周産期学シンポジウム抄録集
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第40回
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序文
  • 板倉 敦夫
    p. 3
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     第40回周産期学シンポジウムは「周産期医療における生育と成育の限界について考える」をテーマに2022年1月14-15日に開催されましたが,COVID-19の第6波による急激な感染拡大に伴い,会場とオンデマンド配信によるハイブリッド開催となりました。

     旧優生保護法による人工妊娠中絶術を実施することができる時期が,妊娠24週から「通常満22週未満」に変更され,流産と早産の境界が妊娠22週とされてから,すでに30年が経過しました。生育限界が「胎児の母体外生存可能時期」であり,生命の質には無関係な限界であることは,多くの人から同意が得られることでしょう。一方,成育限界は「子宮外で人間として発育発達できる限界」が本来の考え方です。しかし,30年間の医療の進歩によって22週でも「人間として発育発達できる児」が多く報告されるようになり,成育限界を「未熟性に起因する後障害が発生しない限界」と捉える考え方も出現しており,議論の際には注意が必要です。しかし30年間の医療の進歩をもってしても,在胎週数だけで区切れない様々な「成育限界」があることを認識して,周産期医療に携わる我々は,小さな命とそのご家族に対して,医療提供を行っていることと思います。

     成育限界周辺の児には,成育可能な児の命を守る医療とともに,成育不可能な児への苦しみを与える治療を防ぐことも必要であるため,法的な側面も,生命倫理の視点も不可欠です。この難しい課題に正面から向き合い,シンポジウムを作り上げるために,2年もの歳月を費やしてご尽力されたシンポジウム運営委員会の皆様,シンポジストの皆様に敬意を表したいと思います。初日のプレコングレスでは,参加した皆様のシンポジウムに対する理解が深まることを期待したプログラムを用意しました。楠田聡先生による「早産児医療の国際比較」,加部一彦先生による「成育限界の生命倫理」,シンポジウム運営委員会による「全国調査報告」によって,成育限界周辺の児に対する過去の医療,現在の標準的な医療について,共通認識を持つことができたと考えます。そしてシンポジウムでは,現在わが国で行われている最先端の成育限界周辺の児に対する診療に関する工夫と成果を報告していただきました。午前中の「在胎週数から見たハイリスク児」では,早産によって出生した児の予後が報告され,未熟性による成育限界について総合討論が行われました。午後の「病態から見たハイリスク児」では,未熟性以外の病態を呈する早産児の予後について報告され,病態別の成育限界について議論されました。このシンポジウムに参加した皆様には,日常診療で直ちに役立つ多くの情報が提供できたと思いますが,スポンサードセミナーでも紹介されたような,これから始まる近未来の成育限界周辺の周産期医療を考えるためのメッセージも,届いたものと期待しております。

プレコングレス
  • 楠田 聡
    p. 11-17
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     わが国の周産期医療は,1998年に始まった「周産期医療対策整備事業の実施について」(1998年5月10日児発488号)に基づき整備が進み,飛躍的に進歩した。この結果,現在は世界最高水準を維持している。同様に,早産児の救命率も向上し現在世界最高水準である。そこで,わが国の早産児医療の現状を国際比較し,今後のさらなる予後向上のために必要な改善策を解説する。さらに,現在のわが国の早産児医療での,早産児の生育および成育限界を述べる。

  • 加部 一彦
    p. 18-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     1970年代半ばに新生児用人工呼吸器が登場したことを契機に,新生児集中治療が著しい進歩を遂げた一方で,重症新生児の治療差し控えや治療中止など多くの倫理的問題が提起されるようになった。「How small is too small ?」も早い時期から議論され続けている課題の一つであるが,1980年代半ばに人工肺サーファクタント補充療法が登場し,超低出生体重児の救命率が飛躍的に向上したことに加えて,日本では1991年に当時の優生保護法における「妊娠中絶の認められる期間」の解釈が「満22週未満」へと改められたことも加わり,それまでは「流産」の扱いであった,在胎(妊娠)22,23週出生児が「早産児」としてNICUに入院してくることとなり,「生育・成育の限界」を巡る議論は新たな局面を迎えた。

