Tropics
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7 巻, 1+2 号
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Regular papers
  • 岩崎 晃也, 高橋 智, 山倉 拓夫, 神崎 護, 伊東 明, 大久保 達弘, 荻野 和彦, Ernest CHAI O. K., Hua ...
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 1-8
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    Dryobalanops lanceolataの空間分布の特徴を相関次元によって解析した.境界及び角で反射した点も数えることにより境界近くのデータの歪みを補正した.相関次元は小さいスケールではおよそ1.33となった.また,スケールによる分布の特徴の変化を示唆する著しい次元の減少と増加が見られた.相関次元はボックス次元やI-delta指数に比べて分布の特徴が変わるスケールに敏感であり,分布の特徴のスケールによる変化を示す新しい指標となり得る。
  • 神崎 護, Son Kheong YAP, 木村 勝彦, 岡内 由香, 山倉 拓夫
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 9-20
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    熱帯多雨林の埋土種子の生残·発芽の過程を西マレーシアのパソー森林保護区で調査した,新鮮な充実種子を採取し,アルミニウム製の網で作成したバッグに詰めて,閉鎖林の土壌中5cmの深さに埋めた.埋設した種子を3ヶ月から3年後にかけて順次回収し,種子の状態をチェックした,またオープンサイトでの発芽試験を採取直後の新鮮な種子と,掘り出した種子について行った,種子の生残過程はワイブル分布モデルで回帰し,未発芽生残種子の平均寿命を推定した.原生林構成種の16%は1年以上の平均寿命を持っていたが,のこりは1年以下の短い寿命しかなかった.二次林種の平均寿命は15ヶ月から10年以上にぱらつき,1年以上の平均寿命をもつ種は77%に達した,さらに,種子の平均寿命は種子の発芽型,果実形態,種子重への強い依存性を示した.二次林種の長寿命種子は,オープンサイト条件下では急速に発芽するが,埋土種子集団ではほとんど発芽が記録されなかった.一方原生林構成種の長寿命種子は森林中でも緩やかに発芽し,彼らの遅延発芽は,種子をとりまく木質の内果皮によって引き起こされていると思われた.
  • 平井 英明, 松村 弘, 広谷 博史, 桜井 克年, 荻野 和彦, Hua Seng LEE
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 21-33
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    Dryobalanops aromatica (Da)とD. lanceolata (Dl)はボルネオ熱帯雨林において突出木層を構成している主要なフタバガキ属の樹種である。その分布は近接しているが,決して重なり合うことはない。本論文では,これら2樹種の分布を,土壌形態学的,物理学的,化学的,微生物学的特性から吟味した。
    地形的にみれば,Daは斜面上部のみに分布していたが,Dlは斜面の上部および下部に分布していた。この2樹種の優先する土壌の深さはいずれも1.3m以上であった。土性はDa土壌では砂質であったが,Dl土壌では砂質から粘質とその範囲が広かった。さらに,次のような差異が両土壌に認められた。1)リター層は伽土壌で厚かった。2)次表層の土色はDl土壌の方が鈍い色調を示していた。3)Dl土壌にはレキが認められたのに対して,翫土壌では認められなかった。4)交換性陽イオンのうち,CaおよびMg含量はD1土壌の方が高かった。5)交換性AlとH含量はDa土壌で高かった。6)気相,粗孔隙量と砂含量はDa土壌の方が高かった。このことは,降雨後Da土壌はより乾燥した土壌水分条件になることを示すが,それは土壌水分ポテンシャルのモニターによって証明された。7)カビはDa土壌の方がD1土壌よりも10倍多く認められた。
    以上の結果を総合するとDaは乾燥し易く,貧栄養で酸性の強い,安定した土壌生成過程を経た土壌に成立する。一方,D1はある期間還元を受けるような湿潤条件下で,かつDa土壌に比較して養分状態がよく,酸性が弱く,土壌生成過程の弱い土壌に成立することが明らかとなった。現地の焼畑農民はDlが成立する土地を耕地として利用するが,このDl土壌の特性を考慮すると,農民の伝統的な土地識別方法はきわめて適切であることが土壌学的観点から明らかとなった。
  • 鈴木 英治, 堀田 満, Tukirin PARTOMIHARIDJO, Achmad SULE, 小池 文人, 野間 直彦, 山田 俊弘, ...
