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今泉(安楽) 温子, 馬場 真里, 林 晃之, 下田 宜司
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S0062
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
高等植物の根には、根粒菌による根粒窒素固定共生と、アーバスキュラー菌根菌による菌根共生が見出される。2つの共生系は、その有り様を異にするが、2つの共生菌の共生成立過程は、共通する宿主遺伝子群~共通シグナル伝達経路(common symbiosis pathway:CSP)により制御されている。菌根菌・根粒菌の感染時、宿主植物の根では、周期的なカルシウムイオン濃度変動~Caスパイキング~が誘導されることから、Caシグナルの起動とCa依存的な下流因子の活性化が共生成立に重要であると考えられてきた。CSP遺伝子変異体の多くは、感染応答的Caスパイキングを示さないことから、これらの遺伝子は、Caスパイキング起動因子として機能していることが示唆される。一方、CSPの中核的因子であるCCaMK(カルシウム・カルモデュリン依存型キナーゼ)は、Caスパイキングがコードするシグナルのデコーダー分子と目され、CCaMKのカルシウム依存的な活性化が共生成立に必須であると考えられている。機能獲得型CCaMK変異体の解析から、我々は、CCaMKの活性化が、根粒器官形成プログラムを起動することを報告したが、CCaMKの活性化が根粒菌及び菌根菌の感染成立に必須であることを新たに見出した。CSPによるCaシグナリングを介した共生菌受容過程の制御モデルを提唱し、宿主植物の「感染受容化」について考察したい。
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林 誠
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S0063
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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感染糸とは、根粒形成において根粒菌が根に感染する際にマメ科植物によって供給される構造である。根毛が屈曲して根粒菌を包み込んだ後に、感染糸は根毛から皮層へ向かって表皮細胞を貫通するように伸長し、根粒菌は感染糸を通じて根に侵入する。ミヤコグサではいくつかの感染糸形成変異系統が報告されており、我々は原因遺伝子の同定と機能解析を進めている。
cyclops変異系統ではカーリングと菌の増殖は見られるものの、感染糸の伸長はほとんど起こらない。同時に根粒の発達は原基の段階で抑制されている。CYCLOPSは核タンパクであり、CCaMKと相互作用した。機能獲得型CCaMKはCYCLOPS非依存的に根粒を形成することから、皮層におけるCYCLOPSはCCaMKの活性化のみに機能していると考えられる。さらに、異所的に
Ninを発現させることにより
cyclopsにおいて感染糸の伸長が観察されることから、表皮におけるCYCLOPSの機能はNinの発現にのみ関与していると考えられる。また、
alb1変異系統では感染糸が発達するものの、表皮から皮層への進入は起こらない。しかしながら肥大した感染糸が含まれる発達した根粒(タイプ?根粒)が低頻度で観察される。ALB1はLRR-RKであり、この発現は感染予定細胞に限定されていた。これら遺伝子の発現パターンをもとに、感染糸形成における遺伝子機能の階層構造を考察する。
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内海 俊樹, 下田 宜司, 下田(笹倉) 芙裕子, 永田 真紀, 村上 英一, 橋本 雅仁, 九町 健一, 鈴木 章弘, 東 四郎, 阿部 ...
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S0064
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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根粒菌が合成するNodファクターは、宿主植物との相互認識に関わる重要な鍵分子であり、特異的なNod ファクターにより、宿主の根粒形成プログラムが始動する。しかし、リポ多糖(LPS)の変異株には、共生を成立できないものが存在するように、Nodファクター以外の根粒菌成分を介した認識応答が予想される。
ミヤコグサの根に植物病原菌を接種すると、NOが持続的に発生するが、class 1 Hb遺伝子(
LjHb1)は発現しない。しかし、共生根粒菌を接種した場合には、NO発生は一過的であり、それと同調するように
LjHb1が発現する。NOは、植物の病原応答のシグナルとして機能するが、根粒菌による防御応答の誘導は、NOと強い親和性を持つclass 1 Hbの働きにより回避されるのかもしれない。共生が成立した根粒内部でも、NOが発生している。NOは、ニトロゲナーゼ活性を阻害することが知られていたが、
LjHb1を過剰発現させることにより、根粒の窒素固定活性を2倍程度向上させることが可能であった。
さて、宿主植物は、根粒菌のどのような成分を認識してNOを発生するのであろうか?ミヤコグサ根粒菌の粗LPSをミヤコグサに接種すると、根粒菌接種時と同様なNOの発生が観察された。LPSは候補成分の一つであると考え、その構造解析、植物のLPS結合性タンパク質の遺伝子探索などに取り組んでいる。
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箱山 雅生, 河内 宏, 菅沼 教生
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S0065
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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根粒菌の多くは、通常単独で生活する場合には窒素固定を行わない。マメ科植物である宿主が形成する根粒に内部共生することで、根粒菌ははじめて窒素固定機能を発揮する。このことは、根粒菌の窒素固定機能が、厳密に宿主植物によって制御されていることを示している。では、宿主植物はどのように内部共生した根粒菌の窒素固定機能を制御しているのだろうか。われわれは、ミヤコグサの根粒は形成されるが窒素固定機能に変異を生じたFix
-変異体を用いて、宿主植物による根粒菌の窒素固定機能の発現制御機構の解明に取り組んでいる。これまでに
sst1,
ign1、
sen1,
fen1の4種類のミヤコグサFix
-変異体の原因遺伝子を同定した。これらの変異体に形成された根粒の窒素固定活性は顕著に抑制されており、それらの原因遺伝子は内部共生した根粒菌の窒素固定能の発現に必須の植物遺伝子であると考えられる。このうち