     ここでは「成育限界の生命倫理」について,医学的視点以外の観点から考察する。

  • 《産科領域》
    宮越 敬
    p. 23-25
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     諸外国に比べ,わが国の新生児予後は良好であるものの,在胎22,23週の早産児の死亡率はいまだ高く,脳室内出血や慢性肺疾患など重度合併症のリスクも懸念される。したがって,同妊娠期間の産科管理では児の予後を考慮した分娩様式や薬剤(ステロイド・硫酸マグネシウム)投与を検討する必要がある。これまで,生育・成育限界にターゲットを絞った産科管理に関する調査は少なく,特に全国レベルでの診療実態に関する情報は十分ではない。そこで,わが国における妊娠22週,23週の産科管理の診療実態を把握することを目的として本研究を実施した。

  • 《新生児領域》
    諫山 哲哉
    p. 26-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     緒言

     現在,わが国における「胎児の母体外生存可能時期(生育限界)」は妊娠22週以降とされる。世界的には,日本における早産児の予後は先進国においてもきわめて良いことが知られており,日本の早産児管理の方法は世界的な注目を集めている。しかし,そのような日本においても,生存限界に近い在胎22-23週という超早産児は,いまだ死亡率が高く,脳室内出血,慢性肺疾患,未熟児網膜症などの重症合併症のリスクが高く,将来的な脳性麻痺,精神運動発達遅滞などの長期的障害のリスクが高いことが問題となっている。今後,これら在胎22-23週の超早産児の予後を改善していくためには,現状の管理方法を把握する必要があるが,在胎22-23週の超早産児に焦点を当てた情報は少ない。今回,日本における在胎22-23週で出生した超早産児の新生児管理の現状に関する全国施設調査を行い,その結果を報告した。

シンポジウム午前の部:在胎週数から見たハイリスク児
  • ─新生児臨床研究ネットワークデータベース登録例の解析より─
    平野 慎也
    p. 30-35
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     多くの超早産児が救命されるようになり,生育限界および成育限界を考えることはきわめて重要である。わが国では2003年から新生児臨床研究ネットワークのデータベースに登録された児を対象にして短期予後,長期予後の観点から新生児医療の状況を明らかにするすることができるようになってきた。

  • 長坂 美和子
    p. 36-41
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     新生児医療の進歩とともに早産児の生存率は上昇してきたが,神経学的後遺症を抱える児の増加も指摘され,胎外で成長・発達を見込める限界,つまり成育限界についての議論が持ち上がってきた。成育限界については医療の進歩,社会の構造,倫理観などにより変化しうるため厳密な定義はないが,現段階では在胎22〜24週を成育限界であると考える場合が多い。これらの週数の中でも,特に在胎22週出生の児は,他の週数に比較し生存率が低く,合併症も多いため,欧米においては積極的な蘇生を行わない国もあり,死亡率は90%以上という報告もある1,2)。一方,米国において,積極的な蘇生を行っている単施設の報告では,在胎22週出生児の死亡率が30%であった3)というものもあり,治療方針によって予後が異なる可能性が示唆される。わが国においては,2013年の全国調査では,在胎22週,23週出生の児に対し,積極的治療を行うと回答したのは在胎22週で34%,在胎23週で64%であった。しかし,「条件付きで治療を行う」を含めると在胎22週で80%,在胎23週で85%であり,80%以上で治療介入が選択されていた。「条件」については,約80%が家族の希望であった4)。このようにわが国においても一定のコンセンサスはなく,治療方針については各施設の判断にゆだねられているのが現状である。また,成育限界の児に対する治療方針の決定に,家族の意向が強く反映されており,予後やリスクに関する正確な情報提供が重要となっている。

