背景
脊髄髄膜瘤(myelomeningocele;MMC)は,胎児期の神経管の閉鎖不全をきっかけに,羊水中に露出した脊髄が損傷し不可逆性の神経障害を引き起こす疾患である。患者は,歩行障害を伴う下肢の麻痺や膀胱直腸障害による排泄障害,水頭症による知能障害などの重篤な後遺症をきたす場合が多い。病態は胎児期に進行するため,外科的手術を含む種々の胎児治療が検討されているが,現在までに母児に対して低侵襲な治療法は確立されていない1)。
近年の難治性神経疾患(筋萎縮性側索硬化症や脊髄損傷など)に対する治療法の発展はめざましく,成人に対する幹細胞治療の臨床応用が実現しつつある2, 3)。しかし,周産期の難治性神経疾患に対する幹細胞治療の開発は遅れている。これは,治療対象が胎児や新生児であり,癌化や免疫学的拒絶反応などの幹細胞治療における潜在的なリスクを看過できないことに起因する。
一方,ヒト羊水幹細胞(human amniotic fluid stem cell;hAFSC)は,胎児由来の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)の一種で,われわれはこれまでに新生児低酸素脳症や創傷治癒に対する治療効果を報告してきた4, 5)。hAFSCは,羊水穿刺による細胞採取に伴うリスクが一般的に許容されていることに加え,免疫学的寛容能が高く癌化しないことが知られており,胎児や新生児に対する自家幹細胞移植治療の細胞源として注目されている6)。
今回われわれは,母児に対して低侵襲なMMCの治療法として,羊水腔内への自家幹細胞移植が有用であるとの仮説を立てた。本研究では,hAFSC羊水腔内投与の治療効果の検討と作用機序の解明を目的とし,MMCモデルラットを用いた実験的検討を行ったので報告する。
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