日本毒性学会学術年会
第40回日本毒性学会学術年会
選択された号の論文の368件中101~150を表示しています
ワークショップ 5 ICHにおける光安全性評価ガイドラインの取り組みについて
  • 岩瀬 裕美子
    セッションID: W5-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    2012年11月にStep 2に到達した「ICH S10:医薬品の光安全性評価ガイドライン(案)」では,光安全性評価を実施する要件の一つとして,290 - 700 nmの波長において吸収がある有効成分と新規添加物について光安全性評価を行うことが合意された。しかしながら,光照射後における活性酸素の生成や組織分布を根拠とすることについては,日本と欧米当局間で考え方が異なっている。光安全性の評価が必要になった場合には,in vitro試験,in vivo試験,臨床試験のいずれかで判断することになるが,その実施にあたり,化合物の光化学的特性や臨床適用経路を考慮して,適切な試験系を用いてリスク評価を行うことが必要である。in vivo光毒性試験を実施する場合,現時点ではバリデートされた試験系がないことから,医薬品開発者は,各自で適切であると考えられる試験系(動物種,投与回数,光照射条件等)を選択する必要がある。光毒性評価に際し,一般的に皮膚への作用を評価するが,例えば全身に曝露される医薬品の場合,可視光域に光吸収をもつ化合物については,皮膚だけではなく網膜へのリスク評価も必要となる。一方,光アレルギー性については,ヒトにおける予測性が不明であることから,非臨床試験は推奨されていない。光化学的特性や光安全性を評価する方法の選択は,原則として医薬品開発者の判断で行うことになるが,ケースバイケースで規制当局との検討も可能である。本ワークショップでは,医薬品の光安全性評価における留意点,当局の要求レベル,ICHブリュッセル会議(2013年6月)における議論等について紹介する予定である。
  • 中江 大
    セッションID: W5-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ICH M3(R2)ガイドラインは,医薬品の非臨床安全性評価における光安全性評価について記載しているが,具体的な評価方法まで規定していない.ICHにおいては,光安全性評価に特化し,より具体的な評価方法を規定するガイドラインが必要であるとの各極の合意を得て,2010年6月のICHタリン会議で当該ガイドラインの作成に関するICH S10トピックを採択し,同11月のICH福岡会議でICH S10専門家作業部会(EWG)を設置した.ICH S10 EWGは,その後3度の対面会合・多数の電話会議・頻回の電子メール交換を経て,2012年11月のICHサンディエゴ会議においてICH S10 step 2ガイドラインを作成した.同step 2ガイドラインは直ちにICH運営委員会において承認され,ICH S10トピックはstep 3に移行し,本抄録作成時点では日米EU3極の行政組織によりパブリックコメントが募集されている.3極行政組織によるパブリックコメント募集は,おおむね3月頃までに締め切られ,その後,各極においてICH S10 EWG規制当局メンバーを中心に同産業界メンバーの協力を得て取り纏められ,その結果を集約したものがICH S10 EWGの議論に供される予定である.ICH S10 EWGとしては,直ちにパブリックコメント対応とそれを反映したガイドライン修文の作業を開始する準備ができており,現在のところ,2013年11月のICH大阪会議におけるstep 4到達を目指している.当該作業においては,step 2ガイドラインに一部残されている極間差を可能な限り解消し,3極協調ガイドラインとして妥当なものにすることが期待されている.
ワークショップ 6 眼毒性リスク評価のサイエンス:お作法からの脱却
  • 小野寺 博志
    セッションID: W6-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    非臨床毒性試験の目的はヒトでのリスク予測,医薬品においては用法・用量を定め安全に使用することで有益な物質ともなり,予測を間違う事で危険な物質となり得ることもある。医薬品による有害事象は完全に避けられない例もあるが,多くの場合,最大のリスク予測を行い適切な管理によって回避出来る可能性は十分高い。非臨床毒性試験結果をヒトに外挿する場合,試験に用いた動物種の解剖学的・生理学的特徴を理解し,初期あるいは軽度の変化を検出できる適切な検出機器を用い,得られた成績を正しく評価する専門知識が必要である。主な臓器での毒性発現機序については多くの蓄積があり解明されているが,感覚器(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・皮膚)についてはそれほど多くはない。その理由として用いる動物種によって発生・解剖学的な差異があること,器質的変化と機能変化の関連が困難なこと,加齢等による自然発生性の変化と鑑別することが必ずしも容易でないことなどがある。 臨床での有害事象として,点眼薬やコンタクトレンズなど直接作用による角膜障害のほか,薬理作用による視覚異常,視調節障害(かすみ,まぶしい,チカチカ感,二重に見える,色調変化),視力障害,視力低下,緑内障,緑内障悪化,眼圧亢進,充血,乾燥,流涙,痛み,頭痛,吐き気など多種多様な報告がある。これらの所見は直接患者さんが日常生活で感じる事ができ,多くの場合一過性や回復性を持つが,場合により最悪失明に至ることもあり社会的影響は大きい。 本ワークショップでは,眼科学非臨床試験に用いる動物の種とその特徴,毒性試験の種類と方法,臨床との相関と検査機器の最新情報,事例を交えた病理組織学的検査から見た眼毒性評価の有用性と限界について議論することにより,一歩前進した眼毒性についの知識と理解を深めたい。
  • 佐々木 正治
    セッションID: W6-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトや多くの動物はその行動を視覚に大きく依存している。したがって,視覚機能に異常をきたすと,その生活を大きく制限される。眼は,角膜,水晶体,網膜のような様々に特化した組織の複合体であり,それぞれの組織が光を網膜に透過させ,光シグナルを脳に伝達させるために,恒常性を維持している。そのために,光路は透明性を維持しなければならず無血管であり,それゆえ血液とは別の方法で酸素や栄養素を供給する生理機能を持っている。光シグナルを受容する網膜は,脳と同様に外界から血液関門によって保護され,網膜の外層にある脈絡膜は集光による網膜の温度上昇を抑え,網膜機能維持のために密接に協調している。これらの光シグナルを脳に伝達させるための恒常性は,内因的及び外因的に環境変化が加わっても,その影響の程度が小さければ,恒常性は維持される。しかし,臨界域を超えると恒常性は破たんし,機能・組織障害が現れる。毒性試験において外因的環境変化は化学物質の曝露によって加わり,恒常性維持の閾値を超えた結果が組織・機能変化として現れ,変化の種類によっては毒性と判断される。眼検査のスタートラインは変化を捉えることであり,そのためには眼組織の基本的特徴を把握しておくことは必須である。毒性試験においては,様々な実験動物に眼検査を施し,化学物質の影響を評価する。恒常性を維持するための眼の特徴は多くは実験動物で共通しているが,生理学的あるいは形態学的な動物種差も存在する。したがって,使用した動物種に応じた眼組織の特徴を把握することは,実施した毒性試験における眼組織の変化を適切に捉えるだけではなく,眼毒性のメカニズムを解明するために実施されるメカニズム探索試験に利用する適切な動物種を選択する際にも重要である。本講演では,毒性試験で使用される動物種に焦点を当て,その眼組織の特徴をヒトと比較しながらレビューする。
  • 大竹 誠司
    セッションID: W6-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    毒性試験では,眼毒性評価のために種々の検査が行われる。その中で最初に毒性変化を検出する可能性が高いものが眼検査であり,各種毒性試験法ガイドラインで必須検査項目とされている。一方,生存時に認められた眼検査所見を確認可能な標本や映像を残すことが困難な場合が多いにも関わらず,眼検査は限られた検査者のみによって実施される。従って,眼毒性評価のためには,眼検査者の検査技術はもとより,眼検査者以外の毒性試験従事者による眼検査の実際についての理解が重要となる。
    毒性試験ではラット,イヌ及びサルが多く用いられるが,これらの動物の眼底像,組織構造及び自然発生所見には違いがある。加えて,ラットでは自然発生所見に系統差が認められ,長期試験では加齢性変化も発生する。従って,毒性試験ではこれらの要因を踏まえて眼検査結果を評価する必要がある。また,眼検査結果と他の検査結果に相違が発生する場合がある。例えば,眼検査と病理組織学的検査では観察範囲や検査時の拡大倍率が大きく異なるため,両検査の所見が一致しないことは稀ではない。また,眼検査で認められる水晶体の混濁を,毒性試験で汎用されている固定液で固定した眼球の組織標本で確認困難な場合がある。これらの相違は,眼検査者と病理組織検査者が検査情報を共有することで小さくすることが可能な場合もある。さらに,眼毒性評価のために網膜電図検査が実施される場合があるが,眼検査,網膜電図検査及び病理組織学的検査の結果に相違が認められる場合もある。
    以上の通り,眼検査は動物の生存時のみに限られた検査者により実施されるものであるが,眼毒性評価のためには,眼検査者と病理組織検査者及び試験責任者との情報共有が極めて重要である。また,眼毒性評価のために種々の検査を実施した場合は,各検査の特性を充分に理解することが重要である。
  • 友廣 雅之
    セッションID: W6-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品あるいは化学物質による視覚毒性として,メチルアルコール,クロロキン,キノホルム,サリンなどの事例が知られ,いずれもその時代において大きな社会問題となった。また,多くの医薬品において,様々な眼に関する臨床有害事象が頻繁に報告されている。このような理由から,非臨床試験における眼毒性リスク評価の重要性は極めて高い。
    近年の非臨床毒性試験では眼検査技術が向上したことにより,充実した眼検査結果が記録されるようになったが,非臨床安全性評価として眼毒性を考慮した場合には課題が散見されている。眼毒性徴候が観察された場合,ヒトへの外挿性,特に視機能への影響を判断することが重要である。ヒトと動物の視覚器には多くの種差があり,また動物に多くの自然発症病変が生じることから,それらを正確に鑑別しなければならない。視機能に影響する毒性徴候のうち,たとえば再生能を持たない神経網膜に対する影響などは,治療による回復を期待することは難しい。その一方,何らかの治療手段がある毒性徴候の場合は,慎重に臨床試験を遂行することによって開発を継続することも可能となろう。ただし,治療手段があると言っても,治療手段そのものにリスクが存在する場合があり,開発される医薬品のリスク・ベネフィットを考慮する必要があるのは言うまでもない。また,眼毒性の発症機序に関する追加検討は,ヒトへの外挿性をより明確にできるような場合にリスク評価の助けになると考えられる。
    最後に,近年急速に普及して眼科診療に革命的影響をもたらしている光干渉断層計(Optical Coherence Tomography: OCT)について紹介し,非臨床安全性評価における利用の可能性について述べる。光干渉断層計は生体において組織レベルの観察が可能な機器であり,経時的変化を追跡できるメリットは大きい。
  • 渋谷 一元
    セッションID: W6-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    非臨床毒性試験において,眼毒性のリスク評価は社会的影響が大きいことから慎重に,総合的になされなければならない。非臨床毒性試験の中で,病理学的検査(剖検・病理組織学的検査)は試験の最終段階で実施されることから,毒性評価におけるウェイトが大きいと考えられがちであるが,in-lifeの種々の検査データを十分把握したうえで検査しなければ精度の高い評価を行うことができない可能性もあろう。眼毒性の徴候は,まず臨床的に眼球の外観あるいは行動異常で発見されることがあり,その所見は試験期間中に実施される眼科学的検査を実施するときの有力な情報となる。眼科学的検査は,眼球の異常所見の検出に特化した専門的検査であり,専用の検査器具を用いて眼科学的(電気生理学的)に眼球全体の状態を評価することが可能である。一方,病理組織学的検査は,眼球の組織レベル・細胞レベルの器質的変化を検出できることから,眼毒性の本質に迫ることができるが,病理組織学的検査にも限界がある。なぜなら,臨床所見あるいは眼科学的検査所見に基づいて,局在する病変を検出すべく組織標本を作製するものの,病理組織学的検査で眼球組織すべてを観察することは不可能であり,組織標本上に当該所見を見いだせるとは限らないからである。また,視覚路の機能的障害により生じる眼毒性は光顕レベル・電顕レベルでも見出すことはできない。加えて,実験動物の種差,系統差および加齢等による眼球の組織変化あるいは背景病変も毒性所見との鑑別診断にあたっては考慮しなければならない。以上のように,眼毒性の評価における病理組織学的検査は,十分な臨床および眼科学的検査所見の情報を得たうえで,適切な眼球の組織標本を作製し,用いた実験動物の眼球の特徴を把握した上で実施することが重要となる。これらの点を踏まえて,いくつかの事例を紹介したい。
ミニシンポジウム 若手研究者セミナー
  • 宮良 政嗣, 古武 弥一郎, 太田 茂
    セッションID: MS-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
     細胞内タンパク質及びオルガネラの品質管理は細胞機能の維持に重要であり,その破綻はパーキンソン病(PD)をはじめとする神経変性疾患発症機構の一つであると考えられている。近年,オートファジーが飢餓応答のみならず細胞内分解系として恒常的に機能していることが明らかとなり,オートファジー異常とPDとの関連性が注目されてきている。MPTPの活性代謝物であるMPP+はドパミン神経選択的毒性を示すためPDモデル細胞の作製に汎用されており,これまでに高濃度(数百 μM-数 mM)における毒性が多数報告されている。しかし,MPTP誘発PDモデル動物の脳においてMPP+はこのような濃度では存在せず,高濃度で起こる細胞内変化は実際のPD病態を反映していない可能性が考えられる。そこで本研究では,ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を用い,低濃度である10 μM MPP+がオートファジー及びその関連タンパク質に及ぼす影響を検討した。
