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石田 裕美, 高木 恵美子
2017 年42 巻2 号 p.
192
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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目的 A病棟の先行研究において、「内服与薬場面での指差し呼称に対する看護師の意識と実施状況」についてのアンケート調査が行われた。結果、指差し呼称の必要性と効果についての意識は高いが、実施していない看護師が多いことが判明した。その背景には、経験年数や指差し呼称に対する知識や個人の過去に受けた教育歴の違いなどが考えられ、統一した実施方法と知識の提供が必要と考えた。そこで本研究では、指差し呼称の必要性と実施方法について勉強会を実施し、勉強会前後での看護師の意識と行動の変化を明らかにしたいと考えた。 対象と方法 A病棟看護師20名に対して、勉強会の前後で指差し呼称の必要性や実施状況のアンケート調査と、内服与薬場面での指差し呼称の他者チェックを実施した。 結果と考察 指差し呼称を「必要である」と回答したのは勉強会前が83.3%、勉強会後は91.8%であった。アンケートや勉強会の実施が指差し呼称に対する意識付けとなったと考えた。経験年数で比較すると、経験年数が高い群で指差し呼称を「実施している」「必要である」の回答が低く、長年の経験からの過信や自己の確認方法への固執、ルーチンワークに惰性が生じていることが推察された。他者チェックによる指差し呼称の実施割合に大きな変化はみられなかった。インシデント・アクシデント防止に指差し呼称が有効であると認識しているが行動に大きな変化がみられなかったのは、一回の勉強会では指差し呼称の効果や正しい実施方法についての理解が十分に得られなかったと推測された。指差し呼称の定着には継続的な働きかけが必要であると考えられた。
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−不安軽減への取り組み−
藤田 晶水, 望月 典子
2017 年42 巻2 号 p.
192
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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動機 用手換気介助は侵襲的ケアの一つであり、看護師が不安を感じやすい手技と言える。用手換気介助技術向上のための学習・演習を行うことによる看護師の心理的変化を検証した。 目的 用手換気の技術習得による用手換気介助に対する看護師の心理的変化を明らかにする。 方法 用手換気介助についての学習・演習の前後にアンケートを行い看護師の心理的変化を比較・分析した。 対象者:A病棟看護師18名 協力者:A病棟の人工呼吸器装着者B氏 倫理的配慮:研究者所属施設倫理審査委員会の承諾を得て行った。 結果 学習前のアンケートの回収率は83.3%、学習後のアンケートの回収率は100%だった。用手換気介助時に、不安を『感じる』『まあまあ感じる』と回答した看護師は学習前93.4%、学習後86.7%だった。用手換気介助方法に対する不安では『換気圧の強弱』が学習前86.6%、学習後60%、『タイミングやリズム』が学習前93.3%、学習後66.7%、『換気回数』が学習前80%、学習後40%、『十分な換気が保てているか』は学習前100%、学習後73.3%だった。『用手換気に対する利用者の苦痛』については、学習前後共に100%だった。 考察 用手換気の学習・演習にて換気圧・量測定器を使用し、換気状態を数値として把握できたことやメトロノームを用いて統一したタイミング・リズムで用手換気介助が行えたことが不安の軽減につながったと考える。適切な用手換気介助を行うためには、換気圧や換気量、タイミング・リズムに焦点をあてた研修を行うことが必要である。利用者が感じる苦痛の有無については判断が難しいことから、学習前後共に看護師の不安は継続していた。利用者の苦痛の有無を考慮しながら用手換気を行う必要があると考える。 結論 学習・演習の実施により用手換気に対する理解が深まり、不安は軽減した。しかし、用手換気介助による利用者の苦痛の判断が難しく、看護師の不安は継続していた。
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−ベビーオイル保湿法の効果について−
岸野 亜矢子, 小野寺 有希子
2017 年42 巻2 号 p.
193
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 ベビーオイルを用いたスキンケアの有効性を検討する。 方法 1対象者:発赤や創傷のない利用者20名 2研究期間:平成28年2月1日〜平成28年7月31日 3分析方法(1)同一対象者に対し、携帯型皮膚水分計(インテグラル社Mobile Moisture HP10-N)を用いて以下の期間測定する。<未実施:1週間毎、1カ月間の計4回 実施:1週間毎、2カ月間の計8回>(2)部位:前腕と下肢の内側2カ所を入浴前・直後・1時間後の3回測定する。(3)測定場所は脱衣所やデイルームで実施しプライバシーに配慮する。(4)弱酸性石鹸とタオルで全身洗浄後、10分以内に水分を拭き取る前にベビーオイルを皮溝に沿って塗布する。バスタオルで軽く押さえ拭き(この手順をベビーオイル保湿法とする)を行い測定する。ベビーオイルは測定部位に対し2プッシュ使用する。 結果 上肢では、ベビーオイル保湿法未実施の場合、入浴前と入浴1時間後を比較すると水分保持率が低く(p<0.05)、ベビーオイル保湿法実施の場合は、入浴前と入浴1時間後の水分保持率は高かった(p<0.01)。下肢では、ベビーオイル保湿法未実施の場合、入浴前と入浴1時間後の比較では有意差はなかった(p≧0.05)。ベビーオイル保湿法実施の場合では、入浴前と入浴1時間後の水分保持率は高かった(p<0.05)。 考察 入浴により角質水分量が上昇したところで、ベビーオイルを塗布したことはベビーオイルが皮脂膜の代用となり、角質の水分蒸散を防ぎ、保湿効果があったと考える。 結論 保湿剤は多種多様な中で、必要な利用者に適切なスキンケアの方法を選択して提供しなければならない。有効な予防的スキンケアを実践するために、ベビーオイル保湿法は効果を期待できるスキンケアだと考える。
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松尾 智沙子, 川野 奈緒, 徳永 まり子, 山田 美穂, 江崎 純子, 平川 照代, 竹下 英子, 高嶋 幸男
2017 年42 巻2 号 p.
193
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 約半年間軟膏・デブリートメント施行も悪化した当施設の褥瘡を有する利用者2名に陰圧創傷治療システム(以下、VAC)を用いて良好な結果が得られたので、当施設での褥瘡治療の新たな取り組みを報告する。 対象 A氏12歳 男性 横地分類:A1 大島分類:1 主病名:心肺停止蘇生後低酸素脳症 人工呼吸器管理 褥瘡部位:仙骨部 B氏 20歳 男性 横地分類:A1 大島分類:1 主病名:頭部外傷後後遺症 気管切開、日中座位保持装置に乗車 褥瘡部位:右大転子部(ポケット形成) 方法 使用機器:ActiV.A.C型、グラニューホーム使用 A氏 使用期間6/24〜7/21(4週間使用) B氏 使用期間7/28〜8/12(うち15日間使用) 結果・考察 褥瘡はDESIGN-Rにて、A氏は使用前12点→使用後10点、B氏は使用前21点→使用後29点(感染のため)であった。一方週2回のドレッシング剤交換では、両者とも回を追う毎に鮮紅色の良性肉芽形成が進んだ。また、VACの創縁を引き寄せる効果により、創の収縮が認められた。終了後は今迄効果がなかった軟膏処置が有効となり、治療期間の短縮が出来た。この結果から、今まで軟膏やドレッシング剤の処置では良性肉芽形成に至らず、デブリードメントが必要となった利用者に対し、VACは有効であったと考える。B氏については感染を疑い、VACの使用を15日間で終了した。閉鎖環境のため感染を疑う場合は継続か否かの検討が必要である。今回、VAC使用にあたり、利用者の活動を制限しない部位に装着すること、ドレープ部に発赤が生じたため、毎回異なる場所にドレープを貼付した。VACを利用した利用者は週2回のドレッシング剤の交換を行う以外に当施設での生活に影響はなく、良性肉芽形成がみられた。さらに頻回の創部の洗浄処置が不要となり、利用者の負担軽減が図れた。B氏の場合VAC装着中でも座位保持装置に乗車し療育活動に参加することが出来た。このことからも重症心身障害児者施設でのVAC使用は有用であると考える。
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菅原 主水, 島 美香, 羽野 敦
2017 年42 巻2 号 p.
194
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)はさまざまな疾患を持ち、骨の脆弱性や自傷など突発的な行動から外傷による骨折も多く、骨折予防は重要な課題である。健常者には骨折発生リスクを予測するツールの有用性が認められている今日、重症児者の骨折要因を分析し、骨折リスクの評価が骨折予防に有効と考え、取り組みを実施した。 対象 当院入所者 男性86名、女性75名 計161名 年齢区分20歳〜78歳 方法 年齢、性別、骨密度、横地分類、抗てんかん薬の内服、骨折既往歴をカルテより調査した。各項目の骨折率を比較し、加点式による骨折リスク評価スケールを作成した。 結果 161名中36名(22%)、年齢別では20歳台で22%、30歳台で11%、40歳台で16%、50歳以上で28%が骨折していた。横地分類移動機能において、1で11%、2で47%、3で37%、4で33%、5で18%、6で0%。知的発達において、aで16%、bで29%、cで23%、dで14%、eで0%。骨密度では、0〜20%で22%、20〜40%で32%、40〜60%で16%、60%以上で15%が骨折していた。骨折者中、骨折の既往があった対象者は97%、抗てんかん薬の服薬者24%、抗てんかん薬非服薬者13%が骨折していた。各危険因子に、年齢20歳台、50歳台以上、女性50歳以上、骨密度40%以下、1点、有骨折歴者3点、横地分類移動機能2、3で2点、4で1点、知的発達b、cで1点、抗てんかん薬服薬者1点と設定。最小0点、最大10点、とした。点数加算の結果、骨折者平均7.5点、非骨折者平均4.5点となった。 考察 当院における骨折は、健常者と同様の危険因子と、重症児者特有の因子で骨折の危険があることが分かった。加点式の合計点数では、骨折者と非骨折者で大きく差があり、この点数差は骨折が発生するリスクを客観的に評価するための目安(スケール)となる。スケールの使用は正確なリスク判断・スタッフの統一した評価が行え、骨折予防には有効と考えられる。
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三鴨 可奈子, 片桐 浩史, 汐田 まどか
2017 年42 巻2 号 p.
194
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児者(以下、重症児者)は骨折のリスクが高い。平成25年度当センターにて入所児童総数18名に対し合計6件、4名の骨折事故が発生した。骨折の多くは上腕骨であり、半数以上は受傷機転が不明で頻脈など看護師の観察より発見されていた。これらの事故を分析し、予防対策として患者別の骨折アセスメントシートと介助技術を記録したDVDを作成し、効果が得られたので報告する。 方法 職員の骨折に対する知識向上と介助技術の統一により骨折予防を図ることを目的とし、まず医師による重症児者の骨折について研修会を企画した。次に患者の身体的特徴や骨折歴をまとめた骨折アセスメントシートを個別に作成した。骨折アセスメントシートには実際の骨折部位や変形拘縮が強い骨折危険部位に加え、骨折の既往、おむつ交換など介助場面における注意点を担当看護師と担当理学療法士が記載した。また、骨折アセスメントシートを基に介助技術を記録したDVDを作成した。関節可動域や介助上のポイントを説明しながら理学療法士が実演した。医療安全管理委員が中心となり、全職員が骨折アセスメントシートとDVDが閲覧できるよう促すとともに、それらをベッドサイドに設置しいつでも確認可能にした。 結果 平成26年度より取り組みを開始し、介助技術は統一され骨折は減少した。 考察 当センターの骨折事例では受傷機転が不明なものが多く、介助場面では上肢を介助する際に、より注意を要する。多職種で協働し日常の中から異常に気付く観察力を養う必要性がある。また、重症児者は個別性が高い。一人ひとりの特性をまとめ、介助方法をDVDに記録し視覚化することは職員教育に有効である。 まとめ 骨折事故に対し、患者別の骨折アセスメントシートとDVDを作成し知識と介助技術の統一を図った。これらの活用は有効であった。今後も取り組みを継続し、職員の意識と知識の向上および骨折発生減少につなげていきたい。
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廣末 美穂
2017 年42 巻2 号 p.
