周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
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第25回
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
序文
  • 末原 則幸
    p. 3
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     平成19年1月19日,20日,大阪市中央公会堂において,第25回日本周産期・新生児医学会 周産期学シンポジウムを開催させていただきましたところ,総参加者数625名という多くの方のご参加を頂きました。これもひとえに日本周産期・新生児医学会の理事,評議員の先生方,周産期学シンポジウム運営委員会の先生方をはじめ,多くの方のご指導,ご援助によるものと深謝します。

     誰もが安心して出産できる社会をめざして,平成8年,厚生労働省が全国に総合周産期母子医療センターの設置とシステム化を推進し,10年を経過し,ある一定の成果を上げています。しかし,わが国の母と児をめぐる環境にはなお厳しいものがあります。ハイリスク妊産婦のみならず,リスクがなく,それまでは異常なく経過していた妊産婦にも常に出血の危険はつきまといます。周産期の出血や輸血療法は毋児の生命と健康を守る上で非常に大切な課題であります。

     今回のシンポジウムのテーマ「周産期の輸血療法をめぐって」に関連して,プレコングレスでは大阪府赤十字血液センターの谷 慶彦副所長に「わが国の輸血事情―より安全な血液供給を目指して」,また,名古屋大学輸血部の高松純樹教授に「より安全な輸血を目指して―輸血の歴史からみえてくるもの」と題したご講演をいただきました。私達に具体的な示唆をいただき,明日からの周産期の診療にお役に立てるものと理解しております。

     シンポジウムでは,午前中は主として産科における出血を巡る諸問題を,午後は主として新生児関連のテーマで,議論がなされました。これらの議論の総結集としての本誌は,これからの周産期の診療におおいに役立つものと期待しております。

     本シンポジウムは,母と児の命と健康を守る多くの方々によって支えられ,来年,前橋で開催される第26回周産期学シンポジウムに引き継がれることを願っております。

     会場となった大正時代の名建築,大阪市中央公会堂とともに,大阪の代表的芸能,人形浄瑠璃文楽を思い起こしながら,わが国の母と児の命と健康を支える糧にしていただければ幸いです。

シンポジウム午前の部:産科・母体
  • 濱中 拓郎, 石橋 さやか, 鎌田 久美子, 瀬戸 佐和子, 木下 聡子, 福井 温, 門脇 浩三, 末原 則幸, 矢原 健, 中山 雅弘, ...
    p. 15-22
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     厚生労働省の人口動態統計調査によれば,2005年度のわが国における出産10万対の妊産婦死亡率は5.7で,1965年の87.6よりは改善されてきているが,1995年6.9,2000年6.3とここ10年では有意な低下をみていない(図1)。また大阪府の出産10万対の妊産婦死亡率は,1965年の88.3よりは改善されてきているが,1995年11.6,2000年3.4,2005年3.9と暦年による多少のばらつきはあるが全国統計とほぼ同様の傾向にある。

     諸外国の妊産婦死亡率をみると,スイス・イタリア・オーストラリア・スウェーデン・ニュージーランド・カナダ・ドイツなどの先進国では日本より良好な妊産婦死亡率が報告されている(表1)。

     平成8年度の厚生省心身障害研究の報告による妊産婦死亡における主要死因を示したが,産科的出血(分娩時異常出血および前置胎盤および常位胎盤早期剥離)による妊産婦死亡率は,1995年0.5,1999年1.4,2004年1.2と変化がなく,妊産婦死亡における産科的出血の割合はいまだに多い(図2)。

     1991,1992年の厚生省心身障害研究「妊産婦死亡の原因の究明に関する研究」(表2)によれば,出血性ショックが原因であったのは全体の38%であり,そのうち適切な処置や輸血が行われれば62%は救命可能であったと報告している。英国との妊産婦死亡の死因比較をしたところ,日本では出血による死亡例が多いのに対し,英国では血栓・塞栓による死亡例が多いことが特徴であった。このように日本では出血による妊産婦死亡が多い特徴があることや,特にこの10年での妊産婦死亡における産科的出血の占める割合が減少していないことなどから,今後の妊産婦死亡を減少させるためにも,分娩時出血の対応・対策がいち早く進められるべきであると考える。

