周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第27回
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
序文
  • 大戸 斉
    p. 3
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     第27回周産期学シンポジウムは「早産重症胎児発育不全 severe preterm FGR(IUGR)」をテーマに13編の演題で2009年1月17日に福島県郡山市で開催されました。胎児発育不全FGR(Fetal growth restriction)の用語は,子宮内胎児発育遅延(Intrauterine growth retardation)からIntrauterine growth restrictionを経て変遷してきたものと聞いています。本シンポジウムでは周産期管理で最も悩んでいる,分娩させるには早すぎる,小さすぎる早産重症胎児発育不全に絞って議論を進めていただきました。胎児発育不全は20年前の第7回シンポジウムでも取り上げられましたが、現時点での課題とその解決に向けた新しい視点で企画されました。

     シンポジウム運営委員会(久保隆彦委員長)の周到な企画のもとに,重症胎児発育不全の病因,病理,動物モデル,多胎の観点から解析していただき,さらにはマスデータ解析,娩出時期,人工羊水注入介入,胎児発育不全児の追跡調査などの問題を取り上げ,ひろくかつ深く本質に迫りました。重症胎児発育不全の概念を集約し,明日からの診療に役立つことを願っています。

     振り返って,第25回の本シンポジウムでは「周産期の輸血療法をめぐって」のテーマで熱く討議されました。妊産婦の1%は3, 000mlを超える出血をし,容易に播種性血管内凝固症候群に進展するなど,急激に変化する病態などによる周産期医療の難しさと産科医の減少などの構造的な問題がこの領域の医療を困難なものにしています。シンポジウム企画はその後,産科領域の大量出血対策に産科医,麻酔科医,輸血医が知恵を寄せ合う機運となり,間もなく関連5学会から「産科危機的出血ガイドライン(案)」として提案される運びとなっています。このガイドライン(案)は多くの識者の意見を取り入れながら,妊産婦の実際の治療に役立ち,また診療にあたっている周産期医療現場の重圧が軽減されることも切に願っています。

シンポジウム午前の部:病因と病態
  • 中山 雅弘, 桑江 優子, 松岡 圭子, 濱中 拓郎, 末原 則幸, 和田 芳郎, 北島 博之
    p. 15-23
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     FGR(IUGR)は,母児の異常の発現形と考えられ,それの成因を知ることは妊娠中の母児管理に重要である。児の娩出時期,娩出方法を考慮するうえでも必要となる。病態を知ることにより,今後の治療への手がかりとなることも多い。

     これまでFGR(IUGR)に関する検討を行い,FGR(IUGR)と関連する新たな胎盤病変や,いくつかのFGR(IUGR)関連病変を整理し,再分類することとした1)。表1に示す。母体―胎盤系の異常を大きく分けて,1と2に分類した。簡単には,虚血型とフィブリン型と考えてもよい。肉眼的異常として,胎盤の形態異常と腫瘍性の異常とに分類した(分類3,4)。染色体異常や多発奇形症候群に伴う絨毛異常は分類5とした。子宮内感染症では,絨毛膜羊膜炎(CAM)はFGR(IUGR)に関与しないと考え,分類に反映していない。血行性感染症は,サイトメガロ症など,ときに強いFGR(IUGR)を伴うので分類に入れた(分類6)。絨毛の血管障害型のFGR(IUGR)の存在を認識することは重要である。その病因や予後および次回の繰り返しについて今後検討の必要性がある(分類7)。臍帯因子は,分類8とした。胎盤病理で異常が見出せない症例も分類に含めている(分類9)。

     以下,この分類の順に詳細を示す。

  • ―特に周産期から出生後12カ月について―
    三浦 清徳, 山崎 健太郎, 三浦 生子, 嶋田 貴子, 藤本 洋子, 吉田 敦, 中山 大介, 増崎 英明
    p. 25-29
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     原因不明のsevere preterm IUGR(以下,IUGR)には,しばしばconfined placental mosaicism(CPM)が認められる1)。CPMとは,胎児は正常核型であるにもかかわらず胎盤にのみ染色体異常を認める病態であり,直接的には染色体異常に伴う胎盤機能不全,間接的には胎児のuniparental disomy(UPD)あるいはインプリンティング異常のためIUGRをきたす可能性が指摘されている(図1)2,3)