195
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 2016年当園は新規の短期入所16名、うち人工呼吸器使用者2名を受け入れた。受け入れ時、呼吸器使用方法がわからず病棟に混乱を生じた。呼吸器を使用する短期入所者個人マニュアルの作成が急務と考え取り組んだのでここに報告する。 目的 超重症児の個別的ケアマニュアルの作成に先立ち、呼吸器使用者個人マニュアルの原案を作成し、安全な看護を提供する。 対象 A氏 男性 重度障害児スコア:29点 脳出血後遺症 CP MR EP BA 肺炎 呼吸不全(夜間呼吸器使用) 研究方法 1.アンケート(意見聴取)実施 仮説検証型自由回答方式 2.集計 3.マニュアル作成 結果 1.<アンケート集計結果>対象看護師25名 呼吸器に対する不安:52% 急変時に対する不安:20% 漠然とした不安:16% 情報共有の不足:12% 2.マニュアル作成 1)呼吸器の物品・組立・注意事項 2)設定・実測値確認方法、呼吸器チェックリストの見直しマニュアルの試用、評価、追加、修正予定であったがマニュアル案作成で研究終了となる。 考察 利用者プロフィールは、文面だけでは読み取れない情報も多く、家族もどこまでの情報提供が必要かわからない。情報収集内容が統一されていないため、宿泊入所時に情報収集不足が判明する。これらが不安の原因と考える。A氏の体調不良や入院により、試用・評価・追加・修正ができなかった。超重症児を安全に受け入れるために、最低限必要な情報を洩れなく、共通認識できるマニュアルの作成が必要。今後は、総合的なリスク管理を、SELLを用いた問題抽出を行ったうえで、改善を図ることが必要。 おわりに 在宅介護の超・準重症児は5000〜7000人で、18歳未満の呼吸器治療を要する児は1000人以上といわれている。特に呼吸器使用者を受け入れる施設は少なく、当園の担う役割は大きい。信頼される施設として、システム作りは重要な課題である。
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−先輩看護師が新人看護師に伝えていること−
長谷川 詩歩, 川口 静香, 河西 和, 濵邉 富美子
2017 年42 巻2 号 p.
195
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 大学病院の小児病棟では、年間通して重症心身障害児(以下、重症児)が入院している。しかし、小児病棟に入職や異動をしてきた看護師の多くは、初めて重症児と関わる場合が少なくない。そこで小児看護経験のない新人看護師へ先輩看護師がどのように指導しているのか関心を持った。新人看護師へ指導経験がある先輩看護師に対し、重症児看護を指導する上で大切にしていることを調査し、共通していることを導き出し、今後の新人看護師指導に活かしたいと考えた。 目的 大学病院の小児病棟に勤務する看護師が、重症児看護に関して新人看護師に指導するうえで大切にしていることを明らかにする。 方法 調査期間:2017年5月 研究デザイン:質的記述的研究 研究方法:当該病棟勤務経験年数4年以上かつ新人指導を経験した先輩看護師6人に対し、重症児看護を指導する上で大切にしていることについて半構造化面接を実施した。 倫理的配慮:当該施設の倫理審査委員会の承認を受け実施した。 結果 重症児の看護では、呼吸や循環などの疾患に伴う症状に対する医療処置が重要視される。そのため、技術習得中心の指導であることが推測された。しかし、6人中すべての先輩看護師が重症児看護を行う上で技術習得は必要ではあると前置きしつつも、家族を中心としたケアを大切にしているという意見が挙がった。 重症児は医療処置に関する意思決定は家族に委ねられていることが多い。先輩看護師は、家族がその決定に至った思いや歩んできた背景、子どものために行っている介護方法を知り、頑張りを認め労っていた。自宅にいても病院にいても家族の中に重症児がいることは変わりなく、その方法を継続することが重症児のみならず家族にとっても安心感につながると認識していた。 加えて、家族との関わりから自身のやりがいを見出していることが多く、重症児看護の魅力を新人看護師に伝えていた。
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見山 里美
2017 年42 巻2 号 p.
196
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 自施設において看護師が卒後2年目に入った直後に離職するケースが続き、新卒教育が要因と考えた。今回、新卒看護師の思いを分析することで2年目の離職要因を明らかにし、新卒看護教育について検討した。 方法 調査対象者は、自施設に新卒看護師として入職した4名。山口らの一般病棟を対象とした新卒看護師の職業継続意思における研究1)の9つのカテゴリーをもとに、自施設の新卒教育で活用した「振り返り目標シート」の自由記載内容の言葉をカテゴリー化し、結果を比較した。 結果と考察 先行研究と本研究では新卒看護師の職業継続意思カテゴリーにおける割合に違いがあった。本研究では<自己成長のため>が49.1%を占め、日々の業務ができることを示した内容が多かった。また、先行研究では<やりがいを感じる>項目が35.7%と高い割合に対して本研究は1.8%と差が生じた。<より良い看護を提供したい><先輩のような看護師になりたい><看護への興味>の3項目は、本研究では分類されなかった。新卒看護師は技術を取得できても重症心身障害児者(以下、重症児者)のサインが汲み取れないことから満足感・達成感が得られにくいと感じる。これは重症児者看護の特徴でもあると考える。2年目に離職する看護師は、業務はできるようになったが、重症児者の些細な変化を感じ取れた喜び、苦痛を取り除けた喜び、わずかな成長を確認できた喜びの経験が少なく、重症児者の理解、コミュニケーションの取り方に難しさを感じ、やりがいにつながらず離職に結びつくと考える。これは落合らの先行研究である重症児看護の困難さ・魅力・専門性に関する施設看護職員の意識調査とも一致した。よって新卒教育は、重症児者の特徴を踏まえた看護の魅力を捉える体感と、そのための関わりが必要である。
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−A施設の看護師の実態調査から見えてきたもの−
迫水 夕織, 逸見 聡子, 口分田 政夫
2017 年42 巻2 号 p.
196
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児(者)看護は特殊な領域であるが、看護師が利用者をどのようにとらえ、どのような視点でケアを実施しているのかはこれまで明確にされてこなかった。研究背景には当施設の環境があり、利用者は皆発達年齢が似ているため、生活年齢よりも発達年齢を重視した生活環境の構築がされている現状がある。今まで重症心身障害児(者)施設に勤務する看護師が利用者をどのような視点で捉え看護を提供しているのかを明確にするための研究は行われていない。そこで本研究では当施設に勤務する看護師がどのように利用者を捉え日々の看護を提供しているのか調査を行った。 研究方法 実態を探るための質問紙をチェック式にて作成、最終項目のみ自由記載できるよう記述式とし、チェック項目について集計を行った。その結果を踏まえ、1人の利用者に対する重症心身障害児(者)の適応評価を看護師が実施した。調査は無記名とし個人が特定されないよう配慮した。 結果 実態調査結果を受け重症心身障害児(者)の適応評価(横地ら)を複数の看護師で実施し評価のバラツキを検討した。その結果、看護師がケアを行うときに発達年齢や生活年齢を重視した関わりをしているのではなく、他者や環境との関係性の中で培われた利用者の今発揮できる力に応じたケアを実践していることが明らかになった。 考察 看護教育の中で成長発達を学ぶ場面は看護学校の小児看護学のみであり、当施設に入職した看護師に対しても学びの場はない。各病棟のオリエンテーション場面でも現在の利用者の様子が主体となっていることも影響しているのではないかと考える。利用者が持つ障害の重度化が進む中で看護師が中心となり利用者の生活を考える場面も増えてきている。その中でより質の高いケアを実施していくために身体的特徴から利用者を看るのではなく利用者が持っている力を十分に引き出せるケアを実施してくことが必要である。
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高木 園美, 林 佳奈子, 桶本 千史, 松田 瞳, 松澤 純子, 八木 信一
2017 年42 巻2 号 p.
197
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 富山県では、平成27年度より医療的ケア児に対するケアの質の確保・向上を目指し、児に関わる看護職者を対象に、小児医療的ケア実技研修会を開催している。本研修会は、小児科医、理学療法士、看護師協働のもと開催しており、本報では過去4回の活動内容や成果、今後の課題について報告する。 活動内容 研修会は平成27年8月以降、年2回のペースで開催した。内容は、医師と理学療法士から、医療的ケア児の県内外の現状や、重症心身障害児の身体的特徴やケア方法、ケア実施時の注意点等に関する講義を実施した。また、医師と看護師の指導によるモデル人形を用いた医療的ケアの実技演習や、医療機器メーカの協働を得て、人工呼吸器の装着体験を行った。研修会の参加募集人員は毎回10名程度である。4回の開催による参加延べ人数は55名で、訪問看護ステーションや総合病院、特別支援学校等の看護師や養護教諭が参加していた。研修会終了後のアンケート(n=50)の自由記載には、「県内で講義と実技の経験ができる機会がなかったので嬉しかった。」「小児の在宅看護の経験がなかったので良い経験になった。」「看護師だけでなく支援学校の教員なども参加できるとよかった。」「今回の学びを臨床に活かしたい」などの意見があった。 今後の課題 本研修会に対する参加者からの意見はおおむね好評であり、毎回募集人数あるいはそれ以上の参加希望があることから、会の継続は重要である。また、医療的ケア児の成長に寄り添う看護職者以外の職種に対しても、知識や情報の共有・提供の場として、参加対象職種の拡大を検討することも求められる。より良い研修会の開催やその他の取り組みに向けて、参加者のその後の知識や技術の活用状況を評価するために、今後は追跡調査の実施についても考慮が必要と考える。
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樋口 滋, 深澤 宏昭, 早川 真由
2017 年42 巻2 号 p.
197
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに A市内には在宅生活を送っている重症心身障害児者が約100名おり、生活介護、居宅介護、共同生活援助など種々のサービスを利用している。今回、それらの福祉施設職員を対象に支援技術向上を目的とした研修を担当する機会を得た。研修は3回実施、第1回:身体のメカニズムと介助方法、第2回:ポジショニング、第3回:呼吸介助手技をテーマに行った。参加者の傾向や研修内容の満足度、参加者が得た学びを知るためにアンケート調査を実施した。 対象・方法 対象は研修会参加者。アンケートは同一内容で3回実施、研修終了後に参加者に配布し、同日全員分回収した。経験年数等の参加者情報、研修内容の満足度、印象に残ったキーワード、今後希望する研修の内容・要望などについて質問した。 結果 参加者合計141名のうち経験年数5年以下の職員が73名で51.8%を占めた。研修内容の満足度は項目すべてで「大変良い」「良い」が74〜98%となった。印象に残ったキーワードは、支持基底面、重心、圧中心、ポジショニング、変形、体位、ここち良さ、換気、呼吸介助が多くあげられた。自由記載欄は「初心者にも分かりやすい」、「実技が良かった」、「繰り返し受講したい」などの感想と「介護の現場に来てほしい」、「個々に合わせたアドバイスが欲しい」などの利用者個々のニードへの対応、「職員の腰痛予防」、「日常でできるリハビリの方法」、「摂食と嚥下」、「車いすの講義」などの今回テーマになかった内容について要望があげられた。 考察 研修は、福祉施設に勤務する比較的経験の浅い職員の知識と技術の向上の手助けとなっていた。キーワードは、理学療法士が持っている重症心身障害児者に関する基本的な知識や視点、関わる上での心がけに関するものが多く、それらが在宅生活を支援する職員に有益となることが示唆された。介護現場への介入、個別ケースへの助言などの課題も示された。
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−アクションカードの作成−
飯野 由美子
2017 年42 巻2 号 p.
198
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児者施設においては、急変する場面にあたることは稀である。そこに従事している看護師はBLS等の研修をうけているものの急変対応に対する不安は大きい。また、夜勤も看護師2人であるため、看護師の早期対応、判断が必須であり、いかに迅速に行動できるかが重要な鍵となる。今回、急変時に迅速に行動できるようアクションカードを作成した。 目的 アクションカードを作成し迅速な急変時の対応ができる 方法 1.場面(CPA状態での発見)設定し、シミュレーションを行いアクションカードを作成する 2.作成したアクションカードをもとに設定した場面でのシミュレーションを実施する 3.1.2の後、ディスカッションを行い、アクションカードを修正する 結果 アクションカードの内容については、「簡単で見やすいもの」「ポケットサイズ」「説明文があった方が良い」「電話番号は目立つ色にした方が良い」等の意見があった。また、シミュレーションの実施については、「イメージができた」「アクションカードに沿って行動することで落ち着いて次の行動がとれる」「応援者の連絡がスムーズにできる」等の意見があった。 考察 アクションカードは、個々の役割が具体的かつ簡潔に記載されているため、それを見ることで慌てることなく、落ち着いた状態で行動できると考える。今までは、救急時の対応は、個々の判断で行動していたが、これを活用することで看護師それぞれの役割も明確になり、迅速に行動できるようになる。今後、アクションカードは行動指標として活用していきたい。そして、日頃から繰り返しシミュレーションを行うことで、さらに冷静、迅速に対応できる力をつけていくことも必要と考える。
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片岡 愛, 佐塚 丈彦
2017 年42 巻2 号 p.
