周産期学シンポジウム抄録集
Online ISSN : 2759-033X
Print ISSN : 1342-0526
第9回
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
はじめに
  • 柴田 隆
    p. 3
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     坂元正一東大産婦人科教授(現名誉教授)のご提唱により産声をあげた日本周産期学会も本年で9年目を迎え,日本周産期学会機関紙としての本誌も第9号が発刊されるに至った。

     本学会は,過去8年間,会員諸賢のアンケートから,主として胎児に関する基礎的医学研究を中心とし,しかも時代を先取りしたテーマを常任幹事会で徹底討論し,その中の1~2題を選んでシンポジウムのテーマとしている。発表にあたられるシンポジスト,関連演題演者は,会員からの応募者で構成するのを原則としてはいるが,より一層専門的に補わなければならない研究に関しては,会員外から超エキスパートをお招きしてご講演いただいてきた。しかも,シンポジウムでは,参加された会員諸賢の一人一人が,紋り込まれたテーマに関して,熱心に,専門的に深く,十分に時間をかけて討議できる雰囲気の下に開催されてきた。これらのシンポジウムの成果は,この間の周産期医学・医療の進歩に大きく貢献してきたものと自負しているのは,会員の誰しもが抱いておられるものと考えている。

     第9回日本周産期学会のテーマは,自己免疫疾患合併妊娠が取り上げられ,基礎編,臨床編として午前,午後にわたって討議が行われた。

     SLEに代表される自己免疫疾患の例では,従来までは妊娠分娩は不可能とされてきたが,病態の解明が進むとともに,治療法の進歩改善により長期寛解例が増加してきており,それらの症例の妊娠前,妊娠中から分娩,産褥に至る一連の管理が重要視されてきている。今回のシンポジウムの企画にあたって,基礎編では,これらの疾患の臨床・研究の第一人者のお一人であられる,順天堂大学医学部膠原病内科の広瀬俊一教授にお願いをいたしましたところ,言をまたずに,同内科の橋本博史助教授をご推挙していただいた。橋本助教授に解説を兼ねてのシンポジストをお願いし,ご快諾をいただきましたことは,本シンポジウム構成にあたり一つの柱ができるとともに,本学会員にとりましても,これらの疾患を十分に理解するうえに非常に有益であり,満腔の感謝を捧げるものである。

     各シンポジストのご発表の内容が,本誌に詳しく述べられているが,これらの研究成果を礎にして自己免疫疾患合併妊娠の管理に関して,さらに一層の進歩改善が図られ,ひいては周産期医学・医療の発展につながることを期待してやまないものである。

     最後に,本年11月には,坂元正一会長の下に第1回International Congress of Perinatal Medicineが東京で開催される記念すべき年でもある。Congressの成功は火を見るよりも明らかなこととは思うが,主催団体の一つである本学会会員の一人として,このCongressでの研究発表の成果を期待するものである。

シンポジウム A:自己免疫疾患合併妊娠の基礎
  • 柴田 隆
    p. 9-10
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     SLEに代表される自己免疫疾患は,流・早産の原因の一つともされており,また妊娠によリその病態の悪化をきたすこともあって,従来では,これらの疾患の場合の妊娠・分娩は困難とされてきました。

     近年,自己免疫疾患,なかでもSLEの病態解明が進み,診断・治療法の進歩改善により,長期寛解例が増加し,自己免疫疾患の例であっても妊娠・分娩に至る例が増加してきていることは,衆知の事実であります。

     これらの自己免疫疾患の例において,妊娠前を含め,妊娠中から分娩に至る全経過の期間,よリ良い母体の管理を行い,母子ともに好結果が得られるようにと,今回のシンポジウムが企画されました。一方,私どものように新生児医療の地域化を推し進め,地域の未熟児・病的新生児のセンター病院におきましても,自己免疫疾患母体児は,最近の9年間で2~3例にすぎす,しかもいずれの児も,NLEあるいは房室ブロックの発症もみられずに経過をしていますが,このことですべてを律することは不可能であります。

