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影山 隆司, 三浦 雅樹, 志倉 圭子, 吉川 秀人, 小西 徹
2013 年38 巻2 号 p.
257
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
当施設では、在宅支援として通園事業、短期入所(定員20)および緊急入院病床3床を有している。その中で短期入所は、2000年4月以降2013年3月末までに延べ270名が利用していた。しかし、短期入所とはいうものの長期に利用しているケースもいる。そこで、長期に短期入所を利用している重症児者について調査した。
方法
2000年4月1日から2013年3月31日の間に短期入所を利用した270名のうち、年間100日以上利用していた71名。基礎疾患、利用時年齢、転帰などをカルテより後方視的にまとめた。
結果
基礎疾患は、胎生期障害30名、周産期障害21名、後障害17名、原因不明3名。内、超重症児者は24名(33.8%)。利用時年齢は、就学前が約20%、学童期約40%強、卒業後約40%弱。転帰は23名が入所、12名が死亡(入所後死亡3名)、転居2名、利用継続36名、転帰不明1名。入所に至った23名は、胎生期障害8名、周産期障害8名、後障害5名、原因不明2名、内超重症児者8名、入所時平均年齢がそれぞれ21(2−56)歳、21(5−36)歳、25(15−41)歳、27(22−33)歳。入所後死亡した3名は全員超重症児であり内2名は入所後1年で死亡していた。死亡した12名は、胎生期障害5名、周産期障害3名、後障害4名、内超重症児者7名。
結論
長期に短期入所を利用しているケースでは、日中活動の場としての日帰りのケース(特に就学前や卒業後)や家庭の事情によるケースが多く存在していた。しかし、33.8%のケースは超重症児者が含まれていた。今回の調査期間で、外来で関わってきた超重症児者は55名いるが、その半数以上が短期入所を長期に利用していたことになる。また、入所した23名では、入所1.2年前より急激に利用日数が増えていた。超重症児者や入所に至るケースでは、介護だけではなく、様々な医療的介入も増えているケースが多く、今後の在宅支援の在り方を考えていく必要があると思われた。
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人見 和彦
2013 年38 巻2 号 p.
258
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
児童院は1967年に開設し短期入所事業は1977年6床から始めた。その後短期入所の利用ニードは年々高まり、2003年度より2005年度にかけ建て替えを機に各病棟2床で12床体制を取っている。近年では土日祝日には利用希望が重複し、入所の断りや希望日数の短縮が起きている。また、在宅重度障害者の超重症化によりショートステイ・一時預かり・レスパイト的に利用できる施設が足りないなど、医療的依存度の高い支援が求められている。
今回、児童院の短期入所利用状況を調査することにより、短期利用の傾向・状況、利用理由を知ることができた。今後どのような体制をとることにより利用者・家族のニードに答えて行くことができるのか、また安全で快適な支援ができるのか探ることができたので報告する。
調査方法は過去の当院事業報告書より利用理由・件数・日数を調査し、2012年度については短期入所計画書より利用理由等の具体的調査を行った。1977年当初は利用も少なく年間を通して10件程度で推移していた。社会的理由での利用が可能となり利用件数および利用日数は急増し、2012年度は延べ件数1047件、延べ日数2794日の利用があった。理由別日数は冠婚葬祭77日、家族の病気130日、休養・介護疲れ825日、所用・その他(兄弟姉妹行事参加等)1700日、待機登録の体験入所62日であった。上記年間利用率は64%で休日利用日数975日年間利用率72%であった。利用者の内超重症児16名・準超重症児16名で利用日数は1064日(38%)であった。
今後の課題は、1.利用者の重症化に伴い重篤な体調変化に対応できる医療技術の向上、2.利用件数の増加に伴い他の医療機関との連携強化、3.各病棟の安全面に考慮した受け入れ体制の強化、4.利用者の障害程度・発達段階に応じた療育・支援の展開、5.利用者と共に介護者・家族の状況を十分理解し、仕事や生活の一部支援を担っていくこと。
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小西 徹, 平元 東, 根津 敦夫, 片山 雅博, 宮崎 信義, 末光 茂
2013 年38 巻2 号 p.
258
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
重症児者通園は1989年にモデル事業として始まり、今回の制度改革で法定化され生活介護事業と児童発達支援事業に移行した。この変革期において今迄の重症児者通園が果たしてきた役割についてまとめておくことは重要であり、新たな制度への提言という点でも意味があると考える。
対象・方法
モデル事業から実施している全国5施設において、23年間の通園活動の実態調査を行った。調査内容は、利用者数(経年的変化)利用者の状態(障害重症度・大島分類、基礎疾患など)、利用期間(開始・終了年齢)、最終転帰、医療ケアおよび療育内容などである。
結果
1)利用者数:5施設で延べ782名の利用があり、定員の3〜5倍を受入れており医療福祉圏域を越えた支援を展開していた。2)利用者の障害像:狭義重症心身障害が86.8%を占め、超・準超重症児者も合わせて23.4%と入所者とほぼ同等であった。障害重症度は年々重度化する傾向があり、特に、2008年頃からは呼吸器管理のケースが急増している(NICU後方支援)。3)利用状況:継続利用45.1%、施設入所に移行15.7%、死亡13.8%、その他(就学、転居など)25.3%であった。利用開始年齢は施設により若干異なるが6歳未満26.9%(児童発達支援)と18〜24歳28.2%(生活介護)に2つのピークがあった。利用期間は転帰により若干異なるが平均7〜12年間で15年以上継続例が30%を占め、利用は長期間にわたっていた。4)通園活動:障害重症度や年齢・ライフステージに添っていろいろの療育活動が展開されており、通園が日常生活の一部になっているケースが多かった。
結語
重症児者通園は在宅支援の中核的な役割を担っていることは間違いない。そして、重度障害例がほとんどであることから、重症児者通園では「日中活動の場」+「療育・訓練の場」+「健康維持・医療の場」が揃っていることが必須条件であり、人員配置や重症加算などへの配慮が求められる。
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深海 真理子
2013 年38 巻2 号 p.
259
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
食物を経口摂取する重症心身障害者は外見上、摂食嚥下機能に問題ない傾向に捉えられる例が少なくないが、なんらかの機能障害はあり急性疾患による摂食困難から栄養不良や突然の窒息など生命への影響や危険は高い。そこで適切な摂食嚥下機能評価と援助について、連携して専門機関で取り組んだ一事例を報告する。
症例
A氏50歳女性、脳性麻痺、精神発達遅滞、喘息、摂食評価は水分の取り込みで口唇閉鎖できず嚥下でむせたが、呼吸器感染から喘息重積発作を起こし2週間の点滴、酸素治療で、姿勢が頭部の前屈、上体不安定になり、左口角下垂と舌の上下運動、送り込み低下、緩慢な嚥下から口腔内食残があり、摂食による呼吸数増加と努力呼吸があった。
実施・結果
摂食再開時医師、看護師、言語聴覚士、理学療法士と摂食嚥下機能評価から食事量、形態、摂食方法を決定後、数日で評価を繰り返した。職員は摂食再開直後から機能低下を認識し援助していた。1週間後状態安定していたため摂取量増量したが呼吸数増加あり、摂食嚥下ワーキンググループから、負担を最小限にした経口摂取と経管栄養で栄養管理を評価受け状態は安定した。口腔内食残残留は粘調剤使用でなくなった。嚥下造影検査で水分摂取評価実施、液体の形状と姿勢から誤嚥リスクが高く、姿勢と水分の粘調剤使用で形状調整、適切な物品など摂取方法を決定した。
考察
頸部周囲筋肉は密接して活動共有して「姿勢」「嚥下」「呼吸」に大きく影響があり、事例で頸部の筋力低下があり摂食嚥下機能低下、呼吸の変調、頭部の前屈は影響を受けた状況と考える。摂食再開時職員は機能低下を認識の上援助したが、摂食援助が日常的に多くを占め、学習や経験を重ね個々の摂食嚥下の問題と援助を把握していた結果と示唆する。早期から関連機関で取り組み評価を繰り返したことは、摂食嚥下機能評価の重要性と根拠ある問題、援助の理解につながった。
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野坂 浩司, 石田 祐子, 加藤 かおり, 田口 いずみ
2013 年38 巻2 号 p.
259
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
右側位注入で嘔吐を繰り返している変形・側彎のない重症児(者)に、左側臥位注入の有効性を検討する。
方法
脊髄小脳変性症・胃食道逆流症で、変形・側彎はなく、言語的訴えはない60歳代男性の1事例について検討する。右側臥位注入時と左側臥位注入時に胃内容残渣の有無・エアーの有無・嘔吐の有無と、注入前・注入開始から15分後・30分後・1時間後・終了時の心拍と体動の有無のデータをとり分析し比較検討する。
結果・考察
分析結果から、 p 値0.04>0.05のため2つの母集団の間には有意差があると判断できる。また、右・左側臥位注入それぞれの値で対応のある2群間のt検定では、右側臥位注入では1時間後と終了時に有意差が見られ、左側臥位注入では、終了時のみ有意差があった。嘔吐・胃内容残渣物は右側臥位・左側臥位どちらの体位も見られず、注入後に体位変換することで胃内容物の排出を促したと考える。心拍の変動は、右側臥位注時の平均心拍は注入開始15分後に一旦下降するが、その後は時間の経過とともに心拍は上昇し、終了時に一番高値となった。左側臥位注入時の平均心拍は注入開始15分後と30分後に下降したが、その後は経過時間とともに上昇し、終了時が一番高値になった。注入中の心拍の変動からは、左側臥位注入の方が心拍上昇に影響は無かったと言える。左側臥位注入の方が、胃酸の逆流刺激や胃に注入物が貯留するなどの負担が少なく注入が行えたと考えられる。体動の有無と注入中の心拍の上昇には関連性はなく、不快の表出と考えられる体動は左側臥位注入の方が少なかった。
結論
変形や側彎のない胃食道逆流患者にとって、左側臥位注入の方が心拍の上昇や体動を増強させることが少なく注入が実施できる。
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畠山 智子
2013 年38 巻2 号 p.
260
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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対象・目的
A氏、幼児期、女児、脳性麻痺、精神発達遅滞、てんかん、胃食道逆流(以下、GER)、慢性呼吸不全(単純気管切開)。十二指腸への通過障害はなし。普段は動脈血酸素飽和度(以下、SpO2)90%台後半、脈拍110回/分。唾液を誤嚥し、気管内に貯留するとSpO2 80%台への低下や脈拍140回/分以上の増加、全身緊張、振戦が見られた。今回、A氏の体位を工夫し唾液の誤嚥の回避が可能となったため報告する。
結果
逆流を防ぐため頭部を20〜30度挙上し、90度側臥位をとったが効果的に唾液を口腔外へ排出できなかった。唾液の誤嚥のため夜間入眠することも困難であった。また、椅子を用いて座位を試みたが、唾液誤嚥のため1分おきの気管内吸引を要し、継続は困難であった。次に、経管栄養中以外はベッドをフラットにしても逆流による嘔吐が見られないことを確認し、ベッドをフラットにしての体位を取り入れることとした。定時の入眠前の内服、経管栄養を頭部挙上の右側臥位で行った後、ベッド頭部を下げフラットにし、深めの左側臥位に換えた。夜間分泌物の気管切開部からの噴き出しや全身緊張・振戦がなくSpO2 90%台後半で経過し、脈拍140回/分以上の増加もなく4〜5時間過ごせた。
考察
唾液を食道に導くため頭部を挙上し喉頭から気道へのルートに角度をつくる方法は、声帯麻痺のため困難であったと考える。フラットな状態で左右の深めの側臥位を行うことで、唾液は喉頭に流れることなく口腔外に排出され気管切開部からの分泌物噴出も減少したことから、この体位調整はA氏の唾液の誤嚥防止に有効であったと考える。重症心身障害児は唾液の誤嚥を防ぐ目的一つにしても、個々の疾患や医療的処置(気管切開など)により身体条件は異なるため、各身体条件を考慮し体位を検討していくことが重要である。
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竹中 弘, 佐久間 恵, 青木 桃子
2013 年38 巻2 号 p.
