日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第50回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 寺田 靖子
    p. S0012
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    SPring-8のような第3世代放射光施設では,高輝度・高平行性という特徴を活かしたX線領域での集光光学素子の開発が盛んであり,試料上でのサイズは“ナノビーム”と呼ばれる領域に達している.X線顕微鏡は投影型,結像型,走査型のように大まかに分類することができ,投影型を除き集光素子を用いることで高空間分解能が実現できる.結像型の代表的な例は位相イメージングやマイクロトモグラフィーであり,その分解能は100nm程度である.ここでは主に走査型顕微鏡について述べるが,これは対物レンズとして集光素子を試料前に配置し,試料を走査する(通常はXYの2軸)ものとなっている.ここで集光X線に照射された各点からの蛍光X線を計測すれば,特定の元素の分布が得られることになる.SPring-8 BL37XU では空間分解能1μm2程度でCaより元素番号の大きなものの蛍光X線分析が可能である.また,得られた元素分布像を基にしてX線吸収スペクトルやX線回折などの測定との組み合わせも行うことができ,物質評価の観点では,強力なツールである.
    講演では,走査型X線顕微鏡のポテンシャルや,物質科学,地球化学など種々の分野への応用例などについて述べる.
  • 綿引 雅昭, 山本 興太朗
    p. S0013
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    オーキシン応答はAUX/IAA、オーキシンレセプターTIR1、ARF転写因子の3者が連携してオーキシン反応を司っていることが明らかになりつつある。シロイヌナズナではARF7とIAA19が相互作用し、胚軸のオーキシン信号伝達に関わることがわかっている(Tatematsu et al., 2004, Watahiki and Yamamoto, 1996)。胚軸屈曲におけるオーキシン応答の初発反応はIAA19タンパク質の分解から始まり、そのレベルをモニターすることがオーキシン応答の理解に重要である。しかしこれまでウェスタンブロットやGFP融合タンパク質でIAA19タンパク質の検出を試みたが非常に困難であった。それはIAA19タンパク質が細胞内で新規合成と分解を盛んに受けていて、非常に低いレベルに保たれていることが原因だと考えられる。そこで近年高性能化している高感度CCDカメラと高輝度ルシフェラーゼ融合遺伝子を適用してみたところ、IAA19タンパク質やIAA19遺伝子プロモーター活性のダイナミックな変化をモニターすることに成功した。本シンポジウムではシロイヌナズナの形態形成過程における時間的空間的なIAA19タンパク質の挙動とIAA19プロモーターの活性変化を紹介する。
  • 林 謙一郎, 野崎 浩
    p. S0014
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    SCFTIR1は、SCFクラスのユビキチンリガーゼであり、そのうち、F-boxタンパクであるTIR1は、オーキシン受容体として機能する。シロイヌナズナゲノムでは、5種のホモログ(AFB1-5)が確認されており、これらの受容体を介して、細胞分裂、細胞伸長などのオーキシン反応が制御されている。我々は、新規なオーキシンプローブとして、このTIR1/AFB受容体に結合するα-アルキルオーキシン誘導体を見出した。このプローブは、TIR1/AFBオーキシン受容体のオーキシン結合部位に特異的に結合し、アンチオーキシン活性を示す。また、その結合様式や作用機構なども、TIR1との共結晶構造解析により解明した。また、我々は、TIR1-拮抗剤の結晶構造に基づき、TIR1/AFB特異的プローブの分子設計を行い、より高活性なプローブを見出した。我々が開発したアンチオーキシンプローブは、その作用機構が明確である。また、シロイヌナズナだけではなく、イネやヒメツリガネゴケなどのオーキシン反応も阻害することから、多様な植物種のオーキシン反応を解析したり、オーキシンと他ホルモンとのクロストークや栄養・環境因子の相互作用の解析などに非常に有効なツールとなると考えている。今回、これら新規プローブの構造、作用機序、生物活性について紹介する。
  • 軸丸 裕介, 松崎 潤, 花田 篤志, 杉山 真樹, 笠原 博幸, 瀬尾 光範, 山口 信次郎, 山本 興太朗, 神谷 勇治
    p. S0015
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    理研PSCでは、プラットフォームの一つとしてLC-ESI-MS/MSによる植物ホルモン一斉分析に取り組んでいる。本発表ではこれまでの研究の展開とオーキシンに焦点を絞った定量技術について紹介する。LC-ESI-MS/MSは、従来までのGC-MSによるホルモン分析に比べてより簡便な精製で、より高感度な分析を、網羅的に行うことを期待されて導入された。これまでに、100 mg新鮮重程度の植物材料からブラシノステロイドを除く活性型ホルモンの一斉分析法を開発するとともに、比較的内生量の多いホルモンについてはカートリッジカラム数本の精製で、シロイヌナズナ葉1枚(5 mg新鮮重程度)からのサリチル酸の分析、シロイヌナズナ乾燥種子1粒(20 μg程度)からのアブシジン酸 の分析に成功している。内生量が比較的少ないジベレリンでは、0.1-1 g程度の新鮮重から、カートリッジカラムのみによる簡便な精製で分析することが可能となっている。
    Indole-3-acetic acid (IAA) はジベレリンやブラシノステロイドに比べ内生量が多く、サリチル酸やアブシジン酸同様に、微量の植物サンプルからの定量が期待されている。我々の研究グループでは、約30サンプルを抽出・精製から定量分析まで24時間以内に行う方法を開発し、感度についてもシロイヌナズナ2 mm長の根端数個からの検出に成功した。
  • 西村 岳志, 小柴 共一
    p. S0016
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    トウモロコシ幼葉鞘は古くからIAA の生合成や極性輸送、屈曲反応の研究に用いられてきており、特に幼葉鞘の先端でIAA は合成され、下方に極性輸送されることが数多く報告されている。しかし、幼葉鞘におけるIAA の生合成と輸送の詳細な機構は明らかにされていない。また屈曲反応におけるIAAの偏差分布形成の詳細と屈曲へのIAAの直接的な関与を明確に示した報告はほとんどない。演者らは、トウモロコシ幼葉鞘先端で合成されたIAA がすみやかに基部方向へ極性輸送されること、その輸送にZmPIN1 が働いていること、さらに先端から移動するIAAが下方に向けて偏差的に分布することが重力屈曲に必須であることを明らかにしてきている。ここでは、1~2時間という比較的短時間内に、IAAの生合成、そこからの輸送とIAA偏差分布の形成、実際の屈曲という生理的現象をつなげる実験系を紹介するとともに、IAA生合成とIAAの動的な分布形成の分子機構の解明に向けた取り組みについて以下の点を中心に報告する。
    (1) 先端部におけるIAA生合成と輸送、および重力刺激によるIAA偏差分布形成と屈曲
    (2) NPAの先端局所的処理による IAA偏差分布と重力屈曲に及ぼす影響
    (3) ケミカルゲノミクスによるIAA生合成と屈曲に影響を与える新奇物質の探索
  • 笠原 博幸, 菅原 聡子, 小柴 共一, 神谷 勇治
    p. S0017
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    植物の主な活性型オーキシンであるインドール酢酸(IAA)の生合成経路は未だに全容が解明されていない。その理由としては、1)複数の生合成経路が存在する、2)生合成遺伝子ファミリーを形成している、3)中間体が化学的に不安定で分析が難しいなどの点が挙げられる。近年、遺伝学的アプローチによりYUCCA、CYP79B2/CYP79B3、TAA1などのIAA生合成遺伝子が単離され全容解明への糸口が見えた。しかし、これらの遺伝学的アプローチのみでは複雑に交差した従来のIAA生合成モデルを紐解くのは難しい。我々はこの問題を解決するために安定かつ迅速なIAA中間体分析法の確立を試みた。これまでのIAA中間体分析法ではGC-MSが主流であったが、我々はLC-ESI-MS/MSを導入した結果、インドールアセトアルドキシム(IAOx)などこれまで植物からの検出が困難であったIAA中間体の分析に成功した。これを基盤として数種のIAA生合成変異体を分析した結果、IAOxを含むIAA生合成経路が種特異的な経路であることが明らかになった。本講演ではオーキシン生合成研究におけるIAA中間体分析の重要性と今後の展開について述べる。
  • 酒井 達也
    p. S0018