     そこで,これらの疾患を専門とする膠原病内科があり,長年にわたり研究の第一線で活躍され,多くの症例の治療をされている(本シンポジウムのシンポジストをお願いしてあります,橋本博史先生はその中心の方でありますが)順天堂大学の症例につきまして,順天堂大学の産婦人科・小児科でおまとめいただきました成績をお借りいたしまして,私なりに表に示しました(表1)。最近,12年間の成績であり,4年間ずつ3期に分けてあります。1979-1982年はわずかに10例でありましたが,1983-1986年には31例,1987-1990年には43例と生産例が増加しております。

     NLEとして第一にあげられます,低出生体重児,SFD児についてこれらの症例の検討をしてみますと,低出生体重は,79-82年では70%,83-86年では極小未熟児の2例を含め,38.8%,87-90年には,超未熟児が1例,極小末熟児が3例であり,低出生体重児としては,46.5%でありました。これらの児の胎内発育をみてみますと,SFD児の比率が,最後の87-90年の4年間の例では,16.3%と減少しております。

     SLE母体児からのNLE発症例は,最下段に示していますように,わずかに5例でありました。1例はダウン症候群,1例は完全房室ブロック例,1例は2yになってからSLEを発症しています。NLE例,NLEの発症をみなかった例のいずれの例も順調な経過でありました。これらの例における各種の抗体の新生児への移行についてはここでは触れることができませんが,シンポジストである橘本先牛,また本日午後のシンポジストである古田先生が述べられることと思います。これらのことから,私は,SLEにおいては母体の管理がいかに重要であるかを伺わせるものであり,本シンポジウムでの成果が大いに期待されるものと考えています。

     さて,習慣性流旱産というお立場から,長年この方面の第一線の研究者であり,本日のメインの座長をお願いいたしております,八神教授に,まずお話をお伺いして,このシンポジウムを始めさせていただきます。

  • 八神 喜昭
    p. 11-12
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     免疫現象とは,生体にとり異質なものを排除し生体を守るという目的をもっていることは衆知の事実であります。しかしその反応が生体の正常な組織へ向けられた場合,その組織は障害を受け不都合なことになります。

     しかし正常である限り,生体の免疫系は自己の成分に対して,このような病的な免疫反応は起こさないのですが,何らかの原因で自己免疫反応が起こリ,これが直接的,間接的に生体に機能的ないし器質的な障害を与える場合にこれを自己免疫疾患と呼んでいます。

     さて,このような自己に対する免疫は正常人では起こることはなく,異常な状態のみで生ずると考えられていました。しかし近年では,正常人でも常に自己免疫反応が起こっていることが明らかになり,かえって非自己に対する免疫反応の根本には,自己に対する免疫反応がなければならないこともわかってきました。このような自己免疫反応は生体にとって,常に障害性に働くとは限らなく,ある場合には組織障害に対して防御的に働いたり,不要となった組織や細胞の破壊産物と結び付いてこれを処理するというような生理的役割を担っているわけで,したがって自己抗体が証明されたとしても,それが生体の障害の原因となっているか否かが不明のときに,これを自己免疫現象と呼んでいるわけです。

     ここで重要なのは今述べましたように,正常人においてはこのような自己免疫反応が,過刺に起こって自己を障害することのないようなmechanismが働いているということで,これを自己寛容self tolelanceといっています。

     この自己寛容が破綻し自己に対する免疫反応が強くなり組織障害に至ったものが,自己免疫疾患であるということになります。

     さて,自己寛容がどのような機構で成立しているかは別として,この自己寛容機構の破綻を誘発する因子,すなわち自己免疫疾患発症の機構としては,

     1) 遺伝因子

     2) 環境因子

      ①感染・薬物・外傷因子

      ②内分泌因子

      ③同種移植片としての妊娠因子

     などが考えられていますが,自己免疫疾患合併妊娠として重要なのは,内分泌因子と妊娠因子ということになるでしょう。

     すなわち内分泌因子としてはいろいろなホルモンが免疫系に影響を与えています。

     例えば,glucocorticoidはimmune responsを低下させたり,estrogenはCD8+T cellを減少させたりすることはよく知られており,これらのホルモンが変動する妊娠時には,このホルモン作用に加えて,同種移植片としての妊娠現象が成立した場合には免疫系は非常に複雑なネットワークを形成し,これらの因子が免疫インバランスを誘導することになり,このことが自己免疫疾患の発症へと導かれることになるわけです。

