果実や野菜(青果物)は収穫後も一個体として生理作用を営んでいる.この生きた食品を品質よく流通,貯蔵,販売,消費するためには,収穫後できるだけ速く低温に管理し,その生理作用を抑制する必要がある.一般に青果物の生理活性は呼吸活性で示すことができ,そのQ_<10>は低温域において高い,このことは青果物の低温流通や低温貯蔵においては,技術的に可能な限り個々の青果物の最高氷結温度に近づけた方が有利であることを示している.しかし,青果物の中には低温に感受性が高く,いわゆる低温障害にかかり易いものがあるので,このことを考慮して低温流通機構(コールドチェーン)を確立せねばならない.低温障害の発生温度と期間は青果物の種類や発達段階(熟度)によってかなり変わることに注意することが必要である.また,青果物の生理活性は植物ホルモンの一つであるエチレンによって影響されるが,青果物の生成するエチレン量が少なくても生理活性の高いものは存在するが,生成量が多いもので生理活性の低いものはほとんどみられないので,生理活性,エチレン生成や作用を抑制されるためにも低温が要求される.このようなことからコールドチェーンにおける予冷は青果物の品質保持において効果が大きいことが認められる.青果物の低温障害は植物生理学の立場からも研究が進められ,低温下における生体膜のリン脂質における不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸の割合に基づく相変化が低温障害の端緒となり障害へ発展するが,極めて初期の段階では障害がかからない温度域に移すことによって障害への発展は抑えられ,青果物は正常な代謝を営むようになる.このような現象は低温処理によって蓄積した障害発生に関与する中間代謝物質が昇温によって正常なレベルまで減少すること,ミトコンドリアにおける呼吸調節率あるいはチトクロムC酸化酵素やリンゴ酸脱水素酵素活性の低下からの回復などから認められている.また,低温障害に伴うミトコンドリア,クロロプラスト内のチラコイド,トノプラストなどにおける細胞内微細構造の変化が電子顕微鏡によって観察されている.このような構造的変化とフェノール物質代謝との関連も推察されている.
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