  • 橘 大介, 中井 祐一郎, 山枡 誠一, 石河 修
    p. 23-26
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     妊産婦死亡数は,20年前に比較し5分の1以下に減少してきてはいるものの,その内訳では出血によるものが依然として4分の1近くを占めている。

     理論的には,出血に対する対応は他領域におけるそれと同様と考えることもできるが,周産期大量出血時には以下にあげるような特異性から,独自の戦略を構築していく必要がある。また,一般に進行・増悪が急激なために医療資源の備蓄などを考慮しておく必要もあろう。すなわち,周産期大量出血の特異性として,通常の外科的切開創とは異なるため,その対処には困難を伴うことが多い。第一に胎盤剥離面からの出血は子宮収縮と血液凝固に大きく影響されること,第二には頸管・腟壁などの軟産道の裂傷や血腫においては錯綜した血流支配の存在すること,さらに,しばしば浮腫を伴う軟部組織であるため縫合が困難で圧迫止血を用いざるをえない場合があることなどがあげられる。

     また,分娩時の特有な問題点として,

     ①出血速度が速いことや羊水量の把握が困難なことなどもあり,臨床所見や血液凝固性状などから輸血量を決定せざるをえない。

     ②出血直後のデータから,必要輸血量を推測することは困難である。

     ③子宮弛緩や消費性凝固障害による再度の大量出血に備える必要がある。

     ④子宮を摘出しても,軟産道や腹壁などが出血源として残存することがある。

     といったことも,考慮しておく必要がある。

     当科における大量出血時の基本的管理方針は,①循環動態の維持,②新鮮凍結血漿(以下FFP)の投与により血液凝固能を保つこと,③十分な子宮収縮力を維持するに足る酸素運搬能を赤血球濃厚液(以下MAP)の投与により確保することなどを考慮し,タイミングを失することなく対処してゆくことである。

     今回,大量出血症例における輸血前後のデータ推移を検討するとともに,厚生労働省による「血液製剤の使用指針」に関して,産科出血にこれを適応する際の問題点についても考察を加えたので報告する。

  • 下屋 浩一郎, 宋 美玄, 朝野 久美子, 衣笠 友基子, 金川 武司, 木村 正, 古元 淑子, 村田 雄二
    p. 27-31
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     わが国における母体死亡の要因の約1/3を出血が占めており,母体死亡を減少させるには分娩時の出血をいかに減少させるかが重要である。また,世界では1年間に約50万人の母体死亡があり,その原因の1/3を出血が占めている。一般に,経腟分娩では約40%の症例において500ml以上の出血を認め,約5%の症例において1, 000ml以上の出血を認めるとされており,その対応はきわめて重要な課題である。これら,産科出血の中で分娩直後の出血(Immediate Postpartum Hemorrhage;IPH)が大きな位置を占めている。IPHの原因として弛緩出血,胎盤遺残,産道の裂傷,凝固異常・出血性素因などがある。この中で最も多い要因を占めるのは弛緩出血である。大量出血の際には速やかに輸血療法を行う必要があるが,同時に妊婦の分娩時の出血,特に弛緩出血を防止するための予防対策を確立させることが必要である。

     特発性血小板減少症(ITP)は妊娠可能年齢に好発し,妊婦の合併症としても重要であり,よりきめ細かな分娩時の出血予防策を行う必要がある。ITP合併妊娠の管理に関して妊娠中,特に分娩時の血小板数をどの程度にするべきであるかについての明確なデータはないが,3万以下で治療を行うという意見1),5万以下で治療を行うという意見2)10万以下で治療を開始し,5万以下で行動制限をするという意見3)などがあり,一定の見解は得られていない。わが国では血小板数5万以上を目標にするとしているものが多い。一方,治療についてはステロイド療法,大量免疫グロブリン投与,脾臓摘出療法が選択される。また,分娩時あるいは帝王切開時の血小板輸血の基準も明確なものはないが,経腟分娩で血小板数5万以上,外科手術で7~10万以上を目標とするものが多い。