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    植物ホルモン・オーキシンは低分子量の成長制御分子である。細胞内オーキシン量の調節によって、細胞の成長、分裂、分化、ひいては個体の大きさ、発生、生殖など様々な植物の営みが制御されている。細胞内オーキシン量は、生合成・代謝調節及び細胞膜に局在するオーキシン輸送体を介した細胞内外への流出入調節によってなされているが、未だその分子機構の詳細は明らかになっていない。オーキシン量調節の仕組みを明らかにすることは、植物細胞を扱うすべての研究分野に影響を与える、植物科学研究の最重要課題の一つである。我々はオーキシンの光環境応答、特に光屈性反応におけるオーキシン代謝調節について研究を進めている。植物の三つの主要な光受容体ファミリー、フィトクロム、クリプトクロム、フォトトロピンは、それぞれ異なるシグナル伝達経路を介してオーキシン量の調節を行っている。それらの分子機構を明らかにすることによって、光環境に適応した細胞の成長・分裂・分化の制御機構解明に貢献したいと考えている。本講演では、シロイヌナズナの光屈性におけるオーキシン輸送調節、特にPIN及びABCB型オーキシン輸送体の機能解析について、使用している分子遺伝学的研究材料、抗体なども含め紹介する。本研究は、JSTさきがけによってサポートされている。
  • 深城 英弘
    p. S0019
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    オーキシンが側根形成を促進することは古くから知られているが、その分子機構は近年まで不明であった。我々はオーキシンを介した器官形成のモデルとして側根形成に注目し、これまで側根形成能に欠損をもつシロイヌナズナsolitary-root/iaa14変異体、crane/iaa18変異体、およびarf7 arf19二重変異体の解析などから、オーキシン応答転写因子ARF7, ARF19とAux/IAAタンパク質との相互作用を介した遺伝子発現制御が側根形成開始に重要なことを明らかにしてきた。そして、マイクロアレイによる発現解析やARF7/19機能誘導型植物を用いた解析から、ARF7/19の標的遺伝子としてLBD/ASLファミリーに属するLBD16/ASL18LBD29/ASL16を同定し、これらが側根形成開始で機能することを示した。そこで現在、ARF-Aux/IAAおよびLBD/ASLタンパク質を介した側根形成開始の分子カスケードを解明するため、転写活性化因子と考えられるLBD16/ASL18について、側根形成で機能する下流遺伝子の同定と解析を進めている。本発表では、これらの手法に基づく側根形成を制御するオーキシンシグナリングの解析について紹介する。
  • 石田 喬志, 杉本 慶子
    p. S0020
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    核内倍加は核内の染色体が細胞分裂を経ることなく複製される現象で、動植物を含む真核生物に広く見られる。未分化な細胞の核相は2Cもしくは4Cであり細胞分裂を繰り返すが、分化後の細胞では核内倍加によって核相が上昇し細胞の体積も増大する。増加した核相と細胞サイズの間にはしばしば正の相関関係がみられることから、核内倍加の制御が細胞の大きさを規定する重要な要素であると考えられている。細胞分裂周期の際にはS期における染色体の複製とM期における細胞分裂が連続的に起こることで新たな細胞が生み出されるが、核内倍加周期では細胞分裂が起こらないため、1サイクルごとに核内DNA量が倍増する。これまでの研究から、ある種の植物ホルモンがこの核内倍加周期制御に関わることが示されているが、その詳細な分子機構は大部分が未解明である。我々は最近、オーキシンと核内倍加周期制御に関する研究を行いその関与を示す新たな証拠を得た。オーキシンは細胞分裂周期を促進することが知られているが、核内倍加周期制御に関する知見は数少ない。本会ではこの新たな知見をもとに細胞分裂/核内倍加の両周期の制御を行う分子基盤とオーキシンの作用機構との関係性について議論したい。
  • 大野 豊
    p. S0021
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    私たちは、アンチオーキシン活性があるとして知られているPCIBが、オーキシンによる遺伝子発現誘導やAUX/IAAタンパク質の分解促進を阻害すること、また、シロイヌナズナをPCIBを含む培地で育成したときに、オーキシン情報伝達の変異体は、PCIBによる主根の生長阻害が野生型に比べ軽減されているが、オーキシン輸送変異体は野生型と同様の反応を示すことを見いだした。そこで、オーキシン作用にかかわる新規遺伝子を明らかにすることを目的として、PCIB存在下で主根の生長が抑制されない突然変異体のスクリーニングをおこなった。その結果、atcul1tir1といった既知遺伝子座の変異体に加え、aar1aar3といった新規変異体の取得に成功した。これらの変異体は合成オーキシン2,4-Dに対しても感受性の低下がみられた。それぞれの原因遺伝子SMAP1AAR3は、動物ゲノムにも類似遺伝子が存在し、AAR3は、RUB E3リガーゼであるDCN-1遺伝子と類似していた。またaxr1との二重変異体の解析などからSMAP1もRUB修飾にかかわる新規制御因子であることが示唆された。以上の結果からPCIBがオーキシン情報伝達機構に関連した未知因子の解明に有効な道具となることが示された。
  • 榊原 均, 菅原 肇, 上田 七重
    p. S0022
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    サイトカイニンは植物生長制御において多様な作用を示す植物ホルモンであるが、植物ばかりでなく土壌微生物や細胞性粘菌などもサイトカイニンを合成することが知られている。いずれに生物種においてもサイトカイニン合成の初発反応はアデニンヌクレオチドのアデニンN6原子へのプレニル基の縮合反応であり、イソペンテニルトランスフェラーゼ (IPT)により触媒される。アグロバクテリウムのIPT(Tmr, Tzs)は、高等植物のIPTとは異なる基質特異性を示し、この違いが病原菌感染細胞内での効率的なサイトカイニン生合成に重要であると考えられている。つまり感染細胞のプラスチド内で高等植物型IPTが利用不可能なHMBDPを基質にすることで、アグロバクテリウムのIPTは代謝バイパスを構築し、tZ型のサイトカイニンを直接過剰に生産する。これにより宿主植物細胞内のホルモンバランスが崩れ、腫瘍化が誘導されると考えられる。
    サイトカイニン生合成反応の分子機構を明らかにするために、また植物型と土壌微生物型IPTの基質特異性の違いを規定する構造的基盤を知るために、我々はTzsの結晶構造解析を行い、その立体構造を明らかにした。また、基質特異性の違いを規定するアミノ酸残基も特定した。本発表では、サイトカイニン生合成反応の分子機構を概説するとともに、構造比較から推察されたIPTの独自の分子進化についても考察したい。
  • 栗栖 源嗣, 村木 則文, 野亦 次郎, 志波 智生, 藤田 祐一
    p. S0023
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    ニトロゲナーゼ類似型プロトクロロフィリド還元酵素(DPOR)は、Chl合成の中間体であるプロトクロロフィリドのD環二重結合を光非依存的に還元しクロロフィリドを合成する酵素で、BchL, BchN, BchBの3つのタンパク質により構成される。BchNとBchBが触媒作用を持つヘテロ4量体を形成し、ニトロゲナーゼ様酵素として作動することが報告されている。今回、我々は光合成細菌Rhodobacter capsulatus由来DPORのBchNとBchBを結晶化し、その結晶構造を2.1Å分解能で構造解析した。 [4Fe-4S]クラスターがBchNとBchBの間に結合していたが、非常に意外なことに3つのCysの他にAsp残基がクラスターに配位していることが確認された。そこで部位特異的変異導入によりAsp変異体を作成し、その活性測定と構造解析からAsp配位の重要性を検討した。また、プロトクロロフィリド結合型と非結合型の双方を構造解析し、プロトクロロフィリド結合に伴ってBchBが大きく構造変化することも分かった。主に疎水的な相互作用によってプロトクロロフィリドは結合しており、BchBのC末端へリックス以外には極性アミノ酸からの直接的な相互作用は存在していなかった。発表では、これら原子レベルの構造情報をもとに、DPORの詳細な反応機構とニトロゲナーゼ様酵素の構造基盤について議論する。
  • 嶋 盛吾
    p. S0024
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    ヒドロゲナーゼは、微生物生態系の水素代謝で、重要な役割を担っている。嫌気条件下、有機物は、細菌や原生動物などによって分解され、水素ガスが発生する。水素ガスは、メタン生成菌や酢酸生成菌および、硫酸塩還元菌によって酸化される。また、一部の水素は、好気環境に分散し、好気性細菌によって酸化される。これらの水素代謝系で、水素ガスの生産と酸化を触媒する酵素が、ヒドロゲナーゼである。ヒドロゲナーゼには、[NiFe]-、[FeFe]-および[Fe]-ヒドロゲナーゼの3種類が知られている。今回、高分解能(1.75 Å)のX線結晶構造解析により、[Fe]-ヒドロゲナーゼの活性中心構造が明らかになった。[Fe]-ヒドロゲナーゼの活性中心は単一の低スピン鉄を有する錯体であり、その鉄原子にはチオール、COおよびピリジノールが配位している。この[Fe]ヒドロゲナーゼの鉄錯体構造は、[NiFe]-および[FeFe]-ヒドロゲナーゼの鉄錯体部位と類似していた。

    この結果から、知られているすべてのヒドロゲナーゼの鉄錯体部位には、チオール、CO およびCN-(もしくはそれに類似したピリジノール)が配位子として含まれ、それらの立体配置もよく似ていることがわかった。タンパク質の一次構造に類似性が見られないことから、これらのヒドロゲナーゼの機能発現にとって重要な鉄錯体構造が、収斂進化によって形成されたと考えられる。
  • 高橋 康弘, 和田 啓, 下村 喜充, 福山 恵一
    p. S0025