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 35-53
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    西カリマンタンのフタバガキ科のShorea属の中には,テンカワンと呼ばれ,果実から油脂がとれ,経済的に有用な樹種が約10種類ある。果実は天然林・半天然林および植林から採集されてきた。このような人間の活動によってテンカワン林がどのように変化したかを研究するために,1991年に8つの調査地を設定した。かってのランダック王国の首都であったンガバンでは,それぞれ約1km2のテンカワン植林が,約百年前に王家によって,ランダック川沿いに2つ作られた。テンカワンの代表的な種であるShorea stenepteraは,自然の立地に似た川の近くの平坦な堤防に,S.amplexicaulisとS. pinangaなどは斜面に植えられた。それらは胸高直径(DBH)125 cm樹高49 mに達し,1991~1994年の平均直径成長速度は0.28(±0.32SD)cm/年であった。パラゴムHevea brasiliensisは平坦地に,昔ゴム生産に使われたPalaeuium guttaは斜面に,テンカワン下層木として栽培されていた。1haの調査地内にDBH 4.8 cm以上の樹木が123種あり,テンカワン天然林と大差ない多様性を持っていた。
    ムアライレイ村近くの小さな川沿いの堤防の上に,半自然状態の最大DBH 186 cmに達するテンカワン林があった。元は天然林と思われるが不要な木を伐採し,パラゴムやドリアンなどをテンカワンの間に植栽していた。
    ランダック川支流のダイド川沿いには,ほぼ自然状態のテンカワン林があった。森林構造は半自然林と似ているが,南米原産で逸出帰化したBullucin pentameraが見られる他は栽培種はなかった。平坦な砂質自然堤防上のテンカワン天然林では,5.stenopteraが胸高断面積合計の8割を占めるので,斜面のフタバガキ天然林よりずっと多様性が低かった。
  • Mitsuru HOTTA
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 54-56
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
  • 山田 俊弘, 山倉 拓夫, 神崎 護, 伊東 明, 大久保 達弘, 荻野 和彦, Ernest CHAI O.K., Hua Seng LE ...
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 57-66
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    東マレーシア,サラワク州ランビルの熱帯雨林に設置した52haの調査区内において,3種のフネミノキ属植物(Scaphium borneense, S. longipetiolatum, S. ntacropOdum>の空間分布の地形依存性と3種間の空間的相互関係を解析した。調査区内の直径1cm以上の個体はS. borneenseが最も多く1135本で,S.longipetiolatumが63本, S. macropodumが122本であった。巌のm*/m指数によって空間分布様式を解析すると,3種とも集中分布をしていた。また分布の地形依存性を分散分析の手法により検定した結果,これら3種の分布は地形に強く影響されており,予測性が高いことが分かった。巌のω指数によって3種の分布の重なり度を解析すると,小さい空間スケール(1250m2以下)では3種とも互いに,大きい空間スケール(2.5 ha以上)では,S. bcrneenseとS. longipetiolatumが,排他的に分布していた。さらに空間分布と地形の関係を3種間で比較すると,S.borneenseが標高180 m以上に, S. macrqpαdumは標高180 m以下にS. longipetiolatUtnは標高140 m以下に分布していた。調査地上部は乾燥しやすい砂質土壌に覆われ下部は湿った粘土質土壌に覆われており,標高の差は土性の差と対応している。これらのことから,フネミノキ属植物3種は地形もしくは土性の差ですみわけることにより,52ha調査区内に共存していることが示唆された。
  • 李 華勝, 伊東 明, 神崎 護, 山倉 拓夫
