Brdicka接触水素波の機構解明のためには簡単な化合物としてシスティン,シスチンがえらばれる.しかしCo(II)の塩化アンモニウムーアンモニヤ性溶液ではシスチン及びシスティンのいずれも類似の接触波を示すがCO(III)の塩化アンモニウムーアンモニヤ性溶液中ではその挙動は異なる.Kalousは高濃度のシスチン(10
-3M)を用い,Co(III)中での挙動について報告し,更に最近Kalousek Commutatorを使用してその複雑な電極反応の解明を試みている. 著者はCO(II)又はCO(III)中での異なる接触水素波の起因に興味をもち,直流交流ポーラログラフ法によりCo(III)中でのシスチンの示す挙動を詳細に検討した所Kalousの結果と二,三の相異点を知り更にこの電極反応より接触水素波の機構に関して研究した.第1図にはコバルトの存在しない0.LMNH
3+0.1MNH
4Cl中でシスチン還元波(ポーラログラムC)と,シスチンを含まない0.1.MNH
3+0.1MNH
4Cl溶液中のCo(III)の還元波を示し,更にシスチン(0.6mM)を含むCo(III)(1mM)の0.1,MNH
3+0.1MNH
4Cl溶液中での還元波(ポーラログラムA)と比較した所,第II,第III波の点において非常に複雑な還元波を示した.シスチンの濃度変化によるそれらの還元波の変化を第2,第2図に示してある.交流ポーラログラムでは直流ポープログラフ波に相当するピーク波が現われ第1図に示したと同じく,0.1MNH
3+0.1MNH
4G1溶液中でシスチンのみの波,Co(III)のみの波更にシスチンとコバルト共存の場合の還元波を第4図に示している. 以上に示した結果より,第1波は(コバルト第1還元波)1シスチン濃度の増加により負側に移行しWaveII-1の波高は増加してシスチン1mM以上では変化をみなく,NaveII-2は一段より二段波となる.各波高の変化が第5図Aに示してある.シスチン一定濃度下でCo(III)の濃度を変化さすとWaveII-1は直線的に増加してWaveII-2は減少した.√hcorrに対してはWaveII-1,WaveII-2共にKinctic characterを示さなかつた.以上の結果より次の如く電極反応を考えた.RSSR+2Hg→2RSHg2RSHg+Co(H
2O)
62+→2RS+Co(H
22O)
63++2HgこのCo(H
2O)
63+は再びシスチンと錯化合物を形成してその還元波がWave II-1である,i.e.,Co(H
2O)
63++2RS→Co(RSSR)
3+ Co(RSSR)
3++e-→Co(RSSR)
2+となる.又WaveII-2に対しては水銀面に吸着したシスチンの一部がシスティンに還元される波と推定した. 第3図IとIIに示すごとくシスチン濃度の増加に伴ないコバルト第2波の極大は減少して二重波が現われてくる.更にコバルト第2還元波は二段波となり(WaveIII)そのうちの第1波(WaveIII-1)は極大波を伴なつている.Co(III)の一定濃度下において,シスチン濃度を変化させた場合のWaveIII-1,WaveIII-2の波高やシスチンの一定濃度下においてコバルトの濃度を変化させた場合のそれらの波高,又√hcorrに対する波高の変化等が第6図A,B,Cに示してある.この結果よりWaveIII-1は[Co\RSSR]
2++2-→Co°+2RSによるものであり,更にRSが水銀電極面に吸着して水銀と反応する結果,Wave III-2が生じると推定された. Wave IIIの波高はコバルト一定濃度下でシスチン濃度の増加により非直線性を示し,又シスチンの一定濃度下でコバルトの濃度増加により非直線性を示している.この結果が第7図に示してある.以上の結果よりWave IV-2は接触波としての性格を有するがWave IV-1は完全な接触波の挙動を示さなかつた.
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