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    鉄硫黄(Fe-S)タンパク質は、コファクターとして非ヘム鉄と無機硫黄原子から成るFe-Sクラスターを持つタンパク質の総称で、光合成や呼吸などのエネルギー代謝から遺伝子の発現制御にいたるまで、多彩かつ重要な生理機能を担っている。それらFe-Sタンパク質の機能を支えているのがFe-Sクラスターの生合成系である。私たちは、クラスターの生合成系として、大腸菌のiscSUA-hscBA-fdx-iscX(iscオペロン)にコードされるISCマシナリーを実験的に証明し、さらに、独立して機能する別経路としてsufABCDSEオペロンにコードされるSUFマシナリーを世界に先駆けて同定した。いずれも複数の成分から構成される複雑な酵素系で、植物ではミトコンドリアにISC、葉緑体にSUFが存在している。このシンポジウムでは、反応機構の解明に向けて、現在進めている構造生物学的なアプローチを紹介する。ISCマシナリーの中間体形成部位、IscUの結晶構造からは、三量体の中に、[2Fe-2S] クラスターを1つだけ保持する、興味深い非対称構造が明らかになった。一方、SUFマシナリーのSufCD複合体の構造からはSufBCD複合体の構造が類推でき、その作動機構への手掛かりが得られた。クラスターの生合成過程における、これら複合体の構造変換について議論する。
  • 倭 剛久, 西岡 宏任, 由良 敬
    p. S0026
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    DNA光補修酵素の一種, Class I CPD photolyase(Phr)のDNA補修機構を動力学シミュレーション, 電子状態計算, 及び生物情報学の手法を用いて研究した.
    従来、FADHからDNAへの電子移動反応はPhr中のアミノ酸を経由せずに起ると考えられていた. 我々はラン藻A. nidulans由来のPhrとDNAの複合体構造をもとに, 動力学シミュレーションと電子状態計算を実行し, FADHからDNAへの電子移動経路を解析した. その結果, 従来説の電子移動経路以外に, Met-353を電子トンネル電流が多く流れていることを新たに発見した(Biophys. J. 94, 2194-2203, (2008)).
    そこで, 遺伝子データベースを網羅的に解析し, 異なる生物種のPhrがどの程度Met-353を保存しているか調べた. その結果, データベース中に見つかった201種のPhrは, 驚くべきことに, Met-353を100%保存していることを発見した. 一方, Phrが属するBlue light photoreceptor familyで該当箇所のアミノ酸がMet以外に置き換わっている遺伝子は170種同定された. これらの遺伝子はクリプトクロームなど, 別の機能を有する遺伝子にすべて変わっていることが分かった.
  • 成川 礼
    p. S0027
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    植物同様の酸素発生型光合成を行うシアノバクテリアにとって、光は最重要な情報であるといえ、高度な光感知機構が推定される。植物では、開環テトラピロールを結合するフィトクロムが赤/遠赤色光受容体として、花芽形成などの様々な生理反応を制御している。近年、シアノバクテリアからフィトクロムと似て非なる新規光受容体群シアノバクテリオクロムが同定され、多様な分光特性が示されている。走光性光受容体SyPixJ1/TePixJはフィコビオロビリンを結合し、青/緑色光吸収型間の可逆的光変換を示した。同じく走光性光受容体と推定されるが、色素結合領域の配列は異なるAnPixJはフィコシアノビリンを結合し、緑/赤色光吸収型間の可逆的光変換を示した。光合成集光装置の光順化を制御するSyCcaSは同じくフィコシアノビリンを結合し、緑/赤色光吸収型間の可逆的光変換を示したが、色素構造と光吸収型の対応関係はAnPixJとは逆であり、異なる光反応が示唆された。推定概日リズム光受容体SyCikAは紫色光吸収型から黄色光吸収型への片方向光変換と逆方向への暗反転という特異な分光特性を示した。最近、AnPixJの色素結合領域の結晶構造を決定し、その構造に基づいた部位特異的変異導入解析を行っている。これらの結果から、フィトクロムも含めた開環テトラピロール結合光受容体の構造―機能相関ついて普遍性と多様性の観点から議論したい。
  • 伊藤 繁, 福島 佳優, 青木 俊, 成川 礼, 岡島 公司, 池内 昌彦
    p. S0028
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    常温、および好熱性シアノバクテリアの青色センサーBLUFタンパク質の反応を、極低温から室温までの範囲で測定し、中間状態が2つあることを明らかにした。これらの中間状態の温度特性および種による違いを構造との関連で検討した。いくつかの重要なアミノ酸残基の変異の影響を見ることで、保存されている残基の役割を検討した。この結果を分子動力学解析でさらに検討した。これとは別の新規に発見された緑―赤色センサータンパク質AnPixJについても反応の中間状態を2種づつ同定し、構造との関連で反応機構を検討した。フィトクロームと似ているが結構構造も反応も違っている。
  • 堀江 智明, 金子 智之, 杉本 元気, 柴坂 三根夫, 且原 真木
    p. S0029
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    PIP型アクアポリン(Plasma Membrane Intrinsic Protein)は、水の透過孔を形成する細胞膜タンパク質であり、水輸送に重要な役割を果たしている。塩ストレス下におけるオオムギ(Hordeum Vulgare cv. Haruna-nijo)の根の水輸送特性を分子生物学的観点から解析した。発芽後4日齢のオオムギの根に、NaClを一定時間処理し定量的RT-PCR解析を行った結果、200 mMの塩処理によって10種中6種のHvPIP mRNAの蓄積量が顕著に減少した。プレッシャーチャンバー法によりオオムギ根の水透過性を性格付けした結果、200 mM NaClの塩処理によって根の水透過性が著しく減退する事が判明した。各種生物活性阻害剤を併用した解析から、オオムギ根の水透過性は、少なくともリン酸化によって制御されている事が強く示唆された。アフリカツメガエルの卵母細胞を用いて各HvPIPの水輸送特性を解析した結果、単独では水輸送活性を示さないHvPIP1型アクアポリンは、単独で高い水輸送活性を示すHvPIP2型と共発現する事により、HvPIP2型の水輸送活性を強める事が判明した。これらの結果をもとに、オオムギの根におけるHvPIPを介した水輸送機構、及び塩ストレス時の根における水輸送活性制御機構について議論する。(生研センター基礎研究推進事業の支援により実施)
  • 北川 良親
    p. S0030
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    微生物には1個から数個のアクアポリンがある。これらのアクアポリンの中には水の他にグリセロールも透過するものもあり、それはアクアグリセロポリンと呼ばれる。古細菌や大腸菌のアクアポリンは微生物の生育や浸透圧調節に関与する。また、酵母のアクアポリンは酵母の耐凍に関与する。しかし、ある種の病原性微生物や酵母のアクアポリンは水透過性の機能がない。一体、微生物のアクアポリンはどのような機能を持っているのだろうか。大腸菌や酵母を除けば、微生物のアクアポリンの機能はほとんど解明されていない。AQPとGLPの先祖型である古細菌のアクアグリセロポリンのX線結晶構造解析から、水およびグリセロールが透過する仕組みが明らかにされた。大腸菌、酵母、こうじ菌、シアノバクテリアなどのアクアポリンの特徴について解析した結果および最近の論文の結果も含めて報告する。
  • 桜井 淳子, 村井 麻理, Ahamed Arifa, 林 秀洋, 福士 敬子, 桑形 恒男
    p. S0031
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
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    植物はめまぐるしく変わる環境の変化に応じて、体内の水の流れを適切かつ精密にコントロールする必要がある。アクアポリンの量的変動や活性調節は、そのような植物の素早い水輸送調節機構に関与している。本研究では、イネを材料として環境ストレス下におけるアクアポリンメンバー個々の役割を明確化するために実験を行った。イネには33種類のアクアポリン遺伝子が存在するが、その中から根や葉身で多く発現するメンバー13種類(細胞膜型9種、液胞膜型4種)に着目した。浸透圧(乾燥)ストレス、蒸散要求量の変化、窒素栄養条件の変化などを与え、植物体の水分生理の変化を計測すると同時に、アクアポリン発現量の変動を解析した。根では、OsPIP1;1OsPIP2;1等のアクアポリンは上記全てのストレス条件下で発現量の変動が少なかったが、OsPIP2;4OsPIP2;5等はほぼ全てのストレス処理により発現量が大きく変動し、その変動パターンは蒸散量あるいは溢泌液量の変化と非常に相関が高いことが明らかとなった。遺伝子レベルでの解析結果のみならず、抗体を用いたタンパクレベルでの発現量の変化、さらにリン酸化抗体を用いた活性型アクアポリン量の変化についても紹介する。組織内における局在性や、水透過活性の有無等の結果も加味した上で、個々のアクアポリンの環境ストレス下における役割について議論する。
  • 白武 勝裕, 水野 祐輔, 宮下 嘉代子, 森 智治, 榊原 郁恵, 中川 喜夫, 安田 拓史, 後藤 陽加, 小八重 善裕, 且原 真木, ...
