X線分析の進歩
Online ISSN : 2758-3651
Print ISSN : 0911-7806
最新号
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解説
  • 大渕 敦司
    2022 年 53 巻 p. 7-18
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    結晶相分析の高感度化を目的に,半導体高速検出器を搭載した高感度デスクトップ型X線回折装置を開発した.可変型ナイフエッジを組み合わせることで,効果的に散乱線の除去が可能であった.600 WのX線管,さらに半導体検出器を搭載することで高感度化を実現し,短時間での試料測定が可能となった.また,複数のX線分析手法を組み合わせて,環境試料の多角的解析を行った.ここでは,粒径分けした都市ごみ焼却飛灰中の主成分元素と微量元素濃度の相関を取ることで,微量元素の結晶形態を推定した.さらに,都市ごみ焼却飛灰中の放射性セシウムの水溶性(塩化物)と難溶性(非晶質含有形態,遊離形態,酸化物含有形態)の化学形態分析を行った.

  • 脇田 久伸
    2022 年 53 巻 p. 19-28
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    現代は機器分析全盛時代である.機器分析法にはX線に代表される放射線で極微の世界を見ることも行われている.それ以前における分析化学の歴史を理解していることは機器分析の結果(数値)を試料への分析化学的考察に立脚して評価する際に参考になると考える.本稿の構成は19世紀後半,実験(教)室を重視して分析化学を教授したリービッヒ(Justus von Liebig,1803~1873)を中心に据え,リービッヒ以前,リービッヒの時代,そしてリービッヒ以後に分けて述べてある.本稿には日本の分析化学の歴史に関わる断片も含めてある.イギリスの産業革命がもたらした17世紀後半からの蒸気機関を動力源とした工場や船舶,鉄道などの製作はそれらにかかわる技術,理論の進歩を促した.とくに蒸気機関にかかわる熱力学の寄与と製鉄に関わる相平衡や相律の考えを取り込んだ製鉄産業界の話は現代も参考にすべきところがあると思われる.

  • 大久保 將史
    2022 年 53 巻 p. 29-34
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    二次電池の高エネルギー密度化を目指し,高容量正極材料の開発が進められている.現在利用されている正極材料は,遷移金属イオンの酸化還元反応に立脚しているが,その性能は限界に近付きつつある.従って,電極材料への新たな酸化還元中心の導入は,二次電池を高エネルギー密度化するブレークスルーとなりうる.特に,酸化物中の酸化物イオンを酸化還元中心として活用した高容量電極材料が,近年注目を集めている.本稿では,酸化物イオンの酸化還元反応(アニオンレドックス)について概説し,二次電池への応用可能性を議論する.

  • 太田 俊明
    2022 年 53 巻 p. 35-44
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    これまで,多くの論文でリチウム金属やリチウム化合物のLi K-吸収スペクトルが論文発表されている.これらは放射光軟X線を用いたX線吸収分光(XAS)測定だけでなく,放射光硬X線を用いたX線非弾性散乱(NIXS)や透過電子顕微鏡を用いたエネルギー損失分光(TEM-EELS)測定でも得られている.立命館大学SRセンターでも,その多くが未発表ではあるが,リチウム化合物の吸収スペクトル測定を行っている.しかし,同じ物質でも,これまで発表されたスペクトルに違いがあることが分かった.この主な原因はリチウム化合物の反応性が高いこと,容易に化学分解や照射ダメージを受けることによる.本報告では,代表的なリチウム化合物について,これまで発表されたスペクトルを比較検討することで,その違いが何によるものかを考察した.

装置計測
  • 桑原 章二
    2022 年 53 巻 p. 45-68
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    リアルタイム蛍光X線顕微鏡(Real-time X-ray Fluorescence Microscope;R-XRFM)によって,試料を走査することなく定量的元素分布が得られるので,R-XRFMが特にin-situ観察が必要な生化学や材料開発分野で有用であることが述べられる.R-XRFMについて,点焦点X線管を想定した試料面の励起X線強度とモノクロメータによる回折X線強度を考慮したray-tracing法シミュレーション計算により,位置分解能やX線強度分布が評価される.その計算に用いる動力学的理論に基づく計算式の導出と,計算に使われる物理量やパラメータの逆格子空間での幾何学的関係がレビューされる.さらに,シミュレーション計算により,分析元素が試料面に点在する場合の正規化係数Nsと試料面に分析元素が検出器の画素サイズより広い範囲に分布している場合の正規化係数Npが求められる.