     大量出血の際には速やかに輸血療法を行う必要があるが,同時に妊婦の分娩時の出血,特に弛緩出血を防止するための予防対策を確立させることが必要である。一方,特発性血小板減少症(ITP)は妊娠可能年齢に好発し,妊婦の合併症としても重要であり,よりきめ細かな分娩時の出血予防策を行う必要がある。ITP合併妊婦に対してITPの治療と同時に弛緩出血に対する対応策,さらに子宮動脈塞栓術や外科的介入法を含めたITP合併妊婦に対する分娩時出血予防ストラテジーを構築することは,合併症のない一般妊婦を含めて産科出血に対する備えを考慮する意義が大きい。

  • 熊澤 由紀代, 細谷 直子, 小原 幹隆, 平野 秀人, 田中 俊誠, 面川 進
    p. 33-36
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     近年,同種血輸血の危険性や副作用を回避する目的で自己血輸血が広く行われている。産科領域では,大量出血が予測されるハイリスク妊婦に対して貯血式自己血輸血が行われている。しかし,出血量の予想が困難な症例や分娩時期を予期できない症例もあり,適応症例の選択,貯血開始時期や貯血量の決定などが難しい。また,決まったガイドラインがなく,各施設独自の基準で行われているのが現状である。今回我々は当院における327症例の妊婦を対象に,産科における自己血貯血の有用性を再検討した。また,その適応疾患と貯血量について考察し,より適正で安全な自己血貯血を普及していくことが課題である。

  • ―多施設共同研究に向けての予備研究―
    渡辺 典芳, 久保 隆彦, 種元 智洋, 小出 直哉, 川上 香織, 神部 友香理, 北川 道弘
    p. 37-41
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     緒言

     わが国では厚生労働省から「自己血輸血:採血及び保管管理マニュアル」1),日本輸血学会から「自己血輸血ガイドライン改定案」2)が提示されているが適応患者の項目において妊産婦に関する詳しい言及はされていない。妊産婦死亡を減少させるためにも不測の大量出血に備えた輸血体制,血液の確保は重要であるが,緊急時の血液製剤確保は困難かつ時間を要することも多い。このような観点から自己血輸血は有用である可能性が高く考慮されるべきであると考えられる。

     自己血輸血が周産期領域で普及しない原因として,自己血採血時の母体失血による母体・胎児への影響が明らかになっていないことが大きな理由であると考えられる。今回,分娩に際して多量の出血が予測される症例および緊急時に血液確保の困難が予想される症例を対象に自己血輸血手技の安全性および方法の確立のための多施設共同研究に向けた予備研究を行った。

  • 炭竈 誠二, 早川 博生, 岡田 真由美, 板倉 敦夫
    p. 43-48
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     前置胎盤・癒着胎盤は分娩時大量出血の原因となる代表的な疾患である。分娩前後出血・子宮全摘術・輸血・敗血症など周産期合併症を生じるリスクが高く1),厳重な管理を要する。また癒着胎盤は前置胎盤に合併して生じることが多く,特に帝王切開既往のある前置胎盤例では高率に癒着胎盤を発症するとの報告があり2),術前のリスク評価に注意すべきである。近年,帝王切開率が上昇していることを考慮すると癒着胎盤の発症が増加することが危惧されるが,わが国における癒着胎盤に関する大規模疫学報告はない。そこで我々は,名古屋大学とその関連施設における前置癒着胎盤症例を後方視的に調査し,その発症・診断・治療における現状につき検討したので報告する。また,当施設においては出血量を減らす試みとして癒着胎盤に対する計画的な二期的手術を施行しており,詳細につき提示する。

  • 大戸 斉, 斎藤 滋
    p. 49-55
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     出血の問題は安全な分娩を遂行するうえで今もって避けては通れない課題である。妊産婦死亡率10万人あたり5.7人(2005年)のうち,4分の1を産科的出血が占める。分娩期の出血は急激に進行し,ときに対応が困難となることもあり,一般外科とは異なる対応が求められる。

     当シンポジウムの前半は母体に焦点をあて,大量出血の要因を解析し,その有効な対応を討議した。最後に日本麻酔科学会と日本輸血・細胞治療学会が提唱する「危機的出血への対応ガイドライン」を載せ,産科の緊急時の出血時の対処に役立てていただきたい。

シンポジウム午後の部:胎児・新生児
  • 大戸 斉
    p. 59-65
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     正常妊娠における母児間微量輸血現象と母児間不適合

