免疫現象とは,生体にとり異質なものを排除し生体を守るという目的をもっていることは衆知の事実であります。しかしその反応が生体の正常な組織へ向けられた場合,その組織は障害を受け不都合なことになります。
しかし正常である限り,生体の免疫系は自己の成分に対して,このような病的な免疫反応は起こさないのですが,何らかの原因で自己免疫反応が起こリ,これが直接的,間接的に生体に機能的ないし器質的な障害を与える場合にこれを自己免疫疾患と呼んでいます。
さて,このような自己に対する免疫は正常人では起こることはなく,異常な状態のみで生ずると考えられていました。しかし近年では,正常人でも常に自己免疫反応が起こっていることが明らかになり,かえって非自己に対する免疫反応の根本には,自己に対する免疫反応がなければならないこともわかってきました。このような自己免疫反応は生体にとって,常に障害性に働くとは限らなく,ある場合には組織障害に対して防御的に働いたり,不要となった組織や細胞の破壊産物と結び付いてこれを処理するというような生理的役割を担っているわけで,したがって自己抗体が証明されたとしても,それが生体の障害の原因となっているか否かが不明のときに,これを自己免疫現象と呼んでいるわけです。
ここで重要なのは今述べましたように,正常人においてはこのような自己免疫反応が,過刺に起こって自己を障害することのないようなmechanismが働いているということで,これを自己寛容self tolelanceといっています。
この自己寛容が破綻し自己に対する免疫反応が強くなり組織障害に至ったものが,自己免疫疾患であるということになります。
さて,自己寛容がどのような機構で成立しているかは別として,この自己寛容機構の破綻を誘発する因子,すなわち自己免疫疾患発症の機構としては,
1) 遺伝因子
2) 環境因子
①感染・薬物・外傷因子
②内分泌因子
③同種移植片としての妊娠因子
などが考えられていますが,自己免疫疾患合併妊娠として重要なのは,内分泌因子と妊娠因子ということになるでしょう。
すなわち内分泌因子としてはいろいろなホルモンが免疫系に影響を与えています。
例えば,glucocorticoidはimmune responsを低下させたり,estrogenはCD8+T cellを減少させたりすることはよく知られており,これらのホルモンが変動する妊娠時には,このホルモン作用に加えて,同種移植片としての妊娠現象が成立した場合には免疫系は非常に複雑なネットワークを形成し,これらの因子が免疫インバランスを誘導することになり,このことが自己免疫疾患の発症へと導かれることになるわけです。
一方,さらに重要なことは,自己免疫疾患による全身の臓器・組織の変化が妊娠母体および胎児にどのような影響を与えるかということであり,主なものを表1に示してみましたが,さまざまの自己抗体がそれぞれの臓器に対し障害を与え,母児に対し異常を惹起することが知られています。
このように自己免疫疾患合併妊娠は周産期医学にとって大変重要な課題であると言わねばなりません。
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