     在胎22〜24週の予後に関する報告は近年,ニュージーランド5),オーストリア6),ヨーロッパ(イギリス,イタリア,ドイツ,フランス,ベルギー)7),アメリカ2,3),スウェーデン8)などからも出されており,成育限界の児の診療方針や予後は,本邦のみならず海外においても注目されている。そのため成育限界で出生した児の予後に関連する周産期リスクが明らかとなれば多くの児の予後改善に役立つ可能性があるが,報告は限られている。

     本研究は積極的治療を受けた在胎22週児と在胎23週児の予後に差があるかを検討(検討1)し,また在胎22週児の死亡に影響しうる周産期因子を調べること(検討2)を目的とした。

  • 上田 和利
    p. 42-46
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     新生児医療の発展に伴い,わが国における超早産児の生存退院率は改善傾向である。Neonatal research network of Japanのデータベースでは2017年の在胎24週以上の早産児の生存退院率は90%に達し,23週早産児では約80%,22週早産児では約60%である1)。在胎22週,23週早産児では,入院中死亡率は依然として高い。超早産児の生命予後を規定する因子として,在胎週数が挙げられる。その他の生命予後を規定する因子は明らかではない。また,22週,23週早産児の中で生存退院した症例の長期神経発達予後に関する報告は少なく,早産児がどのような成長発達の経過を辿るかはとても興味深い事柄である。

  • 柳沢 俊光
    p. 47-53
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     目的

     日本における新生児の生命予後は飛躍的に向上してきている1)。しかしながら在胎22週,23週に関してはまだ生命予後は十分とはいえず,特に在胎22週に関してはNRN(Neonatal Research Network)のデータによると生存率は5割程度である2)

     日本以外の国では在胎22週に関しては,その生存率の低さから治療を差し控える,または両親と話し合って治療方針を決めている国がほとんどである3,4)。当院は在胎22週に関しても全例積極的に治療を行っているが,日本においても,在胎22週を全例積極的に蘇生するかについての明確な指針はない5,6)

     今回我々は当院において在胎22週を積極的に治療することが妥当かを評価するために,当院および日本における在胎22・23週の短期および長期予後を比較検討した。

  • 石井 桂介, 難波 文彦
    p. 54-55
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     現在,わが国において「胎児の母体外生存可能時期(生育限界)」は妊娠22週(以降)とされている。この生育限界は1953年には妊娠28週だったが,1976年に妊娠24週に変更された。そして,1990年に現行の妊娠22週となり,生育限界は約半世紀をかけて周産期医療の発展とともに変化してきた。母体外での生存が可能な「生育限界」とは別に,成長・発達に着目した「成育限界」という概念もある。成育限界を考える上では,長期的な身体成長・発達とともに神経学的予後も重要な要素となる。近年,周産期医療の進歩にともない,超早産児の救命率は著しく改善した。このような背景の中で,周産期学シンポジウムのテーマを「周産期医療における生育と成育の限界について考える」とし,シンポジウム午前の部では,主に早産児の在胎期間22週・23週について,周産期医療における生育と成育の限界について議論を行った。

シンポジウム午後の部:病態から見たハイリスク児
  • 木本 裕香
    p. 57-62
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     はじめに

     周産期医学の進歩に伴い超低出生体重児の生命,発達予後は大きく改善したが,胎児発育不全の児は救命し得ない児や発達予後不良の児が少なくなく,特に重度の胎児発育不全ではその特性が顕著となる1)。本研究では胎児発育の違いで,severe small for gestational age(sSGA)児,mild small for gestational age(mSGA)児,appropriate for gestational age(AGA)児の3群に分類した超低出生体重児を対象に比較検討し,sSGA児特有の生育・成育限界について考察した。

  • 林 周作
    p. 63-68
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     周産期医療の進歩にもかかわらず,妊娠22週未満の前期破水症例では周産期死亡率が高く,生存児に神経発達障害を認めることもまれではない1,2)。このため,妊娠22週未満に前期破水が診断されたのちに,医師からの情報提供とカウンセリングの結果,妊娠中絶を選択する症例もある3)。しかし,妊娠22週未満の前期破水症例の児の予後と予後に関連する因子は十分には解明されていない。