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 67-80
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    サラワク森林局が行って来た現地産有用樹の試験的人工造林の試みは,林分が現存するもので1920年代まで遡ることができる。本研究は,サラワク森林局が同州クチン地区セメンゴー森林保護区に1973年3月に試験的に造成した,オオバサラノキShorea macrophylla斉同齢林の21年間の樹高生長を解析したものである。同齢林の植裁総面積12,9haは,面積0.81 haの小区画16個に分割され,各小区画ごとに施肥レベル(施肥および無施肥の2水準)と植裁種 (S. macrophyllaおよびS. pinangaの2水準)を変化させて,植裁および林分管理が実施されてきた。本研究では16区画の中から,S. macrophyllaを植裁し,かつ無施肥で栽培管理を行った1植裁試験区画,B1A0を標本小林分として抽出した。
    標本小林分の仕立て方はマレーシア連邦で普遍的なラインプランテング法に基づく。ライン間隔は10m,ライン上の植え付け間隔は4.6m,植裁密度は154/0.81 haであった。植裁時の苗サイズは未測定であるものの,植え付け直後2カ月めの平均樹高0.54mは,植裁時の苗サイズを窺うに十分である。この林分では1973年5月から1994年4月までに至る21年間で,15回の生長測定が実施された。1994年の調査時までに32個体が死亡し,立木密度は122/0.81haに減少した。主な死亡要因としてシロアリによる食害があげられる。植裁後21年の平均樹高は19mで,植え付け後2カ月目の樹高の35倍の生長が認められた。樹高から推定した21年後の平均個体重は190kgとなった。 標本小林分内の全植裁木154個体の樹高x(m)の時間t(年〉方向での生長軌道を,個体ごとに単純ロジスチック曲線x = K / (1 +k0exp[-rt])で近似し、非線形最小自乗法を用いて曲線の3係数r, K, k0を推定した。係数の推定に際しては、時間方向で生ずる係数の変化を無視し、一個体一軌道とした。シロアリの食害や強光阻害によると思われる樹高の減少(ダイバック)が多くの個体で生じたが、ダイバックが認められた場合でも一個体一軌道の原則に基づき、一つの生長軌道を複数の部分に区分することを避けた。1994年時までの生残木122個体については、3係数の推定値を得た。死亡個体32個体中1個体については、複数回にわたるダイバックに起因して生長軌道が不規則となり、係数の収束値を得るに至らなかった。個体ごとに求めた実測値~計算値間の決定係数は0.76から1.0の範囲にあった。このようにして求めた3係数を、植栽後21年時点の生残個体とそれまでに死亡した個体の間で比較すると、死亡個体は生残個体に比べきわめて大きなrと小さなKを持つことが判明した。死亡個体の大きなrはダイバック減少に対する適応を、小さなKは大型個体による被圧を示唆した。rとKは有意な負の相関をもって連続的に変化し、r~K連続体を構成した。このr~K間の拮抗関係は2編量が資源的に制約されるとする従来の知見を指示すると共に、rをグラフの横軸、Kを縦軸とするr~K連続体図は資源投資に関する個体間差を表すのに利用できる。生残個体の平均rは概して大きく、0.0831/年となった。この平均rは我国の収穫表記載のスギ人工林のそれに比べ3.6倍の値であり、理想的木材生産用造林木が持つべき条件として期待される、急速初期生長の特性を備えている。熱帯雨林地帯における人工造林の困難性は、恵まれた気候条件に適応した樹木の生活し特性に由来する。筆者らが既に提案している熱帯雨林地帯における極相陽樹は、先駆種と極相種の生活史特性シンドロームを検討する事から得られたものであり、理想的造林樹種が満たすべき条件の多くを具備している。オオバサラノキは極相陽樹の典型であり、造林用樹種としてその将来が期待される。
  • 米田 健
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 81-92