     一方,さらに重要なことは,自己免疫疾患による全身の臓器・組織の変化が妊娠母体および胎児にどのような影響を与えるかということであり,主なものを表1に示してみましたが,さまざまの自己抗体がそれぞれの臓器に対し障害を与え,母児に対し異常を惹起することが知られています。

     このように自己免疫疾患合併妊娠は周産期医学にとって大変重要な課題であると言わねばなりません。

  • ――妊娠に関連した事項をふまえて――
    橋本 博史
    p. 13-20
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     膠原病は,単一の疾患名ではなく,臨床的,病理形態学的,病因的に共通性をみる疾患群を包含し総称したものである。病因的には自己免疫機序が考えられ,膠原病に含まれる多くの疾患は,妊娠可能年齢層の女性に好発する。膠原病の患者が妊娠・出産する場合には,遣伝性のみならず数多くの問題が提起される。それらは,妊娠が免疫学的に同種移植の成立と考えられ,自己免疫機序を有する膠原病と互いに受け入れることができるかどうかという基本的な問題から派生しているように思われる。

     ここでは,膠原病の理解を深め,妊娠・出産に派生する問題の解決に少しでも近づけるべく,全身性エリテマトーデス(SLE)を中心とする膠原病の概念,発症要因,自己抗体,治療について,妊娠・出産に関連する事項をふまえながら述べる。

  • 木戸口 公一
    p. 21-28
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     自己抗体の一種である抗Ro(SS-A)抗体は,シェーグレン症候群で高率に陽性となるが,全身性エリテマトーデス(SLE)や慢性関節リウマチ(RA)などの自己免疫疾患でもしばしは検出される。また近年,周産期領域では,先天性房室ブロックと新生児ループス(NLE)との濃厚な因果関係が示唆されている。

     われわれが経験した妊娠に関係する抗Ro抗体5)陽性症例について,母体の臨床症状,胎児・新生児の経過および治療効果について報告し,文献考察を加えてみた。「問題提起」とそれに対する「結果および考察」の形式で述べてみたい。

  • 青木 耕治, 林 弥生, 八神 喜昭
    p. 29-36
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     緒言

     1952年にSLE患者血漿中で初めて証明されたループスアンチコアグラント(LAC)とは,リン脂質依存性の内因系凝固時間を延長させる後天性循環抗凝血素のことであり,その後の研究で細胞膜リン脂質(抗原)に対する自己抗体であることが明らかにされてきた1)。またLACを有するSLE患者は,その病像とは無関係に血栓症や反復流産・死産を起こしやすいことが明らかにされるに至って2),LACの本態としての抗リン脂質抗体が臨床的に非常に意義深い自己抗体として注目されてきた。さらに産科医として注目すべき点は,自己免疫疾患のない健常婦人にも抗リン脂質抗体の存在が証明され,これらの症例の多くに反復流産・死産の既往が認められている点である3)。最近では抗リン脂質抗体と子宮内発育遅延4)および妊娠中毒症5)との密接な関係も示唆されており,抗リン脂質抗体と異常妊娠とのかかわりが重要な研究テーマとなってきた。

     今回,異常妊娠の中でも反復流産について抗リン脂質抗体との関係を検討する目的で,1983年から1989年にかけて当院を受診した反復流産患者334例における,血清中の抗リン脂質抗体のELISA法による検索を行った。さらにその中で抗リン脂質抗体陽性反復流産患者のその後の妊娠の予後について,プレドニゾロン・アスピリン療法の未施行例と施行例につき,抗リン脂質抗体価の推移とともに検討を加えたので報告する。