    p. S0032
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    果実の成長や甘さ,花卉の開花や花持ち性,またそれら作物のみずみずしさを考える上で,水とその移動は欠かせない要素のひとつである。我々は花と果実におけるアクアポリンの機能に焦点を絞り,水輸送活性の調節機構や生理学的な役割の解明を目指して,以下の研究を進めている。1,セイヨウナシ,トマト,アサガオにおけるアクアポリンの発現プロファイリング,2,アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いたリン酸化によるPIP2の水輸送活性の調節機構の解明,3,リン酸化PIP2特異的認識抗体の作製と果実および花におけるリン酸化状態のモニター,4,アクアポリンの発現改変形質転換植物(トマトなど)の作出,である。これらの研究から,花や果実では他の器官に比べて多くのアクアポリン分子種が発現し,遺伝子やタンパク質の発現量が多いこと,PIP2のloop BとC末にあるセリン残基の片方がリン酸化することにより水輸送活性が高まること,開花や果実成長の過程でPIP2のリン酸化状態が大きく変動することが明らかとなった。本発表では,それらのデータを示しながら花と果実におけるアクアポリン発現・調節と生理学的な機能を考察するとともに,現在作出中のアクアポリンの発現改変形質転換植物の形質についても紹介したい。
  • 神谷 岳洋, 田中 真幸, 三谷 奈見季, 馬 建鋒, 前島 正義, 藤原 徹
    p. S0033
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    近年、アジアを中心としたヒ素(As)による土壌や水質、ひいては作物の汚染が深刻な問題となっている。作物にとってのAsは毒であり、収量低下を引き起こす。本研究では、Asの主な存在形態の一つである亜ヒ酸(As(III))の植物体内への輸送経路や耐性メカニズムを明らかにするために、シロイヌナズナのEMS処理種子を用いたスクリーニングを行った。その結果、3株のAs(III)耐性株を単離した。これらはいずれも植物のアクアグリセロポリンNIP1;1に変異を有していた。T-DNA挿入株も耐性を示した事から、原因遺伝子はNIP1;1であることが示された。Xenopus oocyteの発現系により、NIP1;1がAs(III)を輸送することを明らかにした。また、野生型株とNIP1;1破壊株のAs含量を測定したところ、野生型株に比べNIP1;1破壊株では低下していた。以上の結果から、NIP1;1が亜ヒ酸耐性の原因遺伝子であり、輸送活性の喪失によりAs(III)耐性を付与していることが示唆された。NIP1;1は根で多く発現している。また、GFPを用いた解析によりNIP1;1は細胞膜の遠心側に極性を持って局在していることを明らかにした。以上のことから、NIP1;1は根におけるAs(III)の取り込みを担う主要な分子であることが示された。一方、NIP1;1の本来の生理的な機能は現在解析中である。
  • 岩野 恵, 杉村 真理, 磯貝 彰, 高山 誠司
    p. S0034
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    アブラナ科植物では、柱頭の乳頭細胞に他家花粉が受粉すると花粉は吸水し、花粉管を発芽・伸長させ、乳頭細胞に侵入し受精に至る。このような他家受粉過程においては、花粉の吸水・発芽に伴って、乳頭細胞から花粉への水やイオンの移動が起きることが明らかになっているが、その機構は明らかではない。そこで、本研究では、受粉過程における水輸送の機構を明らかにすることを目的に、シロイヌナズナを用いて、乳頭細胞から花粉への水の供給に関わる分子を探索した。初めに、Ca2+蛍光指示薬カルシウムグリーンを用いて、アクアポリン阻害剤であるHgCl2が花粉の吸水に影響するかどうかを調べた。その結果、HgCl2の濃度依存的に花粉の吸水が阻害された。さらに同様のアッセイにより花粉表層物質(PC)単独でも乳頭細胞からPCへの水の移動が確認され、この移動がHgCl2感受性であることも明らかになった。シロイヌナズナには35種類のアクアポリンが存在することが知られている。本研究では、特に細胞膜型PIP2ファミリーに着目し、柱頭乳頭細胞での発現をリアルタイムPCR、in situハイブリダイゼーションなどにより解析した。さらにGFP標識したこれらの分子について受粉時の局在変化をライブセルイメージングによりon timeで観察した。以上の結果について、報告する。
  • 安達 澄子, 遠藤 真咲, 土岐 精一, 梅田 正明
    p. S0035
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    細胞周期は様々なシグナル伝達の下流で細胞増殖を制御するシステムに過ぎないと考えられがちだが、動物や酵母においてはその制御因子が様々な細胞分化制御系とクロストークしていることも知られている。我々は以前の研究から、植物においてもCDKやその制御因子を介して細胞分裂と分化を制御するシグナルが密接にクロストークしていると考えている。しかし、その分子的実体は未だに殆ど明らかにされていない。植物の細胞分化はゲノムの倍加と細胞の肥大化を伴うケースが多い。ゲノムの倍加はエンドサイクルによってもたらされるが、通常の細胞周期がエンドサイクルに移行するメカニズムについても殆ど未解明のままである。この移行メカニズムは細胞分化と協調的に制御されているはずであり、植物の器官発生を支える重要な制御基盤と言える。我々は、シロイヌナズナにおいてCDKB2の発現抑制がエンドサイクルの誘導に重要な役割を持っていることを明らかにしてきた。そこで今回は、エンドサイクル誘導系を用いて解析したゲノムの倍加機構について最近の研究成果を紹介する。イネではシロイヌナズナとは異なるゲノムの倍加現象が起こるので、それについても報告する。また、植物の器官発生を支える遺伝的プログラムや植物ホルモンのシグナル伝達が細胞周期制御系とどのようにクロストークするのかについても、その研究の一端を紹介したい。
  • 古谷 将彦, 田坂 昌生
    p. S0036
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物の葉や花といった器官は、茎頂に存在する分裂組織から一定の角度を保ちつつ次々と生み出され、そのパターンは葉序と呼ばれる。これまでに、植物ホルモンであるオーキシンが葉序パターンの生成に重要な役割を果たすことが示されてきた。オーキシンはオーキシン極性輸送と呼ばれる細胞間輸送システムにより器官予定領域に蓄積し、茎頂分裂組織周辺領域にオーキシンの不等分布が確立される。このオーキシンの不等分布に基づいて、葉序パターンが生成すると考えられている。しかしながら、オーキシンの輸送方向がどのような機構で決定されるのか、オーキシンの局所的な蓄積の後どのように器官が発達するのかなど、多くの問題が未解明のまま残されている。これらの問題に対して、我々は分子遺伝学的手法を用いて解析を試みてきた。これまでに器官形成に異常を示すmacchi-bou 1, 2, 3, 4 (mab1, 2, 3, 4) 変異体を単離し、MAB1はミトコンドリア型ピルビン酸脱水素酵素のE1βサブユニットを、MAB2はメディエーター複合体のサブユニットAtMED13を、MAB3はオーキシン排出キャリアーPIN-FORMED 1を、MAB4はNPH3様タンパク質をコードすることを明らかにした。本講演では、MAB4に関する最近の知見を中心に紹介したい。
