周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第30回
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
序文
  • 松田 義雄
    p. 3
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     第30回周産期学シンポジウムは,平成24年2月3,4日に,都心に位置するシェーンバッハ・サボーで開催されました。日本海側を中心とした6年ぶりの豪雪を中心に,日本中が厳しい寒波に包まれていた真っ只中でしたが,幸い東京は晴天に恵まれました。心配されていた天災もなく無事に終了し,これまで最多の500名以上の出席となったことは,間違いなく「地の利」が大きく幸いしたといえます。

     今回のテーマ「長期予後からみた出生前診断症例における周産期管理の再評価」は30回を迎える本シンポジウムで,これまで一度もテーマに挙げられていませんでした。出生前管理と胎児治療の進歩,NICUでのケアの更なる充実を背景に,周産期医療の究極的な目標である「後遺症なき生存」を脅かすハイリスク症例の予後を知りたいという機運がまさにピークに達した「天の時」に合致します。

     本シンポジウムの企画運営に精力的に携わってこられたシンポジウム運営委員会,加えて,医局員を始め,周産期センターのスタッフ,関係各位の献身的な協力―「人の和」―なくして,今回のシンポジウムは成功しませんでした。ここに改めて謝辞を示したいと思います。

     各演者の詳細な報告と,当日に交わされた討論を含めた座長の先生方による総括は,この抄録集の該当項目を是非ご参照下さい。

     産科医にとっては,出生直後だけでなく,その先の治療成績を,また,新生児科医にとっては,生まれる前の治療内容を知りえたことが,シンポジウムに参加された皆様の実感でしょう。そして,出生後の長期にわたって,きめ細やかなフォローアップが必要であることが改めて実感されました。母から子へと情報をうまく伝えるためには,データベースの連結が不可欠なことも示されました。

     このように,スリガラスの向こうにあった虚像は,一部ははっきり実像として示されましたが,まだ,多くは虚像のままで,未だ不明な点が残されています。とはいえ,今回新たに示された問題点にはまた新たな叡智が集められるはずです。同じようなテーマが数年経って企画され,同じような結論であれば,我々の辿ってきた道に大きな間違いはなく,その逆に,違った結論になればそれもよし。そこに医学の進歩があると考えます。

     本シンポジウムがこのユニークさを失わずに,更に発展していくことを願ってやみません。

プレコングレス
  • 久保 隆彦
    p. 15-22
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     ほぼ一年があの日から経過しようとしている。しかし,いまだに地震,津波の後遺症はきわめて大きく,原発事故による放射能汚染被害は継続中である。東日本大震災はあまりに大きな爪痕を残した。われわれは学会として,個人として東北3県を中心とした支援を行ってきた。そして,浮かび上がってきたことはわれわれの行った支援にはたくさんのミスマッチがあったことである。3月11日以降にわれわれが行ったことを反芻した。

  • 佐藤 昌司
    p. 23-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     日本産科婦人科学会周産期登録データベース(以下,日産婦DB)は,1975(昭和50)年に周産期死亡登録事業として始まり,2001(平成13)年から登録対象を全出産例に拡大して現在に至る登録事業である。死亡登録の目的が死亡背景および原因の調査であったのに対し,現在の日産婦DBの対象は一次〜三次施設を含む参加希望施設とし,ハイリスク胎児・新生児予後,母体疾患別の罹病率を集計するとともに,DB内にコントロール症例(正常例)を含むことから各種のcase-control研究のソースとしても利用されている。本発表では,日産婦DBの歴史,現状および将来へ向けての問題点について述べてみたい。

  • 伊藤 裕司
    p. 29-36
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     周産期医療を考えていくうえで,その新生児・母体のアウトカムの視点から,現行の母体・新生児管理,治療方法を評価し見直していくことは,今後の発展のためには必須である。しかし,産科における母胎・胎児期および分娩時の情報と,新生児の生後の治療,その後の長期間にわたるフォローアップの情報を統合して,網羅的に一元的に管理していくことは,容易なことではない。産科,新生児科,小児科,小児外科などあらゆる方向から,その長期予後についての重要性が指摘され,データを集中し統合しようとする努力はなされているが,十分には達成できていないのが実情である。