260
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
経管栄養注入(以下、注入)を保温した状態で実施する場合と、常温で実施した場合とを比較し、末梢の皮膚温度が改善されるかどうかを明らかにする。常温とは、ここでは37℃から38℃に温めたものとする。
方法
1.対象者:四肢末梢冷感があり、パルスオキシメーターによる酸素飽和度の数値が正確に測定できない利用者4名(年齢10歳台から30歳台、男性2名、女性2名)
2.期間・日程:季節による変動を最小限にするために、1週間毎に保温注入と常温注入を実施し、2012年5月初旬から10月初旬まで、末梢皮膚温度の変化を測定した。
3.データ収集の方法 測定時間:利用者毎に経皮的体温計を使用し、同一箇所を6時、11時、16時、20時に測定。注入時間は1時間とし、注入直前、注入終了直後、注入終了1時間後に末梢皮膚温度を測定。測定条件:室温25℃±1℃を基準とし、平日の非入浴日(週3日)に実施。保温方法:通常の注入ボトルにボトル用、ルート用の保温バッグを作成・装着し、42℃に加温した注入物を使用。
4.分析方法 データの分析はt検定にて分析を行った。
5.倫理的配慮 A施設倫理委員会に申請し承認を得た。
結果
「注入直前・注入直後」と「注入直前・注入終了1時間後」では保温群の有意差出現率が常温群を上回っているが、「注入直後・注入終了1時間後」では常温群の有意差出現率が保温群を上回る結果が出た。
結論
t検定による常温群と保温群においての皮膚温度の比較では、明らかな有意差は見られなかった。だが、保温注入後の末梢皮膚温度は、常温注入後と比較して極端に低下することはなかった。そのため、保温による注入は個人にとっては有効と考えられる。
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−持続吸引を用いた症例報告−
西岡 成美, 一色 努, 東馬場 嘉江
2013 年38 巻2 号 p.
261
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
腸瘻はここ数年間で格段に普及し、様々な医療機関で広く利用されるようになった。しかし、簡便であることが強調されすぎたために管理不足による潰瘍や壊死、周囲炎などのトラブルも多く報告されている。
今回、私たちは腸液の漏れによる慢性的な皮膚トラブルに対して、持続吸引を用いることにより改善させることができたので報告する。
症例は脳形成異常により日常生活全面に制限を持ち、全介助を要する53歳女性。大島分類1。痛みや苦痛時には啼泣あり、呼びかけに対しての笑顔やプラスの感情は判断できる。10年前に胃瘻造設を試みるが、側彎が強く胃が胸郭の中に入り込んでいるため胃瘻を断念し小腸瘻を造設。その後、腸液の流出が多く、チューブの太さの変更や皮膚保護剤など様々な対策を試みたが緩解と再燃を繰り返している状態であった。特にここ2〜3年間は加齢とともに呼吸器疾患に罹患することが多く、分泌物の増加に伴う腹圧の上昇そして腸液の流出の増加と負のサイクルが定着化している状態であった。そこで新たな対策として、
1.12Fr吸引チューブを用いて、先端に5mmほどの孔を数個あける。
2.チューブ内に針金を通し、刺入部に巻きつけ100mmHgで持続的に吸引する。
3.皮膚の保護目的で、周囲炎を起こしている部分にハイドロコロイド剤を貼付する。
4.週2回の入浴時・ハイドロコロイド剤が浸軟している場合には貼り替えを行う。を実施した。結果、以前は再燃状態から緩解までの期間が1カ月以上かかったのに比べて、約2週間で明らかなびらん部の縮小を図ることができた。持続吸引チューブを用いることにより、腸液の付着時間の短縮や正しい手技さえできていれば管理が簡便であったことから腸液の流出による皮膚トラブルに対しては持続吸引チューブが有効であった。
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山田 香, 藤井 克味, 関根 努
2013 年38 巻2 号 p.
261
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
Aさんは睡眠障害があり、独歩や発声を伴いながら顔を叩き続けることもあるため、必要に応じてミトンを着用することがある。リラクゼーション、安眠、苦痛緩和に効果があると言われているタッチングを行うことで、夜間の睡眠時間を確保できないかと考えた。タッチングの一つであるタクティールケアは認知症患者の精神安定や苦痛緩和に効果があるという報告はあるが、重症心身障害者を対象とした例はない。そこで、本研究ではAさんに対してタクティールケアを参考にしたタッチングが有効であるか検証したので報告する。
目的
睡眠障害のあるAさんにタッチングを行うことで、問題となる行動(独歩、発声を伴う顔叩き)が治まり、夜間安定した睡眠時間が確保できる。
対象
Aさん 50歳代男性 診断名:新生児仮死後遺症疑い、精神遅滞、運動退行、てんかん 倫理的配慮:本研究は倫理委員会で承認を得た後、対象者の家族に書面で研究の趣旨を説明し、書面による同意を得て実施した。
結果
タッチング実施前後の睡眠時間の有意差はなかった。終日のミトン着用時間は有意に減少した。また、夜間帯でのミトン着用時間は有意に減少した。独歩回数は、夜間帯において有意に減少した。タッチングにより発声が小さくなる、消失する、閉眼する、筋緊張が緩和するなどの様子がみられた。
考察
タッチングを実施した結果、睡眠時間に顕著な変化はなかったことから、睡眠導入としては有効ではなかった。しかし、ミトン着用時間の減少、頬叩きや激しい体動を軽減することができた。また、夜間の独歩回数の減少については、夜間の活動性が低下し、心身の安息、休息時間の増加につながったと考える。
結論
タッチングは安定した睡眠時間の確保には至らなかったが、苦痛や緊張の緩和、リラクゼーションに対する効果が示唆された。特別な手技もいらず、簡便にできるタッチングは、日々の療育に取り入れやすい。
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−忙しさの実態を明らかにする−
三井 丘子
2013 年38 巻2 号 p.
262
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))施設において、利用者の重症化は年々進んでおり、医療度は高く複雑化している。それに伴い、看護ケア量は増加し、重症児(者)に関わる看護師の多忙感の増大も容易に想像できるが、その実態は明らかになっていない。急性期病院を対象とした先行研究では、患者の重症度の高さが必ずしも看護必要度の高さに結びつかないことが分かっており、また、看護必要度に影響を及ぼす因子として、患者の障害度も挙げられる。そこで、ADL面での多くの援助を必要とし、重症化していく重症児(者)では、その傾向はどうなっているかを明らかにすることで、重症病棟での業務改善に役立つのではないかと考えた。今回は、今後重症病棟での業務調査を実施するために、調査方法の検証と、比較データの蓄積を目的とし、生活介護通所部門で実施したパイロットスタディーの結果について報告する。
対象と方法
通所部門看護師6名に、「虎の門ナーシングシステム(以下、TNS)」を参考にした、自記式タイムスタディーを実施してもらい、そのデータをTNSの方法を用いて分析し、必要人員数を算出した。看護師には個人の能力査定でないことを説明し、了承を得た。
結果
必要人員数は4.0〜6.2名となり、部署の看護師数で充足していることがわかった。しかし、その日の利用者の出欠状況や状態に応じてケア量が変化するため、必要人員数は流動的となる可能性が考えられた。また、重症児判定と看護ケア量は必ずしも一致せず、看護ケア量は呼吸に関するものや食事介助などによって左右される傾向があることが分かった。
まとめ
看護必要度は看護師の忙しさを表す指標ともされている。今後今回の結果を参考に重症病棟での調査を行い、その結果から必要な人員配置ができれば、業務改善ができ、看護師の多忙感の軽減につながるのではないかと考える。
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千葉 真也, 木村 裕明
2013 年38 巻2 号 p.
262
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
A病棟では、ほとんどの利用者が経管栄養を必要としている。栄養剤の内容や内服薬を慎重に確認し、実施する必要があるため、集中力が求められる。
目的
勤務時間内での看護師の集中力の変化を明確にし、注意喚起のタイミングや必要な取り組みを考える。
方法
A病棟に勤務している看護師23名に対し、クレペリンテスト(以下、KT)とフリッカーテスト(以下、FT)を、各勤務前と経管栄養・与薬実施前後に行った。測定値を対のデータとし、対応のある場合の母平均値の差の検定を行い、5%危険度で有意差を判断した。病院の倫理審査委員会の承認を得た上で、対象の看護師に説明し同意を得た。
結果
KT・FT共に経管栄養・与薬実施前後では値の低下に有位差があった。KTでは勤務前と経管栄養実施前には値の上昇が見られ、経管栄養・与薬実施後には値の低下が見られた。勤務別では、KTでは日勤と深夜では有意差はなかったが、遅出と準夜では、経管栄養・与薬実施前後で有意差のある低下が見られた。FTでは多くの時間帯で有意差はなかったが、遅出以外では値の低下に有意差が見られた時間帯があった。
考察
A病棟では、日勤帯以外での1回の経管栄養・与薬実施に1〜2時間を要するため、実施前後で集中力が低下し、有意差があったのではないかと考えられる。特に、遅出・準夜では、勤務時間の終了間際に経管栄養・与薬を実施するため、身体的疲労も増加し、集中力が低下し、KTでは値の低下に有意差がみられたと推測される。FTでも同様に経管栄養・与薬実施前後で値が低下していることから、経管栄養・与薬の実施には、高い集中力が必要とされることが示された。当研究では、経管栄養・与薬の実施後に集中力が低下することがわかった。このことをスタッフに周知し、経管栄養・与薬の実施後すぐに他のケアをするのではなく、体操などを取り入れ、集中力が持続するように取り組む必要性が示唆された。
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奥 直美
2013 年38 巻2 号 p.
263
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児)と介助者が相互関係を築いていくためのケアのひとつとしてハプティックセラピー(以下、ハプティック)と言うケアリングタッチを実施し有効性を検証することを試みた。
方法
対象:病棟の再編成により今まであまり関りの少なかった患者3名、介助者はハプティックインストラクター1名と指導を受けた2名。
方法:(1)ハプティック全10回実施の観察と記録を検証(2)唾液アミラーゼ値測定(3)介助者の心境を記録(4)3回のビデオ撮影の評価・記録倫理的配慮患者家族に研究の趣旨を説明しデータは研究目的以外には使用しないこととし書面にて同意を得た。
結果
(1)A氏は開始直後激しい体動が見られたが、回数を増やす毎に表情が和らいできた。B氏は実施毎に笑顔が増えた。C氏は最近減少気味の発声がハプティック中に頻回にみられた。また期間中A、B氏は夜間よく眠り、流涎の量が増えた。C氏は食後の反芻嘔吐が減った。(2)A、B氏は実施直後上昇し20分後に下がった。C氏は実施直前から20分後にかけて下がった。(3)A氏の介助者を気にする様な仕草を嬉しく思った。B氏の介助者はハプティックを通じて関わることが楽しくなった。C氏の介助者はハプティック中には愛おしいと思う感情が芽生えてきた。(4)A、B、C氏共に筋緊張が低下した。
考察
アミラーゼ値の低下から患者はストレスの低い状態になり、快刺激を感じていると考えられる。介助者は15分の患者との関りの中で今まで気付けなかった表情や些細な変化など患者が発するサインを見つけることができる様になり、そのことでハプティックを行うことが自身の楽しみになった。これらのことからもハプティックの介入は双方に親密感と信頼感を生み出したと考える。
結論
日常生活支援の場面においてハプティックを用いることは、重症児と介助者との相互関係の構築に有効であった。
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伊東 幸子, 福間 真由
2013 年38 巻2 号 p.
263
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
重症心身障がい児施設に入所している児は、家族間の絆が希薄になりやすい。本施設では、入所後も家族関係を維持する目的の一つとして院内外泊を実施している。入所後14年目に初めて院内外泊を施行した父子家庭の父親が児と過ごす際、時間を持て余すような様子がみられた。児にしてあげたいことはないか尋ねると「何かしたいが、何をすればいいかわからない」という発言があった。児との過ごし方をアプローチしたところ、父親に積極的に関わろうとする姿勢の変化がみられたので報告する。
対象と方法
17歳女児、脳性麻痺・重度精神発達遅滞・気管切開・夜間呼吸器装着・超重症児スコア29点
1期:2カ月間、余暇時間に約6種類のふれあい活動(以下活動とする)実施時のバイタルと反応を評価。
2期:1期でリラックスした活動を3種類選択し、院内外泊時に父親に活動を実施してもらい、記述式アンケートで父親の満足度を調査した。
結果
リラックスできた活動は、歌、本読み、ハンドマッサージだった。活動を導入した1回目の院内外泊では、3つの活動をすべてやろうという発言があり、積極的に関わる姿勢がみられた。2回目の院内外泊では、父親は提案した活動以外に、児の傍らでお互いがくつろいで過ごせる独自の方法を見出せた。アンケートの結果、院内外泊に対して、満足しているという気持ちに変化はなかったが、児に関わる回数は増えたと感じていた。
考察
長期間離れて生活している父子家庭の場合、関わりかたがわからないために、院内外泊時に時間を持て余していたと考えられる。スタッフが児の好む活動を把握したうえで父親に提案し、実施してもらうことが、ふれあいのきっかけとなり、より深く親子が関わり充実した時間を過ごせた。その結果父親は、児がリラックスしている様子を目の当たりに体感したことで絆が深まり、さらに自分なりのふれあい方法を見出すことができた。
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丸澤 由美子, 服部 恵子, 内藤 早那恵, 長田 文子, 樋廻 旬子, 高橋 純哉, 大橋 浩, 村田 博昭, 庵原 俊昭, 横山 尚子
2013 年38 巻2 号 p.