198
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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医療的ケア児にとっても特別支援学校中・高等部学校生活最後のビックイベントが修学旅行です。こども達はもとより、ここまで育ててこられたご家族にとっても目標そして喜びひとしおの感慨深いイベントでしょう。そんなこども達の修学旅行にここ数年同行しています。安心安全に、楽しい思い出をつくってほしいな…と応援しています。同行を通して感じることは、医療者がいることで先生達の肩の力が抜け、こども達の笑顔につながることです。トラブル発生時も相談や医療的判断ができるので、担当する先生と一緒に対応し役割分担することで、先生の緊張が解けこども達の緊張感も溶けて体調も戻り笑顔も戻ってきます。 また、学校の先生方の生徒への関わりだったり一生懸命な取り組みや思いなどを知ることができ、同行して見なければわからない世界だったと感じています。 修学旅行の同行は、初対面の子も多く、同行を躊躇される先生方も多いと思いますが、病院でも初診の患者さんと同じだと思うのです。初診の患者さんと思えば、普段の状態は先生達のお話や保護者へ電話すればわかることですし、病院での外来と同じだと考えています。旅行中、ちょっとした工夫で楽しい思い出づくりが続けられれば、とても、大きな役割だと考えています。 修学旅行初日のこども達の笑顔、生き生きした顔、忘れられません…。みんな“主人公”です。学校生活を安心に安全に続けられれるように、医療と学校の連携は必須と言えます。ここに医療的ケア児の課題解決のヒントがあるのではないかと考えています。本学会の副題にもありますが「うまれてよかったと思える社会づくり」にむけて、できることから一つづつ一歩一歩。医療と学校…ますますの連携で一緒にこども達の笑顔を守りたい…。
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郷間 英世, 吉田 高徹, 牛尾 禮子, 池田 友美
2017 年42 巻2 号 p.
199
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 特別支援学校に看護師が配置され医療的ケアを担うようになったものの、看護師と教員の立場の違いによる連携の困難さを感じることが少なくない。そこでその問題点や課題について調査を行った。 方法 対象は近畿地方A県の「医療的ケア」を実施している特別支援学校30校の教員各3名および看護師各2名である。質問内容は「情報交換が十分かどうか」、お互いに「望むことや、理解してほしいこと」などであった。回答は、選択式質問はχ2検定を、記述内容はコード化しカテゴリーに分類した。 結果 18校(60.0%)から回答があり、教員45名看護師33名分を分析した。障害について情報交換が十分と回答したのは教師42名(93.3%)看護師16人(48.5%)、ケアの手技について情報交換が十分と回答したのは教師37名(82.2%)看護師14人(42.4%)と看護師は教員より低値で有意差(いずれもp<0.01)を認めた。記述内容では、教員は看護師に対し『十分コミュニケーションが取れている』という記述もあったが、「最大限活動に参加させたい教員の気持ちを尊重してほしい」「安全第一で守り過ぎないように」など『教育活動の理解』や「看護の立場からの考えや方向性を教えてほしい」「教育の場での医療的ケアについて共通理解をしたい」など『看護の考え方の理解や話し合いの必要性』を望む意見もみられた。看護師から教員に対しては「生育歴や内服薬など」「保護者と教員のやり取りの内容」など『ケア以外の情報の伝達や共有』、「安全への意識」「身体的な問題の基本的な理解」など『教師の医療的考えの理解不足』、「教育計画を立てるときの相談」「打ち合わせや話し合いの時間」など『コミュニケーション不足』について多くの記載が認められた。 考察 医療的ケアが必要な子どもに関わる教員と看護師の考え方の違いが認められ、お互いの立場の理解や連携のあり方についての方法の検討が必要と考えられた。
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深澤 宏昭, 樋口 滋, 早川 真由
2017 年42 巻2 号 p.
199
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 実習は机上では学べない臨床場面を見学・体験できる貴重な場である。当施設では2007年より2校の理学療法学科の学生(以下、学生)の1週間の実習(検査測定実習、見学実習)を受け入れている。実習の学びを明らかにすることを目的に、10年間の学生の感想文を分析した。 対象と方法 2007〜2017年の10年間に実習を行った学生は27名である。このうち19名から提出された実習最終日の課題レポートである感想文を分析の対象とした。分析方法は、Steps for Coding and Theorization(SCAT)を一部改変した方法を用い、テキストデータの抽出、グループ化、言い換え、概念化、ストーリーラインの記述、理論記述の順で分析を行った。分析は実習に関わった当施設の理学療法士3名で行った。 結果 ストーリーラインは以下の通りである(本文中の〈〉はグループ化した言い換え、【 】は概念を意味する)。学生は初めて重症心身障害者が入所する施設で実習をし、実習前に抱いていた【イメージとのギャップ】を感じ、〈重症心身障害児者との出会いと戸惑い〉があった。実習指導者を介し、〈コミュニケーションがとれる人たちだという気づき〉から【重症心身障害児者の個性の理解】をし、【重症心身障害児者との関わり】を学んだ。また、〈身体を通した実体験の学び〉から【重症心身障害児者の身体の特徴への気づき】があり、【理学療法士による支援の深まり】を学んだ。 考察 学生は実習指導者を介することで重症心身障害児者への理解を深めていった。重症心身障害児者が発する、言語以外のさまざまな表現を、指導者との関わりから感じとった。また、自らの身体で実際に触れ、動かす体験を通じて、理学療法について学んだ。1週間という短い期間でも重症心身障害児者への理解と、重症心身障害の理学療法について学ぶことができたと考える。
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三浦 清邦, 長谷川 桜子, 吉田 太, 麻生 幸三郎, 夏目 淳
2017 年42 巻2 号 p.
200
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 名古屋大学では、重症心身障害児者(以下、重症児者)医療を中心とした4年生での講義1回と5年生での愛知県心身障害者コロニー中央病院と入所施設(旧重症心身障害児施設)での1日臨床実習を実施している。講義では3組の重症児・家族の参加、臨床実習では3-4人に分かれての医療的ケアが必要な重症児・家族との面談・診察体験と、家族参加型の教育を実施している。現在までに5学年がこれらの教育を終了している。長期的な教育効果を検証するために、卒業生にアンケート調査を実施した。 方法 卒業後2年間の初期研修が終わる平成26年3月(H26卒)と27年3月(H27卒)に、郵送によるアンケート調査を実施した。臨床実習参加人数は2年間で204人であった。本学卒業生が多数初期研修する病院(H26卒18病院、H27卒13病院、卒業生の6割以上が所属)の研修担当者にアンケートの配布と回収を依頼した。H26卒は10病院26人(男17人、女9人、1病院1〜9人)、H27卒は8病院34人(男26人、女8人、1病院1〜6人)、全体で60人から回答を得た。 結果 1.講義:印象に残っている19人(31.7%)、ある程度残っている 23人(38.3%)、今後もぜひ続けるべき38人(63.3%)。2.臨床実習:印象に残っている48人(80.0%)、ある程度残っている 10人(16.7%)、今後もぜひ続けるべき46人(76.7%)。3.初期研修における重症児者を診療する機会:あった40人(70.6%)、なかった19人(29.4%)。4.診療に大学の教育は:非常に役に立った4 人(10.0%)、ある程度役に立った30人(75.0%)、あまり役に立たなかった4人(10.0%)、まったく役に立たなかった1人(2.5%)。 考察 3年以上経過した時点においても、重症児者医療教育に対して高い評価が維持されていること、特に、家族参加型の臨床実習は、より強く印象に残っていることが確認できた。家族参加型の講義1回と1日の臨床実習は、有意義な重症児者医療学生教育となりうる。
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松野 頌平, 宮本 昌子, 塩川 智司
2017 年42 巻2 号 p.
200
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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緒言 全国の特別支援学校(以下、学校)において、日常的に医療的ケアが必要な生徒(以下、医療的ケア児)の数は全在籍者の6.1%であり、医療的ケア児の中で、23.5%が栄養ケア、68.9%が呼吸ケアを必要としていることが報告されている。栄養や呼吸は、経口摂取と密接に関わっていることから、医療的ケア児の嚥下障害マネジメントに苦慮している現場は少なくない。 当院では、嚥下障害マネジメントを専門とする歯科医師が学校での給食指導の一環を担い、豊かな給食活動を実践できるようサポートを行っている。今回、当院での取り組みをもとに、学校と歯科医院との地域連携モデルについて考察を行ったので報告する。 活動報告 当院歯科医師が行う主な取り組みは、月1回の直接訪問による『給食相談』である。対象児の決定については、養護教諭が小学部から高等部すべてのクラスの給食相談窓口となり、事前に情報収集を行う。担任教諭だけでなく、保護者にも給食相談実施日を通知し、相談希望を募る。希望時には保護者の同席も可能である。担任教諭や保護者が抱える摂食嚥下に関する悩みなどについて対面形式で相談を受け、実際の給食場面をみた上で、摂食嚥下専門の歯科医師の立場からアドバイスを行っている。 さらに、不定期ではあるものの、食支援をテーマとした校内研修会を実施しており、学校職員間での情報や経験の共有、食支援に対する知識の向上を目指した活発な意見交換ができている。 結語 医療的ケア児の嚥下障害は病態によって重症度が左右されることに加え、経年的な変化の個人差が大きいことが特徴のひとつとして挙げられる。歯科との連携を通して、口腔の形態的・機能的変化、嚥下機能変化を適切に把握し、学校や保護者と情報共有することにより、学校と在宅のシームレスな食支援を構築できると確信している。今後も医療的ケア児に対するよりよい食支援を目指し、活動を継続していきたい。
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高尾 智也
2017 年42 巻2 号 p.
201
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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2017年4月の医療型障害児者施設の開設にあたり、入所および短期入所利用希望があり、経口摂取をおこなっている方に対して、安全に生活するために嚥下造影検査(Swallowing videofluorography;以下、VF検査)を行い、食事形態およびポジショニング評価を行った。検査結果を踏まえて、医師、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士でカンファレンスを行い、誤嚥症例においては誤嚥リスクの少ない食事形態とポジショニングの指導および栄養指導を行った。 対象は、2015年6月から2017年5月までに入所および短期入所利用希望で紹介となった経口摂取症例33名(男16名、女17名)を対象とした。年齢は2歳から52歳、入所希望が7名、短期入所希望が26名だった。 VF検査で明らかな誤嚥を認めた症例は23例(69.7%)で、検査前に誤嚥が認識できていた症例は23例中16例(69.6%)だった。食事および水分の誤嚥が12例、水分のみの誤嚥が11例で、食事形態の変更やポジショニングで対応出来なかった症例は23例中6例(26.1%)だった。家族より食事中にむせることがないと訴えがあった17例中7例(41.2%)は、実際に誤嚥している画像を見て驚かれる家族がが多かった。しかし、誤嚥していることを受け入れることが出来ず、食事形態や介助方法を見直すことを拒否される家族もあった。4月の開設以降、当施設利用時はVF結果を踏まえて食事形態を決定させてもらい、STおよびPTの指導のもと食事を行っている。当施設のスタッフからは食事介助が安心して行えるとの意見があり、家族からも安心して利用していただいている。重症心身障害児者は誤嚥してもむせることがないことも多く、誤嚥性肺炎や窒息を来し生命に関わることもあるため、利用前のVF検査は本人・家族のみでなく、スタッフの安心感もあり、重症心身障害児者の誤嚥予防に有用と思われた。
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大平 昌美, 岡村 聡, 辻岡 朋大, 綿谷 るみ, 村山 萌, 高橋 悠也, 東久保 和希, 福喜多 晃平, 牧 兼正, 岩本 彰太郎, ...
2017 年42 巻2 号 p.