Sst1遺伝子は、内部共生した根粒菌と宿主植物細胞を隔てるペリバクテロイド膜に局在し、ニトロゲナーゼに必須の硫黄元素を宿主植物細胞から根粒菌に輸送する硫酸トランスポーターをコードすることが明らかとなった。しかしながら、その他の遺伝子については機能が不明である。ここでは、組換えタンパク質発現系を用いた最近の知見に基づいて、
Sen1と
Fen1遺伝子の予測される機能について述べる。
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岡本 暁, 大西 恵梨香, 佐藤 修正, 高橋 宏和, 中園 幹生, 田畑 哲之, 川口 正代司
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S0066
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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マメ科植物は土壌中の窒素の濃度や、既に形成された根粒の数に応じて新たな根粒形成を制御している。特に後者は「根粒形成のオートレギュレーション」と言い、シュートを介したシステミックな制御であるため根とシュートを結ぶ2つの遠距離シグナルが想定されている。その2つの遠距離シグナルとは、根粒菌が感染した根で誘導されてシュートへ移行する「根由来シグナル」と、シュートからシステミックに根粒形成を抑制する「シュート由来シグナル」である。ミヤコグサから単離されたHAR1はLRR受容体型キナーゼをコードしており、根粒形成のオートレギュレーションと硝酸による根粒形成の抑制の両方に関わることがわかっている。また、HAR1はシュートで機能することから根由来シグナルを受容すると考えられている。そこで我々はミヤコグサゲノム情報から根由来シグナルとなる因子の探索を行ない、その有力な候補として
LjCLE-RS1, -RS2を発見した。根で過剰発現させた
LjCLE-RS1, -RS2はHAR1依存的にシステミックに根粒形成を抑制し、さらに
LjCLE-RS2は硝酸により著しく発現量が上昇することがわかった。これらの知見に基づき、我々はLjCLE-RS1, -RS2がHAR1を介した根粒形成のオートレギュレーションと硝酸による根粒形成の抑制の両方に関与するモデルを提唱する。
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平譯 享
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S0067
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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世界の海洋の中でも北極海や南極海は非常に高い植物プランクトンバイオマスと基礎生産力を持つことが知られている。これら極域海洋において、地球温暖化の影響とされる海洋環境変動が現れている。北極海においては2007年9月に過去最小の海氷面積を記録し、南極海においては棚氷流出が報じられた。このような大規模な海洋環境の変化は生息する植物プランクトンの光合成にも影響を与えると考えられるため、その変化をモニタリングすることは重要である。しかしながら、極域海洋における連続した調査は困難なため、リモートセンシングによる植物プランクトンバイオマスや基礎生産力の分布推定が利用されている。本講演では、リモートセンシングによって得られた極域海洋における植物プランクトンバイオマスおよび基礎生産力の分布と変動について紹介する。
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菓子野 康浩, 藍川 晋平, 佐藤 和彦
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S0068
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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陸上の植物により、年間50~70ペタグラムの炭素が固定されている。一方、地球全体を見てみると、その70%は海洋に覆われている。海洋水圏には多様な微細藻類が生息し、光合成活動を行っている。しかも、その微細藻類による炭素固定量は年間45~50ペタグラムにもなり、陸上植物による炭素固定量に匹敵する。そして、その約半分、つまり、地球上の光合成生産の20~25%を担っているのが北極圏や南極圏海洋域に生息する好冷性植物プランクトンやアイスアルジーである。また、陸上植物は寒冷域では光合成が大きく抑制されるが、好冷性微細藻類は高い一次生産力を備えており、北極や南極圏の豊かな生態系を支えるほどである。私たちは、これらの好冷性植物プランクトンやアイスアルジーが低温・弱光下という環境下で如何にして効率的な光合成を行っているのかを解明するために、カナダの北極海沿岸や、北海道サロマ湖をフィールドとして、測定を行ってきた。本講演では、光環境変化に対するこれら微細藻類の応答機構にとくに注目する予定である。
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田邊 優貴子, 工藤 栄
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S0069
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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昭和基地周辺には、南極の一般的イメージ「薄暗い氷に閉ざされた大陸」とは違った露岩域と呼ばれる地帯がある。これらは氷期-間氷期サイクルという地球規模の環境変動の影響を受け、3~4万年前に南極氷床が後退して創成された。そこに多数点在する多様な形状・水質を持った湖沼の底には普遍的に、まるで森林のようにユニークな植物群落(藻類・コケ類優占)が一面に広がっており、南極陸域生態系の中で最も豊穣な植生と言われている。この湖ごとに独自で多様な湖底藻類形成と繁栄の謎に迫るべく、1)南極湖沼の環境変動の解明、2)湖底藻類群集の保持色素と光合成の関係、3)光変動に対する藻類群集の応答性、というアプローチによる研究を行った。南極湖沼は一年のほとんどを氷に覆われ、氷厚や積雪によって水中の光環境は大きく影響を受けていた。南極の夏季は光合成生物にとって限られた成長期であるが、日長が長く、紫外域を吸収する溶存有機物質が低濃度の湖水であるためか、湖底まで強光・強紫外線が到達しており、貧栄養かつ低温の湖水環境であった。藻類群集は、このようにストレスの多い極域で生存し生長するために、強光・強紫外線の防御によって死滅回避しながらも、可能な範囲の光エネルギーを利用するように応答することが明らかになった。これにより、藻類群集は死滅すること無く正の光合成を維持でき、南極の湖底で大群落を築き上げていたと考えられる。
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原 慶明, 設楽 智文