     米国では,州によっては周産期施設における全症例を登録して,施設ごとのベンチマークを出し,個々の施設の劣る点を見つけ,これに対して介入して各施設を改善させることで,各施設各々,ひいては,州全体の新生児の予後を改善しようという試みが行われている。また,欧州では,国全体で国民を登録して,国民の健康状態について,コホート的にフォローし,国家としての政策を策定していくという国もある。

     わが国においては,極低出生体重児に関する多施設での登録が総合周産期母子医療センターを中心に開始され,5年弱の経緯を経て,徐々にその規模が拡大されてきており,本年度からは,このデータベースを元に,各施設の劣る点を改善してわが国全体の新生児医療レベルの向上を図ろうとする介入研究が開始されている。

     また,産科では,周産期データベースの登録事業が学会の委員会を中心に開始され,さまざまなアウトカムを出してきている。しかしながら,まだ,国全体での産科側と新生児・小児科側のデータを連結したデータベースの構築は行われておらず,まだ,さまざまな問題点が残されている。

     そこで,今回,現時点での新生児フォローアップと周産期データベースの現状と問題点を把握する目的で,全国の周産期施設を対象にアンケート調査を行ったので,報告する。

シンポジウム午前の部:長期予後からみた出生前診断と治療
  • 難波 由喜子, 林 聡, 松浦 まな, 江川 真希子, 伊藤 裕司, 久保 隆彦, 左合 治彦, 斉藤 真梨, 北川 道弘, 名取 道也
    p. 39-43
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)は,一絨毛膜二羊膜双胎の9〜15%に発症し,死亡率4〜5割,生存者での神経学的異常は1〜2割と報告されている1〜 3)。欧米の治療グループからの胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation:FLP)の治療成績は1990年代から報告があり,その有用性は生命予後・長期予後とも示されている3〜8)

     わが国の短期予後については,Japan fetoscopy groupから報告されている9)。4施設合同の6カ月時の予後として,少なくとも1児生存が90.1%,major complicationが4.7%であり,日本でも短期予後が良好なことが示された。しかし,日本における長期予後はまだ明らかにされていない。

  • 松下 充, 神農 隆, 松本 美奈子, 村越 毅, 成瀬 寛夫, 中山 理, 鳥居 裕一
    p. 45-51
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     極低出生体重での出生が予測された胎児発育不全児において,神経学的予後に関連する出生前の超音波検査により得られる周産期因子を抽出する。

  • 森岡 一朗, 万代 ツルエ, 香田 翼, 松尾 希世美, 横田 知之, 藤岡 一路, 森川 悟, 三輪 明弘, 柴田 暁男, 園山 綾子, ...
    p. 53-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     目的

     近年の周産期医療の進歩により,極低出生体重児(very low birth weight:VLBW)で出生したsevere SGA(small-for-gestational age)も救命されるようになった。Severe SGAは,VLBWのなかでも精神運動発達遅延のハイリスクと考えられているが,実際の長期の精神運動発達予後は明らかでない。

     本研究の目的は,

     ①母体要因または臍帯・胎盤要因でVLBWとして出生した児を対象として,a)在胎28週以上のsevere SGA,SGAとAGA(appropriate for gestational age),b)在胎28週未満のsevere SGAとAGAの修正3歳時精神運動発達を比較し,severe SGAの精神運動発達を検討すること

     ②Severe SGAの原因,妊娠中断理由およびsevere SGAの3歳時の運動発達遅延の予測因子の検討から,現在のsevere SGAの周産期の問題点を抽出すること

     であった。

  • 前出 喜信, 茨 聡, 丸山 有子, 丸山 英樹, 徳久 琢也, 石原 千詠, 桑原 貴子, 坂本 浩一, 徳増 裕宣, 徳増 智子, 高尾 ...
    p. 61-70
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     近年の周産期医療の進歩により,子宮内胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)は救命されるようになってきた。しかしながら,その神経学的発達予後については不良な例も少なくなく,FGRの周産期管理や娩出時期の決定に苦慮することが多い。

