インドネシアのスンダ海峡にあるクラカタウ島は1883年の大噴火で島の213が吹き飛び,火砕流や厚く堆積した火山灰と軽石などで,島の残りの1!3と近隣のパンジャン島,セルツング島の生物はほぼ確実に死滅したと考えられている。噴火後約100年を経過した1982年に,クラカタウ諸島と噴火の影響の比較的少なかったプーチャン島とパナイタン島を訪れ,生物遷移に関する調査を行い,昆虫えいとダニえい(以下,虫えい)24種類を採集した。その内訳は,クダアザミウマ類によるもの1種類,キジラミ上科2,アブラムシ科1,タマバエ科11,鱗翅目1,フシダニ類8であった。これらの虫えいをすべて図示し,形状などを簡単に記載するとともに,採集データと寄主植物名を記録し,過去の採集記録にも言及した。プーチャン島とパナイタン島で採集したユ2種類の虫えいのうち,7種類は新発見のもので,残りの5種類は,インドネシアの他の地域で採集記録があるものの,これらの島では初記録となるものであった。クラカタウ諸島では15種類の虫えいが採集されたが,新発見は2種類,クラカタウ諸島初記録は4種類だけであった。1930年代に活発になった海底火山の活動で,クラカタウ諸島の中心付近に誕生したアナク·クラカタウ島では,これまで虫えいの採集記録はなかったが,この調査で初めてPremna corymbosaの葉に形成されたフシダニの虫えいが発見された。クラカタウ諸島は,まだ,植生遷移の途上にあるため,プーチャン,パナイタン両島で採集された虫えい形成者の寄主植物の多くが,まだ,島に到達しておらず,両地域における虫えい形成者相にはあまり共通性がなかった。また,クラカタウ諸島ではフシダニの虫えいが,プーチャン,パナイタン両島ではタマバエの虫えいが比較的多く見られた。
抄録全体を表示