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    1995年1月と2月に発生した強風により、赤道直下に位置する西スマトラ州パダン周辺の多雨林が広範囲にわたり被害を受けた。被害の程度は、地形と林分構造が大きく関係していたが、ウルガド地区のピナンヒナン固定調査区(PIN)周辺では、1月の強風で強制落葉した林分が各所で観察でき、また2月時にはPIN内に1100m2のギャップが発生した。このギャップでは225 ton ha-1の大量落葉枝が誕生し、幹と太枝からなぞ直径10cm以上の大形枯死材が全体の78%を占めた。リターバッグ実験により、大量落下した葉·小枝起源の微細リターは、強風直後からその重量が分解作用によって急速に減少することを観測した。その減少速度は、微細リター集積量が多いほど高い傾向を示した。
    今回の調査結果と、これまでに対象森林で得られた物質循環測度を用いて、強風による大量落葉枝の誕生というパルスが、森林生態系の物質循環にどのような影響を与えるかをモデルを用いて解析した。その結果、養分含有率が高い微細リターの急速な分解が、被害直後から始まる活発な植生回復の、とくに初期段階における栄養塩類源として重要な役割を担っていることが明らかになった。ギャップ地のリターの大半を占める大形枯死材の分解速度は微細リターにくらべ遅く、初期重量の95%が消失するのに要する時間は11年と推定した。リターの構成内容が同じであれば.リター量の多少にかかわらずこの消失時間は一定であった。枯死材リターは栄養分が乏しいため、たとえば窒素の消失時間は基質乾物量のものにくらべかなり遅れる。しかし長期の視点に立てば、徐々に栄養塩を放出する大形枯死材の分解特性は、即効的な肥料効果をもつ微細リターの分解特性と組み合わさることにより、長期にわたり栄養塩を安定して供給することができ、その意味から栄養塩の供給源としても重要な役割をはたしていると評価した。強風起源により発生した大量の大形枯死材が消失するのに要する11年間での炭素収支から、既存のリターを含め100ton ha-1の落葉枝量の誕生が炭素の吸収源になるか発生源になるかの境界値であると推定した。
  • 前山 智弘, 北出 理, 松本 忠夫
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 93-103
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    アリ植物に住みつくアリ以外の生物についての詳細かっ定量的な調査報告はほとんどないが,アリ植物と動物との共生関係を解明するためには,アリ植物内の全動物相の調査が必要である。我々はパプア·ニューギニアのマングローブ林において,着生性アリ植物Hydnophytum moseleyanumの483個体を対象に,その塊茎部の空洞に住みつく全動物相を調査した。その結果,11種のアリに加え39種の動物(昆虫などの節足動物と,ある種のトカゲ)が見いだされた。必ずアリのいる空洞で見つかる種が7種,アリがいる空洞·いない空洞の双方で見つかる種が6種みられたが,その他の全ての種はアリが住みついていない空洞内においてのみ見いだされた。ほとんどの動物種は着生性アリ植物を偏利共生的に利用し,捕食者や乾燥から身を守る隠れ家として使っていると思われる。着生性アリ植物の存在によって,多様で複雑な空間構造が提供され,樹上の動物相の多様性が維持されていると考えられた。
  • 成田 憲二, R. S. MERTIA, Shuresh KUMAR, 市河 三英, 古川 昭雄
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 105-114
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    インドのタール膿内の轍地(年降水量150mm)および半乾燥地(同450mm)の草本植生において,ヒツジの被食が草本群集の構成と被度に与える影響を被食圧の勾配に沿って調査した。両調査地1ヘクタール当たり8,6,3頭とコントロールの4段階の被食圧のプロットを設定し,ヒツジの導入後の季節変化を種構成,被度について調査した。草本植生の被度,構成種数共に半乾燥地の方が高く,季節変化も少なかった。乾燥地の植生は被度の季節変動が大きく,ヒツジによる被食の影響は乾燥地でより強く現れた。乾燥地では,雨期中期に優占する一年生広葉草本Indigofera属の3種がヒツジの被食に応じて被度が減少し,この3種の変動だけで被食による群集全体の被度影響の92.5%が説明された。半乾燥地にもこれらの種が生育していたが被度も低く,また,被食圧に沿った被度の減少は見られなかった。
  • 西田 隆義, Liliek E. PUDJIASTUT, 中野 進, Idrus ABBAS, Sih KAHONO, 中村 浩二, 片倉 ...