     このため,われわれの施設では,第7回日本周産期学会シンポジウムにおいて,頭囲の発育障害がみられたFGRは高率に神経学的異常をきたすことを示し,FGRの周産期管理において,胎児心拍数モニタリングを中心とした従来の胎児well-beingの評価に加え,頭囲の発育を注意深く観察することが,生命予後のみならずintact survivalを向上させるうえで重要であると報告した1)。これをうけてわれわれの施設では,胎児の頭囲発育を重視したFGRの管理方針をとってきた(図1)。

     そして,第22回周産期学シンポジウムにおいて,FGRの頭囲発育を2週間以上院内において監視できた発育監視群と,監視できなかった非監視群に分けて予後の検討を行った。その結果,死亡率の減少,および,頭囲発育不良が原因と考えられる神経学的異常例の発生が減少したと報告した。さらに,非監視群のなかには,新生児期に明らかな予後不良因子のない神経学的異常例が複数存在し,それらはすべて出生頭囲が10パーセンタイル未満であり,胎児期の頭囲発育障害が神経学的異常の原因であると推察した2)

  • 永田 雅子, 永井 幸代, 岸 真司, 村松 幹司, 田中 太平
    p. 71-74
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     現在は大学の教員として,NICUやフォローアップの現場から離れているが,4年前まではNICU専属の臨床心理士として,NICU入院中から退院後まで,親と子の心理的支援に従事してきた。そのなかで,臨床心理士として行ってきたことは,NICU入院中であれば赤ちゃんのベッドサイドで,家族の思いを受けとめ寄り添いながら,赤ちゃんの動きや反応を共有していくプロセスであった。退院前の修正在胎40週前後に,ブラゼルトン新生児行動評価(Neonatal Behavioral Assessment Scale:NBAS)1)を希望に応じて家族同席のもとで実施しており,家族が感じる赤ちゃんの姿を確認しながら,赤ちゃんとの関わり方のコツを共有していた。そこで感じていたことは,退院の時点でも,極低出生体重児の子どもたちは未熟性が強く,自分では落ち着きにくい子や,しっかり周囲に注意が向けられない子どもたちが多いということだった。退院後は,発達・知能検査担当心理士とは別にフォローアップ外来診察時に同席をし,発達・知能検査の結果をフィードバックしたり,子どもの姿を確認し日常生活の簡単なアドバイスを実施したり,必要に応じて心理面接をすることで,親と子の歩みに寄り添ってきた2)

     これまでの研究において,極低出生体重児の子どもたちは社会性の発達がゆっくりであることが指摘され,M-CHAT(Modified Checklist for Autism in Toddlers)で自閉症スペクトラムが疑われるとされた子どもたちが26%という報告3)や,われわれの学齢期の調査でも,広汎性発達障害が疑われる子どもたちが9.2%4)にのぼるなど,診断を明確には満たさないものの学習や行動面の難しさを抱えている子どもたちが多い5)。今回,入院中から関わり,退院前にNBASを一つのツールとして,その姿を親と確認した子どもたちの6歳児の予後の前方視的な検討とともに,長期的な支援を行った事例を報告し,今後考えられる支援のあり方について検討を行う。

  • 与田 仁志, 中井 章人
    p. 75-76
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     「長期予後からみた出生前診断症例における周産期管理の再評価」と銘打たれた第30回記念の周産期学シンポジウムは,午前は先天異常の合併がないFGRの胎児評価に関する演題が中心で3題あった。冒頭,座長からFGR,SGA,LFD(Light for dates infant)などについての定義が再確認され,FGRは妊娠週数ごとの胎児評価として用い「超音波胎児計測の標準化と日本人の基準値」1)の−1.5SDにて評価する点,LFDは「在胎期間別出生時体格標準値」2)で10パーセンタイル未満の出生児に対して使用すること(SGAは身長も該当する場合に使用)などが述べられた。また,新しい母子手帳に胎児発育曲線が掲載されることについても触れた。

     FGRに関連したテーマは本シンポジウムでも過去に数多く取り上げられており,3年前にもその病因・病態や胎児管理について議論された経緯がある。今回は長期予後から導き出せるFGRの理想的な周産期管理が認識できるかが興味のあるところであった。

     その他,近年,双胎間輸血症候群(TTTS)に対する治療法として確立しつつある胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)が施行された新生児の長期予後について,最後は,臨床心理士からみた極低出生体重児の長期間フォローアップの実際と家族支援についても興味ある発表がなされた。

