周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第37回
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
序文
  • 臼井 規朗
    p. 3
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     2019年2月8日(金),9日(土)に大阪国際会議場(グランキューブ大阪)におきまして,第37回周産期学シンポジウムを開催させていただきました。800名を越える方々にご参加いただいて盛会に終えることができましたことを心より御礼申し上げます。

     今回のシンポジウムのテーマは,本学会のいずれの領域にとっても重要な課題である【胎児診断から始める治療戦略】でした。そこで,プレコングレスでは,国立成育医療研究センター放射線診療部の宮嵜治先生をお招きし,「胎児MRI診断の現状:何がどこまでわかるのか?」と題した教育講演を行っていただきました。学会員の皆さまにとって,胎児MRI診断の要点を系統立てて学ぶ良い機会になったのではないかと思います。また,フィラデルフィア小児病院の小児外科医Emily Partridge先生をお招きして「Development of the Artificial Womb: Challenges and Milestones」と題した特別講演を行っていただきました。超低出生体重児の未熟な肺を保護することを目的として,人工羊水を満たしたBiobag systemの中でポンプレスECMOを用いた人工胎盤によって羊の胎児を4週間にわたって水中保育できる人工子宮システムを完成させるまでの秘話や苦労話を披露してくださいました。若い情熱ある女性小児外科医のこのような素晴らしい研究成果は,これから周産期領域の研究を目指すわが国の若い産科医,新生児科医,小児外科医をおおいに勇気づけたことと思います。委員会報告では,胎児疾患に関する全国アンケート調査を報告していただきました。シンポジウム当日に議論された疾患に関する胎児診断症例数や,妊娠中断や積極的治療の差し控えの有無などについての調査結果が報告されました。

     シンポジウムでは,応募いただいた26演題の中から厳選された10演題において,いずれも大変興味深い発表が行われました。午前の部では「診断:予後予測からトリアージへ」と題して,先天性消化管閉鎖症,先天性横隔膜ヘルニア,先天性嚢胞性肺疾患,先天性心疾患,左心低形成症候群が取り上げられました。また午後の部では「治療:難治性疾患へのアプローチ」と題して,脊髄髄膜瘤,先天性サイトメガロウイルス感染症,低ホスファターゼ症周産期型,胎児上気道閉塞疾患が取り上げられました。午前・午後の部とも,演者やフロアの先生方を交えて,大変活発で有意義な討論が繰り広げられました。

     今回は,2018年に制定された「周産期学シンポジウム指針」に沿って運営された初めての周産期学シンポジウムでしたが,この度のシンポジウムが,周産期医療の新たな標準の創生や若い人材の育成に少しでも役立ったのであれば,会長としてそれに勝る喜びはありません。ご支援とご協力をいただいた皆さまに,この場をお借りして改めて心より感謝申しあげます。

プレコングレス
シンポジウム午前の部:診断〜予後予測からトリアージへ〜
  • 田中 亮
    p. 35-42
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     先天性消化管閉鎖症は出生前診断される代表的な疾患である。出生後に診断確定のための精査を行い,消化管の減圧,脱水や電解質異常の補正などで全身状態を安定させ,外科的治療を施行し,栄養の確立を図ることが一般的な治療戦略である。先天性消化管閉鎖症が出生前診断されることは,出生後の速やかな介入につながり,児の予後を改善させる可能性があると考えられるが,これまで十分な検討はなされていない。また,先天性消化管閉鎖症における出生前診断が,父母の心理面に与える影響についても明らかではない。

  • 照井 慶太
    p. 43-46
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     先天性横隔膜ヘルニア(CDH)の生命予後は改善してきているが,長期的な合併症の率も高く,胎児診断された場合の両親の不安は強い。CDHの胎児診断率は2006〜2010年の全国調査で72%と高く1),出生前カウンセリングの機会は増加してきている。一方,CDHの重症度は幅が広く,予後もさまざまであるため,カウンセリングの際には各胎児に特化した予後予測が求められる。そのため,これまで多くの予後予測因子が報告されてきているが,それらを包括的に検証した報告は少ない。胎児期における家族・医療チーム内での共通認識形成および治療方針決定のため,包括的に予後を予測するシステムが求められている。

