周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第34回
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
序文
  • 中尾 秀人
    p. 3
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     第34回周産期学シンポジウムを平成28年2月5・6日の2日間,神戸国際会議場で開催いたしました。多数の参加者にお越しいただき,大変盛況で主催者として心から感謝申し上げます。学術プログラムは従来通り,初日にプレコングレス,2日目にシンポジウムを行いました。

     初日のプレコングレスセミナーは,3本立てで企画いたしました。講演1は恒例となりつつあります“周産期学シンポジウム運営委員会 調査報告”で,昭和大学江東豊洲病院の大槻克文先生より「リトドリン塩酸塩の使用実態ならびに副作用に関する調査報告」をご講演いただきました。欧米で使用が制限されWHOからも勧告が出されたリトドリン塩酸塩の使用方法について,全国の273施設を対象にその使用と副作用の実態を報告されましたが,いまだ不明な点も多く,さらなる調査を経てわが国の現状に即した切迫早産の管理指針を作成することが急務であると報告されました。

     講演2では,今回のメインテーマと関連した話題を企図し,兵庫県立こども病院放射線科の赤坂好宣先生に「Single-Shot時代の胎児MRI─胎児MR診断における変化とみえてきたもの─」と題し,豊富な画像診断の資料から,周産期管理への提言を行っていただきました。撮像法の進歩に伴って以前より多くの疾患が胎児MRIの対象となってきたものの,その分求められる精度も上がってきており,小児放射線領域での知識が不可欠になってきている旨を多数の実例を示しつつ解説していただきました。

     講演3は,日本大学の細野茂春先生(本学会新生児蘇生法委員会 委員長)より,本学会の主要な事業の一つである新生児蘇生法普及事業と関連して,「ここが変わったNCPRコンセンサス2015」のテーマで,昨年度に改訂された内容についてご解説いただきました。アルゴリズム上の記載の変更点5項目と,考え方の変更点2項目の合計7項目について,その背景を含めて具体的にわかりやすく解説していただき,最後に,日々の現場での実践と振り返りに加えて,e-learningや人工呼吸・胸骨圧迫のミニレッスンなどを通じて技術・知識の維持と向上に努めていただきたいと締めくくられました。

     メインイベントであるシンポジウム当日は,「母児の予後からみた娩出のタイミングと方法」をメインテーマとしました。どの演題も,この領域に熱心に取り組んでおられる新進気鋭の11人の演者による充実した内容で,活発な意見交換が行われ,参加された皆様にもご満足いただけた内容だったかと思います。

     初日の懇親会も多数のご参加をいただいて盛り上がりをみせ,旧知の親交を温め,また新たな友を得る機会となったのであれば幸いです。

プレコングレス
  • 周産期学シンポジウム運営委員会調査報告
    大槻 克文
    p. 15-18
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     周産期医療において,われわれが現在取り組むべき最も重要な課題の一つとして早産の予防が挙げられる。日本の周産期死亡率は世界一低い水準に達しているが,それでも依然として妊娠26週未満での早産児の死亡率は高く,先天奇形を除く周産期死亡の多くは早産児が占めており,生存例においても早産児はさまざまな問題を抱えていることが指摘されている。これらの児の予後を改善するためには,新生児医療の進歩に期待するのみではなく,早産そのものを減少させることが重要なことは言うまでもない。一方,2014年2月に開催された第32回周産期学シンポジウムのテーマ「Pretermを考える〜preterm児のCPとlate pretermの諸問題〜」にもあるように,母児の病態によって妊娠の延長を図るか妊娠を中断していくべきか否かは周産期医療の大きなテーマでもある。また妊娠期間延長を目的とした手段の一つとしての子宮収縮抑制剤,特にリトドリン塩酸塩の使用方法については国内外をはじめとして大きな転機を迎えつつある。

