日本トキシコロジー学会学術年会
第37回日本トキシコロジー学会学術年会
選択された号の論文の345件中101~150を表示しています
2.オミクス,ナノマテリアル,毒性発現機構,発ガン物質
  • 坂本 義光, 中江 大, 佐藤 かな子, 大橋 則雄, 小縣 昭夫
    セッションID: O-22
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    MWCNTは陰嚢腔内投与によってラットに中皮腫を誘発し,分泌型メソテリンである血清N-ERC/mesothelinレベルが増加するものと 報告した。本研究はMWCNTによるラット中皮腫誘発における用量相関性と投与部位の影響及び中皮細胞非腫瘍性増殖性病変から中皮 腫への進展に伴う血清N-ERC/mesothelinレベルの変動について検討した。
    実験はF344ラット(雄,12週齡)にMWCNT(0.1, 0.3, 1.0 mg/kg体重,各12匹:MWCNT群)・クロシドライト (1mg/kg体重,10匹: Cro群)・2% CMC(5匹:対照群)を陰嚢腔または腹腔内に単回投与し,52週間を目処に飼育した。投与開始後41週目までに,血性腹 水の貯留及び腹腔内の腫瘍結節の発現を伴う死亡又は瀕死例がMWCNT0.1 mg腹腔群で1例,0.3 mg群で4例,1.0 mg群で6例を認め たため,投与後42週間で実験を終了した。MWCNT-腹腔群以外の群では,すべての動物が終了時まで生存した。各群の生存例につい ては血清・腹水N-ERC/mesothelinをELISAキット(IBL,No.27765)を用いて測定した。
    病理組織学的に中皮細胞の肥大,過形成及び中皮腫の発現はMWCNT群のみで認められた。中皮腫はMWCNT-陰嚢群で0.3mg群か ら,MWCNT-腹腔群で0.1mg群から認められ,用量に伴って増加した。中皮腫の進展の程度は,腹腔群が陰嚢群に比べて強かった。 N-ERC/mesothelinレベルは,MWCNT-陰嚢腔及び腹腔群ともに0.1 mg群から用量に比例して増加し,腹腔群では陰嚢群に比べ高 値を示した。Cro群では増加しなかった。MWCNT両群の血清ERC/mesothelinレベルは中皮過形成の発生に伴って増加し,中皮腫の 発生と進展に伴いさらに増加した。
3.生殖毒性,代替法,毒性試験法,安全性評価,モデル動物
  • 古川  賢, 林 清吾, 臼田 浩二, 阿部 正義, 小川 いづみ
    セッションID: O-23
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】抗がん剤の6メルカプトプリン(6-MP)は妊娠ラットに投与することにより,胎盤の迷路層において栄養膜細胞に対してアポトー シス誘発及び細胞増殖抑制,基底層では海綿状栄養膜細胞に対して変性及び壊死を誘発し,小胎盤に至ることをすでに報告した。本発 表では6-MPにより誘発された小胎盤の子宮内胎児発育遅延に対する影響について検討した。【材料及び方法】6-MPはオリーブオイルに 懸濁し,0及び60mg/kgの2用量にて妊娠9,11,13,15日のいずれか1日に腹腔内投与した。妊娠17及び21日に剖検し,胎盤及び胎 児重量を測定した。胎盤はホルマリン固定後,組織病理検査に供試した。【結果】妊娠9日投与では16腹中14腹(GD9 HM群),妊娠11 日投与では28腹中10腹(GD11 HM群)で全胚/胎児が吸収胚であった。さらに,妊娠11日投与では11腹(GD11 MM群)で胚/胎児は一 部吸収胚で,生存胎児は全て子宮内発育遅延を示し,ファコメリアなどの奇形が認められた。一方,7腹(GD11 LM群)では胎児の異 常は認められなかった。妊娠13及び15日投与(GD13群,GD15群)では吸収胚の増加は認められなかったものの,胎児は子宮内発育遅 延を示し,特に,妊娠13日投与では欠指が認められた。胎盤重量はGD11 MM群,GD11 LM群,GD13及びGD15群で有意に減少した。 特に,GD11 LM群では子宮内胎児発育遅延は認められなかったものの,胎盤重量は約25%低下していた。組織学的に上記投与群の胎 盤では迷路層の栄養膜中隔においてグルコーストランスポーター(GLUT3)の発現が亢進し,特に,GD11 LM群ではGLUT3の発現は 顕著で,胎児/胎盤重量比は有意に増加していた。【考察】胎盤重量は約25%低下してもグルコーストランスポターの発現が上昇するな どの代償性反応により,正常な胎児の発育は維持されるものと推察した。
  • 市川 あおい, 杉本 武志, 城塚 康毅, 前田 恵美子, 茶谷 文雄, 松本 清, 川手 憲俊, 玉田 尋道
    セッションID: O-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】妊娠12-14日のCrl:CD(SD)ラットにケトコナゾール(KZ)の25 mg/kg/日を経口投与すると妊娠20日の胎盤重量が増加し,この 増加はエストラジオール-17β(E2)の併用投与で消失する成績を得ている。今回,KZを妊娠12-14日に経口投与して胎盤の病理組織 学的変化並びに血流量を検討した。
    【材料と方法】Crl:CD(SD)ラットにKZの25 mg/kg/日を妊娠12-14日に経口投与して以下の実験を行った。(1)病理組織学的検査:妊 娠14(投与4時間後),16,18及び20日に剖検した胎盤をHE染色して観察した。(2)さらに妊娠14日の投与2,4,8,16及び24時間 後にHE染色,(3)投与8,16及び24時間後に低酸素状態に反応するHypoxyprobeによる免疫染色を行い,投与後の胎盤の状態を観察 した。(4)胎盤血流量測定:妊娠14日の投与0,4,8及び24時間後に胎盤へ流入する母動物の血流量をマイクロスフェア法で測定した。
    【結果及び考察】(1)病理組織学的検査では妊娠18-20日に母胎盤血管腔の拡張が観察された。(2)また,投与2-8時間後には胎盤迷路 部血管腔における母体の血球量が著しく減少する一方,胎児の有核赤血球は増加した。(3)Hypoxyprobeによる免疫組織学的検査では 投与16時間後に胎盤迷路部組織が軽度な陽性像を示した。(4)KZ投与群の胎盤への母体血流量は投与4時間後に対照群の約1/4に低下 した。E2は強力な子宮血管拡張作用を有することが知られており,アロマターゼ阻害作用を有するKZの投与によって母体の血漿中E2 濃度が低下し,子宮血流が抑制されて胎盤が一過性の虚血状態になり,この低酸素状態が胎盤重量の増加を惹起した可能性が考えられ た。
  • 須田 雅一, 坂本 和仁, 山下 浩幸, 山下 ゆかり, 山本 隆, 大島 洋次郎, 洲加本 孝幸
    セッションID: O-25
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    当施設で最近1年間に実施したカニクイザルの反復毒性試験に用いた対照群の精巣(136例)について,組織像から6種のグレードに区分 して精巣の成熟度について調べた。
    グレード1(Immature)では,精細管にはセルトリ細胞と精祖細胞のみであり,管腔は未形成である。このグレードの精巣重量は0.7~ 2.2gであり,年齢は16/24が4歳以下であり,体重もほとんど4kg以下であった。グレード2(Pre-pubertal)では,精細管に円形精子 細胞はみられるものの,全精細管は同様な像であり,精子形成サイクルはみられない。このグレードの精巣重量は1.7~4.0 gであり, 年齢は10/12が4歳以上であるが,体重はほとんど4kg以下であった。グレード3(Onset of puberty)では,Step19の精子細胞がみら れるものの,細胞数は少なく,精巣上体には残渣が多い。精巣重量は3.5~7.6g,4歳以下は12/25例であるが,体重が4kg以下の動物 は約半数であった。グレード4(Pubertal)では精子形成発達がほぼ完了しており,精巣上体に精子は観察される。このグレードの精巣 重量は約8 g以上であり,4歳以下は2/19匹と少なく,体重が4 kg以下の動物も少なかった。精巣毒性評価は可能であるが,1群の全例 がこのグレードとなることは避けたい。グレード5(Early adult)は病理組織学的な精巣毒性評価には十分に適した動物である。このグ レードでは,精巣重量は10.4~20.7 gで,4歳以下が2/34と極めて少なく,体重が4kg以下は6/34と少なかった。グレード6(Adult) は最も成熟した動物であり,精巣上体の精子数も多く射出精子を用いた経時的な精巣毒性評価も可能であると判断する。このグレード では,精巣重量は16.0~33.7gで,22例全例が4歳以上で4kg以上であった。
    まとめ:精巣の病理組織学的成熟度と精巣重量には明確な相関がみられたが,年齢や体重との関連では個体差が大きく,実施する毒性 試験の目的に応じた動物の選別が必要である。
  • 何 小明, 永野 麗子, 赤沼 宏美, 座波 ひろ子, 遠山 千春, 曽根 秀子, 大迫 誠一郎
    セッションID: O-26
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    メチル水銀(MeHg)は,胎生期の神経発達に影響を及ぼすことが知られている。本研究では,MeHg曝露による神経細胞分化への影響を, マウス胚性幹細胞(ES細胞)から神経細胞を誘導する三次元培養法を利用して検討した。MEF上で大量培養したES細胞(B6GFP)をマ イクロデバイス上に播種し,均一な胚葉体(EB)を形成させた。このEBをオルニチン・ラミニンコート上に再び播種し,神経誘導培地 にて神経分化を誘導させた。MeHg(0, 1, 10, 100 nM; 0.01% DMSO)は神経誘導培地に交換後の3日目から12日間曝露した。曝露 後12日目に,RNAを回収,あるいはMAP2の免役染色を施した。リアルタイムPCRによりニューロンマーカーであるMAP2の発現量 を測定したところ,用量依存的発現レベルの減少が確認できた。また,マルチチャンネル画像解析装置による形態解析を行ったところ, MeHg 100 nMの曝露群においては,全細胞数,MAP2陽性細胞数,MAP2陽性のニューロスフィア(NS)の数,神経突起の長さ,神 経突起の分岐点の数すべてにおいて,コントロール群に対して12.3%, 12.5%, 14.7%, 11.6%および16.9%に減少していた。これ らのことよりメチル水銀は,マウスES細胞の神経分化培養系においても,神経細胞増殖及び分化を抑制することが分かった。本研究 で示した我々の独自プロトコールは,神経細胞の発達に及ぼすMeHgの毒性評価において有用であることが示された。
  • 馬場 一信, 谷山 太一, 浦丸 直人, 杉原 数美, 北村 繁幸, 今岡 進
    セッションID: O-27
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    ポリ臭化ジフェニルエーテル(Polybrominated diphenyl ether, PBDE)は,電気製品やカーペットなど我々の生活用品の難燃材とし て幅広く使用されている。また,脂溶性が高く生物蓄積性を有するために,生物濃縮される。そのため,多くの野生動物やヒトの体内 から検出されている。PBDEによる生物への影響に関する報告は少なく,その毒性は弱いとされている。最近,体内のPBDEが代謝さ れ水酸基が付加されることが報告された。今回,Xenopus laevis胚を用いて様々なPBDE誘導体について,発生毒性を検討した。まず, 環境中で多く検出されているBDE-47(2,2’,4,4’-tetrabromodiphenyl ether)やBDE-99(2,2’, 3,4,4’-pentabromodip-henyl ether) を高濃度(40μM)でXenopus胚に暴露したが,特に影響はみられなかった。ところが,これらの生体内代謝物と考えられる水酸化体 では,10μMの暴露でも多くの胚が死亡した。我々の先行研究において,PBDE水酸化体と同様にフェノール構造を有するビスフェノー ルA(BPA)は,20μMを暴露しても致死となるケースはほとんどみられなかった。またPBDE水酸化体暴露で生存した胚では,眼の低 形成や完全欠損がみられた。これはBPAに暴露した場合と同じような表現型であった。眼は神経管(将来の中枢神経組織)の一部から発 生する組織であることから,水酸化PBDEによる神経発生への影響が致死につながることが考えられた。水酸化PBDEの化学構造は, オルト位およびパラ位に水酸基が付加されたものであるが,どちらのPBDEに関しても同程度の死亡率がみられた。これらの結果から, PBDEは体内で水酸化をうけると,発生毒性を示す可能性が推測される。
  • 西川 和範, 山本 智子, 王 碧昭, 竹澤 俊明
    セッションID: O-28
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】コラーゲンビトリゲル薄膜は生体内の結合組織に匹敵する高密度コラーゲン線維で構成されており,細胞の培養担体としての利 用が進んでいる。これまでに,ウサギを用いた眼刺激性試験(ドレイズ試験)の代替法の開発を目指して,正常ウサギ角膜上皮細胞をコ ラーゲンビトリゲル薄膜担体上に多層化培養することで,ウサギ角膜上皮モデルを作製する技術を確立した。本研究では,ヒト角膜上 皮細胞株(HCE-T細胞)とコラーゲンビトリゲル薄膜を用いて,バリア機能を有するヒト角膜上皮モデルを作製する技術の確立を目指 した。さらに,このヒト角膜上皮モデルの有用性を検証するために,眼刺激性の化学物質を暴露して惹起されるバリア機能の変化を測 定した。【方法】HCE-T細胞をコラーゲンビトリゲル薄膜上に播種してコンフルエントになるまで2日間培養した後,液相-気相の界面 培養を施すことで角膜上皮モデルの構築を検討した。角膜上皮モデルのバリア機能の形成は,経上皮電気抵抗(TEER; Transepithelial Electrical Resistance)測定で解析した。この角膜上皮モデルに各種化学物質(NaOH,Ethanol,TWEEN 20等)を暴露し,TEER値 の経時変化を測定した。【結果と考察】HCE-T細胞はコラーゲンビトリゲル薄膜上で良好に増殖し,液相-気相の界面培養では経時的に 多層化分化して,TEER値も上昇した。1週間の界面培養では,5層程度の細胞層からなる角膜上皮モデルが構築できることが分かった。 この角膜上皮モデルを用いた化学物質の曝露試験では,被験物質に応じて異なるTEER値の経時的変化を認めた。この結果は,構築し たヒト角膜上皮細胞モデルのバリア機能の変化を指標として,化学物質の眼刺激性が評価できる可能性を示唆する。