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S0070
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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日本海に面した豪雪地帯の残雪期に、標高千メートル前後のブナ林周縁に雪上藻類が出現する。極域や標高の高い山岳地帯の雪上藻類と共通する種類も多いが、この地域以外からは確認されていない種類もいる。
Ochromonas smithii と
O. itoiは原記載(Fukushima、1968)以来、日本以外からの報告はない。両種は単細胞遊泳型の黄金色藻類(Chrysophyceae)で、表面に1から4の棘状突起を持つ特徴的な細胞形態で、現地では5月下旬から7月中旬に、積雪表面がパッチ状に黄色に色づく(彩雪)ほど増殖する。これを研究室に持ち帰り顕微鏡観察すると15℃前後の室内ではすぐに不動となり、破裂してしまう。そのため、以降の作業は全て4℃の低温実験室で行なうことになる。雪上藻類の研究は極域や標高の高い山岳地帯に出現する藻類を対象に行われ、年間を通して雪や氷河が存在するため、「雪上藻類がどこから来て、どのように増殖し、どこへ消えていくか?」という疑問に触れることは少なく、従って、これら藻類の生活環に関する調査・研究は僅少である。我々の調査地である月山や鳥海山は8月~9月にかけて、積雪が地表から完全に消失するため、それらの生活環と生理、生態学的特性の関係解明を端緒として、さらに「氷河期や全球凍結など地史的な寒冷環境を如何に生残・進化したか?」の視点に立ち雪上藻類の研究を進めている。
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内田 雅己, 吉竹 晋平, 神田 啓史, 中坪 孝之
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S0071
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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IPCC(2007)の予測によると、今世紀末の地球表面温度の上昇は北極地域が最も著しいとされている。北極陸上生態系には、樹木を欠き、矮性の低木や草本、あるいは蘚苔類や地衣類によって優占されているツンドラ生態系が広がっている。ツンドラ生態系では、維管束植物に比べて非維管束植物の種数は多くなる傾向があり、ある地域では植物の種組成の7割以上を非維管束植物が占めることが知られている。本発表では、寒冷な地においても高い多様性を維持し、ツンドラ生態系の主要な構成要素となっている、非維管束植物の光合成生産におよぼす温度の影響について紹介する。
ノルウェー・スピッツベルゲン島、ニーオルスンにある東ブレッガー氷河後退域に優占する、カギハイゴケ、トゲエイランタイ、および藻類や地衣類等から成り、地表面に“かさぶた”状の構造体をつくるバイオロジカルソイルクラスト(以下、クラスト)の光合成特性を調査した。その結果、水分が供給されている際の最大光合成速度は、カギハイゴケ>トゲエイランタイ>クラストとなった。純光合成速度の至適温度は、カギハイゴケが最も高く、トゲエイランタイとクラストは低かった。温度上昇が光合成生産に与える影響を、モデルを用いて推定したところ、いずれの植物も純生産量は減少したが、その度合いは著しく異なり、温度上昇の影響は植物によって異なることが示唆された。
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村岡 裕由, 野田 響, 内田 雅己
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S0072
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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極域の陸上生態系は,地球規模での環境変動がもたらす影響が顕著である場所として,また,生態系の一次遷移の生じる場所として注目されている。高緯度北極のツンドラ生態系には維管束植物が広く分布しており,その生理生態学的特性と微気象環境との関係や植生の分布様式は,生態系の成立過程をなすと同時に,生態系のCO2吸収量を規定する。本講演では,スバールバル諸島ニーオルスン(北緯78.5度,東経11.5度)のツンドラ生態系を代表する維管束植物3種(キョクチヤナギSalix polaris,チョウノスケソウDryas octopetala,ムラサキユキノシタSaxifraga oppositifolia)の光合成特性とバイオマス分布について紹介する。葉の最大光合成速度(光飽和,大気CO2濃度370ppm)はSalixが約124 nmolCO2/g/s,Dryasが約58,Saxifragaが約24だった。種ごとの光合成能の違いは,種ごとの葉の窒素含量の違いを反映していた。落葉性のSalixの光合成能は顕著な葉齢依存性を示した。当地の若い植生では蘚苔類やSaxifragaが優占し,植生の発達に伴いSalixの優占度およびバイオマスが増す。こうした種組成とバイオマスの変化,および上述の光合成特性を考慮することにより,氷河後退域の植生および土壌の発達と一次生産量の空間分布様式の関係を探ることができる。
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鈴木 祥弘, 谷澤 亜衣, 肥前 阿野音
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S0073
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
海氷と海水の境界である海氷下面は、外気で冷却されて海水中で最も低い温度環境にあるが、同時に、結氷した海中で最も光強度が高く光合成に適した光環境にある。この海氷下面では、海氷藻類群集(IceAlgae)が光合成を行い、海氷を着色するまでに増殖する。酵素反応などの維持に、液体の水が不可欠であることを考慮すると、過冷却などで-2℃以下にまで低下するこの環境は、光合成が行われる最低の温度環境と考えられる。
単離に成功したIceAlgae種(
Detonula confervacea (Cleve) Gran)を用いた培養実験から、この種の増殖は-5℃でも維持されることを明らかにした。この増殖には光合成が不可欠であり、光合成生物に共通の炭酸固定酵素RuBisCOの活性も維持されている必要がある。IceAlgae単コロニーからDNAを増幅し、これを用いて塩基配列を決定する方法で、培養の難しいIceAlgae種も含めたさまざまな種のRuBisCO遺伝子(rbcL、rbcS)の塩基配列を決定した。IceAlgae種のRuBisCOが全て低温耐性を持つと仮定して、常温棲近縁種のRuBisCOと比較すると、低温耐性RuBisCOに必要な共通の一次配列が求められる。これらの結果をもとに、IceAlgae光合成の低温適応について考察する。