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 115-121
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    インドネシア産の,食草の異なる2系統のニジュウヤホシテントウ(ナス科植物食系統とマメ科ムラサキチョウマメモドキ食系統)間で,体サイズ,食草選好性,交尾選択,および系統間交尾の受精率におよぼす影響を比較した。2系統間には体サイズと食草選好性に明瞭な違いが認められたにもかかわらず,寄主特異性以外には両者の遺伝子流動を妨げる要因は検出されなかった。
  • 菊田 融, Gunik GUNSALAM, 近 雅博, 越智 輝雄
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 123-132
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    キナバル山の低地熱帯林(ポーリン),山地林(公園本部;PHQ)と,低地熱帯林と山地林の移行林(サヤップ)において,腐肉または糞のトラップをもちいて,腐肉・糞食性コガネムシ類の標高別分布調査を行った。今回の調査では,61種(12属,4科)のコガネムシ上科の甲虫が採集された。低地熱帯林で優先している種は;Onthophagus chscuriar,O. cervicapra, Catharsius molossusとSynapsis cambefortiで,移行林は;Onthophagus sp. 16, O. sp.17とPhaeechroops silphoides,山地林では:Onthophagus sp. 19とO.sp・14;広域に分布しているのは; Onthophagus sp.15, O. pacificus, Copris sp.とPhaeochroops gigasであった。
    腐肉に集まるコガネムシ類の種多様性と均等性は,標高が上がるに従い減少するが,糞に集まるコガネムシ類のこれらの値の変化は小さかった。
    腐肉食に専門化した種は,標高1350m以上では採集されなかった。また,広食性の種(両方のトラップで採集される)は,標高の高い所では糞から採集される頻度が高くなる傾向が見られた。それは,標高1350m以上で優先するNicrophorus podagricus(シデムシ科)との屍体をめぐる競争の結果と思われる。
  • Neil D. SPRINGATE
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 133-140
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    パプアニューギニアのマダン地域で1995年8,9月の乾期に,50本の木の樹冠と林床において,ミネラルウォーターの小瓶でつくった100個のベイトトラップを用いて膜翅目昆虫を誘引した。植物および動物性オイルとオレンジジュースをベースとした合計12種類のトラップを用いた。トラップでえられたアリ以外の膜翅目昆虫の個体数・種数,またアリと全昆虫の量いずれもが非常に少なかった。アリ以外の膜翅目,アリ,全昆虫のいずれにおいても地面と樹冠のあいだでの頻度における有意な差は見い出せなかった。しかしながら,上方と下方の採集数を合計すると,パチョリと茶オイルおよびジュースをベースとしたベイトを用いた場合に,誘引の効果が顕著であった。トラッププロトコールの変更と気象の変化が及ぼしうる効果について論じ,また類似の研究との簡単な比較を試みた。膜翅目のいくつかの科に属する種は,トラップを設置した付近を規則的に飛翔しているのが確認されたが,トラップにはかからなかった。このことと,アリ以外の膜翅目のすべてにおいて多様性が低かったことから,ベイトトラップがこのグループの昆虫を大量に捕獲する方法としては効果がうすく,膜翅目の多様性をはかるためのサンプリング装備の1つとはなりえないと結論された。ベイトはありふれたもので安価ではあるが,一方で多量のトラップを要するため,このていどの誘引効果では使用にたえないことが示唆された。
  • 湯川 淳一, Tukirin PARTOMIHARDJO
