周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第26回
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
序文
  • 小泉 武宣
    p. 3
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     第26回日本周産期・新生児医学会周産期学シンポジウムをプレコングレスと併せて2008年1月18日(金),19日(土)の2日間,ホテルメトロポリタン高崎にて開催させて頂きました。北島博之運営委員長を始めとする周産期学シンポジウム運営委員会の企画のもとに「周産期の栄養」をテーマといたしました。今回のテーマが,心身ともに健康で伸びやかな次世代の育成にとって,医学的にも社会的にもきわめて重要な課題で時宜を得たテーマのためか今までにない多くの応募演題を頂きました。周産期学シンポジウム運営委員会により検討が重ねられ,結局関連演題も含めて半数の13題が厳選されました。

     午前の部では,松田義雄先生(東京女子医科大学母子総合医療センター産科)と長 和俊先生(北海道大学病院周産母子センター)に座長をして頂き,胎児発育と栄養についての遺伝学的,栄養学的および環境的因子を取り上げた臨床データ,動物実験について討議して頂きました。

     午後の部では,板橋家頭夫先生(昭和大学小児科)と上谷良行先生(兵庫県立こども病院小児科)に座長をして頂き,前半ではSGA児や超低出生体重児の栄養管理における対応と長期予後や脳波成熟の検討を,後半ではprobiotics,prebiotics,n-3系多価不飽和脂肪酸投与の効果,および新生児期発症のミルクアレルギーについておまとめ頂きました。

     プレコングレスの“科学的根拠に基づく母乳育児支援”では佐藤 章先生(福島県立医科大学産婦人科)と吉池信男先生(独立行政法人国立健康・栄養研究所)に座長をして頂き,エビデンスに基づいた母乳育児とその支援が紹介され,これからの我が国の子育てとその支援のあり方に大きく貢献すると期待されるものとなりました。またランチョンセミナーとしては,高橋尚人先生(自治医科大学総合周産期母子医療センター)による「RSウイルス感染症の現状と産科・小児科の連携によるPalivizumab投与」をお願いしました。

     お陰様で,地方での開催にもかかわらず全国から458人の先生方にご参加頂き内容的にも実りあるシンポジウムとなりました。最後になりましたが,本周産期学シンポジウムの成功にご協力頂いた関係各位,ご参加頂いた会員の皆様に厚く御礼申し上げます。

シンポジウム午前の部:周産期
  • ―生活習慣病関連遺伝子群の遺伝子多型と胎児発育との関連から―
    長田 久夫
    p. 15-20
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     研究背景

     日本では現在約2,000万人がメタボリック症候群とその予備群に該当し,特に中年男性では約50%の発生率が見込まれている。生活習慣病(成人病)は,遺伝的素因と生活習慣(環境因子)の相互作用により生じるといわれているが,この考え方だけではすべての成人病の発症は説明できず,現在,第3の発症説が注目されている。すなわち「胎児期または乳児期に,低栄養または過栄養に曝露されると,成人病素因が形成され,その後の生活習慣の負荷により成人病が発症する」という成人病胎児期起源説(Fetal Origins of Adult Disease;FOAD説)である1, 2)。この説は,健康と疾病の発症素因は胎児期,乳児期にあるとの概念に大きく発展している。これをDOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)説3)という(図1)。胎児期,乳児期の栄養状態が生活習慣病の発症にかかわる機序としては,非可逆的な解剖学的構造の変化,持続する遺伝子発現制御機構の変化,ストレスに対する過剰な反応などがあげられている。

     一方従来から生活習慣病に罹患しやすい遺伝子多型が存在するとされている。遺伝子多型とは,遺伝子塩基配列上に存在する個人間の相違で,原則として疾病の直接的原因とはならないが遺伝子発現量などに影響を及ぼすことがある。我々の祖先は,長い飢餓の時代に少ないエネルギー消費量で生き残れる遺伝子多型,すなわち倹約遺伝子型(Thrifty Genotype)を獲得した4)。しかし,食物が豊かになると倹約遺伝子型を持っていることはかえって不利に働き,生活習慣病に罹患しやすいと考えられる。さらに,倹約遺伝子型が胎児期の発育に関与することによってDOHaD説の成立に何らかの形で寄与している可能性がある(図2)。