  • 小池 雅人, 村野 孝訓, 越谷 翔悟, 羽多野 忠, ピロジコフ S. アレキサンダー, 垣尾 翼, 林 信和, 長野 哲也, 近藤 公伯 ...
    2022 年 53 巻 p. 69-76
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    汎用軟X線発光分光用途の回折格子分光器に搭載する回折格子の設計では,一般に可能な限り広い波長範囲で分解能や回折効率(DE)などの基本的な性能を向上させるように設計する.最近,著者らは開口数と回折効率の積で定義され,分析感度と相関するスペクトルフラックス(SF)という新しい分光光学系の評価指標を考案した.本研究では,数値計算により入射角や回折格子表面の反射膜構造などをLi-K発光(54.3 eV,22.83 nm)近辺において最適化することにより,DFSFを増加させる回折格子と分光器の設計を行った.その結果,回折格子表面の金属層の上に一定の厚さの炭素系層を積層した新設計の回折格子は,従来の入射角よりも小さい入射角で 開口数が大きくなるとともに回折効率も高くなり,従来設計の回折格子を搭載する分光器と比較して,Li-K発光でSFが約8倍となるほか,広い波長範囲で高いSFを示すことが判った.

  • 淵田 知希, 浦田 泰成, 松山 嗣史, 村上 昌史, 吉田 幸彦, 植田 昭彦, 町田 昌彦, 佐々木 紀樹, 辻 幸一
    2022 年 53 巻 p. 77-87
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    蛍光X線(XRF:X-ray fluorescence)分析法はX線を試料に照射し,発生した蛍光X線を検出することで試料の元素分析を行う手法である.試料を走査しながら連続的なXRF分析を行うことで,二次元の元素分布像の取得が可能である.本研究では,ベルトコンベア上を連続的に移動する試料に対して,二次元の元素分布像を迅速に取得するためのXRF分析装置を開発した.元素分布像の測定は,X線を広範囲に照射したベルトコンベアを横切る方向に,コリメーターを取り付けた検出器を走査することにより実施し,この方法における試料や検出器の移動方向の空間分解能や検出限界を検証した.また,2種類の金属試料について同時に元素分布像を測定し,開発した装置により多元素同時イメージングが実施できることを実証した.

  • 吉井 裕, 高田 由美, 高村 晃大, 上床 哲明, 酒井 康弘
    2022 年 53 巻 p. 89-96
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    老朽化等に伴う原子力施設等の解体や東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業などでは,資材等が核燃料物質や核分裂生成物にどの程度汚染されているかを評価することが求められる.本研究では,そのような際に発生する可能性のある汚染コンクリート表面のウラン汚染レベルをスクリーニングする手法を提案する.本法では,コンクリート表面を削り,そこから成分を酸溶出させて,固相抽出法によりウランを抽出して全反射蛍光X線分析を行う.使用するコンクリート量が多いとマトリクス影響で固相抽出における回収率が低下するため,使用するコンクリート量として0.5 gとすることが適切であるとの結論を得た.コンクリートへのウラン添加量と,溶出液中ウラン検出量の関係は,傾きがほぼ1の直線を呈し,また,非汚染コンクリートもウランを含んでいることから,縦軸切片が有意な値を持った.検出下限は37 ngであり,汚染の可能性のあるコンクリートの酸溶出液において,非汚染コンクリート酸溶出液よりもウラン検出量が37 ng以上上昇している場合に汚染が確認される.