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 141-152
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    インドネシアのスンダ海峡にあるクラカタウ島は1883年の大噴火で島の213が吹き飛び,火砕流や厚く堆積した火山灰と軽石などで,島の残りの1!3と近隣のパンジャン島,セルツング島の生物はほぼ確実に死滅したと考えられている。噴火後約100年を経過した1982年に,クラカタウ諸島と噴火の影響の比較的少なかったプーチャン島とパナイタン島を訪れ,生物遷移に関する調査を行い,昆虫えいとダニえい(以下,虫えい)24種類を採集した。その内訳は,クダアザミウマ類によるもの1種類,キジラミ上科2,アブラムシ科1,タマバエ科11,鱗翅目1,フシダニ類8であった。これらの虫えいをすべて図示し,形状などを簡単に記載するとともに,採集データと寄主植物名を記録し,過去の採集記録にも言及した。プーチャン島とパナイタン島で採集したユ2種類の虫えいのうち,7種類は新発見のもので,残りの5種類は,インドネシアの他の地域で採集記録があるものの,これらの島では初記録となるものであった。クラカタウ諸島では15種類の虫えいが採集されたが,新発見は2種類,クラカタウ諸島初記録は4種類だけであった。1930年代に活発になった海底火山の活動で,クラカタウ諸島の中心付近に誕生したアナク·クラカタウ島では,これまで虫えいの採集記録はなかったが,この調査で初めてPremna corymbosaの葉に形成されたフシダニの虫えいが発見された。クラカタウ諸島は,まだ,植生遷移の途上にあるため,プーチャン,パナイタン両島で採集された虫えい形成者の寄主植物の多くが,まだ,島に到達しておらず,両地域における虫えい形成者相にはあまり共通性がなかった。また,クラカタウ諸島ではフシダニの虫えいが,プーチャン,パナイタン両島ではタマバエの虫えいが比較的多く見られた。
Field Note
  • 伊沢 紘生, 小林 幹夫
    1997 年 7 巻 1+2 号 p. 153-159
    発行日: 1997年
    公開日: 2009/04/25
    ジャーナル フリー
    草本性タケ類の1種Pharus virescesは1回繁殖型で南米コロンビア国のティニグアおよびマカレナ国立公園の熱帯雨林の林床優占種である。1990年10月から91年1月にかけ,ティニグア国立公園ドゥダ川右岸にあるマカレナ生態学研究センター周辺の熱帯雨林において一斉開花枯死が観察されたのを機会に個体群の回復過程を継続して調査した結果,1995年10月から96年1月にかけ再び一斉開花枯死を起こした。種子の散布型は籾の一部が鈎型の短く硬い毛で覆われ,ヒトの衣服や動物の体表に付着して果序ごと,あるいは籾の状態で運ばれるいわゆるエピズーコリー(付着型動物散有)である。一斉開花枯死は大変大規模に起こり,このような現象を起こす植物の存在について,マカレナ市およびその上流域の両国立公園内に入植している人々の間では「Barba tigre=ジャガーの髭」と呼ばれて良く知られていた。我々は両一斉開花期にこの植物の果序や籾を付けているすべての動物の同定を試みると同時に,一斉開花を起こしている植物個体群の分布域について,我々自身の直接踏査と流域住民に対する聞き取り調査によって調べた。その結果,哺乳動物では偶蹄目3種食肉目7種有袋目2種,霊長目S種,げっ歯目6種および貧歯目3種の合計26種および鳥類12種を確認した。また,分布域は標高500m以下のグァジャベロ川とマカレナ山塊の間に広がる低地熱帯雨林の少なくとも718km2の範囲に広がっていることが推定された。このような広大な地域になぜ一斉開花が周期的に繰り返されるのかは謎であるが,その要因として,5年を寿命とした1回繁殖型の生活型を持つこと,乾季の最中に生産された種子は約3ヵ月間の休眠性を有し,雨季の始まりとともに一斉に発芽すること,多種多数の動物によって短期間に急速に広範囲の地域に種子が散布されること,の3点が挙げられる。
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