児童青年精神医学とその近接領域
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59 巻, 2 号
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特集 児童・青年期における司法精神医学
  • 高岡 健
    2018 年 59 巻 2 号 p. 141-147
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    司法精神医学は,精神鑑定,犯罪学,強制入院に関連する倫理的問題から,地域・学校・家庭における子どもの人権擁護までの,膨大な研究・実践領域を含む。本稿では,第1に,「児童の権利に関する条約」の重要性について紹介した。第2に,児童と関係の深い日本の諸法のうち,「児童福祉法」,「児童虐待防止法」,および「少年法」の要諦を概説した。最後に,「精神保健福祉法」の問題点を,児童の同意能力という観点から論じた。

  • 桑原 斉, 池谷 和
    2018 年 59 巻 2 号 p. 148-158
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(autism spectrum disorder: ASD)の社会的な認知度が向上し概念が整理されたのは,最近30年ほどのことである。この間に,社会の側ではメディアで報道される犯罪・触法行為についてASDとの関連が取りざたされることが増えているように思われる。また,医療の側ではASDによる犯罪・触法行為についてケースレポートによる報告が蓄積されている。これらの逸話的な報道・報告は,犯罪・触法行為とASDの親和性を強調するが,犯罪・触法行為とASDの関連についての科学的な事実は多くない。本稿では,犯罪・触法行為とASDの関係について,現在までの知見を概説し,若干の考察を加える。

  • ─日本の現状と課題─
    仲 真紀子
    2018 年 59 巻 2 号 p. 159-166
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    司法面接は,虐待・犯罪の被害者または目撃者となった可能性のある未成年者を対象として行われる面接の方法である。事実,すなわち何が起きたかを,心理的負担に配慮しつつできるだけ正確に聴取することを目指す。本稿では司法面接の背景と現状,司法面接の方法,司法面接の効果,ならびに今後の課題について概説した。第一に,欧米で司法面接法が開発されるに至った経緯や日本での開発・使用の状況について述べた。第二に,司法面接の方法を概観した。特に(1)事実の調査であること,(2)正確な情報を得るためにオープン質問を用いること,(3)自由報告(自発的な報告)を得るために面接が構造化されていること(面接での約束事,話しやすい関係性の形成,出来事を思い出す練習を行った後に本題に入り,最後は終結の過程を設ける),(4)子どもの精神的二次被害を低減するため,面接の繰返しを避ける工夫がなされていること(司法面接は多専門で行い,録音録画する)を取り上げ説明した。第三に,司法面接により得られる実証的な効果について述べた。すなわち(1)正確な情報がより多く引き出せること,(2)オープン質問を主とする面接で得られた供述は,クローズド質問により得られた供述に比べ,信用性がより高く評価され得ることを示した。最後に,児童相談所,警察,検察庁の連携の現状につき紹介し,今後は福祉と司法のみならず,医療や心理臨床の連携も必要であることを強調した。

  • ─家庭裁判所調査官の立場から─
    藤川 洋子
    2018 年 59 巻 2 号 p. 167-176
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    児童・青年期の刑事事件を担当するのは,家庭裁判所である。わが国は,14歳以上を刑事責任年齢とし,20歳未満による刑事事件については,少年法がまず適用される。少年法においては,司法精神医学では本質的な「責任能力」が,必ずしも問題にならない。

    家庭裁判所には,心理学,教育学,社会学,社会福祉学,法律学という人間関係諸科学の専門家として家庭裁判所調査官が置かれている。罪を犯した少年,保護者らに面接を行い,その少年にとってどういう処遇が適切か,裁判官に意見を提出する。

    筆者は,元家庭裁判所調査官の立場から,わが国の少年非行の現状を説明し,近年,精神医学の視点の重要性が強まっていることを述べる。また,調査官業務のなかでのジェノグラムの効果的な使い方や,司法面接の重要性を紹介したい。

  • 義村 さや香, 十一 元三
    2018 年 59 巻 2 号 p. 177-186
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    少年事件,あるいは検察官送致による刑事事件となった事案には,少年が自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder; ASD)を有するケースが一定数存在することが知られるようになった。従来の司法精神医学的解釈ではこれらのケースの理解が困難なことも少なくなく,児童精神科医による精神鑑定の要請が高まりつつある。

    ASDを有する少年の司法鑑定では,ASDの特性を十分に踏まえた上で非行の経緯や動機,精神状態を評価・分析する必要がある。また,裁判員制度の施行により,司法と精神医学との二重の意味での非専門家である裁判員が刑事事件に対して判決を下すことになったが,従来の精神疾患との違いや臨床像の多様性,ASD者の精神状態は一般精神科医にとっても理解が容易でないことを鑑みると,鑑定後の証人尋問において,正しい理解を得るための説明にも配慮する必要がある。