     母児間輸血現象

     妊娠した女性の子宮内には,配偶者に由来する同種抗原を有する胎児と胎盤が存在する。胎児と胎盤は非自己でありながら母体の免疫系から許容され,拒絶反応を受けにくい。通常,胎盤内では母体血と胎児血は混ざらないようになっているが,実際には正常妊娠であっても,全例で少量の胎児血と母体血が相互に流入する現象(母児間微量輸血,fetomaternal microtransfusion)が発生している(図1)1)。特に分娩時には児母間輸血量は多くなる。胎児由来の細胞(全血1ml相当)とDNA(多くは胎盤由来と推定され,全血10ml相当)が検出される。妊娠・分娩は女性にとって児血液(すなわち夫由来同種抗原)の少量輸血ともいえる。

  • 松田 秀雄, 山田 秀人, 上塘 正人, 丸山 有子, 平野 秀人, 松岡 隆, 山田 俊, 阪西 通夫, 八重樫 伸生, 水上 尚典, 古 ...
    p. 67-72
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     先天性サイトメガロウイルス感染症(CCMVI)の胎児水腫に対して,免疫グロブリン胎児腹腔内投与法(IFAC;Immunoglobulin into Fetal Abdominal Cavity)による胎児治療が1995年にわが国で実施された。以降,同様な治療がなされてきているが,適切な治療基準と治療方法を作成し,その有効性を検討するためには多施設共同での解析が必要である。

  • 宮下 進, 中村 友彦, 狐崎 雅子, 三ツ橋 偉子, 横山 晃子, 栗原 伸芳, 佐野 葉子, 廣間 武彦, 依田 達也, 菊池 昭彦, ...
    p. 73-84
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     臍帯・胎盤血(以下臍帯血)を回収し,それを自己血として用いるという医療行為は,1977年にBrandesらが貧血の双胎児に対して初めて行ったとされるが,文献記載は1979年に早産児のショックに備えた臍帯血貯血・輸血を報告したPaxsonのものが最初である1)。1980~1990年代は,臍帯血中の幹細胞に着目した臍帯血移植およびバンキングシステムが確立された時代であり,1994年にヨーロッパ,1999年には日本で臍帯血バンクネットワークが設立されている。この過程で臍帯血の採血・貯血の手技が確立されてきたが,同時に細菌汚染などの問題点が指摘された2)。1995年にはBallinらが未熟児貧血に対する臍帯血の自己血輸血を報告しているが3),自己血としての使用は積極的には検討されなかった。

     新生児期に外科的治療の対象となり,輸血の必要や可能性がある場合には通常は同種血が準備され使用される。小児領域では待期的手術に対する術前の自己血貯血が普及しているが,安全に貯血を行うには,通常の場合8~9カ月以降で体重7kg以上が必要となる4)。新生児期の外科疾患に対しては,手術のタイミングからみて採血,貯血が不可能なケースがほとんどであり,自己血の利用が実際上は困難であった。同種血輸血の副作用を軽減または回避する方法として,「輸血療法の実施に関する指診」(厚生労働省)には,輸血計画,輸血製剤選択に加えて自己血輸血が明記され5),今後は新生児領域でも推進されていくべき治療方法である。近年は超音波診断の精度が向上し,大部分の外科的疾患の胎児診断が可能となっており,計画的に臍帯血を採取することが可能である。臍帯血は通常は廃棄されてしまうもので,採取にかかわる児への負担は皆無である。骨髄移植等を目的とする臍帯血バンキングと異なり,あくまでも自己血輸血が目的であるから,ウイルス感染症やHLA型についての厳密な検査も必要としない。臍帯血を自己血として計画的に貯血し,輸血することに関しての医学的,倫理的な問題は小さいと考えられる。米国での小児に対する輸血ガイドライン(Roseffら)においても,臍帯血の自己血としての利用について述べられ,普及が期待されている6)

     胎児胎盤の総循環血液量を児体重あたり110ml/kgとすると,その3割程度,30~35ml/kgが臍帯・胎盤に分布する。週数が早ければさらに胎盤側に多く分布する7)。体重3kgの場合,臍帯・胎盤には約100mlが分布し,その半量程度を回収できたとしても手術準備には十分な量と考えられる。臍帯血貯血,輸血に関して,表1に予想される利点・欠点を示す。特に注意すべき欠点として,細菌汚染の危険性,設備や人手を要するという問題が考えられる。