  • 永野 麗子, 何 小明, 赤沼 宏美, 座波 ひろ子, 大迫 誠一郎, 曽根 秀子
    セッションID: O-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    サリドマイドは,母親が妊娠初期に服用すると,四肢の発生異常,顔面異常,心臓や腎臓奇形などの重篤な胎児障害を発生させる代表 薬剤である。その一方で,血管新生阻害作用があるため,2008年から抗がん剤として厚生労動省によって認可された。最近になって, サリドマイドによって犠牲になった子供達の約5%は,高機能自閉症などの精神疾患を併発している事実が明らかになっているが,未 だに具体的なメカニズムについては明らかにされていない。本研究では,マウスおよびヒトES細胞(KhES-3,京大再生研提供)の神経 発生におけるサリドマイドの毒性影響を調べた。3次元培養法としてマイクロデバイス上で形成した胚様体(EB)に100nM および10μ Mのサリドマイドを曝露後,神経細胞へ分化誘導を行い,ニューロスフィア(NS)や神経細胞の形態数値情報をマルチチャンネル細胞 画像解析装置で取得後,マウス及びヒトES細胞のサリドマイドに対する影響の比較検討を行った。その結果,マウスES細胞の場合は NSの直径は大きくなり,MAP2陽性細胞に対するMAP2陽性神経突起の伸張,分岐点,交差点はコントロール群と比較して濃度依存 的に増加傾向が認められた。一方で,ヒトES細胞の場合は,NSの大きさとMAP2陽性ニューロンの伸張には有意な差は認められなかっ たものの,100nMおよび10μM曝露群において分岐点と交差点を増加させる事を明らかにした。これらの統計的数値データを元に, ベイジアンネットワークシステムを基盤として独自に開発したソフトウエアのMulCHEによって確率推論的に解析を行ったところ,マ ウス及びヒトES細胞の神経形成の発達に対する神経毒性影響を反映した形態ネットワーク化に成功した。この新規のシステムは,将 来的に胎児期における化学物質の影響評価の予測モデルやヒトへの外挿問題の向上として応用性があるものと思われる。
  • 安藤 覚, 鈴木 紀之, 斎藤 幸一
    セッションID: O-30
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
     医薬品,農薬等の有用な化学物質を開発する上で,ヒトへの安全性は多くの場合,実験動物を用いたデータにより外挿される。しかし, 近年,実験動物の削減や効率的な製品開発の観点から培養細胞を用いたin vitro試験法(動物実験代替法)の開発が推進されている。一 方,現在これらの試験に使用される培養細胞の多くは癌細胞等の異常細胞であり,ヒトへの精緻な評価には正常なヒト細胞の利用が欠 かせない。ヒトES/iPS細胞は様々な「正常組織細胞に分化する性質」を持つことから,ヒトにおける毒性・薬効評価の精緻化に強力なツー ルにとなると考えられている。
     我々はこれまでに簡便で汎用性の高い発生毒性の代替法試験開発を目指し,NEDOプロジェクトにおいてマウスES細胞を用いた心 臓や脳神経系形成に関する新しい発生毒性試験の代替法試験開発を行ってきた(鈴木ら,第36回日本トキシコロジー学会学術年会他)。 その中で,未分化マウスES細胞が心筋や神経細胞へ分化する過程において発現量の変動が見られる遺伝子群から高精度に発生毒性を 評価可能なマーカー遺伝子を探索し,発生毒性予測マーカー遺伝子群を同定した(特願2008 ‐ 145433号,特願2009 ‐ 125077号)。  今回,ヒトES/iPS細胞を用いた新規発生毒性試験代替法開発を目標とし,マウスES細胞を用いた実験から得られた発生毒性予測マー カー遺伝子(心筋:Hand1,Cmya1など,神経:Map2,Necdin,Reelinなど)について,ヒトES細胞の分化誘導時における遺伝子発 現量変化のパターンをマウスES細胞と比較検討したので,その結果について報告する。さらに,発生毒性陽性を示す化合物がそれら の遺伝子発現に与える影響についても言及したい。
  • 浜田 知久馬
    セッションID: O-31
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    浜田等は薬効・薬理試験でよく用いられる統計手法の現状分析を行なうため,Journal of Pharmacological Sciencesについて,統 計手法の文献調査を行い,統計手法の不適切な使用・記載の典型例を指摘したが,このような試みは毒性研究では,これこまで行わ れていなかった。そこで毒性研究の統計解析法の変遷を調べるため,The Journal of Toxicological Sciencesについて,文献調査を 行い,統計手法とその記述内容の適切性を評価した。このジャーナルのHPでPDFファイル化されている電子ジャーナルから,統計 解析(Statistical Analysis)の節に記載されている統計解析の手法を抽出し,集計した。調査対象の論文数は(1980-1988年 113報), (1993-1997年 107報),(2006-2009年 1月~12月 112報)となった。結果は次のようになった.1)対応のなし・ありのStudent t 検定(t検定)が依然として多く用いられていたが,減少傾向にあり,多重比較,一元配置分散分析(1-way ANOVA)の使用の割合が増 加した。2)多重比較法では,Dunnett法,Steel法が増加した。3)Scheffe法,Newman-Keuls法,Fisher(P)LSD法,Duncan法の不 適切な多重比較法も依然として用いられていた。4)検定の両側・片側の区別,ソフトウエアについては記載されてない場合が多かった。 5)SDがSEより多く用いられていた。6)統計解析の前提条件の予備的解析として,2群の分散比のF検定,多群の等分散正のBartlett検 定が増加した。本発表では,以上の結果から,毒性学雑誌の統計の質を高め,適正化するための方法について考察し,提言を行う。
  • 羽二生 久夫, 松田 佳和, 薄井 雄企, 青木  薫, 清水 政幸, 荻原 伸英, 原 一生, 石垣 範雄, 中村 恒一, 竹内  健司, ...
    セッションID: O-32
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】多層カーボンナノチューブ(MWCNTs)は物性がユニークであることから利用が急速に広がっている。その一方で,MWCNTs は形状がアスベストに類似していることやナノサイズであることから,安全性に関して懸念が持たれているが,未だに結論が得られて いない。その原因の一つとして,合成過程で使われる触媒(主に鉄イオン)等の不純物が生理活性を示していることが考えられる。そこ で加熱精製処理を行い,異なる不純物を含むMWCNTsを用いて,細胞のタンパク質変化をプロテオミクス解析によって評価した。【方 法】U937ヒト単芽球性白血病細胞に各100μg/mlのMWCNTsを4日間暴露し,細胞増殖性や細胞毒性を調べた。4日目の細胞を回収し, その溶解液を2次元電気泳動のサンプルとした。一次元目としてIPGphor3を使って等電点電気泳動した。二次元目にSDS-PAGEを行っ た。泳動後,ゲルはCBBで染色し,PDQuest 2D gel analysisソフトウエアで画像解析した。有意差があり,かつ2倍以上発現量変化 したタンパク質はトリプシン処理し,ペプチドフィンガープリント法でMALDI-TOF-MSを用いてタンパク質を同定した。【結果】いず れのMWCNTsを暴露したU937細胞においても細胞増殖抑制や細胞毒性は認められなかった。この時の細胞をプロテオミクス解析した ところ,変化したタンパク質スポットは鉄イオンが多く含まれているMWCNTsの方が多く,共通するスポット7個を含めて全部で50 スポットであった。このうちの45スポットのタンパク質が同定された。【考察】プロテオミクス解析は,既存の細胞毒性試験では検出で きないMWCNTs濃度で細胞内タンパク質の発現量をすることができた。さらに,不純物(鉄イオン等)の含有量によって反応するタン パク質が異なることも明らかとなった。以上の結果は,プロテオミクス解析の結果をデータベース化することで,評価精度の高い新規 な安全性評価だけでなく,不純物の予測や品質管理が可能となることを示唆している。
  • 田中 敏博
    セッションID: O-33
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】抗悪性腫瘍剤として位置付けられるメトトレキサート(MTX)は,従来,授乳婦への投与はすべきでないと考えられてきた。しかし,母乳中へ の分泌量を測定したデータは,1970年代の一例(Johns, 1972)の報告のみである。近年,MTXの投与対象は拡大しつつある。我々は最近,子宮外妊 娠の治療目的でMTXを投与された授乳中の3症例を経験した。
    【症例】
    〈症例1〉32歳,女性(G3,P2,SA0,TA0,Ectopic1)。6ヶ月児の授乳期間中に7週の子宮外妊娠と診断された。MTX50mg/m2(65mg)が単回投与された。
    〈症例2〉25歳,女性(G4,P1,SA2,TA0,Ectopic1)。5ヶ月児の授乳期間中に8週の卵管妊娠と診断された。MTX50mg/m2が単回投与された。
    〈症例3〉29歳,女性(G6,P4,SA0,TA0,Ectopic1)。1歳4ヶ月児の授乳期間中に7週の子宮外妊娠と診断された。MTX25mgが単回投与された。
    【方法】患者に,搾乳した母乳を家庭で冷凍保存し,外来に持参,もしくは郵送するよう依頼した。症例1では投与翌日に母親から,症例2では投与20 日後に母親と児の双方から採血した。MTXに関し,血中濃度はイムノアッセイ(TDxTM, Abbott)で,母乳中濃度はイムノアッセイおよびLC-MS/MS (4000 Q TrapTM LC/MS/MS System, Applied Biosystems/MDS Analytical Technologies)の双方を用いて,院内で測定した。
    【結果】測定されたMTX濃度は以下の通り。( )内の値はMTX投与からの経過時間
    〈症例1〉母乳(1,8,12,16,18.5,24時間):検出感度以下,母親の血液(18.5時間):0.12μmol/L
    〈症例2〉母乳(64,72,84時間,20日):検出感度以下,母親の血液(20日):検出感度以下/血球数および肝・腎機能に異常なし,児の血液(20日): 検出感度以下/血球数および肝・腎機能に異常なし
    〈症例3〉母乳(10,12,22,26,38時間):検出感度以下
    【考察】我々が経験した3症例において,50mg/m2までのMTXの単回投与で,母乳中にMTXは検出されなかった。子宮外妊娠に対するMTXの単回投 与では,授乳の中止・中断は必ずしも必要ではないと考えられる。
    ◎会員外共同研究者:伊藤真也(トロント小児病院臨床薬理学部門教授)
  • チョウ ヨンマン, 今井 俊夫, 高見 成昭, 豊田 武士, 小川 久美子, 西川 秋佳
    セッションID: O-34
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】セイヨウワサビ抽出物(Horseradish-extract:HRE)はアブラナ科セイヨウワサビの根を粉砕後,水蒸気蒸留で抽出して得られる 食品添加物で,主成分はアリルイソチオシアネート(AITC)である。HREをラットに2週間(高用量0.1%)および13週間(高用量0.05%) 給水瓶による飲水投与を行った結果,膀胱移行上皮に単純性過形成およびPN過形成が認められた。しかし,給水タンクからノズルを 通した飲水投与を行った慢性毒性・がん原性試験(高用量0.04%)では明らかな増殖性病変を示さなかった。今回は給水瓶による飲水 投与でがん原性試験及び二段階発がん性試験を行った。【方法】各群32匹の6週齢雄F344ラットにHREを0.001および0.04%の濃度 で104週間給水瓶投与(週6回交換)し,病理組織学的検査を行った。また,各群30匹の6週齢雄F344ラットに0.05%のN-butyl-N-(4- hydroxybutyl)nitrosamineの4週間飲水投与によるイニシエーション後,HREを同じ濃度で13週及び32週間飲水投与し,病理組織学 的検査を行った。【結果】104週間の発がん試験では膀胱においてHRE投与による増殖性及び腫瘍性病変の発生率の増加は認められな かった。しかし,二段階発がん性試験においてはHRE投与開始13週後,PN過形成はHRE投与全群で(p<0.001),乳頭腫は0.01及び 0.04%群で(p<0.05,0.001),移行上皮癌は0.04%で(p<0.01)各々有意に発生頻度が増加した。また,32週剖検群では,PN過形 成は0.04%群で(p<0.05),乳頭腫及び移行上皮癌は0.01及び0.04%群で(p<0.05,0.01)各々有意に発生頻度が増加した。【結論】 ラット膀胱発がんにおいて飲水投与の方法に関わらずHREは単独では発がん性は示さないものの,発がん促進作用を有すると考えられ た。
  • 田中 直子, 畑 優, 室田 知美, 早場 純子, 麻生 良平, 岩本 優美, 萩原 仁美, 張替 貴志, 西田 仁, 坂本 健太, 野崎 ...
