Second Language
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12 巻
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特別寄稿
研究論文
  • 岩崎 順子
    2013 年12 巻 p. 21-42
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本稿ではオーストラリアで日本語特別集中コースに参加していた成人学習者1名の第二言語としての日本語 (JSL)の習得過程を縦断的に分析し報告する。特に,この学習者の発話における形態素と統語構造の出現順序が一連の言語処理可能性理論1(Processability Theory(以下PT): Pienemann, 1998; Pienemann, Di Biase & Kawaguchi, 2005)で予測された普遍的発達階層に沿うかどうかを検証することが目的であった。調査参加者は調査開始前に日本語学習経験のなかった33歳のオーストラリア人男性で,1年で約900時間,教師との一対一の日本語の授業を受けた。コースの一貫として設けた一般日本人話者との会話セッションで録音した発話資料から,動詞の語尾変化,V-てV構造,受け身/使役/受益文,規範文,非規範文を取り出し,分析した。分布分析の結果によると,それらの文法項目の出現順序は原型PTと拡大PTで予測された順序と一致した。

  • 志手 和行
    2013 年12 巻 p. 43-60
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    当研究はLoewen (2009)を基に文法性判断テスト (GJT)の構成概念妥当性の調査を試みたものである。時間制約のあるGJT(暗示的知識を測ると考えられる)におけるL2学習者のパフォーマンスの正確さと、判断する際の「直感」の使用度(自己報告による)との関係を、タスク刺激(文法的な文と非文法的な文の2種類)と17種類の文法構造に関して主に調査した。日本の二つの大学から90名の日本人英語学習者に時間制約(4秒間の反応時間)のあるGJTと時間制約のないGJTを課した。相関分析から明らかになったことは、17種類の文法構造のうち、唯一「複数のs」のみに対するパフォーマンスの正確さが、自己報告による直感使用との有意な相関を示した。一方、タスク刺激に関しては、文法的、非文法的な文のいずれも直感使用との有意な相関を示さなかった。暗示的知識としての「複数のs」をEllis (2006)で提唱された暗示的知識の難易度決定要素に基づき調査した所、単純な「機能的価値」と容易な「言語処理可能性」を有するため「複数のs」は比較的簡単であると捉えられることがわかった。しかしながら、時間制約のあるGJTの正解率の順番ではその構造は12番目に位置している。自己報告データの分析も取り入れて明らかになったのは、文の内容理解のような暗示的知識の難易度に影響を与える様々な要素が存在するであろうということであった。さらに、直感の使用が主観的な報告に基づくものではあったものの、時間制約のあるGJTが暗示的知識を測ると言えるのかどうか明確にするためには、理想的な反応時間の考慮が重要であることが結果から示唆される。主観的と客観的な分析の双方を実施することで、GJTの妥当性の問題により貢献できると言えよう。

  • 鈴木 孝明, 八木 岳彦
    2013 年12 巻 p. 61-79
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    本研究では、第二言語習得における誤りを抑制するためにプリエンプションが効果をもつのかどうか、日本語を母語とする英語学習者を対象として動詞の自他交替に関する調査を行った。英語で動作の様態を表す動詞は、通常、自他交替が可能である。このような動詞を造語として準中級の被験者に学習させた。すると、プリエンプションの手がかりが与えられなかったグループには、インプットには提示されなかった誤り(自動詞の他動詞用法、あるいは他動詞の自動詞用法)が頻繁に見受けられたが、プリエンプションの手がかりが与えられたグループには、このような過剰一般化による誤りは多くは観察されなかった。これは、言語分析能力の高い成人の第二言語学習者はプリエンプションによる手がかりを利用することができ、そのため、過剰一般化による誤りを未然に防ぐことができたからだと考えられる。先行研究では、母語から負の転移が起こる場合、ここにプリエンプションの効果は認められないと報告されてきたが、本研究では、母語の影響がない場合は、プリエンプション自体が第二言語習得において効果をもたらすことを示している。

  • 若林 茂則
    2013 年12 巻 p. 81-108
    発行日: 2013年
    公開日: 2017/12/20
    ジャーナル フリー

    2000年前後から、多くの研究が1970年代から80年代にかけて盛んに研究された文法形態素の習得・使用に見られる普遍性、および第二言語学習者の産出における誤りの原因の解明に取り組んでいる。研究者の立場は、大まかに言って、第二言語習得は他の一般的知識の習得と同様、基本的に「刺激の記憶」「習慣形成」に基づくものであり、その文法形態素の「目立ち度」や「頻度」が重要な要因であるという立場(Goldschneider & DeKeyser, 2001ほか)と、第二言語習得も母語習得と同じ知識基盤に基づいており、形態素の使用には学習者が持つ心理的文法知識(中間言語)が大きく関わっていると考える立場(若林,1997ほか)に分けられる。本稿ではまず、第二言語学習者の持つ中間言語 (Selinker, 1972)の心理的実在性を明らかにし、中間言語が他の自然言語と同種の「言語知識」であることを示した上で、6つの研究のデータから、日本人英語学習者の3人称単数現在-sの使用に関する知識基盤とその使用について考察する。その結果、第二言語学習者による文法形態素習得・使用は、記憶などの一般的な要因も一部関わっているものの、中間言語が重要な役割を果たしていることは確かであり、言語学に基づく緻密なデザインに基づく実証的研究が、学習者の知識の解明へのカギとなることが明らかにされる。

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