周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第38回
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
序文
  • 村越 毅
    p. 3
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     2020年1月31日(金),2月1日(土)に第38回周産期学シンポジウムを浜松市のアクトシティ浜松で開催させていただきました。800名を超える方々にご参加いただき盛会に終えることができました。皆様方には心より御礼申し上げます。また,当時はCOVID-19のパンデミック前夜であり,手指衛生などのご協力をいただき,幸いにもクラスターの発生もなく会を終えることができたことも感謝いたします。

     今回のシンポジウムのテーマは【母児の予後改善を目指した合併症妊娠の管理】でした。初日のプレコングレスでは,日常臨床でよく遭遇する内科的合併症として,国立成育医療研究センター周産期・母性診療センターの村島温子先生に「膠原病合併妊娠」,国立循環器病研究センター産婦人科の神谷千津子先生に「ハイリスク心疾患合併妊娠の診療」,聖隷浜松病院てんかんセンター・てんかん外科の藤本礼尚先生に「てんかん合併妊娠─分娩状況により誘発される特発性全般てんかんを中心に─」,東京大学小児・新生児集中治療部の高橋尚人先生に「膠原病母体児の高サイトカイン血症と長期予後」について,それぞれ御講演をいただきました。改めて,合併症妊娠の管理について基本から振り返って学べる機会を得られたと思います。

     二日目のシンポジウムでは,応募いただいたなかから厳選された9演題において,いずれも大変興味深く今後の診療に役立つ内容の発表が行われました。午前の部では,合併症妊娠に関する全国アンケート調査(周産期学シンポジウム運営委員会)を皮切りに,母体肥満と分娩異常,糖尿病母体児の臨床的特徴,バセドウ病合併妊娠の児の甲状腺機能異常,自己免疫疾患罹患女性への妊娠支援,午後の部では,てんかん女性への妊娠に関する情報提供,精神疾患合併妊娠の現状と問題点,消化器・腎泌尿器生殖器の小児期手術歴のあるキャリーオーバー妊婦,子宮腺筋症合併妊娠,広汎子宮頸部摘出術後妊娠への取り組み,についてそれぞれ発表と活発なディスカッションがなされました。さまざまな角度から,合併症妊娠の現状と問題点,今後の課題について理解が深まったと思います。

     また,ランチョンセミナーでは,妊娠高血圧腎症のリスク評価と発症予防戦略,小児期から始める妊娠前カウンセリング(てんかん,心疾患)としてそれぞれ御講演をいただきました。こちらも明日からの臨床に役立つ有意義な内容でした。

     本シンポジウムは,次世代のリーダーとなる若手の先生方を中心に1年以上の時間をかけて,シンポジウム運営委員会と演者が切磋琢磨し準備して発表が行われます。今回もその成果が十分に発揮できたと思います。このようなシステムが受け継がれて,次世代の育成や参加者の診療に役立つことを願ってやみません。

     改めてご支援とご協力をいただいた皆様に御礼申し上げます。

プレコングレス:合併症妊娠に対する最新の知見と治療戦略
  • 村島 温子
    p. 11-14
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     膠原病には多くの疾患があるが,そのうち全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE)はわが国で10万人程度と少ないものの若い女性に多く,妊娠を機にSLE自体が重篤な病態に陥る可能性と妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy; HDP)など妊娠合併症のリスクが高く,総合周産期センターの産科では避けては通れない,まさに周産期学の総力を必要とする合併妊娠である。一方,関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA)はSLEに比べて周産期医学という意味ではリスクの程度は軽いが,わが国で70万人程度と有病率の高い疾患であり,多数の特効薬の登場により治療成績が向上したことから産科医が遭遇する機会が比較的多い疾患となってきた。これらの理由により,この2つを取り上げることにする。

     近年,SLEとRAの合併妊娠については多くの診療ガイドラインが出てきている。周産期医学の立場では,厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠,出産を考えた治療指針の作成」研究班が作成した『全身性エリテマトーデス(SLE),関節リウマチ(RA),若年性特発性関節炎(JIA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠,出産を考えた治療指針』1)が最も有用であると考える。これ以外にも日本リウマチ学会が中心となって作成している診療ガイドライン2)の中にも妊娠の項目があるが,このガイドライン自体はリウマチ・膠原病専門医を対象としているというスタンスである。ともに筆者が関係しており,内容に整合性はとれているはずである。『抗SS-A抗体陽性女性の妊娠に関する診療の手引き』3)『抗リン脂質抗体症候群合併妊娠の診療ガイドライン』4)は筆者が代表者を務めた研究班で作成したが,だいぶ時間が経っており,近い将来の改訂が望まれる。

