微生物株保存機関において,多種,多数の菌株の収集,保存,分譲を行なっていく場合保存方法としては次の点が問題となろう.(1)菌株の形質変化を最低にとゞめて長期間保存せしめる事が可能か.(2)適用し得る微生物の範囲は広いか.(3)操作が簡便であるか,多数の菌株を処理できるか.(4)保存管理が容易であるか.(5)保存菌株の使用や配布に適しているか.これらは保存機関に限らず,いかなるculture collectionにおいても要求され,どの点に長所をもつ方法を採用するかはそのculture、collectionの性格や目的によって決められる.凍結乾燥法は上記(3)以外の点で優れており,微生物の長期保存法として最も汎用されている.これに比較し,凍結保存法は操作が簡便であり,乾燥過程がないので菌株の生存,形質保持に優れているという長所があるが,一方保存温度の管理が容易でなく,配布に不便であるという欠点をもっている.これらの理由で凍結保存法は凍結乾燥不可能な微生物(微細藻類,一部糸状菌,Mycoplasma, Leptopira,海洋起源の細菌等)の保存や,比較的高い温度での簡便な保存方法として用いられている.(病原性細菌,乳酸菌スターターカルチャー).長期保存には一般に凍結保存温度は低い程よい結果が得られるが,液体窒素の使用は設備,温度管理の面で難点がある.著者らは簡便な長期保存法の設定を目的として,259株の細菌を用い,主として(1)実験室にて容易に設置,管理できる程度の比較的高い温度での凍結による長期保存は可能か,(2)どんな種類が凍結保存し難いか,分類群による特性はあるか.等の点について実験を行なったので以下に報告する.
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