     この考え方は,最近のSNPs(single nucleotide polymorphisms)解析技術の発達に伴い広い範囲で検証可能となりつつある。そこで今回,胎児期の形質と成壮年期の疾病との遺伝的連鎖モデルとして,糖尿病関連領域とG蛋白遺伝子内の遺伝子多型を選択し胎児発育への関与を検討した。

  • 村上 真紀, 堤 誠司, 金杉 浩, 大道 正英, 倉智 博久
    p. 21-25
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     妊娠前の母のBody Mass Index(以下BMI)および妊娠中の体重増加量と母児の周産期予後の関係については,国内外において多くの研究・報告がなされている。妊娠前BMIについては,妊娠前の肥満は妊娠糖尿病1~3),妊娠高血圧症候群1, 4, 5),帝王切開6~8)などのリスクを上昇させること,また,妊娠前のやせは,早産9, 10)や低出生体重児10, 11)のリスクを上昇させることが知られている。一方,妊娠中の体重増加量については,過剰な体重増加は妊娠高血圧症候群12)や妊娠糖尿病13)のリスク要因とする研究があるが,これら因果関係の有無についてはcontroversialな報告も存在する。また,不十分な体重増加は低出生体重児のリスク要因であるといわれている14)

     海外においては,IOMの勧告(表1)15)などにより,妊娠前BMI別に,妊娠中の推奨体重増加量が示されている。近年の日本においては,厚生労働省健やか親子21(表2)16)により,妊娠中の体重増加量の推奨値が示されている。しかしながら,欧米人と日本人の体型に差異があること,また,近年,20~40代の女性においては,過去20年でBMI 18.5未満で「やせ」に分類される女性の割合がほぼ倍になっている(図1)17)など,妊娠可能な年代の女性の体型が変化していることを踏まえると,当該指標は,海外の研究を中心とした複数の研究報告から推奨体重増加量を推定しており,国内の情報も含まれているが限られていること,発表時期が近年のものではない報告も含まれることなどの問題点があるとも考えられる。

  • 高橋 秀憲, 菅原 登, 橋本 敏, 藤森 敬也, 大川 敏昭, 佐藤 章
    p. 27-35
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     最近,日本では出生体重の低下傾向が問題視されてきた。低出生体重児の出生割合の増加の原因として,20~30代の極端なやせ願望や,医療現場での妊娠高血圧症候群発症予防目的とした妊娠中の体重制限などがあげられる。胎児期(妊娠中)に低栄養に曝された子宮内発育遅延(intrauterine growth restriction;IUGR)児では周産期罹病率や周産期死亡率が高くなり,成人後に肥満,2型糖尿病,高脂血症,高血圧,心臓血管障害など生活習慣病のリスクが有意に高くなることがBarkerらの疫学的研究1, 2)や動物実験3)で示唆され,成人病胎内期起源仮説(Fetal Origins of Adult Disease;FOAD)が提唱された。

     これらはいずれも妊娠中の栄養制限に引き続き生じる成人病が当初のキーワードであり,Dutch Famineなどの疫学的事実4)から妊娠中の前期・中期・後期の時期別に胎児に及ぼす影響に差があることも明らかになった。近年では母体栄養だけでなくさまざまな要因により,児の将来における種々の疾患(炎症,腫瘍,精神疾患など)発症との関連性も見出されたため,現在FOADは更にその枠を越え,Developmental Origins of Health and Disease;DOHaDとして認識されている。

     さらに出生後の小児期の研究では,妊娠中の各時期のみならず母乳栄養など産褥授乳期の栄養調節が,その成人病発症調節に寄与する可能性についても報告5)されている。

     一方,食生活の変化も問題視されている。妊娠前からのジャンクフードやマーガリン,レトルト肉食品などトランス不飽和脂肪酸や飽和脂肪酸を多く含む高脂肪食摂取など急速な欧米型食生活習慣への変化である。また,出生直後からの高栄養人工乳摂取や小児期から始まる欧米型の食生活習慣が,成人病増加にきわめて負の貢献をした可能性も指摘されている。近年,母体妊娠期の低栄養や欧米型高脂肪食摂取による児の成人病発症の報告も散見されるが,胎児期に引き続く乳児期との関連性の検討はいまだ不十分である。