  • 神谷 千津子
    p. 15-18
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     循環器医療や新生児医療の進歩に伴い,先天性心疾患患者の予後が著しく向上したこと,遺伝性不整脈など若年で診断される疾患が増えたこと,母体の高齢化などにより,心疾患合併妊娠数が増えている。妊娠・出産を通じて,母体の循環動態はダイナミックに変化するため,合併症リスクが増加する。ハイリスク合併症妊娠診療の難しい点は,母体と胎児の両方に配慮しなくてはいけないことである。母体の安全最優先が原則ではあるが,母体の薬物治療における催奇形性や胎児毒性について,放射線検査における胎児被曝や造影剤の児への影響について,母体心疾患適応の早期娩出における児の未熟性について配慮が必要である。

     「心疾患をもっているから,妊娠・出産は不可能」と,一律に禁止されていた時代は過ぎ,心疾患をもつ女性が豊かな人生を送れるよう,包括的に支援する医療が求められる一方,ハイリスク心疾患合併妊娠は,母体死亡にもつながる高危険性妊娠である。ハイリスク例の周産期診療においては,産科,循環器科をはじめ,関連科が連携したチーム医療が必須である。

  • ~分娩状況により誘発される特発性全般てんかんを中心に~
    藤本 礼尚
    p. 19-21
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     てんかんを希少疾患と考えている方も多いが,その罹病率は1%ほど1),わが国では100万人程度である。神経疾患としては脳卒中に次いで多く,意識障害を主訴に受診した患者の4割程度を占めるmajor diseaseである2)。罹病率には男女差はほぼなく,てんかん合併妊娠は少なくはないといえる。

     なかでも周産期に気をつけなければならないてんかんがあるので,本稿では,てんかん合併妊娠に関係する医療者に知っていていただきたい「特発性全般てんかん」について解説を行う。

  • 高橋 尚人
    p. 22-26
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     われわれは以前,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体陽性母体から出生し,生後まもなく血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis; HLH)を発症し,ステロイド治療を長期にわたって要した症例を経験し報告した1)。その経過を図1に示す1)。児は胎児期に心拍数70bpm程度の房室ブロックを呈していたが,胎児発育は順調で在胎40週に正常経腟分娩で出生した。Apgarスコアは1分後,5分後ともに8点で,出生直後に大きな問題は認めなかったが,児は生後22時間頃に38.9℃の発熱,低血圧,肺高血圧,脾腫をきたした。血液検査でAST 1,278,ALT 121,Hb 10.2,血小板3万,フィブリノーゲン80,TG 498,フェリチン9,769,sIL-2R 3,230,NK活性7%で,貪食像検査未施行だったが,HLHに矛盾しないと考え,ヒドロコルチゾンによる治療を開始した。治療は効果を示し,その後,漸減し1カ月後に終了としたが,炎症反応が再度上昇し,IFNγ,MCP-1などの上昇も認めた。

     その3年後に出生した同胞は房室ブロックやHLHの合併はなかったが,出生直後より新生児ループスを発症し,プレドニゾロンによる治療を行った2)。全身性自己免疫疾患合併の母体から出生した児でHLHの病態がみられることは当時報告がなく,われわれはこの兄弟例の経験から,全身性自己免疫疾患母体児の免疫学的病態に注目するようになった。われわれの症例報告の後,成人型Still病母体からの児でHLHの発症が報告されている3)

     生殖医療の進歩により,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE),シェーグレン症候群,慢性関節リウマチなど全身性自己免疫疾患を合併した母体からの新生児が増えている。母体がSLEの場合3〜32%に新生児ループスがみられ,抗SS-A抗体陽性母体の1〜2%に先天性心ブロック(congenital heart block; CHB)がみられるとされ,早産も15〜50%,胎児発育不全(fetal growth restriction; FGR)は10〜30%と高率とされる4〜7)。一方,関節リウマチでは,むしろ妊娠中に母体の病勢が低下したり,児の発育も良くなったりするなど,胎児への影響は少ないとされている8)。いずれにしろ一般的には乳幼児期の児の状態から,全身性自己免疫疾患母体から出生した児において,臨床上の大きな問題はないと考えられる傾向がある。