  • 杉林 里佳
    p. 47-51
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     嚢胞性肺疾患(Cystic lung disease: CLD)には,肺気道奇形(Congenital pulmonary airway malformation: CPAM),気管支閉鎖(Bronchial atresia: BA),大葉性肺気腫(Congenital lung emphysema: CLE),肺分画症(Bronchopulmonary sequestration: BPS)などが挙げられる。超音波診断技術の向上に伴い胎児期にCLDが発見される症例が増加している。CLDのなかには出生直後に緊急手術を要する場合もあれば,生後手術を必要とせずに経過観察可能な場合もある。出生前所見から出生後の治療戦略を立てることが望まれている。

  • 漢 伸彦
    p. 53-56
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     胎児心臓超音波検査の普及により出生前診断される先天性心疾患は増加している1)。特に動脈管依存性心疾患など生直後より治療を要する重症先天性心疾患(critical congenital heart disease 以下CCHD)は,「救命」や「後遺症なき生存」のために正確に胎児診断し心疾患の重症度に応じた計画的な周産期管理を行うことが重要である2,3)

     当院は年間400例以上の小児心臓外科治療を行っている循環器センターである。また胎児診断から分娩・新生児循環管理から心臓外科治療まで一貫して行える施設でもあり九州全域より年間100例以上の胎児・新生児CCHDを受け入れているが,胎児CCHD症例の増加に伴い慢性的な病床不足のため福岡地区の未熟児・新生児の診療に支障をきたしている。限りあるNICU病床を有効利用することを求められており,各地の周産期センターと連携して胎児心超音波所見から分娩施設を振り分けている。新生児心臓外科治療の可能性があるCCHDは当院にて周産期・循環管理から心臓外科治療まで行うが,新生児期以降の心臓外科治療が予想されるCCHDは他周産期センターで周産期・循環管理を行い心臓外科治療前に当院へ転院としている(図1)。

     しかし分娩施設を選択するための基準となる指針はないため,各周産期センターでCCHDを胎児診断した場合に当院へ母体紹介されないことや生後の経過を予測するうえで大切な心病変を見逃されることで胎児診断されていたCCHD症例が生後早期に緊急新生児搬送されることをしばしば経験する。

     今回の研究では,胎児診断に基づいた先天性心疾患胎児の分娩施設の選択を行うために新生児期(日齢28以内)に心臓外科治療が必要となる心病変を明確にし,心臓外科治療ができない施設で胎児診断された心疾患を心臓外科治療が可能な施設へ母体紹介する基準を作成することを目的とした。

  • 北代 祐三
    p. 57-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome;HLHS)は心臓,大血管形態のうち左心系が著しく低形成で左室から大動脈への順行性血流によって体循環が維持できない症候群である。近年では,胎児診断率の向上や手術手技・周術期管理の進歩などにより治療成績は改善しつつあるが,依然として先天性心疾患の中では重症度の高い疾患の一つである。

     そこで,今回の研究の目的はHLHS児の予後改善に向けた胎児期からの治療戦略を立案することとし,当院で管理したHLHS児の治療経過をもとに,①HLHS児の生命予後の検討と予後に関連する周産期の危険因子の抽出,②危険因子の胎児期における評価方法について検討を行った。

  • 板倉 敦夫, 渡部 晋一
    p. 61-62
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     近年,出生前診断は大きく進歩した。そこには,出生前診断は児の予後を改善するとの確信があったものと考えられる。今回のシンポジウムは,出生前診断によって,治療戦略がどのように変化し,治療成績がどのように改善したかを疾患別に5名の先生にご発表頂いた。