  • 長谷部 光泰
    p. S0037
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    単細胞、多細胞に関わらず、生物には内的、外的刺激に応じていろいろな状態の細胞が形成され、一定の期間維持される。そして、新たな刺激によって異なった状態へと遷移する。このような変化と安定はどのようなシステムの元に成り立っているのだろうか。我々は多能性幹細胞をモデルとしてこの問題に取り組んでいる。幹細胞は自己複製能と分化細胞を生み出す能力を併せ持っている。多能性幹細胞は発生過程の比較的初期に生じる細胞で、1細胞で成体のほとんどの種類の細胞や組織を作り出すことができる。植物の場合、軸の先端部に多能性幹細胞が形成され、継続的に細胞、組織形成が進行する。本講演では、被子植物とコケ植物ヒメツリガネゴケでの分子発生学的知見を中心に、陸上植物全般、また、動物との比較を通して、幹細胞形成・維持・抑制・転換の共通性と多様性について検討したい。
  • 相田 光宏
    p. S0038
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    茎頂分裂組織は植物のシュート器官形成の中心的組織であり、中央部に未分化な細胞を維持しながら周辺部から器官原基を一生にわたって繰り返し形成する。通常の発生過程において、茎頂分裂組織の形成は時間的・空間的に厳密に制御されており、その形成パターンは植物体の最終的な形態に大きく影響する。中でもシュート器官の向軸側境界部に相当する領域は腋と呼ばれ、茎頂分裂組織形成の主要な場である。シロイヌナズナのNAC型転写因子をコードする遺伝子CUC1 CUC2 CUC3 は、ほぼ全てのシュート器官の境界部で発現し、器官どうしの分離および茎頂分裂組織の形成に必須な因子である。CUC 遺伝子の作用機構を詳しく調べるために、CUC1 およびCUC2 によって発現を正に制御される下流遺伝子を複数同定して解析したところ、KNOX型転写因子STM・KNAT6や、GRAS型転写因子LASを含む複数の転写因子のコード遺伝子がCUC1の直接の転写ターゲットであることが示唆された。本シンポジウムではこれらのCUC 下流遺伝子の胚発生における機能解析について述べると共に、雌蕊の生殖器官形成における器官境界部の重要性とCUC 遺伝子が果たす役割についても紹介する。
  • 柿本 辰男, 横尾 俊哉, 原 健太, 大西 毅明, 梶田 良子
    p. S0039
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    表皮の発生過程では、原表皮細胞はまず、メリステモイド母細胞(MMC)になるかどうかの決定を行う。MMCにならなかった細胞は非孔辺細胞になる。MMCは不等分裂を行い、孔辺細胞を生み出すメリステモイドを形成する。私達は、表皮細胞の密度と気孔の分布は、二つの分泌ペプチドEPF1とEPF2によって制御されていることを見いだしている。EPF2はMMCで発現し、新たなMMCの形成に抑制的に働き、このフィードバック作用により、表皮は適切な密度で形成される。EPF1はメリステモイドを作る不等分裂の分裂面を制御することにより、気孔の配置を制御する。EPF1とEPF2の作用は共に共通の受容体が必要であるが、別の分子として認識する何らかの仕組みがあると考えられる。
  • 福田 裕穂
    p. S0040
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物には、木部と篩部の2つの養分輸送組織がある。この2つの装置がうまく連動してはじめて、植物内の栄養や情報のスムーズな伝達が可能になる。したがって、この2つの組織は、その密な連携のためにお互いに情報のやりとりをしているのではないかと予想されていたが、情報の実体は不明であった。2006年に私たちは、細胞培養系を用いて、木部の形成を抑制する新規ペプチドホルモン、TDIFを発見した(Ito et al., Science, 2006)。TDIFは2つのプロリンに水酸基の修飾をもつ、12個のアミノ酸からなるペプチドであった。その後の研究から、TDIFを介した木部と篩部間のクロストークが以下のように明らかにされた。1)TDIFは師部組織によりつくられ、細胞外に分泌される。2)分泌されたTDIFは、維管束幹細胞に局在する受容体TDRに結合し、シグナルを細胞内に伝える。3)その結果、維管束幹細胞から木部への分化が阻害される一方で、維管束幹細胞の分裂は促進され、未分化な状態の幹細胞が増える。このようにして、師部からのシグナルが、木部細胞への分化を抑制し、過剰の木部をつくらせないという、師部から木部へ向けての制御機構が示された。
  • 高橋 卓, 河野 恵理, 懸樋 潤一, 桑城 克隆
    p. S0041
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナのacaulis5 (acl5)変異体は茎の伸長に特異的な欠損を示す。その原因遺伝子ACL5は,スペルミン合成酵素をコードすると考えられてきたが,最近の研究によりサーモスペルミン合成酵素をコードしていることがわかった。サーモスペルミン(C3C3C4)はスペルミン(C3C4C3)の構造異性体である。実際,外から加えたサーモスペルミンはacl5変異体の茎の伸長を部分的に回復させ,ACL5遺伝子の発現を負に制御する。サーモスペルミンの作用機構を明らかにするため,acl5変異体の茎の伸長が回復したサプレッサー変異体sac51~sac59を単離した。sac51はbHLH型転写因子mRNAの5'-upstream ORF, sac52はリボソームタンパクL10A, sac56はリボソームタンパクL4Aのコード領域にそれぞれ変異が見つかっている。さらに,sac53は活性化Cキナーゼ受容体遺伝子RACK1Aに変異が見つかった。RACK1もリボソームの構成要素であり,翻訳調節の鍵因子として働くことが動物や酵母で知られている。acl5変異体は茎の維管束に木部組織の異常な増殖,リグニンの蓄積が認められることから,これらを負に制御する因子の翻訳調節にサーモスペルミンが関わる可能性がある。
  • 橘 昌司, 宋 建軍
    p. S0042
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ポリアミンは,花芽分化,花器形成,受精,果実発育,種子形成など,植物の生殖生長の様々な過程に関係している.花粉の発育についてみると,発育中の未熟花粉はスペルミジンとプトレシンに富み,これらの多くはヒドロキシ桂皮酸アミド(HCAA)として存在する.未熟花粉はポリアミン合成能を有し,それが損傷を受けると成熟花粉の稔性が低下するが,花器または花粉培養培地にポリアミンを与えると稔性低下が軽減される.ポリアミンは雄性不稔にも関係しており,トウモロコシの雄性不稔系統は稔性系統に比べて成熟花粉のポリアミン含量(特に酸不溶性HCAA)が著しく少ないが,稔性回復遺伝子導入系統の花粉のポリアミン含量は通常の稔性系統と差異がない.一方,花粉発芽に関しては,トマト花粉では,発芽に先立ってポリアミン合成酵素の活性増大とポリアミン含量の高まりが起こり,酵素活性の増大が阻害されると発芽が抑制される.この酵素活性増大はmRNA翻訳活性の高まりを伴っており,高温による発芽抑制や貯蔵中の花粉発芽力の減退にはこの活性の損傷が密接に関係している.以上のように,ポリアミンは雄性器官である花粉の正常な発育や発芽に重要な役割を果たしている.
