著者は,クローズドコロニーとして約20年間維持されてきた日本白色種ウサギ(jw/NIBS)を用い,妊娠8日ないし15日のいずれかの妊娠日,ビタミンA30万単位(IU)/kgを1回腹腔内は注射し,その胎仔をおよぼす影響について実験を行ない,つぎの結果を得た.1)8日胎令群では,すべての胚が死亡し,可検胎仔はえられなかった.9〜15日胎令群の胎仔には,種々の外形および骨格異常,さらに発育障害が種々の頻度で成立した.2)外形および骨格異常は9〜11日胎令群の胎仔では高率に出現したが,処理時の胎令が進むとともに成立頻度は減少した.3)ウサギにおけるビタミンA過剰投与実験において,先人が記載しているように,頭蓋および顔面異常,口蓋裂,露舌,眼瞼開放,短尾,内反手,内反足,欠指,合指および合趾がみとめられた.さらに,本研究では耳介の異常,短肢,短指および短趾が低率に観察された.4)骨格系の観察により,早期胎令群の胎仔にみられた頭蓋異常は頭蓋骨の減形成によるものであるが,他方後期胎令群の胎仔にみられたそれらは前頭骨および頭頂骨の癒合あるいは隆起にもとづくものであろう.このように頭蓋骨に発現した異常は,ビタミンAの処理をうけた発生段階により,それらの形態発生機序を異にするようにみられた.5)他の特徴的な異常のうち,顔面異常は鼻骨,上顎骨,切歯骨および下顎骨の形成不全に,短肢は上腕骨および前腕骨の短縮,肥厚および癒合に,欠指,短指および短趾は指骨の全あるいは部分欠損にもとづいて発現するものであろう.本研究について終始御指導,御校閲を賜わった恩師,田島正典博士,ならびに武田薬品株式会社生物研究所梶原彊博士に深甚の謝意を表する.また,本研究の機会を与えられた日本生物科学研究所所長中村〓治博士に深謝する.さらに,実験に協力していただいた井上洋子嬢に感謝する.
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