    セッションID: O-35
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】重度免疫不全マウスのNOD/Shi-scid, IL-2Rγnullマウス(以下,NOGマウス®)は,従来の免疫不全マウスよりも多様なヒト細胞 を生着・分化・増殖させることができるため,再生医療品のin vivo での有効性・安全性評価における有用性が期待されている。しか し,実際にGLP基準下で再生医療品の安全性試験に,このマウスを用いた例はない。今回,我々は,GLP基準下でヒト由来の骨格筋芽 細胞シートの全身毒性試験を実施し,その有用性について検討した。【方法】骨格筋芽細胞シートを雌雄のNOGマウス®の心臓表面に移 植し,医薬品毒性試験法ガイドラインを参考に,その毒性発現について評価した。対照群は,シャムオペレーション群とした。移植後 は一般状態観察と体重測定を行い,およそ1箇月後に剖検を実施し,血液検査,器官重量測定および病理検査を行った。【結果】移植後 は手術の侵襲による一過性の体重減少が認められたが,いずれの検査においても,骨格筋芽細胞シート移植群特有の変化や毒性学的意 義のある変化は認められなかった。また,GLP基準下で本試験を遂行することができた。【考察】GLP基準下で,再生医療品の安全性試 験にNOGマウス®を用いることが可能であった。今後,このような製品の安全性評価においてNOGマウス®は有用であると考えられる。 このマウスに骨格筋芽細胞シートを臨床適用部位である心臓表面に移植したが,毒性学的意義のある変化は検出されなかったことから, ヒト骨格筋芽細胞の臨床使用時に重篤な全身毒性が発現するリスクはないと考えられた。なお,NOGマウス®は(財)実験動物中央研究 所との共同研究により入手したものである。
  • 西村 有平, 今 鉄男, 渡邉 耕平, 野本 毅, 新藤 太一, 岡 岳彦, 梅本 紀子, 島田 康人, 黒柳 淳哉, 西村 訓弘, 宮崎 ...
    セッションID: O-36
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    現在臨床で使用されている治療薬や,新規に開発される薬物の中に,網膜毒性を有するものが存在することが知られている。例えば 1993年から2006年までに開発が中止された薬物のうち,7%の薬物が網膜毒性を有していることが報告されている。製薬会社におけ る網膜毒性試験は,医薬品開発の後期段階に少数の大動物を用いて行われることが多い。この段階で開発が中止されることは,製薬会 社にとり大きな損害であるだけでなく,人類が必要とする他の新規薬物の開発経費の圧迫にもつながりかねない。これらの状況から, 薬物の網膜毒性スクリーニングを簡便,高速かつ安価に行うことができるモデル動物の重要性が示唆される。
    小型魚類であるゼブラフィッシュは,多産で飼育が容易なため,低コストで多数の個体を得ることができる。また,ゼブラフィッシュは, ヒトと極めて類似した網膜構造を有しているだけでなく,経皮吸収が活発であるため,飼育水に投与された薬物は容易に体内に吸収さ れる。このような特徴を有するゼブラフィッシュを用いた網膜細胞毒性スクリーニングの有用性を明らかにしたので報告する。
    従来のゼブラフィッシュ網膜の形態学的評価は,切片の免疫組織染色を用いて行われてきた。この方法は感度と特異性の点で優れてい るが,時間がかかるため高速スクリーニングには適していない。我々は,ゼブラフィッシュの網膜細胞を,生きたまま非侵襲的に観察 可能にする蛍光色素を見出した。この蛍光色素を用いて,ヒトの鞭虫感染症治療薬であるメベンダゾールの網膜細胞毒性を可視化する ことに成功した。さらに,DNAマイクロアレイを用いたゲノムワイドな遺伝子発現解析により,メベンダゾールの網膜細胞毒性の分子 機構解明を試みた。本研究はNEDO(網膜疾患の蛍光画像診断を実現する蛍光染料プローブの実用化研究)からの支援を受けている。
  • 井上 達, 尹 秉一, 関田 清司, 菅野 純, 藤井 義明, 平林 容子
    セッションID: O-37
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    ベンゼン誘発造血毒性は,アリールハイドロカーボン受容体(AhR)由来の障害によってもたらされ,従ってAhR遺伝子欠失マウスでは 観察されない。定常状態の造血組織では,AhRの発現は造血前駆細胞に限局しており,ベンゼン曝露後の障害も造血幹・前駆細胞から 分化型血球に向かって階層的に波及するものと想定される。これまでの骨髄特異的AhRに制御されるベンゼン代謝の予備的検討に引き 続き,野生型被照射マウスへのAhR-KO骨髄細胞の移植と,AhR-KO被照射マウスへの野生型骨髄細胞の移植の双方向の実験が終了し たので,結果を報告する。即ち,ベンゼン150 mg/b.w. Kgを1日1回,週5日を2クール,強制経口投与すると,野生型で観察される造 血前駆細胞(CFU-GM)数の減少は,AhR-KOマウスやAhR-KO骨髄で再建した野生型マウスではほぼ完全に消去されるが,野生型骨髄 で再建したAhR-KOマウスでは,野生型骨髄で再建した野生型マウスと障害に差異を認めなかった(CFU-GM数のベンゼン非投与群に 対する減少率;野生型骨髄再建野生型マウス,77.3%:野生型骨髄再建AhR-KOマウス73.6%)。尚,末梢の分化型白血球数について は,AhR-KO骨髄再建野生型マウスでは,野生型骨髄再建野生型マウスと同様の減少が見られたが,野生型骨髄再建AhR-KOマウスでは, この減少もより緩和された。更に,被照射AhR-KOマウスに野生型骨髄で再建するとベンゼンの造血障害が再現したが,分化型白血球 数については障害は緩和されたままだった。従って,ベンゼンの前駆細胞レベルでの造血障害は,1)受容体原性で,一般に極めて低用 量までその障害性が認められ,骨髄局所で発生する酸化的ストレスなどに起因した細胞周期抑制が関与したものと考えられる。尚,こ の結果は,肝のAhRによる代謝酵素系を介した骨髄造血障害を否定する。他方,2)循環血流中の末梢血では,肝などにおけるベンゼン 代謝物に依存的な化学毒性が関与し,何らかの閾値も想定される。
  • 永岡 真, Zaher RADI, 堅田 亜由, 長倉 泰典, 多治見 政臣, 市川 克臣
    セッションID: O-38
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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     炎症性腸疾患(IBD)は消化管に原因不明の炎症をおこす慢性疾患で,その病変部位および病理組織学的特徴からクローン病(CD)と 潰瘍性大腸炎(UC)に大別される。CDおよびUCでは関与するサイトカンが異なり,それぞれTh1およびTh2タイプであることが知ら れているが,それらの発症機序の全貌はいまだ明らかではない。
     CD4+CD45RBhighCD25-細胞を重症複合免疫不全(SCID)マウスに移植すると,ヒトCDの病態に類似した自然発症性の慢性大腸炎が 発症する。本研究では,CD4+CD45RBhighCD25-細胞をC.B-17 SCIDマウスに移植してSCID大腸炎を発症させ,IBD治療薬の薬効評 価を通じて,その病態を解析した。
     9週齢のBALB/cマウス(雌)の脾臓および腸間膜リンパ節から回収したCD4+CD45RBhighCD25-細胞を,9週齢のC.B-17 SCIDマウス (雌)に移植後4週間飼育し,大腸炎を発症させた。発症後,IBD治療薬である5-アミノサリチル酸,プレドニゾロン,抗マウスTNFα 抗体を,経口,腹腔内または静脈内投与した。体重を毎日測定し,剖検後には大腸の重量対長さ比,脾臓重量,大腸での炎症レベルお よび大腸組織中の各種サイトカイン(IL-1β,IL-12p40,IFNγ,TNFα)レベルを測定した。その結果,CD4+CD45RBhighCD25-細胞 を移植したC.B-17 SCIDマウスでは,体重の有意な減少ならびに大腸の重量対長さ比,脾臓重量,大腸での炎症レベルおよび各種サ イトカインレベルの有意な上昇が再現性良く認められ,ヒトCDの病態に類似した大腸炎が生じたことが示された。また,プレドニゾ ロンおよび抗マウスTNFα抗体投与によりこれらの病態の改善傾向が認められ,本モデルがヒトCD病態を外挿できる動物モデルとし て有用であることが示唆された。
4.循環器,呼吸器,脳神経,金属,医薬品・環境汚染物質
  • 津村 義和, 川端 貫太, 飯塚 宏美, 橋本 敬太郎, 大保 真由美, 直 弘
    セッションID: O-39
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    心室の再分極過程は心電図上ではQT間隔に相当し,薬剤誘発性のQT間隔の延長は致死性の心室頻拍(TdP)の要因の一つと考えられて いる。安全性薬理試験での活動電位試験では,心室の再分極過程である活動電位持続時間(APD)を測定している。従来,活動電位試験は, 扱いやすさに優れており,且つ背景データも豊富なモルモットの摘出乳頭筋を用いることが多い。また,生体由来の組織を用いるため, 心室の再分極過程に必要な全てのチャネルが存在し,薬剤のNa,Ca,Kの各イオンチャネルに対しての作用を推測することが可能で ある。しかし,薬物誘発のQT延長に関して,モルモット(GP)-ヒト間での種差により反応性が異なる可能性は十分考えられる。そこで, ヒトにより近縁なカニクイザル(CM)の乳頭筋を用いて活動電位波形を取得し,更にCM-GP間での薬物に対するAPD延長作用の反応 性を比較することを試みた。
    方法:CMの右心室より摘出した乳頭筋を灌流槽内に固定し,その後,灌流槽下部に固定した刺激電極で乳頭筋を電気刺激した。その後, 微小ガラス電極を用いて乳頭筋細胞内に刺入し,活動電位波形を取得した。測定時の温度は37℃,刺激頻度は1Hzを基本とした。また, 薬剤の適用時間は30分間とした。
    結果:CM乳頭筋の活動電位波形はGPに比べAPDが長く,温度・刺激頻度の変化に対しての応答性も得られた。また,Kチャネル阻害 作用を持つ薬剤であるSotalo(l 30μmol/L)およびE-4031(0.1μmol/L)の適用により,CM乳頭筋ではGP以上のAPDの延長作用がみ られた。
    考察:GP-CM種差により薬物に対する感受性が異なることが示唆された。今後,Na,Caチャネル等に対する反応性を比較・検討する ことでヒトに近縁なCM乳頭筋を用いて薬剤の安全性を評価できると考えられた。
  • 秋江 靖樹, 斉藤 裕之, 永山 幸利, 楯 美樹, 岡田 啓
    セッションID: O-40
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】マイクロミニピッグ(MMP)は株式会社富士マイクラが開発した実験用ミニブタで,従来のミニブタ(25~50kg)に比べて小型(7 ~10kg)で取り扱いが容易なことから,これまでミニブタを用いて実施されてきた経皮投与試験,循環器,血中動態試験等を始めとして, さまざまな薬効及び安全性評価に用いられることが期待されている。今回,我々は,MMPを用いてハロセン麻酔による薬物性QT延 長評価を試みたので報告する。
