Print ISSN : 0016-450X
41 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 1箇の細胞による腫瘍の移植
    石橋 嘉久藏
    1950 年 41 巻 1 号 p. 1-14_2
    発行日: 1950/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    吉田肉腫の腫瘍腹水を正常ダイコクネズミ腹膜腔液添加生理的食鹽水で稀釋し,その小滴中に含まれる細胞數を顯鏡下に嚴密に數え,これをミクロマニプラトールにより,ピペット中に吸い取り,正常ダイコクネズミの腹膜腔内に注入する方法により,細胞數11箇,2箇及び1箇の場合にも移植に成功した。
    一方,同樣に腫瘍腹水を稀釋し,これを遠心した上清の小滴中に,細胞の全然ないことを一つ一つ確認したもののみを吸い取つて,正常ダイコクネズミの腹膜腔内に注入した試驗は,總て移植陰性と認むべき成績に終つた。
    この際,無細胞の場合の稀釋は4倍∼17倍であるのに對し,細胞1箇の場合の如きは,腫瘍腹水が約500萬倍程に稀釋されている。即ち稀釋の程度が低くとも無細胞の場合は植わらないが,極めて高度の稀釋をした場合でもその中に細胞が含まれていれば,それで植わると言う結果になつている。
    又少數細胞移植で目立つことは,腫瘍の成長に要する時間の延長することである。腫瘍腹水の0.01∼0.02cc,細胞數にして100萬∼1,000萬箇を注入している日常の移植では,腫瘍細胞が腹膜腔内で純培養状態に増殖する迄に3∼4日を要するのであるが,細胞數が3萬箇になると,これが7日に延び,8,000箇或は2,000箇になると十數日に延びる。しかし,20箇或は1箇になつても,最早や大差はなく,大體2週間前後となつている。
  • 北村 四郎
    1950 年 41 巻 1 号 p. 15-26_1
    発行日: 1950/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃の癌肉腫は他の臟器のそれに比し稀で,1904年Queckenstedtが初めて報告してから現在迄僅かに10例を數へるにすぎない。著者は最近癌肉腫と思われる3例(内1例は既に當教室の古川が報告)を經驗したので之迄の諸家の報告と合せ檢討し,ここに報告する。著者の例は何れも一方には圓形乃至紡錘形細胞肉腫と他方には髄樣癌の像が認められ,兩者は實質と間質の關係を示さず,自然に何時の間にか移行している。此の點よりすれば3例共に一つの源基細胞に由來する腫瘍と考えられ,R.Meyerの分類に從へばCombinationstumorに屬する。唯3例の内2例には肉腫内にも印環細胞形成が認められるので,或いは肉腫樣構造を示す癌腫と考えられぬ事もない。然し此の肉腫内に於ても嗜銀性纎維は腫瘍細胞と密接な關係を有し,吾々が平常肉腫と呼んでいる像に完全に一致しているので,3例共に癌肉腫と判斷するのが至當と考える。尚著者は之迄に報告された癌肉腫の所見を基礎として肉眼的には胃壁の肥厚の状態により之を瀰蔓性肥厚をなすものと,胃壁の内外に夫々發育する型に大別し,組織學的には純形態學的な見地から分類を試みた。
  • 第1報
    天野 重安, 瀧野 義忠, 田頭 勇作
    1950 年 41 巻 1 号 p. 27-36_1
    発行日: 1950/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肉腫が濃厚葡萄糖の注射で發生せしめうるという西山氏の新知見は,この物質が生體に生理的に存在するだけに我々の關心を強くひく。我々は葡萄糖に代えて糖原を用いても同樣に肉腫の發生することを認めた(天野•伊東)。さて,今日腫瘍新陳代謝の特性と目せられているものは糖代謝形式である。その特殊の糖代謝形式と前述の強度の糖の負荷との間には必ずや重要な腫瘍發生の要約が陰されていることと考えちれる。
    そこで我々はこの糖負荷に際する,糖代謝の何の部分が發癌性に作用するのであるかを窺知するため,糖代謝酵素系の切斷を計畫した。それは一沃度醋酸乃至は弗化曹達の使用によってこの糖分解をトリオーゼ以前の状態に止めるとか,トリオーゼの段階に止める樣にして,その場合に肉腫發生が如何に影響されるかを差當って調べることである。