     我々はまず,オートファジーの過程において形成される構造体であるオートファゴソームのマーカータンパク質LC3の局在及び発現パターンを調べた。その結果,10 μM MPP+ 48時間曝露によりオートファジーの典型的特徴であるLC3のドット状染色像及び膜結合型LC3(LC3-II)の増加が認められた。一方,10 μM MPP+はオートファゴソームの分解を担うリソソームの活性を阻害した条件下においてLC3-IIの増加を引き起こさず,オートファゴソーム合成促進ではなく分解阻害に働いていることが明らかとなった。さらに,10 μM MPP+はオートファジーの選択的基質p62の蓄積を引き起こした。以上の結果は低濃度MPP+がオートファジーを阻害し,オートファジー基質の蓄積を引き起こすことを示している。一方,10 μM MPP+は1週間曝露により神経細胞死を引き起こし,オートファジー阻害がこの神経細胞死に関与している可能性が考えられる。本研究により得られた知見はPD発症機構解明の一助となり得る。
  • 吉岡 亘, 川口 達也, 相田 圭子, 藤澤 希望, 島田 晃成, 遠山 千春
    セッションID: MS-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】2, 3, 7, 8-四塩素化ジベンゾ-p-ダイオキシン(TCDD)曝露は囓歯類に水腎症を引き起こす。水腎症は尿排出障害を原因としてヒトにおいても生じる疾患であり,重症例では腎機能消失に至る。授乳期TCDD曝露による水腎症は尿路の物理的閉塞を伴わないことから,何らかの機能の異常が原因と考えられた。そのような機能として尿管蠕動運動と尿濃縮を想定し,TCDD曝露影響を検討した。また,曝露により増加するプロスタグランジンE2 (PGE2)の役割を検証した。
    【方法】出産後1日目のC57BL/6系統の母マウスにTCDDを経口投与することで産仔に経母乳曝露した。尿管蠕動運動の指標として腎盂収縮頻度を,尿濃縮能の指標として膀胱中の尿重量と尿浸透圧を用いた。遺伝子発現はRT-qPCR法により,尿中PGE2はEIA法により定量した。各種遺伝子欠損マウス実験では,雌雄のヘテロ欠損型マウスを交配して得た野生型とホモ欠損型の産仔を比較した。尿量抑制実験では,抗利尿ホルモン誘導体dDAVPを新生仔に14日間腹腔内投与した。
    【結果と考察】新生仔の蠕動運動はTCDD曝露による変化がなく,尿量増加と尿浸透圧低下を見出した。曝露による尿量増加をdDAVPで抑制すると水腎症が抑制された。また,TCDD曝露は尿中PGE2レベル,ならびに腎におけるPGE2合成酵素(cyclooxygenase-2, microsomal prostaglandin E synthase-1 (mPGES-1), cPLA2α)の発現量を顕著に増加させた。これらの酵素の欠損または薬剤に因る活性阻害によりPGE2量と水腎症が抑制された。
    【結論】TCDDは,PGE2合成系を亢進させ尿濃縮メカニズムを撹乱することで水腎症を引き起こすことが判明した。
  • 伊藤 圭一, 山口 明子, 向井 大輔, 中嶋 圓, 林 真, 榊原 啓之, 下位 香代子
    セッションID: MS-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ヒトを含めたほとんどの哺乳動物の行動や生理的な変化は,約24時間を周期とした概日リズムを持っている。近年,この概日リズムに関連した生体反応の違いについて,時間薬理学や時間栄養学などの様々な分野で研究が行われ,臨床においては抗がん剤の時間治療も実施されている。安全性試験の分野では,ヒトでの安全性を評価するためにげっ歯類を用いた試験で得られた結果をヒトに外挿しているが,一般的な実験では,被験物質の投与や各種検査をマウスやラットなど夜行性動物の睡眠期にあたる明期に実施することが多い。一方,ヒトでは日中の活動期に種々の化学物質に曝露されることが多い。
    我々は,安全性試験における投与時刻の影響を検討する目的で,遺伝毒性試験の一つである小核試験を行った。明期(睡眠期)または暗期(活動期)に,変異原性を有するアルキル化剤であるN-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)を8~9週齢の雄性C3Hマウスに腹腔内投与し,その後経時的に尾静脈から採血して末梢血中の小核誘発頻度を調べた。その結果,暗期の投与では明期の投与よりも小核誘発頻度が有意な高値を示した。この機序を解明するために,骨髄細胞におけるp53標的遺伝子(p21,cyclin G1,bax)の発現をリアルタイムPCRにより検討した。また,フローサイトメーターを用いて細胞周期(G0/G1,S,G2期)を測定した。その結果,明期,暗期のいずれの投与時期においてもp53標的遺伝子の発現がENU処置により誘導されることが確認され,cyclin G1およびbaxについては,明期の投与で暗期の投与よりも発現量が高値傾向を示した。細胞周期については明らかな変化は認められなかったが,現在,細胞周期に対する影響に関して詳細な検討を進めており,これらの結果についても報告する。
  • 南谷 賢一郎, 小野田 訓子, 梶原 政朝, 斎藤 高史, 米重 智美, 山口 格, 出川 雅邦
    セッションID: MS-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年,ラット急性腎障害に対する尿中バイオマーカーの有用性は数多く報告されているが,慢性腎障害のバイオマーカーに関する報告は非常に少ない。Critical Path Instituteにより設立された安全性予測試験コンソーシアム(Predictive Safety Testing Consortium)から提出された薬剤誘発性急性腎障害に係るバイオマーカー相談(医薬品医療機器総合機構)においても,慢性的な腎障害の評価にあたって急性腎障害のバイオマーカーが有用であるか否か,その検証が求められている。
    そこで,我々はラットを用いて2種の慢性腎障害モデル(薬剤誘発性腎障害及び部分腎臓摘出モデル)を作製し,これまでに報告されている急性腎障害に対する尿中バイオマーカーの有用性を検証した。薬剤誘発性の慢性腎障害モデルの作製には,単回投与では明らかな腎病変が認められない用量のシスプラチンを使用し,ラットに反復静脈内投与して腎障害を惹起した。また,病態のタイプの異なる慢性腎障害モデルとして,5/6部分腎臓摘出ラットを用いた。それぞれの慢性腎障害モデル動物における各種尿中バイオマーカー候補成分を経時的に測定し,腎臓の病理組織所見との関連性を追究すると共に,従来の血中腎障害バイオマーカー(BUN,血清クレアチニン)の変動との関連性を調べた。その結果,薬物誘発性腎障害モデル,部分腎臓摘出モデル各々に特徴的な尿中バイオマーカー,また,両モデルに共通したバイオマーカーが見出され,ラット急性腎障害の尿中バイオマーカーとされているものの中には,ラット慢性腎障害の評価にも有用なものがあることが明らかとなった。本発表では,これらの結果をまとめて,ラットの慢性腎障害とその進展の評価に叶う尿中バイオマーカーを紹介する。
  • 川村 祐司
    セッションID: MS-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    製薬企業の安全性研究では,毒性試験関連のガイドラインに準拠しながら科学的に妥当な試験系を確立した上で,医薬品候補化合物の安全性を適切に評価する必要がある。遺伝毒性試験は,創薬後半から開発初期にかけて実施され,その結果は医薬品候補化合物の開発を進める上で重要なデータの一つである。昨年,発行された「医薬品の遺伝毒性試験及び解釈に関するガイダンス」では,標準バッテリーのオプション2において2 種類の異なる組織におけるin vivo 遺伝毒性試験を選択できること,並びに反復投与毒性試験に遺伝毒性評価を組み込めることになり,in vivo試験系の重要性がより高まっている。このような背景から,適切なin vivo試験系の選択は,製薬企業の安全性研究者にとって重要な研究課題である。理想的なin vivo試験系とは,生体で化合物の遺伝毒性を適切に評価でき,かつ反復投与毒性の評価も同時に行え,さらにその後の発がん性リスクを考察できる試験系と考える。その選択肢の一つであるトランスジェニックげっ歯類突然変異試験(TGRアッセイ)は,遺伝子レベルで変異を検出できることや長期投与での評価が可能である点で優れている。TGRアッセイに関するOECDテストガイドラインが一昨年に公表されたが,医薬品の評価に汎用されるためには,プロトコールの最適化及び標準化が必要である。この課題を解決するため,国立衛研及び他企業と協働で背景データを取得し,その結果を論文公表するなど一般化に取り組んでいる。本発表では,上記の点を踏まえ,TGRアッセイ用に開発されたgpt deltaラットを用いたタモキシフェン,トレミフェン及びフェナセチン等の遺伝毒性の解析結果について紹介し,TGRアッセイの有用性並びに今後の遺伝毒性評価の課題について報告する。
就活支援プログラム 安全性研究紹介-現役学生の就職活動支援-
  • 岡田 晃宜
    セッションID: JH-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    製薬企業での医薬品開発における非臨床安全性研究の使命は,実験動物や細胞などを用いて新規医薬品の安全性を明らかにすることにより,ヒトでの副作用発現リスクを的確に判断・予測して,ヒトに投薬した場合の安全性の担保並びに安全性の高い医薬品の創出に貢献することである。安全性研究により得られたデータは,薬理・薬物動態等の非臨床データ並びに臨床データと共に総合評価され,リスク・ベネフィットの観点から臨床開発品の選択,臨床試験の実施,当局による承認審査にとって重要な判断材料の一つとなる。当社における安全性研究所の業務は以下の3つに大別される。【創薬安全性研究】医薬品開発の早期段階でより安全性の高い開発品を選択するため,主に化学研究所で合成され薬理研究所で有効性が示された新規医薬品について,実験動物や細胞を用いた初期安全性評価を行う。また,オミックス研究などの新しい安全性評価系を用いた研究やiPS細胞やイメージング等の最先端の技術導入も行う。【開発安全性研究】創薬安全性評価が終了した開発品について,医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施基準(Good Laboratory Practice,GLP)に準拠した種々の非臨床安全性試験(一般毒性,生殖発生毒性,遺伝毒性,免疫毒性,がん原性,光安全性,安全性薬理など)を実施・評価する。これにより総合的に開発品の安全性を把握し,ヒトに対する安全性を質と量の両面から評価する。また,毒性メカニズムの解明や毒性バイオマーカーの開発により臨床開発を支援する。【開発申請業務】開発安全性研究により得られたデータをもとに,国内外での臨床試験実施に必要な治験薬概要書や世界各国での医薬品製造承認のための申請資料の作成を行う。また,それらの資料への当局からの照会事項に対して適切な回答書を作成することも重要な業務になる。
    上記の通り,医薬品の安全性研究では信頼性と科学の両面で質の高いデータを取得し,適切な科学的解釈に基づいたヒトに対するリスクアセスメントの実施が求められる。また,得られた評価を社内外問わずグローバルに発信・議論する必要もあり,獣医学,薬学,農学,理学等の幅広い分野から集まった志の高い研究者が研究に励んでいる。本発表では,製薬企業において医薬品の非臨床安全性研究を今後担当あるいは志す若手研究者を対象として,その目的及び業務内容について簡単に紹介する。
  • 廣田 衞彦
    セッションID: JH-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    化粧品は,薬事法の定義により「人の身体を清潔にし,美化し,魅力を増し,容貌を変え,又は肌若しくは毛髪をすこやかに保つために,身体に塗擦,散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で,人体に対する作用が緩和なものを言う。」と定められている。「新規原料を配合した化粧品の製造又は輸入申請に添付すべき安全性資料の範囲について」が1987 年に厚生省から発表されて以来,化粧品の安全性試験(9項目)は主として動物を用いる試験でヒトの安全性を予測することが指針となっていた。
    しかし,2001年4 月に規制が緩和され本公的指針は廃止され,化粧品の安全性評価は原則,企業の自己責任に基づいて行うことになり,安全性と信頼性が従来にも増して求められている。
    一方で,1980年代の動物愛護運動に端を発し,欧州においては,化粧品指令第7次改正において,2013/3以降に動物実験を実施した原料を配合した化粧品のEU域内での販売を禁止すること(一部の試験については,2009年に禁止)が規定されているため,動物代替法開発に関する大規模なプロジェクトが進行している。日本においても,多くの代替法開発に関する研究開発が産学問わず行われ,日本動物実験代替法学会や本学会においても,数多くの研究成果が報告されている。このことは,代替法に関する研究開発が,毒性研究の重要な分野の一つであることを示している。
    弊社においても,単回投与毒性試験,皮膚刺激性試験,感作性試験,光感作性試験,光毒性試験,眼刺激性試験の代替法開発について,単独または共同研究を通じて,取り組んでおり,いくつかの研究成果を報告している。さらに,他の毒性試験の代替法開発にも取り組んでいる。
    このような背景の中,本演題では,化粧品開発における安全性評価研究について,弊社における動物実験代替法開発の取り組みを中心に紹介し,将来を担う若手研究者における安全性分野を中心とした企業研究の一助としたい。
  • 田中 直子
    セッションID: JH-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    医療機器は,主にプラスチックを原材料とするシリンジや血液バックなどの単純な構造を有するものから,様々な素材で構成され複雑な構造を有する人工心臓に至るまで,その製品の原材料や構造には幅広い多様性がある。このように多様性を持つ医療機器の生物学的安全性については,どのように評価するのだろうか?