     さて,わが国では諸外国,特に欧米と比較し低い早産率を示しているが,その理由としては早産ハイリスク患者や切迫早産患者に対しての日本特有の緻密な管理と保険制度などが一因と考えられる。また,リトドリン塩酸塩は米国で子宮収縮抑制剤としてはfirst lineとして使用されることはなく,使用されるとしても48時間に限られている。しかしながら,日本では切迫早産患者に対して子宮収縮抑制を目的とし,そのfirst lineとしてリトドリン塩酸塩が長らく使用され,数週間という長期間に使用される現状がある。2013年10月にはヨーロッパの28カ国が加盟するEU(欧州連合)の欧州医薬品庁(EMA)が,妊婦や胎児に悪影響を与えるとしてリトドリンの産科適応の使用制限を決定し,経口剤(錠剤)は承認が取り消された1)。2015年にはWHOからもtocolysis全体に関しての勧告が出された2)。これらを受けてわが国でもリトドリン塩酸塩の使用方法について見直す傾向も出ているが,日本全体での実態は不明である。

     そこで,このたび日本周産期・新生児医学会の周産期学シンポジウム運営委員会が主体となり上記の実態調査を計画し,リトドリン塩酸塩の使用実態と副作用に関する調査を行うことにした。本調査は日本周産期・新生児医学会の学会事業として,当学会の母体・胎児専門医研修施設の指導責任者に,一次調査として現在実際に行われている管理基準について回答を依頼した。今後は一次調査の結果を踏まえて,副作用の実態把握に重点を置いた二次調査を実施する予定である。また,本研究は当学会として初めてWeb回答フォームを使用し,回答者への便宜と回収後の解析への便宜を図った。なお,本発表ではこの調査結果を,施設名などを伏せて報告する。

  • ─胎児MR診断における変化とみえてきたもの─
    赤坂 好宣
    p. 19-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     出生前診断にMRIが用いられるようになって久しい。ずいぶん以前は安易に胎児にMRIを撮像していいものか不安を抱いていたことが思い出される。初期には胎児MRの画質がそれほどよいものではなく,その前に産科で行われた超音波検査結果を確認することが主な役割であった。

     single shotによる撮像法が一般化した今日では,画質は出生後に撮像したものと遜色なくなってきた。これにより,胎児MRIの役割は超音波診断の確認作業から出生後と同レベルの画像診断が求められるようになってきた。その結果,どの施設でも満足のいく画像診断ができるとはいえなくなり,施設間で胎児MRIへの依存度が異なってきたといえる。

     このような移り変わりのなかで,対象となる疾患は大きくは変わらないものの胎児MRIに求められることには多少変化がある。

     本講演では,近年の胎児MRIで代表疾患など以前と変わってきた点,経験によりなんとなくみえてきたことなどを領域ごとに振り返ってみたい。

  • 細野 茂春
    p. 23-26
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     日本周産期・新生児医学会は2007年7月から周産期医療従事者を対象に,日本版新生児心肺蘇生法ガイドラインを認定講習会を通して修得していただくプログラムを学会認定事業として開始した。この講習会プログラム内容は,5年ごとにアップデートされる国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation: ILCOR)によるConsensus on Science and Treatment Recommendation(CoSTR)の改訂に合わせて日本蘇生協議会(JRC)を通じて改訂されるNCPRガイドラインに基づいて実施されている。2015年10月16日に発表されたJRC蘇生ガイドライン2015に基づく新生児蘇生法(Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation: NCPR)の改訂点について概説する。

シンポジウム午前の部
  • 田中 智子
    p. 29-33
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     従来の臨床的絨毛膜羊膜炎の診断は主に母体炎症に従い,正確な子宮内炎症,胎児炎症の診断が困難である。そこで従来の報告より子宮内炎症を羊水インターロイキン-6(AF IL-6)≧ 2,600pg/mL1),胎児炎症を臍帯血IL-6(Um IL-6)≧ 34.5pg/mL2)と定義し,さらに早発型新生児敗血症3)のカットオフ値とされるUm IL-6 ≧256pg/mL4)を胎児高度炎症として,子宮内治療と娩出の基準を設けられないか検討した。

