Print ISSN : 0016-450X
40 巻, 1 号
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  • 吉田 富三
    1949 年 40 巻 1 号 p. 1-21
    発行日: 1949/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    まず「液態腫瘍」に關する著者の見解を述べた。それによると通常の動物の移植性の癌腫或いは肉腫も,例えば,それをエムルジオンの状態にして腹膜腔内移植を反復することによって,液態腫瘍に變化せしめ得るだろうと豫想される。これに關する著者等の實驗は未だ成功していないが,累代移植性の液態腫瘍が得られれば,その形態學的研究はすべて塗抹標本で行うことが出來るから,形態學的研究に新生面を開くであろうし,腫瘍の生化學的方面の研究または化學療法の研究等にも多大の利便を與えるであろう。
    吉田肉腫はこの意味の液態腫瘍の性質を完全に備えている。これはある發癌實驗を行っていた一群のシロネズミ中の一頭に發生したものである。その實驗で我々はこの種の腫瘍の發生を豫想していたのではなかったのであるが,上述の液態腫瘍の立場からこの特有な腫瘍に注目してこれを捉え,1943年以來今日まで移植を續けている。移植は腫瘍腹水の一滴を他の動物の腹膜腔内に入れればよいので,甚だ簡單である。移植率は非常に高く98%である。動物は約12日の平均壽命で必ず死ぬ。その時は多量の腹水を生ずる許りでなく,組織内に廣く浸潤を生じ,その状態は一般の惡性腫瘍と少しも變らない。腹水は1cmm中に約100萬の腫瘍細胞を含んでいるから,細胞の檢査には遠心等の必要は全くない。即ち血液檢査と全く同じ方式で腫瘍の檢査が出來る。
    細胞は非常に大きく,正常の如何なる細胞よりも大きい。原形質内に多量のアズール顆粒を生ずることが一つの特徴である。細胞の性質は全體として單球に近い。
    顯微鏡下で細胞の數をかぞえながら行った移植試驗で,唯1箇の細胞による實驗が成功した。30箇以上の細胞があれば移植は常に確實である。すなわち,細胞があれば1箇でも移植し得るが,全く無細胞では植わらない。我々の今日までの研究の結果では,この腫瘍はウィールスによるものではない。少くとも,Rousの腫瘍またはShopeの腫瘍等に知られているような意味のウィールスは證明出來ない。
    今日までに我々は45種以上の化學物質をもって,この腫瘍で化學療法の基礎試驗を行ってみた。未だ完全に有效な物質には遭遇しないが,物質投與後の腫瘍の状態を,逐時的に且つ細胞個別的に點檢することも出來るので,この腫瘍が,化學療法の研究に有效な試驗臺であることは示された。化學療法の研究はこれによって充分に組織立ったものになり得るだろうと期待する。今日までに最も效力の著しかったのは,チフス菌及び赤痢菌の培養濾液で,この濾液を腫瘍腹腔内に直接に與えると,約10日間の處置で,半數以上の動物が完全に治癒した。
  • 子宮頸部癌の研究
    太田 邦夫
    1949 年 40 巻 1 号 p. 23-33
    発行日: 1949/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    約100例の子宮頸部癌を,Ra-照射治療の前,照射間及び後に,連續的に組織學的檢査を施して,その組織像と放射感受性について,相關を求める目的をもって研究した。
    1.從來のいわゆる扁平上皮癌なるものの分類に對して,純粹に形態學的の立場から新分類を提出した。殊に扁平上皮癌に對しては,重疊上皮癌の新命稱を提唱し,且つDuval及びLacassagneのいわゆる粘皮型及び表皮型なる分類に批判を加えた。
    2.特異的に放射感受性の高度の組織型は見出し得なかったが,未分化型重疊上皮癌は分化型並に單純癌に比して,感受性の高いことを認めた。
    3.有絲核分裂像の多少は必ずしも放射感受性の強弱と併行しないが,一癌細胞巣内において,核分裂像がその中心部にまでも廣く分布している場合には,明らかに高い感受性が見られる。
    4.放射感受性を檢索する一つの着眼として,第一回照射後における組織像の變化,殊に,癌巣と間質との交渉を檢索する必要のあることが強調せられる。
  • 太田 邦夫, 曾根 正藏
    1949 年 40 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 1949/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    目的 腫瘍の間質性反應を檢討するには,その原發巣を檢索しても分析が困難であるが,リンパ節轉移における態度はリンパ節なるものの間質の基本講造と反應様式が單一であるために都合がよい。
    この目的で殊に髓様癌と硬性癌の局所リンパ節を比較檢討した。
    材料・方法 91例の胃癌切除例の腎について,その原發巣とリンパ腺(各例につき15∼30個を比較檢討した。
    染色 H-E染色, Mallory染色, Dublin氏鍍銀染色
    結論
    A. 轉移初期には縁洞内轉移において1) 髓様癌ではほとんど一様に縁洞銀繊維は消失に向う。2) 硬性では縁洞銀繊維の肥大,新生が局在性に見られることがある。倶し離斷消失の起る場合もある。
    B. 轉移がさらに成長すると,成長の前線においてFibrillosis-硬性 Fibrillolysis-髓様癌が進行する。
    C. 轉移巣内の二次的退行變性は髓様癌中にもFibrillosis-Fibrosisを起さしめる。
    D. Pre-invasive cellular reaction(侵襲前の細胞性の反應)として一定のものを認めることは出來ない。