  • 鈴木 佳克, 山本 珠生
    p. 37-41
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     妊娠高血圧腎症は,高血圧と蛋白尿を主徴とする症候群である。その病態は明らかではないが,血管内皮機能障害が関与すると考えられている。近年,その血管内皮機能異常はendothelial activationとよばれる通常の高血圧や循環器病疾患にみられるものとは異なったものであるとの仮説が提唱されている。すなわち,妊娠初期の胎盤形成不全が存在すると子宮胎盤血流の低下が発生する。その循環不全の結果,局所から全身にサイトカイン,活性酸素(O2-)などのnoxious agentsが分泌される一方 で,一酸化窒素(NO),プロスタサイクリン(PGI2)やエンドセリンなどのvasogenic agentsも分泌される1)。それらのagentsのバランスにより,循環不全が代償されるか,あるいは内皮機能が障害されるのであろう。

     我々は,妊娠高血圧腎症患者における血管内皮機能の特性変化についての検討をすすめてきた。妊娠高血圧腎症患者の血管内皮機能においてNOの反応異常,PGI2産生障害が発症していることを明らかにした。

     動物実験にて硝酸薬の長期投与は①アンギオテンシン(Ang)II 1型受容体(AT1R)を介したNAD(P)H oxidase活性化によるO2-産生増加により内皮由来NOやPGI2の機能減弱を発生させる,②O2-が細胞内テトラヒドロビオプテリン(BH4)量の減少とL-アルギニン(L-Arg)トランスポーター抑制によって内皮型NO合成酵素(eNOS)の活性低下をもたらすことも明らかにした。

     妊娠高血圧腎症発症予防やその治療として塩分制限やカロリー制限などの栄養管理が行われてきた。その基本管理として,発症予防や軽症妊娠高血圧腎症を対象としているが,その有効性は明らかとはいえない。我々は,これらの研究結果をもとに,妊娠高血圧腎症患者での内皮機能障害改善を目指した栄養管理に関する研究を進めている。ここでは,葉酸やL-Argを用いた血管内皮機能正常化を目標とした栄養に関する研究について述べる。

  • ─過去19年間の変遷および相関する因子の検討─
    門脇 浩三, 奥野 健太郎, 数見 久美子, 瀬戸 佐和子, 木下 聡子, 濱中 拓郎, 福井 温, 末原 則幸, 和栗 雅子, 宮下 義博 ...
    p. 43-48
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     近年日本においては出生体重の低下が報告されている1~3)

     英国のBarkerらは小さく産まれた児は成人期に高血圧や糖尿病を発症するリスクが高いことを見出し,成人病胎児期起源説(The Fetal Origins of Adult Disease(FOAD)theory)を提唱した4)。彼らはまた胎盤重量をも併せて検討し,低体重でかつ胎盤重量が大きい場合に50歳時の高血圧発症のリスクが最も高いと報告している5)

     今回我々は大阪府立母子保健総合医療センターの過去19年間(1985~2003)の分娩データベースから,各年ごとの出生体重,胎盤重量,および両者の比(胎児/胎盤重量比(F/P ratio))の平均値を算定し,それぞれの経年的な推移を観察した。またそれらの変化に寄与する因子を検討するために母体の身体計測値の年次推移や妊娠高血圧症候群の有無,妊娠中の喫煙歴の有無などの諸データとの相関を分析した。