     私どもは,原因不明のFGR(IUGR)における周産期事象や出生後の発育・発達とCPMとの関連について検討した。

  • ―モデルマウスからの解析―
    川口 里恵, 梅原 永能, 二階堂 孝, 上出 泰山, 和田 誠司, 杉浦 健太郎, 大浦 訓章, 恩田 威一, 田中 忠夫
    p. 31-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome;APS)は,抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody;APL)が陽性で,かつ血栓症,習慣流産,または血小板減少症のいずれか臨床症状を認める症候群として提唱された比較的新しい疾患概念である1)。1986年にSLE患者の中のカルジオリピン抗体陽性者に血栓症および習慣流産の合併が多いことから報告された。特定難病疾患の一つであり,1998年の全国調査によると全国に3,700人と報告されているが実際にはもっと多いと推定される。

     APSの診断基準であるが,詳細な病態解釈は医学の進歩に伴い随時変更しており,1999年に国際血栓止血学会(ISTH)により診断基準「Sapporo Criteria(サッポロ分類基準案)」が報告されたものの2),2006年には一部変更され(表1),その説明文には流動的な表現が多く使われている3)

     検査基準は,β2GPI依存性抗カルジオリピン抗体IgGかIgM,あるいは抗カルジオリピンIgG抗体かIgM抗体が中高力価以上,ISTHのガイドラインに準じてLAC(lupus anticoagulant)が陽性,以上の結果が12週間以上はなれた別の機会で得られることが条件である。

     臨床基準であるが,産婦人科領域において習慣流産はよく知られているが,1998年に自己免疫疾患,特に抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody;APA)が原因で起こるFGR(IUGR),妊娠中毒症(妊娠高血圧症候群),不育症などの疾患がreproductive autoimmune failure syndrome(RAFS)として報告され4),Sapporo Criteriaには妊娠10週以降の子宮内胎児死亡や胎盤機能不全を誘引とするPIHと早産が産科的臨床基準に追加された。FGR(IUGR)はSydney/Sapporo Criteriaには含まれていないものの,胎児形態異常や臍帯因子を認めないFGR(IUGR)のなかには胎盤機能不全を誘因としてAPAが関与している症例もあると考えられる。

  • 早川 昌弘, 中山 淳, 竹本 康二, 伊東 真隆, 齊藤 明子, 佐藤 義朗
    p. 37-42
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     胎児発育不全(fetal growth restriction;FGR(IUGR))の原因は多岐にわたるが,妊娠中期発症の重症妊娠高血圧症候群により発症するFGR(IUGR)は,児の早期娩出を余儀なくされることや,精神発達遅滞,認知障害など神経学的後障害1~3)の見地からも重要な病態の1つである。

     重度FGR(IUGR)児の神経学的後障害の発症機序はいまだ解明されていないが,その理由の1つとしてヒトにおける研究は倫理的側面から疫学調査を中心とした臨床研究にならざるを得ないことがあげられる。神経学的後障害の病態解明にはモデル動物を利用した基礎的検討が不可欠であり,現在までにもいくつかのFGR(IUGR)モデル動物の報告がある。子宮動脈結紮にてFGR(IUGR)を誘導するモデル4)や喫煙5)・低栄養6)などの母獣への負荷を与えてFGR(IUGR)を誘導するものもあるが,いずれもヒトにおける妊娠中期発症重症妊娠高血圧症候群が原因のFGR(IUGR)の病態と合致していない。我々は,妊娠高血圧症候群の原因の1つとして,プロスタサイクリンとトロンボキサンとの不均衡があげられること7~9)にヒントを得て,合成トロンボキサンA2(synthetic thromboxane A2;STA2)を持続投与する方法でFGR(IUGR)モデルラットを作成した10)。FGR(IUGR)モデルラットの身体発育様式および運動学習能力の評価を行い,ヒトにおける重度FGR(IUGR)児との臨床像を比較した後,中枢神経障害の機序解明のために,中枢神経の組織学的検討11,12),分子生物学的検討を行った13)

  • ―消化管穿孔ならびに胎便関連性腸閉塞に関する検討―
    奥山 宏臣, 佐々木 隆士, 清水 義之, 窪田 昭男, 川原 央好, 長谷川 利路, 米田 光宏, 野瀬 恵介, 三谷 泰之, 野村 元成 ...
    p. 43-46
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     新生児における消化管機能障害は,早期の経腸栄養が困難になるばかりでなく,ときに消化管穿孔という重大な合併症を引き起こし,生命予後ならびに長期予後に対する大きな危険因子となる1)。新生児期に消化管機能障害を引き起こす疾患のなかでも,先天性腸閉鎖症といった器質的病変を伴わない疾患としては,細菌感染を原因とする壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis;NEC)がよく知られている。しかし,最近では低出生体重児の出生数の増加傾向とともに,NECを伴わない特発性消化管穿孔や胎便排泄障害に伴う腸閉塞が周産期医療における大きな問題点となってきた。このような背景のもとで,器質的な疾患を伴わず胎便に起因すると考えられる新生児腸閉塞を総称して,胎便関連性腸閉塞(meconium related ileus;MRI)という概念が1995年に窪田らによって提唱された2)。従来,胎便に関連した腸閉塞はmeconium disease,meconium plug syndrome,meconium ileus without mucoviscidosis,small left colon syndromeなどの名称で呼ばれていたが,実際にはそれぞれを区別することは困難であり,最近ではこれらを共通の病態をもった一つの疾患とする認識が広まっている。