  • 打越 雅仁, 篠田 弘造, 松本 高利
    2022 年 53 巻 p. 97-117
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    紫外可視吸収分光スペクトルを熱力学モデルに基づくフィッティング解析を行うことで,CoII塩化物錯体の安定度定数,HCl水溶液中における分布と錯体個別のモル吸光係数を求めた.得られた分布をX線吸収分光に適用して錯体個別のXANESおよびEXAFSスペクトルを算出し,HCl水溶液中のCoII塩化物錯体の構造解析を実施した.EXAFSスペクトル解析ではそれぞれの錯体に対して複数の構造モデルを仮定して解析を行ったが,構造を確定するには至らなかった.そこで,第一原理計算により求められる最適化構造と実験結果から得られる構造を比較検討し,計算値と実験値の相対エネルギー差から,最も確度が高い構造を決定した.その結果,[CoII(H2O)6]2+,[CoIICl2(H2O)4]0,[CoIICl4]2-の3錯体の存在を確認した.本研究で検討した解析方法は,紫外線可視光/X線吸収分光,熱力学モデルによるフィッティング解析,第一原理計算を組み合わせた解析法である.それぞれの解析法の短所を補う長所を組み合わせることで,CoII塩化物錯体の分布および構造を決定することができた.

  • 栗本 悠司, 河合 潤
    2022 年 53 巻 p. 119-126
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    2000円弱と手に入れやすいWebカメラを用いてX線を撮影することを試みた.Webカメラを用いて撮影するプログラムとデータを集計するプログラムを作成し,可視光を遮蔽したWebカメラのCMOSセンサーへX線を当てるとフォトン1つが直径数ピクセルの白い点として写ることがわかった.針金でできたクリップでX線の一部を遮蔽することで影を生じさせ,クリップの位置と影の形状の関係からX線管の位置や焦点サイズを計算で求めることで撮影されたフォトンの光源がX線管であることを確かめた.また,フォトンによるイベントをその影響したピクセルの数ごとにカウントすることで,フォトン1つにつきおよそ5ピクセル四方程度の空間分解能を持っていると計算した.

  • 大澤 大輔, 上原 章寛, 小西 輝昭, 寺田 靖子, 星野 真人, 上杉 健太朗, 武田(本間) 志乃
    2022 年 53 巻 p. 127-138
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    骨は内部被ばく核種の重要な移行器官とされているが,特に,骨発達の盛んな幼齢期における骨への移行量や骨発達への影響について基礎データが不足している.そこで本研究では,骨微細構造と対応したウラン骨移行評価手法を確立することを目的とし,放射光μCTによるウランL3吸収端(17.17 keV)の前後エネルギー(16.9 keVと17.5 keV,エネルギー差600 eV)での吸収端差分法により,酢酸ウラニルを投与した発達期ラットに対し,大腿骨へ移行したウランの可視化・定量の可能性について検討した.

    SPring-8 BL20B2ビームラインにてX線透過画像を撮像し,畳み込み逆投影法により画像再構成し,吸収端前後で画像位置合わせ後,差分画像を得た(ボクセルサイズ2.73 μm/voxel).

    分析標準として水溶液標準とヒドロキシアパタイト(HAP)標準を用いた.高濃度ウランにて両標準でウランの不均一な濃集を確認した.これは水溶液では凍結による効果,HAPでは画素サイズを超える粒径サイズによる効果と考えられ,常温下にて,画素サイズ以下の粒径を用いた測定が必要と示唆された.

    骨試料では,差分画像の骨領域のヒストグラムをウラン投与群と対照群とで比較したところ,有意な違いを確認できず,ウランの検出には至らなかった.本実験条件下でのウラン検出限界は数万ppmと見積もられた.一方で,再構成画像の骨領域のヒストグラムから1週齢に比べて10週齢ラットは骨密度が20%増加したことを見出した.さらに,数マイクロメートルの空間分解能で骨微細構造の三次元可視化が可能であることを実証した.