     一方,分娩時に臍帯血を採取し臍帯血中の生理活性物質を測定しそれらと出生体重,胎盤重量さらに胎児/胎盤重量比との関連を解析した。

     以上の解析結果をふまえ,近年の胎児胎盤系の発育の潮流をFOAD説の観点に立ち考察を試みた。

  • 和田 芳郎, 望月 成隆, 高橋 伸方, 細川 真一, 南條 浩輝, 杉本 佳乃, 西澤 和子, 白石 淳, 佐野 博之, 平野 慎也, 北 ...
    p. 49-53
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     トランス脂肪酸は,元来,自然界で微量に生成されてきたものであるが,近年,植物性油脂を高温で加熱する過程での副産物として多量に生成され,さまざまな食品に含まれるようになった。トランス型の脂肪酸は分子形状が直線に近い形となり,物理化学的性質もシス型の脂肪酸とは異なる。細胞膜に含まれる割合が増せば,細胞膜を硬化させその機能に影響を与えると推測される1)

     内閣府食品安全委員会の2007年のファクトシート2)では,油脂類のほか,それらを原材料とするビスケット・ケーキ類に多く,1989年から5年間の食品を対象とした合衆国USDAからの報告ではハンバーガー・ソーセージなどの加工肉類にも多く含まれていた。近年の食生活の欧米化に伴い脂肪摂取量の増加が問題となっており,トランス脂肪酸の摂取量も増加していると考えられる。トランス脂肪酸は成人病のリスクを上げる可能性があり,胎児・新生児では母体から胎盤を通過し胎児に移行し,早産児では多価不飽和脂肪酸含有量(LCPU)と負に相関する可能性がある3)。またトランス脂肪酸と排卵障害による不妊症の関係性が報告されている4)。このような背景のもと,わが国でも早急にトランス脂肪酸の胎児妊婦での影響を調べる必要があり今回の以下の3つの検討を行った。

     ①府立母子保健センター新生児科で経験した止血異常を伴うIUGRについての検討

     ②正常新生児臍帯血と母体血,IUGR臍帯血と母体血でのトランス脂肪酸含有率の比較

     ③正期産妊婦とIUGR妊婦での小児期からの食事内容についてのアンケート調査

  • 松田 義雄, 長 和俊
    p. 55-58
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     午前中のシンポジウムでは母体・胎児の栄養環境の問題点があらゆる方面から取り上げられた。発表内容を要約すると,図1のようにまとめられる。すなわち,現在世界的に注目されているDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)という問題に対して,長田先生からは遺伝子多型,村上先生からは母体の体重増加とBMI,高橋先生からは栄養摂取の量と種類,鈴木先生からは母体合併症,門脇先生からは児体重/胎盤重量比,そして和田先生からは母体の栄養状態を焦点とした発表が用意され,シンポジウムが開始された。

     各演者からは,シンポジウムが始まる前に,各自の発表で強調したい事項の提出をお願いした。

シンポジウム午後の部:新生児
  • 三浦 文宏, 板橋 家頭夫, 水野 克己, 櫻井 基一郎, 北澤 重孝, 梅田 陽
    p. 61-66
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     早産低出生体重児がNICU退院時において在胎週数別出生時体格基準値の10パーセンタイルを下回っている状態はextrauterine growth restriction(以下EUGR)と呼ばれる1)。EUGRはその後の成長のみならず,発達予後にも影響することが知られている2)。そのため,欧米ではEUGRを予防する目的で出生後より直ちに胎児栄養必要量を与え,胎児発育および胎児と同様の体構成をめざすaggressive nutritionが行われるようになってきており,短期的な成長や発達面における効果についても報告されている3)。また,Brakerら4)の報告に端を発して多くの疫学研究が行われ,子宮内発育不全のある正期産児(ほとんどがSGA児)ではメタボリックシンドロームをはじめとする成人期慢性疾患のリスクが高いことが広く認識されるようになった。さらに最近では,胎児期のみならず出生後の低栄養環境によるプログラミングが,その後の環境とのミスマッチによって成人期の健康に影響するというdevelopmental origins of health and disease(DOHaD)仮説5)が浸透しつつあり,これによって成人期の健康との兼ね合いからも早産児の栄養管理をいかに行うべきかという議論も生まれている。

     しかしながら,これまで内外において早産低出生体重児の栄養管理をAGA児,SGA児の区別なく行うことの妥当性についてはほとんど議論されたことはない。特にaggressive nutritionが広まりをみせているなか,安全性の観点および成人期の健康の面からもこの議論は重要であると思われる。