シンポジウム午後の部:長期予後からみた出生後の治療
  • ̶先天性食道閉鎖症および先天性横隔膜ヘルニア症例での検討̶
    小西 祥平, 大軒 健彦, 山本 茜, 溝上 雅恵, 高杉 瑞恵, 松下 博亮, 中村 秀勝, 奥野 貴士, 関口 和人, 三代澤 幸秀, ...
    p. 79-86
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     小児外科疾患のなかで先天性食道閉鎖症(esophageal atresia:EA)は,合併奇形が多い疾患1)であり,また合併奇形を認めない症例でも術後長期にわたり,さまざまな合併症を認めるといわれている2〜4)。また先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia:CDH)は,周術期の管理により重症例も救命できるようになってきているが,長期的な合併症が問題となっている5)

  • 伊藤 美春, 齊藤 明子, 服部 哲夫, 邊見 勇人, 一ノ橋 祐子, 藤巻 英彦, 佐藤 義朗, 早川 昌弘
    p. 87-91
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     目的

     先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia:CDH)は出生前診断の普及や出生後の管理の進歩により,救命・生存率が向上している。救命率上昇により,重症例も増加し,早発・遅発性の合併症や発達・発育障害の増加も示唆されており,早期介入による患児のQOL向上が望まれる。

     長期予後に関して,周生期の諸因子との関連を含め,その情報の蓄積はまだ十分ではなく,適切な管理・フォローアップ体制も十分に確立されているとはいえない。そのため,当院で経験したCDH症例について周生期因子と退院後の予後に関して検討を行った。

  • 永田 公二, 手柴 理沙, 江角 元史郎, 木下 義晶, 増本 幸二, 藤田 恭之, 福島 恒太郎, 和氣 徳夫, 田口 智章
    p. 93-99
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     近年,わが国においては,先天性横隔膜ヘルニア(congenital diaphragmatic hernia:CDH)は,出生前診断されるようになり,母体管理を含めた周産期管理が行われるようになっている。出生前から周産期に関わる医師,看護師などの医療従事者が児の情報を共有し,分娩計画や出生後の治療方針を立案し,実施することが可能になってきた。さらにhigh frequency oscillatory ventilation(HFO),inhaled nitric oxide(iNO),extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)などの医療機器の進歩やgentle ventilationを中心とした集学的治療方法の確立に伴い,わが国や欧米におけるCDHの生存率は上昇してきた1,2)。実際に2010年に報告された日本小児外科学会学術・先進医療検討委員会の全国統計結果でも生存率85%と良好な成績が得られるようになっている3)

     このような予後の改善を背景として,欧米の報告を中心に先天性横隔膜ヘルニアの長期生存例に関する知見が得られるようになってきた4〜14)。すなわち,呼吸器感染症6〜10),漏斗胸,側彎などの胸郭変形4,6〜8,11),胃食道逆流症(gastro‑esophageal reflux disease:GERD)6,11)や難聴4〜8,12)などの合併症の報告がなされるようになり,身体的発育や精神的発達に関してもさまざまな報告がなされるようになってきた4〜8)。特にパッチ閉鎖やECMO施行例といった重症例に関しては,各々の合併症発生率が高いとの報告4,6〜8)があり,退院後の長期にわたるフォローアップの必要性が謳われている。

     今回,当科で経験した先天性心疾患や染色体異常などを合併しない出生前診断されたCDH(isolated CDH)に対して,診療録と電話でのアンケート調査により当科で治療を行った患者の長期予後に関する後方視的検討を行ったので報告する。

  • 小松 篤史, 髙木 紀美代, 吉田 志朗, 廣間 武彦, 中村 友彦, 瀧聞 浄宏, 安河内 聰, 嘉本 寛江, 上妻 志郎, 武谷 雄二, ...
    p. 101-107
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
    会議録・要旨集 フリー

     背景と目的

     先天性心疾患(congenital heart disease:CHD)は先天異常のなかでも最も頻度が高く約1%程度と報告されている。近年出生前診断症例の増加,手術手技の改善,新生児・周術期管理の進歩により生命予後は改善されている1,2)が,発育発達予後に関してはいまだ十分に明らかにされていない。

