理学療法の歩み
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31 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
特別寄稿
  • 諸橋 勇
    2020 年 31 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

    理学療法診療ガイドライン第1版が出版され,理学療法士の間で利用する人が増えてきている一方で,エビデンスに基づいたEBPTはなかなか地に足がついて進んできていない。その原因を,理学療法士の資質や制度を概観して検討すると,その原因の代表的なものの一つに療法士と患者間のコミュニケーションの在り方があると認識できる。患者への説明や患者の診療の選択の意思決定ツールとしてガイドラインの利用が望まれる。また,理学療法の思考過程の中で経験則や思い込みなどだけではなく,理学療法の臨床判断の特殊性も加味しながら,テクニカルスタンダード,ガイドライン,エビデンス,個別性を考えEBPTの5つのステップに沿って思考過程を展開し,検証することが重要であることを強調したい。最後にEBPTを知識として持っているのではなく,まずは患者さんとしっかりコミュニケーションをとり,さらにEBPTを実施することがガイドライン活用の第一歩と考える。

  • 三浦 利彦
    2020 年 31 巻 1 号 p. 11-16
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

    神経筋疾患の代表的疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy: DMD)は,ジストロフィン遺伝子異常によりジストロフィン蛋白の欠損により引き起こされる。本来ジストロフィン蛋白は骨格筋のみならず,心筋,呼吸筋,口腔咽頭筋,平滑筋(血管や消化管),さらには脳(主に海馬)や中枢神経にも存在する。そのため,DMDの臨床症状は全身(初期には近位筋)の筋力低下に始まり,呼吸不全,心不全(拡張型心筋症様),嚥下障害,便秘やイレウス,知的障害や発達障害スペクトラムなどが相互に関連しあう複雑な病態となる。非侵襲的換気療法(noninvasive positive pressure ventilation: NPPV)により延命が可能となったDMDにおいて,2019年12月1日に施行された「成育基本法」にのっとり,居住地に関わらず科学的知見に基づく切れ目の無い適切な成育医療が提供されるよう推進する必要がある。

  • 藤澤 宏幸
    2020 年 31 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

    日本に理学療法士が誕生してから半世紀を越えた。国家資格として専門職化を進めるために多くの努力が払われてきたが,どの程度専門職としての立場を確立してきたのであろうか。2020年度に20年ぶりとなる養成課程の指定規則が改正されることになったが,臨床実習指導者の要件がより厳格となり,後進育成のためにこれまで以上に有資格者の研鑽が必要となった。これを機に臨床実習の受け入れを終了しようと考える実習施設が出てくるのではないかという危惧が養成校側から聞こえてくる。しかし,自律性の観点からすると,「成員補充の自足性」が専門職を専門職たらしめている重要な要素であることを忘れてはならない。次の時代を担う後進の育成を,養成校と臨床家が連携して担うことが,理学療法士の専門職としての立場を強めるのである。本論文においては,専門職の定義を概観したのち,自律性の観点から理学療法士の専門性を高める方策と,臨床技術を伝承するための臨床教授法について論考する。

研究報告
  • 藤澤 宏幸, 岡田 茉南花, 朽木 由乃, 佐藤 瑞己, 鷹觜 紺, 千葉 真愛, 仲澤 颯, 鈴木 博人, 鈴木 誠
    2020 年 31 巻 1 号 p. 26-32
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,立位での体幹前傾姿勢保持における股関節伸筋の筋活動について,両脚と片脚支持での差異を明らかにすることとした。対象者は健常男性16名,測定肢を非利き足とし,大殿筋上部・下部線維,大腿二頭筋,半腱様筋の筋電図を測定した。体幹前傾角度条件を0,10,20,30 度の4種類,立位条件は両脚立位,片脚立位の2種類とした。結果,両脚立位時では,大殿筋と比較し大腿二頭筋および半腱様筋の活動が有意に高値を示した。また,片脚立位では,全ての筋の活動が体幹前傾角度の増加とともに増えた。両脚立位で大腿二頭筋と半腱様筋の活動が高まるのは,股関節伸展のモーメント・アームが大殿筋よりも長く,モーメントを効率よく生み出せるためと推測された。一方,片脚立位で大殿筋の筋活動が高まるのは,股関節内転および屈曲方向への重力トルクに対抗するため股関節外転・伸展方向への筋トルクが必要なためと考えられた。

症例報告
  • 西條 寛大, 永元 英明, 荒井 豊
    2020 年 31 巻 1 号 p. 33-39
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

    鏡視下腱板修復術(ARCR)を施行したコンプライアンス不良患者の理学療法において,肩甲骨・上腕骨頭位置に着目して介入し,良好な経過が得られたので報告する。症例は60代男性,右棘上筋腱~棘下筋腱の大断裂と診断された。術前の右肩甲骨は下制・下方回旋・前傾位,右上腕骨頭は前方に変位していた。術後は疼痛・断裂の再発防止を目的に,装具固定や日常生活指導による動作制限を設けた。しかし,本症例はコンプライアンス不良であり,術側肩関節の動作制限は困難であった為,修復腱の治癒を阻害しないよう肩甲骨・上腕骨頭位置の改善を図った。その結果,術後半年では肩甲骨・上腕骨位置は改善し疼痛再発なく,術後1年のMRIでは再断裂を認めなかった。ARCRを施行したコンプライアンス不良患者の理学療法では術側肩関節の動作制限に難渋するが,肩甲骨・上腕骨頭位置の改善は疼痛・断裂の再発防止に有効と考えられた。

活動報告
  • 後藤 孝一朗
    2020 年 31 巻 1 号 p. 40-44
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/02
    ジャーナル フリー

    2019年に第9回のRugby World Cup日本大会が開催された。今大会で予選2回戦に臨むジョージア代表の選手に対して理学療法士, 柔道整復師,あん摩マッサージ師の計3名でコンディショニングケアを行った。活動期間は1日間であったが, 私自身のラグビー選手としての経験が選手とのコミュニケーション, コンディショニングに生かされ, 理学療法士として多くのことを学んだ期間であった。その中でもスポーツにおけるコンディショニングを行うためには, 競技特性や競技のポジション別からみた傷害特性を,コンディショニングを行う前の知識として知っておくことが重要であると改めて学んだ。また, タイトな試合スケジュールの中での疲労などが起因する傷害発生を予防するための, 選手やコーチに対する傷害予防のための啓発が重要であると感じたRugby World Cup日本大会であった。

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