    E. 然しPre-invasive fibrillosisと考えられるものが存在するように思われる。發現率26例中6例(16個のリンパ腺) 發現場所は圖表を參照 但しこれに對しては各リンパ腺の既往について對照がなければならない。同一個體の同一群に屬するリンパ節或いは同一リンパ節の他の部分との比較において,かなり炎症性要素を除外し得ると思う。
    F. もしPre-invasive fibrillosisがあるとすれば,それは硬性細胞のfibroPlastic intrinsic factorを考えねばならない。
  • 中原 和郎, 福岡 文子
    1949 年 40 巻 1 号 p. 45-71
    発行日: 1949/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    癌組織が何か毒性物質を生産するであろうということは,かなり古くから考えられていたのであるが,今日まで何等特殊なものが見出されていない。これは癌における全身的障害が具體的につかまれてなかったのでかような物質を探す手懸りがなかったためであると思われる。
    近年になって,肝臟カタラーゼの著明な減少が,癌の全身障害の一つとしてはっきり認識されるようになった。肝カタラーゼの減少は以前から癌患者及び擔癌動物において觀察されていたのであるが,最近Greensteinの研究によってその意義が非常に明らかになったのである。
    Greensteinは擔癌動物の肝臟カタラーゼが他の酵素に比し著しく減少している點を確かめ,さらに癌を外科的に切除すると肝カタラーゼが正常に復し,再移植するとまた肝カタラーゼが減少することを明らかにした。姙娠動物では肝カタラーゼは正常であり,巨大なエムブリオームを作っても何等の影響がない。すなわち,肝カタラーゼの減少は癌に特異である。また試驗管内實驗から肝カタラーゼ作用の減少は,作用が抑制されるのではなく,カタラーゼ量が減少するのであることを證明した。
    そこで癌組織が一種の物質を生産(分泌)し,それが血液を介して肝臟に至り,肝カタラーゼを減少せしめることが當然考えられるのであるがGreensteinは腫瘍エキストラクト中にかような物質があることを證明し得ず,結局動物體内に腫瘍が増殖していることが必要條件であると結論したのである。
    我々はGreensteinがこの物質を證明し得なかったのは,それが癌組織中に極く少量しか含まれていないため,普通にエキストラクトを作ったのではその作用が認められないのであろうと推定した。もしさうなら,癌組織からその物質を濃縮物としてとり出せばその作用を證明し得る筈である。ここに報告した我々の實驗はそれを成し遂げたものである。
    この物質は病的組織が生産する,特殊な毒作用を持った一種の内分泌物と考えることが出來る。その意味で我々は假にこれを「トキソホルモン」と命名した。
    その濃縮分離方法としては,種々の豫備實驗を試みた結果,次の方法が最も確實であることを決定した。すなわち癌組織を水で浸出し,浸液を適當量に蒸發濃縮し,これに2倍量の純アルコールを加えて生ずる沈澱を採り,乾燥してエーテルで洗うのである。收量は原料の5∼8%が普通である。
    物質の作用はそれを正常マウスに注射し,肝臟カタラーゼ作用の減少によって判定する。
    正常マウスの肝カタラーゼは個體による變化が多く,我々の實驗した73例では酸素量で最高16.4,最低4.6,平均7.9となり,大多數例は6∼10,5以下は極めて少數で全例の4%位であった。
    ところが癌のアルコール沈澱物50∼100mgを注射すると,20時間位で肝カタラーゼが顯著に減少する,多くの場合正常の最低値を突破し,甚しいものは2近くまでも減少する。
    我々の檢した癌組織は全部人體材料で,胃癌が大部分であったが,直腸その他の腸癌,乳癌,胃癌の肝臟轉移,肝癌の淋巴腺轉移,肉腫としては黒色肉腫,細網肉腫があった。トキソホルモンはこれ等の總てから證明することが出來た。
    對照實驗としては,癌或いは胃潰瘍患者から切除した正常胃或いは腸粘膜,及び動物の正常組織を動物體に注入して壞死に陷らしめたものから同樣の方法でアルコール沈澱物を採ったが,これ等は何れも肝カタラーゼには何等の影響をも與えるものではなかった。
    またトキソホルモンが死んだ癌組織の分解産物ではないかという點を決定するため,癌組織の特に壞死部の多いもの,或いは體外で腐敗せしめたものについて檢討したが,壞死或いは腐敗によってトキソホルモンが増加することは全く認められなかった。
    トキソホルモンの化學的本体は未だ明らかでないが,それが耐熱性であること,加熱によって凝固しないこと,エーテルに不溶,水によく溶け,水溶液からアルコールで沈澱することは明らかである。このような性状から差し當り多糖類と非凝固性蛋白との關係が考えられるが,我々むしろ後者と關聯しているものと考えている。多糖類として分離することには成功しなかった。
    この研究は單に癌組織から毒性を有する一物質を抽出したというのではない。一定量を注射して動物を殺す物質は癌組織は勿論,正常或いは壞死組織等からも容易に分離することが出來る。このような毒性物質は肝カタラーゼを減少せしめる作用を有しない。トキソホルモンとは全く別個のものである。
    トキソホルモンは惡性腫瘍組織から分泌され,體液に運ばれて動物體の一定の細胞機能に障害を與えるもので,しかもその障害(肝カタラーゼの減少)が癌に於ける殆んど唯一の顯著な全身障害と認められている點に於て特別な意義を有するものである。
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