シンポジウム午後の部:治療〜難治性疾患ヘのアプローチ〜
  • 落合 大吾
    p. 65-70
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     脊髄髄膜瘤(myelomeningocele;MMC)は,胎児期の神経管の閉鎖不全をきっかけに,羊水中に露出した脊髄が損傷し不可逆性の神経障害を引き起こす疾患である。患者は,歩行障害を伴う下肢の麻痺や膀胱直腸障害による排泄障害,水頭症による知能障害などの重篤な後遺症をきたす場合が多い。病態は胎児期に進行するため,外科的手術を含む種々の胎児治療が検討されているが,現在までに母児に対して低侵襲な治療法は確立されていない1)

     近年の難治性神経疾患(筋萎縮性側索硬化症や脊髄損傷など)に対する治療法の発展はめざましく,成人に対する幹細胞治療の臨床応用が実現しつつある2, 3)。しかし,周産期の難治性神経疾患に対する幹細胞治療の開発は遅れている。これは,治療対象が胎児や新生児であり,癌化や免疫学的拒絶反応などの幹細胞治療における潜在的なリスクを看過できないことに起因する。

     一方,ヒト羊水幹細胞(human amniotic fluid stem cell;hAFSC)は,胎児由来の間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell;MSC)の一種で,われわれはこれまでに新生児低酸素脳症や創傷治癒に対する治療効果を報告してきた4, 5)。hAFSCは,羊水穿刺による細胞採取に伴うリスクが一般的に許容されていることに加え,免疫学的寛容能が高く癌化しないことが知られており,胎児や新生児に対する自家幹細胞移植治療の細胞源として注目されている6)

     今回われわれは,母児に対して低侵襲なMMCの治療法として,羊水腔内への自家幹細胞移植が有用であるとの仮説を立てた。本研究では,hAFSC羊水腔内投与の治療効果の検討と作用機序の解明を目的とし,MMCモデルラットを用いた実験的検討を行ったので報告する。

  • 梶原 一紘
    p. 71-73
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     脊髄髄膜瘤は神経管閉鎖不全によって脊髄周辺組織が欠損するため脊髄が外界に露出する。生後に修復手術が行われるが,出生時にはすでに不可逆性の神経障害が存在するため胎児手術が施行されるようになり,一定の治療効果を認めている1)。しかし子宮内での胎児手術は子宮の切開創が大きくなるため早産や破水,子宮破裂のリスクの増加が問題となる。このため,より低侵襲に神経組織露出部を覆うことができ,さらに脳脊髄液の漏出を防止できる被覆材や代用組織の開発が今後の胎児手術の目標である2)

     羊水は初期化率が高い胎児由来の間葉系幹細胞を含んでいるためiPS細胞(induced pluripotent stem cell;iPSC)を樹立するのに適しており,さらに拒絶反応のない自家移植を可能にする3)。羊水由来iPS細胞から3次元培養によって人工皮膚を作製できれば,低侵襲に皮膚欠損部を保護できる。さらに人工皮膚移植は単なる被覆材と異なり,胎児皮膚の再生を施すため胎児の成長にも適合したより完全な治療法になりうる。

  • 谷村 憲司
    p. 75-79
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     症候性の先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症では児に低出生体重(SGA),小頭症,脳室拡大,肝脾腫,聴力障害などの症状がみられ,5~9割に難聴や精神運動障害といった重篤な後遺症が残るとされる1〜4)。報告によって,後遺症発生率に差があるのは,対象となる罹患児の重症度が異なるからである。しかし,すでに胎児期に症候性先天性CMV感染症と診断される症例は最重症例と考えられ,ナチュラルコースでの後遺症発生率は非常に高いことが推察される。そのため,症候性先天性CMV感染症児の予後改善のための試みがなされている。これまでに症候性先天性CMV感染児に対する免疫グロブリン(Ig)の母体静脈内と羊水もしくは臍帯静脈内投与5)や高用量バラシクロビルの母体経口投与による胎児治療6)などの報告,また,わが国でも多施設研究としてIgの胎児腹腔内もしくは母体静脈内投与による胎児治療7)の報告がある。

     一方,近年,症候性先天性CMV感染症児に対するガンシクロビル(GCV)やバルガンシクロビル(VGCV)などの抗ウイルス薬を用いた新生児治療により,難聴ばかりでなく,精神運動発達も改善することが報告されている8〜11)