  • 森田 麻由, 青山 朋樹, 中野 ひとみ, 駒谷 慎太郎
    2022 年 53 巻 p. 139-149
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    X線顕微鏡(micro-EDXRF)では,試料の光学像と照合し元素イメージングを行うことで,試料中に含まれる元素の分布を知ることができるので,故障解析や異物解析に良く用いられる.しかしながら,EDXRFではBeの検出器窓により炭素(C),酸素(O),フッ素(F)などの軽元素が窓材に吸収されてしまい,蛍光X線の検出が難しい.SEM-EDXではポリマーが窓材に使われている例もあるが,X線検出器の検出素子は可視光にも反応するため,可視光がポリマー窓を透過しノイズとなってしまう.そこで,検出器窓が,可視光は通さずX線を通すグラファイト膜が使用されている検出器を採用し,micro-EDXRFに搭載して従来は難しかった軽元素分析を試みた.本研究では,各種工業材料中のmicro-EDXRFによる軽元素イメージングを試みたので報告する.

分析応用
  • 笠間 裕真, 市川 慎太郎, 喜多條 鮎子, 栗崎 敏
    2022 年 53 巻 p. 151-163
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,脂肪族系イオン液体であるNN-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME-TFSI)およびリチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(Li TFSI)を溶解させたイオン液体(Li DEME-TFSI)のX線光電子分光(XPS)スペクトル測定を行った.それぞれのイオン液体界面についてLi 1s,C 1s,N 1s,O 1s,F 1s S 2p narrowスペクトルの測定を行った.また価電子帯スペクトル(0~40 eV)についても測定を行った.イオン液体の気液界面(十数nm)では,イオン液体の陰イオンとリチウムイオンの濃縮がこれまでの結果から予想された.測定をおこなった結果,試料中には検出下限以下の濃度のリチウムイオンしか存在していないにもかかわらず,Li 1sのピークが確認された.また,F 1sスペクトルでは,リチウムイオンを溶解した試料で,陰イオンのTFSI中のFに帰属されるピーク以外に新たなピークが観測された.この結果から,リチウムイオンが陰イオンと配位しているだけでなく,Li-F結合を形成して界面に溶存していることが明らかになった.またX線照射によるイオン液体界面の変化をLi 1s,F 1s,およびN 1sスペクトルより明らかにした.これらの結果からイオン液体がX線照射により分解し,分解生成物がリチウムイオンと相互作用をすることで界面に濃縮し,本来検出下限濃度のリチウムイオンがXPSスペクトルによって検出されたという結論が示された.

  • 田中 ひなの, 市川 慎太郎, 栗崎 敏
    2022 年 53 巻 p. 165-173
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    桧の木遺跡から出土した阿玉台式土器は古くから雲母片や花崗岩片の意図的な混和が指摘されている.実際に,桧の木遺跡から出土した阿玉台式土器59点と同遺跡で出土した縄文土器18点中の含有鉱物をXRDで定性し比較したところ,阿玉台式土器のみに固溶体鉱物である黒雲母(K(Mg,Fe)3AlSi3O10(OH,F)2)が含まれていた.すなわち,この阿玉台式土器には黒雲母が混和された可能性が高い.黒雲母のような固溶体鉱物は,産地に応じて固溶比が変化し,それが格子面間隔dに反映されることが期待されるので,起源推定にd 値を応用することができると考えられる.そこで,阿玉台式土器の混和材の起源推定を目指して,黒雲母の格子面間隔dが産地に依存するか否かを検証した.本研究では,産地が異なる黒雲母含有岩石標本14点をX線回折法で測定した.これらの岩石標本に含まれる黒雲母001面のd 値は5つのグループに分類され,産地が異なるにも関わらず,有意差がないものがあった.一方,産出県は同一にも関わらず,d 値に有意な差が見られるものもあった.黒雲母のd値を混和材の起源推定に利用するには,この原因を解明する必要がある.