201
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに タナトフォリック骨異形成症(TD)罹患児では人工呼吸管理が必須であるため早期に気管切開が行われ、その後に経口摂取可能となる例も少なくない。しかし、生後から長期間の経口気管挿管を経たのちに摂食可能となった症例の報告はなく、特に喉頭蓋欠損を合併した症例に対する摂食嚥下訓練方法は確立されていない。今回、生後から長期間の経口気管挿管を経た無喉頭蓋合併TD罹患児に対して実施した摂食嚥下訓練の取り組みについて報告する。 症例 出生前にTDと診断された9歳女児。出生直後より呼吸障害のため人工呼吸管理されていた。諸事情から経口気管挿管管理が8年5カ月間続いた。その間、経鼻経管で栄養管理され、経口摂取は行われなかった。気管切開施行後、唾液の嚥下を認めたことから摂食嚥下訓練の適応があると判断した。訓練開始にあたり、喉頭内視鏡検査では喉頭蓋欠損を認めたものの声門閉鎖可能であった。嚥下造影検査(VF)では、水分およびミキサー食・まとまり食・ゼリーの形態を10°〜30°のギャッジアップの姿勢で試みたが、誤嚥および喉頭侵入は認めなかった。同結果を受け、週5回、1日1回の頻度でPTによる呼吸リハビリ後、STによる口腔内マッサージおよび経口摂取訓練を実施したところ、約1カ月にはヨーグルト10cc程度の経口摂取が可能となった。 考察 経口摂取開始にあたり、長期間の経口気管挿管に起因する声門閉鎖不全が懸念された。そのためVF前に喉頭内視鏡検査を実施したことで、喉頭蓋欠損を同定することができた。その後のVFでは、喉頭蓋欠損による誤嚥に留意したが問題なく嚥下できていることが確認できた。また、本症例は嚥下機能が比較的保たれており、感覚過敏等による摂食拒否がなかったことがスムーズな経口訓練につながったと考える。今後、経口摂取機能のさらなる 発達を促すにあたり、無喉頭蓋の嚥下機能への影響に関して精査・検討する必要がある。
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木村 直樹, 布施 葉子, 若杉 琢磨
2017 年42 巻2 号 p.
202
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))は入所期間が長く自分の意志で食事内容の選択が困難な方が多い。低栄養に傾く方や体重減少、便秘・下痢などさまざまな問題が生じる。障害の違いにより個人差が大きく至適栄養メニューを決定する標準的な判断基準の設定は困難である。 NST会議は、個々の栄養状態の改善を目的に実施する。当施設では以前、会議で体重減少やアルブミン値の低下、食欲低下などの状況報告が主で予防的な視点での取り組みはなかった。2年前から、会議の在り方を再検討し、職種の専門性を活かした介入の仕組みについて具体的な基準を作ってきた。その結果、多職種の介入が利用者の栄養状態の改善となり、問題を事前に予防でき個々の健康維持、増進につながることが分かった。当施設での多職種介入の取り組みについて報告する。 研究目的 各職種が具体的な基準を定め、利用者の栄養状態の改善を多職種で介入できる体制作りの効果を検証する。 活動内容 各職種の役割を明確にした。看護師は日常生活の状況、排便状況の把握からのアセスメント、支援員は適切な利用者状況の報告、栄養士は栄養剤等の提案、検査技師は血液検査データの集計や推移の報告、薬剤師は下剤等の内服状況、理学療法士は排泄等に関する姿勢や活動の提案、医師は病態・栄養管理上の問題、最終的な判断を行った。 結果 巨大結腸症に関しては、予防的アプローチの基準が明確になった。下剤投与の見直しが可能となった。 考察 利用者の高齢化を迎え、腸管を使った栄養管理は利用者の免疫力を上げ、感染症や肺炎の予防につながる。特に重症児(者)は、薬剤の影響や運動機能の問題から巨大結腸症となりやすく、栄養剤の選択や排便コントロールは重要となる。多職種の専門性を活かした取り組みは重症児(者)の健康管理に大きな影響があることが示唆された。
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−持続血糖モニターによる検討−
上石 晶子, 有本 潔
2017 年42 巻2 号 p.
202
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害者では、加齢、重症化に伴い経管栄養による管理を余儀なくされる例が増えている。そのような状況のもと、胃瘻栄養の症例で、半固形化流動食のメリットが認識されるようになってきた。長期栄養管理においては、加齢に伴い血糖の変動の管理も大きな課題である。今回われわれは、持続血糖モニターにより、流動食の形態の違いによる血糖値変動の違いについて検討したので報告する。 対象および方法 対象は、当センターに入所中の66歳の女性。新生児期の詳細な状況、原因が不明の重症心身障害の状態で寝たきりの症例。胃瘻より、朝、夕は液体の流動食アイソカルサポート®(ネスレ日本)をそれぞれ150ml(225Kcal)、120ml(180Kcal)、昼に半固形の流動食アイソカルセミソリッドサポート®(ネスレ日本)200ml(400Kcal)を注入している。従前通りの注入のもと、メドトロニック社製iProII®を用いて、持続血糖モニター(以下、CGM)を行い、血糖値の変動を検証した。 結果 70以下を低血糖、140以上を高血糖として、24時間のうちで逸脱した時間の割合を見ると、観察した5日間の平均で、高血糖への逸脱が8.8%、低血糖への逸脱は認めなかった。半固形流動食を注入した後は血糖値の逸脱を認めなかったのに対し、液体状の流動食を注入した後、特に夕の注入後1時間ほどのところで、高血糖への逸脱を認めた。 考察 食後高血糖は、長期的には血管病変のリスクとして近年注目されている。今回、同じ製品で、液体と半固形という形態の違う流動食を併用している症例で、その血糖値の変動をCGMで検証した結果、半固形の形態では、多くのエネルギーを摂取しても血糖値の変動が緩やかであることが確認された。必要なエネルギーを、食後高血糖を避けながら摂取するためには、半固形化流動食の導入も有用と考えられた。今後さらに検討を重ね、長期的に安心な栄養管理につなげていきたい。
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石垣 英俊, 本橋 裕子, 竹下 絵里, 石山 昭彦, 斎藤 貴志, 小牧 宏文, 中川 栄二, 須貝 研司, 佐々木 征行
2017 年42 巻2 号 p.
203
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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背景 重症心身障害児者はQOLが向上し、日常の健康管理や感染予防の観点から栄養管理が重要視されている。しかし、患者毎の適正な摂取カロリーを定義することが難しく、客観的な指標による栄養評価が必要である。エアロモニタAE-310Sは間接熱量測定によって安静時呼吸の消費エネルギー(resting energy expenditure : REE)を実測し基礎エネルギー消費量を直接算出することができるため、スポーツ選手の運動負荷モニタリングや呼吸循環疾患、炎症性疾患患者の心肺機能評価等に応用されており、人工呼吸器装着下でも測定可能である。そこでわれわれは当院重症心身障害児者にエアロモニタAE-310Sを用いてREEの算出を行い、摂取エネルギー量や体格および体調の変化との比較検討を行ったので報告する。 方法 対象は当院大島分類1の脳性麻痺患者11名(男性4名、女性7名。14歳から48歳。人工呼吸器2名、喉頭気管分離術後8名。ボトックス注射2名)。エアロモニタAE-310Sを用いて安静時REE値を算出し、摂取エネルギー量と比較した。また感染症罹患の頻度、重症度により体調良好群と不良群の群間比較を行った。痙直型脳性麻痺2例ではボトックス注射前後で個人内のREE値の変化を比較した。 結果 当院脳性麻痺患者においてエアロモニタを用いたREEと摂取エネルギー量との間に差はなかった。また体調良好群と体調不良群では明らかな差はなかった。ボトックスを注射した2例については注射前に比べ注射後にREE値が低下した。 考察 エアロモニタAE-310Sは、重症心身障害児者の中でも気道がone wayであれば短時間に安定した算出値が得られ、繰り返し測定できるため、定期的な栄養評価において摂取エネルギーの定量やボトックスの治療効果の指標として活用が期待できる。
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池田 将巳, 徳永 大輔, 中村 薫, 伊藤 哲也, 影山 隆司
2017 年42 巻2 号 p.
203
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児者ではさまざまな理由により消化管機能異常を認める。今回、従来使用していた栄養剤を変更したことにより消化管機能の改善を認めることができたので報告する。 研究対象 当施設入所中で、経管栄養管理の6名。男性3名、女性3名。平均年齢46.4歳、横地分類1例A1-C、5例A1。先天性障害2名、周産期障害1名、後天性障害3名。経鼻経胃管栄養者4名、経鼻経腸管栄養者1名、腸瘻栄養者1名。抗てんかん薬内服者5名、下剤内服者3名、浣腸使用者5名。変更理由は、長期の難治性下痢を呈している1例、摂取カロリーが1000Kcal/日未満で付加食品を併用し微量元素を補充している5例。 方法、変更内容 栄養摂取内容変更前後3カ月間の排便回数と量・便性の変化、下剤・浣腸の使用頻度の変化、BMI・体重の推移を追跡調査した。エレンタール利用2名はペプタメンスタンダードとハイネイーゲルに変更。エンシュア、エネーボ、ラコール使用者4名はハイネに変更した。また、負荷食品として、だし汁、一挙千菜、GFOを使用していた。 結果 6例とも注入回数もしくは注入時間が減少。難治性下痢が持続し、完全消化態栄養剤より乳清ペプチド消化態栄養剤へ変更した症例では、水様便から泥状様へ変化し、血液データも改善した。その他の症例では、栄養バランスの改善のみならず、慢性便秘の改善や浣腸回数が減少した。また負荷食品の併用を中止できたことにより注入回数を減らすことができた。なお、体重、BMIの明らかな変動は認めなかった。 結語 注入内容の変更により栄養バランスの改善のみならず、下痢や便秘などの消化管機能の改善が認められた。注入時間の短縮や回数の減少により、日中活動の時間をそれまで以上に確保でき生活の質の向上にもつながった。
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−11年間の検討−
植村 篤実, 内山 伸一, 今井 一秀, 後藤 一也, 平松 美佐子
2017 年42 巻2 号 p.
204
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)は摂食機能とのかねあいで食事以外から栄養を摂取する必要が生じることが多い。その一つが経腸栄養剤の使用である。 目的 経腸栄養剤の使用割合と摂取方法の変遷を明らかにし、その原因や変化による影響について重症児者医療に特徴的なものについて検討する。 方法 2006年1月から2017年6月まで、当院重症児者病棟に入院していた患者の診療録から後方視的に各患者の栄養摂取方法を拾い上げ、経腸栄養剤摂取者の割合、摂取方法(胃瘻・腸瘻、経鼻胃管、経口)の変遷について調査・検討した。 結果 2006年1月には経腸栄養剤摂取者は入院患者の19.8%であり、その66.7%が経鼻胃管からの摂取であった。2010年には胃瘻・腸瘻からの摂取が経鼻胃管を上回るようになった。2017年6月には経腸栄養摂取者が入院患者126名中61名(48.4%)であり、内訳は胃瘻・腸瘻51名(83.6%)、経鼻胃管10名(16.4%)であった。近年、経鼻胃管を長期使用せずに胃瘻造設術を受けた患者が増加している。経鼻胃管を半年以上使用している場合の理由は、幼児で体格が小さく胃瘻造設の待機中5名、家族が胃瘻造設を希望しない2名、他施設・在宅から入院してきて間もない2名、であった。 考察 経腸栄養剤を使用している重症児者の増加の原因として、超重症児で経口摂取を経験(獲得)することなく生まれてからずっと経腸栄養で生活している患者や、以前は経口摂取が可能であったが加齢により摂食機能が低下した高齢患者が増加したことが挙げられる。 また、胃瘻・腸瘻を有する重症児者の増加の理由としては、重症児者を対象とした外科医療の発展により手術が受けやすくなったことが考えられる。
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−抗てんかん薬、経管栄養との関連−
大石 勉, 田村 えり子, 内山 晃, 大瀧 ひとみ, 白井 徳満
2017 年42 巻2 号 p.