     しかし,近年,SLE母体から出生した児に幼児期・学童期の学習障害や発達障害の頻度が高いことが報告されている9〜12)。全身性自己免疫疾患母体児の長期予後については,遺伝的要因,早産,母体治療,児の養育環境など多くの因子がかかわることから,現状では不明の点が多い。また,そのような母体から出生した児の免疫学的病態についてはほとんど検討されてこなかった。

シンポジウム午前の部:内科的合併症(古典的な合併症)
  • 宮越 敬, 飛彈 麻里子
    p. 28-33
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     近年,新規薬剤による病勢寛解にともない,挙児を希望する基礎疾患合併女性が増えつつある。また,先天性心疾患・小児外科疾患既往女性の妊娠分娩例も増加傾向にある。さらに,本人・パートナーに対し疾患に関する正しい情報を提供し,より適切な状態での妊娠・分娩を支援する「プレコンセプションケア」の重要性も提唱されている。一方,全国レベルにおける合併症妊娠管理の実態や,プレコンセプションケアおよび妊婦・授乳婦への薬の情報提供に関する知見は少ない。そこで周産期学シンポジウム運営委員会では,わが国における合併症妊娠管理の現状およびプレコンセプションケアや,妊婦・授乳婦への薬の情報提供の実態把握を目的として本調査を実施した。

  • ─母児の分娩予後改善を目指した母体体重管理─
    田中 啓
    p. 34-42
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景・目的

      近年,日本人女性のやせ志向が問題視されているが,一方で,20代女性における肥満率も上昇傾向にある1)。また,妊娠・出産年齢の高齢化が進み,妊娠年齢女性における肥満の割合は増加傾向にあることが推測される。

     肥満は,妊娠糖尿病や妊娠高血圧症といった周産期合併症のリスク因子であることはよく知られている。一方,肥満そのものが,陣痛発来・子宮収縮といった分娩機構の障害(parturition dysfunction)を引き起こし,過期産・遷延分娩の原因となるという報告がある2)。過期産・遷延分娩では,帝王切開術,器械分娩の頻度や肩甲難産のリスクが上昇する。また,新生児にとっても,羊水混濁・新生児仮死のリスクが高まる。そこで,母体の肥満度が,①分娩の開始,②分娩の進行,③新生児予後,④母体合併症に与える影響を検証し,母児にとって安全な分娩管理を目標とした母体の体重管理について考察した。母体の肥満度については,妊娠前肥満度と妊娠中体重増加のいずれの寄与度が大きいかが常に議論となるため,それぞれの影響についても検証した。

  • 今井 憲
    p. 43-47
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     糖尿病合併妊婦から出生した新生児(以下,糖尿病母体児)の合併症として,古典的には胎児機能不全,先天奇形,巨大児,分娩外傷,低血糖症,周産期死亡率の増加などが挙げられる1~3)。しかし,これらは糖尿病管理や周産期医療の進歩により,その臨床像は変化してきている可能性がある。また,糖尿病合併妊婦が複数回妊娠した場合の周産期予後の違いはあまり明らかになっていない。

  • 城 道久
    p. 48-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景・目的

     バセドウ病合併妊娠では,母体血中の甲状腺ホルモン(free T4)や甲状腺刺激ホルモンレセプター抗体(thyroid stimulating hormone receptor antibody; TRAb)が経胎盤的に移行し,胎児の甲状腺機能に影響を与える。過剰な甲状腺ホルモンは流産や死産の増加1),胎児期を含めた児の発育不全2〜4),児の中枢神経や神経筋機能の障害5)を生じることが報告されている。そのため,バセドウ病合併妊娠では母体甲状腺機能のコントロールが重要となる。症例により,バセドウ病合併の妊婦へ抗甲状腺薬の投与が必要になる。その薬剤も経胎盤的に移行し,胎児の甲状腺機能に影響を与える。

     バセドウ病合併妊婦から出生した児のなかには,甲状腺腫や頻脈を示す新生児甲状腺機能亢進症が1〜5%に発生する6)と報告されている。出生後の児の甲状腺機能異常は,無治療の場合は児の発育や発達に影響を与えうるため,バセドウ病合併妊婦から出生した児の甲状腺機能を適切に評価することは重要である。そのような臨床背景のなかで,出生後に甲状腺機能異常(亢進・低下)に対して薬物療法を要する児の割合,および周産期における予測因子はまだ十分には明らかになっていない。