  • 大西 聡, 市場 博幸, 寺田 明佳, 森 啓之, 田中 裕子, 江原 英治
    p. 67-73
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     近年周産期医療の進歩に伴い超低出生体重児(以下ELBWI)の生命予後は確実に向上し,救命から後障害のない治療をめざす時代となった。神経学的後障害を予防するには,直接中枢神経系に損傷を起こす合併症を防ぐのみでなく,神経組織の急速な成長時期である出生早期の栄養管理が重要である。今回我々は,ELBWIの経腸栄養早期確立が,頭囲発育と神経学的予後に相関があるかを検討し,その後の積極的栄養管理(以下ANと略)が頭囲発育・体重増加に与える影響を検討した。

  • 早川 昌弘, 奥村 彰久, 竹本 康二, 中山 淳, 齊藤 明子, 佐藤 義朗, 伊東 真隆, 林 誠司, 鈴木 千鶴子, 大城 誠, 藤巻 ...
    p. 75-79
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     超早産児の多くが救命可能となった現在では,新生児医療の最終目標は「後遺症なき生存」である。しかしながら,早産児の中枢神経系は非常に脆く,神経学的後障害を残す患児はいまだに存在する。神経学的予後の推測に重要な情報を得るためにベットサイドにて頭部超音波検査が広く行われているが,中枢神経系の機能的な評価には適していない。一方,新生児脳波検査はベットサイドで行える中枢神経機能検査の1つであり1),頭部超音波検査などの画像所見と組み合わせることで予後判定に重要な情報を得ることができる。更に経時的記録を行うことで受傷時期も推測できる有用な検査である2)

     胎生中期~新生児期の栄養は中枢神経系の発達に大きく関与している。たとえば,蛋白質は細胞増殖・分化に関与し3, 4),長鎖不飽和脂肪酸はシナプス形成,髄鞘形成に大きく関係している5, 6)。その他にも,鉄は髄鞘形成やモノアミン合成に7),亜鉛はDNA合成,神経伝達物質分泌に関与している8)。これらのことから,著しく低栄養状態の児は,なんらかの中枢神経の障害をうけて,発達予後が悪くなることは容易に予想がつく9, 10)。今回,我々は超低出生体重児の栄養状態・新生児期の合併症と脳波異常,特に脳波成熟遅延について検討を行ったので報告する。

  • 田中 恭子, 今 紀子, 吉川 尚美, 久田 研, 東海林 宏道, 篠原 公一, 奥村 彰久, 清水 俊明
    p. 81-88
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     生後の栄養が低出生体重児の精神運動発達に影響を及ぼすことが知られている1)。特にDHAなどのn-3系多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)や鉄の重要性は海外の報告において確認されている2, 3)。また私たちは母乳中に豊富に存在し髄鞘形成促進作用を有するリン脂質であるスフィンゴミエリン(SM)やドコサヘキサエン酸(DHA)などが低出生体重児の精神運動発達に及ぼす影響について検討を行ってきた。今回は,DHA,SM,鉄と低出生体重の発達との関連性を,心理発達学的,神経生理学的指標を用いて検討したので,その検査方法の詳細を交えて報告する。

  • ―消化管粘膜に与える影響を中心に―
    大塚 宜一, 清水 俊明
    p. 89-96
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     新生児壊死性腸炎(NEC)は,新生児医療において緊急を要する最も重要な疾患のひとつで,腹満,腹壁・腸管の色調変性,血便などの症候を特徴とする1, 2)。近年では未熟児医療の進歩によりNECの発生率も減少傾向を認めるが,いまだ1,500g未満の極低出生体重児の10.1%に発症が認められ3),多臓器不全(MOF)につながる可能性もあり4)致死率は20~40%と高率である5)。NECの発生因子に関しては児の未熟性に加え周産期ストレス,仮死・低酸素状態,臓器の虚血・再還流,bacterial colonization,高張の腸管栄養物などが考えられている6~8)。臨床的な診断や治療の進歩を認めているが9),その病態生理の解明に関しては多くの努力がなされているものの,いまだ未知の領域が多い。