204
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 てんかん患者は健常対照と比べて血清亜鉛濃度が低値を示すと報告されている。抗てんかん薬の長期投与や相対的栄養不良が原因と推測されているが詳細は不明である。重症心身障害者施設入所者の血清亜鉛濃度を測定し、抗てんかん薬や経管栄養との関連を検討した。 材料と方法 対象は当園入所者174名、職員47名を健常対照とした。血清採取は午前9−11時。亜鉛を比色測定法(アキュラスオートZn)で測定した。統計的方法はStudent's t-test、Pearson's chi-square test、ANOVAと多重比較である。 結果 入所者と職員の血清亜鉛濃度を比較した。2群間で年齢、男女比に有意の差はなかった。入所者の亜鉛濃度は65.4±11.0 μg/ml (mean±SD) で職員の80.0±7.0 μg/ml と比べて有意の低値を示した(両側検定p=0.000)。入所者を抗てんかん薬使用の有無で比較した。抗てんかん薬使用者は63.3±11.1 μg/mlと無使用者の69.0±9.9 μg/ml と比べて低値を示した(p=0.003)。経管栄養施行の有無で比較すると経管栄養者は62.0±12.6 μg/mlで無施行者の67.0±9.9 μg/ml と比べて低値を示した(p=0.018)。さらに入所者を抗てんかん薬の有無と経管栄養の有無で4群に分類し、対照と合わせて多重比較を行うと対照は入所者4群すべてに対して有意の高値を呈し(p=0.000)、また4群内では抗てんかん薬・経管栄養ともに有の群のみがともに無の群に対して有意に低値であった (p=0.001)。 考察 施設入所者の血清亜鉛濃度は抗てんかん薬や経管栄養の有無にかかわらず健常対照と比べて有意に低値であった。長期間の栄養制限の関与が推察された。抗てんかん薬と経管栄養の共存は有意に亜鉛濃度を低下させると考えられる。低亜鉛血症がてんかんの原因か否かは今後の検討を要する。 結論 入所者は対照と比べて有意に低い血清亜鉛濃度を示した。抗てんかん薬投与と栄養摂取の偏りの関与が考えられる。
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西田 明美, 宮本 めぐみ, 宮崎 ひさみ, 新塘 久美子
2017 年42 巻2 号 p.
205
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 在宅で過ごす重症心身障がい児(者)(以下、重症児(者))に対する経管栄養がその重症児(者)にとって妥当なのか評価が難しい。先行研究では、経腸栄養剤はそれぞれ含有する栄養素が異なり、選択によっては微量栄養素の欠乏が起こり得ることがあげられている。当施設利用時のある重症児と接した際に、爪床の所見からセレン欠乏を疑い、セレン値を測定した。今回当施設通所中の重症児(者)の栄養評価を行ったので報告する。 方法 1. 研究対象者:2歳から27歳の当施設通所中の重症児(者)18で超重症児(者)10名、準超重症児(者)7名、経管栄養児(者)1名。疾患は脊髄性筋萎縮症1型、福山型先天性筋ジストロフィー、ウィルス性脳炎後遺症、染色体異常等。 2. 当施設通所者各々の1日の栄養を把握し、家族と相談しながら通所時に朝からの注入をセレン含有量の多い煮干し・かつおだしを含む味噌汁へ変更。味噌汁は当施設でだしを取っている。定期的に採血(セレン)を行う 3. 本研究は当施設の倫理委員会の承認を得て実施した。 結果 初回測定結果セレン値(正常値10.6〜17.4μg/dl)は8.0μg/dl未満は5人、8.0〜10.5μg/dlは5人、10.6μg/dl以上は1名でほとんどが低値であった。注入後約2カ月で8.0μg/dl未満は1名、8.0〜10.6μg/dlは1名、10.6以上μg/dlは2名とセレン値が上昇し、爪床の所見の改善も認められた。 結論 経管栄養だけでなく経口からミキサー食を摂取している重症児(者)のセレン値も低かった。セレン値が正常範囲である重症児(者)も含めて家族に煮干し・かつおだしを提案し、当施設での水分を味噌汁へ変更した。セレン値測定により自宅でのだしやミキサー食を試す家族が増えた。当施設利用者の10名がセレン欠乏を認め、通常の食材でのセレン補充で効果を認めたので報告する。
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徳光 亜矢, 斉藤 剛, 岩佐 諭美, 鳥井 希恵子, 竹田津 未生, 林 時仲, 楠 祐一, 岡 隆治, 平元 東
2017 年42 巻2 号 p.
205
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児(者)の低蛋白血症は、慢性炎症や腸管の吸収不全など種々の原因によって生じ、治療に難渋することも多い。われわれは、分岐鎖アミノ酸高配合の栄養補助食品による補食が無効であった低蛋白血症の重症心身障害者に、中鎖脂肪酸(以下、MCT)オイル85%配合のマクトンオイルを使用し、低蛋白血症の改善をみた。 症例 67歳男性。低酸素性虚血性脳症による痙性四肢麻痺で、大島分類は9。抗てんかん薬は内服していない。食事は経口摂取で1400kcal/日(主食150g、蛋白60g、脂質44g)、喫食率は3/4〜全量、体重は40kg前後だった。本年2月、1.2kg/月の体重減少と四肢の浮腫が出現、血液検査で総蛋白値(以下、TP)5.2g/dl、血清アルブミン値(以下、Alb)2.0g/dlと低蛋白血症が判明した。炎症所見はなく、尿蛋白陰性であった。元来腸管の動きが悪く、連日浣腸で泥状便を排出しており、腸管の吸収不全による低蛋白血症と考えられた。2週間後、TP4.8g/dl、Alb1.7g/dlと低蛋白血症はさらに悪化し、分岐鎖アミノ酸高配合の栄養補助飲料を2種類、各2週間ずつ補食した(いずれも200kcal、蛋白6.5gと8.0g)。しかし摂取を嫌がる上、低蛋白血症も改善せずこれらを中止し、マクトンオイルを毎食10ml食事にかけて摂取するようにした(1643kcal/日、うちMCTオイル206.7kcal)。徐々に浮腫が軽減し、4週間後血液検査でTP5.9g/dl、Alb2.4g/dlと改善がみられた。 考察 MCTは小腸で吸収され門脈を経由し肝臓で分解され、体に蓄積せず短時間でエネルギーとなる。アミノ酸分解抑制作用や蛋白質合成促進作用があり、グレリンを活性化することでIGF-1を介し蛋白合成を亢進させる可能性も示唆されている。これらの作用が低蛋白血症を改善させたと考えられた。またマクトンオイルは無味無臭に近く、本人に負担なく摂取できた。 結論 腸管の吸収不全が基盤にある重症心身障害者の低蛋白血症の改善に、MCTが有効である可能性がある。
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吉田 彩子, 影山 さち子, 平尾 準一, 吉原 重美
2017 年42 巻2 号 p.
206
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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人口の急速な高齢化に伴い骨粗鬆症患者が増加し、それに伴う骨折対策が注目されている。重症心身障害児(者)の高齢化も進んでいるが、骨粗鬆症の状況の知見は少ない。今回、重症心身障害者の骨密度を測定し、骨粗鬆症と関連する要因につき種々の検討を加えたので報告する。 対象および方法 NHO宇都宮病院に入所中の大島分類区分1〜5に該当する40歳以上の女性16例 (年齢42〜60歳 、内閉経者は7例 (43.8%))につき、腰椎L.234または大腿骨近位部を用いたDXA法にて骨密度を測定した。さらに、MAS (Modified Ashworth Scale) 筋緊張評価スケールを用い下肢 (膝の伸屈) の緊張を評価し、骨密度と筋緊張の関係も比較した。 結果および考案 1) 骨密度の平均値は0.602 g/cm2、同年代と比較した平均値は64.2%、YAM(若年成人平均値)の平均値は60.0 %。骨粗鬆症は12例 (75%)だった。2) 月経との関連は、閉経群は高齢で、YAMが低く、骨粗鬆症合併率が高かった。3) 骨粗鬆症群は高齢で平均YAM値が低く、骨折の合併頻度が高かった。4) MASで分類すると、筋の緊張が強いほどYAMは高く、骨粗鬆症と骨折の合併率は低かった。5) 骨折の有無の比較では、骨折群は高齢で、平均YAMが低く、BMIは高値であった。6) 抗けいれん薬の内服数と、骨粗鬆症および骨折の関連は、骨折のない骨粗鬆症例(6例)や骨粗鬆症のない例(4例)に比べて、骨粗鬆症と骨折合併例(6例)は内服数が多かった。 7) 障害度で比較すると、大島分類1の11例でYAMが有意に低かった。しかし、筋緊張が高く運動が可能であれば骨粗鬆症と骨折合併頻度は低かった。8) 7) で示した結果から、骨粗鬆症と骨折の予防対策として、運動能力を低下させないためのリハビリテーション活動の重要性を再確認した。
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山本 崇裕, 久保田 一生, 川合 裕規, 川本 典生, 木村 豪, 西村 悟子, 深尾 敏幸
2017 年42 巻2 号 p.
206
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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緒言 重症心身障害児の多くが胃食道逆流症(GERD)を発症し、疼痛や不快感に伴う緊張亢進、誤嚥性肺炎などの悪循環に陥ることが多い。経腸栄養剤の投与法の調整、制酸剤や緊張緩和のための薬物療法などが試みられているが、必ずしも症状の改善につながらないことがある。われわれはGERDにより、頻繁に血性胃残液がみられた脳性麻痺児に対し、アリピプラゾールの内服治療を行い著明な症状の改善を得られた症例を経験した。 症例 18歳男性。知的障害を伴う混合型脳性麻痺を呈しており、嚥下障害のため胃瘻造設を受けていた。15歳頃から栄養剤注入前の胃残液に血液の混入が頻繁にみられるようになった。注入時は苦悶様の表情を呈し、多量の流涎が見られた。上部消化管内視鏡検査を行い、食道に発赤、線状びらんを認めた。栄養剤の注入時間の調整、プロトンポンプ阻害剤の内服、半固形栄養剤の導入を行ったが症状は改善しなかった。続いて経胃瘻的空腸瘻チューブを用いた栄養管理を試みたが、かえって経管栄養中の不機嫌、緊張が亢進し、血性胃残液が持続したため中止とした。栄養剤の注入時に児のストレスが増強すると考え、起床前、就寝後に栄養剤の注入を行い、昼食時は半固形栄養剤を注入するように調整したところ、頻度はやや減少したものの夕方の胃残液にはほぼ毎日血液の混入が続いた。児は特定の人以外に対して緊張が強く、限定された興味・関心を示すなど自閉スペクトラム症(ASD)の特性を有していた。児の強いストレスがASDに起因すると考え、アリピプラゾールの内服を開始したところ、緊張が緩和し、血性胃残物は著明に減少した。 考察 発達障害の特性をもつ重症心身障害児は少なくない。重症心身障害児の症状は多彩であるが、時に対症的な治療のみでは症状の改善を得られないことがある。発達障害特性を観察し、その特性に応じた介入を行うことが重要であると考えられる。
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安東 里真, 奥村 啓子, 依藤 純子, 小川 勝彦, 伊藤 正寛, 高野 知行, 山崎 正策
2017 年42 巻2 号 p.
207
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重度の知的障害者の6-10%が、一度嚥下した食物を口腔内に戻して再度嚥下するという反芻を呈するとされている。当センターで反芻により誤嚥性肺炎を繰り返した症例に選択的セロトニン阻害剤(SSRI)が有効と考えられたので報告する。 症例 症例は58歳の男性。障害原因は不明で、生後1歳時よりけいれん発作を認めるようになり、同時にそれまであった発語は消失し、多動も出現した。5歳より当センターへ入所中。運動麻痺はなく、最重度の知的障害と強度行動障害のため現在は閉鎖病棟へ入所している。てんかん発作は5年以上認めていない。33歳ごろより反芻が出現し、胃内視鏡検査や食道造影検査では胃食道逆流症、裂孔ヘルニアを認めたため、PPI剤のみ内服していた。繰り返す反芻・嘔吐による誤嚥のためと考えられる発熱の頻度が増加したので、51歳時より食事は濃厚流動食のみとなり、一時期発熱の回数は減っていた。57歳時に左気胸を発症し、その後も繰り返したが、根治術は強度行動障害もあり、入院など安静困難なため保存療法のみとなっている。胸部CT検査では誤嚥性肺炎の頻発による炎症性変化と気胸による器質的な変化は著明であり、食道の拡張を認めた。今後の呼吸障害の発生を予防するためにfluvoxamineの投与を25mgより開始し、2カ月後には100mgまで漸増し、1年間内服を継続し、反芻・嘔吐の回数の減少と発熱による抗生剤の使用も減少している。 まとめ 繰り返す反芻・嘔吐による誤嚥性肺炎に対して、fluvoxamineの内服にて発熱・抗生剤の使用回数の減少がみられた症例を報告する。
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冨永 惠子, 福水 道郎
2017 年42 巻2 号 p.