  • 浦野 薫, 明賀 史純, 庄野 由里子, 永田 典子, 篠崎 一雄
    p. S0043
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナにおけるポリアミン合成関連遺伝子欠損変異体の解析は、植物におけるポリアミンの様々な生理学的役割を明らかにしてきた。しかしながら、その輸送機構の存在は植物においてほとんど解明されていない。本研究では、植物におけるポリアミンの合成・輸送の分子機構を解明するため、シロイヌナズナに存在するバクテリアのポリアミン輸送タンパク質ホモログAtPTP(Arabidopsis thaliana Polyamine Transporter Protein)を中心に解析を行っている。AtPTPはN末端にシグナル配列を持ち、C末端にポリアミン結合配列を持つタンパク質である。GFP融合AtPTPタンパク質の局在を蛍光顕微鏡で観察した結果、このタンパク質は葉緑体に局在し、その欠損変異体(atptp)は種子の成熟過程ならびに植物体の成長過程に異常が生じた。電子顕微鏡によるatptpの観察の結果、発芽直後の子葉では脂質やタンパク質などの種子貯蔵物質が減少し、本葉ではチラコイド膜の形成が見られなかった。以上の結果からAtPTPが植物の形態形成に必須な因子であることが明らかになった。本発表では上記の結果を含め最近の我々の研究結果を報告し、AtPTPのシロイヌナズナにおける生理学的、生化学的役割について議論したい。
  • 信定(鎌田) 知江, 林 誠, 榊原 均, 西村 幹夫
    p. S0044
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ポリアミンはウイルスから植物、動物まで広く存在する低分子活性物質であり、プトレシン、スペルミジン、スペルミンが主要ポリアミンとしてよく知られている。ごく最近、我々のグループを含めて、植物には存在しないとされていたポリアミンオキシダーゼ(PAO)のスペルミンからスペルミジン、スペルミジンからプトレシンへの代謝活性が相次いで同定され、植物のポリアミン代謝がより複雑に制御されていることが明らかにされつつある。
    我々はオルガネラの1つであるペルオキシソームの未同定機能の解明を目指して研究を行ってきた。シロイヌナズナ各器官において、ペルオキシソームへの輸送シグナルをもつタンパク質の遺伝子の網羅的な発現解析を行い、putative PAOの1つAtPAO4が根で強く発現していることを明らかにした。AtPAO4の遺伝子発現抑制株では、野生株に対してスペルミジンが減少し、スペルミンが増加していた。さらにin vitroで、大腸菌で発現させたAtPAO4タンパク質の活性測定を行ったところ、スペルミンをスペルミジンに代謝する活性を示した。遺伝子発現抑制株におけるポリアミン含量の変化は、植物内でAtPAO4がポリアミン含量の調節に関わっていることを示唆している。ペルオキシソームには他に2つのPAO(AtPAO2,3)も局在し、ポリアミン代謝におけるペルオキシソームの役割について議論する。
  • 高橋 芳弘, 草野 友延
    p. S0045
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ポリアミンは第一級アミノ基を2つ以上もつ脂肪族炭化水素の総称であり、動植物問わず幅広く存在する低分子化合物である。植物の主要なポリアミンは、ジアミンのプトレシン、トリアミンのスペルミジンとテトラアミンのスペルミンであり、胚発生、細胞分裂、形態形成そして花器官の発育促進などの生理過程に関与していることが知られている。さらに近年の研究から、ポリアミンは様々な環境ストレス応答にも関与する重要な分子であることが明らかとされている。
    我々は、ポリアミンの一つであるスペルミンが、病原体抵抗性反応時のシグナル分子として多数の遺伝子群の発現を制御することを明らかにしてきた。本シンポジウムでは、スペルミンが持つ生体防御機構に関する近年の知見を紹介する。ところで、最近、茎伸長の制御が、サーモスペルミンによってなされていることが明らかとなった。サーモスペルミンはスペルミンの構造異性体であることから、サーモスペルミンが植物のストレス応答時に果たす役割について、特に、病原体抵抗性反応に関与するシグナル分子としての機能を持つかを検討したので、併せて紹介する。
  • 平山 隆志
    p. S0046
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    移動ができない植物にとって、環境の変化を察知し適応するシステム、いわゆる環境応答機構は、生存に密接に関わっており非常に重要な役割を持つと予想される。動物に比べ単純な体制にもかかわらず、地上を覆い尽くすほどに繁栄した裏には何か秘密があると考えるのが自然であろう。
    我々は、植物の環境ストレス応答機構に密接に関与するアブシジン酸応答の解明を目的として、発芽時にABA応答に異常を持つシロイヌナズナの変異株を分離し、解析している。これまでに発芽時のABA応答を抑制的に制御する2つのPP2C, AHG1とAHG3, mRNA分解制御に関与すると思われるAHG2, 蛋白質分解制御に関与すると思われるAHG12, 葉緑体分化を制御すると思われるAHG11を、同定した。最近のABA応答機構についての知見によれば、ABA応答機構は、数種類のABA受容体とその下流で機能する多様な因子と細胞機能が複雑に関わるネットワークと考えられており、これらの因子の同定は、この考えを裏付けるものと結論づけられる。ABA応答は多様な外的、内的刺激応答に関与し、さらにはABAによる細胞機能の統御の可能性も伺える。本演題では、ABA応答研究のこれらの知見をふまえて、今一度植物細胞の環境応答機構について基本的な考え方を再考してみたい。その過程で、植物の環境応答戦略が浮き彫りにされてくるのでは、と考えている。
  • 仲下 英雄
    p. S0047
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    病害ストレスにより誘導される免疫機構である全身獲得抵抗性に働くサリチル酸シグナルと、環境ストレス応答に働くアブシジン酸シグナルとの間には、相互抑制的なクロストークが存在する。虫害などの傷害ストレスにより誘導されるジャスモン酸シグナルも、サリチル酸、アブシジン酸の両者と相互拮抗関係にある。移動できない植物では、外界からの生物・非生物ストレスに対する応答が三つ巴の関係で調節し合い、その時々で緊急性の高いストレスに効果的に対応して自己を守るシステムがあると考えられる。
    ホルモンの作用を支点とした個別のシグナル研究から複雑なクロストークが見出されてきたが、その一方で、クロストークでの抑制機構の解明は今後の課題である。植物ホルモンは、植物の生育時に目で見えるような現象を起こすためのシグナル物質と捉えられてきたが、抑制的な効果も重要な作用であると考えてもよい。例えば、低温ストレス応答ではアブシジン酸はあまり重要な意義はないにもかかわらず蓄積するのは、他のシグナルを抑制するためと考えることもできる。ここにおいては、すべての植物ホルモンに当てはまるわけではないが、動物のホルモンでの定義と異なり植物では「標的器官」が曖昧であることも大きな意味を持っているかもしれない。本発表では、ストレス応答を例として、植物ホルモンシグナルネットワークの意義の可能性について議論したい。
  • 平井 優美
    p. S0048
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物界には、20万種を超すともいわれる代謝産物が存在する。生命にとって必須の基本的機能を持っている一次代謝が、環境変動に左右されず恒常性を維持するよう制御されていると考えられるのに対し、一次代謝から派生する多様性の高い二次代謝は、種々のストレスに対応するための役割を担うために、ダイナミックに変動すると考えられる。さまざまな代謝経路が複雑に関与することでとられている代謝のバランスを、環境変動に応答して変化させ、あるいは変化しないよう調節することは、植物の基本的な生存戦略のひとつである。
    我々は、代謝とその制御機構の理解を目指している。その複雑な全体像を俯瞰するべくlarge-scale biologyのアプローチをとっており、大規模に収集したトランスクリプトームデータとメタボロームデータに基づく仮説(data-driven hypothesis)の構築により、対象を予めターゲットしないやり方で、新規の知見を得たいと考えている。本発表では、植物をシステムとして解析する研究手法の在り方について議論するきっかけとして、(1)アブラナ科植物の二次代謝産物グルコシノレート(カラシ油配糖体)の生合成経路と制御機構の解明に関する成果と、(2)ハイスループット代謝プロファイリング系の確立とその利用によるアミノ酸代謝解明のための研究、について紹介したい。
  • 溝口 剛
    p. S0049
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    形態形成や生理応答を含む多くの生命現象が、「約24時間周期の内因性リズムをうみだす概日時計」による制御を受けている。植物においても、ライフサイクルの中で花器官をつくるタイミング(1、2)や、明暗周期下における胚軸・葉柄・節間の伸長制御(3)、さらには葉の形が、概日時計の制御下にあることが分かってきた。これまでのシロイヌナズナに関する分子遺伝学研究の成果により、数多くの概日時計関連遺伝子が単離・同定されてきた。これらの遺伝子群の多重変異体の解析から、概日時計による形態統御には、光応答や植物ホルモン応答など、さまざまな情報伝達系が複合的に関わっていると考えられ、巧妙なネットワーク制御の存在が想定される。