264
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
強度行動障害と視聴覚障害を合併する動く重症心身障がい者に対し、自分とモノとの関係から自分と人との関係へと広がることを目的に個別療育活動を行ったところ、他者の存在を理解し、制止に応じる、児童指導員を行きたい方へ引っ張る等の行動が見られるようになった。そこで2年目の今回は他者理解、特に自らの意思を積極的に他者に伝える、他者の思いを受け入れて応じることを目的に取り組み、行動に変化が見られたので報告する。
対象
強度行動障害と視聴覚障害をもつ動く重症心身障がい者38歳女性(以下、A)。大島分類5。強度行動障害スコア19点。
方法
児童指導員が週2回程度、個別にて病棟内散歩等の療育活動を継続的に実施した。Aから意思伝達や感情表出がみられたときは触覚刺激にて対応(頭をブラッシングする等)し、行動上の問題がみられたときは、対応する箇所に触れ「ダメ」のサインを提示した。行動の変化については個別療育記録と看護記録をもとに検討した。
結果と考察
2011年5月〜2012年4月に78回実施した。行動上の問題に変化はなかったが、Aの手と児童指導員の手を重ねて“一緒に”を要求する、してほしいことへ児童指導員の手を持っていき、事物を触れさせる等の行動が頻回に見られた。これは、他者理解に関する行動が増加したといえる。児童指導員の働きかけを受け入れ、A自ら他者に働きかける経験が増加した。Aは児童指導員との間で意図を理解して応じる力を育むようになったと考えられる。
まとめ
継続的な関わりにより、他者理解に関する行動が増加した。他者を受け入れ自ら他者へ働きかける等、他者との関係を構築することができた。Aのような強度行動障害と視聴覚障害を持つ動く重症心身障がい者にとって、患者の反応表出に即時に対応し、要求や意志をすみやかに確認することが、コミュニケーションの方法を獲得していくうえで有効であると考えられる。
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今井 雅由, 宮野前 健, 山本 重則, 佐々木 征行
2013 年38 巻2 号 p.
264
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
目的
重症心身障害児者の原因疾患に関して検討を行うことにより、重症心身障害児者の成因を明らかにし、重症心身障害医療の進歩に貢献する。
方法
SMIDデータベースに構築された63,228例から最終データ9,304例を抽出し、分析を行う。
結果
9,304例中6,169例(66.30%)に原因疾患名に関する記載があり、総疾患名数10,467件(169.67%)、延べ数8,849例(143.44%)であった。発生時期からみると「周産期前」2,370件2,043例(33.12%)、「周産期」5,342件3,094例(50.15%)、乳幼児期以降2,481件2,188例(35.47%)、「その他」274件260例(4.21%)であった。原因分類からみると「新生児期異常」3,201件2,322例(37.64%)、「分娩の異常」1,964件1,518例(24.61%)、「てんかん性脳症・難治性てんかん」1,002件945例(15.32%)、「中枢神経系奇形」708件639例(10.36%)、「中枢神経系感染症」610件570例(9.24%)であった。自由記載を含めた648原因疾患名からみると「新生児仮死・低酸素性虚血性脳症」1,345件(21.80%)、「胎児仮死」497件(8.06%)、「けいれん」385件(6.24%)、「SFD(不当軽量児)」311件(5.04%)、「点頭てんかん」287件(4.65%)、「高ビリルビン血症」283件(4.59%)、「小頭症」253件(4.10%)であった。
結論
SMIDデータベースでは原因疾患名を152設定しており、400疾患は自由記載となる。設定した原因疾患が占める比率は77.92%であった。これを原因分類別にみると「母体の外傷など」「新生児期異常」「てんかん性脳症・難治性てんかん」「頭部外傷」では90%以上が設定疾患名で占めていたが、「代謝性、中毒性脳症」34.78%、「多発奇形症候群」14.80%と低い項目もあり、設定項目の見直しが必要と考える。今後自由記載のさらなる精査を進める中で、大島分類、強度行動障害スコア等での差異、年齢区分による差異等の分析につなげていきたいと考える。
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武田 尚子, 麻生 幸三郎, 牟田 訓香
2013 年38 巻2 号 p.
265
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
第37回本学会で水頭無脳症例に行った言語聴覚療法と摂食の取り組みを報告した。いずれの面も、その後、わずかではあるが、はっきりとした変化がみられた。摂食に関しては、プリンなどを5〜10匙、日替わり摂取するまでの経過を報告したが、今回、その後の経過も含め、摂食面について再検討したので報告する。
症例
9歳女児。画像上、脳幹と小脳虫部の一部が認められるのみで、頭蓋内は髄液で満たされ、小脳半球、大脳半球はみられない。脳波上も有意な電気活動を認めない。寝たきり状態で、定頸なく、言語理解もないが、不快刺激には啼泣することがある。出生時より経口摂取の経験はなく、3歳2カ月時、胃瘻を造設した。
方法
診療録、看護記録、摂食のビデオ録画を基に、経時的変化を検討。
結果
経口摂取試行前には舌尖咬傷があったが、咬傷防止プレートと特殊加工乳首の吸啜で改善。嚥下造影で誤嚥がなく、乳児嚥下がないことを確認後、経口摂取を開始した。果汁0.4mlを2〜4匙摂取時は、嚥下に際して口角、上唇の動きは見られず、舌運動は前後のみだった。その後、フルーツミキサーにすすむも、麻痺性イレウスで、一旦、経口摂取は中止した。体調の回復を待って再開したところ、問題なく日替わり摂取まですすむことができた。その後も、腹部膨満、そけいヘルニアで、中断もあったが、何とか経口摂取を継続。現在、パン粥15g、ミキサー菜3品各10gずつ(通常の1/6量)を昼食時に経口摂取している。自然便がほぼ毎日あり、怒責や緊張もなく腹部状態は安定している。頻繁だった下唇の吸啜は減少し、口角を左右に伸展させる動きが見られるようになった。ただし、摂取時の表情は芳しくなく、口を尖らせて開口しないことや、舌で食べ物を押し出すことがある。
結論
水頭無脳症であっても、摂食機能に「発達」といえるような変化が認められる。また、経口摂取の継続によって消化管機能の改善も期待しうる。
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稲田 学美, 沼野 智穂, 福山 広美, 川上 春佳, 丸澤 由美子, 服部 恵子, 内藤 早那恵, 長田 文子, 樋廻 旬子, 大橋 浩, ...
2013 年38 巻2 号 p.
265
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害者は、身体の障害や発達の遅れなど様々な要因で摂食機能障害をもつことが多い。A氏は本研究に取り組むまで、濃厚流動食を仰臥位で哺乳瓶にて摂取していたが、嚥下機能には問題なかった。当病棟スタッフは『A氏はこだわりが強く、行動パターンは変化しないだろう』という先入観があり、哺乳瓶以外での食事摂取は試みていなかった。病棟で、他患者への摂食訓練の効果がみられたことでスタッフの関心が高まり、A氏に対しても摂食訓練を行った結果、食事摂取方法に変化がみられた。看護において、先入観を持たず関わることが、患者の可能性を引き出すことを再認識したため報告する。
対象
A氏38歳女性、視覚・聴覚障害を併せ持つ強度行動障害患者。
方法
3カ月間、患者と関わりが多いスタッフ1名が、夕食時に座位でトロミ食をスプーン介助で食事摂取する訓練を実施した。その後食事摂取方法を再検討し2カ月間、訓練に慣れるまで統一した方法で摂食グループ5名が訓練を実施した。以降7カ月間は全スタッフにて訓練実施した。訓練にその後30名以上のスタッフにて実施した。定期的にビデオテープに記録し、摂食機能評価を行った。
結果
訓練開始3カ月で、座位にてスプーン介助でトロミ食を摂取可能となった。その後食形態や食具の検討・変更を行い、9カ月から車椅子でスプーンにてミキサー食を1〜2割摂取可能となった。
考察
変化がないと思い込んでいた患者に摂食訓練を行い、食事姿勢、食具、食形態に変化がみられた。訓練開始より、患者と関わりが多い信頼関係が形成されているスタッフが関わることで、患者に訓練が定着したと考えられる。スタッフができない・変化がないという先入観にとらわれており、その結果、患者の可能性を引き出すことが出来ていなかった。今後も患者のあらゆる可能性を考えて関わることが患者のQOL向上につながると考える。
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高野 真, 藤原 章子
2013 年38 巻2 号 p.
266
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
重症心身障害児(者)病棟では、多くの患者が摂食機能障害を抱えており、窒息や嚥下性肺炎の予防のために摂食機能療法の介入が必要となる。必要なすべての患者に摂食機能療法を実施するには、適切に訓練を実施できるスタッフ育成と体制づくりが必要である。摂食機能療法を導入後6カ月間に効果的なチーム体制を構築することを目的とし看護チームの体制づくりを行った。
方法
摂食機能療法実施に際しては、医師、看護師、栄養士、歯科衛生士、理学療法士、言語聴覚士、保育士でプロジェクトチームを編成し、摂食機能療法実施目標を設定して、全職種が協働して目標達成に努めた。摂食機能療法を実施していく中で看護チームの主軸はプライマリーナースとし、患者選定から評価までを主体的に行った。また、初回の評価から得られた訓練目標に沿って看護計画を立案し、看護チーム内で訓練内容・目標を共有し効率的に摂食機能療法がすすめられるように、ツールを活用し情報共有を図った。次に、委員会のリンクナースは、訓練目標が看護チーム内で共有がなされているかの確認や、訓練を実施していくうえでの技術的な指導や問題に対してのサポート役とした。また、委員会で摂食機能療法患者ごとの訓練状況の報告を行い、他職種への進捗状況の把握ができるように努めた。
結果
摂食機能療法導入後6カ月間に12名の対象者に摂食嚥下機能療法を実施し8名に摂食嚥下機能の改善がみられた。また、摂食機能療法での看護チームの役割を明確にすることによって効果的に摂食機能療法が進めることができた。さらに、看護チーム体制づくりをすることによって、職種間との連携が円滑になり、多職種の専門性を発揮できるようになった。
結論
多職種によるプロジェクトチームを結成し、各自の役割を明確にして目標値を共有しながら摂食機能訓練を実施することは、導入時の体制として効果的である。
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宇宿 智裕, 今西 宏之, 八木 麻理子, 西村 美緒, 河崎 洋子, 水戸 敬
2013 年38 巻2 号 p.
266
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
嚥下内視鏡検査(VE;Video Endoscopic examination of swallowing)は嚥下障害の重症度を判定するために広く普及しつつある。重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))に対しても効果的と考えられるが、まだ一般的ではない。今回われわれは嚥下内視鏡所見をスコア(VEスコア)化し、有用性を検証したので報告する。
方法
嚥下障害と診断した4例(平均48歳)に対し、経鼻内視鏡で検査を実施した。兵頭らの報告(2010年)に基づき、喉頭蓋谷や梨状陥凹の唾液貯留、声門閉鎖反射や咳反射の惹起性、嚥下反射の惹起性、着色水嚥下による咽頭クリアランスの4項目について0(正常)から3(高度障害)に数値化し、合計点をVEスコアとした。9点以上を経口摂取困難の目安とした。
結果
(症例1)65歳女性。嚥下機能低下あり、2010年に胃瘻を造設。VEスコアは2点であり、より積極的に摂食訓練を実施することとした。
(症例2)38歳女性。全量経口摂取だが時々むせる。VEスコアは5点だが、特に液体はすみやかに梨状陥凹に到達して貯留するため、とろみの併用が望ましい。
(症例3)60歳男性。ダウン症で機能低下が著しく、全量経口摂取を行っているが誤嚥性肺炎を反復する。唾液貯留は検査開始時にはなかったがVEスコアは8点となった。呼吸器感染症などで気道分泌量が増加すれば、ただちに経口摂取困難となると考えられた。
(症例4)30歳男性。全量経口摂取だが、初めて誤嚥性肺炎を発症した。回復期にVEを試みたが、唾液貯留が著しく判定不能。体調が安定してから再検したところVEスコアは9点と高く、急速に嚥下機能低下を来している可能性が示唆された。
考察
検査に協力困難な重症児(者)においてもVEスコアは有用と考えられた。今後対象者を増やすとともに、同一症例の経時的変化を評価して介護者へのフィードバックを行うことで、より適切な食事介助法の検討に活用していく。
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水野 勇司, 古川 牧緒, 松崎 義和, 宮崎 信義
2013 年38 巻2 号 p.
