発達障害研究
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44 巻, 1 号
生活している地域で発達障がい自者の支援をするためにー気づきから支援のネットワークへー
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
  • ー気づきから支援のネットワークへー
    外岡 資朗
    2022 年 44 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/01
    ジャーナル フリー
    発達障害は,診断がつくかわらない段階でも本人家族は支援を必要としており,気づかれた時から身近な地域のなかで本人と家族を支援すること(診断前支援)が大切であると,厚労省の報告書でも示されている.鹿児島県こども総合療育センターの開設後,受診待機期間短縮の要請が強くなり,予約を受理する方法の検討を始めた.医療機関でのアセスメントや診断等を支援に活かすためには,生活する地域で支援が始まっている必要がある.アセスメントを地域で活用できることを目指し,地域で支援が始まっているケースから受け入れる仕組みを考えた.紹介票というツールを用いて支援者が予約をする仕組みにし,受診時にはすでに支援が開始されている状況をつくる努力をした結果,受診待機期間短縮しただけでなく,早期に支援が始まることで家族の不安軽減に役立つ仕組みと考えられた.支援には地域ごとに医療と教育,保健福祉など多職種連携が望まれる.支援者が顔の見える関係をつくり,連携のイメージを共有し,紹介票をツールとして使うことで,地域支援のネットワークを広げてゆきたい.
  • 神尾 陽子
    2022 年 44 巻 1 号 p. 9-16
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/01
    ジャーナル フリー
    自閉スペクトラム症(ASD)を主とする発達障害への支援は,国の推進施策のもと支援サービスの拡充がもたらされた.こうした子どもを取り巻く環境の変化に伴い,求められる支援ニーズも変化している.またこの間の研究の進歩は支援が依拠すべきエビデンスを多くもたらした.このため発達障害支援にかかわる私たちの知識も常にアップデートする必要に迫られている. これからの発達障害支援は,地域で教育,福祉,医療等多領域・多職種がネットワークをつくり連携してあたることが前提となっていく.そのためには,異なる専門性をもつ支援者が共通の言語をもち,互いのコミュニケーションをより円滑にし,今日的な問題意識を共有することは重要である.今大会の特別講演では,WHOが推奨するメンタルへルスの視点からの包括支援のあり方を一緒に考える機会とし,発達障害への早期支援,メンタルへルスの課題,そして学校での多職種支援について提案を行う.
  • 友田 明美
    2022 年 44 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/01
    ジャーナル フリー
    子どもの健全な発育を妨げるマルトリートメント(マルトリ)は子どもの人生に影響を与える.さまざまなマルトリ経験で傷ついた脳は支援や心のケアで回復しうる. 「マルトリ予防®」のためには「とも育て®」が不可欠で,社会全体で親子の問題に取り組んでいく必要がある.
  • 神尾 陽子, 小林 潤一郎, 奥野 正景, 大石 幸二, 原口 英之, 肥後 祥治, 外岡 資朗
    2022 年 44 巻 1 号 p. 23-31
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/01
    ジャーナル フリー
  • 水流 かおる, 外岡 資朗, 山田 友美, 鈴東 佳子, 田畑 寿明, 水流 純大
    2022 年 44 巻 1 号 p. 32-35
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    近年,子どもの出生率は減少しているのに対し,発達障害,またはその疑いがある子どもの数は増加し,児童発達支援センターおよび児童発達支援事業所,放課後等デイサービス事業所の数も地域差はあるものの増加の一途をたどっている.サポートが必要な子どもたちが住み慣れた身近な地域で,個々にあった発達支援・家族支援・地域支援を受けるためにはその地域事情にあった仕組みづくりが求められる. 本シンポジウムでは,「サポートが必要な 子どもが身近な地域で成長するためのつなぎ とマッチング」をテーマに,個々の子どもの成長を見据え,継続したサポートを行うためには何が必要かについて議論する.多くの子 どもが受検する,保健センターでの1歳6か月,3歳児健診等により発達が気になるとスクリーニングされた子どもが,どのような人々や関係機関とつながり,どのように身近な地域で支えられているのか,その現状と課 題の報告を3人の話題提供者が行い,テーマ起案者とともに共有したのち今後の方向性について考える.