    本発表では、シロイヌナズナの2つの時計遺伝子LHYとCCA1の二重変異体lhy;cca1の多面的な変異形質に着目し、これらの複数の変異形質発現に関与する遺伝子の実例を紹介する(4)。「形態形成制御ネットワーク上のハブタンパク質」の存在の可能性と意義について議論する。
    (1)Mizoguchi et al., Dev Cell 2002
    (2)Mizoguchi et al., Plant Cell 2005
    (3)Niinuma et al., Plant Biotech 2008
    (4)Fujiwara et al., Plant Cell 2008
  • 福田 弘和
    p. S0050
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物を構成しているほぼ全ての細胞は、自律した概日リズムを形成し、物質拡散などを利用して相互作用している。したがって、植物個体を自律振動する素子(振動子)が無数結合した結合振動子系と見なすことができる。結合振動子系は、システム全体を自律的に統制し、様々な時間的、空間的な秩序構造(時空間パターン)を形成するという特徴をもつ。このため、植物を結合振動子系と捉えることで、植物システムの自己統制機能について新たな知見が得られるかもしれない。
    本講演では、時計遺伝子CCA1のプロモーターにルシフェラーゼ遺伝子を融合した形質転換シロイヌナズナCCA1::LUCを用いた概日時計の同期現象と時空間パターンの研究を紹介する。最近我々は、連続暗条件に置かれた切除葉において、位相波と呼ばれる細胞間のリズムの位相のズレが波として規則的に伝播する現象を観察した。この位相波は細胞間の同期現象に由来する。興味深いことにこの位相波は葉脈の部分で遅れて伝播する傾向があり、葉脈という形態情報とリンクしていることが分かった。また、我々はこの時空間パターンを結合振動子系の標準的な数理モデルで定量的に記述することに成功している。本講演では、植物システムが持つ結合振動子系という側面を数理的に取り扱う方法を紹介し、このアプローチで「植物らしさ」について何が見出せるのかを述べる。
  • 塚谷 裕一
    p. S0051
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    器官のサイズは、その細胞の数とサイズに依存する。これは動植物を問わず共通である。しかし個々の細胞の振る舞いを器官レベルで統合する仕組みにおいて、植物には、植物固有のルールもある。
    例えば動物の器官サイズは、厳密に一定の範囲に制御されている。植物の葉でも、細胞数が著しく低下すると、細胞伸長は逆に促進され、葉の面積低下が若干緩和される(補償作用)。しかし細胞の数やサイズが増大する場合には、葉面積に対する調節は起きず、葉はそのまま大きくなる。葉の細胞の分裂と伸長は、どう統御されているのだろうか。
    一方両生類では、倍数化に伴って細胞サイズが増大しても、器官サイズは一定に保たれるため、各器官を構成する細胞数は逆比例で減少する。植物では、これに対して高次倍数体シンドロームと呼ぶ現象が起きる。例えばシロイヌナズナの場合、細胞サイズでは2倍体より4倍体が、4倍体より8倍体が大きい。ところが葉のサイズでは、4倍体は2倍体より大きいものの、8倍体は4倍体よりも、また2倍体に比べても小さい。これはいかなる制御によるものだろうか。
    本シンポジウムでは、これまでにシロイヌナズナについて解析した結果、得られた知見を元に、器官レベルでの統御システムについて、いくつか仮説を掲げて問題提起としたい。

    Tsukaya H. (2008) PLoS Biology 6: 1373-1376
  • 村田 智
    p. S0052
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    有限状態オートマトンモデルとその拡張により、形態形成や自己修復、
    自己複製といったネットワークシステムの生成発展を表現することができる。
    ここでは、そのような数学モデルの実例をいくつか紹介するとともに、実際の
    生物のかたちづくりのメカニズムとの違いについて議論する。
  • 倉田 哲也, 西山 智明, 宮脇 香織, 程 朝陽, 岩田 美根子, 大島 真澄, 長谷部 光泰
    p. S0053
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物では、動物細胞と比べ分化細胞から多能性/全能性幹細胞へと分化転換させることが容易かつ高頻度にできる。本研究では、幹細胞への高い分化転換能を持つヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)をモデル系にして、その分子メカニズムを解明するためにクロマチン修飾と遺伝子発現に着目したゲノムワイド解析を次世代シーケンスシステムABI-SOLiDを活用して行っている。
    幹細胞への分化転換過程での核の初期化(リプログラミング)に伴うクロマチン状態の変化を検出するために、特定のヒストン修飾についてのゲノムワイドなChIP-seq法を確立した。これまでに、活性化及び不活性化状態を示すヒストンH3の各種修飾について、茎葉体(分化細胞サンプル)、原糸体頂端細胞由来プロトプラスト(幹細胞サンプル)でのChIP-seq解析を進めた。現在、これらのサンプル間での各種ヒストン修飾変化について解析を行っている。また、全ゲノム遺伝子発現プロファイルを取得するために、シーケンスタグによるDigital Gene Expression(DGE)解析系も立ち上げ、高い再現性、マイクロアレイより広いダイナミックレンジを持つことを確認した。続いて、分化転換系での遺伝子発現プロファイルを取得した。これらの遺伝子発現情報とヒストン修飾の関係についても本発表で議論したいと考えている。
  • 矢野 昌裕, 長崎 英樹, 江花 薫子, 中嶋 舞子, 米丸 淳一, 山本 敏央
    p. S0054
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    イネの全塩基配列が解読され、ゲノムワイドな構造解析あるいは機能解析が大きく進展しているが、日本型イネ品種間においては、ゲノム塩基配列の違いを検出することが難しく、遺伝解析は進んでいない。この問題を解決するために、演者らは次世代シーケンサを活用した近縁品種間のゲノムワイドな一塩基置換(SNP)の検出を行うとともに得られたSNP情報を近代育成品種の系譜に基づくハプロタイプ解析に利用した。ゲノムアナライザーで解読した89億塩基(×23)のコシヒカリのリード配列(33bp)を日本晴ゲノムの相同領域にin silicoでマッピングした。マッピングしたリード配列のうち特異的に日本晴ゲノム上に貼り付けることができた配列は58億塩基であり、それらがカバーする日本晴のゲノムは79.9%であった。またコンティグ総数は約65万となった。コシヒカリ共通配列を利用して、日本晴との間のSNPを検出したところ、ゲノムワイドに67,051種類のSNPsを検出することができた。これらのSNPsは12種類の染色体上に散在するものの、その分布には偏りが認められた。検出されたSNPを日本の近代育成品種のハプロタイプ解析に応用したところ、近代育成品種に生じた染色体の組み換えや遺伝的構成を可視化することができた。これらの情報やツールは、新たな育種選抜指標を構築する上で極めて有用である。
  • 関 原明, 松井 章浩, 栗原 志夫, 金 鍾明, 岡本 昌憲, 石田 順子, 諸澤 妙子, 藤 泰子, 中南 健太郎, 川嶋 真貴子, 田 ...
    p. S0055
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    植物は乾燥・低温・塩などのストレスに対する独自の適応機構を備えている。我々は、RNAやクロマチン構造変換1)のストレス応答における役割解明を目指して研究を進めている。
    シロイヌナズナタイリングアレイを用いて、乾燥・低温・塩などのストレスやABA応答に関するゲノムワイドでの発現解析を行い、以下の知見を得た2)。a) これら条件下で発現応答する新規な転写単位が多数存在し、それらの大半は既知のタンパク質をコードせずAGIコード遺伝子のアンチセンス鎖に存在する。b)AGIコード遺伝子とアンチセンス鎖に存在する新規転写単位の発現応答性に高い相関性が存在する。c)ABA誘導性のCYP707A1遺伝子領域でアンチセンスRNAの発現にセンスRNAの発現が必要である。
    また最近、タイリングアレイを用いてRdDM 3)やNMD4)のターゲット遺伝子の同定も行った。本シンポジウムでは、タイリングアレイを用いた研究の有効性や将来の方向性に関して我々の研究例を紹介しながら議論する。
    1) Kim et al. (2008) PCP 49:1580; 2) Matsui et al. (2008)PCP 49:1135; 3) Kurihara et al. (2008)BBRC 376:553; 4) Kurihara et al. (2008) PNAS (revised).