207
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 重症心身障害児(者)は症状を訴えることができないため、特に消化器疾患では痛みの有無さえ分からず重症化することが多々あることはよく知られている。今回、原因不明の急性膵炎を繰り返し約2年後にカルバマゼピン(CBZ)による薬剤性膵炎の診断に至った症例とその症例の経験からCBZ投与開始から6年後に発症したCBZによる薬剤性膵炎と診断された症例を紹介する。 症例1 62歳女性、臍帯巻絡による新生児仮死により重症心身障害者となった。てんかんに対し32歳よりCBZの内服が開始された。56歳時に急性膵炎(P-アミラーゼ3770U/L リパーゼ18646U/L)を発症し加療にて軽快。胆道系等原因精査するも急性膵炎の原因は不明で経過。その後アミラーゼ(AMY)の上昇のみのものを含め7回の急性膵炎を繰り返し56歳時の急性膵炎発症時にCBZによる薬剤性膵炎を疑いCBZを漸減中止。その後、急性膵炎の発症は認めなくなった。 症例2 44歳男性、5歳時の頭部外傷により重症心身障害児となった。30歳時にバルプロ酸(VPA)による薬剤性膵炎の既往ありVPA投与は中止され34歳時にCBZの投与が開始された。41歳時に急性膵炎と診断されたが胆石の合併や胆管系の異常なくCBZによる薬剤性膵炎を疑いCBZを漸減中止。急性膵炎は軽快した。 考察 VPAによる薬剤性膵炎はよく知られているが、CBZによる薬剤性膵炎の報告は少ない。今回の症例はいずれも数年に渡り投与されたCBZによる薬剤性膵炎の発症という特徴がある。また症例1については腹痛の有無が分かり難く筋性防御所見も不明瞭であり、さらにp-AMYの上昇はあるが腹部CTにて膵臓の腫大を合併しないときがあったことが、より診断を困難にした要因と思われた。
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福水 道郎, 永田 仁郎, 冨永 惠子
2017 年42 巻2 号 p.
208
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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緒言 動く重症心身障害児者(以下、重症者)は、興奮や行動障害、てんかんのためさまざまな抗精神薬、抗てんかん薬等が投与されている。加齢とともに症状が落ち着いた後も症状再燃の恐れから薬剤・用量の見直しがなく、長期に継続投与されていることも多い。今回消化器合併症の増加から副作用軽減の目的でこれらの減量・中止を試みたので報告する。 対象 動く重症児者男性病棟でてんかん発作や精神症状があり中枢神経系用薬内服中で、症状が比較的安定している平均年齢55歳の男性12例、以前は全例経口食事摂取。全例に便秘があり、イレウスやS状結腸軸捻転などの消化器疾患既往例も4例あった。外科的には1例がS状結腸軸捻転を繰り返し、偽性イレウスの診断で結腸亜全摘術+人工肛門造設術を受け完全経管栄養、1例が完全脱出傍食道型食道裂肛ヘルニア、胆嚢内胆石で胆嚢摘出術、胃瘻造設術を受け、経口・胃瘻併用。他にEDチューブによる完全経管栄養1例、胃管による完全経管栄養1例があり、他8例は現状経口摂取。抗てんかん薬としてはカルバマゼピン(CBZ)、抗精神薬としてはブロムペリドールを主なターゲットとした。 経過 CBZ中止した例が5例、減量例は6例、クロナゼパム(CZP)減量は3例、クロバザム減量1例、ブロムペリドール中止2例・減量3例であった。全例中枢神経症状の悪化はなく、活動性・覚醒度はCBZ減量2例で明らかに向上し、うち1例は誤嚥によると考えられる発熱が消失した。便秘もほとんどの例で改善し、ピコスルファートNa使用例では完全中止が4例で可能であり、残り4例全例で便秘時投与に変更できた。 考察 重症者の消化器合併症は重篤で生命予後に直結し、薬剤による偽性イレウスと考えられる例も潜在的に多いと考えられる。CBZやCBZ+CZPは便秘が多いとの報告や抗精神薬によるイレウス反復の報告もあり、今後は長期の投薬を見据え、消化器系副作用にも特に配慮した中枢神経系用薬投与が必要である。
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−停電を想定した家族への非常電源確保の指導−
國本 純子
2017 年42 巻2 号 p.
208
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 東日本大震災以降、在宅人工呼吸器装着児者に、東京都から非常用電源設備整備事業として発電機または外部バッテリーが支給された。災害対策として緊急連絡先の確認や必要物品の確認、避難場所の確認の指導は行ってきたが、災害訓練を行う機会がなかった。今回、人工呼吸器装着児者とその家族3事例に災害訓練を実施したので報告する。 目的 在宅で防災訓練を実施し、家族の災害時対応力が向上する。 方法 停電想定の緊急時対応パンフレットを作成後、対象3事例に訓練の流れを説明し、実施した。人工呼吸器の電源を切り、外部バッテリーの作動確認、酸素ボンベに切り替え、呼吸状態の観察およびモニターの観察、アンビューバックの準備、吸引器の作動確認後に発電機の作動を屋外で行った。 結果 3事例とも家族は冷静に訓練に参加できた。人工呼吸器やアンビューバック、吸引器などは利用者の周囲に設置されており、作業に無駄がなく短時間で外部バッテリーの切り替えが確認できた。利用者の呼吸状態にも変動はなかった。 発電機には作動手順が数字や絵で分かりやすく表示され、初めてでも簡単に準備ができたが、ガスボンベから発電機へのガスの充填にしばらく時間がかかり、5回以上のレバーの引き上げが必要であった。また、発電機の重量は19.5kgであり、キャスターがあるとはいえ移動には力が必要であり、介護者一人での停電対応は負担となった。 まとめ 東日本大震災以降、家族が自ら訓練されている家庭は少なかった。今回の訓練で、酸素濃縮器や吸引器等の内部バッテリー作動時間、外部バッテリー保有数、発電機作動後の充電機器の優先順位や設置場所等の確認が出来た。今回は3事例であったが、家族の危機管理意識向上への足掛かりになるとともに、日頃からの整備点検も必要なことが明らかになった。今後も家族の災害時対応力が向上し、実動できるように災害訓練を計画的に実施していく予定である。
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林 しのぶ
2017 年42 巻2 号 p.
209
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 施設Aは、超重症児の子どもが7割近くを占めており、出生後自宅で生活をしたことがない子どもは9割近くに及ぶ。さまざまな問題から在宅移行は難しく、愛着形成や子どもの成長に影響を及ぼす可能性がある。そのため、家族とともに過ごす時間を大切にすることを目的とした院内外泊への意向について調査した。 目的 院内外泊に対する家族の意向を明らかにする。 研究方法 対象:契約入所児26名の家族。 方法:院内外泊に対する質問紙を作成し、回収後データの記述統計の実施。 期間:倫理委員会承認後から2017年3月31日 倫理的配慮:院内倫理委員会の承認後、研究の主旨について文章にて説明し同意を得た。 結果 配布家族26件のうち回収数は17件(65.3%)であった。「院内外泊の希望の有無」については、「院内外泊を行いたい」が7件、「希望しない」は5件、「どちらとも言えない」が4件であった。「どちらとも言えない」と回答した中で全家族が「不安が解消できたら院内外泊を行いたい」と答え、全体で「院内外泊を行いたい」家族は、11件(69%)という結果となった。院内外泊に対する不安として「他のきょうだいのこと」が最も多く、「医療的ケアができないこと」「費用の問題」も不安要素として挙げられた。 考察 質問紙調査より、院内外泊を希望する家族が約70%を占めていた。院内外泊を行うにあたりさまざまな不安を抱えていることが明らかになった。不安の内容としては「他のきょうだいのこと」と答えた家族が多い結果となり、きょうだいも一緒に泊まることができるシステム構築が必要であると示唆された。 結論 院内外泊を希望する家族は、何らかの不安を抱えていることが明らかになった。一つとして同じ家族がないように、家族の希望に寄り添った院内外泊のシステム構築をしていきたい。家族の希望に寄り添った院内外泊支援を行い、新しい家族の形ができることを期待する。
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−児と過ごす空間・時間を提供して−
間島 真紀子, 阿部 綾子, 佐藤 純子, 土井 恵子
2017 年42 巻2 号 p.
209
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 当院の重症心身障がい児病床では、構造上ベッドサイドでの家族面会が主であり、医療機器の操作音等の雑音は避けられない。そこでスヌーズレンを導入、プレイルームで母親と児が落ち着いて過ごす空間・時間を提供し、母親の心境がどのように変化するのか調査した。 方法 1.期間:2015年8月〜12月 2.対象:長期入院中の重症心身障がい児(3〜16歳)7名の母親 3.方法:障害児を育てる親のストレスが測定できるQRS簡易版(稲浪他1994)を用い、スヌーズレン施行前後の各尺度得点(0〜10点)を測定し比較検討した。スヌーズレンは1人1時間以上で4回施行した。 結果 7名の母親におけるスヌーズレン施行前後の各尺度の差はすべて1点以下であり、大きな差はみられなかった。しかし、スヌーズレン施行後のアンケートでは、児の成長を実感し、隣で寝ることへの幸福感や、目の動き・空腹感等の小さな変化を感じ、また、重症心身障がい児となった経緯を同胞が興味を持つ等、母親の心境に変化が見られた。 考察 スヌーズレン施行前後で大きな差がみられなかったのは、出生時からの母子分離や将来への不安、在宅療養が出来ない心理的葛藤、同胞との絆・関係性等、長年抱えているストレスが強く関与しているものと推測された。 スヌーズレン施行後の母親の感想から、隣で寝ることで、わが子を身近に思い、成長を実感し、幸福感を得られたのではないかと考える。また家族も一緒に過ごすことで、児との絆が深まり、家族の一員として認識できるきっかけになったと思われる。このような母親の心境変化は、落ち着いた環境の中でこそ得られた感覚であり、スヌーズレンの導入が、母子にとって貴重な時間と空間になったものと推測された。 結論 スヌーズレン施行前後の母親のストレスに大きな差はなかった。しかし、母親と児が落ち着いて過ごす空間・時間を提供することは、母親の心境変化や、家族機能の構築にも好影響を及ぼすことが示唆された。
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−就学前の児をもつ母親の面接を通して−
梅田 可愛, 成澤 まゆみ, 鈴木 絵美
2017 年42 巻2 号 p.
210
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 近年、小児在宅医療は低年齢化、重症化の傾向にある。障害のある子どもをもつ母親は、育児に加えて医療的ケア等、気が休まらない生活を送っている。就学前の児をもつ母親の潜在的ニーズを明らかにし家族支援の在り方を考える。 方法 就学前の児をもつ母親5名より、半構造的面接を行った。データ分析方法は、遂語録を作成し、文脈を考慮してコード化し、カテゴリ化した。 倫理的配慮 倫理委員会の承認を得た。 結果 母親の潜在的ニーズとして16のサブカテゴリ< >から6のカテゴリ【 】を抽出した。【肯定的な姿勢と理解】は<気持ちを汲み取り寄り添う関わり>。【医療者の質の向上と誠実な看護】は<医療者のスキル向上><家族が療育できる支援>。【丁寧でわかりやすく優しい医療】は<家族に合った在宅移行支援><家族が現状を受け止められる説明><重症心身障害児にとって最も良い医療を話し合える体制>。【安心して眠りたい】は<母親の睡眠確保>。【個別性のある支援体制】は<重症心身障害児だけで安心して通学できる体制><分かりやすい制度・柔軟で個別性のある行政の対応><訪問看護の経営システムの改善>。【ゆとりある生活時間の保障】は<安心できるレスパイト><母親の心の余裕がもてる支援><仕事ができるような体制づくり>。 考察 1 母親の揺れ動く心理過程を理解し、気持ちを汲み取り、寄り添う関わりを継続していくことが重要。 2 就学に対する不安が大きい面もあることを理解し、支援を継続していく必要。 3 それぞれの家族の現状に合った柔軟な支援体制を構築することが必要。 結論 母親の潜在的ニーズとして「肯定的な姿勢と理解」「丁寧で分かりやすい優しい医療」「医療者の質の向上と誠実な看護」「安心して眠りたい」「個別性のある支援体制」「ゆとりある生活時間の保障」が明らかになった。母親の心理過程を理解し、待つ・見守る・導く、寄り添う支援が重要である。
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佐藤 静江, 藤木 弘美, 釘宮 千鶴, 倉本 恵子, 林 直見
2017 年42 巻2 号 p.