     本研究の目的は,バセドウ病合併妊婦から出生した児において,薬物療法を要する甲状腺機能異常が出現する頻度およびその予測因子を明らかにすることである。

  • ~全国実態調査と富山大学における試み~
    津田 さやか
    p. 53-57
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     生物学的製剤の登場により自己免疫疾患を寛解に導くことが可能となり,罹患女性の妊娠が増加している。代表的な自己免疫疾患である関節リウマチ(rheumatoid arthritis; RA),全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus; SLE),クローン病(crohn disease; CD),潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis; UC)の,妊娠前状況・周産期予後を調査し,診療における問題点を明確化することを目的とした。また,妊娠前カウンセリングの現状を調査し,拡充につなげるための課題を明らかにすることとした。

  • 菅 幸恵, 内山 温
    p. 58-59
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     第38回周産期学シンポジウムは「母児の予後改善を目指した合併症妊娠の管理」というテーマで開催された。合併症妊娠には,母体の神経・筋,循環器,呼吸器,消化器,腎・泌尿器,代謝・内分泌,膠原病・自己免疫,アレルギー,感染症,精神疾患などさまざまな疾患がある。これらのなかで午前の部は,「内科的合併症(古典的な合併症)」というサブテーマで,以下の4名のシンポジストにご発表頂いた。

シンポジウム午後の部:外科的合併症,精神神経合併症(これから取り組んでいく合併症,カウンセリング)
  • 江川 真希子
    p. 61-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     てんかん女性の妊娠・出産・育児には注意すべき点がいくつか存在し,妊娠前から準備しておくことが望ましい。『てんかん診療ガイドライン2018』(日本神経学会から発表)にも「てんかんと女性」といった章があり,「女性のてんかん患者には,ライフサイクルを考慮した包括的な妊娠・出産についてのカウンセリングをすべきで」「可能な限り計画的な妊娠・出産を勧める」と記載されている1)。しかしわれわれ産科医は臨床の現場で,妊娠判明後の服薬自己中断例やてんかんがあることを産科医に申告しない女性に出会うことがあり,てんかん女性に適切に情報が伝わっていないケースが存在すると思われる。さらに,てんかん女性自身がどのような形式で,どういった内容の情報提供を望んでいるか,どの程度自身の疾患について知識があるか,といった点に関する海外の報告は多数あるが,わが国での調査はない2〜4)

     そこで,本研究では,てんかん女性への妊娠・出産に関する情報提供についてその実態を把握すること,そこから問題点を抽出し解決策を提案することを目的とした。

  • 森山 佳則
    p. 67-72
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     昨今の周産期医療では,社会の成熟と女性の社会進出に伴って女性が強いストレスに曝される機会が増加傾向にあるなかで,精神疾患合併妊産婦を診療する頻度が増加している。精神疾患は妊産婦における有病率が2.9%と,合併症妊娠のなかでも頻度が比較的高い1)。また,周産期における自殺の発生率は,いわゆる母体死亡のそれを上回っている可能性が指摘されており2),周産期メンタルヘルスの向上は喫緊の課題であることには議論の余地がない。精神疾患合併妊産婦を適切に管理するには,周産期医療と精神医療の両者が十分に介入することが必要不可欠である。しかし,これまでのところ,両者は互いの領域の患者を十分に対応することができていたとは決して言えない。すなわち,精神疾患合併妊産婦は両者の狭間に存在しており,適切な管理がされていない可能性がある。

     妊産婦の精神疾患は,それ自体が直接的に妊娠・分娩転帰を悪化させたり,産後も養育が適切にできないことが母自身を苦悩させて精神予後を悪化させたりする可能性がある。また,母体の精神疾患が児に与えうる影響についても近年注目が集められており,養育環境の悪化はもちろん,在胎中も子宮内環境の変化により児の予後を悪化させる可能性が議論されているが,エビデンスは十分ではない。

  • 川口 晴菜
    p. 73-76
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景,目的

     日本小児科学会から出された「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」(2014)には,小児期発症疾患を有する患者の成人期に向かう診療にあたっては,小児期医療から個々の患者にふさわしい成人期医療への移り変わり,移行期医療が重要な課題となっている。妊娠・出産/周産期・遺伝など,生殖全般に対する原疾患の影響を的確に評価し,原疾患の専門診療科の医師・看護師のみならず,女性科・母性内科・産科の医師・助産師・看護師,麻酔科医,遺伝カウンセリング部門すべてが連携し,総合的な支援体制を整える必要があるとされている。移行期医療におけるシステムの移行には,『転科』『併診』『継続』の3つのパターンがある。成人期の治療において,小児期発症疾患に特有の専門知識が必要な場合には,『併診』となる。小児期の医療に引き続き,思春期,青年期にも継続的な加療が必要な場合や,新規に発生する問題への対応が必要な場合『継続』となる。『併診』や『継続』を要する疾患の代表的なものとして,Fontan術後等の重症先天性心疾患,総排泄腔外反や先天性胆道閉鎖が挙げられる。先天性心疾患は,妊娠分娩経過や児の予後について多数の報告があり,ガイドラインも作成されている1)。しかし,小児期発症の消化器,腎泌尿器,生殖器疾患については,妊娠分娩経過や児の予後については十分に明らかにされていない。本研究の目的は,小児期発症の消化器,腎泌尿器,生殖器疾患に対し手術歴のある母体に着目し,その妊娠および分娩経過と児の予後を明らかにすることである。