  • 細野 茂春, 小高 美奈子, 吉川 香代, 木多村 知美, 稲見 育大, 藤田 英寿, 宮林 寛, 牧本 優美, 湊 通嘉, 岡田 知雄, ...
    p. 85-90
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     周産期・新生児医療の進歩により極低出生体重児の生存率は四半世紀で大きく改善した。Kusudaら1)により日本での全国調査による2003年出生の極低出生体重児の生存率は89%と報告されている。一方,極低出生体重児の輸血についての全国的な報告はない。1990年以降の出生を対象とした欧米の報告では超低出生体重児の赤血球輸血の率は61.9~92.9%と報告されている2~5)。わが国では赤血球輸血率は55.6~75.0%6~8)と報告されており,1995年のエリスロポエチン導入後も超低出生体重児は依然,輸血のハイリスク集団である。さらに,最近のコクランレビューでは極低出生体重児の生後1週以内のエリスロポエチン投与の開始はIII度以上の未熟児網膜症の頻度を増加させることが示され,より早期の使用の傾向に警鐘が鳴らされた9)

     1993年,Kinmondら10)は出生時の循環血液量を増加させる目的で臍帯の後期結紮を行い,早期結紮と比較して有意にヘマトクリット値の高値と輸血量の低下を報告した。

     一方,わが国では,1994年に満本ら11)は後期結紮に代えて臍帯のmilkingによる影響を検討し輸血に関しては有意差はみられなかったものの,生後24時間のヘモグロビン値に高い傾向(P=0.054)を報告している。

     今回,我々は前方視的に早産児におけるmilkingによる輸血および出生時のヘモグロビン濃度に対する影響について検討したので報告する12)

  • ―大阪新生児診療相互援助システム(NMCS)のアンケートから―
    玉井 普, 船戸 正久, 藤村 正哲, 根岸 宏邦
    p. 91-96
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     新生児医療は輸血を必要とする頻度が非常に高い分野の一つといえる。特に,極低出生体重児は造血能の未熟性に加え,赤血球寿命が短いこと,頻回の採血や出血性疾患の合併などで貧血に陥りやすく輸血は重要な治療の一つとなっている。しかし輸血に伴う合併症もあるため輸血を回避したり,合併症を少なくするさまざまな工夫もなされている。そこで今回,輸血方法の変遷に関して大阪新生児診療相互援助システム(NMCS)参加施設を対象にアンケートをとり,以前に行った調査結果と比較検討し,文献的考察も加え報告した。

  • 小山 典久
    p. 97-101
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     交換輸血(ET)はさまざまな病態において新生児医療で古くから行われてきた治療手技である。近年各種治療法の開発によりETの頻度は減少し,適応や使用血液に関しても異なった意見が存在する。また日本赤十字社(日赤)血液センターの統廃合や血液の供給体制の変革に伴い,ETに用いる適切な血液を入手できないとの声も聞かれる。このようにETを取り巻く環境は近年大きく変化してきている。しかしETなしでは後遺症なき生存が困難な症例が今なお確かに存在し,ETが重要な治療手段であることは自明である。本稿ではETをめぐる問題点について考察を加える。

  • 茨 聡, 楠田 聡
    p. 103-104
    発行日: 2007年
    公開日: 2024/03/01
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     このシンポジウムでは,周産期医療における輸血を取り上げ,主として胎児・新生児に対する輸血に関して検討いただき御発表いただいた。

     母子の血液型不適合に対する介入

     また,各演者のご発表に先立ち大戸斉先生に母子間の血液型不適合について,母子の血液型不適合に対する介入と題して,正常妊娠における母子間微量輸血現象と母子間不適合,赤血球の血液不適合(Rh血液型不適合,ABO血液型不適合,その他の赤血球血液型不適合,輸血と交換輸血に用いる血液),血小板型不適合,顆粒球(好中球)型不適合,妊婦の同種抗体の検出と児の重症度について解説講演をしていただいた。

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