  • 米田 徳子
    p. 35-39
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     子宮内感染,組織学的絨毛膜羊膜炎(histological chorioamnionitis: hCAM)は早産の主要因で,敗血症や胎児炎症反応症候群(fetal inflammatory response syndrome: FIRS)の最大のリスク因子だが,出生前に正確に診断する方法はない。また抗菌薬使用は前期破水(preterm premature rupture of the membrane:pPROM)症例では母子ともに有益であるが,未破水切迫早産では有益性はないという,相反する結果が得られている。

     未破水切迫早産の抗菌薬治療の問題点は,①臨床症状が重症例に投与されやすい,②培養法では結果判明までに数日かかる,③マイコプラズマ,ウレアプラズマなど難培養性菌が存在する1, 2),であり子宮内感染の同定が不十分なことから適切な抗菌薬を投与しているとはいえない。

     また,早産児の短期予後不良因子と長期予後不良因子についての報告では,日本では国際的に使用されているBayley乳幼児発達尺度で評価された報告が少なく,産科的因子と新生児予後との関連性を検証した報告が少ないという現状がある。

  • ─Cardiovascular profile scoreの有用性─
    三好 剛一
    p. 41-44
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     胎児先天性心疾患(congenital heart disease: CHD)の出生前診断率は向上してきており,卵円孔の狭小化を伴う左心低形成症候群や完全大血管転位症などの一部の疾患群では,出生前診断が予後の改善に寄与している1)。一方で,出生前診断により,計画分娩や帝王切開術(caesarean section: CS)が増え,分娩週数が早くなり,出生体重が小さくなることにより,予後を改善しなかったという報告もある2)

     当センターにおける胎児CHDの分娩管理は,経腟分娩を基本に,自然陣痛発来を待機する方針としており,分娩様式による予後に差がないことを報告してきた。分娩のタイミングについては胎内での心機能の変化や出生後の治療を考慮することにより,予後の改善が見込まれる可能性があるが,現時点では明確な指針はない。また,胎児CHDでは分娩時に胎児心拍数モニタリング異常が起こりやすいが,その予測因子はいまだ十分には解明されていない3)

     分娩のタイミングを考える上で,胎児の全身状態および心不全の重症度を判定する方法が必要となる。近年,Huhtaらによってcardiovascular profile(CVP)scoreが提唱された4)。CVP scoreは,腔水症,心拡大,心機能(房室弁逆流),静脈系血流波形異常,臍帯動脈血流波形異常の5項目(10点満点)からなる比較的簡便な胎児心不全の評価法で,スコアが低いほど重症度が高くなる(図1)。本スコアの最大の特徴としては,半定量的な評価が可能であること,心機能障害だけでなくそれに随伴する全身所見より総合的に評価していることが挙げられ,種々の病態に応用可能である5, 6)

  • ~愛知県におけるpopulation based study~
    中山 淳
    p. 45-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     胎児水腫(hydrops fetalis: HF)は,胎児の血管外,体腔内に過剰に水分貯留した状態で,5mm以上の皮下浮腫,心嚢水,胸水,腹水の2つ以上を有するものと定義され,胎盤浮腫や羊水過多の合併も知られている。

     HFの発症頻度は1,700~3,000妊娠に1例とされ1, 2),その生存率はHF全体で12〜24%,出生児に限っても50%程度と予後不良な疾患である1, 3, 4)。HFの予後関連因子として,原疾患,特に胎児治療不能例のほか,診断週数や分娩週数が早いことが報告されている5)。胎児治療は予後改善に寄与すると報告されており6),わが国でも2012年に重症胎児胸水に対する胸腔羊水腔シャント術(thoraco-amniotic shunting: TAS)が保険収載され,今後の普及が期待されている。

     HFの生命予後,発達予後関連因子や胎児治療の効果の検討を通じて,HFの周産期管理,特に予後からみた適切な娩出時期についての考察を行うことを目的に,多施設共同の後方視的検討を行った。

  • 笹原 淳
    p. 49-53
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     早産期発育不全児は,早産による未熟性に加えて育不全による新生児合併症も増加するため中・長期的予後という点からもハイリスクである1-3)