267
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
知的障害児者にはさまざまな問題行動が発生し、反芻もよく認められる症状のひとつである。今回、施設入所中のいわゆる動く重症心身障害者で、長年反芻行動と考えられていた3症例に対して上部消化管内視鏡検査(GIF)を実施し、示唆に富む所見を得たので報告する。
症例
症例1.36歳女性。基礎疾患は精神遅滞で、大島分類は10。1982年(8歳)ころより異食行動、1985年(10歳)ころより反芻症状が始まった。2011年1月(36歳)コーヒー残渣様嘔吐をみたため、GIFを実施した。逆流性喉頭炎、食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎(grade C)の所見が得られた。検査後、プロトンポンプ阻害剤(PPI)を投与することとなった。
症例2.43歳男性。基礎疾患はLennox症候群で、大島分類5。1988年(21歳)より反芻が始まり、2005年3月(38歳)反芻回数が増加した。2008年(41歳)誤嚥防止のため、喉頭全摘術を受けた。2011年3月(43歳)コーヒー残渣様嘔吐を来したため、GIFを実施した。逆流性食道炎(grade B)、萎縮性胃炎の所見が得られ、PPIを開始するようになった。
症例3.26歳男性。脳性麻痺・精神遅滞・てんかんで、大島分類10。2005年(20歳)より反芻症状が始まった。2011年10月(26歳)反芻以外に特に症状はなかったが、GIFを実施した。所見として食道裂孔ヘルニア(疑い)と胃の変形、萎縮性胃炎を認めた。
結果と考察
3例とも動く重症心身障害者で、長年反芻と考えられていた症例で、GIFの結果、胃食道逆流によると思われる器質的異常を認め、逆流性食道炎に対してはPPIを開始することとなった。重度の知的障害者の6〜10%が反芻を呈するとされており、決して頻度の少なくない問題行動であるが、その背景には器質的異常が潜んでいる可能性があり、積極的に消化管内視鏡などで原因検査を行い、対応を図ることが必要であると考えられた。
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仲村 貞郎, 小一原 玲子, 佐々木 征行, 石山 昭彦, 齋藤 貴志, 斎藤 義朗, 小牧 宏文, 中川 栄二, 須貝 研司, 三山 健司
2013 年38 巻2 号 p.
267
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
胃静脈瘤は、門脈圧亢進により門脈に流入する静脈血が遠肝性に胃の静脈へと流入する側副血行路が形成され、胃静脈の圧が上昇し形成される。胃静脈瘤自体による自覚症状はなく、ときに破裂による吐血やタール便が認められ、未治療での出血死亡率は約50%と高率である。逆流性食道炎と診断され消化管出血を繰り返していたライ症候群の後遺症の重症心身障害者に、肝外門脈塞栓による胃静脈瘤出血を認めた1例を経験したので報告する。
症例
31歳女性。4歳時、インフルエンザ罹患の際にアスピリンを内服しライ症候群を発症した。後遺症のため経管栄養、痙性四肢麻痺となり大島分類1の重症心身障害となった。9 歳より吐血を認めるようになり、20歳時に内視鏡検査にて逆流性食道炎と診断された。その後もコーヒー残渣嘔吐を繰り返しており、28歳時の内視鏡検査では逆流性食道炎を認めていたが、その他の異常所見は認めなかった。31歳時に突然、多量の新鮮血嘔吐とタール便が出現し当院に入院。内視鏡検査で噴門部の食道裂孔内に静脈瘤が認められ出血源と考えられた。Hb3.3g/dlと重度な貧血を認めたため輸血を行い、絶食と輸液管理にて保存的に観察し胃出血は改善を認め退院となった。胃静脈瘤の原因としては腹部CTにて肝内門脈の途絶、側副血行路の形成、脾腫が認められたため肝外門脈塞栓による門脈圧亢進が考えられた。
考察
本症例は逆流性食道炎の既往があり出血の原因として疑われたが、実際には胃静脈瘤からの出血であった。画像所見からは肝外門脈塞栓による門脈圧亢進が考えられたが、血栓症発症要因として長期臥床や脱水などが考えられた。上部消化管出血を認めた場合、逆流性食道炎以外の病態が合併しうることを留意すべきと考えられた。
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蘆野 二郎, 大谷 早苗, 松下 彰宏, 服部 英司
2013 年38 巻2 号 p.
268
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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目的
重症児者は呼吸器感染症に罹患することが多く、胸部画像検査を施行される機会が多い。重症児者の食道拡張の実態(拡張の程度と分布)を胸部CT画像から確認し、その結果が食道裂孔ヘルニア(HH)や食道胃逆流現症(GERD)の早期発見の一助となり得るかどうかを試みた。
対象と方法
1.入所利用者179人の内、胸部CT検査を施行された107人を対象とした。胸部CTのAxis画像から「食道内の含気像(以下、含気像)」を読影し、独自に設定した以下に示す食道の7カ所での最大径(単位mm)を記録した。a.食道入口部、b.入口部から気管分岐部までの最大含気像、c.気管分岐部、d.気管分岐部から心臓上端(左心房、右心耳出現スライス位)までの最大含気像、e.心臓上端、f.心臓上端から左横隔膜刺入部までの最大含気像、g.左横隔膜刺入部。
2.重症児者の含気像の結果と文献での健常者のそれとを比較した。
3.胸部CTと上腹部造影検査(対象者の一部)からHHと診断された重症児者の含気像をHH以外の重症児者と比較した。
4.GERD の治療薬であるPPIの有無で2群に分け含気像に相違があるかを調べた。
結果
1.対象者全員の含気像の平均値は、a. 2.4、b.7.3、c.4.7、d.5.8、e.4.7、f.7.5、g.1.7であった。
2.この結果はSchraufnagelらと同様のパターン「心臓裏面に一致する部位(eに相当)は低値」であったが、aからgすべてが高値を示した。
3.11人がHHと診断され、この群ではa.5.5、b.19.0、c.16.3、d.21.4、e.20.7、f.22.0、g.17.0とさらに高値を示した。内5人は食道全域で含気を認めた。
4.PPI投薬の有無で含気像サイズと分布に相違は認めなかった。
考察
食道の全域で含気像が高値を示した一因は対象に重度のHHが多く含まれていたためと考えた。
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徳光 亜矢, 鈴木 啓子, 斉藤 剛, 岩佐 諭美, 鳥井 希恵子, 林 時仲, 楠 祐一, 平元 東
2013 年38 巻2 号 p.
268
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
われわれは2年前に当園の入所者290名に血清銅・亜鉛を測定したが、その際高銅血症を示した3名が、それぞれその後に子宮体癌、クローン病、結核と判明した。高銅血症の背後に悪性腫瘍を含めた慢性炎症の存在の可能性を認識すべきと考えた。
症例1
60歳女性。2010年より低亜鉛血症(亜鉛49μg/dl、銅178μg/dl)にて亜鉛を補充中であったが、血清亜鉛濃度が改善しても依然として高銅血症であった。2011年7月には血清銅184μg/dl(亜鉛96μg/dl)、血清セルロプラスミンは48.8mg/dlであった。両目にカイザーフライシャー輪を認めた。2012年8月、子宮体癌と判明し、9月に亡くなった。
症例2
32歳男性。10年近く前から原因不明の発熱を繰り返していた。数年前に大腸内視鏡検査も行ったが、S状結腸までしか検査していなかった。2011年7月の検査で、血清銅201μg/dl(亜鉛49μg/dl)、血清セルロプラスミンは44.0mg/dlであった。両目にカイザーフライシャー輪を認めた。亜鉛の補充を開始し5カ月後には血清亜鉛が71μg/dlとなったが、銅は182μg/dlと依然高値であった。2012年1月、大腸内視鏡検査にて上行結腸のクローン病と診断され、治療を開始。その後、高銅血症は改善、カイザーフライシャー輪も薄くなった。
症例3
40歳女性。2010年7月より不明熱が続き、喀痰の培養およびPCRで結核菌が陰性であることを確認の上、11月より膠原病疑いでプレドニゾロンを内服していた。2011年7月の検査で血清銅190μg/dl(亜鉛71μg/dl)、血清セルロプラスミンは50.8mg/dlであった。2012年11月、左股関節結核および左大腿・臀部冷膿瘍と診断され、治療を開始。培養で結核菌が陰性となった後、高銅血症が改善した。経過中、カイザーフライシャー輪は認めなかった。
まとめ
高銅血症の原因には食餌からの過剰摂取、胆道閉塞、低亜鉛血症の存在などがあるが、悪性腫瘍や慢性炎症もその原因となることを念頭におくべきと考えた。
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青木 雄介, 斎藤 義朗, 竹下 絵里, 齋藤 貴志, 須貝 研司, 小牧 宏文, 中川 栄二, 石山 昭彦, 佐々木 征行
2013 年38 巻2 号 p.
269
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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目的
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))における低リン血症の特徴、原因を明らかにし、その予防と治療戦略を確立する。
対象と方法
対象は当科入院中、あるいは入院した重症児(者)82例。そのうち、2002−2012年の間に低リン血症(無機リン2.0mg/dl未満)を認めた患者19例を低リン血症群とし、認めなかった患者63例を非低リン血症群とした。2群間で年齢、性別、BMIを比較した。さらに、低リン血症群において、原因、症状、血液検査(CRPなど)、経過について後方視的に検討した。血液検査に関しては、低リン血症発症時と回復時(無機リンが2.5mg/dl以上)の値を比較した(Wilcoxon test、 p <0.05を有意差あり)。
結果
年齢、性別、BMIは二群間で有意差を認めなかった。低リン血症群の19例は24回の低リン血症のエピソードを認めていた。原因は、感染症(呼吸器、皮膚、尿路など)が17エピソード、refeeding症候群が4エピソード、Fanconi症候群が2エピソードで、1エピソードは原因不明だった。低リン血症自体の症状は識別困難であったが、重度な知的障害のため自覚症状を訴えられなかった可能性がある。また、血液検査では、発症時と回復時に有意差を認めたものは、CRP(発症時:8.1±8.1、回復時:3.12±4.52、 p =0.0006)とNa(発症時:135.8±2.8、回復時:137.1±2.8、 p =0.02)であった。
まとめ
重症児(者)においては、細菌感染症罹患時、低栄養状態におけるrefeeding症候群、Fanconi症候群の感染時の顕在化が低リン血症の原因であることが示された。重度の低リン血症は、生命を脅かす可能性があるため、重症児(者)において、これらの状態にある場合には、無機リンをモニタリングすることが重要と考えた。
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浅野 一恵, 山倉 慎二
2013 年38 巻2 号 p.
269
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
液体経腸栄養剤は自然滴下により投与できる簡便な方法であるが、胃食道逆流症や下痢などの副作用を生じることがある。それらの副作用を軽減するため半固形化剤リフラノン®を使用した対策を行った。その対策と効果について報告する。
対象
当院に入所している経腸栄養者23名のうち、液体経腸栄養剤の使用によって以下の副作用を認める14名(10歳〜46歳、全例大島分類1)胃食道逆流症に起因すると考えられる発熱3例、嘔吐7例、消化管出血4例、下痢(2回>日の水様便)7例、胃残による延食5例(以上重複あり)。
方法
1.経腸栄養剤の投与方法 aリフラノン液を先に注入した後、液体経腸栄養剤を短時間で自然滴下 b上記の方法を2カ月以上継続しても症状が改善しなかった場合、予めリフラノンと経腸栄養剤を混ぜて半固形化したものをシリンジで投与。
2.効果の検討注入方法を変更前後6カ月間の症状の変化を検討する症状が消失したものを著効、頻度が半減したものを改善、変化のないものを不変とした。
結果
aの方法により嘔吐、下痢、消化管出血を認めた全例に改善以上の効果を認めた。aの方法で改善が見られなかった4例に対してbの方法を行った。bの方法により発熱例3例とも改善以上の効果を認めた。4例に吸引頻度の減少を認めた(2例吸引不要となる)いずれの方法においても通過障害、イレウスなどの重篤な副作用を生じた例はなかった。便秘を生じて中止した例が1例あった。
考察
リフラノン液を先に注入してから自然滴下する方法でも一定の効果を認めたことから、胃内で胃液とリフラノン、経腸栄養剤が撹拌されることにより半固形化状になり、効果が発現することが推測された。この方法は簡便であり、経鼻でも試行することが可能なため、まずは試みる方法であると考える。また半固形化に変更後、発熱の減少のみならず吸引回数が減少したケースが4例あり、呼吸状態の改善につながった。
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八木 麻理子, 今西 宏之, 宇宿 智裕, 西村 美緒, 河崎 洋子, 水戸 敬
2013 年38 巻2 号 p.