  • 安達 知子, 雨宮 照子, 橋口 和生, 高木 耕一郎, 岩下 光利, 中林 正雄, 武田 佳彦, 坂元 正一
    p. 37-45
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     習慣流産を含む不育症の原因として,近年,lupus anticoagulant(LAC),抗cardiolipin抗体(ACA)などの抗リン脂質抗体の存在が注目されている1, 2)。その病態はいまだ不明であるが,胎盤や脱落膜の血栓形成による胎児胎盤循環障害説が最も有力である3, 4)

     著者らは抗リン脂質抗体陽性妊娠を16例経験し,その臨床的背景と抗リン脂質抗体の関係を検討し,併せて血管内皮細胞および絨毛細胞の培養系を用いて抗リン脂質抗体の血栓形成機序への関与についての基礎的検討を行ったので報告する。

  • 斎藤 滋, 加藤 由美子, 丸山 雅代, 榎本 匡浩, 石原 由紀, 飯岡 秀晃, 安藤 良弥, 森山 郁子, 一條 元彦
    p. 47-54
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     正常な免疫反応において抗原刺激を受けたB細胞は単球やT細胞から産生されるサイトカインと総称される液性因子の調節を受け,活性化,増殖,分化した後,抗体産生を行うようになることが明らかにされている1)(図1)。

     抗体産生はこのように最も進化した免疫反応であるため,免疫系が未熟な新生児における抗体産生能は極めて不良である2, 3)。新生児における免疫系の低下を補うため,胎児期にIgGは母体より経胎盤的に移行し4),出生後の児の感染防御は主として母体由来のIgGによりなされる。本事象は児にとって極めて好都合であるが,自己免疫疾患合併妊娠の際,母体の自己抗体(IgG)が胎児へ移行することとなり,児に悪影曹を及ばす。

     ここでは,まず新生児における抗体産生低下機序につき述べた後に,ヒト胎盤におけるIgGの輸送につき言及したい。

  • 中山 雅弘, 若浜 陽子, 有澤 正義, 和田 芳直, 木戸口 公一
    p. 55-61
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     自己免疫疾患はその多くが妊娠可能年齢の女性の疾患であり,妊娠・分娩との関わりが大きな問題となる。一方,自己免疫疾患の症状は認められなくとも,繰り返す流早産の既往がみられる患者も数多い。

     自己免疫疾患の胎児および胎盤所見に関しての論文は極めて少なく,また,教科書の記載も非常に乏しい1-4, 10)。自己免疫疾患でなぜ流早産が多いのか? IUGRが多いのか? それは妊娠中毒症などと関連する阻血性病変によるのか? それとも別のメカニズムによるのか? 胎児に奇形や臓器障害は起こすのか? これらのことに答えを出している敦科書や論文は皆無であろう。

     今回,これらの疑問に対し,解答を出すまでには至らぬまでも,いくつかの問題提起としてお示ししたい。

     本稿は大きく3つに分かれる。第1はSLE胎盤に関するもので,次いでACA陽性胎盤の検討であり,最後に自己免疫疾患の流早産の胎児に関する検討を述べる。

  • 八神 喜昭
    p. 63
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     本シンポジウムのテーマは“自己免疫疾患合併妊娠の基礎”ということでありましたが,多くの自己免疫疾患をすべて取り上げることは困難であり,最近特に問題となってきている膠原病と妊娠ということで,膠原病疾患,主としてSLEについての基礎的問題が取リ上げられ,各演者より,発症機構,妊娠との関係,抗体の産生およびその意義,母児間の移行胎盤病変よりみた母児相関などについて発表されたが,よく理解でき,有意義なものであった。

     特に自己抗体としての抗SS-A抗体と抗リン脂質抗体につき,その出現と意義,およびその抗体の作用と臓器障害につき新しい知見を加えての発言は,臨床的にもすこぶる興味ある問題である。

     さらに討論の過程においても,抗体が胎児に移行し臓器を障害する時期,その種類と特異臓器の問題,さらには胎盤の変化よりみた抗体の作用部位など,重要な論点が浮き彫りになり,ある程度明確にされたと考えられる。