    【方法】6ヶ月齢以上の雄性MMP5匹について,吸入麻酔を施し,大腿動脈に留置したカテーテルより収縮期血圧,拡張期血圧を計測し, 平均血圧を算出した。また,四肢に電極を装着し,動物用心電図解析装置(6000AX-D)を用いて,双極肢誘導(I,II,III)及び増高単極 肢誘導(aVR,aVL,aVF)を記録した。測定は心拍数,QRS幅,PR及びQT間隔,QTC値について行った。また,胸部にシール電極を 装着し,ホルター心電計(QR2100型)で不整脈の発生を記録した。心拍数及び血圧が安定したことを確認した後,dl-sotalolを10分間 で静脈内投与し,その後,30分間計測を行った。
    【結果及び結論】MMPはサル及びイヌの吸入麻酔モデルと同様に,薬物性QT延長作用を検出することが可能であった。また,吸入麻酔 により覚醒時と比べて20%以上のQT間隔の延長を示したことから,サル及びイヌのモデルと比べて,MMPは薬物性QT延長作用に高 い感受性を示す可能性が示唆された。
  • 富田 正文, 奥山 敏子, 渡辺 洋子, 日高 和夫, 伏見 滋子, 勝山 博信
    セッションID: O-41
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    一般に覚せい剤は強いストレスのもとで使用されることが多く,その作用にストレスの影響を考慮する必要があると思われる。そこで, 覚醒剤メタンフェタミン(MA)の心筋に及ぼす急性中毒作用に焦点をあて,ストレスの影響を検討した。
    【材料と方法】実験には雄性C57BL/6Jマウスを用い,ストレスは水浸拘束ストレス(WRS)で検討した。MAはWRS直前に30 mg/kgを1 回腹腔内投与した。マウスを24℃の水槽に拘束し,一定時間後に血液と心筋を採取した。心筋の一部はホモジナイズ後,15,000 rpm の遠心上清をHsp70測定の試料とした。一方,心筋から常法にしたがってRNAを抽出した。遺伝子発現はHsp 70, 60, 90, HO-1につ いてreal-time PCRで比較検討した。心筋中のHsp70および血中のTroponin I, H-FABPはELISAで定量した。
    【結果と考察】心筋障害マーカーとして,血中Troponin IおよびH-FABPを測定した。Troponin IはMA単独群では,3hで個体差が大 きく高値を示す個体もあったが,6hでnormal値にもどった。他方MA+WRS群での値は経時的に上昇した。H-FABPは1h, 3h, 6hに おいてMA単独群に比べ,MA+WRS群で高値を示した。次に,心筋でのHsp70遺伝子発現を検討した結果,MA単独群の1hおよび3h において高値が得られた。とくに3hでは個体差が大であったが,この個体レベルはTroponin Iでの個体レベルとよく一致した。また HO-1, Hsp60, Hsp90の遺伝子発現についても同様の結果であった。WRS, 3hにおける心筋でのHsp70のタンパク量を測定した結果, MA単独群で高値が得られた。以上,MAの心筋に対する作用は強いストレスによって大きな影響を受けることが示唆された。すなわち, WRS(-)MA群の心筋では,防御機構としてのHspsの発現が促進されるが,WRS(+)MA群では,その発現がほとんどみられず,障害 が惹起されることが示唆された。
  • 河本 光祐, 佐藤 至, 吉田 緑, 津田 修治
    セッションID: O-42
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】近年,空気中のウィルスや細菌を不活化する機能をもった空気清浄機が多数市販されている。このような空気清浄機の多くはスー パーオキサイドやヒドロキシラジカルを放出することによってその機能を発揮するが,これらの活性酸素は生物にとって有害であるた め,暴露条件によっては人体に害を及ぼすおそれがないとは言いきれない。そこで本研究では,A,B,C,3社の空気清浄機について, その安全性を検討した。
    【方法】実験動物は8週齢のICR系の雄マウスを1群5匹として用いた。AとBについては空気清浄機の出口にビニール製のダクトを付け, その中で暴露した。Cはファンを装備していないため,45cm角のインキュベーター内で暴露した。16時間または48時間暴露後に肺を 採取し,DNA損傷(Comet法)を中心に肺への影響を検討した。
    【結果】48時間暴露ではAとBで,16時間暴露ではBで有意なDNA損傷が確認された。CではDNA損傷は認められなかった。
    【結語】メーカーでは遺伝毒性を含む各種の試験によって製品の安全性を確認している旨公表しているが,機種および暴露条件によって は肺に障害を与える可能性が確認された。当日は病理組織学的所見等とあわせて考察する予定である。
  • 吉田 緑, 河部 真弓, 古川 文夫, 井上 薫, 高橋 美和, 広瀬 明彦, 西川 秋佳
    セッションID: O-43
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    ナノサイズの酸化チタンは化粧品,塗料,トナー等に使用されているが,粒径等の大きさから人への健康影響が懸念されている。我々 は,酸化チタンを経気道的に単回曝露し,肺における形態学的変化を経時的に検索した。また,エネルギー分散形X線分光器(EDS)を 用いてチタンの細胞内局在を追跡した。6週齢SD雄ラットに,超音波により生理食塩水中に分散した0.05から0.5%の酸化チタンを気 管内単回投与し,投与後直後(投与0日)から投与後28日まで経時的に病理組織学的に検索した。その結果,全ての投与群で投与直後よ り肺に形態学的変化が認められた。まず全ての投与群で,黒褐色色素が肺胞腔内,肺胞壁あるいは気管支腔内に認められ,投与初期で は細胞外にも存在していたが,投与初期より肺胞マクロファージへ貪食される像が観察された。黒褐色色素は用量依存性の増加を示し, 28日では色素を貪食したマクロファージが肺内で集蔟する傾向が認められた。炎症も全ての投与群で投与1日から急性期の変化が認め られ,時間の経過とともに肉芽腫性炎症やリンパ球系細胞集簇等の慢性炎症像が認められた。炎症も用量依存性に増悪化し,28日まで 観察された。電顕的に,投与群の肺胞マクロファージのライソゾーム内には直径100nm前後から約1umまでの電子密度の高い種々の 大きさの凝集塊が観察され,一部の_II_型肺胞上皮様の細胞質にも認められた。EDS解析ではこれらの物質の部位に一致してチタンお よび酸素原子が検出された。投与0日には,肺胞腔内など細胞外にも直径数umのチタンが認められた。BALTに,ごく軽度な色素沈着 やマクロファージ集蔟が散見されたが,脾臓等その他の臓器に同様の色素は観察されなかった。これらの結果から,今回の条件下では 投与した酸化チタンは肺胞マクロファージを主として速やかに取り込まれ炎症性変化を引き起こすが,大部分は肺に留まっている可能 性が示唆された。
  • 小林 康子, 武藤 朋子, 本橋 昌也, 石田 憲太, 今井 海, 和久井 信
    セッションID: O-44
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】Perfluorooctane sulfonate(PFOS)は過去,防汚剤・殺虫剤等として工業製品や家庭用品に多用されてきた有機フッ素化合物 である。PFOSは残留性が高く現在でもヒトおよび多種の野生動物から検出されていることから,PFOS汚染現象は世界的規模で起こっ ていると考えられている。PFOSは生体に吸収され易いも排出され難く,その半減期は長いことが知られている。また実験動物におけ る胎生期PFOSの高用量暴露で,次世代の死亡や奇形さらに出生直後の肺胞拡張不全等が起こることが報告されている。今回我々は低 用量PFOS胎生期暴露ラットにおける,肺組織の経時的発達変化についての検討を行った。【材料と方法】SD(slc)ラットに対し1mg/kg PFOS, 0.5mg/kg PFOSまたは溶媒を,妊娠6-15日に胃内強制投与を行った。得られた次世代雌雄ラットを対象として,出生時から 16週齢まで経時的に剖検し肺組織の検討を行った。【結果】出生時の相対肺重量は,対照群と比較して雌のPFOS 1mg群で減少を示した。 さらに3週齢の相対肺重量は,雌雄共にPFOS用量依存的な増加を示した。肺の病理組織学的検討から4日齢のPFOS群では軽度の肺胞 拡張不全が認められたが3週齢では認められなかった。また7週齢および10週齢のPFOS群では微小炎症病変が散見された。さらに16 週齢のPFOS群ではII型肺胞上皮細胞の過形成が認められた。【結語】胎生期PFOS暴露ラットは出生時・4日齢で肺組織の発達遅延を示 し,さらに成長に伴うII型肺胞上皮細胞の過形成を示すことが認められた。
  • 首藤 康文, はい島 淳子, 藤江 秀彰, 小松 豊, 山口 悟, 大塚 亮一, 武田 眞記夫, 原田 孝則
    セッションID: O-45
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】演者らは第35回本学会において,若齢雄ラットに有機塩素系農薬(DDT)を反復暴露すると,0.06 mg/kg/dayの用量群で視床下 部における発現遺伝子ならびにDNAのメチル化が変化することを示した。今回は,離乳前の2週齢からDDTを1週間反復投与し,海馬 における遺伝子発現ならびに酸化ストレスの変化を検索した。【方法】媒体としてコーン油を用い2週齢のWistar系雌雄ラットにDDTを 0および0.06 mg/kg/dayの用量で7日間反復強制経口投与した。脳から海馬を採取し,過酸化脂質および発現遺伝子の解析に用いた。 【結果】雄の海馬では過酸化脂質がDDT投与群で対照群に比べ有意に減少し,雌においても有意差はみられなかったが減少傾向が認めら れた。雄の遺伝子発現に関しては,DDT投与群でメチル化関連因子であるDNA methyltransferase(Dnmt)1,Dnmt3a,poly(ADPribose) polymerase 1(Parp1)およびCCCTC-binding factor(Ctcf),酸化ストレス関連因子であるperoxiredoxin 2(Prdx2),スト レス作動性転写因子であるJunbが有意に減少した。雌の遺伝子発現に関しては,DDT投与群で熱ショック蛋白であるHsp90および heat shock protein(Hsp)70,メチル化DNA結合因子であるmethyl CpG binding protein 2(MecP2)が有意に減少した。また,雌 雄ともにDnmt1の発現量はDnmt3aの1/4程度であった。【考察】低用量DDTの幼若期暴露により低酸化ストレス状態が海馬に誘発され ることが示された。また,Dnmt1の発現量はDnmt3aの1/4程度であったことから,雌雄ともに3週齢の海馬ではメチル化が新規に形 成されている可能性が示唆された。雄では,Dnmt1がAP-1結合配列を,また,Dnmt3aがCRE-BP配列を持っていることから,低酸 化ストレスによりメチル化機構が抑制され低メチル化状態にある可能性が示唆された。雌では,ERエストロゲン受容体制御に関与す るHsp90が減少していたことからERとMecP2の関連性が示唆された。現在,ChIP法によりMecP2の結合性ならびにMecP2配列にお けるERの結合性を検索中である。
  • 種村 健太郎, 五十嵐 勝秀, 松上 稔子, 相崎 健一, 北嶋 聡, 菅野 純
    セッションID: O-46