270
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))では摂食・嚥下機能の低下により食形態が限定され、経管栄養を利用する場合も多い。経管栄養時に使用する経腸栄養剤には十分な栄養素が含まれないものもあり、微量元素欠乏に注意する必要がある。われわれは、重症児(者)における4種の微量元素について、食形態との関連および補充療法の効果について検討した。
対象と方法
対象は、2013年6月時点の入所者78例。経管栄養群(n=26)と経口摂取群(n=52)の2群に分類しFe、Zn、Cu、Se値を比較、さらに、経管栄養群における微量元素補助食品導入前後の各値の変化について、診療録を用いて後方視的に検討した。統計解析にはstudent's t-test、および、paired student's t-testを用いた。
結果
経管栄養群では、経口摂取群と比較してSe値が有意に低値であった(7.2±2.7 vs 12.3±3.3 μg/L、 p <0.01)。Zn値は経管栄養群、経口摂取群ともに平均値は70μg/dL未満であり、経管栄養群の方がより低い傾向を認めた(63±12 vs 67±10 μg/dL、 p =0.07)。Fe、Cu値は2群とも基準値を満たしており、差を認めなかった。経管栄養群では微量元素補助食品導入後、Se値が有意に上昇した(9.2±2.6 μg/L、 p <0.01)が、Fe、Zn、Cu値には変化を認めなかった。
考察
経腸栄養剤にはSeが含まれていないものが多いことを反映して、経管栄養群では有意にSe値が低かったが、Seを含む補助食品を使用することで改善が得られた。一方、Zn値は、補助食品使用後も改善を認めなかった。また、Zn値は、経腸栄養剤を使用していない経口摂取群でも不足しており、食形態によらず定期的な評価を行うとともに、より効果的な補充療法が必要であると考えられた。
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平澤 千代子, 三井田 香, 丸山 由香, 久保田 いづみ, 三浦 雅樹, 影山 隆司, 志倉 圭子, 吉川 秀人, 小西 徹
2013 年38 巻2 号 p.
270
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
経管栄養剤とフェニトイン(PHT)を始めとする一部薬剤との相互作用の報告が散見される。今回、経管栄養剤変更後にPHT血中濃度の低下を来し、発作が再発した症例を経験した。また、同様の変更に伴うPHT濃度低下を3例に認めたので合わせて報告する。
症例・経過
症例1:67歳男性、混合型四肢麻痺、皮質形成異常症、症候性全般てんかん、SASでCPAP療法、超重症スコア18点。乳児早期より発作があったが無治療。VPA900mg、PHT180mgでPHT血中濃度は23.3〜30.5μg/mlとやや高めで、2009.10より発作は抑制されていた。2012.7にエンシュア®(以下、E)からラコール®(以下、R)に変更。2012.12にPHTは11.9μg/mlに低下、2013.1に3年ぶりの発作(GTC)を2回認め、そのときのPHTは6.3μg/mlであった。その後、PHTを増量13.2μg/mlで発作は抑制されている。
症例2:62歳男性、混合型四肢麻痺、原因不明、局在関連性てんかん、超重症スコア14点。2010.9てんかん発症、PHT250mgまで増量し発作は抑制された。PHT濃度23.8〜33.8μg/mlとやや高め。2012.7にEからRに変更。2012.12に19.1μg/mlとやや低下、2013.3には12.8μg/mlとさらに低下したが発作は認めていない。
症例3:37歳男性、痙性四肢麻痺、周産期障害、West症候群から分類不能てんかん、超重症スコア8点。VPA、TPM、PHT240mgの多剤併用で発作は10〜20回/月。2009.6にEからRに変更。変更後にPTH濃度14.0から10.0μg/mlにわずかに低下。
症例4:30歳女性、溺水後遺症、気管切開、局在関連性てんかん、超重症スコア8点。VPA、CBZ、PHT125mgの多剤併用で発作は5〜10回/月。2009.3にEからRに変更。変更後にPHT濃度14.6から7.1μg/mlに低下した。なお、対応として、RとPTH投与間隔を空ける試みを実施しているがその効果は一部に留まっている。
結語
PHT血中濃度の低下についてなんらかの物理的相互作用が関与していると思われるがその詳細については不明である。今後症例を重ねて検討する必要があると思われる。
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倉橋 宏和, 菱川 容子, 橋本 真帆, 別府 玲子, 梅村 紋子, 丸山 幸一, 麻生 幸三郎
2013 年38 巻2 号 p.
271
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
重症心身障害児(者)のてんかんに対するレベチラセタム(LEV)の治療成績を評価する。
対象・方法
愛知県心身障害者コロニー中央病院および愛知県青い鳥医療福祉センターに通院または入所中の重症心身障害児(者)で、2010年10月〜2013年5月にLEVを投与されたてんかん症例41例を対象に、診療録を後方視的に検討した。検討項目は年齢、てんかん分類、発作頻度、使用量、効果、副次効果と有害事象。効果判定基準は、著効:発作が消失または90%以上減少、有効:発作が50%以上減少、不変:頻度が不変、悪化:発作が増加とし、全体のうちの著効・有効の割合を有効率とした。小児症例においては保護者から適応外使用について説明し了承を得た。
結果
年齢は15歳未満が21例、15歳以上が20例(最高61歳)。病因は先天的要因が10例、周産期要因が8例、出生後要因が10例、不明が13例。全般てんかん(GE)が9例、局在関連てんかん(LRE)が32例。発作頻度は月単位14例、週単位8例、日単位19例。LEV開始量は125〜1000mg、維持量は平均1050mg(体重30kg以上)、34mg/kg(同30kg未満)、最大投与量は2500mg。投与継続されている27例の平均投与期間は333日。有効率は全体で32%、LREで35%、GEで22%。15歳以上では48%、15歳未満では20%に有効。発作頻度別の有効率は、月単位58%、週単位29%、日単位16%。併用薬剤数別の有効率は、1剤67%、2剤28%、3剤以上25%。悪化例は7例。有害事象は眠気が6例、分泌物増加が2例、食欲低下・昼夜逆転が1例ずつ。悪化例のうち6例と、分泌物増加1例、眠気3例を含む無効例8例で投与を中止された。臨床的に問題になる易刺激性・興奮・攻撃性の増加は認めなかった。
結論
LEVは約3割の症例に有効であった。15歳以上の症例、発作頻度が少なく、併用薬が少ない症例に特に有効であった。易刺激性・興奮・攻撃性の増加は、重症心身障害児(者)では症状が分かりづらいのかもしれない。
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石井 清久
2013 年38 巻2 号 p.
271
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
2006年以降、本邦においてもガバペンチン(GBP)、トピラメート(TPM)、ラモトリギン(LTG)、レベチラセタム(LEV)が承認され使用できるようになった。そのことにより難治性てんかん患者に対する一定の有効性が多数報告されている。一方、重症心身障害児(者)施設においては従来からの抗てんかん薬の多剤併用療法が続けられている例も少なくない。今回、私たちは過去10年間の抗てんかん薬の推移とてんかん発作頻度について調査し、新規抗てんかん薬の有用性を検討したので報告する。
対象と方法
当センターへ現在まで10年以上入院している患者のうち抗てんかん薬を服用している83例(3歳〜63歳、平均29.3歳)について、過去10年間の発作頻度および使用した抗てんかん薬の推移を、診療録をもとに後方視的に検討した。基礎疾患は、脳性麻痺、染色体異常症、中枢神経感染症後遺症、蘇生後脳症、脳血管障害後遺症、脳形成異常、代謝異常症、原因不明の脳原性疾患に分類し、発作頻度は日単位、週単位、月単位、年単位、発作消失(2年以上発作がないもの)とした。
結果
過去10年間で発作消失例は全体の10%から37%に増加した。日単位の頻回発作例は10例から1例に減少し、その半数以上で新規抗てんかん薬が発作減少に寄与していた。新規抗てんかん薬は全処方薬の20%を占め、平均薬剤数も2.6剤から2.3剤に減少した。
考察
新規抗てんかん薬の出現により、これまで難治例だった症例の多くに発作減少を認めた。またコントロール良好例においては、今後さらなる従来併用薬の整理が期待できた。
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後藤 一也, 植村 篤実, 今井 一秀, 平松 美佐子
2013 年38 巻2 号 p.
272
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
重症心身障害児(者)(重症児(者))のてんかんでは、難治例が多く、罹病期間が長くPHTを内服している症例が多い。PHTは強力な抗けいれん作用を有するが、歯肉肥大やそれに伴う口腔衛生への影響、骨粗鬆症、小脳萎縮などの副作用があり中止することが望ましい。今回PHT内服症例について同剤の減量、中止を試みたのでその成績を報告する。
方法
当院重症児(者)病棟に入院中で、2012年5月時点でのPHT内服患者27人(男17人)、年齢17〜50歳(平均33.5)を対象とした。てんかん類型の内訳は症候性局在関連性てんかん10人、症候性全般てんかん4人、分類不能12人、不明1人であった。PHT 1日あたりの内服量は25〜250mg(中央値180)、抗てんかん剤数は1〜4剤。発作頻度の内訳は発作消失7人、年単位1人、月単位6人、週単位7人、日単位6人であった。発作コントロールの良否にかかわらずPHTの減量、中止を試みた。他剤への置換の必要性やその選択は病歴、神経学的所見、脳波所見、発作型などを参考に判断した。
成績
2013年6月時点で27人中13人がPHT中止、14人が減量中であった。中止した13人について、PHT中止のみ4人、その他はCBZ、CLB、LEV、LTG、TPM、VPAのうち1〜2剤に置換された。PHT中止による発作頻度の変化は消失継続が1人、変化なし11人、改善1人であった。減量中14人についてはPHT減量のみが4人、以外はCLB、LEV、LTG、TPMのうち1剤へ置換されたが、難治で減量が進まない症例が1人いた。27人中2人で減量中発作の群発、消失例の再発がみられたが一過性であった。
結論
重症児(者)においてはてんかん発作モニタリングの困難さなど様々な制約があるが、病歴、発作型などを参考に、新規抗てんかん剤を含めた他剤への置換も考慮しPHTの減量、中止を試みる必要がある。
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松田 俊二
2013 年38 巻2 号 p.
272
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
重症児者病棟では呼吸器ウイルス感染症が流行し、対応に苦慮することがある。しかし、流行する病原ウイルスは半数以上で不明である。そこで、対応策をたてる一助とするために、まず、流行する病原ウイルスの同定を試みた。
方法
鼻腔ぬぐい液を採取し、PCRとウイルス培養と一部ではウイルス遺伝子の解析により病原ウイルスを同定し、臨床所見と比較検討した。また、多項目同時検出システム・呼吸器系ウイルスパネル(Luminex社)を用いて、代表的な呼吸器ウイルス10種について鼻腔ぬぐい液から検出を試みた。臨床経過は診療記録より検索した。本研究は倫理委員会の承認のもと、保護者の同意を得て行った。
結果
インフルエンザを除いて5種のウイルス流行が確認された。各ウイルス流行ごとに特徴があったが、特にメタニューモウイルス流行が3回あり、臨床的特徴が確認された。このウイルスは中等度の流行性があり、感染者では高熱が1週間ほど続く傾向があった。発症初期にはリンパ球の減少と単球の比率上昇がみられ、さらに、1週間前後経過した後にCRPの上昇と肺炎像が多くの症例でみられた。多項目同時検出システムによる呼吸器ウイルスの検出では、9〜12月の発熱者の鼻腔ぬぐい液からコロナウイルス、パラインフルエンザ、エンテロウイルス、メタニューモウイルスが検出された。なかには2種のウイルスが同時に検出されたサンプルもあった。
考察
重症児者病棟では多種の呼吸器ウイルスの流行のあることがわかった。各ウイルスでは特徴のある流行や症状をしめすことがあった。近年進歩している多項目検出法による呼吸器ウイルス検出は感度が高く、多種類の呼吸器ウイルスが従来より短時間に感度よく検出できる可能性のあることが示唆された。
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細田 のぞみ, 小川 泰子, 山下 知恵, 植田 かおり
2013 年38 巻2 号 p.