     一方で,近年その成育限界や長期予後が大きな問題となっている早期重症胎児発育不全(severe preterm FGR(fetal growth restriction))では,出生後に胎便排泄障害がみられることが多く,このことが生命予後だけでなく長期予後にも関与していると報告されている3,4)。しかし,FGR(IUGR)がMRIの発生にどのように関与しているかはいまだ明らかでない点が多い。

     そこで今回我々は,極低出生体重児における消化管機能障害として,消化管穿孔ならびにMRIに注目し,これらの病態とFGR(IUGR)との関連について検討した。

  • ─臍帯動脈血流波形による病型分類に基づく予後の検討─
    石井 桂介
    p. 47-52
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     双胎間輸血症候群(Twin-twin transfusion syndrome;TTTS)の超音波検査を用いた診断基準は,一絨毛膜双胎において一児が羊水過多つまり羊水ポケットが8cm以上,かつ他方の児は羊水ポケットが2cm以下の羊水過少を同時に示すことである。胎盤吻合血管を介する血流不均衡がその主病因と考えられており,近年早期発症例に対しては胎児鏡下レーザー凝固術(Fetoscopic laser photocoagulation;FLP)を中心とした管理が導入されて以降,周産期予後の改善を認めた1)

     一方TTTSには該当しない一絨毛膜双胎でもハイリスク症例が存在する。特に一児が子宮内胎児発育不全のものをSelective intrauterine growth restriction(Selective IUGR)と呼ぶ。以前は両児間の推定体重の差は胎児期のTTTSの診断に用いられていたが,Selective IUGRはTTTSの基準を満たさないものであり,羊水量の異常は診断には加味しない。

     欧米では小さな児の推定体重が10パーセンタイル以下のものをSelective IUGRの診断基準とするのが一般的である2~5)。以前GratacosらはDiscordant rateが25%以上のものもSelective IUGRとしていたが3),Discordant rateによる診断と一児が発育不全であることは必ずしも一致しないため,現在この基準は除外されている5)。わが国ではJSUMの式9)を用いた胎児推定体重によるFGR(IUGR)の診断が一般的であり,推定体重が-1.5SD以下の場合にSelective IUGRとするのが合理的であると思われる。Selective IUGR胎児のなかでも超音波ドプラ法による臍帯動脈拡張期血流途絶・逆流を認めるものが特に病的であると認識されている2~6)

     Selective IUGRを発症する主な背景としては,TTTSの主病因と考えられている吻合血管を介した血流の不均衡よりも,むしろFGR(IUGR)胎児の胎盤の占有領域が小さいことによる潜在的機能不全と考えられている2~7)(図1)。FGR(IUGR)として重症例では低酸素血症,アシドーシス,あるいは胎児機能不全,胎児死亡のリスクを持つことがあるのは当然であるが,さらに一絨毛膜双胎であるために一児死亡の場合には他方の胎児の死亡や神経学的後遺症のリスクがある。しばしば周産期管理に難渋することがあるが,病態の十分な把握がなされていない。欧米で試みられている胎児治療2,8)も含めた周産期管理指針の確立が求められるが,その前段階として現時点でのわが国における自然史の把握が必要である。

  • 中尾 秀人, 齋藤 滋
    p. 53-54
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     1989年第7回日本周産期学会(武田佳彦会長)において,IUGR(病因と病態,管理と予後)が議論され,20年が経過した。当時は「病因と病態」として妊娠高血圧とIUGR,胎盤機能からみたIUGR,成長因子とIUGR,IUGRの成因別の循環動態が議論された。20年経過し,周産期医療が大きく進歩したため,near termのIUGRについては多少の問題を残すものの,さほど大きな問題ではなく,むしろこれらの児では成人期以降に起こる成人病発症のリスクの高いことが議論されている。20年経過した現在においても依然として産科医,新生児科医を大いに悩ましているのが,早産重症胎児発育不全〔severe preterm FGR(IUFR)〕である。分娩させるにしても早過ぎる,長期的な児の予後が不明,種々の要因によりFGRが引き起こされるため画一的な治療方針が取れないなどの面で,産科医,新生児科医はその管理に困惑しているのが実状であろう。午前中のセッションではまず病因と病態につき議論したうえで,午後からは各病態ごとの管理や予後につき議論した。

