【目的】抗悪性腫瘍剤として位置付けられるメトトレキサート(MTX)は,従来,授乳婦への投与はすべきでないと考えられてきた。しかし,母乳中へ
の分泌量を測定したデータは,1970年代の一例(Johns, 1972)の報告のみである。近年,MTXの投与対象は拡大しつつある。我々は最近,子宮外妊
娠の治療目的でMTXを投与された授乳中の3症例を経験した。
【症例】
〈症例1〉32歳,女性(G3,P2,SA0,TA0,Ectopic1)。6ヶ月児の授乳期間中に7週の子宮外妊娠と診断された。MTX50mg/m2(65mg)が単回投与された。
〈症例2〉25歳,女性(G4,P1,SA2,TA0,Ectopic1)。5ヶ月児の授乳期間中に8週の卵管妊娠と診断された。MTX50mg/m2が単回投与された。
〈症例3〉29歳,女性(G6,P4,SA0,TA0,Ectopic1)。1歳4ヶ月児の授乳期間中に7週の子宮外妊娠と診断された。MTX25mgが単回投与された。
【方法】患者に,搾乳した母乳を家庭で冷凍保存し,外来に持参,もしくは郵送するよう依頼した。症例1では投与翌日に母親から,症例2では投与20
日後に母親と児の双方から採血した。MTXに関し,血中濃度はイムノアッセイ(TDx
TM, Abbott)で,母乳中濃度はイムノアッセイおよびLC-MS/MS
(4000 Q Trap
TM LC/MS/MS System, Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)の双方を用いて,院内で測定した。
【結果】測定されたMTX濃度は以下の通り。( )内の値はMTX投与からの経過時間
〈症例1〉母乳(1,8,12,16,18.5,24時間):検出感度以下,母親の血液(18.5時間):0.12μmol/L
〈症例2〉母乳(64,72,84時間,20日):検出感度以下,母親の血液(20日):検出感度以下/血球数および肝・腎機能に異常なし,児の血液(20日):
検出感度以下/血球数および肝・腎機能に異常なし
〈症例3〉母乳(10,12,22,26,38時間):検出感度以下
【考察】我々が経験した3症例において,50mg/m2までのMTXの単回投与で,母乳中にMTXは検出されなかった。子宮外妊娠に対するMTXの単回投
与では,授乳の中止・中断は必ずしも必要ではないと考えられる。
◎会員外共同研究者:伊藤真也(トロント小児病院臨床薬理学部門教授)
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