273
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
当園では、60名の入所者が日中は共有スペースで過ごしており、感染症が発症すると蔓延しやすい環境にある。2012年11月にノロウイルス胃腸炎のアウトブレイクを経験した。この経過と対応を振り返り、今後の課題を検討した。
経過と対応
2012年11月27日15時半に共有スペースで1名が嘔吐、18時に数日前から気管支喘息のため居室で安静中の1名が嘔吐、19時、共有スペースで夕食を終えた1名が嘔吐した。その時点でノロウイルスによる胃腸炎の可能性を考え、コホーテイングを行い、標準予防策の強化と接触感染予防策を開始した。しかし27日深夜に3名が発症、以後28日昼に発症ピークを迎えた。28日に緊急感染対策会議を開き、病棟スタッフ、栄養課、保健所と連携を密にし、病棟閉鎖、環境整備の徹底、職員の専従化、給食メニューの変更などを行い、感染拡大の防止をはかった。また、発症日が集中しており、経管栄養者に発症がないため、食中毒の調査を保健所に依頼した。
結果
入所者の総発症者は23名でいずれも軽症であった。29日の深夜から30日早朝にかけて4名の職員が消化器症状を訴えたが、出勤停止としたため、アウトブレイクは1週間で終息した。real-time PCR法を実施した26名中24名がノロウイルス陽性であったが、調理従事者の検便、給食や調理場拭き摂り検査でノロウイルスおよび食中毒原因菌は検出されなかった。
考察
ノロウイルスの潜伏時間は24〜48時間であり、当園の最初のケースが感染の発端になったとは考えにくく、それ以前の同時期になんらかの経路で入所者の多数が暴露し、一斉に発症したものと考えられる。また、発症した職員4名は入所者から感染したと思われる。入所者の中には日常的に嘔吐をする者も多く、どの時点からノロウイルスの接触感染予防策を行うか判断が難しいが、日頃から標準予防策を徹底し、市の感染症発生動向調査に注目し、アウトブレイクの再発防止に努めたい。
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松井 秀司, 赤星 恵子, 田村 貴子, 松田 光展, 牧野 道子, 和田 恵子, 舟橋 満寿子, 鈴木 康之, 椎木 俊秀
2013 年38 巻2 号 p.
273
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
全身性エリテマトーデス(以下、SLE)は、免疫複合体の組織沈着により起こる自己免疫疾患である。若年女性に好発する。症状は寛解と増悪を繰り返し慢性の経過を取ることが多い。これまで、重症心身障害児(者)(以下、重症児)におけるSLE発症の報告はほとんどないが、当院で2例を経験したので報告する。
症例
症例1.Aicardi症候群の20歳女性。6歳時、けいれん重積時に低酸素性脳症を生じ在宅人工呼吸管理となった。入院半年前から、顔面紅斑、体幹の発疹を間欠的に認めた。口腔内出血を主訴に来院され、白血球減少を認めたため精査目的で入院した。当初、原因としてウイルス感染や薬剤アレルギーを考えたが、入院後、症状は変動し、症状増強時に関節炎を伴った。精査の結果、抗核抗体、抗DNA抗体、抗Sm抗体等の自己抗体の上昇、補体価低下を認め、SLEと診断した。
症例2.精神運動発達遅滞の13歳女児。幼少期より重度発達遅滞とてんかんを認め、カルバマゼピン(CBZ)内服を開始した。入院半年前から、関節炎、顔面紅斑、後頭部脱毛、体重減少がみられた。発熱、嘔吐、黒色便のため入院した。入院時、重度の貧血(Hb 5.5g/dl)を認め、AST、LDH上昇を伴った。当初、貧血の原因として消化器出血が疑われたが、輸血検査を契機に自己免疫性溶血性貧血と診断した。さらに、抗核抗体上昇、抗RNP抗体上昇、補体価低下を認めたのでSLEと診断した。2症例ともに副腎皮質ステロイド剤の内服によって症状は消失した。症例2については、CBZによるSLE類似症状の可能性も考えたが、CBZ中止後にも症状の再燃を認めたため関与は否定的だった。
考察
2症例ともに入院時の主症状は非特異的であったため診断に難渋した。重症児においても、発疹、関節炎、口腔内出血、貧血、白血球減少等を認めた場合には、症状の変動を継時的に観察し、疾患特異的な自己抗体の検索を行うことが早期診断につながると考える。
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−腹臥位姿勢に着目して−
多田 智美, 中 徹
2013 年38 巻2 号 p.
274
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
重症心身障害児(以下、重症児)の日常生活指導における腹臥位の指導は、身体機能の維持向上やQOL保障に重要とされるが、腹臥位が安静であることを示す報告はほとんどない。今回、心拍変動から自律神経活動を解析し、姿勢との関係を検討した。
方法
脳性麻痺児18名(男:女=13:5)13±3.4歳、Gross Motor Function Classification System(以下、GMFCS)1:2:3:4:5 = 1:1:1:2:13名を対象とした。仰臥位、腹臥位、前傾座位を順不同に各15分間保持し、自律神経指標として心拍変動をPOLAR−8000X®で、脳活動性指標として前頭部脳血流をMediTECK社製nIR−HEG®で、録音した環境音再生とエアコンにより騒音・室温・湿度を環境統制した部屋で測定した。Man Whitney検定、Friedman検定を用い有意水準5%で検討、対象者と保護者に十分説明し文書で同意を得た。
結果
環境統制により騒音53.52±7.52dB、室温26.09±0.62℃、湿度47.86±1.34%だった。姿勢間の差は全対象ではみられず、1−4群では交感神経指標が仰臥位より腹臥位で高かった。床上で移動が可能なGMFCS 1−4群と難しいGMFCS 5群で比較し、仰臥位で副交感神経指標は1−4群で高いが交感神経指標は5群が高かった。脳血流は仰臥位で1−4群が高かった。
考察
運動障害の軽いGMFCS1−4では、仰臥位と腹臥位の間で副交感神経指標に差が出るなど姿勢による自律神経調整能力が働いていると考えられたが、これらの反応はGMFCS 5では確認できなかった。これは運動障害が重い場合、自律神経調整が姿勢変化では起こりにくい可能性が考えられた。また、GMFCS 1−4では仰臥位で副交感神経が働き脳血流も高くかったが、伏臥位では明確な傾向が示されなかった。このことから伏臥位は自律神経活動の面からは安静位とは確認できなかった。しかし、仰臥位で交感神経優位の結果が得られ、重度な運動障害がある場合には、仰臥位は自律神経活動において安静位ではない可能性が示唆された。
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岩本 陽子, 芳野 正昭
2013 年38 巻2 号 p.
274
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
動きの微弱な超重症児の授業実践から身体の動きおよび意思表出を促進する授業内容・進め方と応答等の在り方を探る。
方法
1)対象児:A(6歳10カ月の女児)。入院する病院隣接の特別支援学校在籍。超重症児スコア37点(人工呼吸器管理、気管切開、酸素療法、6回/日以上の頻回の吸引、ネブライザー3回/日以上使用、経管栄養、体位交換6回/日以上、2009年4月)。32週早産。18モノソミー、低酸素脳症。視覚は光覚程度、聴覚は聴こえていると思われる。未定頸。仰臥位が多い。股関節脱臼。閉瞼困難。
2)場・期間:ベッドサイド。小学部1年の7月〜翌年3月。週1回60分間(計29回)。
3)当初の様子:瞬き様の瞼の動きや舌の動きが見られたが快・不快の表出なのか分からなかった。
4)方針:[コミュニケーションの取り方]生じた身体の動きの取り上げ⇒意味の解釈⇒動きの部位に触れ表出確認⇒解釈に沿った展開⇒Aの反応から解釈の妥当性を評価(PICDCサイクルとする)。[授業内容・進め方]前期(1〜9回)は好む活動を探った。後期(10〜29回)はAが好むと思われた歌等を授業の中心とした。
結果
1)身体の動き:16種の動きが見られた(前期10種、後期は新たに6種見られた)。覚醒していた24回の授業1回当たりに見られた身体部位の動きの種類の数は前期平均3、後期平均約5. 8。16種のうち観察できた授業回数の特に多かった動きは両瞼の瞬き・瞬き様の動き23回/24回、口唇の動き19回/24回、頭の左右への小刻みな動き13回/24回。2)意思表出:好きな歌等のタイミングで動きが見られるようになり、両瞼の瞬き、口唇の動き、頭の動きは快の表出、反応しない、表情が険しくなるは不快の表出として応答することでコミュニケーションできる場合が増えた。
考察
好きな活動中心の授業内容を意思に沿って授業展開することおよびPICDCサイクルの重要性が示唆された。
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安西 里恵, 井合 瑞江
2013 年38 巻2 号 p.
275
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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音楽呈示の効果については、さまざまな分野で検討されている。しかし、重症心身障害児への音楽呈示の効果やその評価方法に関する報告は少ない。今回われわれは、大島分類1に属する重症心身障害児が、ピアノ演奏を聴いている際の脳血流動態、心電図測定およびビデオ撮影による表情や眼球運動の変化について評価を行った。
方法
患者:12歳男児、1歳4カ月時の溺水による低酸素性虚血性脳症後遺症で当施設に入所中。頭部MRIでは大脳萎縮の程度に比して脳幹の萎縮が強い所見を認める。大島分類1に属し、表情による感情の表出はなく、自発運動もなし。律動的な眼球運動あり。
方法:周囲の音から隔離した環境で異なる曲調の3曲(ガルッピ ソナタ第1番「エレナ」、モーツァルト「トルコ行進曲」、ショパン「ノクターン Op.27−2」)のピアノ演奏を聴かせ、ビデオ撮影による患者の観察を行いながら、NIRS−光トポグラフィ装置ETG−4000®(日立メディコ)を用いて脳血流動態を記録した。また、演奏前・演奏中・演奏後の心電図記録より得られたR−R間隔のヒストグラムについても検討を行った。
結果
テンポの速い曲調に一致して脳血流が増加した。その一方で、静かな曲調では広範囲な脳血流の減少が持続した。その間明らかな表情の変化や運動は認めず、眼球運動のパターンも一定であった。脳血流動態の変化とR−R間隔のヒストグラムの変化には、明らかな相関関係はみられなかった。
考察
表情や運動による感情表出が困難な患者に対する音楽呈示の効果は、客観的に判定しづらい。光トポグラフィ装置を用いた今回の検討では、感情表出を客観的にくみ取ることが困難な場合でも、曲調によって脳血流の増減が変動していることが明らかになった。今後さらなる検討を重ね、客観的評価に基づいて個々が「快」と感じる音楽を日常生活の中に取り入れていくことができる可能性が示唆された。
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小暮 寿子, 石田 修一, 鳥山 泉, 布山 みどり, 野沢 六朗
2013 年38 巻2 号 p.
275
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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序論
重症児(者)は、個人差はあるものの、自分の意志や感情を介助者が判断することが難しい。活動中、わずかに表す身体的変化と脳機能動態の関連性を知ることにより、現在実施している活動内容が重症児(者)にとって有意義なものであるのかの評価の一助となると考え、評価表と近赤外線方式脳血流評価システム(NIRS)を使用し活動を行った2事例について分析した。
症例
A氏(9歳女)症候性てんかん、脊髄小脳変性症 経管栄養(経鼻) 大島分類1
B氏(40歳女)先天性多発関節拘縮症、脳性麻痺、てんかん、慢性呼吸不全 経管栄養(胃瘻) 気管切開有り(人工呼吸器管理中) 大島分類1
結果・考察
ブルーワークス社製のnIR−HEGキット®を使用し、前頭部の血流変化を測定した。また、同時に脳波と心拍を測定した。活動は当院で行っているムーブメントのプログラムから、呼名、手遊び、プレイバンド、味覚・嗅覚刺激、パラシュートを行った。A氏は、傾眠傾向で、表情にはほとんど変化が見られていなかったが、活動中の脳血流および脳波を測定したところ、活動後に明らかに前頭葉の血流が増加した。B氏は、活動中に介助者から見て表情があるように感じられたが、実際にも活動中に脳血流が増加していた。このことは、活動によりA氏、B氏は刺激を受け取り、なんらかの反応をしていることを表していると考えた。臨床的実感が客観的に確認できることで、さらに高度な療育プログラムを立案することができ、このことが、患者のQOL向上や成長につながることが期待できる。また、そのことがスタッフのモチベーションも上げることになる。今後は、症例件数を増やすとともに脳血流量と心拍・体温などの間接的評価を併せて分析し、その反応が「快」なのか「不快」なのかを分析し、活動の内容を検討していきたいと考えている。
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三浦 雅樹, 影山 隆司, 志倉 圭子, 吉川 秀人, 小西 徹
2013 年38 巻2 号 p.