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
     個体の胎生期~幼若期は脳の発生期~発達期に相当し,その基本構造と共に,神経伝達物質とその受容体を介した神経シグナルによ り神経回路が形成される時期である。従って,この時期の神経作動性化学物質の暴露による神経シグナルかく乱は,異常な神経回路形 成を誘発し,それが成熟後の異常行動として顕在化する蓋然性がある。しかしながら,従来の成熟動物を主対象とした神経行動毒性試 験では,その様な遅発性の異常を検出し難い。そこで,我々は暴露タイミング,情動・認知行動解析,及び神経科学的物証の収集の最 適化により,遅発性中枢神経毒性の発現メカニズム解析と効率的な検出システムの構築を進めている。今回,アミノ酸系神経伝達物質 受容体シグナルをかく乱するイボテン酸(テングダケ毒成分)の結果を報告する。
     胎生期(胎生14.5日齢),幼若期(生後2週齢),及び成熟期(生後11週齢)のマウスに対して,イボテン酸(1mg/kg)を単回強制経口投 与(胎生期は母獣投与による経胎盤暴露)した。いずれの群にも,一般状態の異常を認めなかったが,生後12~13週齢時の行動解析に おいて,幼若期投与群に,オープンフィールド試験と明暗往来試験における不安関連行動の逸脱,条件付け学習記憶試験における音 連想記憶能の低下,プレパルス驚愕反応抑制試験における顕著な抑制不全が認められた。投与後2,4,8及び24時間における,海馬 のPercellome法による網羅的遺伝子発現解析の結果,幼若期投与群では,神経系発達において重要な役割を演じるGnRHシグナルや CRHシグナル及びEph受容体シグナルへの影響が,成熟期投与群と比べて極めて大きいことが明らかとなった。これらは幼若期の海馬 の感受性がイボテン酸に対して高いことを示し,また,そのプロファイルは成熟後の遅発性の中枢神経行動毒性発現の分子メカニズム 解明の端緒となる情報をもたらすと考えられた。
  • 石井 敦子, 田中 佐知子, 大滝 博和, 塩田 清二, 沼澤 聡, 吉田 武美
    セッションID: O-47
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】パーキンソン病(PD)はドパミン神経の進行性変性と振戦,筋固縮,動作緩慢のような運動機能を伴う神経変性疾患である。PD の神経変性メカニズムは未だ解明されていないが,その進行過程においては炎症性変化と酸化ストレスが大きく関与すると考えられて いる。グラム陰性菌桿菌の細胞外膜を構成するリポ多糖で,大腸菌の内毒素として知られているlipopolysaccharide(LPS)は免疫細胞 刺激物質であり,中枢においては免疫担当細胞であるミクログリアが応答する細胞として知られている。そこで,本研究はマウス黒質 内にLPSを投与することで炎症性変化を惹起させ,PD動物を作製することを試み,その神経変性機序について検討を行った。【方法】 BALB/c雄性マウスに中脳黒質網様体内へのカテーテル留置手術を施し,7日間の回復期間の後,PBSに溶解したLPS(5 μg/2 μl)と対 照群には2 μlのPBSを単回または5日間連続投与した。運動機能の評価にはローターロッド試験と自発運動量について検討を行った。 免疫組織化学的検討には,tyrosine hydroxylase(TH),CD11b,IL-1β,4-hydroxynonena(l 4-HNE)の抗体などを用いて観察した。 またSYBR Greenを用いたリアルタイムRT-PCRからheme oxygenase-1(HO-1),THなどのmRNA発現量を測定した。【結果及び考察】 IL-1β抗体陽性細胞はLPS単回投与6時間後に明らかな増加を示し,これらの細胞はCD11b抗体陽性細胞と一致していた。またLPS 5 日間連続投与すると,ミクログリアは突起を殆ど持たないアメボイド型に変化し,活性化していることがわかった。Fluoro-JadeBを 用いTH陽性細胞死を観察したところ,投与直後の時点では全く見られなかった。しかし,ローターロッド試験ではLPS 連続投与マウ スに明らかな運動失調が認められた。これらの結果は,LPS投与により神経細胞死には至っていないが,何らかの炎症性変化を伴った 神経機能不全が生じていることを示唆している。このことは,神経細胞死を伴わない行動低下の観点からPD病態モデルマウスの一種 と考えられる。
  • 新開 泰弘, 山本 千夏, 鍜冶 利幸, 熊谷 嘉人
    セッションID: O-48
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】転写因子Nrf1はN結合型糖鎖が付加した糖タンパク質であり,糖鎖修飾型は小胞体膜に,脱糖鎖型は核に局在している。しか し,その制御機構および重金属に対する防御的機能は明らかになっていない。一方,環境汚染重金属であるカドミウム(Cd)は動物実 験や疫学的調査から,動脈硬化や高血圧などの血管病変誘発因子であることが知られている。そこで本研究では,血管内皮細胞におけ るCdの毒性発現に対するNrf1の防御的役割およびその分子機構の解明を目的とした。【方法】細胞:ウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC) を用いた。Nrf1のノックダウン:全長Nrf1を標的とするsiRNAを設計・導入した。mRNAの発現:リアルタイムPCR法にて測定した。 タンパク質の発現:ウエスタンブロット法を用いた。細胞内Cd蓄積量:ICP-MSで測定した。細胞毒性:MTT法やLDH法,形態学的 観察により評価した。【結果および考察】BAECにおいて,SDS-PAGE上にて約150 kDaの糖鎖結合型Nrf1の発現が観察された。そこ でRNA干渉によりNrf1をノックダウンしたところ,Cdの細胞毒性は有意に増強された。同条件下において,細胞内Cd蓄積量に変化は 見られなかったが,NAD(P)H:キノン酸化還元酵素1やペルオキシレドキシン1などのARE下流の遺伝子産物の発現誘導レベルが減少 していた。次にカドミウムに対するNrf1の応答について検討したところ,興味深いことにカドミウムの曝露により約110 kDaの脱糖 鎖型Nrf1の発現量が濃度依存的に顕著に増加していた。加えて,そのほとんどが核に蓄積していた。このとき,Nrf1のmRNAの発現 誘導は見られなかったことから,カドミウムによりNrf1タンパク質の分解が抑制されている可能性が考えられた。そこでカドミウム曝 露によるNrf1タンパク質の安定性の変化を検討したところ,糖鎖結合型Nrf1の半減期に変化は見られなかったが,脱糖鎖型Nrf1の分 解半減期がカドミウムの曝露により増長していた。このことから,Nrf1はカドミウムの曝露により,脱糖鎖型が安定化を受けて核に蓄 積するストレス応答の転写因子であることが示唆された。本研究により,血管内皮細胞において,Nrf1はカドミウムに対する毒性防御 の細胞応答システムを担っていることが明らかとなった。
  • 木村 朋紀, 奥村 文香, 小野寺 章, 中西 剛, 伊藤 徳夫, 磯部 正和
    セッションID: O-49
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】重金属結合タンパク質,メタロチオネイン(MT)は,亜鉛やカドミウムなどの重金属により誘導されるが,発がん性を有する6 価クロムはMT誘導を阻害する。MTの重金属による転写活性化に必須の転写因子,metal response element-binding transcription factor-1(MTF-1)が,発がんに対して抑制的な作用を有することをいくつかの研究グループが示しており,6価クロムによる発がんの 一部は,MT発現の抑制によるものであることが予想される。我々は,MTF-1が亜鉛依存的に転写共役因子p300と複合体を形成し, この複合体形成がMT誘導において重要な役割を果たしていること,さらに,6価クロムがこの複合体形成を阻害することを明らかにし てきた。これらの知見をもとに,6価クロムによるMT誘導阻害機構の詳細を解明するための実験を行った。
    【結果および考察】MTF-1欠損マウス胚線維芽細胞を用い,6価クロム前処理によるMT誘導阻害に対するMTF-1過剰発現およびp300 過剰発現の影響を調べた。その結果,これらの過剰発現により6価クロムによる阻害作用が減弱することが明らかとなった。特に, p300過剰発現で減弱効果が顕著であった。そこで,p300のヒストンアセチル化活性に及ぼす6価クロムの阻害作用を測定した。6価 クロム,3価クロムおよび亜鉛についてアセチル化活性阻害作用を比較したが,これらの金属の作用に大きな差は認められなかったこ とから,6価クロムによるMT転写阻害にヒストンアセチル化活性阻害は関与していないと考えられた。また,野生型細胞において,ヒ ストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いても,6価クロムによるMT転写の阻害が観察されたことから,MTプロモーター上のヒストンを 脱アセチル化状態とすることでMTの転写を阻害している可能性は低いと考えられた。p300には,ヒストンアセチル化以外の機構によっ て転写を活性化するドメインが複数存在する。6価クロムは,これらヒストンアセチル化を介さない転写活性化機構に作用することで 転写を阻害していると考えられる。
  • 古武 弥一郎, 瀧下 智子, 小島 安由里, 田原 栄俊, 中津 祐介, 太田 茂
    セッションID: O-50
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    トリブチルスズ(TBT)に代表される有機スズ化合物は船底塗料等に使用されており,TBT毒性のひとつとして神経毒性が報告されてい るが,その詳細は明らかにされていない。現在までに我々は,大脳皮質初代培養神経細胞に20 nM TBTを9日間曝露すると,AMPA型 グルタミン酸受容体のGluR2サブユニット発現減少を惹起することを見出した1)。GluR2はAMPA受容体のカルシウム透過性決定因子 であり,GluR2を含むAMPA受容体は通常カルシウムイオンの細胞内流入を阻止している。GluR2発現減少によりGluR2を含むAMPA 受容体の割合が減少し,カルシウム透過性が亢進する結果,神経細胞の脆弱化に繋がることを明らかにしている1)。そこで本研究では, TBTによるGluR2発現減少における転写因子の関与について検討を行った。既に報告のあるGluR2転写促進因子Nuclear respiratory factor-1(NRF-1)およびAp1,GluR2転写抑制因子RE1-silencing transcription factor(REST)の3種が結合する配列を元に特異的プ ローブをデザインし,ゲルシフトアッセイによる転写因子-DNA複合体結合活性を評価したところ,Ap1およびREST結合活性はTBT により大きく変化しなかったものの,NRF-1結合活性低下が認められた。また,NRF-1の核における存在量はTBTにより減少した。 以上の結果より,TBTがNRF-1の核移行を阻害する等の理由でNRF-1活性を低下させることにより,GluR2発現減少を惹起すること が示唆される。
    1)Toxicol. Appl. Pharmacol. 240, 292-298 (2009).