    この實驗には二種の豫備階梯が必要で,1.長期間の一沃度醋酸乃至弗化曹達注射を行うに適した最高耐量を決定すること,及び,2.この耐量が同時に注射された葡萄糖の分解に明かに影響しうることを化學的定量的に確認しおくことである。過去數年の準備實驗によつてこれらの條件が滿足せられることが判明したので次の如き本實驗を試みた。
    I 群 20%葡萄糖1cc.隔日注射+0.4g/dl弗化曹達0.5cc同時注射
    II群 20%葡萄糖1cc.隔日注射+0.4g/dl一沃度醋酸0.5cc同時注射
    III群 20%葡萄糖1cc.隔日注射+0.8%食鹽水0.5cc同時注射
    なお各群の動物にはこのほかに5%0-Amidoazotoluol 0.3ccを週1回(第2ケ月以後は2週間に1回)上記注射部位に注射した。
    これらの動物は200日以上生存せるもの各群に7匹ずつあり,これらの動物中肉腫の發生しきたつたのは第II群(一沃度醋酸群)で,300日までの經過中において殆ど全例に於て肉腫が陽性であり,これらかち2移植肉腫株系を作りえた。第1群(弗化曹達群)及び第III群(對照群)からは同期間において肉腫の發生例は第1群に1例あり,第III群にはない,但し1年以後に於て此等の群からは少數の肉腫を發生した。
    この實驗で用いた葡萄糖及び0-Amidoazotoluol量は西山氏の場合に比して遙かに少量であるから,第I群及び第III群の肉腫發生が低率なことは必ずしも異とするに足りない。これに比すれば第II群,即,一沃度醋酸の肉腫發生を促す性質は注目に値するものがある。このことは葡萄糖がトリオーゼに分解される以前の状態において作用した場合によく發癌性を發揮することを物語るものであろう。なお弗化曹達のこの程度の注射量では1ケ月後には特有の齒牙變化を呈するが,それ以上の中毒性變化を呈していない。
  • 飛岡 元彦, 上岡 和夫
    1950 年 41 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 1950/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1) 本腫瘍の培養には鷄血漿,鷄胎兒壓搾液の他大黒鼠腹水を添加した培養基がその發育に最も好適であり,更に鷄胎心臟組織の並置培養も好適である。
    2) 本腫瘍の培養に於て發育促進物質として腹水の他には正常大黒鼠の脾臟抽出液であり、腫瘍移植大黒鼠の脾臟抽出液はそれより遙かに發育開始の時期が遲れ,且つ比較成長價が低い。之は本腫瘍移植により動物が免疫され,同動物に本腫瘍發育の抑制因子が獲得され,その脾臟にも之が含有された結果であると思われる。大腦,睾丸,肝臟等其他の諸種臟器抽出液添加培地では腫瘍の發育を見ない。
    3) 本腫瘍を皮下に移植し,一程度増殖後之を摘出し,腹腔内に再移植し陰性の結果を得たことから本腫瘍には免疫が形成されることを證明した。再移植後腹腔内での腫瘍細胞の生存日數は極めて短時日で概ね2∼3日で多くとも6日以内である。
    4) 7例の腫瘍移植大黒鼠にtris-β-chloroethylamineを注射したが初回注射後腹水中の腫瘍細胞は2日以内に消滅した。Nitrogen Mustardでは本腫瘍細胞を崩壞消滅させることは出來るが副作用が大で個體も死に至らしめるが,生命の延長は可能で,その量は0.1mg/100g以内と考えられる。
    5) 胎盤製劑(Thmenin)投與の10例中1例に腫瘍の陰性化を見,1例に60日間の長期に亘り生命を維持するのを見た。
    6) Estrin製劑を睾丸内移植腫瘍動物に注射した7例中2例に陰性化を見た。
    7) 腸チフス,パラチフス混合ワクチン,ベンゾール等では本腫瘍は影響を受けないが胎盤製劑,Estrin製劑では影響を受け,確實に腫瘍の陰性化を見る場合もあるが,常に一定した成績を得ることは出來ず,その率は少かつた。以上諸種の藥劑では腫瘍細胞に最も強い影響を及ぼすのはtris-β-chloroethylamineであり,毎常大部分の腫瘍細胞が強烈な潰滅状態に陷るが,副作用殊に腸粘膜の障害による下痢が強く,比較的早期に死に至り,一定の非常に少量を與えた時にのみ生命の延長を得られるが完全に回復したものはなかつた。