     さらにはこれらの自己抗体が惹起する妊婦に特有な病変,例えば妊娠中毒症との関連など,今後の問題とされるべき課題も提起された。

     この分野における研究は緒についたばかりであり,不明な点も多く,特に周産期医学の中にあってはすこぶる重要な課題となってくると考えられる。

     このシンポジウムがこの分野における研究発展の足掛かりとなり,より一層の理解が得られ,母児管理の充実が図られることを顧ってやみません。

シンポジウム B:自己免疫疾患合併妊娠における母児管理
  • 谷澤 修
    p. 67-71
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     妊娠という免疫的に特殊な環境のもとで,自己免疫疾患をもつ母体とその胎児・新生児の間でお互いどのような影響をもつかは興味のあるところである。多くの自己免疫疾患のなかで臓器特異性自己免疫疾患として自己免疫性甲状腺疾患,ITP,重症筋無力症,自己免疫性溶血性貧血が,臓器非特異性自己免疫疾患としてSLEが代表的である。

     今回は甲状腺疾患については別の機会に譲ることにして,臨床の場で遭遇することが多く,生殖年齢に発症頻度の高いSLE・ITPをとり上げる。ともに母児に重大な影響を及ぼす代表的な内科疾患であリ,特に児に対して胎盤移行によるIgG抗体がその管理上問題となり,内科医,産科医,新生児科医の密接なチームワークを必要とする。

     本シンポジウムでは主に臨床面から,周産期管理上の問題点を明らかにし,今後の展望を考えてみたい。

  • 上田 隆
    p. 73-79
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     近年,全身性エリテマートデス(SLE)や特発性血小板減少性紫斑病(ITP)に代表される自己免疾患合併妊娠に関する妊産婦管理は著しく改善されてきている。それと同時に,合併症妊婦が分娩する機会も増加し,出生する新生児の管理も重要な問題となってきた。

     SLEの母体から生まれた新生児に,一過性のSLE様症状が認められる新生児エリテマトーテス1)(NLE)や,ITPの母親から出生した一過性の新生児血小板減少症は有名である。しかし,一般にはまれな疾患であるために,出生する新生児のわが国での正確な実態は把握されていない。

     そこで,NICUにおける本疾患群の実態を知る目的で,新生児専門医療機関を対象に新生児の入院症例アンケート調査を施行し,今回は特にSLEおよびITP合併妊娠新生児について検討したので報告する。

  • ――当院の最近15年間の成績について――
    三村 俊二, 浅野 恵子, 中尾 吉邦, 春日井 正秀, 倉内 修
    p. 81-86
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     周産期の内科的合併症のうち,児の転帰に影響を及ばすことの多いものとして自己免疫疾患は重要な位置を占める。自己免疫疾患は,一部の疾患群では臓器特異性を有するものの,一般には多彩な全身症状を呈することが多く,また児への影響の発現の機序としても,母体の基礎疾患の一部分症状として直接的に胎児・胎盤系に作用する場合,自己抗体が経胎盤的に胎児へ移行し一過性に母体と類似した症状を呈する場合など,必ずしも一律ではない。

     以上のことから想像されるように,児への影響の点においても各疾患によりさまざまであり,個別に検討する必要がある。ただ一般的に,従来ともすれば経胎盤移行した自己抗体が引き起こす典型的な児の合併症のみが注目されることが多く,その結果,予後不良例の経験をもとにして児側の合併症について強調しすぎる傾向が,一部の小児科医あるいは新生児科医に認められるように思われる。

     今回,妊娠許可条件の問題も含め,母体の原疾患のコントロールの状態が児の転帰に関する決定因子として何よりも重要であるとの考えから,母児とも一定水準の管理を受けた場合に,児のリスクはどの程度あるかという点を中心に検討を行った。

  • ――SLE合併妊娠の児の予後規定因子――
    吉田 幸洋, 中村 靖, 橋本 武次, 高田 道夫
    p. 87-95
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は20-30歳代の女性に好発し,慢性に経過する疾患であるため,患者にとって結婚・妊娠・出産は重要な問題である。