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長谷 あきら, 小野 裕也, 岡 義人, 望月 伸悦
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S0074
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
フィトクロムには複数の分子種が存在する。なかでもフィトクロムA(phyA)は、他のフィトクロム分子種にはない特殊な性質を示す。系統樹解析によれば、フィトクロムは種子植物成立の直後にphyA/C型とphyB/E型に分岐した。被子植物のphyAが獲得したと考えられる特殊機能として、1)超低光量応答を示す、2)連続遠赤色光に応答する、3)暗所で高レベルに蓄積し明所で速やかに分解される、ことなどが挙げられる。これらの特徴は、phyAが進化の過程を経て、高感度な光受容体として特殊化したことの表れと理解できる。我々は、phyAの特殊機能の構造的基盤を探るため、フィトクロム分子を4つのドメイン(N-PAS, GAF, PHY, C-末端)に分割し、それぞれをphyA/phyB間で交換したキメラ遺伝子を14種構築し、シロイヌナズナの
phyAphyB二重変異体背景で、GFP融合タンパク質の形で発現させた。得られた形質転換植物を用いてキメラ分子の性質を詳しく比較した結果、phyA機能を示すために必要なドメインの組合せは、連続赤色光による核内蓄積、連続赤色光生理応答、光依存的分解のそれぞれで異なることが分かった。超低光量反応についても今後解析を進める予定である。本講演では、phyAとphyBに関するこれまでの知見を概説し、上記の研究成果を紹介するとともに、フィトクロム機能の多様化機構について考察する。
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松下 智直
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S0075
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
フィトクロムは、植物の「視覚」を構成する光情報受容体の中でも、主に赤色光・遠赤色光成分の受容を担い、植物のほぼ全ての光応答に関わる極めて重要な色素蛋白質である。そしてその分子は、光受容に働くN末端側領域と、二量体化に働きキナーゼドメインを持つC末端側領域からなる。従来、フィトクロムはC末端側領域内のキナーゼ活性により下流にシグナルを伝達すると信じられてきたが、我々の最近の研究によりその「常識」が覆され、フィトクロムの最も主要な分子種であるphyBが、C末端側領域からではなくN末端側領域からシグナルを発信することが証明された。この発見により、フィトクロムのシグナル伝達機構を一から見直す必要が生じた。我々はこれまでに、大規模な順遺伝学的解析から、phyBのN末端側領域内でシグナル発信に直接関与するアミノ酸残基を同定した。そして最近になり、海外の複数のグループによって、細菌やラン藻のフィトクロム分子についてそのN末端側領域の結晶構造が解かれたことにより、高等植物フィトクロムのN末端側領域からのシグナル伝達機構について、原子レベルでの議論が可能となりつつある。本講演では、フィトクロムのシグナル伝達機構について、我々の研究成果および国内外の最新の知見を紹介しながら、主にその初発反応に重点を置き、フィトクロム分子内構造との関わりから論ずる。
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徳富 哲, 直原 一徳, 岡島 公司, 桂 ひとみ, 吉原 静恵, 中迫 雅由
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S0076
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
青色光受容体フォトトロピン(phot)はLOV1およびLOV2と名付けられた光受容ドメインを二つとセリン/スレオニンキナーゼドメイン(KD)をもち、光により制御されるキナーゼと言うことができる。本講演では、フォトトロピンの機能ドメインの分子構造、光反応とそれにともなう分子構造変化、それにより引き起こされるキナーゼ活性制御について、我々が得た結果を含めてその最新像を紹介する。KD自身はconstitutive な活性をもち、メインスイッチであるLOV2が結合することによりその活性が阻害されている。青色光はLOVドメインにユニークなサイクル的な光反応を起こし、その過程でLOV2コアに構造変化が生じ、これらがLOV2とKDとの間のリンカー部分の構造変化を引き起こし、LOV2がKDから解離し阻害が解消されキナーゼが活性化されると考えられる。一方LOV1は溶液中で安定なダイマーを形成しており、photのダイマー形成サイトとして機能する可能性がある。最近得られた結晶構造からLOV1モノマーどうしの結合様式が、機能の異なる二つのphot1とphot2とでは異なることがわかった。さらにLOV2のオリゴーマー構造もphot1とphot2で異なっていることがわかり、これらは両phot間の機能の差異を反映していると考えられる。
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島崎 研一郎, 武宮 淳史, 井上 晋一郎, 土井 道生
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S0077
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
高等植物の気孔は青色光に応答して開口する。この気孔開口は孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseに駆動され、光シグナルはフォトトロピンに受容されることが分かっている。しかし、フォトトロピンから細胞膜H+-ATPaseへの情報伝達は未解明である。本講演では、この2つの物質の間の情報伝達の最近の成果を報告する。フォトトロピンは典型的な Ser/Thrプロテインキナーゼで、細胞膜H+-ATPaseはSer/Thrキナーゼによるリン酸化により活性化されるので、フォトトロピンが細胞膜H+-ATPaseをリン酸化する可能性が考えられたが、その間をタイプ1プロテインフォスファターゼ (PP1)が仲介していた。一方、フォトトロピンは光照射によって自己リン酸化されるタンパク質として発見されたが、その生理的役割は不明であった。質量分析によってリン酸化部位はN-末、LOVドメイン、キナーゼドメイン、C-末にわたって8つ存在することが分かった。この中でキナーゼドメイン中の2つのサイトが機能的な働きを示し、他の部位は情報伝達に必要でなかった。また、このリン酸化部位は気孔開口のみならずフォトトロピンの仲介する光屈性、葉緑体運動、葉の平滑化に共通に必要であった。最後に、シダの気孔は高等植物とは異なり青色光特異的気孔開口は示さず、孔辺細胞葉緑体が開口に重要な役割を果たす事を紹介したい。
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末次 憲之, 和田 正三
