一般に金属イオンの拡散係数は水溶液中では正の温度係数を持つている.従ってその金属イオンのポーラログラムの波高が,拡散律速電流であれば,その波高の温度係数も正であることが期待される.本実験で若千の金属イオンの矩形波ポーラログラフイーにおける波高の温度係数について検討したところ,KCl中のPb
2+とTl
+の温度係数が負であるという興味深い現象が見られたので報告する.波高の測定は図1のaで示した. Pb
2+,Tl
+の矩形波ポーラログラムの温度係数は負であったが,Cd
2+のそれは正であった(図2) しかしPb
2+の直流ポーラログラムの波高の温度係数は正であった(図3)ことから,Pb
2+の矩形波ポーラログラフィーにおいては,拡散律速以外の電流が重要な因子となっていると考えられる。また種々の支持電解質申でのPb
2+については,HClとKCl中では負の,HClO
4とNaOHとKNO
3中では正の温度係数を示した.このことからCl
-そオンの存在がPb
2+の波高の温度係数を負にする現象に関連していると考えられる.しかしCl
-のの濃度はこの現象と直線的な関係は見られなかった.(表1) Pb
2+の濃度の影響は表llに示されるが,低濃度では,温度係数は負であるが,高濃度では正である. また界面活性剤の効果は図5,図6に示されるように,ゼラチンやメチルレッドの添加によって温度係数は正となる. 以上の実験結果から多量のCl
+が存在する中に,微量に含まれるPb
2+は,水銀表面に吸着されるかもしれないと考えられるがPb
2+はCl
-と複雑な配位化合物を作るので,更に詳細な検討が必要である.詳細は後に報告する.
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