癌

(一)本例ハ尿毒症ニヨリ倒レタル婦人屍ニ於テ、偶然ニ發見セラレタル臨牀的ニハ勿論、肉眼的ニモ、腫瘍タルヲ知ルヲ得サリシモノニシテ、甲状腺右葉下半部ニ限局セル指頭大ノ極メテ、初期ナル甲状腺ノ原發性腺腫性癌ナリ。
(二)本例ハ甲状腺一部ノ炎症外傷血管閉塞後或ハ結節状「ストルーマ」ノ變性ノ何レカニ因スル瘢痕結成ニ續發セルモノニシテ、甲状腺濾胞ノ進行性増殖機能力、生理的限界ヲ逸脱シタルニ由來セルコト明カナリ。

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本篇ハ我ガ京都醫科大學病理學教室ニ於テ實檢セラレタル原發胃肉腫ノ三例ニ就テノ研究ヲ主トシ、胃癌腫ニシテ一見肉腫ノ如キ組織像ヲ呈セルモノノ五例ノ研究ヲ賓トシテ記述セラレタルモノナリ
● 三例ノ胃肉腫ヲ文献ヨリ集メシ百五十餘ノ胃肉腫例ト對比シ、胃肉腫一般ノ性状ヲ縷述セリ。
一、年齡ニ關シテハ好發ヲ四十乃至五十歳ナリトス。
二、肉眼的性状ニ於テハ磊塊状ヲナセルモノト、浸潤性ヲナセルモノトアリ。此ノ外觀的形状ト腫瘍細胞型トハ一定度迄相並行セリ。
三、部位ハ一定セズト雖トモ、多キハ幽門部、大彎部及廣ク胃壁ヲ占ムルモノナリトス。
發生地ハ粘膜下組織又筋層ヲ多シトス。
細胞型トシテ種々ノモノアレトモ、圓形細胞肉腫、紡錘細胞肉腫、淋巴肉腫、筋肉腫等ハ其ノ重キヲナスモノナリ。
四腫瘍組織ハ周圍ニ對シ多クハ浸潤性ニ進ミ。腫瘍組織ノ増殖ニ對シテ周圍組織ハ、同性組織ナルト異性組織ナルトヲ間ハズ多クハ被働性ノ態度ヲ取リ、寧ロ退行性ノ變化ヲアラハセリ。
五、蔓延ハ連續性ト非連續性トアリ。多キ轉移ハ肝及淋巴腺ニアリ。腸ニ轉移ヲ見ル事亦著シク稀ナラズ。
六、原因的要約トシテ特記ス可キモノ無シ。
七、臨床的觀察ニヨレバ、胃肉腫ニ獨特ノ點無シ。八、胃肉腫ハ組織的檢査ニヨルニアラザレバ確診ス可カラズ。
● 胃癌腫ニシテ組織的ニ肉腫樣態度ヲ示スモノアリ。本篇中其ノ五例ヲ記載セリ而シテ之ヲ來スハ癌細胞自個ト間質結締織ノ状態トニ由ルモノナリ。
● 最後ニ胃肉腫ト胃癌腫トヲ對比シテ一、頻度。二、年齡ノ關係。三、部位ノ關係。四、性ノ關係。五、肉眼的關係。六、轉移ノ關係。七、原因的要約。八、鑑別診斷、ニ就テ記載セリ。
〔附記〕胃肉腫ニ就テハ野崎學士ガ研究ニ着手セシモ、不幸病ノ爲續ケ得ザリシ故、余ガ其ノ後ヲ承ケテ研究ニ從事シタルモノナリ。
追加上述セシ例ノ他ニSouques及Chéné氏(146)ノ胃肉腫例(八十五歳ノ男子ノ胃噴門ニ近ク生ゼシ橙大ノ腫瘍ニシテ、組織的ニ紡錘細胞肉腫ナリ)アルヲ氣附キシモ脱稿後ナリシカバ之ヲ記述中ニハ加ヘザリキ。

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