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S0078
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
葉緑体運動は様々な外的刺激によって誘導され、葉緑体の正常な機能を行うために必須である。葉緑体光定位運動はフォトトロピンファミリー光受容体によって制御されている。多くの植物で、葉緑体運動はアクチン繊維に依存しているが、その分子メカニズムは明らかになっていない。我々は、シロイヌナズナにおいて、葉緑体の細胞膜に接する部分に存在する短いアクチン繊維(cp-actin)が、葉緑体光定位運動と葉緑体の細胞膜へのアンカーを制御するという新しいメカニズムを発見した。青色光照射によって葉緑体運動を誘導すると、cp-actin は葉緑体が動き出す前に移動方向の前端側に偏在し、このcp-actin を利用して葉緑体は移動する。定位した葉緑体のcp-actinは弱い光によって増加し、葉緑体の運動を減少させるが、強光下では偏在化の前に一過的に消失し葉緑体の運動は増加する。これらのcp-actin の光による消長はフォトロピンによって制御されている。また、様々な葉緑体運動の変異体においてもcp-actin の光制御や動態に異常が見られ、特にcp-actin を欠損した変異体では光定位運動だけでなく、葉緑体の細胞膜へのアンカーも欠損していた。したがって、cp-actin はフォトトロピン依存の葉緑体光定位運動と葉緑体の細胞膜へのアンカーに必須である。
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酒井 達也, 槌田(間山) 智子, 永島 明知, 上原 由紀子
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S0079
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
植物が光源方向を認識して成長方向を制御する光屈性反応は、青色光によって誘導され、赤色光によって反応の強さが調節されている。シロイヌナズナの突然変異体を用いた分子遺伝学的解析は、青色光受容体フォトトロピンが光屈性誘導に必須であり、青色光受容体クリプトクロム及び赤色光受容体フィトクロムの活性化が光屈性反応の促進に働くことを示している。しかしながら、これまではそれぞれの光受容体の光屈性における機能が探索されるばかりで、その間に働くクロストークについてはほとんど研究がなされてこなかった。最近、複数の研究グループが、フィトクロム・クリプトクロムによるフォトトロピンシグナル伝達因子の機能発現制御、光屈性に働く植物ホルモンの代謝・輸送制御の実体を報告した。これらの解析結果は、フィトクロム・クリプトクロム光受容体シグナリングが、これまで予想していた以上に、光屈性に重要な役割を演じていることを示唆している。また、最近の我々のフィトクロム・クリプトクロム多重変異体解析はこれを支持する結果を示した。本講演では、光屈性における光受容体シグナリングのクロストークについて、我々の研究成果及び国内外の最近の研究成果を紹介し、光に応答した植物の成長方向制御の現在予想される分子メカニズムについて紹介する。
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佐藤 豊, 野坂 実鈴
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S0080
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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トランスポゾンの転移は挿入変異や染色体異常など、宿主ゲノムを不安定にする原因となる。このため、多くのトランスポゾンは宿主により不活性な状態が維持されている。すなわち、宿主ゲノムの安定化にはトランスポゾンを不活性化する宿主側の機構が必要である。21nt前後の小分子RNA がそのトリガーとして働くことが知られているRNAサイレンシングはウィルスやトランスポゾンなどのゲノム寄生因子に対する宿主側の防御機構として働くことが知られている。一方、トランスポゾンは多くの生物においてゲノムの主要な構成因子である。このことはトランスポゾンが宿主のサイレンシングを抑制あるいは回避する機構が存在することを意味している。
本発表では、イネのトランスポゾンが宿主のRNAサイレンシング経路を利用して自身の不活性化を回避する経路を紹介する。このような経路は、RNAウィルスが宿主へ感染する際のRNAサイレンシング経路を介した宿主と寄生者の攻防とよく似ている。一方、トランスポゾンの場合、その利己的な振る舞いにより自己のコピーを宿主ゲノム上に増殖させると同時に宿主ゲノムの進化にも寄与している可能性があり、単純な宿主と寄生者の攻防という図式が相応しいのか検討の余地がある。本発表では、小分子RNAから見えてくる宿主ゲノムと寄生者の攻防、ならびに小分子RNAがゲノムの進化に果たす役割について考察したい。
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大谷 美沙都, 杉山 宗隆
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S0081
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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私たちはシロイヌナズナの温度感受性変異体を材料に、植物の発生・再生の基礎要因の解明を目指して研究を行っている。変異体の一つ、
srd2(
shoot redifferentiation defective 2)は、胚軸の脱分化および新たな分裂組織の形成に強い温度感受性を示す点に特徴がある。その責任遺伝子
SRD2はヒトのsnRNA(small nuclear RNA)転写活性化因子SNAPcのサブユニット、SNAP50とよく似たタンパク質をコードしており、実際に植物細胞内でsnRNAの転写活性化に働くことが分かっている。
snRNAは、プレmRNAスプライシングやrRNAのプロセッシングなどのガイド役として、真核細胞の基本的な活動に不可欠な機能を担っている。そのためsnRNA転写は構成的、定常的なものとみなされ、その調節と発生との関係にはあまり目が向けられることがなかった。しかし、これまでに
SRD2遺伝子に関して行ってきた解析の結果は、植物の発生・再生過程でsnRNA転写がSRD2による動的な制御を受けダイナミックに変動すること、この変動が発生・再生のいくつかの特定側面に深く関与することを示している。本講演では、これらの知見をもとに、植物の発生におけるsnRNA転写制御の生理的意義について考察したい。
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佐藤 昌直, Lenarz-Wyatt Lisa, Hernick Charles, Glazebrook Jane, 渡辺 雄一郎, 片桐 ...