    医療機器の生物学的安全性評価にあたっては,まず,医療機器を「体のどの部分に接触するか」そして「その接触時間はどれくらいか」で分類する。そして,分類したカテゴリーによって,どのような試験を実施すべきかを検討する。例えば,体温計は健常な皮膚に一時的に接触(24時間以内)する医療機器に分類され,この様な医療機器は,細胞毒性試験,感作性試験,刺激性試験の実施を検討する。一方,血管内に留置されるステントは体内埋込機器として,組織や血液に長期間(30日を越えて)接触する医療機器に分類され,前述の3試験以外に,急性全身毒性試験,亜急性・慢性毒性試験,遺伝毒性試験,発熱性試験,埋植試験,血液適合性試験の実施も検討しなければならない。これらの試験に医療機器そのものを使用することができない場合は,医療機器を生理食塩液や有機溶媒で抽出し,その抽出物や抽出液を用いて評価する。一方で,血液適合性や急性・亜急性毒性などは,医療機器そのものを大動物で評価する有効性試験などと同時に実施する場合もある。このような評価方法は医薬品・化粧品には無い医療機器特有のものである。なお,厚生労働省への承認申請に必要な生物学的安全性試験は,全て医療機器GLP基準で実施することが求められている。
    当社では,獣医師,薬剤師,臨床検査技師の他,材料工学の専門家も加わってこのような評価を行っている。今後は更に複雑化したハイリスクの医療機器が開発されて来ることから,医療機器の生物学的安全性を担保するためには,さらに多様な専門的知識や技術を持った人材が求められる。
  • 神辺 玲子
    セッションID: JH-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    弊社は,「自然と調和するこころ豊かな毎日をめざして」を社是として,健康で豊かな暮らしに欠かせない生活用品を開発・生産し,消費者の皆様にご提供しています。その範囲は,身体洗浄料や歯みがきなどのパーソナルケア製品,基礎化粧品,衣料用洗剤や柔軟仕上げ剤,おむつや生理用品,特定保健用食品などの食品,工業用化学品などの幅広い製品分野に及んでおり,様々な特徴を有する低分子から高分子の有機化合物等を用いています。
    製品の安全性保証のためには,その用途や使い方,内容物やその性質等に応じて,皮膚に対する直接的なばく露,経口摂取による全身ばく露,吸入ばく露によるヒトの健康影響の視点からのアセスメントを行う必要があります。さらに,衣料用洗剤のように使用後に環境に排出される製品も少なくないため,下水処理施設における処理性や環境影響の視点からのアセスメントも行います。これらのアセスメントを行うために,皮膚毒性,全身毒性,遺伝毒性,体内動態,環境毒性などの有害性を評価しますが,その際には,基本的に既存の安全性情報と動物試験代替技術(in vitroin silico)を用います。現在,皮膚感作性,眼刺激性の代替技術の世界標準化への取組みと反復投与毒性の代替技術の開発検討に注力しています。環境影響リスク評価については,in silicoによる水環境のばく露解析技術の新規開発や生分解性の評価技術の導入に取組み,評価技術の革新に努めています。
    また,全てのお客様に安全に使用していただける製品にするために,内容物に対する科学的な安全性リスク評価を行うだけでなく,安全性科学研究所が容器の形状やサイズ,使用上の注意の記述内容にも意見を述べています。
    本発表では,弊社における家庭用品の安全性評価と研究に関する取組みを紹介する予定です。
  • 平塚 一幸
    セッションID: JH-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発における一般毒性試験とは,医薬品の候補となる化合物(以下,候補化合物)を哺乳動物に1回(単回)あるいは繰り返し(反復)投与し,候補化合物の作用よって生じる毒性変化を様々な検査を行い評価する試験である。一般毒性試験の基本的な試験方法については,世界標準的な基準(ICHガイドラインという)により定められており,またGLPという信頼性基準に関する省令に遵守して実施することが必須である。一般毒性試験で実施する検査には,いわゆる私たちが健康診断の時に実施する臨床検査(体重測定,血液生化学的検査,血液学的検査,尿検査,心電図検査,眼検査)と実験動物を用いた試験でしか行えない病理学的検査がある。一般毒性試験を実施する目的は,候補化合物の臨床治験の際にヒトで起こりうる副作用を予測して,それを医師,薬剤師及び被験者へ適切に情報提供することにより,治験が安全に進められるようにすることにある。したがって,ヒトに初めて投与される前に実施しておくべき極めて重要な試験の1つであり,候補化合物の持つ作用により生じる変化を用量と時間との関連で把握することが肝要である。また,げっ歯類(主にラット)と非げっ歯類(主にイヌ又はサル)の2種の実験動物を用いて実施し,候補化合物の持つ作用について種差も考慮して慎重に評価することが要求される。
    実験動物を用いる一般毒性試験の有用な点は,病理学的検査により候補化合物の毒性の標的となる臓器・組織を特定し,併せて実施した血液・血液生化学検査等の結果と関連付けて,その作用を質的に特徴付けることができる点にある。認められた変化が回復性の変化でることと併せて,重篤な副作用に至る前の段階で副作用の兆候を臨床的にモニタリングできるか否かは,医薬品を開発していくうえで重要なポイントになる。一方,実験動物とヒトとの反応性や代謝などの差は,認められた毒性所見の臨床的意義を考察するうえでの大きな障壁であり,可能な限りヒトへの外挿性が高い試験系を選択して評価することが重要な課題である。
    本演題ではいくつかの被験物質の一般毒性試験の結果を例示し,一般毒性試験の概要を紹介する。
  • 下村 和裕
    セッションID: JH-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    製薬企業では新薬の開発にあたり生殖発生毒性試験として,3種類の動物実験を実施し,妊娠と授乳に及ぼす影響を評価している。生殖発生毒性試験のガイドラインは1961年のサリドマイド事件を契機に,1963年に通知されたのが始まりである。1975年には3節試験ガイドラインに改訂が行われ,さらに,1994年には国際協調されたICHガイドラインへと発展した。試験の結果として,母動物の一般毒性学的影響,母動物の生殖に及ぼす影響,次世代の発生に及ぼす影響の3つのカテゴリーごとに無毒性量が評価される。
    受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は交配前から交尾,着床に至るまでの被験物質の投与に起因する毒性および障害を検索する試験である。雌では性周期,受精,卵管内輸送,着床および着床前段階の胚発生に及ぼす影響を検索する。雄では生殖器の病理組織学的検査では検出されない機能的影響(例えば性的衝動,精巣上体内の精子成熟)を検索する。
    出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験は着床から離乳までの間,雌動物に被験物質を投与し,妊娠および授乳期の雌動物,受胎産物(胎盤を含む胚・胎児)および出生児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。この試験で誘発される影響は遅れて発現する可能性があるので,観察は出生児が性成熟期に達するまで継続する。出生前および出生後の児(胚,胎児および出生児)の死亡,成長および発達の変化,行動,成熟(性成熟を含む)および生殖を含む出生児の機能障害を検索する。
    胚・胎児発生に関する試験は着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中雌動物に被験物質を投与し,妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。着床から硬口蓋の閉鎖までの期間は胎児の器官が形成される時期であり,妊娠期間中で最も奇形が起こりやすい期間である。胚・胎児の死亡,成長の変化および形態学的変化を検索する。
  • 岡田 恵美子
    セッションID: JH-7
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    遺伝毒性とは,遺伝子の本体であるDNAや染色体などに傷をつけることで,遺伝子や染色体の構造を変化させる作用である。DNAや染色体の傷害が生体の細胞に生じ,修復されず固定化されてしまうと,細胞のがん化や次世代に対して遺伝性疾患を引き起こすなど,生命に重篤な影響を与える可能性がある。そのため,開発中の医薬品,食品添加物,農薬および一般化学物質などについては,一般毒性などと合わせて遺伝毒性の評価が必要である。
    遺伝毒性の有無を検出する試験(遺伝毒性試験)は,細菌などの微生物,培養細胞,実験動物などを用いて行われる。また,遺伝毒性を有する物質(遺伝毒性物質)はDNAや染色体に様々な形で傷害を引き起こすため,遺伝学的指標の異なるいくつかの試験を組み合わせて遺伝毒性を総合的に評価する必要がある。遺伝学的指標としては,① 遺伝子突然変異誘発性,② 染色体異常誘発性,③ DNA損傷性などが用いられる。このような試験で陽性となった物質は,ヒトに対する発がん物質や遺伝性疾患を引き起こす物質である可能性がある。
    医薬品の非臨床安全性評価に関する国際的な基準であるICHガイドラインでは,遺伝毒性試験の標準的組み合わせとして2つのオプションが示されている。
    オプション1:「細菌を用いる復帰突然変異試験」,「染色体傷害を検出するための細胞遺伝学的試験(in vitro分裂中期での染色体異常試験またはin vitro小核試験)またはマウスリンフォーマTk試験」,「in vitro遺伝毒性試験(一般には,げっ歯類造血細胞での染色体傷害,すなわち小核または分裂中期細胞の染色体異常を検出する試験)」の組み合わせ。
    オプション2:「細菌を用いる復帰突然変異試験」,「2種類の異なる組織におけるin vitro遺伝毒性試験(一般には,げっ歯類造血細胞を用いる小核試験および2つ目のin vitro 試験)」の組み合わせ。
    通常,いずれかのオプションを選択して試験を実施し,1試験でも陽性結果が得られた場合には追加試験を行い,より広範な検討を行う必要がある。
    本発表では,遺伝毒性試験法やその評価について紹介する。
  • 坪内 義
    セッションID: JH-8
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    医薬品開発における適正な安全性薬理試験の実施は,医薬品による有害作用から臨床試験参加者及び市販品の服用患者を保護する重要な目的を担う。その安全性薬理試験実施に関してはICH S7Aガイドラインが合意されており,その遵守が求められている。本ガイドラインによれば,安全性薬理試験とはヒトの安全性に関連のあると思われる被験物質の望ましくない薬力学的特性を特定すること,毒性試験もしくは臨床試験で認められた被験物質の有害な薬力学的作用及びその機序を検討することであり,一般毒性試験などの通常の観察や検査法では必ずしも十分検出できない生体機能変化を,特定の試験系を用いて評価することである。また,いくつかの医薬品はその心室性不整脈作用から極めて重篤な健康被害を引き起こしたが,被験物質の心室再分極遅延作用の可能性を評価するためのICH S7BガイドラインがICH S7Aを補完する形で合意され,その取り組みは医薬品の催不整脈作用の払拭に多大な効果をもたらした。
    安全性薬理試験には,コアバッテリー試験(生命維持機能に重要な影響を及ぼす中枢神経系,呼吸系,心血管系に対する評価)と呼ばれる比較的定型的な試験パッケージと,各化合物やその薬理学的特性などに応じて実施されるフォローアップ試験や補足的安全性薬理試験に大きく分類され,その実施如何や実施時期,試験デザインには十分な配慮が必要とされ,GLP基準による信頼性も要求される。一方,これら治験申請や製造承認に要する安全性薬理試験とは別に,初期安全性薬理評価法が研究初期段階において盛んに組み込まれ,実践されている。すなわち,創製された多数の化合物を,ハイスループット技術を駆使し,その安全性を早期にスクリーニングする試験技術が開発,運用されており,研究初期段階における安全性の高い化合物選別が高次研究開発段階でのドロップアウトを防ぎ,研究開発の時間短縮や費用削減を実現している。
    本ミニシンポジウムでは安全性薬理試験の概要を説明するとともに,最近の安全性薬理試験の戦略的な初期評価についても少し紹介する。
オープンシンポジウム Clinical Safety「基礎から学ぶベネフィット・リスク評価-医療現場へのフィードバックを考える」
  • ファーマコビジランス 分科会
    セッションID: OS
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    本シンポジウムは,日本医薬品情報学会共催,日本製薬医学会(JAPhMed)および安全性評価研究会の協力により,個々の医療へ直接役立つリスク評価のために,立場を超えて直接対話により臨床医療現場のニーズを把握し,連携により応えて行けるよう,より臨床に近い分野からも多くご参加頂くため「オープンシンポジウム」として新設された.(本会参加者は無料) より一層の非臨床と臨床との連携により,最新のサイエンスに基づき,副作用発現のメカニズムもしくはリスク因子を明らかにすることで,個々の医療における副作用リスクを制御し易くなり,リスク低減化へ繋がることが期待される.また,副作用リスクの大きさと医療から得られるベネフィットとのバランスを検討し易くなる可能性も考えられる. これまで,シンポジウムPV1において具体事例での非臨床・臨床連携ディスカッションを継続して行く中,非臨床専門家が臨床安全性の視点を学び,臨床へ還元しようとする際に,情報の受け手である臨床・医療専門家も非臨床安全性評価の仕組みを理解し,「個々の医療のリスク低減化」のために必要となる非臨床データの解釈について非臨床専門家へ問いかけ,欠けている情報もしくは欠けている視点を明らかにして行くことができるような仕組みが必要ではないかとの声を双方の立場から頂いた.2013年4月には国内でもリスク最小化計画を含む「医薬品リスク管理計画」が本稼働し,企業におけるファーマコビジランスの重要性がより明確になるとともに,リスクマネジメントの最前線にある医療専門家も副作用リスクのプロファイルを理解することで,個々の医療の最適化に活かせるようになることが重要となる. このような背景の中,本セッションでは国内外の規制の動向,革新的新技術導入により変革期にある非臨床試験の動向を紹介するとともに,実際の医療現場において非臨床データが重大副作用リスク回避に活かされた事例について医療現場から紹介頂く.さらに,事前に日本医薬品情報学会の協力により非臨床データの解釈等に関する質問を頂き,非臨床専門家が答える形でQ&Aセッションを設け,最前線のサイエンスの知見を得てシンポジウムPV等で討議すべき課題,オープンシンポジウムQ&Aで立ち位置により異なる視点や考え方を整理して行く必要のある点を検討し,今後,発展的に討議して行くための起点としたい. 1)シンポジウム ファーマコビジランス参照
  • GEARY Stewart