     今回新生児期に手術を要する重症先天性心疾患である左心低形成症候群(hypoplastic left heart syndrome:HLHS)・完全大血管転位(transposition of great arteries:TGA)・総肺静脈還流異常(total anomalous pulmonary venous connection:TAPVC)3疾患の生命・発育・発達予後について検討することを目的とした。

  • ―腎機能と下部尿路機能およびQOLに関して―
    石井 桂介, 松井 太, 倉橋 克典, 林 周作, 小杉 恵, 島田 憲次, 光田 信明
    p. 109-112
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     胎児診断された羊水過少を伴う尿路通過障害の児の,幼児期以降の腎機能と排尿機能,および保護者と児のQuality of life(QOL)を評価し,現在の周産期管理の問題点を探る。

  • ―親の妊娠・出産・育児体験から―
    中込 さと子, 兵頭 麻希, 音部 玲子, 加瀬 佳寿江, 石橋 みちる
    p. 113-117
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     出生前診断の急速な普及に伴い,妊婦健康診査における胎児診察の比重が大きくなっている。出生前診断法の多様化,精度向上に加え,特に日本では少子化,妊婦の高年化,生殖補助医療の増加が背景にあるため,妊婦の胎児診断の需要は増大している。これまで出生前診断といえば羊水穿刺,絨毛採取,臍帯穿刺といった侵襲的検査による胎児の遺伝学的検査を指し,これらの検査が適用される夫婦についてガイドラインが定められていた。

     一方,妊婦健康診査における超音波診断は,胎児発育やwell-beingの評価とともに胎児異常に関してはスクリーニング検査として占める割合が高い。しかし画像診断といえども妊娠早期に胎児の形態的または機能的異常を見出すほどに精度が高められると,超音波診断は遺伝学的検査に匹敵するほどの診断を行えるのである。この流れを受けて,日本産科婦人科学会は,2011年6月に〈出生前に行われる検査及び診断に関する見解〉を公表した。その中で超音波診断であっても遺伝学的検査に位置づけられるものもあり検査前の遺伝カウンセリングを提供することが謳われるようになった。

     ここでは2011年2月に日本医学会が指針として公表した「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」を紹介し,ある1つの大学病院の遺伝子診療部(遺伝カウンセリングを含む各科にわたる遺伝医療を担当する部門)において出生前診断がどのように行われているか,を提示する。さらに妊婦健康診査で予想外の診断の結果,人工死産をした女性たちのピアサポートの実態を取り上げ,出生前診断に伴う遺伝カウンセリングの必要性を提案することとする。

  • 増本 幸二, 光田 信明
    p. 119-120
    発行日: 2012年
    公開日: 2024/03/01
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     本シンポジウムでの午後の部では,主に泌尿器外科や心臓外科を含む新生児外科領域の出生前診断例について,長期予後の観点から主に出生後の治療について検討を行うこととなった。

     以前は出生後に発見されることが多かった新生児外科疾患も,現在では出生前診断学の進歩に伴い,大部分の疾患で出生前診断されることが多くなってきた。さらに最近の周産期医学や生後治療の改善により,生後治療により短期予後の改善が報告されてきている。この短期予後の改善により,現在は長期のQOLの改善に目を向ける時代となってきた。1つの例として,新生児外科領域で短期予後も悪かった先天性横隔膜ヘルニアが挙げられる。出生前診断されても予後不良の疾患とされており,90年代前半では,その生存率は50〜60%程度であったが,現在は施設間に若干の格差はあるものの,おおむね75〜90%程度までその短期生存率が改善されてきている。

     しかしながら,このように短期生存率の改善した疾患においても,生後の集中治療を乗り越え生存し得た症例では,その後の長期的QOLは現時点では満足いくものではないことがあることが報告されている。そこで,このシンポジウムの午後の部では,長期予後からみて,具体的に,長期のQOLを改善させ,intact survivalを増加させるためにはどのような管理が必要か,また周産期管理ではどのような点の改善が必要か,さらに育児環境などを含めた社会的支援のあり方について議論を行った。

     なお,本シンポジウムでは疾患が多種にわたっていたため,前半に小児外科での治療を要する新生児外科疾患について3題の発表をしていただき,後半は心臓外科疾患,泌尿器外科疾患を中心に,心理学的サポートの面からのアプローチも含めた発表となった。

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