  • 柴 博史, 矢崎 潤史, 磯貝 彰, Joseph Ecker, 高山 誠司
    p. S0056
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    近年のゲノム解析技術の発達により種々の生物種でゲノム塩基配列が解読され、これを用いた形質発現調節機構の解明が進められている。その過程で、DNA配列の変化を伴うことなく、後天的な作用により変異が生じる機構が発見されてきた。DNAメチル化は、エピジェネティックな遺伝子発現制御機構の主要因として動植物を問わず広く知られており、これを介したエピジェネティクスな遺伝子発現制御機構は、種々の生物現象に関わることが示されている。
    最近、ゲノムタイリングアレイあるいは高速シークエンサを用いた解析技術が開発され、転写様式、ゲノム修飾部位の網羅的探索が可能となりつつある。ゲノムタイリングアレイは、セントロメア等の高リピート領域を除く全ゲノム配列に対応するオリゴプローブを等間隔に基盤上に貼り付けた物で、遺伝子コード領域だけでなく、ゲノムのあらゆる部分からの転写産物を見ることが出来る。またゲノム断片を使った免疫沈降実験とタイリングアレイを組み合わせることで、DNAメチル化、ヒストン修飾等の網羅的検出が可能である。これらデータを統合することで、遺伝子発現制御に関わる様々なエピジェネティックな要因を明らかにすることが期待される。本演題では、現在我々が進めているゲノムタイリングアレイを用いた研究を通じて、網羅的ゲノム解析の最新技術と植物におけるDNAメチル化を介した遺伝子発現制御機構に関する知見を紹介する。
  • 土生 芳樹
    p. S0057
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ヘテロクロマチン領域は、一般に不活性な遺伝子やトランスポゾン様配列に富み、メチル化シトシンとメチル化ヒストンH3 Lys9の存在や、減数分裂期組換えの抑制によって特徴付けられる。シロイヌナズナにおけるヘテロクロマチン領域は、rRNA遺伝子領域の他、主にセントロメア周縁部や4番染色体短腕に存在し、細胞周期を通して凝集した構造を形成していることが細胞遺伝学的に示されている。ヘテロクロマチン領域のサイレンシングは、RNA interference(RNAi)を介したRNA-directed DNA methylation(RdDM)が重要な役割を担っていることが示されているが、一方で、シロイヌナズナではそれとは異なるサイレンシング機構がセントロメア周縁部のレトロトランスポゾン様配列(transcriptionally silent information, TSI)の不活性化に関与していることが示唆されている。本発表では、TSIのサイレンシングに必須の因子であるMorpheus’ Molecule 1MOM1)が制御する内在性配列の網羅的検出にゲノムタイリングアレイを利用した例を紹介し、ヘテロクロマチン領域以外に新たに見出されたMOM1標的遺伝子の解析結果を含めて、MOM1による標的認識の機構を議論する。
  • 豊田 哲郎, 神沼 英里
    p. S0058
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    理研の生命情報基盤研究部門では、文部科学省委託事業によりシロイヌナズナのオミックス統合データベース(DB)を構築している。シロイヌナズナではオミックス階層毎に、インターネット上に多数のDBが公開されている。しかしDB毎に形式が異なるために、実験研究者が階層を超えたデータ統合化を行い、統合情報から有用な知見を得る事は容易ではない。我々は多様なオミックスDBを統合する為に、セマンティックウェブ技術を基盤としたDB統合編集ウェブシステム「Semantic Web Folder(SWF)」を開発している。SWFシステムには理研の公開DBと共にインターネット上のオントロジーやアノテーション情報を登録しており、植物ではシロイヌナズナ遺伝子を中心として23種のDBを統合した。ユーザはセマンティックリンクを辿りオミックス階層の異なる統合結果を確認する事や、キーワード統合検索により統合情報一覧を取得する事ができる。またゲノムブラウザOmicBrowseとの連動機能により、例えばプローブ座標とタイリングアレイ発現値の統合データを確認することが出来る。更にSWFはデータ編集支援機能を備えており、文献検索システムPosMedのシロイヌナズナ用キュレーションDBの作成に利用されている。シロイヌナズナのオミックス統合DBはhttp://databaseforge.org/からアクセスできる。
  • 佐藤 修正, 下田 宜司, 中務 弘基, 田畑 哲之
    p. S0059
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    ゲノム情報を利用した根粒菌-宿主植物間の相互作用解析を目的として、ミヤコグサ根粒菌(Mesorhizobium loti)とミヤコグサ(Lotus japonicus)の双方でゲノム解析を進めている。M. lotiでは、ゲノム解読後アレイ解析やYTH法による相互作用解析のデータが収集され活用できる状況にある。このような情報を基にして遺伝子機能解析を進めるためには、遺伝子破壊株を用いた解析が重要となる。我々はM. lotiの挿入変異株の取得を効率化する目的で、Signature Tagged Mutagenesis(STM)法を利用した挿入変異株ライブラリーを作製した。27種類のTag配列を挿入したトランスポゾンを用いて、これまでに29,930の挿入変異株を収集し、そのうち9,344株についてトランスポゾン挿入部位の解析を行った。その結果、トランスポゾンの挿入はほぼランダムであることが確認され、M. loti全遺伝子の51%に相当する3,681遺伝子について挿入が確認された。現在、得られた挿入変異株を用いて新規共生関連遺伝子の探索を進めるとともに、このライブラリーを研究リソースとして活用するために、個別変異株の基本情報を公開し、ライブラリーをNBRPに寄託し配布体制を整えている。本発表では、研究リソースとしてのSTMライブラリーの特徴と遺伝子機能解析の進捗状況について紹介する。
  • 佐伯 和彦, 石田 英里子, 三島 絵里奈, 東 未来, 岡部 沙織, 佐藤 修正, 田畑 哲之, 岡崎 伸
    p. S0060
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    窒素固定共生に関わる根粒菌遺伝子については、1980年代からの分子遺伝学的解析により数々のものが明らかにされてきた。単独の変異で共生成立が破綻する因子のほとんどが補足されてきたと言って過言ではない。しかし、主要因子以外の共生を補助的に支える因子の多くが見逃されてきた可能性がある。私達はゲノミクス技法により新規な共生補助因子を同定しつつある。
    動植物の病原細菌には、3型分泌系と呼ばれる細菌細胞内膜、外膜を貫通する複合体により、宿主機能を制御するエフェクターを分泌するものが知られている。ミヤコグサ根粒菌を含めた根粒菌の中にも3型分泌系を持つものが見出されている。しかし、病原細菌に比べると根粒菌3型分泌系に関する知見はごく限られており、分泌装置の構造やエフェクターの実体はほとんど明らかにされていない。私達は、根粒菌遺伝子の標的破壊とマーカーレス化法を確立し、トランスポゾンによるランダム破壊を併用して、エフェクターの探索を行い、Lotus属内での種特異性を決定する因子を同定している。また、配列特異的リコンビナーゼを一次レポーターとして二次レポーター遺伝子の機能転換を行わせるRIVET法を改良してきた。この改良RIVETを用いたスクリーニングによって、共生成立途上で一過的に発現する遺伝子として同定したものの中には、上記のエフェクターが含まれていた。これらの現状について紹介する。
  • 青木 俊夫, 貫井 憲之, 綾部 真一
    p. S0061
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/23
    会議録・要旨集 フリー
    マメ科植物と根粒菌との共生窒素固定において,根粒菌が分泌するNod因子が植物に作用して誘導される一連の初期応答に引き続き,根粒菌は根毛先端部から侵入し感染糸と呼ばれる環状構造を経由して皮層細胞層の奥に到達する.宿主植物は根粒の数を制限することで窒素固定とエネルギー消費のバランスをとっているが,最終的に形成される成熟根粒よりも多くの感染糸が形成されることから,宿主植物が設けるチェックポイントは感染糸形成と根粒原基形成の両方の段階に存在すると考えられる.しかし,近年解明が進んでいる共生初期過程とは対照的に,根粒数の制御を含めた感染・根粒形成過程の分子機構の解明は大きな課題である.我々は,根粒形成を抑制することが知られているエチレンと,根粒形成における役割が様々に論じられているフラボノイドの機能の解明を手がかりにこの課題に取り組んでいる.本講演では,ミヤコグサ根粒菌がもつエチレン生合成前駆体の分解酵素であるACCデアミナーゼの役割と,フラボノイドの分子遺伝学的機能解明の前提となるフラボノイド生合成遺伝子の解析について述べる.また,感染糸数が異なる標準系統B-129 GifuとMG-20 Miyakojimaから作製された組換え自殖系統を用いて実施した,感染糸数に関するQTL解析および他形質との相関解析の結果についても紹介する.
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