     これまで妊娠・出産はSLEの増悪因子の1つであり,避けることが望ましいと考えられていた。しかし,近年SLEの病態の解明は進み,診断・治療法の進歩によってSLEの疾患自体の予後は改善され,長期寛解例や軽症例が増えてきた。これに伴って,SLE患者の中には妊娠・出産を希望するものも増え,またSLEを管理する内科医も一定の基準を設けこれを容認する傾向にある1)。しかし,SLE合併妊娠は母児双方にとって極めてハイリスクであり妊娠中は厳重な管理が必要である。

     SLEと妊娠との関係について論ずる場合,妊娠・分娩がSLEの疾患自体に及ぼす影響と,SLEという免疫異常を基盤とする疾患が妊娠・分娩に及ぼす影響との2つの視点から考える必要がある。前者は妊娠・分娩とSLEの発症との関係,さらに妊娠中あるいは分娩後におけるSLEの軽快・増悪といった主として母体側の問題である。一方,後者は流・死産や早産,子宮内胎児発育遅延(IUGR),SFD児や低出生体重児,新生児ループスの発症といった主として胎児・新生児側の問題点としてとらえることができる。

     今回はSLE合併妊娠における胎児・新生児側の予後という点に焦点を絞り,その結果を分析することによって,児の予後に及ぼす母体側の因子を抽出し,産科の側からみたSLE合併妊娠の母児管埋上の要点についてまとめてみた。

  • 土谷 之紀, 松下 享, 前野 敏也, 中山 雅弘, 末原 則幸, 今井 史郎, 木戸口 公一, 広瀬 修
    p. 97-101
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     先天性房室ブロックは,一般的には2万人の出生に対し1人の頻度で出生するといわれており1),その原因の1つとして母体の自己免疫疾患,特に母体の保有するSicca syndrome A(Ro)抗原,Sicca syndrome B(La)抗原に対する自己抗体(以下,前者をSS-A抗体,後者をSS-B抗体)との関連性2)が指摘されている。しかし,これらの自己抗体が陽性の母体であっても必ずしも児に房室ブロックが発症するとは限らず,また児が先天性房室ブロックであることから初めて母体の自己免疫疾患等を指摘されることもある3)

     今回,われわれは自己免疫疾患を合併する母体から生まれた先天性房室ブロックの5症例を経験したので,その胎児管理および臨床経過を呈示するとともに若干の考察を加え報告する。なお胎児房室ブロックの診断には,胎児心エコー図で図1に示すように心房と心室または大動脈弁を同時に1本のMモードライン上,あるいは2本のMモードライン(dual M-mode echo)4)に描出し,心房収縮と心室の収縮もしくは大動脈弁の開放が各々関連なくみられ,かつ心房収縮数が心室収縮数,大動脈弁解放回数よりも多い場合に完全房室ブロック,ときに心房収縮に引き続き心室が収縮している場合を2度房室ブロックと診断した。

  • 進 純郎, 小川 博康, 荒木 勤, 仁志田 博司, 佐藤 喜一
    p. 103-109
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     neonatal lupus erythematodes(以下NLEと略)は,新生児の皮膚の環状あるいは円盤状の紅斑や先天性完全房室ブロックを伴うまれな疾患であり,1954年にMcCuistin & Schoch1)により初めて報告され,1976年にVorderheidにより命名された2)。また,lupus erythematosusの遺伝的背景は濃厚といわれている。

     今回報告する症例は,一見正常と思われる母親より生まれた3児にNLEによる皮疹を認めた稀有な症例である。

  • 牧野田 知, 奥田 俊幸, 出店 正隆, 萩沢 正博, 田中 俊誠, 藤本 征一郎
    p. 111-122
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     idiopathic thrombocytopenic purpura(ITP=特発性血小板減少性紫斑病)はautoimmuneもしくはimmune thrombocytopenic purpura(免疫性血小板減少性紫斑病)ともいわれており,その基本的病態は図1に示すように血小板膜糖蛋白(GP)のGP I b, GP II b/III aなどに存在する血小板自己抗原に対して,脾臓や他のリンパ組織・骨髄などで何らかの機序によって自己抗体が産生され,この抗体が血小板と結合し,脾臓などの網内系のマクロファージに貪食され,血小板寿命が著しく短縮し,血小板減少が引き起こされるのが主因と考えられている。

