われわれは,さきに,ヒト赤血球を凍結したばあいの凍結像と融解後の細胞障害(溶血)との関係を,種々の冷却速度や凍害防御物質の添加を試みることによって,いろいろと検討した.その結果によれば,冷却速度10^3℃/min附近を界として,それより緩慢に冷却したものでは,細胞外凍結によって細胞は変形収縮し,それより急速に冷却したものでは細胞内凍結(氷晶形成)をおこすことがみとめられた.このような凍結像を示す試料を急速に融解した後,遊離ヘモグロビン量を測ることによって溶血度をしらべると,細胞外,細胞内のいずれの凍結によっても溶血をおこすことがわかった.さらに,これらの試料に予めグリセリンを加えておいて凍結すると,グリセリンの添加量が増すほど,まず緩慢凍結(10〜10^2℃/min)において溶血が減少し,30%の濃度に達すると急速凍結(10^4〜10^5℃/min)においてもほとんど完全に溶血の阻止されることがみとめられた.このグリセリン添加のばあいの凍結像では,収縮変形,細胞内外氷晶形成のどちらも,グリセリン濃度の増加とともに次第にみられなくなり,細胞はいずれも原形に近い形状を示した.以上は哺乳動物細胞のひとつであるヒト赤血球についての所見であるが,今回は微生物細胞として酵母をとりあげ,同様の実験を試みたので,その結果を述べ,あわせて両者の比較について論じたい.
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