血液は赤血球,白血球,血小板などの血球成分と血漿成分から構成されており,これらの血球は形態学的にも観察できる骨髄中の前赤芽球,骨髄芽球,巨核芽球などの幼若細胞から分化増殖してくる.しかし,形態学的証明は困難であるものの,さらに幼若な造血系細胞が存在することが近年種々の方法で明らかになり,造血幹細胞(haematopoietic stem cell)と命名されている.造血幹細胞には,すべての血球へ分化し得る能力を持つ,多能性幹細胞(multipotential stem cell)と,ある特定の血球系のみへの分化がすでに約束ずけられているcomitted stem cellとがある.前者はヒトにおいては未だ存在が証明されていないもののマウスではCFUs (colony forming unit in spleen)として確認されており,後者にはヒトでも証明されている,穎粒球系細胞に分化するCFUc (colony forming unit in culture)や,赤芽球へ分化するBFUE (burst forming unit, erythroid), CFUE (colony forming unit, erythroid)などがある.白血病,悪性リンパ腫,ある種の固型癌などに対する化学療法,放射線療法の進歩は目覚しいものがあるが,腫瘍細胞を根絶させるために強力な治療を行なえば随伴する高度の骨髄抑制が生ずるため治療には自ら限界がある.最近,自己の造血幹細胞を予め採取・凍結保存しておいて,治療後の骨髄抑制時に自家骨髄移植を行うことにより,骨髄抑制および腫瘍に因る死から患者を救うことも可能であるとの考えから,造血器系悪性腫瘍を主体とする抗腫瘍療法の新しい試みとして自家骨髄移植法は注目されつつある. そこで,マウス骨髄細胞を用いて,CFUcおよびCFUsの形成能を保存状態の指標として,造血幹細胞の凍結保存操作の基礎的諸条件を検討し,ヒト骨髄細胞の凍結保存への応用を目的に,実験を行った.
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