Anthropological Science (Japanese Series)
Online ISSN : 1348-8813
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130 巻, 1 号
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原著論文
  • 石原 与四郎, 伊藤 百花, 土肥 直美, 片桐 千亜紀, 吉村 和久
    原稿種別: 原著論文
    2022 年 130 巻 1 号 p. 1-19
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/24
    [早期公開] 公開日: 2022/05/28
    ジャーナル 認証あり

    白保竿根田原洞穴遺跡は,沖縄県石垣島(石垣市)南東の白保海岸から内陸側約800 mに位置する洞窟遺跡である。本洞窟遺跡に分布する泥質の洞窟堆積物からは,19体分に及ぶ後期旧石器時代の人骨化石が産出する。これらの人骨化石の産状からは旧石器時代人が洞窟を墓域として利用した可能性が示唆されている。人骨化石や動物骨化石,岩石,炭化物,海棲軟体動物の殻は層位や場所によって集中・分散が見られ,その配置・埋没プロセスが単純でないことが指摘される。本研究では,人骨化石や動物骨化石,岩石,炭化物,海棲軟体動物の殻の発掘時における3次元位置座標をもとに,これらの分布の統計的評価を行った。また,人骨化石の表面に認められる鉄・マンガン酸化物による着色の有無と個体識別されたそれぞれの部位の分布を検討した。鉄・マンガン酸化物による着色は,洞窟内部の表層近くで形成された可能性が高い。そのため,人骨化石表面に認められる鉄・マンガン酸化物による着色状態が人骨化石の集中部によって異なるという結果は,人骨の配置,移動,埋積過程がその集中部ごとに異なっていたことを示唆する。これらの人骨化石の集中部と着色状態の分布は,識別された個体の部位の分布との関係が整合的であった。洞窟遺跡においては,人骨化石の分布に合わせて着色状態を検討することで,埋没過程の復元や人骨の再移動の可能性を評価できるようになることが示唆される。

総説
  • 山田 博之, 中務 真人, 國松 豊, 濱田 穣, 石田 英實
    原稿種別: 総説
    2022 年 130 巻 1 号 p. 21-54
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/24
    [早期公開] 公開日: 2022/03/08
    ジャーナル 認証あり

    オスの上顎犬歯の大きさと形態について進化過程の構築を試みた。結果を以下に示す。(1):現生および化石類人猿段階から現代人へ至る歯冠サイズの小型化は後期中新世のサヘラントロプスおよびオロリンの時代にすでに始まり,この傾向は現代人に至るまで続いている。(2):尖頭観では現生・化石類人猿で主に近遠心方向に長い卵形をしている。アファレンシス猿人以降では唇舌方向に長い形が主流になる。(3):舌側面観では現生・化石類人猿で主に底辺が幅広で丈の高い歪三角形をしている。例外的にウーラノピテクスでは歪四角形をしている。ヒト族では五角形あるいは菱形が主流になる。(4):歯冠shoulderの位置は現生・化石類人猿では歯頸部にあるが,ヒト族では尖頭方向へ移動している。(5):近心切縁溝は現生・化石類人猿では長く深い溝,カダバ猿人からアフリカヌス猿人では近心の切縁溝と辺縁溝が合流し,エレクトス原人以降では近心辺縁溝のみからなる。(6):辺縁隆線は現生・化石類人猿では短い。ウーラノピテクスとヒト族では尖頭方向に長く延びている。(7):近心舌側面隆線は現生・化石類人猿では近心切縁溝に沿って走行している。ヒト族では歯冠中央を垂直に走行する。(8):歯頸隆線は現生・化石類人猿では狭いが,ヒト族では歯冠高に対し相対的に広くなり,基底結節も発達している。

  • ―アジア東部を中心に―
    澤藤 りかい, 蔦谷 匠, 石田 肇
    原稿種別: 総説
    2022 年 130 巻 1 号 p. 55-74
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/24
    [早期公開] 公開日: 2022/04/22
    ジャーナル 認証あり

    アジア東部は更新世の後半においてホモ属の多様性が高かった地域であり,ホモ・エレクトス,ホモ・フロレシエンシス,ホモ・ルゾネンシスなど様々なホモ属が生息していた。また,デニソワ洞窟の指骨の古代DNA分析から同定されたデニソワ人や,中期–後期更新世に中国地域に生息していた様々なホミニン,台湾沖の海底から見つかった澎湖人など,他の種との系統関係が不明なものもある。一方で,ホモ・サピエンスは21–6万年前頃と6万年前以降にアフリカから他の地域へと拡散し,アジア東部へと到達した。多様なホモ属とホモ・サピエンスはアジア東部で共存していたのだろうか。本研究では,ネアンデルタール人やホモ・サピエンスも含め,アジア東部において様々なホモ属が,どの地域にいつ生息していたのかに焦点を当て,特に人類化石の出土している遺跡について,現時点で最新の知見をレビューする。また,化石記録だけでなく,デニソワ人やネアンデルタール人,ホモ・サピエンスの遺伝的情報や拡散時期などに関しても概説し,現時点での知見を整理する。最後に,今後ホモ属の系統推定や分類群同定に使われるであろう新たな手法(古代プロテオミクス・土壌の古代DNA)について述べる。

寄書
  • ―歴史的経過を踏まえて―
    馬場 悠男, 河内 まき子
    原稿種別: 寄書
    2022 年 130 巻 1 号 p. 75-83
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/24
    [早期公開] 公開日: 2022/04/29
    ジャーナル 認証あり
  • 蔦谷 匠, 市石 博, 中務 真人, 松本 晶子, 山極 寿一, 河村 正二
    原稿種別: 寄書
    2022 年 130 巻 1 号 p. 85-96
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/24
    [早期公開] 公開日: 2022/04/26
    ジャーナル 認証あり

    日本の学会や学術研究を取り巻く状況は年々厳しくなっている。そうした状況に適切に対処していくための基礎データを得る目的で,2021年8–9月に,日本人類学会の会員に対してウェブ調査を実施した。(1)会員の職位による研究活動や教育活動の状況,(2)科研費小区分「自然人類学」に対する意識と申請状況,(3)会員の科研費審査への関与状況,(4)自然人類学の下支えのための方策についてのアンケートに対し,会員の23%にあたる123件の有効回答があった。分析の結果,任期の定めのない常勤職では研究・教育活動に割ける時間的余裕が圧倒的に不足している,有期雇用者(ポスドク,テニュアトラック,非常勤講師など)は研究活動に際して専門的な設備やフィールドにアクセスしづらく所属組織からの理解も得づらい,学生では研究に対する意欲を維持しづらい,という回答傾向があった。科研費小区分に「自然人類学」があるほうがよいと答えた回答者の割合は75%だったが,過去5年間以内に研究代表者として「自然人類学」に科研費を申請したことがある回答者の割合は34%だった。全体的に回答者は科研費の審査に対し誠実かつ協力的だったが,科研費の審査システムに改善が必要であると答えた回答者は半数を超えた(53%)。自然人類学を下支えするうえで学会がより力を入れることが望ましい方策については,関連する学会との共同企画・連携,および,若手研究者支援を選択した回答者の割合がともに最多(46%)となった。

Anthropological Science(英文誌)掲載論文・報告紹介
日本人類学会「若手会員大会発表賞」受賞対象発表要旨
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