ヒキガエル卵を人工注精し,発生した幼生を孵化直後から30±1℃の高温の水槽で飼育したところ,しばしば発化の遅延や停止および水腫の成年などの異常がみられたが,特異なことには大部分の幼生において趾異常が認められた.このような異常の成生過程を知るために,まず正常肢発生をくわしくしらべることとした.ヒキガエルでは肢芽の出現が他の既に知られている無尾類の種に比べ著しく早く,孵化直後の未だ鯛蓋の閉じない時期(Shumwayの発生段階23-24)においてすでに認められるが,この時期を発生段階1とし,以下変態完了までの全期間を肢の主な外形的な特徴によって18の発生段階に分けることとした. 趾の発生順序は外見的には第4,第3,第5,第2,第1趾および番外趾の順であった.(番外趾は無尾類に正常に存在する特殊な退化的な趾である.)30±1℃で飼育した幼生の後肢においては,肢芽期においては,肢芽がしばしばやや細い傾向がある以外は特に著しい異常は認められなかった.しかし足板期においては,足板の軸前部(preaxial part)の発育が著しく悪くなることがわかった.このような現象は既にXenopus(Tschumi, 1954)やマウスのo1igosyndactylism (Grunebery, 1961)でも知られているところで,趾奇形成生に関係があるとみなされるが,この点の解明は今後の骨格発生の研究にまちたいと思う.さらに進んだ発生段階における肢をみると,大多数において,発生段階10(本来ならばかすかに第1趾が認められる段階)になっても第1趾の形成が認められず,さらに発生段階11以上になれば明らかに欠趾を認めることができた.発生段階10以上の幼生143個体をしらべた結果では両肢ともにほぽ正常とみなされる趾をもっているものはわずかに2個体にすぎなかった.残りの141個体の足には極々の異常が認められたが,最も多いのは上記の欠趾で,右足では96.5%,左足では95.1%に達した.発生段階13-16(本来ならば第1-5趾および番外趾の6趾が認められる段階)におけるこのような足を見ると,外形的には著しい異常のない第2-5趾と第2趾に接した発育不全趾を認めることができた.この趾はその外形および位置から番列批とみなされるので,この欠趾は第1趾の欠除によるものと判断できた.Tschumi(1954)によると, 趾形成材料(中胚葉)が不足している場合には,最初に形成される趾(第3-5趾)が材料を使用する結果,後に形成される趾(第1,2趾)はしばしば材料の不足をきたし,そのために趾奇形が生ずるのであろうという.高温飼育したヒキガエル幼生にみられる第1趾の欠除もこのようなTschumiの考えによって説明することができるが,最後に形成される番外趾が何故に欠失しないかを理解するのが困難である.この点の解明は,今後の骨格の研究にまちたいと思う.
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