    セッションID: OS-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    Formal benefit-risk evaluation has taken on new importance both during the development of new drugs and during marketing ever since the adoption of the Development Safety Update Report (DSUR), the new Periodic Benefit Risk Evaluation Report (PBRER) and new formats for the Risk Management Plan (RMP). A key principal of benefit-risk evaluation is to bring all forms of expertise to bear on the assessment of both risks and benefits. Nonclinical and clinical safety scientists, pharmacists and physicians have an important role to play in these evaluations and bring complementary skills to the scientific, mechanism-based assessments of safety and efficacy information. This session seeks to create a forum for free exchange of ideas and information from nonclinical and clinical experts on how we can improve patient safety and the balance of benefits and risks. An overview will be presented on the new landscape for benefit-risk evaluations and how these assessments are used in international reports such as the DSUR, PBRER and in national and regional RMP’s. The viewpoints of a hospital pharmacy division on patient safety will be presented followed by a perspective on some of the latest work in hypothesis-directed nonclinical toxicity studies. These will be followed by a discussion from a clinical perspective on patient safety and practical advice on how nonclinical safety experts can contribute to risk minimization.  
  • 政田 幹夫
    セッションID: OS-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    リスク管理計画(RMP : Risk Management Plan)が本年4月以降に承認申請される医薬品について実施されている。対象となるリスクは承認審査時や製造販売後に安全性検討事項として示された「重要な特定されたリスク」,「重要な潜在的リスク」および「重要な不足情報」であり,それぞれに安全対策が取られる。医療現場に勤務する薬剤師は,RMPを実践し,医薬品を社会に適用する重要な役割を担っている。そのためには,医薬品の特徴を基礎から臨床まで一貫した情報として精査した上で,適正使用に努めなければならない。当院では,新規の医薬品を採用する際には,臨床薬理学・薬物動態学・製剤学・医薬品情報学・薬剤疫学・医療経済学等の多方面にわたる専門的観点から,臨床における医薬品の使用を想定したベネフィット・リスク評価を行い,必要に応じて適正使用のための対策を種々実施している。医薬品は製造承認を取得し,薬価収載されたからといって,ベネフィット・リスク評価が定まったわけではない。特に,安全性に関しては,治験の結果から得られる情報は限定的であり,市販後の急激な対象者の拡大により,発売開始後の早い段階から相次いで重大な有害事象が報告されることも少なくない。これを回避するためには,「重要な特定されたリスク」,「重要な潜在的リスク」に対する事前の評価と対策が不可欠であり,「重要な不足情報」は専門医による,予測・評価・判断の下での使用が有用であると考える。さらに,新規の作用メカニズムを持つ薬剤では,安全性に関する過去の蓄積情報に乏しく,市販後の注意深い観察を繰り返しながら,RMPを見直し,より良い医薬品へと育てていかなければならない。疾患を抱えた多くの人々が,医薬品に自分の健康を託していることを忘れず,医療に関わる全ての人が一丸となって,最も良いアウトカムが得られるよう取り組まなければならない。
  • KAMP Hennicke Georg , WALK Tilmann, 石川 玄, MOELLER Niels, RAVENZWAAY Be ...
    セッションID: OS-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    We have developed a metabolomics data base (MetaMap®Tox) containing the plasma metabolome changes induced by more than 500 data rich chemicals, agrochemicals and active pharmaceutical ingredients derived from 28 day repeated dose toxicity studies in Wistar rats. Throughout its routine application within BASF’s experimental toxicology department, we have shown the robustness, reproducibility and predictive performance of this technique in combination with our reference data base MetaMap®Tox.Based on metabolite profiling after 7, 14 and 28 days of treatment with the test substances, more than 110 characteristic patterns of metabolite changes have been validated that are specific for a given toxicological effect. These patterns a based on common metabolome effects of groups of reference compounds, which share a common toxicological effect, pathway or mechanism. These pathways comprise different mechanisms of toxicity in e.g., liver, kidney, thyroid, adrenals, testis, the endocrine system and many more target organs. Although the patterns have been developed for the application in 28 day rat studies, the majority of them can also be used for a plasma metabolome analysis in shorter studies, such as exploratory 14 day rat studies. Metabolic profiling has capabilities in detecting signals in preclinical studies that might portend clinical DILI. Such directed non-clinical studies can help to minimize the risk of medication in clinical studies. Examples for patterns as well as case studies on DILI will be shown to display the value of the metabolome analysis in the context of targeted preclinical testing.
  • 苗代 一郎
    セッションID: OS-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    医療現場では日常的に多くの医薬品が使われている。非臨床試験や治験で得られた開発品に関わる情報は、臨床に適用した際のリスクを予見し、必要な規制や監視を行うために規制当局と論議した後、添付文書としてそれぞれの医薬品に同封される、また、製薬メーカーはインタビューフォームを作成して医療現場への情報提供に努めている。一方、医療現場では副作用発現リスクをコントロールできる有効かつ理解し易い情報が不足しているとの声もある。このような医療現場のニーズに応えるには非臨床研究者も医療現場での薬剤の使われ方を理解し、どのような情報が求められているかを学ぶことが重要である。今回、日本医薬品情報学会の協力により医療現場の視点から寄せられた問いかけに対して、非臨床研究者・臨床担当者が連携して作成した回答を発表する予定である。
学会賞・奨励賞
学会賞
  • 山添 康
    セッションID: GA
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    薬物代謝・動態の毒性理解への適用が叫ばれ30年近い年月が経過している。この間に代謝・動態について分子レベルで様々な角度から解析され,酵素(機能タンパク)分子種の多様性や代謝的活性化の経路についてはかなり詳細なデータが現在までに蓄積されている。ヒトP450代謝酵素の解析過程で,ラットやイヌとヒトの酵素間に基質特異性と酵素誘導に明確な種差があることが判明し,少なくともヒトに適用する医薬品の代謝はヒト由来の試験系を用いて評価することになった。
    慶応薬理在籍時にCYP3ゲノム構造を世界で最初に解明したこともあり東北大に移動してからも,我々はCYP3A4 のオーファン受容体による転写活性化の解析を進めた。PXR の活性化は当初1カ所のシスエレメントで説明されていたが,新規PXRエレメントを主体とする3カ所の相互作用によって転写が促進されることを明らかにした。この結果を基にこれら核内受容体シスエレメントを含むレポーター遺伝子安定発現細胞株の開発を行い,再現性の良い誘導能の判定を可能にした。これら株は製薬企業等で既に開発候補品の選定に利用されている。ヒトCYP1A1 とCYP1A2 は,前者の発現が誘導時のみに限定されるのに対して,後者は常在性である。AhRによる誘導が個別に起きるのか,共通の機序を介して起きているのかは当時不明であった。我々は2遺伝子が直結した遺伝子を単離して,誘導に関与するエレメントを同定し,共通のシスエレメントを介して転写制御されていることを明らかにした。またAhR と共にCAR による直接制御も明確にした。これら代謝に関連する標的遺伝子の転写調節領域には,PXRやCARだけでなく,LXR,FXR,SREBPやHNF4等との相互作用部位があり,これらの転写相互作用を介して,標的遺伝子の発現レベルが規定されているものと考えられる。ところで,これら核内移行シグナル系は合成化学物質の代謝・動態に関わる標的遺伝子の解析から機序が明らかになったが,現在ではコレステロールと脂肪酸およびそれらの誘導体の代謝・動態の調節が本来の機能であるとされている。例えばアンピシリンの投与は腸内細菌による胆汁酸代謝を変化させ,消化管FXRによるFGF15/19の発現抑制を介して胆汁酸の肝合成と消化管における吸収を変化させることがわかってきた。今後酵素誘導現象は薬物の代謝変動と共に,脂質動態変動の指標として毒性理解に役立つことが期待される。
    医薬品を含む異物の代謝にヒト肝に発現する約10種のCYP 分子種が関与している。これら分子種は実験動物種のCYP と一次構造が類似するが,基質特異性が異なっている(種差)。また基質の構造が類似していても代謝に顕著な違いを生じることがあり,個々の開発中の薬物ごとにヒト試料を用いて現在評価されている。最近,医薬品開発の効率化を目指してCYP 結晶由来の立体モデル系が開発され,ヒトCYP 分子種の代謝を予測する手法が開発されてきた。しかしこの手法の汎用性と精度は低く,実用域に到達していない。一方新薬開発の際に実施された豊富なヒトCYP 発現系の代謝データがあり,これらのヒトCYP 発現系の代謝データを用いて基質側からCYP 分子種の活性部位を再構築することができれば,精度の高い予測系が構築できると考えた。医薬品等の開発においては,代謝・動態部門内だけでなく合成・薬理部門等との認識共有が重要であり,代謝物の同定だけでなく,構造の改変情報を提供できるシステムを前提に開発を行った。これまでにヒトの主要分子種であるCYP2E1, CYP2B6, CYP4A11 およびCYP2D6について固有のテンプレートと条件配置,そして革新的な2分子同時配位を組み合わせることで基質・貧基質判別だけでなく,代謝部位を立体選択的に予測できる手法を開発した。これらの分子種についてはいずれも95%以上の予測精度を示している。現在CYP1A2およびCYP3A4のテンプレートを作成し,判定手法を構築している。
奨励賞
  • 後藤 浩一
    セッションID: SA1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    キノロン系抗菌薬(キノロン薬)は,幼若動物に関節毒性を引き起こすことから,多くのキノロン薬で小児への投与は禁忌であり,その発症機序については未だ明らかではない。本研究では,関節毒性発症に関与する因子を見出すため,1)キノロン薬を投与した雄性幼若ラット(3週齢)の関節軟骨における遺伝子発現変動を網羅的に解析した。また,2) 関節毒性を示さないキノロン薬を投与した幼若ラットの関節軟骨について,見出された関節毒性と関連する遺伝子の発現を調べた。さらに,3)尾懸垂処置を施した幼若ラットを用いて,軟骨に対する荷重負荷の病変形成及び関節毒性関連遺伝子の発現に及ぼす影響を調べることで毒性発現機作を考察した。
