植物病原細菌の中には培地上で比較的短期間に死滅するものがある.またそれらの性質のなかには継代培養によって変異しやすいものも少なくない.病原細菌にとっては各種の性質のうち病原性(または病原力)が分類学的にも疫学的にも最も重視されているが,これらはむしろ不安定な性質であり,多くの病原細菌の病原力は継代培養の過程でしだいに低下する傾向がある.その低下の程度は種によって異なり,また同一種でも分離株(または系統)によって異なる例示知られている.自然界に分布する各種の病原細菌を系統に分類する場合,通常は安定な性質が指標とされるが,最近,実際面に関係の深い病原性または病原力の差によって系統に分類する試みが活発に行なわれている.病原力の絶対的評価法示確立されていて,しかも分離直後の各菌株を供試すれば正しい結果が得られ,このような変異しやすい性質を指標としても細菌を系統分けすることができる.しかし,一般には多数の菌株の分離蒐集のためには長期間を要し,従来の継代培養保存法では病原力を指標とすることは困難であった.これらの問題を解決する最も一般的な保存法は凍結乾燥であり,現実に広く応用されている.また,バクテリオファージとデロビブリオ(Bdellovibrio)とは自然界において植物病原細菌と特に密接な関係にある.前者は細菌に寄生して増殖するウイルスであり,後者は細菌に寄生して増殖する一種の細菌である.これらはともに寄主細菌に吸着侵入し寄生体内で増殖したのちふたたび外界に放出されるが,その増殖過程でしばしば変異を伴なう.とくにデロビブリオは水または培地中で急速に死滅することが知られている.これらの植物病原細菌に関連した微生物を長期保存するためにも凍結乾燥法は最も安全な方法であり,実際に利用されている.以下,植物病原細菌とその関連微生物の保存法に関する若干の報告を引用しながら,現在筆者の研究室で採用している凍結乾燥法を具体的に紹介したい.
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