     本疾患は他の自己免疫疾患と同様に若年女性に比較的好発する傾向があり,分娩をはじめとする出血を避けることのできない周産期においては母児管理が大きな問題となってくる。

     そこで本論文では,まずITPの疫学を含む病態について論じた後,当科での20症例(表1)の経験をもとにした,現在われわれが行っているITPの母児管理方法について述べることとする。

  • 川鰭 市郎, 馬渕 道夫, 三鴨 廣繁, 村瀬 稔子, 古井 辰郎, 玉舎 輝彦
    p. 123-128
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     近年の母児管理の進歩は,さまざまな合併症を有する妊婦の安全な妊娠出産を可能にしてきている。なかでも特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は比較的若年女性に高頻度にみられる自己免疫疾患であるため,妊娠に合併することはまれではない。したがって,われわれ産科医がITP合併妊娠に遭遇する機会は少なくない。

     ITPは免疫的な機序により血小板の破壊が亢進する疾患であリ,このメカニズムに関与する因子は胎盤を通過して胎児にまで影響を及ぼし,ITPを有する母親から出生した児の33%~52%に血小板減少が認められるとされている1)。したがって,ITPを有する婦人が妊娠した場合には母体のみならず胎児の血小板数にも注意を払う必要が生じてくる。

     ITPの診断のみならず,その病勢を反映する指標として血液中の血小板表面IgG(platelet associated-IgG:PA-lgG)の有用性が知られているが2),このPA-IgGが妊婦だけではなく胎児の血小板数を反映しているかどうかについては明らかにされていない。われわれはITP合併妊婦および正常妊婦を対象に,母体血ならびに臍帯血を採取し,血小板数を調べ,血小板数とPA-lgG値との関係について検討を行った。

  • 小林 隆夫, 西口 富三, 寺尾 俊彦
    p. 129-137
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     緒言

     特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura :ITP)は自己免疫性血液疾患の1つで,骨髄での血小板の産生障害がなく,末梢での血小板破壊の亢進が血小板減少の原因と考えられるものをいう。

     その機序は,ある血小板膜抗原に特異的に結合した抗体(IgG)がそのFc部分で網内系(マクロファージのFc receptor)に取り込まれることによリ,血小板減少が引き起こされると考えられている1)

     ITPには急性型と慢性型とがある。急性型は小児に多く,自然治癒することが多いが,慢性型は成人ことに女性に多く,自然治癒することは少ない。慢性型のITPは若年婦人に好発するため,妊娠との合併が多く,産科医が最も遭遇しやすい血液疾患である。したがって妊娠・分娩管埋が問題となるが,母体の抗血小板抗休が胎盤を通過して,胎児・新生児に一過性の血小板減少を起こすことがある(passive immune thrombocytopenia:PIT)ので,胎児・新生児管理にも十分な注意が必要である。

     ITP合併妊娠の管理については,従来よりさまざまな提案がなされてきたが,われわれは今までに取り扱ってきた多くの症例の経験および文献的考察より,ITP合併妊婦における妊娠・分娩管理について適切な指針を述べることにする。

  • 高木 健次郎, 正岡 直樹, 坂田 寿衛, 佐藤 和雄
    p. 139-144
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     はじめに