     一方,Probiotics やn-3系多価不飽和脂肪酸(n-3PUFA)は,関節リウマチや炎症性腸疾患などの慢性炎症性疾患の予防や治療にも利用されるようになっているが,その新生児期における役割や分子生物学的な検討は十分にはなされていない。

     我々は,NECの予防を見据え①Probioticsの効果を検討する目的で低出生体重児を対象にProbiotics(Bifidobacterium breve)を投与し,免疫制御サイトカインであるTGF-βを中心にそのシグナル伝達を解析した。また,②n-3PUFAの効果を検討する目的で,未熟仔ラットを用いたNECモデルを作成し,n-3PUFAの消化管粘膜に与える影響を検討した。

  • 金森 豊, 五石 圭司, 高見澤 勝
    p. 97-102
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     腸内細菌叢のphase分類

     病的な腸内細菌叢を理解するために我々は腸内細菌叢を4つのphaseに分類することを提案している(図1)1)。Phase I-aとは常在好気性細菌優位の菌叢で,大腸菌や腸球菌,ブドウ球菌などが優勢になっている菌叢である。これは生後数日の新生児の腸内細菌叢に類似しており,腸内細菌としてはいまだ不安定なもので,low risk phaseと考えている。Phase I-bとは,病原性微生物が増加している菌叢で,緑膿菌やメチシリン耐性ブドウ球菌,カンジダなどが増加している菌叢である。このような菌叢は小児外科疾患患児の長期治療後にみられるもので,腸炎のみならず重症の全身性感染を引き起こす可能性がある望ましくない状態と考えられ,high risk phaseと考えられる。Phase IIとは,投与したprobioticsが優勢になっている菌叢で,治療による効果が現れる際にはこの菌叢が誘導され,維持されている。治療によって腸内細菌叢が人為的に維持されているわけで,control phaseとも呼んでいる。Phase IIIとは,常在嫌気性菌が優位になっている菌叢で,健常人の菌叢がこれにあたる。バクテロイデスやビフィズス菌などの菌種が最優勢になっている菌叢で,腸粘膜にはこれらの菌により強力なバリア機構が成立しており安定した環境が維持されているsafety phaseと考えられる。

  • 三科 香, 伊藤 直樹, 伊藤 裕司, 中村 知夫, 久保 隆彦, 北川 道弘, 名取 道也
    p. 103-108
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     一般に食物アレルギーはIgEの関与の程度により分類されるが(表1)1),新生児期発症のミルクアレルギーは消化器症状を主体とし,特異的IgEの上昇やアナフィラキシーなどの即時型反応を認めることは少なく,非IgE依存型の反応が多いと考えられている2)。非IgE依存型の反応を主体とする疾患として食物蛋白依存性腸炎,食物蛋白依存性直腸炎,好酸球性腸炎などがあり,症状や腸粘膜所見などで区別される3)が個々の疾患の厳密な鑑別は困難と思われ,わが国では総称して新生児期発症のミルクアレルギーあるいはアレルギー性腸炎として報告されていることが多い4~6)。過去の報告では新生児期のミルクアレルギーは多彩な症状を呈し,その重症度もさまざまで診断に難渋することもある。一般に食物アレルギーの確定診断には負荷試験が必要とされる7)が,その侵襲性から新生児期にはリスクが高い可能性があるため実施できない場合がある。しかしながら現時点では負荷試験に代わり確定診断となりうる検査方法は確立されておらず,そのことが新生児期における診断をより困難にしている。一方,新生児期発症のミルクアレルギーの報告は近年増えつつあり,診断治療指針の確立が求められる。

  • 上谷 良行, 板橋 家頭夫
    p. 109-110
    発行日: 2008年
    公開日: 2024/03/01
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     新生児の栄養

     午後のセッションとしては4演題と関連演題2題,およびトピックス1題の7題の講演があった。今回は早産児,低出生体重児の栄養管理とその予後が大きなテーマであり,もう一つのテーマとして壊死性腸炎,腸内細菌叢に対する栄養成分,プロバイオティクスの効果であった。

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