  • ~山梨県における過去10年のデータを用いた多施設共同研究~
    篠原 諭史
    p. 77-82
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景・目的

     子宮腺筋症合併妊娠は,妊娠年齢の高年齢化と不妊治療の普及に伴い今後増加すると思われるが,子宮腺筋症が妊娠予後に与える影響についての報告はいまだ少ない。近年,子宮腺筋症合併妊娠において,早産期前期破水(preterm premature rupture of membranes; preterm PROM)1,2),早産1〜3),妊娠高血圧症候群3)(hypertensive disorders of pregnancy; HDP),帝王切開2,3),胎位異常2)の頻度が上昇するなどの報告が散見されるが,エビデンスとしては不十分であり,子宮腺筋症合併妊娠の周産期予後の改善のためにはさらなる症例の蓄積と検討が必要である。そこで,子宮腺筋症合併妊娠の周産期予後改善の一助とすべく,今回,山梨県の6つの中核病院(総合周産期母子医療センターが1施設,地域周産期母子医療センターが2施設,一般的な総合病院が3施設)における過去11年の子宮腺筋症合併妊娠のデータを集積し,その周産期予後について症例対照研究を実施した。

  • 春日 義史
    p. 83-87
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     子宮頸がん罹患率の増加および晩婚化,出産年齢の高齢化に伴い,子宮頸部初期浸潤癌に対する妊孕性温存手術である広汎性子宮頸部摘出術(radical tracherectomy; RT)は普及してきた。RTは子宮頸がんに対する根治術であると同時に妊孕性温存手術であることから,周産期予後に与える影響を検討することは重要である。これまでにRT後妊娠では流早産が多いことが報告されているが1),術後妊娠例の周産期予後や管理方法に関する知見はいまだ少ない。

     今回筆者らは,腹式RT後妊娠に対する当院での取り組みを報告する。

  • 大槻 克文, 木下 義晶
    p. 88-89
    発行日: 2020年
    公開日: 2024/03/01
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     第38回周産期シンポジウムのメインテーマは『母児の予後改善を目指した合併症妊娠の管理』であった。そのうち午前の部として『内科的合併症(古典的な合併症)』についての議論,午後の部では『外科的合併症,精神神経合併症(これから取り組んでいく合併症,カウンセリング)』の主題について議論を行った。今回,午前および午後の部のシンポジウム開催に際し『周産期学シンポジウム運営委員会調査報告』として「合併症妊娠に関する全国アンケート調査」の結果を同委員会委員である宮越敬先生(慶応大学医学部産婦人科学教室)と飛騨麻里子先生(慶應義塾大学医学部小児科学教室)に発表いただいた。午後の部のシンポジウムでは5名の先生方に発表をしていただいた。今回のシンポジウムでの発表と討議を経て,わが国においてさまざまな合併症を有する女性に対して,今後の妊娠について正確な情報を得て,合併症を乗り越えて無事生児を得る必要性,つまり「プレコンセプションケア(preconception care)」の重要性に対して議論を行うこととした。発表は以下の順番とした。前半2演題を精神神経合併症に関する議論として,「てんかん女性への妊娠に関する情報提供における課題」(江川真希子先生),「精神疾患合併妊娠の現状の問題点と次世代へ与える影響の可能性」(森山佳則先生),の2名にご担当いただき,後半3演題を外科的合併症に関する議論として,「小児期発症疾患合併妊娠における母児の転帰─消化器,腎泌尿器生殖器への小児期手術歴のある妊婦と児の検討─」(川口春菜先生),「子宮腺筋症合併妊娠における周産期予後改善を目指して─山梨県における過去10年のデータを用いた多施設共同研究─」(篠原諭史先生),「当院における広汎性子宮頸部摘出術後妊娠に対する取り組み」(春日義史先生),の3名にご担当いただいた。

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