炭素
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2022 巻, 302 号
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目次
会告
解説
学位論文紹介
  • 丸山 翔平
    2022 年 2022 巻 302 号 p. 80-82
    発行日: 2022/06/30
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル 認証あり

    黒鉛材料は,リチウムイオン電池の負極に広く用いられている。充電時にはリチウムイオンが黒鉛層間へ電気化学的に挿入して黒鉛層間化合物(GIC)を形成し,放電時には層間からリチウムイオンが脱離する。この反応はリチウムの標準酸化還元電位に対して0.25から0.1 V程度と非常に低い電位で進行するため,黒鉛を負極材料として用いることによりリチウムイオン電池は大きな電圧を得ることができる。ところがこの電位では電解液が熱力学的に安定でないため,電池が安定に動作するためには黒鉛負極と電解液との界面にsolid–electrolyte interphase (SEI)と呼ばれる被膜の形成が不可欠であることが知られている。これまで,黒鉛材料へのリチウムイオン挿入脱離に伴う構造の変化や,SEIの組成や形成機構,SEI形成による副反応抑制のメカニズムなどが研究されているが,黒鉛材料の構造との関係については知見が十分であるとはいいがたい。そこで,本論文では,黒鉛構造が発達した炭素材料をリチウムイオン電池の負極に用いた際の電気化学挙動を調べた。溶媒の黒鉛への共挿入挙動とSEI形成による共挿入への影響を調べたほか,1 µm以下の粒径をもつ黒鉛化炭素微小球体(GCNS)などの特徴的な構造を有する炭素材料を用いて,リチウムオン挿入脱離による構造変化や,黒鉛への溶媒とリチウムイオンの共挿入と電解液の分解,SEI形成といった電気化学挙動を調べ,材料が有する構造との関係について考察した。

    本論文は,序論と7章で構成され,第1章および2章を第1部,第3章から6章を第2部,第7章を第3部としている。序論では研究の背景と本論文における研究の概要について述べた。第1部では黒鉛への溶媒とリチウムイオンの共挿入挙動とSEIによる共挿入への影響について述べた。第1章ではジメチルスルホキシド(DMSO)の共挿入による三元系GICの形成と黒鉛層間での分解挙動をその場ラマン分光測定によって調べ,DMSOの共挿入は可逆的に進行するが,層間でDMSOが分解すると黒鉛が破壊されることを明らかにした。第2章では黒鉛表面にSEIを形成した後のジメトキシエタン(DME)の共挿入挙動について調べ,SEIの種類や電解液のSEI修復能の違いによって共挿入を抑制する程度が異なることを明らかにした。第2部ではGCNSのリチウムイオン電池負極としての電気化学挙動について述べた。第3章ではGCNSの負極特性を調べ,優れた高速充放電特性を有することやプロピレンカーボネート(PC)系電解液で可逆的にリチウムイオンの挿入脱離が進行することを明らかにした。第4章ではGCNSのリチウムイオン挿入脱離時の構造変化を粒径や熱処理温度により比較した。その場ラマン分光測定によってGIC形成時のステージ構造変化を調べ,GCNSの高速充放電特性や黒鉛積層規則性との関係について考察した。第5章ではPC系電解液におけるGCNSの挙動について調べ,熱処理温度による構造の違いがPCの共挿入や還元分解による不可逆挙動に関係していることを明らかにした。第6章では第2章と同様の方法によってGCNSへのDMEの共挿入挙動と表面に形成したSEIの効果を調べた。SEI未形成の場合にはGCNSは天然黒鉛よりもわずかにDMEの共挿入開始が遅れ,SEI形成後にはDMEのGCNSへの共挿入はほとんど認められなかった。第3部にあたる第7章では,黒鉛の剥離と熱処理によって作製したナノ炭素繊維のリチウムイオン電池負極としての充放電特性を評価した。剥離後400 °Cで熱処理した試料では天然黒鉛と似た充放電挙動を示し,高速充放電特性も優れていたが,800 °C以上で熱処理すると,低温熱処理炭素と似た充放電挙動となった。本論文を総括すると,溶媒の共挿入とSEIとの関係や,黒鉛材料の構造と電気化学特性や充放電挙動との関係について知見を得た。以下,第2章,第4章,および第5章の内容を紹介する。

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