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S0082
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
生物の表現型の多くは頑健かつ複雑なシステムによって発揮されており、遺伝子破壊の結果として現れる表現型を指標に遺伝子とその生物学的役割を対応付けていくのは難しい。実際に大部分の遺伝子について生物学的な役割は未だ明らかになっていない。このような状況を打開し、各シロイヌナズナ遺伝子とそれが関与する生命現象との対応付けを進めていくには
1) 遺伝子破壊がもたらす変化の鋭敏な検出
2) システム内での各因子間の関係の推定
を効率よく進める方法論の構築が必要である。
我々はシロイヌナズナの病原体応答を対象にこの課題に取り組んでいる。防御応答時の大規模なmRNA発現変化は防御応答シグナル伝達に関するグローバルかつ鋭敏なマーカー遺伝子であり、最終的な表現型からは評価できない内部の変化として検出できる。また、マイクロアレイ解析から数百-数千遺伝子(パラメーター)について情報を得ることは容易であるので、微細な遺伝子破壊の影響を読み取るだけでなく、数理解析により各遺伝子間のシグナル伝達機構の共有パターンを明らかにできると考えた。現在、我々は防御応答初期に誘導される制御因子の遺伝子破壊株、高性能・低価格のカスタムマイクロアレイ(Sato, M.
et al. 2007.
Plant J.)、特徴検出アルゴリズムを使ってシグナル伝達ネットワークモデルを構築し、解析を進めている。
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上野 宜久, 杉山 将宏, 川端 真一, 町田 千代子, 町田 泰則
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S0083
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
扁平で左右相称的な葉ができあがるには、軸方向に依存した細胞増殖・分化の制御が必要である。シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES1 (AS1)およびAS2は、軸に依存した葉の発生制御に関与する。AS1およびAS2タンパク質は、それぞれMYBおよびAS2/LOBドメインを持つタンパク質であり、協同して複数の遺伝子の転写制御と小分子RNAの機能発現制御に関わっている。両タンパク質は試験管内で相互作用することが知られている。microRNAであるmiR165/166とその標的である
HD-ZIPIIIは葉の向背軸極性の制御に関与する。
as1および
as2変異体では、葉の向背軸極性だけでなく左右相称性や葉脈パターンも乱れるが、これにmiR165/166が関わるかどうかは判っていなかった。そこで、miR165/166の機能発現抑制を狙った人工的な配列およびAS1との相互作用能を喪失させる点変異を持つ変異型
AS2遺伝子を、いずれも
AS2プロモーター制御下で
as2変異体に導入した。その結果、葉の表現型の回復は、前者では認められたが、後者では認められていない。以上の遺伝学的結果は、miR165/166の発現がAS1-AS2タンパク質複合体に抑制されることが、左右相称的で扁平な葉の形成や葉脈パターンの形成に寄与していることを示唆する。
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田上 優子, 深谷 雄志, 本瀬 宏康, 渡辺 雄一郎
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S0084
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
マイクロRNA(miRNA)は配列特異的に標的遺伝子発現制御を行う長さ20-24塩基長のRNA分子である。核内でDICER-LIKE1(DCL1)によって生成され、二本鎖RNA結合タンパク質HYPONASTIC LEAVES1(HYL1)によってその活性は促進される。我々はシロイヌナズナにおけるmiRNA生合成経路をさらに明らかにするため、hyl1変異体のサプレッサーを得た。この抑圧が、DCL1のRNAヘリカーゼドメイン内のミスセンス変異(dcl1-13変異)によることを明らかにした。この解析から、植物のDCLは小分子RNAを正確そして量的に産出するうえで、そのヘリカーゼドメインとHYL1のような二本鎖RNA結合タンパク質との機能的な関連が重要であることが示唆された。動物ではmiRNAの標的となるmRNAや“休眠”mRNAなどは細胞質中のprocessing body(P-body)と呼ばれる構造体へ向かうとされているが、我々は植物においてもほぼ同様のP-bodyの存在を示してきた。現在、P-bodyの構成要素であるDCP1及びDCP2のGFP融合タンパク質の動態解析を行っており、生細胞内におけるP-bodyの動態・役割について最近得られた知見を紹介したい。
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原口 雄飛, 室田 勝功, 尾上 典之, 長谷川 傑, 川崎 大輔, 小松 陽平, 永見 陽子, 門倉 嘉知, 平田 健, 中嶋 一恵, 中 ...