シンポジウム午後の部:管理と予後
  • 宮下 進, 中村 友彦, 菊池 昭彦
    p. 57-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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    Fetal growth restriction;FGR(IUGR)(胎児発育遅延)を理解し治療戦略を検討するうえで,患者の発生状況やリスクの把握は必ず必要となる。我々はFGR(IUGR)の結果としてのsmall for gestational age;SGAについて多施設でのデータを用いて解析を試みた。
  • 中澤 祐介, 茨 聡, 丸山 有子, 丸山 英樹, 徳久 琢也, 林田 良啓, 藤江 由夏, 松井 貴子, 前出 喜信, 井上 武, 青山 ...
    p. 73-82
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     近年の周産期医学の進歩,ME機器の発達に伴い,早産児の生命予後,発達予後は目覚ましい改善を遂げている。当センターにおいても,1978年の開設当時,超低出生体重児の年間出生数が20例前後で生存率は40%前後であったのに対し,近年は超低出生体重児の年間出生数が60例前後で80%程度の生存率となっている(図1)。また,30年前と比べ,より小さく,より早く出生した児の救命率,intact survival率も改善している。しかし,胎児発育不全(以下FGR(IUGR))は,近年の周産期医療の進歩をもってしても救命し得ない重症例,発達予後不良例も少なくなく,その周産期管理・娩出時期の決定に苦慮することが多い。このため,本研究は,娩出時期決定の重要な因子となる[I]FGR(IUGR)早産児の生育限界(在胎週数,出生体重)の検討,および[II]FGR(IUGR)早産児の発達予後に影響を及ぼす周産期因子の検討,を行った。

  • 種元 智洋
    p. 83-87
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     通常の胎児発育不全(fetal growth restriction;FGR(IUGR))症例は,PIHなどの母体適応やBPS不良などの胎児適応から娩出の適応が決定される。しかし,重症の胎児発育不全(Severe preterm FGR(IUGR))症例では,娩出に際して成育限界を考慮すると,同一の基準で管理するべきかはいまだ解明されていない。そこで今回は,出生前に産科的検査から得られるパラメーターと新生児予後の解析から,Severe preterm FGR(IUGR)の娩出基準の確立を目的として検討した。

  • ─パイロットスタディ─
    高橋 雄一郎, 岩垣 重紀, 西原 里香, 津田 弘之, 岩砂 智丈, 木越 香織, 川鰭 市郎
    p. 89-93
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     子宮内胎児発育不全(fetal growth restriction;以下FGR(IUGR))は原因が多岐にわたる症候群であるため,その管理法も一定のコンセンサスを得られていない。近年,妊婦健診の質の向上に伴い,早期に超音波検査で異常を指摘されて,紹介されてくる症例が増加してきている。わが国でもNICUの技術の向上1)と相まって,出生前診断および産科管理のニーズは妊娠20週台前半へと着実にシフトしてきている。そんな中,羊水腔がほとんど認められない重症羊水過少のsevere FGR(IUGR)は,妊娠早期であればあるほど生育限界により娩出ができないため,産科管理といっても,ただ観察するのみとなり,胎内死亡,死産となってしまうこともしばしば経験する。我々は,特に,循環障害,重症羊水過少をきたして,胎内死亡の可能性の高いsevere FGR(IUGR)に対して子宮収縮抑制および人工羊水注入を併用した新しい積極的な子宮内環境改善の為の介入を行い,救命できる症例を経験してきた。今回,これらの症例を後方視的にまとめたので報告する。

  • 櫻井 基一郎, 板橋 家頭夫
    p. 95-100
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     わが国の平均出生体重は1980年以降減少し続けている。その要因の一つにあげられるのが低出生体重児の増加で,最近では全出生の10%に達している1)。周産期医療の進歩によって早期産に対する介入も以前に比べてより積極的に行われ,NICUには多くの早産SGA児が入院するようになってきた。

     正期産児と比べ,早産SGA児では出生後の成長も緩慢であることが多い。NICU入院中に生じた早産児の成長遅延はExtrauterine growth restriction(EUGR)とよばれており,NICU退院後の成長のみならず発達予後にも影響を与えると考えられ,EUGRをいかに減少させるかは新生児医療の重要な課題である。

