はじめに
妊産婦死亡数は,20年前に比較し5分の1以下に減少してきてはいるものの,その内訳では出血によるものが依然として4分の1近くを占めている。
理論的には,出血に対する対応は他領域におけるそれと同様と考えることもできるが,周産期大量出血時には以下にあげるような特異性から,独自の戦略を構築していく必要がある。また,一般に進行・増悪が急激なために医療資源の備蓄などを考慮しておく必要もあろう。すなわち,周産期大量出血の特異性として,通常の外科的切開創とは異なるため,その対処には困難を伴うことが多い。第一に胎盤剥離面からの出血は子宮収縮と血液凝固に大きく影響されること,第二には頸管・腟壁などの軟産道の裂傷や血腫においては錯綜した血流支配の存在すること,さらに,しばしば浮腫を伴う軟部組織であるため縫合が困難で圧迫止血を用いざるをえない場合があることなどがあげられる。
また,分娩時の特有な問題点として,
①出血速度が速いことや羊水量の把握が困難なことなどもあり,臨床所見や血液凝固性状などから輸血量を決定せざるをえない。
②出血直後のデータから,必要輸血量を推測することは困難である。
③子宮弛緩や消費性凝固障害による再度の大量出血に備える必要がある。
④子宮を摘出しても,軟産道や腹壁などが出血源として残存することがある。
といったことも,考慮しておく必要がある。
当科における大量出血時の基本的管理方針は,①循環動態の維持,②新鮮凍結血漿(以下FFP)の投与により血液凝固能を保つこと,③十分な子宮収縮力を維持するに足る酸素運搬能を赤血球濃厚液(以下MAP)の投与により確保することなどを考慮し,タイミングを失することなく対処してゆくことである。
今回,大量出血症例における輸血前後のデータ推移を検討するとともに,厚生労働省による「血液製剤の使用指針」に関して,産科出血にこれを適応する際の問題点についても考察を加えたので報告する。
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