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S0085
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
フリー
植物におけるメチオニン生合成の鍵段階を触媒するシスタチオニンγ-シンターゼ(CGS)はメチオニンの代謝産物である
S-アデノシルメチオニン(SAM)に応答して
CGS1 mRNAの分解段階でフィードバック制御される。この制御は翻訳中に起こり,MTO1領域と名付けた
CGS1自身にコードされる十数アミノ酸残基がシス配列として働く。
試験管内翻訳系を用いた解析により,SAM存在下ではMTO1領域直後のSer
94コドンで翻訳伸長の一時停止が起こり,ペプチジル-tRNA
Serが蓄積することが示された。このときリボソームは転座の段階で停止しており,そのA部位はペプチジル-tRNAで占められている。この翻訳停止と共役して
CGS1 mRNA分解が起こり,3'側断片が分解中間体として生成される。分解中間体の5'末端は,翻訳停止したリボソームによって保護されると考えられる領域に位置しており,リボソームと密接に関連した機能によってmRNA分解が引き起こされることを示唆する。
mRNAの品質管理機構として,NMD,NSD,NGDなどの翻訳停止と共役したmRNA分解が報告されているが,これらの機構では,いずれもA部位が空になることで反応が引き起こされると考えられており,
CGS1とは分解機構を異にすると考えられる。
Genes Dev 19:1799,2005;PCP 49:314,2008
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田中 寛, 黒岩 常祥
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S0086
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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Cyanidioschyzon merolae(シゾン)はイタリア、ナポリの硫酸性温泉より単離された単細胞性の紅藻であり、核、葉緑体、ミトコンドリア、ミクロボディなどのオルガネラを細胞あたり一個のみ含む、真核細胞としての最小構成を持つ生物である。我々はこの細胞をモデル系とすることで、真核細胞一般、あるいは特に植物細胞に固有の生命現象の原理的解明を目指して研究を進めている。真核細胞はシゾンのような原始細胞として誕生し、ここで生まれた原理を基盤に大発展を遂げてきた。従って、シゾン研究で得られる構造生物学的知見から発展した原子生物学的知見は、全ての真核に通用する基本原理の解明に直結するものである。手始めとして我々は、通常の真核ゲノムにみられる高度繰り返し配列が全く存在しない100%ゲノム配列を、真核細胞として初めて2007年までに決定した。そしてその結果、通常の真核細胞遺伝子にみられるイントロンが極めて稀であることも判り、MS等によるプロテオーム解析にも最適であることが明らかとなった。さらに、外来DNAの導入や染色体との組換えによる分子遺伝学的手法も利用可能となったことから、今後の研究進展に必須なツールの不足はない。本講演ではシゾンにおける研究インフラの進展を紹介すると共に、シゾンを用いたオルガネラ分裂装置の解明について、またオルガネラゲノムと核ゲノムの複製共役機構について紹介する。
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河内 孝之
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S0087
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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苔類ゼニゴケ(
Marchantia polymorpha L.)は、19世紀後半から20世紀前半にかけ、生活環や発生の研究に盛んに用いられ、突然変異体の記述も多い。当時のモデル生物といえる。日本の高校教科書では近年隠花植物の扱いが小さくなり、その認知度が低下しているが、世界中に広く分布する馴染み深い植物である。元来ゼニゴケがもつ材料としての魅力は、1)植物陸上化の鍵となる進化上の位置づけ、2)生活環の大半が単相であるため容易な遺伝学的解析、3)単一メリステム細胞に由来する多細胞体制、4)1細胞の挙動の観察の容易さ、5)高い再分化能と増殖能、6)掛け合わせの容易さと大量の次世代収穫、7)短い世代時間といったことが上げられる。最近、実験手法の開発が進み、1)効率的なアグロバクテリウム形質転換系による迅速多様な遺伝子解析の実現、2)迅速なプラスチド形質転換系、3)ゲノム情報の蓄積、4)遺伝地図の整備といった、現代のモデル植物として再度注目に値する理由が加わった。苔類が陸上植物進化の基部に位置し高等植物にとって姉妹群の植物であるという関係は、遺伝子の分布や遺伝的制御系にも反映されており、オーキシン応答や光応答など、顕花植物がもつ形質発現制御の原形が既に苔類には存在する。遺伝的冗長性が低く、陸上植物成長制御の基本システムを備えるゼニゴケを正逆遺伝学の古くて新しいモデル植物として紹介したい。
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小山 時隆
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S0088
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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ウキクサは湖沼・水田などで普通にみられる植物である。単子葉類のサトイモ目に属するウキクサ科は、主に
Spirodela属、
Lemna属、
Wolffia属の3属から構成され、根の本数(それぞれ複数本、1本、0本)によって分類されている。小さく成長が早いといった見た目の特徴がウキクサでは際だっているが、それ以外にも研究者を惹きつける様々な要素を持っている。生理学的研究においてはシロイヌナズナ以上に長い歴史をもつが、遺伝学的あるいは分子生物学的な研究はほとんどなされてこなかった。演者は
Lemna属のウキクサを用いて、概日時計・光周性の生理学的・分子生物学的研究を7年余り前から進めてきた。また、2008年から
Spirodela polyrrhizaのゲノムプロジェクトがスタートし、さらに、突然変異体単離などの遺伝学的アプローチも進められるなど研究環境整備が進められている。本発表では基礎・応用研究材料としてのウキクサの可能性を議論する。ゲノム情報などの大量データ取得が容易になりつつある現在の研究環境において、古典的な実験植物の魅力を再発見する機会をつくりたいと考えている。また、ウキクサを用いた研究分野の現状について紹介する。
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江面 浩, 浅水 恵理香, 斉藤 岳士, 溝口 剛, 福田 直也, 松倉 千昭, 青木 考
