Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
Print ISSN : 1344-3992
ISSN-L : 1344-3992
129 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • 冨田 啓貴
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 129 巻 2 号 p. 35-52
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    [早期公開] 公開日: 2021/10/09
    ジャーナル フリー

    社会経済格差は健康格差を生む一因であることが指摘されている。本研究は,身分制社会であった江戸時代において,2集団の人骨からみた健康状態と社会経済格差の間の関連性を明らかにすることを目的とする。本研究では,福岡県北九州市小倉の2遺跡(開善寺跡・京町遺跡)から出土した江戸時代の武士層と推定されている77体の人骨を用いて,死亡年齢,ストレスマーカー,齲歯及び生前喪失歯の分析,それに加えて,社会階層を示す墓制の検討を行った。死亡年齢推定の結果として,開善寺跡の集団においては,成年段階のうちに死亡している女性が男性より多いという特徴を示した。また,開善寺跡の集団を京町遺跡の集団と比較すると,エナメル質減形成,齲歯及び生前喪失歯の出現頻度が低い傾向を示した。この差が生じた要因を明らかにするため,墓制の検討を行った結果,2遺跡間で墓壙の密集度や埋葬施設に占める甕棺の割合が異なる傾向が認められ,開善寺跡の集団は京町遺跡の集団に比べ,社会階層の高い集団である可能性が示唆された。本結果は江戸時代の同一地域内において,社会経済格差が健康格差に影響を与えた一例だと考えられる。

  • 辰巳 晃司, 奈良 貴史
    原稿種別: 原著論文
    2021 年 129 巻 2 号 p. 53-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/27
    [早期公開] 公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

    本研究では,2017年に東京都港区湖雲寺跡遺跡から出土した幕府旗本永井家の歴代当主・正室の頭骨に貴族的特徴が認められるか,形態学的に検討した。貴族的特徴は江戸時代の身分制社会の頂点に位置する徳川将軍家や大名家の頭骨にみられる,極端に幅狭い顔面部,高く大きな眼窩,狭く高い鼻根部,華奢な下顎,微かな歯冠咬耗など,庶民とは異なる特有の特徴を表す。永井家の人骨は,当主10体・正室7体を含む約200年の系譜にわたる,これまで報告例のなかった旗本家の貴重な家系人骨資料である。本研究の結果,旗本永井家には当主・正室ともに貴族的特徴の傾向が認められ,当主は大名に近く,正室は将軍正室と大名正室に近い傾向がみられた。ただし,当主の下顎は庶民に近い頑丈性がみられ,貴族的特徴も世代を経るごとに強くなる傾向はみられなかった。また,顔面頭蓋形態と武家階層の高低との関連を調べた結果,特に男性において明瞭な対応関係が認められ,武家の家格や石高が高いほど典型的な貴族的特徴を呈し,低いほど庶民的特徴に近付くという階層性が示された。永井家に貴族的特徴が認められる要因としては,元々大名を出自とし,旗本の中でも7000石という高い階層にあることが考えられる。永井家当主の歯の咬耗は軽微であることから,下顎が頑丈な要因については,今後食生活以外の可能性も検討する必要がある。

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