    本稿では,ASDを有する少年の司法鑑定および証人尋問での説明に関する留意事項について,障害理解,責任能力判断,従来の司法精神医学の通念からの乖離という論点から示した。

原著
  • 山室 和彦, 太田 豊作, 中西 葉子, 松浦 広樹, 岡崎 康輔, 疇地 崇広, 澤田 里美, 岸本 直子, 飯田 順三, 岸本 年史
    2018 年 59 巻 2 号 p. 187-198
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    ADHDの中核症状は不注意,多動,衝動性であるが,なかでも衝動性の存在が日常生活に与える影響は甚大である。DSM-5となり自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)と注意欠如・多動症(Attention Deficit/hyperactivity Disorder: ADHD)との併存(ADHD/ASD)が認められるようになったが,ADHDにASDが併存することが衝動性に如何に影響を与えるかはほとんど分かっていない。そこで,今回我々は近赤外線スペクトロスコピィを用いてADHDとADHD/ASDに対し,衝動性と関連のある前頭葉の機能を評価した。対象としてADHD群は平均8.93歳の15例と,ADHD/ASD群は平均8.64歳の15例で検討を行った。さらに,年齢,性別,知能指数を一致させたControl群15例を対象とした。賦活課題としてはStroop color-word課題を用いて,課題遂行時の前頭前皮質の酸素化ヘモグロビン変化を測定し,ADHD群とADHD/ASD群を比較した。結果として,前頭領域全24チャネルのうち,Control群と比較してADHDおよびADHD/ASD群でチャネル5,15,16,23において有意に低値であった。また,Control群と比較してADHD群でチャネル11において有意に低値であり,ADHD/ASD群でチャネル12において有意に低値であった。さらに,ADHD群およびADHD/ASD群はControl群と比較して,正答数は有意に低く,誤答率は有意に高値であった。これらから,ADHD群とADHD/ASD群は前頭前皮質の血液動態反応およびStroop color-word課題の成績から衝動性を含めた実行機能障害に関して違いがあるとはいえないことが示唆された。

症例研究
  • ─アリピプラゾールと音曝露を試みた一例─
    井上 勝夫, 神谷 俊介, 吉林 利文, 宮岡 等
    2018 年 59 巻 2 号 p. 199-207
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    重症の聴覚過敏症状を呈した自閉スペクトラム症autism spectrum disorder(ASD)の18歳女性症例の治療経過を報告した。患者は13歳時に不登校のため当院を初診し,特定不能の広汎性発達障害と診断された。18歳時,ほとんど全ての日常生活音に過敏となり驚愕の反応を示し恐怖を感じるようになり,耳栓とイヤーマフでも対処困難なため再診した。耳鼻科での医学検査,頭部magneticresonance imaging検査,および脳波検査で異常所見なく,ASDに関連した聴覚過敏と診断された。適応外使用であることを含めた説明と同意を経て薬物治療を試みた。Aripiprazole(ARP)を18mgまで漸増したところ症状は軽快したが,副作用が生じたため中止した。その後,ARP 3 mgで症状の軽快がみられたが効果不十分だったため,ARP再開3カ月後より音曝露を課題とした治療の併用を試みた。音曝露は,音楽を耐えられる音量で1日1回15分毎日,徐々に音量を上げ,耳栓の上からヘッドホンを装着して聴くことを課題とした。その結果,音刺激に対する馴化と般化が生じ聴覚過敏は大幅に軽減した。ARP再開5カ月後,副作用のためARPを中止し音曝露のみを3カ月間継続したが,症状の改善が続いた。本症例の治療経過から,ASDの聴覚過敏に対する少量のARPと音曝露の併用の効果の可能性が示唆された。ASDの聴覚の特徴,ASD治療におけるARPについての副作用を含めた最近の知見,聴覚過敏の治療,および今後の展望について考察した。

意見
  • 高岡 健, 岡田 俊
    2018 年 59 巻 2 号 p. 208-220
    発行日: 2018/04/01
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー

    “child”の訳語としての「児童」と「小児」について,その異同を検討した。年齢が幼いという意味では両方の使用が可能であるが,心理・社会・法などを含む広い概念としては「児童」を用いるべきであり,身体との結びつきに重点が置かれる場合には「小児」を用いるべきである。和語である「子ども(期)」「子供(期)」「こども(期)」は,一般の人々向けに平易さを強調する場合に限って用いるべきであり,漢語である「青年(期)」「思春期」とは対応しない。「児童(期)」には「青年(期)」が対応し,「小児期」には「思春期」が対応する。

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