    1)キノロン薬ofloxacin(OFLX)の900 mg/kgを単回経口投与した幼若ラット大腿骨遠位関節軟骨について,GeneChipを用いた遺伝子発現解析を実施した。次に,OFLXの100,300,及び900 mg/kgを単回経口投与した幼若ラットの大腿骨遠位関節軟骨について,real-time RT-PCRにより,GeneChip解析で変動のあった遺伝子の発現を調べた。その結果,Dusp1,Tnfrsf12a,Ptgs2,Fos,Mt1a,Plaur,及びMmp3の用量依存的な発現の増加,並びにSstr1及びHas2の用量依存的な発現減少が認められた。さらに,Tnfrsf12a,Ptgs2,Plaur,及びMmp3遺伝子に対するin situ hybridizationを実施した結果,これら遺伝子は,軟骨病変部位周辺で発現が増加することが確認された。以上,OFLXの関節毒性には,軟骨細胞における細胞死,炎症反応,ストレス反応,及び蛋白溶解関連遺伝子の発現増加が重要な役割を果たしていることが示唆された。
    2)新規キノロン薬DC-159aあるいはDX-619の300及び900 mg/kg/dayを7日間反復経口投与した幼若ラットでは,関節軟骨に組織変化は認められなかった。そこで,DC-159a及びDX-619の900 mg/kgを単回投与した幼若ラットの大腿骨遠位関節軟骨について,OFLXを投与した幼若ラット関節軟骨で変化が認められた9つの遺伝子発現を調べた。その結果,DC-159aあるいはDX-619を投与したラットでDusp1,Fos,及びMt1aの発現増加並びにSstr1及びHas2の発現減少がみられたが,Tnfrsf12a,Ptgs2,Plaur,及びMmp3には明らかな変化は認められなかった。以上,OFLXの関節毒性発症には,Tnfrsf12a,Ptgs2,Plaur,及びMmp3遺伝子の発現が重要であると考えられた。
    3)キノロン薬関節毒性発症と軟骨に対する荷重負荷の関係を調べるため,OFLXの900 mg/kgを幼若ラットに単回経口投与し,投与後速やかに2,4,及び8時間後まで,尾懸垂処置を施した幼若ラットの大腿骨遠位関節軟骨について,投与8時間後に組織学的検査を実施するとともに,Tnfrsf12a,Ptgs2,Plaur,及びMmp3遺伝子の発現量を調べた。その結果,尾懸垂時間の延長に伴い通常飼育条件下で認められた関節軟骨の組織学的変化及び遺伝子発現が軽減する傾向が認められ,尾懸垂8時間処置ではこれらの変化は認められなかった。
    以上,OFLXの関節毒性発症において,軟骨への荷重負荷及びTnfrsf12a,Ptgs2,Plaur,及びMmp3遺伝子発現量の増加が軟骨病変形成に重要であることが明らかとなった。
  • 高橋 勉
    セッションID: SA2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    薬毒物に対する感受性には個体差が存在し,遺伝的に感受性の高い人々は比較的少量の薬毒物に曝露されただけで健康に障害が生じると考えられる。しかし,薬毒物感受性に関わる遺伝子はほとんど明らかにされていない。この薬毒物感受性に関わる遺伝子が判明すれば,高感受性グループの特定が可能となるだけではなく,毒性発現の分子メカニズムの解明にも繋がる。我々は,真核生物モデル細胞として遺伝子産物(蛋白質)の多くがヒトなどの哺乳動物と機能的に共通し,かつ,遺伝学的解析が容易な出芽酵母を用いて,薬毒物に対する感受性に影響を与える蛋白質をスクリーニングする方法を確立した。本法は出芽酵母に存在するほぼ全ての蛋白質(約6,000種)をそれぞれ欠損または発現抑制させた酵母株ライブラリーを用いて,薬毒物に対する感受性を高める蛋白質と低下させる蛋白質の両方を同時に精度良く,かつ,網羅的に検索するものである。我々は本スクリーニング法を用いて,様々な薬毒物(アドリアマイシン,亜ヒ酸,メチル水銀,パラコートなど)に対する感受性の決定に関わる蛋白質を多数同定することに成功した。それら蛋白質のほとんどは初めて薬毒物感受性に関与することが明らかになったものであり,本スクリーニング法は薬毒物に対する感受性決定機構の全容解明に大きく貢献出来るものと考えられる。
    アドリアマイシンに関しては,欠損することで酵母に制がん剤であるアドリアマイシン耐性を与える蛋白質として細胞内小胞輸送経路に関わる因子が13種同定されたが,これらは全てエンドサイトーシス経路の初期過程に関わるものであった。一方,欠損によって酵母にアドリアマイシン高感受性を与える蛋白質の中にAkl1(機能未知のプロテインキナーゼ)が含まれていた。我々はアドリアマイシン感受性決定機構におけるAkl1の機能解析を行い,Akl1がエンドサイトーシス経路の初期過程に関わるSla1/Pan1/End3複合体中の構成蛋白質Pan1のリン酸化を介してその複合体の解離を促し,その結果としてエンドサイトーシス経路の初期過程を抑制することによって,アドリアマイシン毒性を軽減することを初めて明らかにした。Akl1のヒトホモログで,Akl1と同様にエンドサイトーシス活性を抑制する機能をもつAAK1を高発現させたヒト培養細胞もアドリアマイシン耐性を示したことから,酵母細胞のみならずヒト細胞においてもリン酸化を介したエンドサイトーシス経路の制御機構がアドリアマイシン耐性獲得機構において重要な役割を果たしていると考えられる。
    一方,細胞内小胞輸送経路のうち,小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路の抑制がアドリアマイシン感受性を増強することも明らかとなった。小胞体からゴルジ体への小胞輸送経路を抑制すると,エンドサイトーシス経路の抑制によるアドリアマイシン耐性獲得作用が減弱することも判明した。これらの事実は,エンドサイトーシス経路の抑制が何らかの蛋白質の小胞体からゴルジ体への輸送を亢進させ,それによってアドリアマイシン毒性を軽減している可能性を示唆している。これまでに,細胞内小胞輸送経路とアドリアマイシン毒性との関係が検討されたことはなく,本知見はアドリアマイシンの新しい毒性発現機構の解明に有用な知見を与えるものと考えられる。
一般演題 口演
セッション1 新規物質(ナノマテリアル等)-1
  • 髙橋 秀樹, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 市橋 宏一, 西嶌 伸郎, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-1
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ナノマテリアル(NM)が,未だ多くの知られざる生体影響を有していることは疑いようのない事実であり,安全性確保や有効活用に向けて,その全貌の解明が待望されている。一方で,化学物質の生体影響は,実験動物の系統間で大きく異なることは周知の事実であり,その安全性評価においても遺伝的多様性を考慮することは必要不可欠である。しかし,遺伝的背景を考慮したNMの生体影響を評価した検討は未だ皆無に等しい。さらに,多系統の実験動物を用いた検討は,NMによる新たな生体影響の発見や,生体影響発現メカニズムの解明においても極めて有効な手法になると考えられる。そこで本検討では,粒子径70 nmの非晶質ナノシリカ(nSP70)を高用量投与することで誘導される急性毒性に焦点を絞り,様々な系統のマウスを用いて生体影響を比較解析した。異なる5系統のマウス(BALB/c,C57BL/6,NC/Nga,C3H/HeN,C3H/HeJ)にnSP70を尾静脈内投与し,経時的に体温を測定すると共に,投与から24時間後に生化学試験を実施した。その結果,NC/Nga,C3H/HeN,C3H/HeJにおいては,一過性の体温低下が観察されたのに対して,BALB/c,C57BL/6においては体温変化が認められなかった。さらに,NC/Ngaでは肝障害マーカーの有意な上昇が認められると共に,体温低下が誘導されなかったBALB/cにおいても,その有意な上昇が認められた。以上の結果は,マウスの系統により急性毒性の発現が異なり,NMの有する未知の生体影響を解析するには,単一系統のマウスのみを用いた検討では不十分であることを示している。一方で,この事実は逆に,NMによる未知の生体影響を解明するうえで,本手法が極めて有効であることを示唆している。今後,本手法を用いた検討から得られる情報と,各実験動物における遺伝情報との統合が,NMによる生体影響の機構解明に繋がる事を期待する。
  • 國枝 章義, 東阪 和馬, 永野 貴士, 岩原 有希, 田中 康太, 畑 勝友, 角田 慎一, 吉岡 靖雄, 堤 康央
    セッションID: O-2
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    非晶質ナノシリカやナノ酸化チタンをはじめとするナノマテリアル(1次粒子径100 nm以下の素材)は,従来素材とは異なる有用機能を発揮することから,既に化粧品などに応用されている。しかしながら,ナノマテリアルの安全性評価研究(Nano-Safety Science;NSS)は,世界的に見ても不十分であり,本観点から我々は,ナノマテリアル曝露により誘発される生体影響とナノマテリアルの物性,体内・細胞内動態との連関解析を推進することで,有用かつ安全なナノマテリアルの創製に資する基盤情報(Nano-Safety Design;NSD情報)の収集を図っている。これまでに我々は,食品添加物や化粧品基材として既に用いられている非晶質ナノシリカが,その物性によっては,血中G-CSF量の増加に伴う末梢血好中球画分の増加を誘導することなどを明らかとしてきた。そこで本研究では,好中球が生体防御の第一線を担う中心的因子であることを鑑み,非晶質ナノシリカを投与した際の生体影響について免疫学的な観点から解析した。BALB/cマウスに,粒子径70 nmのnSP70,および従来素材である粒子径300 nm,1000 nmのnSP300,mSP1000を尾静脈より単回投与し,投与24時間後にモデル抗原としてニワトリ卵白アルブミン(OVA)を腹腔内に投与した。最終投与2週間後に血液を回収し,OVA特異的抗体価をELISAにより評価した。その結果,nSP70を前投与した群において,OVA単独投与群,およびnSP300,mSP1000を前投与した群と比較し,OVA特異的IgG価が有意に増加することが示された。このことから,nSP70の前投与により,OVA特異的IgGの誘導が促進される可能性が示された。現在,これら生体応答の発現とnSP70曝露により誘発される末梢血好中球画分の増加との連関について精査している。
  • 森 宣瑛, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 三里 一貴, 宇髙 麻子, 平井 敏郎, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-3
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年,ユッケ食中毒事件といった食の安全を脅かす事件が多発しており,食の安全・安心の確保はますます待望されている。特に,その有用性から,1次元が100 nm以下のナノマテリアル(NM)の食品分野への応用が進んでいるが,NMの安全性評価はまだ始まったばかりであり,より詳細に取り組んでいく必要がある。本観点から我々は,食品に含まれるNM(食品NM)の安全確保を目標に,食品NMのハザード同定や体内動態解析をはじめとしたナノ安全科学研究を推進している。特に,腸内細菌が肥満・免疫機能を制御し得ることが判明しつつあることを考慮すると,食品NMの安全性を評価するうえで,一般毒性学的解析のみならず,腸内細菌叢に対する影響評価も重要なポイントになると考えられる。そこで本検討では,食品NMの中でも最も汎用されている非晶質シリカを用い,経口投与後の一般毒性と腸内細菌叢への影響を解析した。本検討では,1次粒子径が1000,300,70,30 nm,およびカルボキシル基・アミノ基で表面修飾された1次粒子径が30 nmの非晶質シリカを用いた。これら物質をBALB/cマウスに28日間経口投与した後,血球検査・血液生化学検査を実施すると共に,腸内細菌叢の組成をT-RFLPにより解析した。その結果,一般毒性学的な影響は認められない一方で,粒子径が70 nm以下の非晶質ナノシリカ投与群では,Lactobacillalesの割合が有意に減少していた。Lactobacillalesに属する菌は,腸炎発症を予防することが報告されており,今後は,炎症性腸疾患といった炎症性疾患の発症・悪化に食品NMがおよぼす影響を評価する必要があると考えられる。また現在,腸内細菌叢の絶対数や,腸内細菌の代謝産物である短鎖脂肪酸などを測定し,より多方面から腸内細菌叢を解析している。
  • 三里 一貴, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 宇髙 麻子, 森 宣瑛, 平井 敏郎, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-4
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    食の安全・安心が求められている昨今,非晶質ナノシリカ(nSP)をはじめとする食品NMの安全性評価・確保が,これまで以上に待望されている。本学会においても,当研究室の森が発表予定であるが,nSPは経口曝露後,曝露局所であるパイエル板,腸管膜リンパ節だけではなく,肝臓や脾臓などの全身臓器へ移行するものの,目立った一般毒性学的影響は認められないことなどを明らかとしている。一方で,曝露局所である腸管は,内なる外と言われるように,常に食物抗原やウィルスなどの外来異物と接触しているため,独自の免疫機構を構築しており,人体最大の免疫組織として知られている。本観点から,食品NMの安全使用に資する基盤情報収集のためには,一般毒性学的観点のみならず,免疫学的観点からの解析も必要であると考えられる。特に,我々がnSPを経口摂取する際には,多くの食物抗原と同時に摂取しているため,nSPが食物抗原に対する免疫応答に及ぼす影響を評価することは非常に重要である。そこで本発表では,食物抗原の一種であるニワトリ卵白アルブミン(OVA)と粒子径30 nmのnSP(nSP30)を共に経口摂取した際の,OVAに対する免疫応答の変化を解析した。C3H/HeJマウスにOVAとnSP30(OVA/nSP30)を経口投与し,抗原特異的な抗体産性を評価した。その結果,OVA単独投与群と比較して,OVA/nSP30共投与群では有意な抗原特異的IgG抗体の産生が認められ,nSPを摂取することで抗原に対する過剰な免疫応答が誘導される可能性が明らかとなった。食物抗原に対する過剰な免疫応答は,免疫寛容の破綻を誘導し,食物アレルギーの発症を誘発する。本観点から現在,nSPの経口摂取が免疫寛容,および食物アレルギーの誘導に与える影響を精査している。将来的に本研究の成果が,nSPの安全な使用や社会受容の促進に貢献できることを期待している。
  • 森下 裕貴, 吉岡 靖雄, 高雄 啓三, 吾郷 由希夫, 佐藤 宏祐, 野尻 奈央, 田中 智大, 田熊 一敞, 角田 慎一, 松田 敏夫, ...