210
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに 中途障害児のA氏の母は、異常に気付くのが遅れたことなどで児への自責の念をもっており、泣く・手の振戦・幻覚などの不安症状が見られていた。しかし、不安症状がある中でも家に連れて帰りたいという思いで、医療ケアを習得し外泊することができ、母の不安症状も徐々に軽減していった。 そこで今回、これまでの支援を振り返り、障害受容過程を考察する機会を得たので報告する。 対象 急性脳症後遺症で自発呼吸のないA氏7歳の母。倫理的配慮として、当施設の倫理委員会の承認を得た。 経過 発症3カ月後に入所となり、発症4カ月までは、泣くことも多く「私のせいです」と自分を責める状態であった。反面、「いろいろ教えてほしい」という思いに対し、日常的ケアを一緒に行い、母の言動には聞く姿勢で向き合った。発症5カ月には、抱っこの希望を叶え、本の読み聞かせや手浴など、自ら行うようになっていた。 発症7〜10カ月、笑顔が見られるようになったが話していると泣くこともあった。家に帰りたいという思いを確認し、医療ケアを指導していった。その後も、散歩や行事参加の希望に答えた。 発症15カ月には医療ケアを習得し、外出で自宅に帰ることが出来た。また、同室者の母と楽しそうに話をし、泣くこともなくなっていた。 発症27カ月には念願の外泊ができ「一緒に過ごせたのでよかった」と話した。 考察 入所後、早い段階での前向きな発言から、入所を機に母の心情に変化があったといえた。また、母の思いを聞きケアを一緒に行い、希望が叶っていく中で母の様子も変化していった。母の変化はドロータ−の障害受容の段階説でいう、ショックから徐々に適応に移っていったといえた。ケアを行い、思いが叶うことで、母としてできる子育てを実感し、障害受容の過程を進める契機となったと考えられた。障害受容過程において支援者は、会話を重ね、母の思いを傾聴し、希望に沿った支援を行うことが大切であると考えた。
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諏訪 亜季子
2017 年42 巻2 号 p.
211
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 重症心身障害児(者)と暮らしながら高齢者家族等の多重介護を担っている、もしくは担った経験者から多重介護の実際を聞き取り、その実態を明らかにすることである。 方法 研究デザインは質的帰納的記述研究で、研究協力者の選出は、当該県で活動している支援グループのリーダー等に紹介を依頼し、本研究の趣旨を研究者が口頭で説明し同意を得た。また、研究協力の条件として、現在多重介護を必要とする家族の病状が安定していることを加え、以上に合致した方を研究協力者とした。半構造的面接の内容は、フェイスシートとインタビューガイドに沿って実施した。分析は、逐語録から意味内容の類似性に従って分類し、主題が明らかになるまでカテゴリーを統合し、それを体系的にまとめた。なお、所属機関の倫理審査委員会の承認を得た後調査開始した。 結果 研究協力者は 50代もしくは60代の重症心身障害児(者)の母親10名、面接録音時間は23分から74分であった。我が子以外の被多重介護者との関係は、実夫母もしくは義父母が9名で配偶者が1名であった。 研究協力者たちは、「我が子を育ててきたら、介護の専門家になってしまっていた」と、自らの巧みな技と知識を活かして、「我が子を育ててきた経験が活かされるとき」と、「いつも時間に追われながら」フレキシブルに「できることを引き受けて」いた。 しかし、孫が「犠牲になる」と被介護者が遠慮したり、親族から「あなたには無理」と言われ、在宅で最期まで看取ることを断念し、「未だに後悔している」「さんざん子育て手伝ってもらって、何の恩返しもできなった」と後悔や自責の念を残していた。 考察 母としての育ててきた経験を生かして、娘としての役割を果たそうとする多重介護者の心情を汲み取り、支援制度の枠を超えて家族システム全体を見据えた調整・コーディネートと、地域特性に応じた支援レジームの構築が必要であると示唆された。
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近藤 正子, 船戸 正久
2017 年42 巻2 号 p.
211
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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はじめに NICUや小児病棟に入院している重症心身障害児者の在宅移行支援を開始し、これまでに32名が利用し26名が在宅移行している。昨年より開催している在宅移行した家族の交流会の様子や終了後のアンケート内容を報告する。「ぴかぴか・ぷちとまとの会」の由来は、「どの子もその家族も自分らしく輝けるように」と、「大きくなるのに自分の幹太くするのではなく、他のモノを支えにして成長し、小さくても元気な赤い実をつけるとまと。在宅で頑張っている子どもたちもたくさんの支えの中で元気に育っている」である。 内容 参加は在宅移行した26家族のうち14家族で、本人14名とその家族35名(内きょうだい11名)で、スタッフは、医師・看護師・リハスタッフ・臨床工学士・ホスピタルプレイスペシャリスト・医療ソーシャルワーカー等30名であった。 今年は、昨年のアンケートの「お話がしたい」、「テーマを決めて意見交換」等の内容より、事前に聞きたいことを募集してグループで意見交換会を実施した。グループには進行と記録として職員も参加した。事前に聞きたいことの内容をまとめると、ケアに関するアイデアグッズ、家に帰って生活してみて気付いたこと・少し大変だったこと、次子出産時どうだったか、きょうだいとの関わり、家族旅行へ行くときに気を付けること、就学準備・生活、災害時の対策という内訳になった。意見交換の時間を30分ほど設けたが、家族もスタッフも良かったが時間が足りなかったとの意見が多かった。他にも自由交流時間も設けた。 交流状況は、「新しい人とはできなかった」が1名、「連絡の交換は出来なかった」が7名であった。今後在宅移行の方へのピアサポートは全員が「OK」という結果であった。 まとめ この会を通して、いろんな話ができる場所がある、役に立ちたい、情報を知りたい、仲間を作りたいという家族の思いが伝わり、さらに希望を聞きながら家族と共に発展できればと考えている。
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−求人広告費ゼロで療法士を確保する!−
小松 真一, 原田 隆之
2017 年42 巻2 号 p.
212
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 主として、重症心身障がい児を対象とする児童発達支援・放課後等デイサービス(以下、重症児デイ)においては、許認可に療法士の配置が義務付けられている。しかし、小児領域の療法士は少なく、人員配置に苦労する事業所が多い。一般社団法人Re Smile(りすまいる)では開所以来、求人広告費を掛けずに療法士を常時配置し、現在3カ所の事業所を展開する中においても、安定して療法士を確保できている。その工夫を紹介し、全国の重症児デイにおける療法士確保の一助となることを目的とした。 方法 多くの事業所では、管理者と児童発達支援管理責任者を兼務するが、りすまいるでは、2カ所の事業所でPTが管理者を兼務し、医療的ケア児のみを対象とした1カ所の事業所では、看護師が管理者を兼務している。また、非常勤の療法士は、クリニックや養成校に所属する者がシフトを組んで各事業所に勤務し、当施設の常勤療法士もクリニックや養成校に非常勤として勤務し、お互いを補完している。さらに、養成校からの実習生の受け入れや、定期的な勉強会により、教育・啓蒙にも力を入れている。 結果 専門職が管理者を兼務することで、各施設の特色が活かされ、職員にも責任感と同時にやりがいにもつながっている。また、管理者兼務により給与面にも配慮が可能となった。小児リハビリに敷居を感じる療法士が多い中、非常勤から始め、常勤療法士が指導することによって、その後の常勤療法士確保につながり、現在はPT・OT・STを安定して配置できている。 結論 小児分野を専従とするPTは、日本理学療法士協会(2014年6月現在)によると、93273名中1045名(約1%)とわずかである。この中から 療法士を確保するのは難しく、今回は新たな方法を提示した。福祉サービスにおける地域特性はあるが、少しでも参考となれば幸いである。われわれもさらなる改善を模索し続け、社会への発信を続けたい。
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原田 隆之, 小松 真一
2017 年42 巻2 号 p.
212
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
フリー
はじめに 平成24年度に児童福祉法が改正され、障がい児通所事業である児童発達支援・放課後等デイサービス(通所事業)が開始された。その中でも、主たる対象が重症心身障がい児(以下、重症児)とする通所事業(重症児デイ)では、医療的ケア児も多く利用し、発作がある児(発作児)、全身状態が不安定な子も多い。そのため、急な休みになることも多く、経営面に与える影響も大きい。 今回、急な休みの場合に算定される欠席時対応加算の対象者(欠席児)の傾向と、経営面に与える影響を検討したので、報告する。 対象と方法 対象は、当法人が運営する2カ所の重症児デイの利用児とし、A事業所25名、B事業所24名とした。方法は、平成28年4月〜平成29年3月までの利用回数、欠席時対応加算回数(欠席数)、欠席理由等について調査した。また、調査にあたり、個人が特定出来ないように配慮した。 結果 欠席児の特徴として、医療的ケア児で1.26倍、発作児で1.04倍欠席数が多かった。また、欠席理由としては、体調不良(発作を除く)が一番多く占めていた。欠席児対応加算が与える経営面の影響として、A・B事業所で年間6,926,039円の影響があった。 考察 今回の結果では、医療的ケアと発作の有無で大きな違いはなかったが、欠席理由としては、体調不良が多くを占めていた。突然の欠席を防ぐのが難しい理由として、重症児の特性でもある全身状態が不安定であることが考えられた。重症児デイでは、看護師、療法士等の有資格者を配置するため、人件費の面においても、一般の通所事業と比べて負担が大きい。制度上、重症児デイは一般の通所事業と比べて、基本単価が高く設定されているが、欠席時対応加算の単価は同じであり、経営面に与える影響は大きい。 今後、欠席時対応加算を含めた報酬単価の配慮の要望と、欠席時の児童・家族支援を検討していく必要性が考えられた。
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杉本 実季
2017 年42 巻2 号 p.
213
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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はじめに 障害者虐待防止法において、正当な理由なく障害者の身体を拘束することは身体的虐待に該当すると明文化された。A施設では自己による擦過傷を防ぐためにミトンを使用している。しかし、その選択は根本的な解決となっていないと考える。職員それぞれの身体拘束についての知識と意識を調査し、その考察から共通認識へつなげ、職員が身体拘束について見直す契機とする。 方法 対象は看護職員22名と生活支援員7名の計29名。アンケート調査で各項目の記述統計量を算出し、自由記述欄は質的分析。 結果と考察 アンケート回収数は26名。知識における主な結果内容は、身体拘束が緊急やむを得ない場合を除き禁止されていることを「知っている」者が25名であったが、緊急やむを得ない場合に該当する3要件(一時性、切迫性、非代替性)について「知っている」者は8名のみであった。さらに、ミトンの使用が身体拘束にあたることを23名が「知っている」という結果であった。意識における結果内容は、病棟の利用者にミトンを使用することに「抵抗を感じる」と答えた者が最も多く19名であった。また、現在病棟でなされている利用者のミトンを外せるかとの問いには「場合によって外せる」と答えた者が最も多く23名であった。結果より、ミトン使用が身体拘束になることを知っている者は多く、また「場合によっては外せる」と考えている者も多いことがわかる。それらのことから、職員間で他の方法を検討する機会を設けることによって、自傷防止のためという認識でミトンを使用している現状を変えていくことが大切であると考える。 結論 ケースを分析・アセスメントし、利用者の課題についての考えを、職員が言葉で伝えあい、共通認識を作り上げて、ミトンに代わるより良い対策をとっていくことが必要である。また、ミトン使用において3要件を確認し合うことで職員の心理的負担の軽減が図れる可能性があると言える。
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長江 秀成, 栗田 和洋, 別府 玲子, 鈴木 昌代
2017 年42 巻2 号 p.
213
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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重度障害児教育では適切な医療的ケアを提供し、安心して教育を受けられる環境作りが教育現場で求められる。2012年の介護福祉士法改正で特別支援学校においても研修を受けた教員の在籍などを条件に「特定行為事業者」として登録し、喀痰の吸引等が実施できることになった。さらに、診療報酬上でも2012年4月に「介護職員等喀痰吸引等指示料」が新設され、従来は患者や医療機関の負担であった指示書等の文書料が診療報酬で支払われることとなった。今回この制度の特別支援学校における利用状況を調査した。 方法 全国の都、府、県の教育委員会へアンケート調査を実施し、全国の特別支援学校の特定業務事業者の登録状況を調査した。 結果 特別支援学校が特定行為事業者に登録している県は26県、登録していない県は18県、不明は3県で、やはり制度が十分に利用されているとは言えない結果であった。登録している県のほとんどで教育委員会が登録研修機関となっており、県を挙げて制度へ取組む姿勢がうかがわれた。登録した理由として、看護職員が医療的ケアを行うことが前提としつつも「教員が医療的ケアを行うことで、自立活動の指導がしやすくなり、児童生徒の教育の充実につながるため。」という意見があった。一方で、登録していない県では、その理由として「配置された看護師が医療的ケアを行う。」というものがすべてであった。 考察 結果から、制度を利用している県とそうでない県では、医療的ケアに対する考え方に相当な違いがあることがわかった。「専門職に任せる」といった考えを否定するものではないが、喀痰吸引の知識、技術も教員のスキルの一つではないだろうか。また、制度を利用することで、患者負担の軽減につながると同時に、連携する医療機関においても診療報酬が算定できるなど、コスト面からも有用な制度であり、研修期間や費用の適切化など、積極的な取組を促すシステム作りが必要と考えられた。
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−重症心身障害児者対応を中心に−
横井 圭子, 麻生 幸三郎, 三浦 清邦, 山村 みどり, 東川 あゆみ
2017 年42 巻2 号 p.