    8) 皮下移植後腫瘍を摘出してから腹腔内に再移植し陰性化する場合,腫瘍細胞の核萎縮,崩壞,空胞變性等Giemsa染色所見は正常の未處置動物に移植した場合の中-末期に屡々見られる所見と同樣で細胞個々に關しては檢索した範圍内では免疫動物に特有の所見とは云い難い。
    9) 皮下移植腫瘍摘出後,腹腔内に再移植する場合,再移植後1∼2日で顆粒球の反應が消失し,次に單核細胞が急激に相對的の増殖を示す。この際單核細胞の空胞變性,貧喰細胞の強い出現,時に腹腔内固定細胞の剥離等が目立つ事がある。
    10) 腫瘍細胞はヤーヌス緑,中性赤複染色により中性赤ロゼツテを見,之を取圍む短桿状ヤーヌス緑可染體を見る。尚ヤーヌス緑可染體だけで中性赤ロゼツテを見ない幼若型と考えられる細胞を見る。
    11) ヤーヌス緑,中性赤複染色による可染體及び顆粒は移植後2∼3日内に最も顯出がよく,中-末期ではその現われる數が減少する傾向がある。
    12) ヤーヌス緑,中性赤超生體複染色による可染體及び顆粒の顯出しない場合でも,之を新しい動物に移植する時は急激に顯出する。之は細胞の機能或は増殖と環境の變化に關係する問題と考えられる。
    13) 固定標本に於て酸フクシン或は鐵ヘマトキシリンを用い腫瘍細胞に檢出される顆粒を見ると短桿状或は顆粒状を呈し,胞體に散在する。核小體は大型複雜な形態を示し數も一定しない。
    14) ヤーヌス緑,中性赤複染色で顯出しない場合でも2,3の溶液例えば生理的食鹽水,Ringer氏液,一定濃度のCaCl2,MgSO4,KCl溶液,Vitamin B,葡萄糖,唾液,血清(鷄)等でヤーヌス緑可染體が顯出する。
  • 中原 和郎, 福岡 文子
    1950 年 41 巻 1 号 p. 47-56
    発行日: 1950/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    我々は癌組織から生産(分泌)され,血流に運ばれ,肝臟に達しその細胞機能(カタラーゼ作用)に障害を與える物質を捕捉してこれをToxohormoneと假稱した。肝臟カタラーゼの顯著な減少は癌に於ける全身的障害の最たるもので(Greenstein)トキソホルモンはその原因物質である。
    トキソホルモンの化學的性状に就いては,前報告に於てそれが耐熱性であり,加熱によつて凝固せず,エーテルに不溶,水によく溶け,水溶液から二倍量のアルコールで沈澱することを述べた。多糖類として或は核蛋白區劃として分離することは出來なかつた。
    その後既に報告したアルコール沈澱物(50∼100mgで有效な標準濃縮物)から出發して,實驗を重ねた結果、その水溶液から硫酸銅で沈澱せしめ,それを10/N鹽酸で處理してすこぶる強力な標品を得ることに成功した。
    この精製トキソホルモンは5mgで充分に有效である。すべての點を綜合してトキソホルモンは一種のポリペプチードであると思われる。
  • 森 和雄, 百木 せい子
    1950 年 41 巻 1 号 p. 57-60
    発行日: 1950/04/01
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    木下法に從い,Butter Yellow添加白米で白鼠を飼養し,肝癌生成の實驗過程に於ける肝の比重の變化を追究した。
    比重の測定には,近年血清蛋白を測る方法として用いられている硫酸銅法(吉川による)を應用した。即ち,血清の場合よりは濃度の高い溶液を連續的に調製し,夫々の比重は比重計を用いて決定した。
    對照として測定した正常雌鼠の肝の平均比重は1.077であつたに反し,實驗經過に應じて分けられた肝所見即ち肉眼的正常,表面不平滑,肝硬變並に肝癌の4期に於ける肝比重は夫々1.071,1.070,1.067並に1.059であつた。
    即ち,肝癌生成過程に於ける肝比重は日を追うて下降している。中原並に福岡によれば,肝癌生成過程に應じて肝カタラーゼが減弱して行く事が明かにされているが,肝比重も同樣の傾向を示す事は注目に値すると思う。
feedback
Top