唆された.
症例報告
  • 樋口 景介, 千葉 雅俊, 山口 佳宏, 高橋 哲
    2017 年 10 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    症例の概要:症例は69歳の女性.約1か月前より左眼窩〜側頭部の発作痛を繰り返すようになった.某病院脳神経外科を受診し,頭部CTとMR検査で異常は認められなかったため,歯科疾患と考え,東北大学病院歯科顎口腔外科を初診来院した.発作痛は1日10回程度,2〜3分間の電撃痛(VAS:75)で,診察時に確認できなかったが左眼に流涙を伴うとのことだった.三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)を疑い,インドメタシンファルネシル(400mg/日)を7日間投与したが痛みに変化はなかった.発作性片側頭痛を除外し結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNCT),または頭部自律神経症状を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作(SUNA)を疑い,当院神経内科を紹介した.神経内科で発作中の左側結膜充血および流涙が確認され,SUNCTと確定診断された.クロナゼパムおよびガバペンチンによる薬物療法を受け,発作痛は改善した.
    考察:SUNCTは一側性の眼窩部,眼窩上部または側頭部の激痛発作で,同側の結膜充血および流涙を伴うことを特徴とするTACsである.TACsはタイプ診断に,発作痛の持続時間とインドメタシンの有効性を評価することが重要である.TACsなどの頭痛患者は歯科を受診する可能性があるため,一般歯科医でも頭痛の知識が必要と考えられる.特に,口腔顔面痛専門医はTACsを正しくタイプ診断できる必要がある.
    結論:歯科医も頭痛の知識を持つことが重要であると考える.
  • 岡田 明子, 野間 昇, 山寺 智美, 淺野 早哉香, 関根 尚彦, 今村 佳樹
    2017 年 10 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は,45歳の男性で摂食開始時に生じる左側頬部の発作痛と食後の持続痛を主訴に来院した.激痛のために食事がとれない状態であった.発作痛は,食事開始時,特に食物を口の中に入れて噛み始めた直後に左側顎下部に突発性の激痛が生じるもので,1分以内に緩解するものであった.また,痛みをこらえて食事を継続すると,その後,食事中に発作痛は生じず,いったんはこの発作痛は緩解し,これらの性質は三叉神経痛と類似していた.持続痛は咀嚼筋の圧痛を伴っており,咀嚼筋の筋筋膜痛症候群と類似していた.カルバマゼピンの処方やトリガーポイント注射を試みたが,完全には奏功しなかった.各種画像検査や血液検査を行ったが,異常所見を認めなかった.梅干しなどをみせただけで痛みが再現され,左側耳下腺造影検査を試みたところ,ステノン氏管の狭窄が認められた.また,耳下腺造影検査の際の造影剤注入時に抵抗が強く,いつも自覚する痛みの部位に強い痛みが生じたため,ステノン氏管の狭窄ないし閉塞の関与が疑われた.耳下腺造影検査後に痛みは消失し,現在まで痛みの再燃が生じていない.
    考察:摂食開始時疼痛は三叉神経痛と診断されることが多い.しかし,ステノン氏管の狭窄でも摂食開始時の疼痛を生じることがあり,唾液腺造影までを含めた唾液腺疾患の除外診断が必要であると考えられた.
    結論:ステノン氏管狭窄により,三叉神経痛様の摂食開始時疼痛を引き起こした1例を経験した.
  • 岩井 謙, 井川 雅子, 池田 浩子, 石井 隆資, 苅部 洋行
    2017 年 10 巻 1 号 p. 49-54
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    症例の概要:患者は42歳の男性.主訴は左側頭部,咬筋,頸部の激痛であった.仕事が多忙で疲弊していたところ,緊張型頭痛の頻度と疼痛強度が増悪した.脳外科で精査を行うも異常は認められなかったため,歯科主治医より紹介で,顎関節症疑いで口腔外科を受診した.同院では顎関節症に起因する頭痛との診断で開口訓練やスプリント治療などが行われたが,頭痛がさらに増悪し耐えがたい激痛となったため当科を紹介受診した.頭痛は連日生じるため,受診までの3か月間はロキソプロフェンナトリウム60mgを毎日3〜4錠服用していた.反復性緊張型頭痛が連日性に移行していることから,薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:Medication Overuse Headache:MOH)と診断した.まず,ロキソプロフェンナトリウムの服用を即時中止させ,同時に緊張型頭痛の予防薬としてアミトリプチリンを,不安の抑制のためにジアゼパムを開始した.翌日には痛みは1/3以下に改善し,アミトリプチリンを50mg/dayまで漸増したところ,激しい頭痛は消失した.
