従来,交流ポーラログラフ波高の温度変化は,可逆系について,その温度係数だけが問題にされてきた。しかし,適当な方法を導入すれば,温度変化から得られる知見は,単に温度係数だけでなく,系の可逆度によって,反応物質の拡散の活性化エネルギー,および電極反応の標準活性化エネルギーを求めることができる。可逆系に対しては,交流ポーラログラフ波高Y
AC(mhoの単位であらわす)は,次のように与えられる。Y
AC=const.i
d/T従って,log(Y
AC・T)=const.-Q
D/4.606RT(2)となり,ここにQ
Dは反応物質の拡散の活性化エネルギーをあらわす。これより,可逆系については,log(Y
AC・T)を1/Tに対してプロットすれば直線となり,その傾きからQ
Dが求められる。 実験は1.MのKI,KBr,KCI中の亜鉛イオンについて行ない,その交流ポープログラフ波高の温度変化はFig.1に,各温度における温度係数はTable 1のようになった。温度係数は,同一の系については高温になるほど小さく,℃一定温度ではKI中で最も小さく,KCl中で最も大きい。この結果は今井,安達による結果と一致している。次に,(2)式に従ってlog(Y
AC・T)を1/Tに対してプロットすると,Fig.2のようになり,高温領域での直線の傾きからQ
Dを求め,i
dよび伝導度の温度変化から求められた値と比較するとTable 2の結果が得られた。これより,この温度領域では,亜鉛イオンはKI溶液中においてのみ可逆的に還元されるといえる。次に低温部での直線を表現するものとして,次式を仮定する。log(Y
AC・T)=const.-ΔH
s/2.303RT,ただし,ΔH
sは電極反応の標準活性化エネルギーである。この式に従って,低温部での直線の傾きからΔHを求め,Randlesらによって求められた値と比較すると,Table3のようになり,両者はよく一致している。従って,Y
AC・Tはこのとき,交換電流密度に比例している,とみなせる。このように,log(Y
AC・T)を1/Tに対してプロットすれば,可逆な温度領域では反応物質の,溶液中における拡散の活性化エネルギーを,準可逆な温度領域では電極反応の標準活性化エネルギーが求められるわけである。
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