     海外の大規模研究によると,出生体重<3パーセンタイルの早産期発育不全児は週数相当の早産児と比較して,その新生児死亡率は約9倍にものぼる。在胎週数,出生体重,臍帯動脈血流および静脈管血流は,新生児死亡や神経学的予後不良に関連する周産期因子として認識されている4─6)。また,発育不全児における羊水過少は,一般的に胎児胎盤血流の悪化による結果として認識されており,その他の周産期因子とともに児の短期生存予後に関連するとする報告がされている7, 8)。しかしながら,早産期発育不全児の予後において,これらの因子を広く包括して解析した報告はない。

     このように予後に関連する因子が不明の状況で,臨床的に胎児発育不全児を管理する際の管理は施設ごとの判断に委ねられているのが現状である。発育不全状態を胎内で改善しうる方法はないため,胎児死亡を回避しつつ可能なかぎり妊娠週数を延長して児の未熟性を改善することが一義的に必要であろう。わが国における児の娩出基準もさまざまである(図1)。

     本研究は早産期発育不全児における短期・長期予後不良頻度を明らかにし,周産期因子と予後不良の関連性を明らかにすることを目的とした。

  • 橘 大介
    p. 55-59
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景と本研究の目的

     正常な胎児の発育には,特有な血液シャントシステムにより酸素濃度の高い血液をより効率的に分配する胎児循環の維持が重要である1, 2)。リスクの高い胎児発育遅延(fetal growth restriction: FGR)の抽出には臍帯動脈血流(umbilical artery: UA)のpulsatility index(PI)が有用であるが,胎児の状態悪化,特にearly preterm例などにおいては静脈管(ductus venosus: DV)血流のPIが指標の一つとして用いられる3─5)

     われわれはDVの血流速度波形(flow velocity waveform: FVW)が心機能および心周期を反映することに着目し,新しいパラメーターを確立すべくDV-FVWの各構成部位のtime-intervalを解析してきた6─8)。本研究では,①このパラメーターのFGR例における変化,②その変化の要因となる因子,③既存のパラメーターとの比較,さらに,④予後への関連性を解析することを目的とした。

  • 村越 毅, 小久保 雅代
    p. 61-62
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     母児の病態や子宮内環境の悪化を考慮した早期娩出か,児の未熟性を考慮した妊娠期間の延長か,周産期医療における最適な娩出のタイミングは,標準化した管理方針を示すことが難しく,前回のシンポジウム「周産期の炎症と感染」から引続く確立していない周産期管理のテーマである。本シンポジウムでは,「母児の予後からみた娩出のタイミングと方法」をテーマに,午前の部は,多様な病態ごとに6人のシンポジストに発表していただいた。

シンポジウム午後の部
  • ─周産期登録データベース2001-2013年登録例の解析─
    多田 和美
    p. 65-69
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     産婦人科診療ガイドライン 産科編(2008,2011,2014)(以下「ガイドライン」)1)では,前置胎盤の予定帝王切開は妊娠37週末までに行うことが推奨されている。ガイドライン作成に用いられた根拠論文の一つである米国の報告2)によると,約61,000件の前置胎盤単胎妊娠後方視的コホート研究では,周産期死亡率が最も低かったのは妊娠37週台(0.1%)での帝王切開であり,38週以降では周産期死亡率が増加していた。しかし,わが国の基幹周産期施設における前置胎盤の取り扱いの実態,特に産婦人科診療ガイドライン産科編出版以降の帝王切開実施施行週数などの実態が不明である。そこで,2001年より従来の周産期死亡登録から全数登録に拡張された日本産科婦人科学会周産期登録データベース(JSOG周産期DB)の登録レコードの解析により,後方視的に全国規模での動向調査が可能となると考えられた。JSOG周産期DBの登録施設数は,2001〜2013年にかけて116施設から301施設に増加した。全登録症例数は1,093,632例(全出産の約7%),周産期死亡数は8,980例(全出産の約20%)である。登録施設の特徴としては,ハイリスク症例が集積する2次・3次施設がほとんどで,NICUをもつ施設が約70〜85%,周産期センターが約70%である。このため,登録レコードは施設バイアスを伴っており,population baseのデータとはいえないが,今回の目的のためには利用可能と考えられた。