276
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
重症心身障害児者においては刺激に対する反応の乏しさが、療育の客観的評価を行う上でしばしば障害となる。今回、聴覚刺激に対する反応が乏しいと考えられる症例にABRと近赤外線スペクトログラフィー(NIRS)を行い、その違いを評価した。
対象・方法
当園に入所中の重症心身障害児者のうち、療育の場で聴覚刺激に対し反応が認められないと考えられている8名(男6名、女2名)(2〜40歳、中央値25歳)。基礎疾患は周産期脳障害が3例、神経変性疾患が2例、後天性脳障害が3例。全例が大島分類1に該当。7名が超重症児、1名が準超重症児。ABRは両耳刺激で2000回加算平均を行った。NIRSは日立社ETG−4000®を用いて前頭部22ch、左右頭頂〜側頭部にそれぞれ12chプローブを配置した。ABRと同じ70dBのクリック音を10秒間入力し、3回の加算平均をとった。また呼名刺激を同様の条件で入力し反応の違いを評価した。
結果
ABRで3名が反応を認めた(それぞれV波閾値は60、90、100dB)。他は100dBまで音圧を上げても反応がみられなかった。NIRSにおいては潜時の遅延・反応チャネル数の減少はあるが、全例が何かしらの反応を認めた。8例中3例はクリック音と比較し呼名でより広いチャネル数で血流の変化を認めた。70dBクリック音で反応を認めたが、呼名で反応を認めなかったものが1名。その逆に呼名では反応があったが、クリック音で反応を認めないものも1名存在した。
考察
ABRで無反応を示した症例でもNIRSでは何かしらの変化が認められた。異なる被験者・刺激によるNIRSの反応の違いも観察された。脳障害の程度や音刺激の種類により、刺激入力の経路が異なるのかもしれない。入力された刺激が重症児者にとってどのような意味を持つのかは不明でありさらなる検討が必要である。今後療育の場においてNIRSがその効果判断の一助になることが期待される。
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落合 美由紀, 岡村 俊彦
2013 年38 巻2 号 p.
276
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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目的
2012年4月の障害者自立支援法一部改正により、サービス等利用計画・障害児支援利用計画の作成が必要となり、障害福祉サービス受給者証所持者を対象に、市町村が指定する特定相談支援事業者が計画を作成することになった。当院においてもサービス管理責任者(児童指導員)が、福祉サービスの受付窓口として行政、事業所との手続きに携わっている。長期入所者、新規入所者などの対応を通じて、現状、課題などについて検討したので報告する。
方法
2012年4月以降に当院入所中、もしくは新規入所者などで特定相談支援事業者を通じて計画書の作成が必要となった施設利用者を対象とした。それぞれの事例におけるサービス管理責任者としての関わり方、個別支援計画の利用、相談支援専門員の受入れ体制について検討する。
結果
1例目は、在宅からの入所者で、契約、アセスメントは、終了した状況で初回対応。サービス担当者会議については、家族、事業者、サービス管理責任者で計画案を確認した。2例目は、18歳になり、療養介護へ移行した入所者で、契約、アセスメントは、当院スタッフで対応。家族も参加。看護師、サービス管理責任者で計画案を確認し事業者へ提出した。3例目は、当院の長期入所者で、契約、アセスメントを当院で実施し、看護師、保育士、サービス管理責任者で計画案を確認し事業者へ提出。
考察
サービス等利用計画は、利用者の生活全体の課題や目標を踏まえ、総合的に計画するものであるが、当院の入所者は長期療養の方であり病院が作成する個別支援計画が、本人の全生活の支援計画になっており、相談支援員とサービス管理責任者が共同で対応する体制を構築していかねばならないと考える。今後、対応ケースが増えてくるため、当日に集計を加え報告する。
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2年間の結果と今後の課題
本荘 哲
2013 年38 巻2 号 p.
277
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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背景
発表者等はマンモグラフィによる乳がん検診を長期入院者が受診することの可能性を検討してきた(2011年第本学会)。2011年度から受診支援を開始した。
保健所への協力依頼
区保健福祉センターにマンモグラフィ検診受診の可能性と検診実施機関の紹介を相談した。
本人・家族への説明
病院に届く市町村からのがん検診受診案内はこれまで通り家族に転送した。説明会と文書で、検診受診・非受診は本人あるいはその家族が決定すべきものであることと、利益・不利益を説明し、受診支援希望の有無を文書で確認した。
身体的バリアー
検診実施機関の協力を得たが、坐位、両上肢拳上がマンモグラフィ撮影の条件であった。
結果
2年間で当初は8名が希望したが、検診実施機関までの移動手段の確保の困難さ(1名)、検診会場に出かけても撮影が出来ない可能性(3名)を理由に4名が希望を取り下げられ、マンモグラフィを受診した者は4名であった。家族あるいはそれに相当する各1名が付き添い、看護師各1名が同伴した。
考察
vulnerable populationである重症心身障害者が乳がん検診を享受するためには行政、検診実施機関、入院機関の協同作業が必要であるが、継続的に実施可能な部分もあると思われた。
共同研究者
網本裕子*1)、岩田美穂子1)、江上裕子2)、大野康子3)、岡部公樹1)、小田嶋博1)、小野倫太郎1)、古森雅志4)、田中道子5)、田場直彦1)、長尾泰三5)、馬場ユクノ3)、黄潤下1)、松崎寛司1)、村上洋子1)、本村知華子1)、横田欣児6)、綿貫圭介1)(*五十音順)
1)独立行政法人 国立病院機構 福岡病院 小児科
2)福岡市南区保健福祉センター
3)独立行政法人 国立病院機構 福岡病院 看護部
4)同 内科
5)福岡赤十字病院・健康管理疾病予防センター
6)独立行政法人 国立病院機構 福岡病院 心療内科
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神谷 宣, 服部 英司, 里 ゆかり, 南條 真弘, 中島 裕美子, 今泉 美穂, 蘆野 二郎, 立花 直樹
2013 年38 巻2 号 p.
277
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
重症心身障がい児者は、ライフステージ全般において生活面、医療面など様々な問題が浮上する。その中で本人の思いの実現に向けて地域で安全・安心した生活を送るための支援や仕組みが必要である。今回本人とその家族の思いや生活する上で困ったことをライフステージの各時期について調査し、相談機能のあり方を検討した。
対象と方法
西宮市・尼崎市・芦屋市在住の重症心身障がい児者とその保護者56名を対象として、調査員による2〜5名のグループによるインタビューを行った。16歳未満は保護者と利用者を一緒に行い、16歳以上は保護者と利用者本人に対して別々に行った。対象者は各関係機関に依頼して選定し、調査の趣旨を説明し承諾を得た。聞きとった内容をカテゴリー化し解析した。
結果
相談件数は就学前(0〜6歳)の期間に多く、特に医療面に関する内容が多かった。ライフステージごとに多岐にわたる相談の必要性が認められた。また、本人への調査から、将来の生活の希望など保護者と本人とで想いが相違している点もあった。全体を通して、なんでも相談できる窓口がほしい、相談したくてもどこに相談したら良いか分からないという声も多かった。相談の結果解決はしたが、行政や福祉・医療機関等の連携不足のために、様々な機関で同じ説明が必要となり保護者の負担が大きかったことがわかった。
考察
就学前の時期にライフステージ全般を見渡した相談機能を充実することによって、本人や家族の不安を軽減できると考えられた。また重症心身障害がい者は親子一緒の考え方をしており、保護者が本人の想いを代弁していると思われがちであるが、保護者と本人とで思いが必ずしも一致しないことが明らかになった。本人のことをライフステージにわたってトータルで把握している機関や人の存在(相談機能)の充実が必要と考えられた(2012年度厚生労働省重症心身障害児者の地域生活モデル事業の一部)。
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三鴨 可奈子, 杉岡 智子, 川谷 歩
2013 年38 巻2 号 p.
278
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
医療ケアの必要な児でも自宅から学校へ通学するようになったが、人工呼吸器管理など高度な医療ケアを要する超重症児は通学が困難なことが多い。このたび、気管切開術と気管喉頭分離術が施行され終日人工呼吸器管理となった超重症児に対し、在宅生活と通学移行支援を行った経過について報告する。
症例紹介
9歳女児。脳性麻痺・四肢麻痺・重度精神遅滞。胃瘻からの注入栄養管理。四肢屈曲拘縮・脊柱亀状変形あり。流涎・鼻汁の増多、筋緊張亢進に伴う誤嚥に対し側臥位・腹臥位中心の姿勢管理と呼吸リハを行っていたが8歳頃より誤嚥・窒息によるSpO2低下を繰り返し、学校から頻回に救急受診するようになった。大学病院にて気管切開術・声門下喉頭分離術が施行され術後2週間で当センターに転院。終日呼吸器管理で超重症児スコア37点。
経過
1期(入院〜18日)医療ケアの整理と習得:クッション作成で背臥位も可能となり姿勢のバリエーションが増えた。半固形注入となり注入時間が減少し離床可能となった。家族は病棟看護師とケアを行い、院内外泊を通じ確認した。
2期(19日〜28日)ケアの共有と拡がり:入院下で登校を開始した。担任・学校看護師がセンターで移乗や気管内吸引を一緒に行った。人工呼吸器装着で自宅から通学する児童の受入れにあたり学校では職員会議で合意が図られた。PTが付き添い自家用車で通学のシミュレーションを行った。
3期(29日〜退院)自宅から登校の試み:外泊し、自宅から登校した。学校での医療ケアを開始した。業者から学校へ人工呼吸器取扱説明を実施。以後、学校の対応のみで終日単独で授業を受けることができるようになり退院した。
考察
終日呼吸器管理の超重症児が自宅からの通学が可能となった。在宅生活を基盤とした通学のためには、医療ケアの整理に加え専門職や教育機関が協働し、保護者や学校の視点で段階的な生活の拡大とシミュレーションを行うことが重要である。
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−間欠式バルーンカテーテルを使用した1事例−
山口 昌子, 木下 靖子, 久保田 雅美, 上野 美保, 山本 正仁, 成宮 正朗
2013 年38 巻2 号 p.
278
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
乳児・小児における自己導尿は、導尿回数が多いことや、親や家族が導尿を行うため家族のケア負担が大きいことが現状である。今回われわれは、呼吸器管理と神経因性膀胱のため導尿管理が必要な超重症児に対して、排尿困難な患者の日常生活に適した排尿管理として注目されている間欠式バルーンカテーテルを導入した。その結果、腎機能の悪化や有熱性尿路感染をおこすことなく、夜間の導尿回数を減らし家族のケア負担の軽減になり、在宅療養への移行を実現した症例を経験したので報告する。
症例
症例は、在胎週数32週で出生した女児である。出生体重2038g、アプガースコア1、2点。重症新生児仮死で低酸素性虚血性脳症を発症し、自発呼吸はなく、24時間人工呼吸器管理を行っている。胎児母体間輸血症候群からの急性腎不全後に腎機能障害を呈し、膀胱尿管逆流症を伴う神経因性膀胱のため尿路感染症を繰り返すため、感染管理と腎機能保護の目的から1日9回の導尿管理を行っていた。
結果
症例は膀胱尿管逆流症があり、尿路感染を繰り返していたが、1日9回の導尿をすることで尿路感染は減少した。しかし、在宅療養を実現するためには、家族による人工呼吸器管理、さまざまな処置やケアが必要であり、夜間の導尿は負担が大きかった。そこで、適切な排尿管理を行いながら夜間のケア負担軽減を図る目的で間欠式バルーンカテーテルを導入した。その結果、退院時には昼間三回、夜間は間欠式バルーンカテーテルを留置することで、腎機能の悪化や有熱性尿路感染症を生ずることをなく、排尿管理ができた。間欠式バルーンカテーテルは、家族のケアの負担軽減に役立ち、在宅療養に移行できた。
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岩澤 悦子, 丸木 和子, 鈴木 郁子, 有野 希
2013 年38 巻2 号 p.