  • ─既存の資源・機関の機能化からのアプローチ─
    肥後 祥治, 福元 康弘, 塚本 亜希, 城門 千代, 有村 玲香
    2022 年 44 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    特別な教育的ニーズのある子どもやその保護者へ支援はさまざまな領域において実践が続けられていが,新たに顕在化してきた課題は,支援を必要とする子どもたちの制度設計を超えた増加とそれに対応していく社会的・ 人的資源の地域間格差であると考えられる. この実行委員会企画シンポジウム2では, 先の課題に取り組むにあったて異なるアプ ローチの可能性を模索することである.支援システムや支援体制を企画・設計する際,当然ながら担当者は,その時点での学術的・経済的・財政的な基盤に背景に成立した設計思想に影響を受けるが,多くの場合そのことは,担当者自身にはほとんど意識されない. その設計思想を自ら支持し,社会的にその思想の優位性が認められていればなおさらである.しかし,時間や時代の推移,地域間のもつ条件が異なってきても,設計思想は吟味されることはほとんどない.そして,当初採用された支援システムや支援体制の企画・設計に用いられた方法論や考え方を改良・工夫することで,システムや体制の構築の取り組もうとする営みが継続されているといえる.現在の設計思想で最も影響力があるのが施設中心のリハビリテーション(Institution-Based Rehabilitation:以下 IBR)であると本シンポジウムの企画者は考えている.これまでの療育システムと支援体制の企画・設計が専門家の存在と効率的なサービスの配布に重きをおくIBRの考えに基づくならば,より多くの病院や基幹療育センター,発達障害を対象とした特別支援学校,児童発達支援センターを設置し,より多くの専門家を養成していけばよいことになる.しかしこのような取組みは,近年わが国が志向しつつあるノーマライゼーションやインクルーシブ教育,地域生活と言った基本理念とは反する方向性をもつだけではなく,持続可能性において大きな問題を抱えており,先に挙げたような課題の解決は,現状では不可能である.特に鹿児島のように多くの離島や僻地を擁している地域において,このような取り組み方は,絵に描いた餅とならざるを得ないアプローチであろう. 社会的資源や地理的制約が厳しい地域においては,IBRに替わる設計思想を吟味する必要性があるが,先に述べたとおりこのような地域においてもシステムや体制の設計思想の吟味に対する焦点があてられることのないま ま,連携の方法論をはじめとするシステムや体制の目に見える部分への取り組みが提案されたり,役割を担う機関の設置を熱望したりするといった取組みが行われることがほとんどである.本シンポジウムでは,代替設計思想となりうる地域に根ざしたリハビリテー ション(Community Based Rehabilitation: 以下 CBR)に注目をしており,このアイデアが「持続可能性」の鍵であると考えている.そこで,CBRのアイデアと親和性の高い実践について,それぞれの成り立ちと展開,問題点等について議論するなかで持続可能な療育システムと支援体制構築のために必要なシステム設計の思想(パラダイム)や技術論について検討を行ってみたい
  • 吉田 巌, 森山 千恵, 向井 扶美, 白鳥 浄子, 海江田 宏
    2022 年 44 巻 1 号 p. 41-44
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    発達障害に対する社会的認知が高まり理解が進むなか,発達特性をもつ児童の就労支援も進んでいると考えられる.企画者は鹿児島県において児童精神科領域において発達障害特性をもつ児童にかかわっており,学童期か ら就労まで切れ目なく支援をしている.そのなかで発達特性をもつ児童,特に知的障害がない児童は就職,就労の継続について大きな壁にぶつかり,それが原因となり抑うつなど 二次的な精神的問題を抱え苦悩する姿を多く見てきた.知的障害を伴わない発達特性をもつ児童の場合,当県においては養護学校を経由せず,通信制高校を選択する児童が多い. 通信制高校から就職,就労の定着がうまく機能せず,社会適応できずに精神科医療につながっているケースが多いと感じている. 本シンポジウムにおいては,発達特性をもつ児童の保護者に登壇いただき,当事者の立場から就職に関しての困りについて問題提起をしていただいた.これに対し児童の就職支援に長年携わってこられた教育の領域から就 労支援や問題点について述べていただいた.また当県の特徴として離島を抱えているが, 離島でこうした発達特性をもつ児童の就労支援や定着促進を進めている支援者の立場から現状を述べていただいた.そして発達特性の みならずさらに加えて虐待などを受け,社会的養護が必要な児童の就労について児童養護施設の立場からお話しいただき,現状と課題,そしてニーズにどうこたえればよいのかを議論した.