  • 和形 麻衣子
    p. 69-74
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     胎児水腫は予後不良例が多く,周産期管理に難渋する疾患である1)。特に早産期には,妊娠継続による胎児死亡のリスクと人工早産による未熟性の問題の双方を考慮する必要があり,娩出時期の決定に苦慮する。また,胎児水腫の背景疾患は多岐にわたり,胎児期には原因が不明であることも多く,一律に予後を予測することは難しい2)。さらに,長期の神経学的予後やその関連因子についての報告はほとんどなく,明らかになっていないのが現状である。

     本研究は,産科医が胎児水腫症例の妊娠・分娩管理方針を決定する上での一助となることを目指し,胎児期に診断された病態ごとに,胎児水腫の児の短期予後と長期予後を調査し,在胎週数を始めとする周産期因子と予後との関連を検討し,生育限界と成育限界を明らかにすることを目的とした。

  • 柴田 優花
    p. 75-79
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     胎児水腫はさまざまな原因によって胎児に広範な皮下浮腫と腔水症(胸水・腹水・心嚢水など)がみられる重篤な病態である。大きく免疫性胎児水腫と非免疫性胎児水腫に分けられ,非免疫性胎児水腫の原因は心血管系の異常や染色体異常・奇形症候群,胸腔内病変,特発性など多岐にわたる1)。予後は原因に対する治療法の有無によるところが大きいが2),診断までに時間を要し周産期管理は対症療法に終始せざるを得ないことも多く,予測は難しい。

     特発性胎児水腫の生命予後関連因子として診断週数,分娩週数及び出生体重SDなど3,4)が報告されている。わが国では2012年に重症胎児胸水に対する胸腔羊水腔シャント術5)が保険収載された。当院では対象症例に積極的な胎児治療を行い,分娩週数の延長や肺低形成の予防を目指した管理を行っているが,治療無効例やシャント閉塞・滑脱に伴う胎児や母体の急激な全身状態悪化も時に経験する。

     当院における特発性胎児水腫症例の予後関連因子を検討することで,適切な周産期管理から予後改善に繋ぐことを目的に,後方視的検討を行った。

  • 北代 祐三
    p. 80-86
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     背景

     先天性心疾患(congenital heart defect:CHD)の予後不良因子として,早産や低出生体重そして心疾患の重症度などが挙げられる1〜3)。CHDの重症度に関しては,これまでに疾患名4)や手術手技の難易度5)などの様々な観点から予後が検討され分類されているが,同じ心疾患名としても解剖学的な細かい違いが予後や治療方針に影響することがある。近年では胎児心エコー検査の普及と症例の蓄積により予後に影響するそれらの所見が明らかにされてきたことで,分娩からスムーズな新生児の治療へとつなげる周産期のケアプラン6)の立案が一般化されつつある。

     特に早産期のCHD児の産科管理では,未熟性に加え疾患の重症度も考慮したケアプランの作成や家族への予後の説明が重要となるが,治療方針を基にした重症度別のCHDの予後や生育限界は明らかではない。

  • 宮下 進, 飛彈 麻里子
    p. 87-89
    発行日: 2022年
    公開日: 2024/03/01
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     本シンポジウム後半(午後の部)では前半(午前の部)とは異なり,「病態からみたハイリスク児」として各種の病態をともなう場合の生育限界・成育限界についてディスカッションをおこなった。前半では在胎週数という共通の評価軸が主役であったが,後半はさらに病態という軸が加わり多次元的な視点が必要となった。座長による導入と生育限界,成育限界の定義の確認(生育限界:生命の質には無関係に生きることのできる限界,成育限界:重度の障害を有せずに成長発達できる限界)ののち,各シンポジスト(敬称略)による演題発表および総合討論がおこなわれた(表1を参照)。

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