     しかし,これまで症候性先天性CMV感染症に対して胎児治療と新生児治療を一貫して行ったという報告はなく,その有用性は明らかではない。

  • 永岡 晋一
    p. 81-85
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景・目的

     低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia;以下HPP)とは,組織非特異的アルカリフォスファターゼ(TNSALP)をコードするALPL遺伝子の機能欠損によりALPが欠如または低下することで骨組織の石灰化障害が起こり全身の骨化不良をきたす遺伝性疾患である1)。HPPは発症時期により5つに分類されるが,そのなかでも胎児期から出生時に診断されるものを周産期型とよぶ。周産期型はこれまで致死的とされてきたが,近年では,比較的予後良好な症例の存在が知られるようになり,周産期型は周産期重症型と周産期良性型に分類されるようになった2)。発症頻度は欧米では,1〜3/300,000出生1,3),国内では1/62,500出生4)と報告されており,欧米よりも日本人に多い傾向がある。胎児診断には,胎児超音波検査,胎児CT検査,遺伝学的検査などがある。このなかでも胎児CT検査に関しては,近年その有用性が報告されている。被ばく線量が5mGy以下の低線量でも撮影可能であり5),third trimesterでの撮影が推奨されている。遺伝学的検査はこれまで羊水や臍帯血での出生前診断が報告されている。HPPはこれまで300以上の変異が報告されている6)が,特にc.1559delTp.F327Lは日本人に多く,そのなかでもc.1559delTは日本人に特有の変異と報告されている7)。出生後の治療は,以前は対症療法が中心だったが,近年,酵素補充療法製剤であるアスフォターゼアルファが開発され,生後早期からの投与によって周産期型の予後が劇的に改善するようになった8,9)

     一方,HPPの問題点は早期に出生前診断をするための胎児診断法が確立していないこと,遺伝学的検査によって多くの変異部位が特定されているが遺伝子型と表現型の関係がわかっていないこと,そして酵素補充療法を開始するにあたり重症度やどのような症例が適応となるのかわかっていないことが挙げられる。

     そこで,今回われわれは①超音波検査と胎児CT検査を比較すること,②遺伝子型と表現型や予後の相関について検討すること,③酵素補充療法を開始するための適応を検討することを目的とし研究を行った。

  • 正畠 和典
    p. 87-90
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     近年,出生前画像診断の向上と医療技術の進歩により,多くの新生児の外科的疾患が救命できるようになった。一方で,出生前診断されているにもかかわらず,胎児死亡をきたす症例や出生後の治療で救命が困難な症例が存在する。これらの症例のなかには,出生前に適切な治療を施すことによって良好な予後を得ることができるものが含まれている。EXIT(ex utero intrapartum treatment)は,出生前診断において気道確保が困難と予想される重度の症例に対して,選択的帝王切開下に胎児胎盤循環を保持した状態で児に気管内挿管もしくは気管切開を行い,気道確保後に娩出させる方法である1~3)。現在,先天性上気道閉塞症候群(congenital high airway obstruction syndrome)や頭頸部腫瘍性疾患など,出生直後より呼吸循環不全に陥る可能性の高い疾患に対する気道確保手技としてその適応が拡大しており,わが国においてもときに施行されている胎児治療の一つである。近年EXITの報告例が増えている一方で,EXITの安全性・有効性に関する検討の報告例は少ない。

  • 早川 昌弘, 石井 桂介
    p. 91-92
    発行日: 2019年
    公開日: 2024/03/01
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     周産期医療,新生児医療の発展により多くの重症児の救命が可能となって久しい。しかしながら,一部の難治性疾患については出生後の治療では生命予後や長期的予後の改善は困難である。それら難治性疾患に対しての胎児治療が近年大きく進歩してきた。今回は,「胎児治療から始める治療戦略 治療~難治性疾患のアプローチ~」というテーマで5名のシンポジストから最新の先端医療についての発表をしていただいた。

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