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S0089
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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トマトは、食品産業や農業生産など開発研究の重要な対象であると同時に、果実発達研究を含めた植物基礎研究のモデル植物である。トマトはナス科のモデル植物であり、国際共同研究によりゲノム解読が進められている。間もなく利用可能となるトマトゲノム情報を有効に活用するため、我が国は独自のトマトリソースを整備して利用可能とする必要がある。筑波大学とかずさDNA研究所は、ナショナルバイオリソースプロジェクトの一員として、トマト実験系統であるマイクロトムを基盤としたトマトリソース整備に取り組んでいる。中核機関である筑波大学は個体レベル、サブ機関であるかずさDNA研究所はDNAレベルのリソース整備に取り組んでいる。一方、我が国の研究者の努力により、トマトの機能ゲノム解析のためのその他のリソースやツール開発が行われている。これらのリソースやツールは、国内外のトマト研究者に大きなインパクトを与え始めている。例えば、筑波大学遺伝子実験センターとフランス国立農業研究所ボルドー研究センターの間で設立されたトマト研究のための国際ジョイントラボはその例である。このような活動は、我が国のトマト研究者が国際コミュニティーでイニシアティブを発揮することに役立つだろう。本講演では、これらのリソースとツールについて紹介する。
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明石 良
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S0090
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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マメ科植物には、ダイズをはじめとする重要な作物が多く含まれ、様々な分野で利用されている。ナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)ミヤコグサ・ダイズでは、ミヤコグサとダイズリソースを収集し、それらの情報を整備することで、マメ科植物の基礎から応用まで広くカバーできる研究基盤を整備している。ここでは、NBRPミヤコグサ・ダイズリソースを利用した教育について紹介する。
NBRPミヤコグサ・ダイズは、JAXAおよび株式会社リバネスと共同で、宇宙に送った種子をきっかけに、子どもたちへサイエンスに対する興味を喚起することを目的とする「サンプルリターンミッション」および「宇宙教育プロジェクト」を進めている。
さらに、宮崎大学農学研究科では、京都工芸繊維大学と連携して「遺伝資源専門技術者育成カリキュラムの開発」と題して、生物遺伝資源の研究や応用に必要とされる専門的技術を修得し、社会に対し安全と安心を提供する上で必要な生物多様性に関わる法規等の実務を理解する専門性の高い職業技術者「遺伝資源キュレーター」の養成を目ざしたプログラムを実施している。
このように、ミヤコグサは実験材料から教育教材、さらには農作物のダイズ研究にまで応用されることから「モデル植物から作物への展開」をモットーに、幅広い分野での利用と発展が期待される日本独自の研究リソースである。
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仁田坂 英二, 星野 敦, 飯田 滋
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S0091
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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アサガオ(
Ipomoea nil または
Pharbitis nil)は熱帯アメリカ原産の植物であるが、日本においてのみ園芸植物として発達した。豊富な花色や形態に関する変異体を利用した遺伝学の研究材料として用いられており、膨大な知見が集積している。また、日長条件に鋭敏に反応することから生理学研究にもよく用いられている。高い自殖性と少数の種子に由来することに起因する非常に均一なゲノムをもっており、他の植物では明確な表現型を示さない遺伝子でも、アサガオのオーソログの変異体では表現型に現れることが多いことも明らかになってきた。アサガオには、高い転移能を持ち、共通の末端配列を持つトランスポゾン(
Tpn1ファミリー)が存在するため、新規突然変異の誘発や、トランスポゾンの挿入を利用した原因遺伝子のクローニングが容易である。世代時間は比較的短く、各器官は大型で詳細な観察や交配実験にも適しており、日長条件をコントロールすることで植物体の大きさを変えることができるため室内の限られたスペースでも栽培可能である。今後のゲノム解析も見据えたcDNAクローンやBACクローン、連鎖地図等の整備も行っており、アサガオの利点や今後の研究の展開の可能性について述べてみたい。
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篠原 健司, 楠城 時彦, 二村 典宏, 櫻井 哲也, 関 原明, 篠崎 一雄
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S0092
発行日: 2009年
公開日: 2009/10/23
会議録・要旨集
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2006年に国際ポプラゲノムコンソーシアムは、ポプラゲノムの概要解読の結果を報告している。ユーカリゲノムの解読は、かずさDNA研究所や米国の研究グループにより進められている。我々は、19,841種類のポプラ完全長cDNAの収集に成功している。この数値は、ポプラゲノムの概要解読から推定される遺伝子数の約44%に相当する。ポプラ完全長cDNAの中にはストレス関連遺伝子など多数の重要な遺伝子が含まれており、収集した遺伝子は19本の染色体上にほぼ均等に分布する。また、スギ雄花の完全長cDNAを10,463種類収集している。スギ雄花の完全長cDNAには、実験植物の雄ずいや花粉で特異的に発現する遺伝子や転写因子の遺伝子など重要な機能を持つ遺伝子が多数存在し、花成制御関連遺伝子、雄性不稔関連遺伝子、新規アレルゲン候補遺伝子なども含まれていた。ポプラでは、DNAマイクロアレイを用いたストレス応答性遺伝子の解析を進めている。スギでは、約22,000種類の遺伝子情報を搭載したDNAマイクロアレイを作製し、スギの花芽形成過程や花粉形成過程の遺伝子発現の網羅的解析を行い、花成制御機構の解明や雄性不稔原因遺伝子の絞り込みを進めている。このように、樹木でもバイオリソースが整備されつつあり、環境保全に貢献する組換え樹木の開発が可能となっている。
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