    セッションID: O-5
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    本邦において,自閉症,学習障害,注意欠陥多動性障害などに罹患する子供は増加の一途を辿っている。一方で近年,妊娠期の環境物質曝露が,子の脳機能異常を誘発する例が報告されており,我々を取り巻く環境物質と,子供の脳機能異常との因果関係を解明していくことが重要課題である。本観点から我々は,実用化が進展しているナノマテリアル(NM)と,子供の脳機能異常との因果関係に着目し,Sustainable Nanotechnology(NMの社会受容の促進)に資する情報の収集を目指した,「こころの安全科学」研究を推進している。その結果,高用量を静脈内投与したハザード同定であるものの,70nmの非晶質ナノシリカ(nSP70)の妊娠期曝露が,胎仔発育不全を誘発する一方で,仔の記憶機能には影響を与えないことを明らかとし,昨年の本会でも報告している。我々は現在,記憶にとどまらず多岐に渡る脳機能を網羅的に解析しており,本演題では,nSP70を妊娠期曝露した仔の情動機能を評価した結果を発表する。妊娠16,17日にnSP70を静脈内投与されたマウスの仔について,高架式十字迷路により不安様行動を,強制水泳テストと尾懸垂テストによりうつ様行動を評価した。その結果,高架式十字迷路と強制水泳テストにおいて,群間のスコアに有意な変化は認められなかった。一方で,尾懸垂テストにおいて,nSP70を曝露したマウスの仔の活動量が対照群と比較して有意に減少したことから,今後より詳細な検討が必要であるものの,nSP70の妊娠期曝露が,仔のうつ様行動を亢進する可能性が示された。NMが次世代の脳機能に与える影響を評価した例は乏しいことから,本結果はNMの安全性確保の側面のみならず,環境物質とこころの問題における新知見と考えられる。今後は,実際の曝露経路を加味し閾値を追求すると共に,本現象のメカニズム解明を進める予定である。
セッション2 新規物質(ナノマテリアル等)-2
  • 青山 道彦, 吉岡 靖雄, 山下 浩平, 平 茉由, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    優れた殺菌/抗菌効果を発揮する銀粒子は,粒子径の微小化に伴い,その抗菌活性を飛躍的に向上させることから,既に直径10~100 nmのナノマテリアル(NM),1~10 nmのサブナノマテリアル(sNM)としての応用が急速に進展している。従って,銀微小粒子の安全性担保に向け,物性-動態-安全性の詳細な連関解析によるナノ安全科学研究が急務となっている。特に近年,NMが生体蛋白質と相互作用し,NMを核とした蛋白質の層構造(プロテインコロナ)が形成されることが報告され,NMの動態・安全性を制御する可能性が示されつつある。しかし,粒子径や表面性状といった物性が,プロテインコロナの形成におよぼす影響は未だ不明な点が多い。特にsNMは,当研究室が昨年の本会で報告したように,分子ともNMとも異なる動態・生体影響を示すことから,粒子径の違いがプロテインコロナの形成に影響を与えた可能性が疑われる。そこで,本検討では,物性-プロテインコロナ形成-生体影響の連関解析の第一歩として,粒子径の異なる銀粒子を用いて,血清存在/非存在下における細胞傷害性を比較解析した。ヒト肺胞癌細胞株(A549細胞)に,直径20 nm未満のナノ銀(nAg),直径1 nm未満のサブナノ銀(snAg)を血清存在/非存在下で添加し,細胞傷害性を比較した。その結果,nAgは血清非存在下で高い細胞傷害性を示すものの,血清の添加によって細胞傷害性の低下が認められた。一方で,snAgは血清の有無に関わらず,ほぼ同等の細胞傷害性を示すことが明らかとなった。以上の結果から,sNMの生体影響に対する血清蛋白質の寄与は少ないことが示唆された。今後は,プロテインコロナの観点から,細胞内取り込み効率を含めた解析を進め,本現象のメカニズム解明を図ると共に,本現象が認められるNM/sNMの粒子径の閾値を探索していく予定である。
  • 山口 真奈美, 吉岡 靖雄, 吉田 徳幸, 宇治 美由紀, 三里 一貴, 宇高 麻子, 森 宣瑛, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-7
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年,粒子径100 nm以下のナノマテリアル(NM)と共に,10 nm以下のサブナノマテリアル(sNM)の開発・実用化が進展している。その中でも,白金粒子を数nmという大きさに制御した白金ナノコロイド(サブナノ白金;snPt)は,人体の皮膚表面や腸内で発生する全ての活性酸素種の除去に有効であるとされ,既に健康食品や化粧品などに添加されている。一方で,特にsNMは,分子と同等サイズであるために,あらゆる経路から体内に吸収される可能性など,NMとも異なる特有の体内動態に起因する生体影響が懸念されている。本観点から我々は,snPtの安全性確保を目指したNano-Safety Scienceの観点から,体内動態と生体影響の連関情報(ADMET)を収集している。本検討では,一次粒子径が1 nm,8 nmのsnPt (snPt1, snPt8)を経口投与した際の血中移行性や,尾静脈内投与後の血中消失速度に関して情報を収集した。snPt1とsnPt8をマウスに経口投与し,経時的な血中Pt濃度を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)で測定した。その結果,snPt1は少なくとも2%以上が体内へと移行するが,snPt8は体内へ殆ど吸収されないことが判明した。次に,これら素材をマウスに尾静脈内投与し,血中消失速度を検討した。その結果,snPt1の血中半減期は,snPt8の約1/8であり,snPt8とは異なる特徴的な動態を示すことが明らかとなった。本結果は,粒子径1-8 nmの間に,体内動態に関する閾値・変動点が存在する可能性を示した知見である。今後,粒子径に依存した腸管吸収や排出メカニズムを精査することで,NM・sNMの最適設計(Nano-Safety Design),さらには生体の異物認識におけるサイズ認識機構を解明する足掛かりとなることを期待する。
  • 野尻 奈央, 吉岡 靖雄, 森下 裕貴, 佐藤 宏祐, 田中 智大, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-8
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    粒子径を10 nm以下に制御したサブナノ素材(サブナノマテリアル:sNM)の,医薬品,食品,化粧品などの薬学領域における応用研究,実用化が進展している。そのため,老若男女,妊婦・授乳婦を問わず,sNMに曝露され得る現状にあり,様々な年齢,健康状態におけるsNMの安全性情報の収集が重要課題とされている。しかし,胎児・乳幼児など,脆弱な個体を対象とした安全性評価研究はほとんど進展していない。本観点から我々は,食品分野を中心に既に実用化されているサブナノ白金(snPt)を用いた,「こどもの安全科学」研究を先駆けて推進し,snPtの授乳期曝露が新生仔の発育不全を誘発する可能性を見出している。そこで本発表では,母乳を介した新生児への影響をより詳細に評価する目的で,snPtの母乳移行性について検討した。授乳期のマウスに,粒子径8nmおよび1nmのsnPt(snPt8,snPt1)を静脈内投与した。投与12時間後に母乳を回収し,誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により,回収した母乳中に含まれる白金量を測定した。その結果,対照群の母乳中に白金が検出されなかった一方で,snPt8投与群,snPt1投与群の母乳中に,それぞれ投与量の少なくとも0.007%,0.24%に相当する白金が検出された。このことから,今後より詳細な検討が必要ではあるものの,snPt8,snPt1が血中から母乳中に移行すること,新生仔が母乳を介してsnPt8,snPt1に曝露し得ることが示唆された。今後は,母乳移行量の経時的変化,投与濃度依存性,母乳成分に与える影響を評価する予定である。さらに,snPtの母乳中の局在や存在形態について検討し,Sustainable nanotechnology(sNMの社会受容の促進)に資する情報を収集していく予定である。
  • 市橋 宏一, 吉岡 靖雄, 平井 敏郎, 髙橋 秀樹, 西嶌 伸郎, 吉田 徳幸, 角田 慎一, 東阪 和馬, 堤 康央
    セッションID: O-9
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    近年,有用性の向上を目的として,ナノマテリアル(NM)のさらなる微小化が進んでおり,既に粒子径をサブナノサイズ領域(10 nm以下)に制御した素材(サブナノマテリアル;sNM)の実用化が始まっている。これらsNMは,蛋白質と同等の大きさであり,粒子とも分子とも異なる未知の生体影響を誘発する可能性が考えられるが,その安全性情報は乏しく,有用かつ安全なNM・sNMの創製に資する基盤情報の収集を目指したNano-Safety Science(ナノ安全科学)の視点からの検討が望まれている。そこで本検討では,抗酸化能の高さから既に食品・化粧品に配合されているサブナノ白金を用いて,経皮曝露時の体内吸収性,および一般毒性を解析した。粒子径8 nmのサブナノ白金(snPt8),1 nmのサブナノ白金(snPt1)をマウスに7日間連続で経皮塗布し,各組織中の白金量を測定した。その結果,snPt8が塗布局所である皮膚以外の組織で検出されなかったのに対し,snPt1を塗布した群においては全身の主要組織で白金が検出された。また,snPt1の組織への滞留量を比較すると,肝臓,および腎臓に多く滞留する傾向が認められた。次に,これらマウスを一般毒性学的に解析したところ,いずれの白金サンプルを塗布した群においても,体重,血球細胞数の目立った変化は認められなかった。本結果は,粒子径の適切な制御により,白金の経皮吸収性をコントロールできる可能性を示しており,安全で有用なNM・sNMの最適設計(Nano-Safety Design)に資する知見である。なお,金属ナノ粒子は製造,および保管の過程で,その金属由来のイオンが混入することが考えられる。そのため,本検討に使用した白金サンプル中の白金錯イオン量や,白金錯イオンに起因する生体影響に関しても追加で情報を収集しており,可能な限り,併せて発表する予定である。
  • 今井 弘一, 武田 昭二, 亘理 文夫, 高島 宏昌
    セッションID: O-10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ナノあるいはサブミクロン材料の開発と生産は年々増加している.また,近年ではPM2.5など環境面でも社会問題化している.しかし,これらの微粒子材料に特化した毒性試験法の開発は今後の課題とされている.とくにヒトの催奇形性に関連する発生毒性についてはほとんど未知の分野である.今回,すでに発生毒性リスクがほぼ明らかにされている代表的なナノ材料の1つであるナノカーボンチューブ(CNT)を用いて,3次元の細胞分化培養環境によるEmbryonic Stem Cell Test(EST)法の改良法を使用して心筋鼓動率を調べた.
