本論文で提案した水蒸気依存係数を持つMC/WVD法及びEMC/WVD法は,従来のMC法及びEMC法の精度を改善する効果が見られた。例えば,海洋観測を想定した条件では,AVHRR及びASTERの各MC法のRMSEが0.78及び0.90K(NE△Tも考慮)であるのに対し,各MC/WVD法のRMSEは0.59及び0.68Kと0.2K程度の精度改善効果があった。とりわけEMC/WVD法については,放射率の不確定性に対するロバスト性が大きく向上し,海洋観測に加えて陸域観測への利用が可能である。例えば,AVHRRのCh.4やASTERのCh.12に対するEMC/WVD法は,地表被覆を問わず1Kより高精度なRMSEでTgiを推定可能である。なお,これらは全球解析データの利用を考慮して総水蒸気量の精度を1g/cm
2とした場合の結果であり,サウンダの同期観測データ等,より高精度なプロダクトを常に利用できる場合は更に精度が上がる。特にASTERについては,MODISの水蒸気量プロダクトの品質が保証されれば,これを利用できるものと期待される。
誤差特性の解析結果からは,これらの手法において,放射率と共にδLSTが重要な誤差因子であることが示された。δLSTによる誤差の影響を取り除く1つの方法は,Wanら(1996)が提案したδLSTのサブレンジごとに最適な係数を与える方法であるが
6),この場合,係数を決める際に地表気温プロダクトが新たに必要となる。
なお,ASTERは,AVHRRよりNE△Tが大きく,各チャネルは大気透過性が比較的高い波長帯に位置し,Ch.11~12はオゾンの吸収効果を受けるなど,MC法を適用する上での短所を多く持つにも関わらず,ASTERに対する各手法の精度はAVHRRのものと同等もしくはそれ以上であった。このことはマルチチャネル化の有効性を示していると思われ,チャネル配置を最適化できれば,更に高い精度が得られるものと思われる。
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