     本項ではわが国における早産SGA児の成長について論じてみたい。

  • ―子宮内発育および胎外発育と認知発達との関連性―
    田中 恭子, 関川 麻里子, 今 紀子, 吉川 尚美, 久田 研, 東海林 宏道, 奥村 彰久, 清水 俊明
    p. 101-107
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     近年,周産期および新生児医療の進歩により,わが国における未熟児,特に超低出生体重児の救命率は大きく改善した1~4)。それはこれまで周産期医療に携わり,研究を行ってきた多くの先輩方の大きな功労によるものである。しかしながら一方で,救命しえた小さなこども達がほぼ順調に成長発達していく中で,小学校に入学する前後でなんとなく周りのペースについていけない,友達とうまくコミュニケーションをとれない,読むことが特に苦手,などの発達上の問題が生じることを経験するのも事実である。これまでの報告では,低出生体重児,特に子宮内発育不全児では境界域知能を含む精神遅滞,注意欠陥多動性障害(ADHD)などの行動情緒障害5~9),認知発達上の偏りを示す学習障害(LD)のリスク10~14)などが報告されてきた。

     これまで私達は,NICU退院後の未熟児フォローアップにおいて新生児科医による定期健診に加え,小児科医が発達検査を行う発達外来にて発達支援と必要な早期介入を指示しているが,その結果から未熟児の言語発達は遅れる傾向があり,さらに就学時に認知発達の偏りを認める症例が多いことを報告してきた。そこで今回は,これまでフォローアップを行っている極低出生体重児を対象に,①胎内および胎外発育度と就学時認知発達との関連性の検討と,②認知指数低値症例(認知指数85未満)の周産期因子および発達経過とその特徴の検討を行ったので報告する。

  • 東海林 宏道, 久田 研, 李 翼, 鈴木 光幸, 吉川 尚美, 北村 知宏, 田中 恭子, 清水 俊明
    p. 109-114
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     多価不飽和脂肪酸(long-chain polyunsaturated fatty acids;LCPUFA)は新生児・乳児期の栄養に不可欠な成分の一つである。ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA;22:6n-3),アラキドン酸(arachidonic acid:ARA;20:4n-6)は大脳や網膜の細胞膜脂質の主要なLCPUFAであり,母体から胎児へのこれらの蓄積は,約8割が妊娠最後の3カ月間で行われることが知られている1)。つまり,妊娠後期の母児間脂肪酸輸送が制限される早産児では,DHAおよびARAの供給が不十分である可能性がある。しかし,早産児にもDHAやARAの前駆物質でかつ必須脂肪酸であるαリノレン酸(α-linoleic acids:LNA;18:3n-3)やリノール酸(linoleic acids:LA;18:2n-6)(図1)から内因的に合成する能力があるとされていが,この内因合成は児の生理的必要量を満たしていないものと考えられる。DHAが十分蓄積されない児には神経発達に影響が及ぶとされ,血中ARAレベルは乳児期の成長と密接な関連があると考えられている。

     子宮内発育制限(intrauterine growth restriction;IUGR)もしくは胎児発育制限(fetal growth restriction;FGR)の多くは適切な発育を得るために十分な栄養素を胎盤が供給できなかった場合に起こる2)。動物モデルを用いたFGR(IUGR)の検討では,胎盤機能不全は胎児の骨格筋や肝臓における脂肪代謝障害に関連することが報告されている3)。しかし,極低出生体重(very low birth weight;VLBW)児におけるFGR(IUGR)の有無と出生後のDHA,ARAの血中レベルもしくは長期の神経運動発達予後との関連についての検討は十分ではない。そこで今回我々は,生後早期のVLBW児における赤血球膜リン脂質脂肪酸組成と修正18カ月時の精神運動発達予後についての検討を行った。

  • 久保 隆彦, 伊藤 裕司
    p. 115-116
    発行日: 2009年
    公開日: 2024/03/01
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     午後の部前半はSevere preterm FGR(IUGR)の娩出時期ならびに管理について,後半はFGR(IUGR)から出生した児の長期予後に関する検討が行われた。今回の新生児科側の発表はいずれも出生体重から評価したSGA(light for date)を対象としており,胎内発育曲線から得られたFGR(IUGR)よりSGAは小さい体重を正常としているという違いを認識して議論しなければならない。今後はFGR(IUGR)という対象のとらえかたが重要であるので,FGR(IUGR)とSGAとの間の新生児科的な臨床上の予後の違いがいかなるものかについても検討していかなければならないであろう。

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