    [材料および方法]
    1.ES-D3細胞の培養:DMEMにNAA,β-mercaptoethanol,および容積比20%FCSを添加したassay mediumを用いた.炭酸ガス恒温器内で3日間懸滴培養し,細胞がdish底面に伸展しないように直径6cmの無コーティングの細菌培養用dishで2日間静置培養しEmbryoid Body(EB)を作成した.
    2.三次元培養 ブタ由来コラーゲン(タイプI-A,III,新田ゼラチン,大阪),10倍濃度のDMEM溶液とES細胞培養用添加剤の混合物1mgにCNT(多層,安達新産業,大阪)を1μg-100μg加え超音波洗浄器で拡散した.Reconstruction bufferと氷冷下で混合した後,12-well plate用Cell culture insert内に300μL入れ, 37℃炭酸ガス恒温器中で3週間連続培養した.
    [結果および考察]CNT濃度が低下するにしたがって心筋の鼓動率が高くなった.いずれのCNT濃度群でもES-D3細胞の増殖が見られた.CNTに直接接触したEBから増殖したテラトーマ像の中で,CNTに接触した状態で心筋の鼓動が発現している像も多数認められた.以前の2次元培養法の報告からも強い細胞分化への影響は認められないことが判明した.しかし,今後CNTの純度による影響も検討する必要があると考えられる.
セッション3 新規物質(ナノマテリアル等)-3
  • 二口 充, 徐 結苟, 深町 勝巳, 津田 洋幸, 酒々井 眞澄
    セッションID: O-11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ナノ材料の吸入曝露のリスクにおいてもアスベストと同様に,曝露後長期間を経て発生する健康被害が危惧されている。我々は,噴霧曝露後,長期間経過して発生するリスクを検索する目的で,噴霧直後および長期間経過した時点のそれぞれにおいて,肺における炎症反応,誘導されたマクロファージの数およびそのタイプの変化を検索した。日機装製単層および多層カーボンナノチューブ(SWCNT-N, MWCNT-N),三井製多層カーボンナノチューブ(MWCNT-M)およびアスベストであるクロシドライト(CRO)を,250ug/mlの濃度で生理食塩水/0.05%Tween20に懸濁し,10週齢の雌SDラットに肺内噴霧ゾンデを用いて1回あたり0.5ml噴霧した。9日間に合計5回噴霧し,最終噴霧から6時間後および30日後に屠殺剖検し肺を組織学的に検索した。 噴霧直後の肺組織では,いずれの群でも多数のマクロファージが比較的強い炎症を伴う像が観察されたが,噴霧後30日経過すると,SWCNT-NおよびMWCNT-Nでは異物反応が遷延していたが,他の噴霧群では炎症性変化はほとんど観察されなかった。肺野に誘導されたCD68陽性マクロファージの数は,いずれの噴霧群でも曝露後30日経過した時点では曝露直後の40%-60%にまで減少した。M2型マクロファージであるCD204陽性マクロファージの数は,いずれの噴霧群でも,噴霧直後では多数誘導されていたが,噴霧後30日経過した時点では対照群のレベルにまで減少した。CRO群のみ,噴霧直後にIL-1β陽性マクロファージが多数観察されたが,30日経過した時点ではほとんど観察されなかった。これらの結果から,曝露直後と曝露後長期間経過した時点では,被研物質によってマクロファージの反応は大きく異なり,曝露直後のリスク評価のみならず曝露後長期間経過した時点でのリスク評価の必要性が示唆された。
  • 酒々井 眞澄, 沼野 琢旬, 深町 勝巳, 二口 充, 津田 洋幸
    セッションID: O-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の平均長と肺障害性との関連,肺ばく露後の影響については不明な点が多い。ふるい板を使いMWCNTを分画化し,各分画での肺障害性および遺伝子発現への影響を検討した。濾過(FT分画, 平均長2.6 µm),非濾過(R分画, 高密度の為平均長測定不可),原液(W分画, 平均長4.2 µm)を雄F344ラットに2週間で計1.0 mg肺内噴霧し,短期試験では曝露後2週目,長期試験では52週目で剖検,肺にて組織学的検索および遺伝子発現を調べた。短期試験では炎症細胞浸潤および異物肉芽腫の形成を伴いマクロファージがMWCNTを貪食している像を認めた。FT分画での炎症面積は溶媒対象群および他の2分画と比較して有意に増加していた。長期試験では3分画曝露共にMWCNTを貪食したマクロファージ,炎症細胞浸潤を伴う異物肉芽組織,肺胞上皮細胞の過形成,肺胞間質の線維化および肥厚を認めた。腫瘍性病変は認めなかった。炎症面積,異物肉芽組織/線維化の数は溶媒対象群と比較して有意に増加した。分画間での差はなかった。曝露後65週目,2個体(いずれもR分画投与)で肺腫瘍発生を認めた。培養肺マクロファージにMWCNTを曝露しマイクロアレイにて発現増加した遺伝子としてCsf3,IL6,Ccl4およびCxcl2が抽出された。これらについて短期および長期試験での肺でのタンパク発現を調べた。短期試験では,Csf3およびIL6ではWとFT分画での発現が増加した。Cxcl2およびCcl4では3分画での発現が共に増加した。長期試験ではCxcl2において3分画での発現が共に増加した。以上より,平均長が2.6 mm以上のMWCNTは炎症を含む肺障害性がある。曝露後2週間および1年(52週)では腫瘍性病変は認められない。肺内曝露によりタンパク発現が誘導される遺伝子がある。
  • 高橋 祐次, 高木 篤也, 辻 昌貴, 広瀬 明彦, 菅野 純
    セッションID: O-13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は物理化学的安定性が高く,アスベストと同等の長さと直径を有する粒子が含まれていることから,重篤な慢性吸入毒性を表す可能性が疑われた。我々は,アスベスト中皮腫発癌に高い感受性を示すp53+/-マウス腹腔内投与モデル(Tox. Sci., 2002)を適用し,MWCNTが3~3,000μg/動物の範囲で用量依存的に中皮腫を誘発することを示した(J Tox. Sci. 2008, Cancer Sci., 2012)。その際,初発時期に用量依存性が認められないこと,及び,中皮腫の誘発には散在性のMWCNT孤立繊維を貪食したマクロファージを伴う非肉芽腫性の局所慢性炎症が重要であり,他方,凝集したMWCNT繊維塊を取り囲む類上皮細胞肉芽種及びその線維化瘢痕形成は中皮腫発がんに寄与しないことが示唆された。これらの実験ではMWCNT原末(U-CNT)を一般的な方法で調製しており凝集体を含んでいる。一方,人の現実的な暴露形態である吸入では上気道部で凝集体が効果的に取り除かれて肺胞には高度に分散された繊維が到達すると想定される。我々は実験動物によるMWCNTの生体影響の評価・予測の人への外挿を高める為に,全身暴露吸入実験用の検体調製法として,MWCNTの凝集体を除去した上で高度に分散する方法(Taquann法)を開発した(T-CNT)。T-CNT 10μg/動物をp53+/-マウス腹腔内投与モデルで評価したところ,初発時期,初期病理組織像はこれまでの結果と良く一致した。一方,中皮腫による死亡率と投与量の関係をKaplan-Meier法で比較したところ,T-CNT 10μg/動物の曲線はU-CNT換算で凡そ200μg/動物に相当する結果であった。この結果は,繊維一本が中皮腫を誘発する確率が等しいこと,散在性の繊維を貪食したマクロファージによるfrustrated phagocytosisが重要であるという仮説を支持するものであった。(厚生労働科学研究費補助金による)
  • 坂本 義光, 小縣 昭夫, 西村 哲治, 広瀬 明彦, 猪又 明子, 中江 大
    セッションID: O-14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    (目的) 我々は,多層カボンナノチュブ(MWCNT)の陰嚢内及び腹腔内投与によりラットに中皮腫が誘発されることを報告したが,それ以外では,p53欠損マウスによるものを除いて,同様の報告がない.その理由のひとつには,繊維サイズなどMWCNTの性状の影響が考えられている.今回は,繊維長が異なるMWCNTによるラット中皮腫誘発性を比較検討した.(材料・方法) 動物は,F344系雄性ラット10週齢を用いた.MWCNTはW社(2種;WS-CNT,長さ0.5-2μm ,径40-70nm,Fe 0.046%, WL-CNT,長さ0.5-10μm ,径85-200nm,Fe 6.50%),S社(2種,V-CNT ,長さ8μm ,径150nm,Fe 0.031%, VX-CNT,長さ3μm,径10-15nm, Fe 1.233%)の4種を2%CMCに懸濁し,1mg/kg体重の用量で,各群15匹に腹腔内単回投与した.動物は投与後52週間を目処に飼育し,途中死亡,瀕死例及び終了時生存例について剖検及びHE染色切片等による組織学的観察を行った.(結果考察) WL群では26週目より43週までに全例を,V群では投与後29-50週で死亡例(1/14)と瀕死例(9/14)をそれぞれ途中解剖した. WS及びVX群では,全例が52週まで生存した.投与後52週目に,各群の生存例(V群4/14, WS及びVX群全例)を屠殺,解剖した. WL群では死亡例及び瀕死例を含む全例で,V群では,12/14例で腹腔内腫瘍結節形成と出血性腹水貯留を認め,組織学的には,いずれも全例で中皮腫を認めた. WS及びVX群では,解剖時,全例で腫瘍結節や出血性腹水は認められず,組織学的にはWS群では全例で中皮腫の発現は認められず,VX群では1/14例に中皮腫を認めた.腹膜におけるMWCNT繊維の分布は,WL及びV群では単繊維状または微小集塊状繊維として中皮下組織内に散在性に認められ,WS及びVX群ではほとんどの繊維が肉芽腫内に主に存在していた.以上の結果より,腹腔内投与によるMWCNTの中皮腫誘発性には,繊維長の違いが大きく影響しているものと考えられた.