  • 新野 竜大, 宇野 誠一, 國師 恵美子, 山元 優孝, 小安 純子, 大堀 祐司, 斎藤 穂高
    セッションID: O-51
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年,医薬品等生理活性の強い化学物質が水環境から検出される例が多数報告されている。これら医薬品の多くは,生体に対する特異 的または非意図的な作用機序(MOA)を有しており,環境生物の個体群維持に関わる繁殖や発生・生存への影響が懸念されている。こ れらの医薬品を含む化学物質の環境生物に対するMOAまたは毒性機序を理解するための新しいツールとして,エコトキシコメタボロ ミクスの確立が望まれており,我々は代表的な試験生物である藻類のメタボロームの変動からMOAが異なる化学物質のクラス分けが 可能であることを報告した。本研究では,魚類に対する発生および生存への影響を捉えることを目的としたヒメダカ(Oryzias latipes) の胚・仔魚への毒性試験へ,エコトキシコメタボロミクスを応用し,MOAの異なる医薬品等の暴露によるメタボロームの変動の有無 および相違について検討する。
    試験条件はOECDTG212に準拠した。受精後6時間以内の(O. latipes)卵にHaloperido(l Dopamine receptor antabgonist), Ethinylestradiol(Estrogen receptor agonist)または3,5-dichlorophenolを孵化まで,急性毒性レベルの1/2の濃度以下で暴露した。 暴露中は死亡の有無,眼球形成,血管形成および背索形成の異常の有無等を確認した。暴露終了後の卵からクロロホルム・メタノール により抽出した細胞内代謝物を1H-NMR(500 MHz)により網羅的に測定した。また,抽出液をMSTFA+1%TMCSにより誘導体化し, GC/MSに供した。得られたデータはSIMCA-P(Umetrics社,スウェーデン)により解析した。本発表では,得られたメタボロームの変 動についてその詳細を議論する。
  • 藤澤 希望, 池中 良徳, 山本 秀明, Eun-Young KIM, Jin-Seon LEE, 岩田 久人, 石塚 真由美
    セッションID: O-52
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】鳥類はダイオキシン類に対して非常にハイリスクであることが知られており,特に魚食性鳥類や猛禽類は体内のダイオキシン類 蓄積濃度が非常に高いという報告もある。本研究では,ダイオキシン類が結合する芳香族炭化水素受容体(AhR)について,分子生物学 的解析を行い,鳥類間における比較を行った。
    【方法】シロフクロウ,アメリカワシミミズク,ゴイサギ,フンボルトペンギン,ダチョウ,チリフラミンゴ,インドクジャク,アオミ ミキジ,ハヤブサの肝臓よりtotalRNA抽出を行い,AhRのcDNAについて塩基配列を解析した。さらにこのうち数種の鳥類に関しては, クローニングしたAhR全長をCOS-7細胞に発現させ,レポーターアッセイにてこれらAhRの転写活性化能を評価した。また,ダチョ ウにおいては初代培養細胞をAhRリガンドに曝露し,realtime-PCRによってダイオキシン類曝露の汚染マーカーとなるCYP1A5の誘 導能を調べた。
    【結果】今回解析を行った配列に既報の鳥類AhR1塩基配列を加え系統樹を作成したところ,シブリー・アールキスト鳥類分類による 系統樹と酷似していた。またリガンド結合能を決定する二つのアミノ酸配列に着眼し比較した場合,これら鳥類が高感受性型(I324と S380),低感受性型(V324とA380),中間型(I324とA380)の三種類に分類されることがわかった。中でも,今まで高感受性型のAhRアミノ酸 配列を有す鳥類はニワトリの他報告が無く,今回,系統樹では離れた位置に属するダチョウが,唯一ニワトリと同じ高感受性型である ことが明らかとなった。
  • 安齋 享征, 林 大祐, 佐藤 哲男
    セッションID: O-53
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
     近年,日本において医薬品の環境リスクアセスメントが大きく取り上げられている。化学分析技術の発達に伴い,環境中に数多くの 医薬品の存在が確認されるようになった事,また欧米にて関連規制が制定された事が影響したものと考えられる。  医薬品は農薬や工業化学物質と異なり,その製造の絶対量は少ない。また,環境中に検出されている医薬品の量はヒトに対して影響 を及ぼすとは考え難い。とはいえ,数多くの医薬品がヒトの生活環境,また自然環境に存在し蓄積された場合,その環境中での運命や ヒトを含む動植物にどのような影響を及ぼすのかは明らかとなっていない。
     米国では年間50t以上製造され,かつ一定の基準(初期環境濃度(EIC)が0.1ppb以上,予測環境濃度(EEC)が0.01ug/L)を上回る医 薬品については必ず環境リスクアセスメントを実施する事が義務付けられている。但し,ヒトを取り巻く環境に対して累積的に著しい 影響を及ぼす事の無いようなものについては適用除外とされている。
     EUでは臨床用量が一定量(2mg/日/人)を上回り,地表水の予想環境濃度(PEC: predicted Environmental Concentration)が0.01ug/ L以上の場合にはやはり環境リスクアセスメントの実施が義務付けられる。とはいえ,医薬品の新規販売承認申請を行うもののみが対 象であり,承認事項一部変更承認申請(一部申請)は対象外である。また,他の法規制で規制される遺伝子組換医薬品,放射性医薬品な ども対象外である。
     今回,欧米の医薬品環境リスクアセスメントの実際を紹介し,また今後日本において行われるであろう規制,その留意点について考 察しご紹介する。
一般演題 ポスター
  • 宇佐見 まみ, 西山 貴仁, 大沼 友和, 小倉 健一郎, 平塚 明
    セッションID: P1
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】合成ビタミンKの一種であるメナジオン(MD)は,酸化ストレス研究における障害発生モデル化合物として広く用いられている。 MDの毒性発現機序は,生体内においてMDが1電子還元を受け生成するセミキノンラジカルが酸化還元反応を繰り返す際に発生する活 性酸素種によると考えられている。一方,MDの解毒代謝経路は,NAD(P)H: quinone oxidoreductase 1(NQO1)の2電子還元によ るメナジオール(MDOH)生成であると考えられている。しかしながら生成するMDOHは依然として活性酸素種を発生し毒性を示すこ とから,MDの解毒経路として疑問が持たれる。既に当研究室では,MDの解毒にはNQO1による還元反応のみならず,それに引き続 く,UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)によるグルクロン酸抱合体生成が究極的な解毒経路であると示唆している。そこで本研究では, MDの解毒酵素として位置づけられているNQO1の役割について,UGTが発現していないことが知られているHEK293細胞を用いて再 評価することを目的とした。
    【方法】HEK293細胞にNQO1あるいはNQO1およびUGTを同時発現させた細胞株を樹立した。これらの細胞にMDを添加し,24時間 培養した。毒性の強弱は細胞生存率により評価した。
    【結果・考察】HEK293細胞に対するMDの毒性はwild-type HEK293細胞と比べ,NQO1を発現させた細胞では毒性が強く現れた。一方, NQO1とUGTを共に発現させた細胞では,wild-typeおよびNQO1のみの細胞と比べて毒性が軽減していた。以上の結果から,NQO1 はMDの解毒ではなくむしろ毒性を増強することが明らかとなった。一方,UGTが存在することによって毒性が軽減されることから, メナジオンを解毒するには,NQO1に続き,UGTによる抱合反応が必要であることが明らかになった。
  • 古賀 利久, 藤原 亮一, 深見 達基, 中島 美紀, 樫山 英二, 横井 毅
    セッションID: P2
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】多くのカルボン酸含有薬物は,生体内で第II相酵素のグルクロン酸転移酵素(UGT)によりアシルグルクロニド(AG)に代謝され る。一般にAGは求電子性を示すため,蛋白質やDNAに結合し毒性を発現すると考えられてきたが,確かな情報は乏しい。そこで本研 究では,AGと毒性の関係を明らかにすることを目的とし,UGT安定発現系HEK293細胞やヒトヘパトサイトを用いて,AG生成に伴 う細胞毒性および遺伝毒性を検討した。
    【方法】アミノ酸相同性は高いが,異なるAG生成能を示すUGT1A3とUGT1A4の各安定発現HEK293細胞(HEK/UGT1A3およびHEK/ UGT1A4)に,カルボン酸含有薬物(NSAIDs: ナプロキセン,ジクロフェナク,ケトプロフェン,イブプロフェン)を,6, 12, 24時間 暴露後の細胞毒性(MTT, ATP およびLDH release assay)および遺伝毒性(Comet assay)を評価した。また,ボルネオール(グルクロ ン酸抱合阻害薬)を前処置したヒトヘパトサイトに,同薬物を6時間処置時の細胞毒性も評価した。なお,各AG生成量はLC-MS/MSに て定量した。
    【結果および考察】薬物処置後,HEK/UGT1A3でAG生成が認められ,HEK/UGT1A4では認められなかった。しかし,各細胞のMTT およびATP assayで細胞生存率に有意な差はなく,LDHの漏出もほとんど認められなかった。また,Comet assayの結果,有意な DNA損傷は検出されなかった。ボルネオールでヒトヘパトサイトの各AG生成量を1/3~1/9に阻害したところ,予想に反して細胞毒性 が強まった。これは細胞内で代謝を免れた未変化体の毒性に起因すると推察された。以上,NSAIDsのAG生成に伴う細胞毒性および遺 伝毒性について検討したが,いずれも毒性との関係は認められなかった。
  • 武田 結花, 大沼 友和, 西山 貴仁, 小倉 健一郎, 平塚 明
    セッションID: P3
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】ハーブに代表されるように植物は治療薬やサプリメントとして利用されている。植物ごとに効果は様々であるが,その中でもセ リ科・キク科植物は抗炎症・解毒作用を目的とし使用されることが多い。近年,アントシアニンなどの植物成分によるがん抑制作用が 注目されている。これらの成分が有する抗炎症作用により慢性的な炎症反応が抑制され,組織のがん化が防止されると考えられている。 また,スルホラファンなどの植物成分は発がん物質の解毒を促進する薬物代謝酵素誘導作用を有することでがん予防作用を示すとされ る。抗炎症作用を評価するために,一酸化窒素(NO)の産生抑制を測定した。薬物代謝酵素誘導作用を評価するために,glutathione S -transferase(GST)とNAD(P)H: quinone oxidereductase 1(NQO1)の活性を測定した。本研究では,セリ科・キク科食用植物の 中に,発がんの初期段階を抑制すると考えられるこれら二つの作用を有する植物が存在するかどうか検討した。
    【方法】植物を凍結乾燥・粉砕し得た粉末をメタノールで抽出し,各植物のメタノール抽出物を得た。NO産生抑制に関する実験にはマ ウス腹腔マクロファージJ774.1細胞を,GSTおよびNQO1誘導に関する実験はラット正常肝由来のClone 9細胞をそれぞれ用いた。 細胞生存率の測定はMTT法を用いた。
    【結果・考察】調査した植物のメタノール抽出物の中で細胞毒性を示さない濃度で処理した時,NO産生抑制およびGSTとNQO1誘導作 用が最も強かったものは三つ葉,次いでよもぎであった。三つ葉とよもぎ抽出物のNO産生に対する50%阻害濃度はそれぞれ43μg/mL および90μg/mLであった。NQO1活性は三つ葉抽出物で処理すると未処理のものと比べ2.5倍上昇し,代表的な誘導剤であるスルホラ ファン(2.3倍)と同程度の上昇率を示した。以上の結果より,三つ葉抽出物は抗炎症および薬物代謝酵素誘導作用を併せ持つことが分 かった。
  • 小嶋 五百合, 吉田 敏則, 福森 純子, 山口 悟, 富田 真理子, 黒澤 好, 高橋 尚史, 大沼 彩, 飯田 勉, 石塚 勝美, 石塚 ...
    セッションID: P4
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究は肝薬物代謝酵素誘導・肝発がんプロモーターであるPB経口投与による低色素性貧血(Kojima et al, Toxicol Sci 34, 527-539, 2009)の発症メカニズムの一端を明らかにすることを目的とした。【方法】PBを雌性F344ラットに0,8,80mg/kg/日の 用量で1,2または4週間経口投与した。【結果・考察】高用量群における貧血は,投与前半のMCVrの増加とCHCMrの減少で示される 大球性低色素性の網赤血球の増加を特長とし,成熟赤血球も同様の特徴を示した(MCVmの増加とCHCMmの減少)。ところが血漿鉄 及び総鉄結合能は増加しており,十二指腸のフェリシアン化物還元活性とferroportin mRNAの増加で示されるように,腸管におけ る鉄吸収は亢進していた。鉄の吸収を負に制御するhepcidin mRNAの肝臓における発現や血漿エリスロポエチンには変化はなかっ た。骨髄では,赤芽球数に変化はなかったが,その鉄吸収や分化成熟に関連するtransferrin receptor 2, iron regulatory protein 2, erythropoietin receptor及びGATA1/2 mRNAの発現が増加し,一方,globin b mRNAは低下していた。脾臓ではglobin bを含めこ れら全てのmRNAの発現が亢進した。投与後半では,血漿鉄や網赤血球の増加はみられず,網赤血球の鉄含有量をよりよく反映する CHrの減少を特徴とした鉄欠乏性貧血様の像を示した。低用量群では貧血は観察されなかった。PBの血中濃度は用量に依存して増加し, Cmax, AUC0-24は初回投与と4週間投与で差はなかった。以上より,PB投与では貧血に対する代償性反応として十二指腸における鉄吸収 が亢進したが,貧血の発症には骨髄赤芽球におけるグロビン合成の低下による鉄利用障害が関与することが示唆された。
  • 田村 幸太朗, 宇波 明, 渡部 浩治, 関 二郎
    セッションID: P5
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    It has recently been said that many of the drugs with FDA Black Box Warning for hepatotoxicity or cardiovascular toxicity are associated with mitochondrial toxicity. Since the dominant function of mitochondria is the production of >90% of the cell’s energy in form of ATP, mitochondrial dysfunction is often involved in the onset of toxicities in the organs that are susceptible to the adverse effect of energy production, such as CNS organs, heart, skeletal muscle and liver. In an attempt to evaluate mitochondrial toxicity in vitro, we adopted following two assay systems:
    1. Cytotoxicity assay using HEPG2 cells cultured with media where glucose is replaced by galactose (ie, experimental condition where cells are highly sensitive to mitochondrial toxicity)
    2. Energy metabolic assay which affords simultaneous measurement of mitochondrial energy production and cytoplasmic glycolysis using Bio Flux Analyzer XF24 (Seahorse Bioscience Inc).

    As a first step, using these assay systems, we evaluated 29 drugs and compounds for which the association of mitochondrial toxicity is suggested. The results showed that (1) both assay systems are very sensitive in detecting mitochondrial toxicity and (2) mitochondrial toxicants with the mechanism of uncoupling activity can be detected by the bio-flux (XF24) assay only. As a next step, we evaluated Astellas compounds associated with hepatotoxicity or skeletal muscle toxicity. The results showed that some of the Astellas compounds have potential of mitochondrial toxicity. These results suggest these approaches will be useful drug discovery.