  • 馬場 可奈, 小貫 祐介, 長岡 佑磨, 伊東 正登, 鈴木 茂, 佐藤 成男
    2022 年 53 巻 p. 175-182
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    純銅の高温変形における流動応力の温度依存性のメカニズムを探るため,変形中の転位挙動に対し,飛行時間型中性子回折によるその場観察を行った.中性子回折測定結果に対しラインプロファイル解析を行い,転位密度を求めた.転位密度をもとにBailey-Hirschの式を利用した流動応力を求め,力学特性と転位密度との関係を考察した.高温ほど変形中の転位密度が上がりにくい測定結果を得た.これは,高温ほど転位の対消滅を伴う回復が起きやすいことと対応する.転位密度をもとに流動応力を推定すると,流動応力の温度依存性が良く再現された.また,一定温度以上で現れる流動応力の波打ち現象は1012-1013 m-2程度の転位の増減により生じたことが確認された.400℃程度まで温度が上昇するにつれ延性が低下するが,転位密度の低下とともに単位長さ当たりの転位強化量が低下することに起因することと対応する.

  • 大久保 いずみ, 市川 慎太郎, 脇田 久伸, 沼子 千弥, 米津 幸太郎, 横山 拓史, 栗崎 敏
    2022 年 53 巻 p. 183-194
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    本研究では,たたら製鉄の原料である砂鉄の産地推定法を確立するために,島根県奥出雲地方の砂鉄の化学組成とその供給源である露頭との関連性を調査した.島根県奥出雲地方の8地点の露頭で土壌試料を採取し,砂鉄試料を取り出した.土壌試料および砂鉄試料の主成分および微量成分元素の濃度を蛍光X線分析法(XRF)で定量した.製鉄過程で値が変化しないといわれているAs/SbおよびTi/Vに注目し,この地域の砂鉄試料を分類した.砂鉄試料のXRFの結果,TiとVは検出されたがAsとSbは検出されなかった.そこで,TiおよびV濃度で散布図を作成したところ,たたら製鉄の砂鉄の採取に使われていた可能性のある露頭に由来する4個の砂鉄試料は,近い位置にプロットされ,それ以外の砂鉄試料と明確に区別された.したがって,TiとVの濃度値を用いれば,当時砂鉄採取に利用されていた露頭を特定できる可能性がある.

  • 薬丸 晴子, 田中 泉, 田中 美香, 横地 和子, 阿山 香子, 及川 将一, 上原 章寛, 石原 弘, 武田(本間) 志乃
    2022 年 53 巻 p. 195-202
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    腸管は経口で摂取し消化された食物を吸収する器官で,脂質や蛋白分解物,金属元素など様々な物質を体内に取り込む入口となる.福島第一原子力発電所事故では放射性核種が環境中に放出され,放射性核種を含む食物の摂取による内部被ばくに関心が寄せられた.我々は内部被ばく核種の腸管動態を理解するための基礎研究として,マイクロPIXE(荷電粒子励起X線)分析による腸管組織の元素分布解析手法を検討した.試料としてポリプロピレン薄膜(6 μm厚)に付着させたマウスの腸管の凍結切片(10 μm厚)を用いた.ヘマトキシリン-エオシン染色を施した測定試料の隣接切片で腸管組織構造把握をして,空腸(上・中・下部),回腸および大腸の5領域の腸管横断面について腸管基底部から管腔側にかけてマイクロPIXE分析を行い,リン,イオウ,塩素,カリウムについての明瞭な元素分布を得た.さらに詳細な分析を行ったところ,中・下部空腸では,絨毛および粘膜層基底部においてカリウム局在が見出された.本手法は腸管組織微細構造と対応した元素分布解析に有効であると考えられた.

  • 渡辺 光, 鈴木 彌生子, 保倉 明子
    2022 年 53 巻 p. 203-222
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    偏光光学系蛍光X線分析装置を用いて,日本,中国,マレーシア,バングラディッシュ,ミャンマー,カンボジア,スリランカ,タイのアジア圏8カ国にアメリカ合衆国とオーストラリアを加えた合計10カ国の精白米中微量元素の定量を行った.二次ターゲット材に,Ti,Ge,Zrを用いることで,軽元素から重元素まで10元素(P,S,Cl,K,Ca,Mn,Fe,Cu,Zn,Rb)が15分の測定で検出され,そのうち7元素(P,K,Mn,Fe,Cu,Zn,Rb)を検量線法で定量した.これらの7元素の組成と安定同位体比δ13C,δ15N,δ18Oを組み合わせて多変量解析したところ,アジア米の国の特徴が明確となった.さらに栽培履歴の明確な日本の慣行栽培米と有機栽培米を比較したところ,Rb濃度とδ15N値が栽培法の影響を大きく受けることが示された.

