中期旧石器遺跡としてのアムッド洞窟は,1960年に東京大学西アジア洪積世人類遺跡調査団(略称西アジア調査団)の先遣隊としてイスラエルにおいて遺跡調査を行っていた渡辺仁東京大学講師によって発見された。鈴木尚東大教授を団長とする調査団は1961年と1964年にこの遺跡の発掘を行い,ネアンデルタール人であるアムッドI号全身骨格を始めとした人骨,それに共伴する多数の中期旧石器および加工石材と獣骨とを発見した。その成果は1970年に単行本として発表されている。アムッド遺跡は,人類進化過程とくに解剖学的現代人の起源と伝播そしてその前段階の旧人との関係を調べるために,まさにその時代とその場所に位置する重要な遺跡である。西アジア調査団の発掘から30年後の1991年から1994年にかけて,イスラエルの調査団がこの遺跡の再発掘を行い14個体の人骨を発見している。その30年前の発掘時には行えなかった,年代測定,遺跡の空間利用,キャッチメントなどの新しい研究が進んでいる。このような再発掘を可能としたのは,西アジア調査団が後世の新しい発想や技術による再発掘のために充分な堆積を残しておいたからである。最初の発掘と30年後のものとのあいだの層序や発掘区画が連続し整合性があるのは,西アジア調査団の発掘基準点と層序解析が厳密に決定・記録されていたからであった。
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