  • 富田 正文, 勝山 博信, 渡辺 洋子, 奥山 敏子, 伏見 滋子, 伊藤 明美
    セッションID: O-15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】メタンフェタミン(MA)の中枢神経系や心臓への作用は多く報告されているが,骨に対する影響は報告がない。そこでMAの骨代謝への影響について検討した。 【材料と方法】9週齢のマウスを対照群とMA 5, 10 mg/kg投与群に分け,生食または薬物を隔日に腹腔内投与,屠殺5日前にTetracycline,2日前にCalcein の骨標識剤を皮下投与した。8週後に麻酔下で採血・失血死させ,両側大腿骨を摘出した。左大腿骨では遠位部の非脱灰Villanueva Bone stain標本を作製し,海綿骨形態計測およびtype別骨芽細胞数の計測を行い,右大腿骨では遠位部の骨密度を動物用X線CT装置で測定した。また血中および尿中の骨パラメータの測定を加えた。 【結果および考察】対照群と5mg群を比較検討した結果,1)骨形成関連パラメータ,2) 石灰化関連パラメータでの石灰化速度と骨形成速度(組織量),3)骨芽細胞 (type III)数において,MAによる骨形成の有意な亢進が認められた。他方,骨量の増加はみられず,骨密度にも違いは観察できなかった。骨形成が亢進するとカップリング効果により骨吸収も亢進すると言われているが,対照群と5mg群では吸収関連パラメータに有意な差は認められず,また骨吸収マーカである尿中β-C-terminal telopeptide of type Ⅰ collagen (CTX)濃度にも影響は認められなかった。MAは中枢神経興奮により行動を亢進するが,過動は骨形成を抑制する。したがって,MA 5mg群での骨形成の亢進は,薬物による一次的な作用であると思われる。他方,10mg群では対照群に比べ顕著な骨形成は観察されなかった。これは異常行動による極端な運動量低下などMAの二次的作用であると考えられるが,薬物摂取後の行動観察など今後さらに検討する予定である。
セッション4 オミクス・エピジェネティクス・細胞毒性・安全性評価
  • 北嶋 聡, 小川 幸男, 大西 誠, 相磯 成敏, 相崎 健一, 五十嵐 勝秀, 高橋 祐次, 菅野 純
    セッションID: O-16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    日常生活で暴露される様々な化学物質の毒性評価は,実験動物における毒性所見を人に外挿することで実施されている。しかし,気化性化学物質の吸入毒性の内,シックハウス症候群については,人における被害報告濃度と実験動物で検出可能な器質変化濃度の乖離が甚だしく,現行の吸入毒性試験での毒性指標(器質的障害)を人へ外挿することは困難である。この問題に対し,器質的変化が誘発される以前の段階(時間的及び濃度的に)での遺伝発現変動を網羅的に評価可能なPercellome トキシコゲノミクスを極低濃度暴露時の肺及び肝に適用した結果,病態の惹起或いは生体防御の発動を示唆する影響を高感度に捕捉することができた。
    この成果を踏まえ,シックハウス症候群等において通常の検査からは病因が特定されない「不定愁訴」の分子実態を把握する目的で,「厚生労働省シックハウス問題に関する検討会」が掲げる物質の内,ホルムアルデヒド及びキシレンについて,指針値付近の極低濃度下での吸入暴露実験を実施した。具体的には,12週齢の雄性C57BL/6マウスを使用し,6時間/日×7日間暴露 [労働暴露モデル],及び22時間/日×7日間暴露 [生活暴露モデル])(各4用量・4時点)にて吸入暴露させた際の海馬のmRNAを採取しGeneChip MOE430v2 (affymetrix社)を用い,約45,000プローブセットの遺伝子発現の絶対量をPercllome法により得て網羅的解析をおこなった。
    その結果,両物質ともに,22時間/日x7日間反復暴露では,神経活動の指標となるImmediate early geneの発現が強く抑制され,海馬における神経活動が抑制される事が示唆された。他方,6時間/日x7日間反復暴露の場合では,この抑制は一過性であり暴露期間中に回復していた。この抑制所見は,シックハウス症候群の「不定愁訴」の分子実態の一端を明らかにしたものと考える。
  • 武田 眞記夫, 大塚 亮一, 山口 悟, 中島 信明, 原田 孝則
    セッションID: O-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    第39回本学会において,フェノバルビタール(PB)の4週間反復投与によりラット肝臓において誘発されるDnmt3aおよびFoxo1発現抑制がHif1aの発現低下に起因することを示した。今回,CYP2B1誘導時におけるHif1aの発現抑制メカニズムを解明するために,上記肝臓サンプルを用いてHIF1A上流因子を検索した。CYP familyはその活性中心にNADPHが必須であることから,酵素誘導時にNADPHはNADHから転換されることが知られている。PBの8 mg/kg/day投与群では,対照群に比べてNADHは有意に減少していたが,これとは逆にNAD+は有意に増加しており,これらトータル(NADH+NAD+)の変化は認められなかった。PBの80 mg/kg/day投与群では,対照群に比べてNADHは有意に減少しており,NAD+の有意な変化は認められず,NADH+NAD+は有意に減少していた。RT-PCRの結果,Sirt1の有意な変化は認められなかったが, 80 mg/kg/day投与群ではMtorが対照群に比べ有意に増加していた。また,Cyp2b1は8 mg/kg/day投与群で対照群に対して有意に増加していたが,増加量は80 mg/kg/day投与群に比べてはるかに低かった。SIRT1はMTORの遺伝子発現レベルでのnegative regulatorであることから,PBの80 mg/kg/day投与によりSIRT1の活性低下が誘発されたことが示された。酵母Sir2と異なり哺乳類のSIRT1はNAD+とNADHの双方に依存性であることから,過剰な酵素誘導によるNADH+NAD+の有意な減少によりSIRT1の活性が低下したと考えられた。SIRT1およびMTORは細胞の肥大・萎縮に関与することから,現在,培養肝細胞を用いてSIRT1の遺伝子制御メカニズムを検索している。
  • KAMP Hennicke Georg , WALK Tilmann, ISHIKAWA Gen, MOELLER Niels, RAVEN ...
    セッションID: O-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    We have developed a metabolomics data base (MetaMap®Tox) containing the plasma metabolome changes induced by more than 500 data rich chemicals, agrochemicals and active pharmaceutical ingredients derived from 28 day repeated dose toxicity studies in Wistar rats. Based on metabolite profiling after 7, 14 and 28 days of treatment with the test substances, more than 110 characteristic patterns of metabolite changes have been validated that are specific for a given toxicological effect.The assessment of systemic toxicity of new compounds within BASF’s experimental toxicology department is routinely based on the MetaMap®Tox data base. The metabolome evaluation is based on the metabolite changes observed, the comparison of the metabolome of the test compound against the specific toxicity patterns with MetaMap®Tox and a correlation analysis of the whole test compound metabolome against the whole metabolomes of all reference compounds in the data base. Retrospective evaluation shows that the metabolomics approach delivers valuable additional results from repeated dose toxicity studies, which can be used for decision making during substance development in terms of follow-up investigations, selection of best candidates and as additional mechanistic information for hazard assessment. The application of MetaMap®Tox in preclinical studies was validated by the drug executive council (DSEC) in 2011. Data on the robustness and reproducibility as well as case studies will be presented on the systemic toxicity of drugs in order to show the applicability of MetaMap®Tox for preclinical studies.
  • 中川 博史, 石崎 雅和, 石田 勝政, 西村 和彦, 松尾 三郎
    セッションID: O-19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】粗面小胞体(rER)にて作られたタンパクは,COPII小胞に包まれ,Golgi装置へと輸送される(COPII輸送)。COPII輸送の抑制はERストレスを誘導し細胞障害を導くことから,COPII輸送調節メカニズムの解明のためにCOPII輸送の評価系の確立は重要である。BrefeldinA(BFA)は可逆的にGolgi装置を断片化させ,cis-Golgi領域の一部はrERと融合する。BFAを除去するとrERと融合していたcis-GolgiタンパクはCOPII輸送によりGolgi領域へと輸送されcis-Golgi領域は回復する。そこでBFA洗浄除去後のcis-Golgi形態の回復の程度を評価することにより,COPII輸送の評価系の確立を試みた。
    【方法】ラット正常腎由来株化細胞NRK細胞に,30分間BFAを処置した。BFAを洗浄除去し通常培地で培養後,cis-GolgiマーカーであるGolgi58Kタンパクの抗体を用いた蛍光免疫染色を行った。cis-Golgi 領域の形態は4段階に分類し評価した。COPII輸送の抑制刺激としては,H89によるリン酸化抑制,mastoparan-7による三量体Gタンパク活性化,FIPIによるPLD阻害を用いた。
    【結果】BFA処置30分後にcis-Golgiの形態は完全に崩壊した。BFA洗浄除去後40分で,cis-Golgiの形態は回復した。BFA洗浄除去後にH89,mastoparan-7,FIPIを処置した結果,全ての刺激においてcis-Golgiの形態の回復は有意に抑制されていた。
    【結論】作用点の異なる様々なCOPII輸送抑制調節に対し,本実験系を評価に用いることが可能であると考えられた。既存のVSV-G変異株発現系を用いた実験系に比べ,操作が簡便である点で有用性が高いと考えられる。
  • 北村 哲生, 榊原 基嗣, 大槻 誠, 武内 史英, 南 大輔, 藤崎 由記子, 関島 勝, 長田 智治
    セッションID: O-20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    現在,ヒト細胞の安定的な資源を得る技術としてiPS細胞技術が注目されている.その用途として,治療用のみならず創薬開発への活用が着目されている.本発表では,iPS細胞由来心筋を用いた医薬品候補化合物の安全性評価を細胞外電位測定により実施する際,有効な要素技術について紹介する.今回得られた成果に基づき,ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた医薬品候補化合物の心毒性予測を行う際の適切な測定法について議論したい.我々は,ヒトiPS心筋を多電極チップに平面培養した状態で電極周辺に発生した細胞外電位を計測している.本発表では,①電極への適切な細胞播種プロトコールは,検体間,及び同一検体における拍動毎のデータ安定性に寄与することが示唆される.②温度変化は自律拍動周期と細胞外電位に影響することが示唆された.③強制刺激を適用することで,検体間と同一サンプルにおいて取得される拍動毎の細胞外電位の持続時間・振幅が,より安定することが示唆された.これらの結果と合わせて,作業効率を向上させる多検体同時測定も検討した.これらの要素を組み合わせ,医薬品候補化合物の探索・安全性評価研究において,ヒト心筋に発現し活動電位を形成する各種イオンチャネルや各受容体等に対する効果と薬剤の催不整脈性を効率的に評価する試験系を紹介する.
セッション5 毒性試験法・毒性発現機構・医薬品
  • 深町 勝巳, 大嶋 浩, 二口 充, 津田 洋幸, 酒々井 眞澄
    セッションID: O-21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    これまでにCre/loxPシステムを用いた活性型HrasV12トランスジェニックラット(Hras250)にCre recombinase発現アデノウイルスベクターを膵臓に投与することにより膵がんを発生させる方法を確立した。さらに,発生した膵がんにErc/Mesothelinが高発現しており,Erc/MesothelinのN末タンパクであるN-ERCの血清濃度が高くなっていることからN-ERCがラット膵がんの血清診断マーカーとなることを報告した。本研究においては,Hras250ラットにCre recombinase発現アデノウイルスベクターを肺内に投与することにより肺がんを発生させ,このラット肺がんモデルにおいてN-ERCが血清診断マーカーとなるか検討した。Hras250ラットにCreリコンビナーゼ発現アデノウイルスベクターを肺内へ噴霧し,変異型HrasV12遺伝子を発現させて肺がんを誘発した。ウイルス投与後の初期には組織学的に肺胞上皮および呼吸細気管支上皮の過形成,腺腫がみられた。ウイルス投与4週後には肉眼的に肺に結節性病変が多数見られ,組織学的に肺胞上皮の過形成,腺腫,腺がんのみならず化学発がんでは発生させることが困難な扁平上皮がんもみられた。発生した肺がんにおいてErc/Mesothelin遺伝子が高発現していた。さらに,肺がんの発生したHras250ラットのN-ERCの血清中濃度を測定したところ,正常に比べ肺がんを発生したラットの血清中N-ERC濃度は,有意に上昇していた。したがって,N-ERCがラット肺がん血清診断マーカーとなりうることが明らかとなった。ラット肺がんの血清診断が可能になれば抗がん剤等の開発,治療効果の検定に有用となる。
  • 中村 和昭, 中林 一彦, 秦 健一郎, 田上 昭人
    セッションID: O-22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/14
    会議録・要旨集 フリー
    ゼブラリンは,ゲノムDNAの脱メチル化を引き起こすシチジン類縁体のDNAメチル化阻害剤である。今回我々は,ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞を用いて,ゼブラリンのヒト肝細胞癌に対する細胞毒性とその作用機序を検討した。ゼブラリンはHepG2細胞に対して,細胞増殖の抑制と細胞死の誘導による抗腫瘍活性を示した。ゼブラリンのHepG2細胞に対する抗腫瘍活性機構を明らかにするため,ゼブラリン処理によるDNAメチル化動態を検討した結果,HepG2細胞のDNAメチル化に対するゼブラリンの作用はほとんど認められなかった。一方,ゼブラリンはcyclin-dependent kinase 2 (CDK2)発現およびretinoblastoma protein (Rb)発現を低下させ,p21WAF1/CIP1 およびp53発現を亢進させた。さらにゼブラリンはp44/42 MAPKリン酸化を亢進した。これらの結果から,ゼブラリンはp44/42 MAPKリン酸化を亢進させ,p21WAF1/CIP1の発現亢進,CDK2およびRbの発現低下を介して,細胞周期停止を引き起こしていると考えられた。加えて,ゼブラリン処理によりアポトーシス抑制因子であるBcl-2の発現低下が認められ,さらにHepG2細胞においてBcl-2発現を誘導することが知られているdouble-stranded RNA-dependent protein kinase (PKR)発現が低下した。これらの結果からゼブラリンによるPKR発現の抑制がBcl-2発現低下を介してHepG2細胞の細胞死を誘導していると考えられた。以上の結果は,ヒト肝細胞癌に対するゼブラリンのDNAメチル化非依存的な新規機序による細胞周期停止および細胞死誘導機構を示唆する。
feedback
Top