  • 柿内 太, 澤田 光平, 菅沼 彰純, 青木 豊彦, 築舘 一男
    セッションID: P6
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    網膜機能障害は,種々の薬剤によって誘発されることが報告されており,医薬品開発上最も重篤な副作用の一つである。近年,電気生 理学的手法の普及により,非臨床研究においても,網膜障害の早期発見や毒性発症部位の特定などで多くの成果が得られているものの, 網膜毒性発現メカニズムに関しては不明であるものも多い。その原因として,網膜は視細胞,双極細胞,神経節細胞等,異なったタイ プの細胞が多層構造を形成し,連携して機能発現を制御しているため,個々の細胞機能を評価することが難しいこと,また,網膜毒性 メカニズムを研究するためのin vitro細胞評価系が少ないことが考えられる。そこで,我々は,網膜毒性メカニズムを解析するためのツー ルとして,ラット視細胞の初代培養系の確立と機能解析を試みた。
    Astridら,Molecular Vision 2009に従って,生後22~25日齢のLong Evansラットの網膜から視細胞を分離し,培養4日目までの細 胞形態,ロドプシンの免疫染色,cGMP濃度,およびvisual cycleに関する遺伝子発現について確認した。
    細胞形態については,単離直後は内節,外節を保持した視細胞が多く見られたが,培養直後から内節,外節部位の短縮が始まり,培養 8時間後にはほぼ全ての細胞が円形になった。また,形態変化に伴って,cGMP濃度,ロドプシン,オプシン遺伝子発現の減少が認められ, 視細胞機能維持には,視細胞特異的な形態維持が重要であることが推察された。しかしながら,ロドプシンタンパク質およびリカバリ ン遺伝子の発現は培養24時間後まで維持されていたことから,培養24時間後までは,視細胞特異的な機能の一部は評価できる可能性 が示唆された。
    以上の結果とともに,毒性発現機序が明らかな既知の薬剤暴露による上記パラメーターへの影響についても検討し,今後の網膜障害評 価系としての可能性についても報告したい。
  • 藤本 和則, 岸野 寛之, 大場 智恵子, 矢本 敬, 眞鍋 淳, 三分一所 厚司
    セッションID: P7
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    グルタチオンは求電子性物質の解毒や酸化ストレスの消去に関与するとともに,特異体質性薬物障害(IDT)の原因の1つと考えられる 反応性代謝物の代謝にも重要な役割を担っている。そのため,グルタチオンが枯渇した状態では反応性代謝物による反応が強く発現 されることが予想される。そこで,我々はL-buthionine sulfoximine(BSO)処理により細胞内グルタチオンを枯渇させたラット初代 培養肝細胞に対する化合物の細胞障害感受性の変化を評価するin vitro系を確立し,IDTリスクが予測可能か否かを検討した。評価に 用いた化合物は,IDTリスクが4つのカテゴリー(Withdrawn,Black-box warning,Warning,Safe)に分類されている42種を用い た(Nakayama et al., Drug Metab. Dispos., 37, 1970-1977, 2009)。その結果,42種の化合物のうち10種でグルタチオン枯渇 状態において細胞障害感受性が増強することを確認した。本評価系のIDTリスク検出率はWithdrawnカテゴリーで50%,Black-box warningカテゴリーで38%,Warningカテゴリーで22%であるのに対し,Safeカテゴリーの偽陽性率は8%に過ぎなく,この検出率と IDTリスクには相関性が認められた。また,本評価系においてグルタチオン枯渇状態で細胞障害感受性が増強した化合物のいくつかは, in vivoにおいてもグルタチオン枯渇状態で肝障害を引きおこすことが報告されており,本評価系はin vivoの代替法としても期待できる。 以上より,本評価系は一部のIDTリスクを予測することが可能であり,化合物最適化を行う開発初期のステージで実施するスクリーニ ングとして有用であることが示唆された。
  • 川瀧 拓, 山本 敏誠, 高谷 尋美, 久米 英介
    セッションID: P8
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】糖尿病など高血糖が持続する病態において,末梢神経障害が惹起されることは良く知られている。一方,低血糖が持続した場合 の末梢神経への影響については,ラットにインスリン製剤を投与し末梢神経障害を惹起した報告はあるものの,障害の発現機序等には 不明な点が多い。今回,ラット上頚神経節細胞の長期培養系を確立し,低グルコースおよび高インスリン時の末梢神経細胞への影響を 検討した。
    【方法】生後1から3日目のSDラットから上頚神経節細胞を採取し,神経突起の伸展を成熟神経細胞の指標として,培養条件を検討した。 次に,確立した培養条件下で,0から5.5mMの低グルコース培地,または5μg/mLインスリン添加培地を用いて,低グルコースおよび インスリンの影響を検討した。
    【結果および考察】ポリLリジンコートしたディッシュ上でα-MEM培地で分散培養した場合,播種翌日より神経突起が伸長し,培養21 日目まで安定した神経突起の伸長が認められたことから,本培養条件下で成熟した末梢神経への影響が評価可能と判断した。次に,本 条件下で,培養21日目よりグルコースおよびインスリンの影響を評価した。培養21日目に低グルコース培地と交換したところ,交換 数日後に,神経突起の断片化を伴う変性が見られた。一方,細胞体については,やや収縮するものの明らかな障害性の変化は認められ ず,また細胞死も見られなかった。この結果は,ラットへのインスリン製剤投与により,細胞体に先立って末梢神経の軸策が変性する ことと一致した。また,高インスリン環境下の培養では神経突起ないし細胞体の変性は見られなかった。以上,本培養条件により成熟 した末梢神経細胞の培養が可能であり,またインスリン製剤で見られたin vivo末梢神経障害が,インスリンそのものによる障害ではな く,インスリンによる低血糖によって誘発された神経変性であることが示唆された。
  • 山本 卓, 貝崎 明日香, 田中 佐知子, 沼澤 聡, 吉田 武美
    セッションID: P9
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日本での薬物乱用は覚せい剤関連の事件が最も多いが,近年錠剤型麻薬の乱用の増加や新たな乱用薬の流通が確認されており, 薬物乱用は深刻な問題である。Methamphetamine(MA)と3,4-Methylenedioxymethamphetamine(MDMA)は精神活性のレクリ エーションドラッグとして広く乱用されている。MAはノルアドレナリンやドパミンの遊離促進および取り込み阻害をすることが知ら れている。MDMAは脳内セロトニンの放出促進や長期乱用によりセロトニン系神経の破壊を引き起こすことが知られている。しかし, 薬物乱用者が若年層に多いにもかかわらず,これらの薬物が神経系の成長に与える影響は明らかにされていない。Diphenylprolinol (DPP)と1-(4-Fluorophenyl)piperazine(4-FPP)は新規の乱用薬物である。DPPはかつて向精神薬として発売されていたPipradrol の,4-FPPは麻薬に指定されている1-(3-Trifluoromethylphenyl)piperazineの構造類似体であるが,その作用は明らかにされていな い。そこで本研究ではこれら乱用薬物の細胞毒性並びに神経伸張に及ぼす影響について検討した。【方法】PC12細胞に各薬物を添加し, 24, 48時間後にルシフェラーゼ発光により生存率を求めた。48時間後においてもほとんど細胞毒性を示さない薬物濃度を求め,以下 の実験を行った。PC12細胞にNGF(50 ng/mL)および各薬物を添加した。24時間後に位相差顕微鏡で観察し,神経突起形成細胞の割 合および神経突起長を計測した。ウエスタンブロット法によりERK,p-38 MAPKなどの発現変動を検討した。【結果・考察】全ての乱 用薬はPC12細胞に対して濃度依存的な細胞毒性を示した。細胞毒性がほとんど見られない低濃度の乱用薬物処置により,神経突起形 成細胞数の減少と神経突起長の短縮が認められ,これら乱用薬物が神経変性障害を生じる可能性が示唆された。
  • 長崎 修治, 大竹 幸代, 荒木 誠一, 久田 茂
    セッションID: P10
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    [目的および方法]抗甲状腺薬として用いられるMethimazole(MMI)とPropylthiouracil(PTU)の副作用として無顆粒球症が報告されている.我々は第35回年会において,ラットへの抗甲状腺薬2週間投与によるリンパ球および好中球の減少を報告した.無顆粒球症およびラットでみられた毒性の詳細な発現機序は明らかではないが,原因として骨髄細胞に対する直接作用や,自己抗体の出現に起因する細胞傷害が想定されている.今回,我々はMMIおよびPTUの白血球に対する作用を検討する目的で,末梢血白血球を用いた網羅的遺伝子発現解析を実施したので報告する.雄SDラットにMMIを200mg/kg,PTUを250mg/kgで2週間投与し,全血より分離した白血球からtotalRNAを抽出し,マイクロアレイ解析を行った.
    [結果および考察]薬物投与群においてリンパ球ならびに顆粒球系細胞に発現する因子(Fc-receptor, defensin等)の発現が低下傾向にあり,リンパ球および顆粒球数の減少を反映した結果と考えられた.一方,薬物投与群で発現上昇傾向がみられた遺伝子群には,抗原提示に関与するMHC class II,細胞障害性T細胞のマーカーであるCD8,ヘルパーT細胞のマーカーであるCD28などが含まれた.免疫応答の亢進を示唆する結果であり,自己抗体の関与が指摘される臨床での無顆粒球症との関連性が考えられた,一方,細胞障害性に係わる遺伝子群の発現に大きな変動は確認されなかったことより,リンパ球ならびに顆粒球の減少は,骨髄あるいは脾臓等の臓器でのイベントが反映されたものと考えられた.また,上記以外でも,薬物投与群で特異的に発現上昇している遺伝子を数種見出している.今後は,薬物投与群特異的変動を示す遺伝子の機能解析,ならびに骨髄等の局所での毒性発現メカニズムの検討を行う予定である.
  • 伊勢 良太, 福島 民雄, 瀧 憲二, 堀井 郁夫, 吉田 武美
    セッションID: P11
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    microRNA(miRNA)は21塩基前後の短い2本鎖RNAで,主にmRNAの非翻訳翻訳域に結合して翻訳を抑制するRNAの一種である。そ の制御は,個体発生,細胞分化および疾患等に関連することが知られているが,最近,毒性機序への関与も示唆されている。げっ歯類 においては,アセトアミノフェン(APAP)投与後に生じる肝毒性に関して複数のmiRNAの挙動が報告されており,毒性作用機序の一因 として注目されている。一方,霊長目マカク属であるカニクイザルは,実験動物として前臨床試験に用いられているが,毒性に関与す るmiRNAの報告は未だされていない。また,げっ歯類やヒトと比べ,カニクイザルのmiRNAを網羅的に解析するツールは存在しない のが現状である。そこで,我々はマカク属のmiRNAを搭載したマイクロアレイを作製し,APAP投与後のカニクイザル肝臓で変動する miRNAによる毒性への関与を以下の方法で検討した。まず,カニクイザルmiRNAを解析するツールを開発するため,カニクイザルと 同じマカク属であるアカゲザルにて公開されているmiRNA配列情報をmiRBaseから入手し,それをベースにマイクロアレイを作製し た。次に4~5歳の雄カニクイザルにAPAP(600mg/kg)を単回静脈内投与し,24時間後のmiRNA発現プロファイルをマイクロアレイ で解析した後,上昇または抑制したmiRNAを選定した。なお,肝臓は投与1ヶ月前と投与24時間後に肝生検にて採取し,miRNAの発 現変動は同一個体間での比較とした。本発表では,APAP投与で特異的に変動したカニクイザルmiRNAを中心に,げっ歯類との類似及 び差異,変動遺伝子にて報告されている機能から推測されるカニクイザル肝臓への影響を報告する。
  • 藤谷 知子, 小縣 昭夫, 中江 大
    セッションID: P12
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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     近年,清潔志向と新型インフルエンザ流行に対応して,除菌作用のある液体噴霧剤やジェルが多用されている。それらの製品の中に, 新しく開発された四級アミン除菌剤Quatが配合されている。手指消毒後の新生児・幼児における摂取が危惧される一方,Quatの生体 影響について未知である。そこで,マウス新生仔で連続経口投与試験を行った。
     QuatはEZ-Bio HP-B4.5,N-Alky(l 60%C14,30%C16,5%C12,5%C18)dimetyl benzyl ammonium chloride 2.25%, N-Alkyl(68%C12,32%C14)dimethyl ethylbenzyl ammonium chloride 2.25%,を中和後,水で希釈して用いた。ICRマウス新 生仔に,0(対照群),1.25,2.50,5.00mg/kg体重を(生後0日から)21日間連続経口投与した。投与群に用量相関性に死亡がみられ, 雌雄の新生仔の肝臓重量が5.00mg群で有意に低下した。また,雄の5.00mg群の脾臓重量および雌5.00mg群の卵巣重量が低下してい た。血漿生化学検査で,雌雄の2.50mg群および5.00mg群の尿酸値が低下し,血糖値が上昇していた。
     無作用量は1.25mg/kg未満で,引き続き低用量の試験とともに,乳児・幼児における実際の摂取量調査が必要と思われる。
  • 殿村 優, 森 陽子, 上原 健城, 鳥井 幹則
    セッションID: P13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    心及び骨格筋毒性はインパクトの大きい毒性であり,これらを鋭敏に検知できるバイオマーカーは医薬品開発の成功確率を高める有効 な手段となる.本研究では,2種のラット心筋及び骨格筋障害モデルにおいて,心筋または骨格筋障害検出における血中バイオマーカー の有用性を検証した.