279
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
医療保険制度や障害者施策などの見直しとともに、「施設から在宅へ」シフト転換されつつある。重い障がいを持つ子どもが家庭で生活するうえで、訪問看護師は大きな役割を担っている。しかし、看護師の経験値の低さなどから小児を対象とした事業所は不足している現状にある。そこで、地域支援の一環として、重症児ケアの経験値の高い重症児施設の看護師による訪問看護・家庭主体のレスパイトケアを当センターで取り組み始めたのでその経過を報告する。
対象
訪問看護:2名 A:7歳 女児 髄膜炎後遺症・水無脳症 重症児スコア34点 B:11歳 女児 メビウス症候群・脳性麻痺 重症児スコア30点
家庭主体のレスパイトケア:6名 C・D:3歳 男児(双子) 先天性肺胞低換気症候群 重症児スコア29点 E:3歳 男児 先天性水頭症・てんかん 重症児スコア39点 F:8歳 男児 てんかん・運動発達遅滞 重症児スコア27点 G:9歳 男児 リー脳症 重症児スコア37点 H:15歳 女児 難治性てんかん・脳性麻痺 重症児スコア34点
結果・考察
利用者はほぼ学齢期であり、同胞も学齢期であることが多い。そのため、同胞の学校行事や外出時の留守番看護を希望するケースが多い。重症児ケアの経験値が高い看護師が行うことで、家族は安心感が得られ、同胞との時間が確保できるようになり、同胞を育てる良い環境作りの支援にもなっているのではないかと考える。いずれの症例も他の事業所のサービスを利用しているが、時間数や内容など医療保険制度の枠内での利用のしにくさを感じている。家庭主体のレスパイトケアでは、家族が望むケアの提供が可能となったが、利用者主体の看護(療育)ができる反面、コスト面での課題が残っている。利用者・家族支援を最優先に考えながら、より多くの利用者が利用できるような仕組みを構築し、家族と共に育つ子どもたちを支援していきたい。
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船橋 篤彦
2013 年38 巻2 号 p.
279
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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目的
障がいのある子どもを持つ保護者の支援ニーズは多岐にわたるが、実際の相談・支援の現場においては専門職と保護者の間にギャップが生じることも少なくない(野辺、2008)。この「支援ニーズと実際の支援のギャップ」という問題の背景要因について探索的に明らかにすることが本研究の目的であった。
方法
東海・北陸エリアにある7つの県を対象として、障がい児の親の会に所属する保護者にアンケート調査を実施した。アンケートの内容は、1)子どものプロフィール(障害種・発達状況など)2)現在受けている各種の支援(身体機能訓練・ことば・生活介護・きょうだい支援・医療的ケアなどを含む全13項目)とその必要性。3)自由記述等 で構成された。
有効回答数は121名(回収率82%)であった。子どもの年齢は4歳〜43歳(中央値12歳)であった。
結果
重症心身障がい児の保護者は「生活介護」、「医療的ケア」そして「家族に対するカウンセリング」の支援を要望する回答が多かった。また、就学前と就学後を比較すると、就学後において特に「子どもの預かり」に対するニーズが高いが、「必要なのに支援がない」という回答も多かった。サービスの充実度も含めて、相対的に就学前の支援に対する満足度が高い傾向がみられた。
考察
今回の結果から、重症心身障がい児を持つ保護者のニーズの一端が明らかになった。ニーズの中には、地域資源を利用すれば充足可能なものも含まれていた。この点は、当事者への情報提供の仕組みを改善することで対応できる。また、就学前までの支援を就学後につなげる・移行する体制作りが望まれていると考えられる。この点については、特別支援学校を始めとする教育機関が就学前段階からのサポートに関与することについて検討を進めていきたい。
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三田 勝己, 赤滝 久美, 平元 東, 林 時仲, 岡田 喜篤, 渡壁 誠
2013 年38 巻2 号 p.
280
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
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はじめに
本研究はICTを活用した在宅重症心身障害児(者)(以下、重症児)の遠隔医療のみならず、訪問教育や共同生活など地域生活を幅広く支援する情報ネットワークの構築に従事してきた。こうした情報ネットワークは支援提供機関から利用者への縦型支援と位置づけられる。一方、重症児の家族同士が気軽に交流でき、苦悩や喜びを分かち合うことができれば、精神的に大きな支えや活力となる。本研究は、重症児家族の交流を促す横型の情報ネットワークを構築し、実証運用を行うことを目的とした。
方法
実証運用の協力者は北海道オホーツク地域に在住する3カ所の重症児家族であった。この地域に点在する重症児居宅は互いに数10kmから50km離れており、重症児を同行した相互の家族交流は困難であった。この3居宅にはパソコンがあり、インターネット接続も可能であったので、インターネットテレビ電話:Skypeを利用できる環境を整備し、運用を開始した。また、北海道療育園にも同様のICT環境を設置した。
結果・考察
実証運用は現時点で6カ月を経過した。運用評価は技術的な問題点、交流頻度、時間、交流内容記録、家族との面談を手がかりに行った。技術的課題としては、映像が途切れる現象がみられ、複数個所の同時ビデオ通話に対応するには通信回線やパソコンの速度が十分でないことが推察された。また、Skypeの操作が苦手であったり、予めパソコンの立ち上げが必要であるために通常の電話より使いづらいことが指摘された。交流頻度や時間はおおむね週1回30分から1時間程度であった。家族からは、ICTによってお互いに顔をみながら気楽に話ができることで気持ちが休まり、癒しにつながったとの感想が聞かれた。一方で、重症児本人にとっては経験のない、非日常的な場面であったことから、筋緊張が高まったり、興奮状態が続いたなど運用面で配慮すべき課題も明らかになった。
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長田 安子, 岩下 幸恵, 菊地 ますみ, 永井 加代, 守谷 千佳子, 鈴木 絵美, 高橋 由起子
2013 年38 巻2 号 p.
280
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
ジャーナル
フリー
はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災を経験し様々な問題に直面した。東京都の多摩地区では計画停電(一部地域)など大きな影響を受けた。そこで、在宅重症心身障害児(者)(以下、重症児)の震災に伴う影響を知り、今後どのような支援が必要かを検討するために調査をした。
目的
在宅重症児の災害時の実態を把握し今後の支援につなげる。
対象および方法
西部訪問看護事業部利用者の在宅重症児114名のうち調査の承諾が得られた家族96名を対象とし、2011年6月〜7月にアンケート調査を実施した。震災発生時からの状況など11項目で、選択方式にて回答を求めた。回収率は88%であった。
結果
発災当日に「困ったことあり」が67%で7日目に75%と日を追うごとに増えている。「通信障害による家族や関係者と連絡が取れない」などの不安から「おむつ、シリンジがない」などの物資不足への不安へと変化していった。避難場所を「決めていない」が65%で「移動するためには人手がいるため自宅に居るしかない」「電源の少ない避難所へ行ってもしかたがない」「家のほうが安全」と回答。関係機関からの問い合わせがあったか、では「あり」が81%、「なし」が19%。問い合わせ「あり」の内1人は、7カ所からの連絡がありと回答。計画停電では、日頃からの停電対策をしている家庭が多く「問題なかった」が44%であった。
考察
アンケートの結果から「通信障害」「移動・避難」「物資不足」「停電」「関係機関との連携」のカテゴリーに分類し日頃から個別に災害対策を立てる必要があることが分かった。
まとめ
災害弱者といわれている重症児の災害対策として1.家族と共同で作る個別支援計画の作成、2.家族と共に行う防災訓練、3.医療、看護、介護、行政、近隣とのネットワークづくりなど重症児と家族が生き抜く力を高める支援が必要であると考える。
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中 葉子, 小野 奈津季
2013 年38 巻2 号 p.
281
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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目的
東日本大震災から2年を経て長期入所者の家族が子どもに対して抱いた思いを明らかにする。
方法
1.対象 長期契約入所者の家族4組
2.調査方法
半構造的インタビューを実施し、得られたデータを類似性・相違性に基づき分類し分析した。
3.当院の倫理審査委員会の承諾を得て、研究趣旨・個人情報守秘を対象者に説明し同意を得た。
結果・考察
得られたデータから【病院にいるからこその安心】【もどかしい思い】【震災から存在し続ける不安】【子どもの死に対する心の準備】のカテゴリーが生成され、10個のサブカテゴリーに分類することができた。
【病院にいるからこその安心】は、長年に亘る入所者家族と病棟スタッフとの関わりにより信頼関係が構築され、安心につながったのではないかと考える。それでも【子どもの死に対する心の準備】ができているのは、長い療養生活の中で生命の危機に幾度となく直面し、障害の受容だけでなく死に対する受容も繰り返してきたからではないかと考える。一方、【震災から存在し続ける不安】では「電源がなくなり呼吸器が止まったら息ができない」など子どもの命に対する不安が今も存在しており、それは事前の自家発電などの情報が曖昧になっていても確認する機会がなかったからではないかと考える。そのため「自分の子どもはどうなるか分からない」といった【もどかしい思い】を強めていると考える。このように長期入所者の家族は、不安と安心という相反する思いを抱いていることが明らかとなった。
今後は、入所者家族とコミュニケーションを維持しつつ、防災に関しての情報提供の在り方を見直し家族と共に不安を解決できるよう取り組んでいく必要がある。災害発生時はスタッフや家族の力だけで避難するのは困難である。不測の事態に備えて地域との関係づくりも強めていく必要があると考える。
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−体験記の分析より−
岸野 美由紀
2013 年38 巻2 号 p.
281
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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はじめに
重症心身障害児(以下、重症児)の母親は抑うつ状態となることがしばしばあるが、抑うつならない母親もいると言われている。この背景にはレジリエンスという個人の特性が関係していると考えた。そこでこの実態を明らかにし、レジリエンスに導く支援方法への示唆を得ることを目的とした。
研究方法
対象は学齢期の重症児を養育している母親の育児体験記3例における、困難の乗り越え方の視点から関連あるコードを抽出して、Grotbergのレジリエンスの枠組みを用いて帰納的に分析した。本研究はA療育センターの倫理委員会の承認を得て実施した。
結果・考察
重症児の母親のレジリエンスは、1.内面の強さについては、2つのカテゴリー<明るく前向きでいたいと思う><障害をもつ子どもの存在、周囲の応援に幸せを感じ感謝する>が抽出された。2.周囲の支援については、3つのカテゴリー<支えてくれる家族がいる><理解・協力してくれる地域の人がいる><同じ苦しみ悲しみをもつ障害児の母親仲間がいる>、が抽出された。3.対処する力については、<悩んだときに、相談し理解・協力を得る><限界を感じ資源を活用する><壁にぶつかったとき、諦めや割り切り・考え方を変える>が抽出された。このようなカテゴリーから、重症児の母親のレジリエンスを高める方法を考察し以下に述べる。1.明るく前向きになる:障害告知後や健常児との違いを母親が感じる時期に、専門家によりカウンセリング、認知行動療法などの指導を検討する。2.周囲の支援に気づきを促す。3.支援者を増やす:地域の人や同じ障害児の母親仲間との出会いのきっかけを作る。4.対処する力を向上する:経験者の成功・失敗体験を聞く。5.母親の気がかりであるきょうだいについては、支援の対象とする活動を検討する。
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神前 泰希, 小林 拓也, 二宮 悦, 惣田 浩一, 城谷 みち, 渡邉 美保, 木島 亜依
2013 年38 巻2 号 p.
282
発行日: 2013年
公開日: 2022/04/28
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ケアハウス輝きの杜(以下、輝きの杜)では、1999年より重症心身障害児者(以下、重症児者)の日中一時預かり施設を運営している。現在は、2012年4月の自立支援法の改定に伴い、医療型特定短期入所制度(以下、短期入所)を利用して在宅重症児者の地域生活支援を行っている。
今回、施設開所後に輝きの杜を利用した重症児者について、特に重症度と点滴治療の施行例に着目し、重症児者の支援に必要なファクターの検討を行った。
重症度は、医療ケアなし群・軽度医療ケア群(吸引・経管栄養のみを有する)・中等度医療ケア群(吸入・導尿などの看護職の対応が必要なケアを有する)・高度医療ケア群(人工呼吸器・酸素・気管切開のいずれかを有する)と定義し、4群に分けて諸検討を行った。
症例数は全93例で、医療ケアなしが25名、軽度医療ケアが18名、中等度医療ケアが23名、高度医療ケアが26名であった。当施設で日中一時預かり中に点滴治療を行った症例は、65例であった。内訳は、医療ケアなし12名、軽度医療ケア11名、中等度医療ケア20名、高度医療ケア22名であり、特に中等度以上の重症度により、点滴治療を必要とする症例が多く年間点滴日数の平均も多いことが確認できた。
また、居住区別で検討したところ、区内在住47名中40名、区外在住46名中25名が、点滴治療を行っており、区内在住者に点滴治療例が多いことが確認できた。重症度によっての差は認めなかった。
以上は、χ2検定・重回帰分析を用いて統計学的処理を行った。
今回の検討により、中等度医療ケア・高度医療ケアを持つ重症児者の日中一時預かりには、医療的な支援が特に必要であること。施設からの距離は重要なファクターであり、必要な支援が受けられない重症児者とその家族の存在が危惧された。
一定の医療圏内での医療的基盤を持つ施設(短期入所制度を利用した)の増加と送迎支援のさらなる拡充が期待される。
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