  • 谷村 憲司
    p. 71-75
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     癒着胎盤は,分娩時大量出血,子宮摘出,膀胱や尿管などの他臓器損傷ばかりではなく,妊産婦死亡の原因ともなりかねない,産科疾患のなかでも最も重篤な病態の一つである。前置胎盤は,単独でも癒着胎盤の主要なリスク因子であり,特に,帝王切開の既往歴が加わると,そのリスクはさらに増すことが知られている1)

     一方で,近年,熟練した医療スタッフや十分量の輸血,子宮動脈塞栓術などのinterventional radiology(IVR)を含めた術前準備を整えたうえで手術に臨むことで癒着胎盤に対する帝王切開─子宮全摘術(cesarean hysterectomy)の際の術中出血量を減らし,さらには,母体死亡を減らすことが可能となってきた2)

     当科では,2008年より前置癒着胎盤の疑いがある症例に対して,全身麻酔下で内腸骨動脈閉塞バルーンカテーテル(internal iliac artery occlusion balloon catheter: IIAOBC)と尿管ステントを留置したうえで帝王切開を行っている。児娩出後にIIAOBCを拡張させ,内腸骨動脈を一時的に遮断し,胎盤の自然剥離を待つ。もし,胎盤が剥離してこなければ,前置癒着胎盤と診断し,子宮摘出を行う方針としている。

     本ストラテジーによって,より安全にcesarean hysterectomyを遂行することが可能となるが,帝王切開執刀開始までの術前準備だけで平均100±24分を要し,さらに,産科,麻酔科,放射線科,泌尿器科の関連科医師だけでも10名以上を必要とする。したがって,人的資源を含む医療経済に対する負担を考慮すると,前置胎盤症例全員にIIAOBC留置を含む術前準備を行って帝王切開に臨むことは不可能である。

     そこで,当科では,前置胎盤症例を図1に示す指針に基づいて管理している。前置胎盤症例に対して,外来もしくは入院後に,超音波,MRI検査で癒着胎盤の術前評価を行い,前置癒着胎盤が疑われる症例にのみIIAOBCを術前留置している。警告出血等で緊急入院となった前置胎盤症例に対してもできるかぎり,癒着胎盤の術前評価を行っている。前置癒着胎盤を疑う症例の娩出時期は,原則的に妊娠36~37週としているが,切迫早産や膀胱鏡等で膀胱浸潤を疑う症例に対しては,緊急手術となることを回避するため妊娠35週での予定手術としている。一方,持続性出血や胎児適応等があれば,発生時点での緊急手術としている。

     2008年~2010年まではMRI検査でIIAOBC術前留置症例の選別を行ってきたが,偽陽性症例が多い印象であったため,2011年以降,独自に作成した前置癒着胎盤予測スコアを用いてIIAOBC術前留置の適応を決定している。

     今回,①われわれの癒着胎盤予測スコアの臨床的有用性を前方視的に検討し,さらに,②前置癒着胎盤症例に対するIIAOBC留置下帝王切開術の手術施行時期が母児に与える影響を後方視的に検討した。

  • 新垣 達也
    p. 77-82
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     前置胎盤は,妊娠中・分娩中の大量出血と深く関連し,母児双方にとって大きなリスクとなる。妊娠週数が進行するに伴って出血の可能性が高まる一方,早い時期の分娩は児の未熟性によるトラブルの原因となるため,両者を考慮して娩出のタイミングを図らなければならない。今回,児の未熟性によるトラブルが少なく,かつ母体が安全に帝王切開による分娩を終えるために,最適な分娩時期を決定することを目的として検討した。