    ラットに1.5 mg/kg Carbofuran(CAF)または1.5 mg/kg Isoprotereno(l ISO)を単回腹腔内投与し,病理検査(投与24時間後)及び血 液化学的検査(投与2, 4, 6, 24時間後)を実施した.病理検査では,心臓の所見として,CAF及びISO投与の両群で心筋細胞壊死,炎 症細胞浸潤が認められた.骨格筋の所見としては,CAF投与群で遅筋と速筋に筋線維壊死,炎症性細胞浸潤が認められ,ISO投与群で は遅筋のみ同所見が認められた.血液化学的検査では,CAF及びISO投与の両群において,投与2時間後から,アスパラギン酸アミノ トランスフェラーゼ(AST),脂肪酸結合タンパク質3(Fabp3),ミオシン軽鎖1(MLC1)の上昇が認められた.さらにISO投与群では心 筋トロポニンI及びT(cTnI,cTnT)の上昇も認められた.また,病理検査との相関性を解析した結果,心筋障害に対してはMLC1及び cTnTが,骨格筋障害に対してはFabp3,MLC1,ASTが感度良く病理所見を反映することが示唆され,顕著な変動幅と高い組織特異 性を考慮すると,Fabp3,MLC1,cTnI,cTnTが優れたマーカーであると考えられた.一方,いずれのマーカーも,投与24時間後に は対照群と同等のレベルに戻ることが明らかになった.
    以上より,本研究で検証したバイオマーカーは,採血時点を配慮することでラットにおける心及び骨格筋毒性を鋭敏に検知できること が示唆された.
  • 城塚 康毅, 関 将章, 松本 清, 茶谷 文雄
    セッションID: P14
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    [目的]小児用医薬品開発に際して臨床試験前に幼若ラットを用いた毒性試験が実施される場合がある。発育遅延・促進が生じた際にど の程度の変化であるかの評価が必要であるが,幼若ラットの体重,器官重量,血液学的検査,血液生化学的検査及び病理組織学的検査 の経日的な観察の結果報告は少ない。そこで,幼若ラット毒性試験の背景データとすべく,生後0日齢から6週齢のラットに前述の検査 を実施した。[動物及び検査]雌雄各3~35匹のCrl:CD(SD)ラットを用いて,0,2,4,7,10,14,17,21,28,35及び42日齢時に, 体重,器官重量,血液学的検査,血液生化学的検査及び病理組織学的検査を実施した。[結果と考察]体重は21日齢以後に急激に増加した。 器官重量は,脳は早期に,肝臓,卵巣,子宮及び精巣は21日齢以後に顕著な増加を示したが,心臓,肺,脾臓,腎臓,胸腺及び副腎は 増加パターンに著変はなかった。赤血球数及び血小板数は経日的に増加したが増加パターンに特記変化はなく,MCV及び白血球数は 経日的な減少を,網状赤血球は一度増加した後に緩やかな減少を,Hbはほぼ一定の値を示した。血液生化学的検査では総蛋白,アル ブミン,グルコース及びALTは経日的な増加を,総ビリルビン,AST,ALP,LDH,CK及び無機リンは経日的な減少を,総コレステロール, BUN,K及びCaは一度増加した後に減少してほぼ一定の値を示した。以上の結果,器官により発達時期に,また,パラメータにより変 動パターンに差がみられた。病理組織学的検査では,成熟動物と同様の組織像を示す時期は,副腎で14日齢,大脳及び肺では21日齢, 小脳,心臓,肝臓及び腎臓では28日齢,卵巣及び子宮では35日齢であった。胸腺及び下垂体は出生後でも既に成熟像と考えられたが, 精巣は42日齢においても未成熟であった。以上の結果は,今後しばしば実施される幼若ラットを用いた毒性試験における背景データと して有用であり,また,発育の遅延や促進を判断する際の参考になると考えられた。
  • 山田 篤, 外岡 輝子, 木村 守, 布留川 恵美子, 小川 まり, 栗本 優子, 石田 尚夫, 廣田 里香, 春日 敏郎, 森口 聡, 岡 ...
    セッションID: P15
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】Wistar Hannoverラットは欧州では毒性試験に繁用されており,Sprague Dawleyラットより長期生存率に優れ,また扱いやす い性質等から日本においても同系ラットに対する有用性が期待されるところである。米国NTPにおいてもWistar Hannoverラットは Fischer 344ラットとともにがん原性試験に推奨されている。Wistar Hannoverラットは国内数社で生産されているが,その由来はそ れぞれ異なり遺伝的な背景を含め生物学な特徴について興味が持たれるところである。また,今後国内でもWistar Hannoverラットを 毒性試験に用いる施設が増えた場合,それぞれ異なる供給源のラットを用いた試験を比較する場合,その生物学的特徴について把握し ておく必要も考えられる。そこで本試験では,異なる供給源から提供された同系ラットを全く同一の環境下で4,13及び26週間飼育し て,一般毒性試験で用いられる種々の毒性指標データを収集し,それぞれの生物学的特徴を調べた。
    【方法】RccHan:WISTラット(株式会社日本医科学動物資材研究所生産),BrlHan:WIST@Jc(l GALAS)ラット(日本クレア株式会社生 産)及びCrl:WI(Han)ラット(日本チャールスリバー株式会社生産)を同時期に同一SPF飼育室内で4,13及び26週間飼育して,一般状 態,体重,摂餌量,眼科学的検査,尿検査,血液学的検査,血液化学的検査,剖検,器官重量及び病理組織学的検査データを収集し, それぞれの生物学的特徴を調べた。
    【結果】体重,摂餌量,血液学的検査,血液化学的検査及び器官重量等の検査成績において,それぞれの供給源の動物に興味深い差異が みられた。病理組織学的検査については現在実施中である。
  • 久保田 亜里紗, 樋口 剛史, 山田 朱美, 内田 秀臣, 川島 邦夫
    セッションID: P16
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
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    【目的】近年,様々な物質により胎児が汚染されており,これによりアレルギー体質(食物アレルギー,アトピー性皮膚炎,じんま疹, 気管支喘息,アレルギー性鼻炎等)の子供が急増しているとの報告がある。そこで,我々は第36回日本トキシコロジー学会学術年会 (2009年)で「胎生期に卵白アルブミンにより感作されたラットのアナフィラキシー様症状」報告した。その報告では,F1が母乳を介し て感作された可能性が示唆されたため,今回は母乳からの感作の有無を確認する実験系を組んでみた。
    【方法】(実験1)無処置の雌雄ラット(Crl:CD(SD))を交配,分娩させ,これを里親ラットとした。同様に無処置の雌雄ラットを交配させ, 妊娠中の雌ラットを卵白アルブミン(OVA)・FCA(0.2 w/v %生理食塩液)の皮下投与で感作させた。感作雌ラットを分娩前日に帝王切 開(帝切)し,取り出したF1を里親ラットの下で飼育し,帝切後15日でF1動物並びに里親ラットにOVAの0.1 w/v %生理食塩液で惹起 を行い,母乳を介さずにF1が感作を受けているか否か検討した。(実験2)実験1と逆の実験系を組んでみた。すなわち,妊娠後の雌ラッ トを実験1と同様にOVAで感作,分娩させ,感作里親ラットとした。無処置で交配させた雌ラットから,分娩前日に帝切によりF1を取 り出し,これを感作里親ラットの下で飼育させた。実験1と同様に,帝切後15日でF1動物並びに感作里親ラットに惹起を行い,母乳を 介した感作の有無を確認した。なお,両実験とも,惹起時の全身的アナフィラキシー症状を以下の評点で観察した。-:変化なし。+: 活動性低下。++:+に加え,呼吸緩除,腹式呼吸,チアノーゼ,横臥位及び腹臥位。+++:死亡。
    【結果】実験1および実験2でF1動物にアナフィラキシー症状が確認され,F1動物が胎児期に感作を受けていることが示唆された。
  • 有坂 宣彦, 武藤 信一, 小林 冴香, 高橋 哲明, 西山 千鶴, 牛越 昭二, 相馬 晋司, 黒田 淳二
    セッションID: P17
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】安全性試験において,骨髄評価は造血系への影響を検討する上で重要であるが,従来の骨髄塗抹標本による細胞分類は,十分な トレーニング及び時間を要するものである。一方,フローサイトメトリー(FCM)法では,客観性の高いデータが短時間で得られるこ とから,近年,骨髄検査への応用例が報告されている。今回,DNA染色蛍光色素であるLDS-751,赤芽球系細胞を識別するCD71抗 体,及び報告例の無い骨髄球系細胞を分類するSIRPα抗体を用いたFCM法によるラット骨髄細胞分類の可能性を検討したので報告す る。【方法】骨髄は,雌雄Crl:CD(SD)ラットの左大腿骨より注射針を用いて吸引・採取した。その後,PBS中に浮遊させ,LDS-751 並びにFITC-SIRPα及びPE-CD71抗体で3色処理した。染色後の骨髄は,Guava EasyCyte(GEヘルスケア バイオサイエンス(株)) により測定・解析した。解析では,骨髄細胞よりLDS-751により有核細胞を抽出した後,SIRPα及びCD71抗体により4分画に分類 した。別途,骨髄塗抹標本による細胞分類を実施し,FCM法との結果と比較した。【結果】骨髄細胞はSIRPα抗体に陽性の骨髄球系細 胞,CD71抗体に陽性の赤芽球系細胞,及び両抗体に陰性のリンパ球系細胞に良好に分類された。また,両抗体に陽性の細胞が分類さ れ,SIRPαは未熟段階の骨髄細胞にも発現することが知られていることから,赤芽球系の未熟細胞と推察された。この分類前にLDS- 751により有核細胞を抽出することにより目視による細胞分類の結果との間に高い相関が得られた。以上,LDS-751並びにSIRPα及 びCD71抗体を用いたFCM法による骨髄細胞分類が骨髄評価に有用である可能性が示された。今後,両抗体に陽性の細胞がどの成熟段 階の赤芽球系細胞であるか検討する必要があると考えられた。
  • 竹内 くみこ, 土屋 紀子, 朝野 由美, 上野 元伸, 鳥井 幹則, 加藤 育雄
    セッションID: P18
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/08/18
    会議録・要旨集 フリー
    皮下投与製剤を開発する上で,物理化学的な刺激性評価は必要不可欠であると考えられるが,ヒトへの外挿性が高く,簡便なin vivo局 所刺激性評価系は確立されていないのが現状である。そこで,ラットを用いた簡便な評価系を確立することを目的として,臨床情報が 既知である5種の皮下投与製剤をラット皮下に単回投与した時の局所刺激性を検討した。陰性対照として無処置及び生理食塩水投与群 を,陽性対照には筋肉刺激性試験を参考に物理化学的刺激性を有する,0.425または1.70w/v%酢酸投与群を設定した。
     5種の皮下投与製剤A ~ Eは,比較的汎用されており,臨床投与量が最大1 mLで,A:喘息薬,酸性製剤,刺激性なし,B:喘息薬, ヒト及び動物皮下で局所障害あり,C:抗リウマチ薬,ヒトで注射部位反応の発現率50%,D:ワクチン,ヒトで注射部位反応あり,E: 糖尿病薬,懸濁液製剤,注射部位反応の発現率は低いなどの特徴から選択した。
     ラット頚背部皮下に各製剤1 mLを投与し,2日後に投与部位の肉眼的及び組織学的検査により刺激性を判定した。病理学的に出血, 水腫,壊死や炎症性細胞浸潤が種々のグレードで観察され,その刺激性の強さは,B>1.70w/v%酢酸>0.425w/v%酢酸>E>C=D ≒A=生理食塩水=無処置群であった。これらの結果はラット皮下においても物理化学的な刺激性が検出可能であることを示しており, 1.70w/v%酢酸より高度な刺激性を示すBはヒトにおける局所障害性リスクと一致していた。一方,A,C,D及びEは局所障害の報告 がないことから,0.425w/v%酢酸よりも軽度な場合,ヒトにおける局所障害性リスクは低いと考えられた。
     よって,本評価系では,1.70w/v%及び0.425w/v%酢酸を陽性対照とした刺激性評価が可能であり,かつ,臨床における障害性リス クの予測に有用であることが示唆された。
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