大腿骨計測による既報の体量推定式は,過大な誤差が生じるため1960年代以前の日本人の体格には適していない。そこで,20世紀前半の日本人骨格の計測値を基に,古人骨への適用を考慮して誤差が小さい体量推定式の開発を試みた。まず,以前作成した温帯アジア集団および戦後10年間と1990年代の日本人の生体計測データに基づいた体量推定式を,畿内と関東の解剖晒骨標本にそれぞれ適用し,生前の体量を復元した。この計算に際し,皮膚の厚み分を加えた頭部の計測値と,各長管骨の最大長による推定身長の平均値を代入した。これらの推定式から得られた推定体量の平均値を各個体の実際の体量と仮定し,散乱骨でも活用できるよう,頭蓋や四肢骨の計測項目に基づいて部位別に重回帰分析を実施した。この分析は男女別と男女混合のケースで実施されたが,どの部位でも重相関係数は男女混合の方が高く,推定の標準誤差は3 kg未満に抑制された。上肢では橈骨および上腕骨の骨幹周径を用いた推定式が,下肢では下腿の脛骨や腓骨の推定式の方が高精度であった。特に遠位骨で誤差が小さくなる傾向が見られ,下肢骨では膝関節の幅に該当する項目を含めた推定式の精度が高くなることが確認された。
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