はじめに
双胎間輸血症候群(Twin-twin transfusion syndrome;TTTS)の超音波検査を用いた診断基準は,一絨毛膜双胎において一児が羊水過多つまり羊水ポケットが8cm以上,かつ他方の児は羊水ポケットが2cm以下の羊水過少を同時に示すことである。胎盤吻合血管を介する血流不均衡がその主病因と考えられており,近年早期発症例に対しては胎児鏡下レーザー凝固術(Fetoscopic laser photocoagulation;FLP)を中心とした管理が導入されて以降,周産期予後の改善を認めた1)。
一方TTTSには該当しない一絨毛膜双胎でもハイリスク症例が存在する。特に一児が子宮内胎児発育不全のものをSelective intrauterine growth restriction(Selective IUGR)と呼ぶ。以前は両児間の推定体重の差は胎児期のTTTSの診断に用いられていたが,Selective IUGRはTTTSの基準を満たさないものであり,羊水量の異常は診断には加味しない。
欧米では小さな児の推定体重が10パーセンタイル以下のものをSelective IUGRの診断基準とするのが一般的である2~5)。以前GratacosらはDiscordant rateが25%以上のものもSelective IUGRとしていたが3),Discordant rateによる診断と一児が発育不全であることは必ずしも一致しないため,現在この基準は除外されている5)。わが国ではJSUMの式9)を用いた胎児推定体重によるFGR(IUGR)の診断が一般的であり,推定体重が-1.5SD以下の場合にSelective IUGRとするのが合理的であると思われる。Selective IUGR胎児のなかでも超音波ドプラ法による臍帯動脈拡張期血流途絶・逆流を認めるものが特に病的であると認識されている2~6)。
Selective IUGRを発症する主な背景としては,TTTSの主病因と考えられている吻合血管を介した血流の不均衡よりも,むしろFGR(IUGR)胎児の胎盤の占有領域が小さいことによる潜在的機能不全と考えられている2~7)(図1)。FGR(IUGR)として重症例では低酸素血症,アシドーシス,あるいは胎児機能不全,胎児死亡のリスクを持つことがあるのは当然であるが,さらに一絨毛膜双胎であるために一児死亡の場合には他方の胎児の死亡や神経学的後遺症のリスクがある。しばしば周産期管理に難渋することがあるが,病態の十分な把握がなされていない。欧米で試みられている胎児治療2,8)も含めた周産期管理指針の確立が求められるが,その前段階として現時点でのわが国における自然史の把握が必要である。
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