    考察:鎮痛薬を連日服用することによって,頭痛が連日性に移行したことからMOHと診断した.また痛みに対する強い不安から,痛みが増幅されたものと考えられた.
    結論:顎関節症による頭痛と診断されていた症例だが,MOHが併存し,また心理的要因により急激に増悪したと考えられた.正確な診断のため,歯痛や顎関節症のみならず頭痛疾患に対する知識を持つ必要がある.
  • 池田 浩子, 今井 昇, 井川 雅子, 岩井 謙, 道端 彩, 高森 康次
    2017 年 10 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    症例の概要:72歳男性.咀嚼時の両側咬筋の疲労感・開口障害による咀嚼困難を主訴に口腔外科を受診した.顎跛行,開口障害,複視,めまい,体重減少,間歇的な頭皮の痛みなどの症状が認められたため,精査目的に専門施設(神経内科)を紹介した.頸動脈エコー,側頭動脈生検の結果,巨細胞性動脈炎と診断された.ステロイド治療が施行され,速やかに症状の改善が認められた.
    考察:巨細胞性動脈炎は頭痛以外にも多彩な症状を呈する.顎顔面領域にも顎跛行や開口障害など様々な症状が発現するため歯科を受診する可能性も高いと考えられる.巨細胞性動脈炎が呈する症状のうち,顎跛行,複視,側頭動脈の拡大・圧痛・拍動消失は陽性尤度比の高い症状とされており,そのような症状が認められた場合は速やかに専門施設へ紹介することが重要である.そのためには歯科医師も巨細胞性動脈炎の病態を正確に理解しておく必要性があると考えた.
    結論:顎跛行および開口障害を主訴に口腔外科を受診し複視,めまい,体重減少,間歇的な頭皮の痛みおよびリウマチ性多発筋痛症の合併も考慮された巨細胞性動脈炎の症例を経験した.
  • 渡邊 友希, 佐藤 多美代, 佐藤 仁, 船登 雅彦, 菅沼 岳史
    2017 年 10 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/04/24
    ジャーナル フリー
    症例の概要:74歳の女性で,「頬のあたりがざわざわする,歯を抜いてほしい.」を主訴とした.X−6〜4年,A歯科医院にて14歯の自費治療を受けた後に歯の不快感や痛みを訴えるも,満足の得られる対応ではなかった.X−4〜3年,B歯科医院を受診し,抜髄等の歯科処置を受けるも歯や歯肉の痛みは改善せず,X−3年頃から複数の医療機関にて「歯の痛み→歯内治療→抜歯→他の歯の痛み→歯内治療→抜歯…」が繰り返された.その結果,2年間で計10歯の抜歯を受けるが症状は改善せず,X年に当科に紹介された.当科初診時には左側咬筋から上顎左側第一小臼歯への関連痛と,上下左側第一小臼歯〜第二大臼歯相当部歯肉に動的機械刺激に対してallodyniaを認めた.上顎左側第一小臼歯の非歯原性歯痛,顎関節症咀嚼筋痛障害,上下左側臼歯部の神経障害性疼痛と診断し,認知行動療法を主体とした治療を行った.問題点を1.身体,2.感情,3.認知,4.行動の4つに分けて評価して介入した結果,自発痛は消失し,歯肉のallodyniaはdysesthesiaに改善した.
    考察:難治性疼痛疾患に対し,身体科としての治療に加えて感情面への配慮や非機能的な認知の修正,疼痛行動・疼痛回避行動への介入など,認知行動モデルに基づく多面的な対応が有効であった.
    結論:2年間で10歯を抜歯された非歯原性歯痛に対して心理的介入が必要であった症例を経験した.
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