(1) 北海道北見國網走町附近に現出する第三系を主として岩質上から,常呂層,網走層,能取層,呼人層の4累層に分ち,その性状に就き先づ述べた。之等は北海道北東部則ち北見地方の第三系の総てを盡さずとするも,先づ略々各時期の代表者たり得べく,以て一地質區を構成する同地方の標準層序たり得るものと信ずる。
(2) この中,常呂層は北海道中央部の幌内統から川端統の一部或は釧路地方の浦幌統から音別統の下部に匹敵するもので,緑色砂岩を主とし赤色礫岩,黒色泥岩等を挾み一部に含炭する。又石油を胚胎する母層もこれに含まれると思はれる。網走層は大部分火山噴出層よりなり,能取層は加茂川層又は白糠層の所謂硬質頁岩よりなり,呼人層は所謂追分層,本別統等の凝灰質砂質泥岩を主體とする。
(3) 上記各層と近接地方との層序の對比を試み,それから導き出せる,本地方の各層の役割につき問題を提示した。その内では本地方に於ける所謂古第三系の缺除,火山活動の熾烈,各累層間の不整合の存在,火山岩噴出順序等の諸現象が特に注目に値する。
(4) 次にこの地域の地質構造上の特性を述べた。則ち北北東乃至北東北走向の造構的方向性,換言すれば同走向の緩慢な褶曲と,之を走向的に切つた諸斷層系の發現が著しい,この性状は一地質區東部北海道の一部としての本地域の注目すべき構造癖である。
(5) 石油徴候に關して從來知られた以外に特に新たに寄與する處は少い。油母岩は恐らく常呂層中に胚胎してゐるものらしい。但し現在の油徴は網走層を貫く輝石安山岩に因果を有する方解石脈に滲染し,或ひは同岩中に土瀝青質細脈又は小塊として認められ,油徴として多くない形式に屬する。但しかゝる徴候のみでは直ちにこれが採油に適する有望なる油徴とは言ひ難く,たゞ常呂層を其核とし,上位に能取層を載く背斜構造も2, 3存し又上記の様な徴候も存する事であるからなほ望みを捨てず,將來更に之等構造の探究と油徴の追求を試みる事が必要であると信ずる。(完)
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