  • ─母児の安全を考慮した至適分娩時期を探る─
    山本 亮
    p. 83-86
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     妊娠経過の順調なuncomplicated twinの最適な分娩時期については,いまだに議論が続いている。欧米の主要なガイドラインにおいては妊娠34週から38週,すなわちlate pretermからearly termでの分娩が勧められている1, 2)

     双胎の周産期死亡率は妊娠37週から38週で最も低くなり,妊娠39週以降は胎児死亡の増加に伴って増加する3, 4)。また新生児合併症も在胎週数とともに減少し,late pretermで出生した児に比べて,妊娠37週以降の児の罹患率は低くなる5, 6)。以上より児の予後という観点からは,妊娠37週から38週での分娩にある程度の妥当性があると思われる。

     一方で,妊娠継続に伴う母体のリスクに着目した研究は少数である。妊娠継続を図るにあたって注目すべきリスクの一つは妊娠高血圧症候群(pregnancy-induced hypertension: PIH)であるが,双胎におけるPIHは妊娠第3三半期後期での発症が多いことが示されている7)。わが国のガイドラインには双胎の分娩時期については明記されていないが,妊娠33週以降,母体のPIH,HELLP症候群,血栓症等に注意し,血液検査(血小板数,アンチトロンビン活性等)を行うことが勧められている8)

     本研究の目的は,母体有害事象のリスクを考慮した双胎の至適分娩時期を探るために,妊娠合併症なく妊娠36週に達した双胎妊婦において,PIHを始めとする有害事象の頻度と発症時期,および血液検査異常との関連を明らかにすることである。

  • 小澤 克典
    p. 87-91
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     双胎間輸血症候群(twin-to-twin transfusion syndrome: TTTS)の病態は胎盤上の両児間の吻合血管を介した血流の不均衡であり,一絨毛膜双胎の約1割に発生する。供血児は循環血液量が減少するため発育不全や羊水過少となり,悪化すると胎児死亡となる。受血児は循環血液量が増加し,羊水過多となる。また,供血児のレニン・アンギオテンシン系の亢進の影響を受け,前負荷および後負荷の増加から心不全となり,悪化すると胎児水腫や胎児死亡となる。胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation: FLP)は,妊娠16~27週のTTTSの児の予後を改善するために行われる胎児治療で,胎盤上の吻合血管をレーザーで凝固することによって病態が改善する。しかし,FLP後に一児が発育不全や胎児死亡となる症例もあり,FLPの術後管理において分娩時期の決定に苦慮することがある。

     FLP後の生命予後(短期予後)の報告は多数あり,少なくとも一児が生存した症例の割合は約80~90%となっている1─7)。2010年に報告した日本の成績では,両児生存が117/181(64.6%),一児生存が48/181(26.5%),少なくとも一児生存が165/181(91.1%)であった7)。FLP後の神経学的予後(長期予後)の報告もいくつかあり,評価時期は2~6歳とさまざまであるが,供血児の約10~15%,受血児の約10~20%に神経学的異常を認めている8─11)。FLP後の生命予後と神経学的予後から至適娩出時期を検討し,分娩週数とともに予後が良くなるが,32週以降は変化がないとの報告がある12)。しかし,いまだFLP後の妊娠管理における至適娩出時期に関する一定の見解はない。

  • 大槻 克文, 臼井 規朗
    p. 93-94
    発行日: 2016年
    公開日: 2024/03/01
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     第34回周産期シンポジウムのメインテーマは「母児の予後からみた娩出のタイミングと方法」であった。そのうち午前の部として「子宮内感染,子宮内炎症,先天性心疾患,胎児水腫,早産期発育不全児」についての議論,午後の部では「前置胎盤,前置癒着胎盤,双胎妊娠,双胎のうちでも特に双胎間輸血症候群」の主題について「母児の予後からみた娩出のタイミング」について議論を行った。

     今回,午後の部のシンポジウム開催に際し5名の先生方に発表をしていただいた。今回のシンポジウムでの発表と討議を経て,日本における母児の予後がより一層高まる緻密な周産期医療の提供に結びつけることを狙いとした。

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