214
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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目的 本県は、重症心身障害児者(以下、重症児者)の約8割が在宅で、中でも小児は人工呼吸器などの濃厚な医療を必要とし、在宅支援の充実が喫緊の課題である。重症児者の在宅支援の要である訪問看護ステーションの本県における実態を公報資料作成のため調査したので報告する。 方法 介護保険指定されている愛知県下568事業所にアンケートを配布した。質問項目は年齢、疾患、医療処置、リハビリの有無などが含まれており、回答はFAXで回収した。 結果 有効回答は467件(有効回答率82%)であった。事業所の主たる対象のほとんどが老人であり、小児対応可能と回答したのは276事業所(59%)であった。小児に特化していたのは3事業所のみで他は老人を主対象としながら小児も受け入れているという回答であった。小児対応不可の理由は、「小児の経験がない」という回答が88事業所と最も多く、「老人に特化している」という回答の23事業所を含めると111事業所が小児未経験と推定された。小児対応可能な事業所のうちハビリテーションを行っているのは196事業所(71%)であった。医療処置に関しては、鼻管栄養、中心静脈栄養、エアウェイ、呼吸器について対応しないという事業所が散見された。このうち、人工呼吸器に対応可能と回答したのは376事業所(81%)であった。小児に対応しかつ人工呼吸器対応可能なのは251件であり、小児に対応している事業所は人工呼吸器の対応率が高かった(91%)。ただし、小児対応可能で人工呼吸器可能なのは251件(53.7%)であった。 結論 小児対応可能事業所は6割弱であり、対応不可である理由の多くは経験がないという回答であり、きっかけがあれば対応可となる事業所も増加する可能性がある。しかし、小児を受け入れている事業所において呼吸器対応比率が高いことは、小児では医療度が高いことを示唆するとともに、呼吸器対応も小児受け入れのハードルとなっていることを窺わせた。
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井上 一二三
2017 年42 巻2 号 p.
214
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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目的 看護師が自信や仕事への満足感をもって看護に取り組むことが重要だと考え、肢体不自由児および重症心身障害児施設に勤務する看護師の職務満足に影響する個人的要因を明らかにすることにした。 研究方法 全国の肢体不自由児・重症心身障害児施設の中で、協力の得られた施設に勤務する看護師1,038名を対象に質問紙調査を実施した。質問紙は、39の質問項目を用い、各項目を5段階で測定するよう作成した。調査期間は2011年8月〜10月である。 倫理的配慮 高知県立大学倫理審査委員会の承認を受け、研究の趣旨と研究参加への自由意思の確保、プライバシーの保護など文章で説明、承諾、同意を得た。 結果および考察 1,038名中820名から回答を得た。<今の仕事に満足している><私は看護することに満足している>を目的変数、【私はこの施設の看護師であることを胸を張って言える】【私は自分らしく生きていると思う】【私は看護師を続けて行こうと思っている】【私は頑張っていると思う】【私は人と話すことが好きだ】【私は人の話をじっくり聞くことができる】を説明変数に重回帰分析(Stepwise法)を行った。2つの目的変数に最も影響している個人的要因は、【私はこの施設の看護師であることを胸を張って言える】【私は自分らしく生きていると思う】【私は看護師を続けて行こうと思っている】【私は頑張っていると思う】の4つであった。 【私はこの施設の看護師であることを胸を張って言える】とは、現在所属している施設への帰属意識が関係していると言える。自分を表現している場所がどういう所か、その評価が自身の評価につながるという思いが働くのではと考える。 【私は自分らしく生きていると思う】【私は看護師を続けていこうと思っている】【私は頑張っていると思う】という3つの変数は、自分自身を認め、自己への誇りを持っているということだと言える。
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今井 雅由, 宮野前 健, 山本 重則, 佐々木 征行, 三田 勝己, 中村 友亮, 丸尾 和司
2017 年42 巻2 号 p.
215
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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目的 AMED受託研究に於いて、SMIDデータベースに蓄積されたデータを中心に、各種調査で蓄積されたデータを分析した。 方法 原因診断と直接死因(臨床診断)をICD-140に置き換えた、原因診断と死亡退院に関する推移に関する分析。入所時状況変化、10年間での経年変化と、入所数経時推移の分析を行った。 結果 原因診断に於けるICD-10大分類別では「周産期に発生した病態」「妊娠、分娩および産褥」「神経系の疾患」「先天奇形、変形および染色体異常」「症状、徴候および異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの」の、上位5項目で全体の81.5%を占めた。死亡原因に於けるICD-10大分類では「呼吸器系の疾患」「症状、徴候および異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの」「循環器系の疾患」「消化器系の疾患」「感染症および寄生虫症」が5大疾患であったが、「呼吸器系の疾患」が60%から40%に減少していた。入所数経時推移については、在宅患者数を18,000人、重症心身障害児出生リスク0.004%、在宅患者の死亡リスクは全年代で施設の1.7倍と仮定して算出した結果は、2030年ごろから公法人施設で、2040年ごろからNHO・NCで最大入院可能数を入院患者数が下回る結果となった。 結論 本研究では政策医療として受け入れを開始して半世紀が経過する中で、いくつかの経過分析と、未来予想を行った。受け入れ開始当初余命20歳とされていたが、SMID支援に関する医学・看護・療育・教育のknow-howが構築された成果、余命が伸び、ADL機能が維持されている。今後とも新たなデータが蓄積され、さらなる分析が進むことを期待するとともに、このような研究機会を与えてくださったAMEDに感謝いたします。
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千葉 泰弘, 中村 有里, 山田 正人, 二村 眞秀
2017 年42 巻2 号 p.
215
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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はじめに 重症心身障害児者にとって彼らをよく知る看護・介護者の離職は肉体的・精神的な影響を受ける可能性があり、家族にとって不安要素となりうる。 当施設では腰痛等による職員の離職を防止し、働きやすい環境を提供するために、開設当初より安定性の良い天井走行式リフトを導入した。リフトは居室・デイルーム・浴室・病棟トイレなど、日常的に移床・移乗が必要な場所すべてに67機設置されている。今回はリフトの効果をアンケート調査から検討し報告する。 対象と方法 看護師と生活支援員へ開所後2年間に計4回アンケートを実施し、得られた回答を検討した。回答数は、第一回 62名、第二回 68名、第三回 80名、第四回 80名で、いずれも回答率100%であった。 結果 当施設入職前後の腰痛の程度に関する項目では、腰痛の程度を次の6段階に分け(0:痛みなし、1:軽い痛み、2:中等度の痛み、3:かなりの痛み、4:とてもひどい痛み、5:耐えられない痛み)、回答を痛み段階ごとに合計した。入職前後における痛みの程度の変化は、0:1→0名、1:16→22名、2:29→24名、3:45→43名、4:26→6名、5:7→2名であった。1:軽い痛みの群以外は減少しており、4:とてもひどい痛み、5:耐えられない痛みの両群においては、入職前後で減少が顕著であった。 リフト使用による労力の程度は、回答総数の89%が労力の軽減を感じていた。 リフトの使用感については、「移動・移乗介助時の腰の負担が減った」と答えたものが31%で一番多く、次いで多かったのは「時間がかかる」28%であった。 考察 今回の結果から、リフトは病棟スタッフの労力軽減と腰痛予防そして腰痛改善へ導く可能性が示唆された。自由意見からは、「おむつ交換、床マット・床ベッドなど柔らかいマット上の業務で腰痛や膝の痛みが生じる」などリフトだけでは解決できない問題も明確になり、今後の腰痛対策の課題となった。
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長澤 宏幸, 青木 哲
2017 年42 巻2 号 p.
216
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
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目的 重症心身障がい児施設は、生活空間と位置づけられる。しかし、障がい児施設において生活空間としての温湿度環境を測定した事例は少ない。今回施設内の温湿度環境を長期的に計測し、改善点を考察した。 方法 岐阜県内にある重症心身障がい児施設S(RC造、2015年建設)にて各種スペースの温度・湿度を測定した。測定期間は約1年間(H28年5月〜H29年4月)で、測定場所は、病室2室、図書・遊戯室および機能訓練室の計4室とした。年間を通して空調機の設定温度は26℃としている。測定には温度湿度データロガー(TandD社 TR-72U)を用い10分間隔で測定した。外気の温度・湿度は岐阜地方気象台観測地のデータを用いた。得られた温度・湿度データを元に絶対湿度を算出し、日変動、平均日変化等を算出した。冬季にはボイラー蒸気を活用した加湿および病室のみ加湿器による加湿が行われた。 結果 1)温度:外気の変動に対して、使用頻度が高い病室や図書・遊戯室、機能訓練室は25℃前後にコントロールされ、変動は非常に小さく、設定温度とほぼ一致していた。一方、使用されていない室は空調機が作動しておらず、10月以降外気温の低下とともに室温も低下したが、冬季でも20℃以上であった。 2)湿度:相対湿度は約25〜65%と変動した。6〜9月では、冷房の除湿により各室ともに外気よりも低くなり、中間期(5、10〜11月)では外気とほぼ等しくなった。10〜11月にかけて急激な湿度低下がみられ、30%を下回る室もあった。12月中旬からは加湿され始めたが、大きな湿度上昇はみられなかった。絶対湿度は外気とほぼ等しかった。 考察 重度心身障がい児施設Sの室内の温度、相対湿度および絶対湿度の実態を把握した。温度は、一定であったが、湿度は、冬季に急激な湿度低下がみられ、蒸気加湿を始める時期や、設置する加湿器の能力などを再考する必要がある。
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長澤 宏幸, 青木 哲
2017 年42 巻2 号 p.
216
発行日: 2017年
公開日: 2019/06/01
ジャーナル
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目的 医療現場では安心・安全な環境づくりが求められる。照明では演出性の向上、眩しさの低減のため天井埋め込み型が多用されている。しかし、仰臥姿勢の患者にとって天井の照明が直接目に入りやすく、眩しさを感じ、机上の明るさ(照度)を考慮するだけでは、配慮に欠ける可能性が高い。そこで重症心身障がい児施設Sにおける照明環境を測定し、問題点を考察した。 方法 測定場所は障がい児が普段利用する遊戯室、廊下などとし、測定高はベッド・ストレッチャー高に相当する高さ(770mm)とした。照度の測定:照度計(TANDD社TR-74Ui)を用い、5回測定し平均値を用いた。データをGraph-Rのソフトを利用し照度分布を色分けし、測定値から平均照度を計算した。輝度の測定:輝度計(KONICA MINOLTA社 LS-100)を用い、荷台から真上の方向で測定し、輝度計で測定した視野をデジタルカメラで撮影した。この写真を輝度色度解析ソフトウェア(アイ・システム社)に取り込み輝度分布として色分けした。 結果 1)天井埋め込み型の蛍光灯が設置されている遊戯室では、共用空間の照度基準とされる200〜500lxをすべての測定点で大きく上回った。照度値から輝度値も相対的に高いと考えられた。一部の蛍光灯にプラダン(乳白色:透過率30%、厚み40mm)を装着し遮光を行ったが、照度の低下は200lx以下で効果は不十分であった。2)廊下の輝度値は全体的には低いが、DL(ダウンライト)直下の測定点が他の測定点の5倍以上となっていた。外来の廊下の照度基準は200lxだが、同地点は照度も2700lxと大きかった。 考察 遊戯室では照度が高く、眩しさ感じている可能性が高かった。廊下では照度差が大きく、照度基準を大幅に超えた場所もみられた。これらのことから、現状では仰臥位の患者には眩しさを感じる場所が多いと考えられた。
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