  • 上原 章寛, 鮮 樹輝, 佐藤 遼太朗, 松村 大樹, 辻 卓也, 薬丸 晴子, 城 鮎美, 齋藤 寛之, 田中 泉, 石原 弘, 武田(本 ...
    2022 年 53 巻 p. 223-229
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    体内にアクチニドなどの放射性物質が取り込まれると,生体内配位子がアクチニドと化合物を生成し,体内滞留の原因となりうる.本研究では,アクチニドを体外に排出させるためのキレート剤の結合性評価を行うため,キレート剤と結合した元素の局所構造をX線吸収分光法によって解析し結合力を評価した.プルトニウム模擬元素としてジルコニウム(Zr),キレート剤として,EHBP(1-hydroxyethylidene-1,1-diphosphonate)およびDTPA (diethylenetriaminepentaacetate)を用いた.ZrはEHBPと八面体構造の錯体を形成するとともに,Zr-EHBP錯体はZr-DTPA錯体より強い結合を有することが分かった.これらの知見は,放射性元素による内部被ばく線量評価や,放射性元素を体外に取り除くための適切な除染方法の提案につながる.

  • 梅村 和希, 小貫 祐介, 星川 晃範, 富田 俊郎, 田中 泰明, 藤原 知哉, 諏訪 嘉宏, 河野 佳織, 佐藤 成男
    2022 年 53 巻 p. 231-241
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    低合金Transformation Induced Plasticity(TRIP)鋼のベイナイト変態中の組織変化を調査するためTime-of-Flight(TOF)型中性子回折測定を行った.変態中のオーステナイト,フェライト相の相分率は回折強度により求められ,Rietveld解析により評価できるが,集合組織により影響される.そこで,Extended Williams-Imhof-Matthies-Vihel(E-WIMV)法およびMarch-Dollase(MD)法を用いたRietveld解析を行い,優先配向補正法の違いが相分率の解析結果に与える影響を調査した.MD法と比較してE-WIMV法は集合組織による回折強度への影響を高い精度で補正可能であることが確認された.中性子回折パターンより低合金TRIP鋼のベイナイト変態域では低炭素オーステナイト相と高炭素オーステナイト相が存在することが確認された.また,電子顕微鏡とX線回折を利用し,変態途中を急冷した試料についてex-situ測定を実施した.Ex-situ測定ではフェライト相,マルテンサイト,オーステナイト相が観察された.中性子回折で観察された低炭素オーステナイト相と高炭素オーステナイト相は,ex-situ測定の場合,それぞれマルテンサイト,残留オーステナイト相として観察されたことが確認された.

  • 丸山 瑠菜, 村松 康司
    2022 年 53 巻 p. 243-256
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2024/10/05
    ジャーナル フリー

    導電性基板密着法による全電子収量(TEY)軟X線吸収測定の分析応用としてワイパーに付着した油脂の非破壊分析を目指し,その検証実験として絶縁性ワイパーであるキムワイプ®(KW)に吸着させた様々な液体不飽和脂肪酸のTEY-X線吸収端構造(XANES)を測定した.測定はNewSUBARUのBL10で実施した.KWに吸着させた不飽和脂肪酸のXANESを解析した結果,C K端XANESにおける不飽和脂肪酸の分率は75%以上,KWは25%以下であるのに対して,O K端では両者ともに約50%であった.吸収端による分率の違いは,C K端とO K端における試料電流の検出深さの違いを反映していると考えられる.この検出深さの違いを考慮しつつ,ワイパーと不飽和脂肪酸のTEY-XANESを元にすれば,ワイパー吸着試料から不飽和脂肪酸のXANESを抽出できること明らかにした.

会議報告
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