     特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura :ITP)は自己免疫性血小板減少紫斑病ともよばれ,自己の血小板に対して抗体を産生することによって,血小板が破壊されるために起こるとされている。最近ではITP合併妊婦の母体血小板減少に対して,ステロイド療法やグロブリン大量療法などを用いることにより,比較的良好にコントロールすることが可能となり,また胎児管理では,Scottら1)(1980年)によって児頭採血により胎児血小板数を測定し,その結果から分娩方式を選択する方法が一般に用いられている。しかし,この方法は破水後で,ある程度子宮口が開大していることが必要であり,また採血に際しては迅速に行うことが望ましく,血液が凝固した場合には実際値より低値を示すことがあるなどの問題もある。近年,Daffosらによって紹介された超音波ガイド下母体経皮的臍帯血採取法(percutaneous umbilical blood sampling:PUBS)により,胎児血をサンプルすることが可能となり,胎児血小板減少の診断も陣痛発来前にin uteroでなしうるようになってきた。そこで最近当科において経験されたITP合併妊娠4症例(5妊娠)について症例提示し,さらにPUBSを用いる管理方法の利点,問題点についても検討を行った。

  • 谷澤 修
    p. 147
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     本シンポジウムでは自己免疫疾患合併妊娠のうちITPとSLEに限り討論がなされた。周産期管理上,経胎盤的に移行した自己抗体が両者とも問題となるが,ITPの場合は血小板に対する抗体のみが問題となり,母児の血小板減少に対する対策に焦点があてられるのに対して,SLEの場合は全身性の疾患であり,妊娠のSLEに及ぼす影響およびSLEの妊娠・胎児に及ぼす影響は大きいものがあることが明らかになった。

     まずITPの周産期管理上の問題点として,母体治療として用いられる大量ガンマグロブリンの胎児への有効性について疑問がなされた。文献的にも議論のあるところであり,今後の研究が待たれる。

     また,出生前の胎児血小板数の評価については,上田の調査で児頭採血すらなされていない施設が多く,臍帯穿刺法などの胎児採血が普及しつつある今日,統一した管理基準の設定が望まれる。これに関連して,分娩様式についても胎児血小板減少症の有無によリ帝切か経腟かを決定すべきであろうが,血小板減少症を5万に基準をおくべきかどうかは再検討の余地があると思われる。

     SLEの周産期管理上の問題点については,まず診断基準,妊娠許可基準を明確にすることが重要である。われわれの行った膠原病患者へのアンケート調査によれば,膠原病というだけで妊娠を諦めている人や,内科医に止められている人が多くいることがわかった。

     一方,ステロイドのパルス療法や妊娠中のステロイドの安全な使用法などが確立されたことや,胎児新生児管理の進歩により,今まで難病とされ挙児を得ることができなかった患者にも,生児を得ることができるようになった。

     今回は内科専門医の意見を聞くことができなかったのは残念であるが,内科医との連携のもとで患者のquality of lifeに視点を置き,妊娠許可から始まり,より良い周産期管理に努めたいと考える。

  • 藤村 正哲
    p. 148-149
    発行日: 1991年
    公開日: 2024/05/07
    会議録・要旨集 フリー

     新生児が子宮内環境から出生してくるまぎれもない事実の良い例として,妊婦の自己免疫疾患は小児科医にも教訓的な課題である。

     小児科サイドからみると自己免疫疾患を合併した妊婦から出生する新生児を診療する機会はそんなに多いものではない。特に産科のない施設では,児に問題が顕存化していない場合以外は紹介される頻度も少ない。そうであるからこそ,新生児の病態を常に周生期的なアプローチから理解することの重要性を一層認識させるものである。

     現在の臨床では,妊婦自己免疫疾患から出生した新生児に対して,小児科サイドが行うことのできる根治的治療法はまれである。その予後に影響を与えるような有効な治療法は,一部の例を除いて見当たらない。そういう意味では小児科医にとって腕の見せ場の少ない疾患群ではあるが,それをもって小児科の立場から関与する意義を小さくすることがあってはならない。特に児の予後を十分に検討することが大切である。

     多くの症例を経験する小児科医が少ない現状からみて,予後の検討には共同研究も大切になるだろう。今回の学会を契機として,全国のNICUの入院状況の調査が行われたことは,その第一歩としての大きな意味があると思われる。

     小児科サイドのまとめとして,4つの表を示しておきたい。いずれも本学会の各演者によって詳細に述べられてきたことであるが,これから入院してくる新生児の診療にあたってのスタートして活用いただければと希望する。

feedback
Top