  • ─異なる立場の学び合いや省察が資質・能力向上に及ぼす影響─
    菊地 一文, 川島 民子, 佐藤 晋治, 坂本 裕
    2022 年 44 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    教職大学院の目的・機能として,①学部段階での資質・能力を修得した者のなかから,さらにより実践的な指導力・展開力を備え, 新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成,②現職教員を対象に,地域や 学校における指導的役割を果たし得る教員等 として不可欠な確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えたスクールリーダーの養成の2つが挙げられている(中央教育審議会,2006).このことを受け,国立大学法人を中心とした教育学部では改組が進められ,全国各地に教職大学院が設置されてきた.2021年5月現在,教職大学院は全都道府県に,私立大学を含む54大学が設置するまでに至った. 教職大学院では上述した現代的課題を解決 するための教員の育成及び資質・能力の向上 に向けて,学部卒院生と現職教員院生が,そして各院生が専門とする学校種別を越え,さらには特別支援教育を専門とする院生と通常の教科教育を専門とする院生がともに学ぶことをとおして,それぞれの専門分野について理論と実践の往還的な学びによる融合を図り,省察を積み重ねる取組みを進めてきている.さらには,各大学において,教育委員会等と連携し,育成指標を開発するほか,地域が求める教育課題に応じた独自科目や実習科目の設定等,創意工夫によるカリキュラム体系が構築されている. 本シンポジウムでは,教職大学院の特徴的な科目や実習等に基づき,共通点や独自のポイントを明らかにするとともに,異なる立場の学び合いや省察が教員養成や現職教員の資質・能力向上に及ぼす影響,そしてこれらにおいて抱えている課題について検討した.また,インクルーシブ教育システムの推進・充実が求められる昨今において,すべての教員に求められる専門性や研修においてふまえるべき視点,効果的方法等についても検討し, 今後の現職教員研修等の充実を図るうえでの参考とすることを目的とした.
  • ─その実践と適用可能性─
    名川 勝 , 延原 稚枝, 水島 俊彦, 本間 奈美, 於保 真理, 市川 勝
    2022 年 44 巻 1 号 p. 48-50
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    トーキングマット(Talking Mats)はス ターリング大学(英)内の社会的企業であるトーキングマット社が提供する支援ツールで あり,意思決定の支援についても有用であるとされてきた.近年,日本でも実践 , 普及と研究が始まっている.本ツールは機能的コミュニケーションを補助し可能とするわけではなく,また適用は障害児,認知症者のみに限らない.トーキングマットは果たしてどのようなツールであると言えるだろうか? 本シンポジウムでは,各話題提供者から多様な適用紹介をいただき,本ツールの可能性と課題を検討する.
  • 齊藤 理恵, 住田 理加, 阿部 真吾, 窪田 華奈子, 山野 かおる, 三浦 巧也
    2022 年 44 巻 1 号 p. 51-53
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    企画者・話題提供者が勤務している櫻和メンタルクリニック(以下,当院)では,発達障害児・者への切れ目のない支援にいち早く取り組んでいる.その取組みの一環として,すでに実施されていた「小学生 SST」に加え,「中学生SST」が立ち上げられた.当院での中学生SSTでは,広義の“社会的スキル”の向上を目指したプログラム構成を行っている.ここで言う広義の“社会的スキル” とは,他者の情動理解,思春期ならではの発達上必要と考えられるスキル,ライフスキル等である.加えて,私たちは,それらソーシャルスキル・ライフスキルの獲得・実行には関係性の構築・深化が不可欠だと考えてい る.今回は,私たちの実践報告と,集団心理療法の視点を含むSSTの意義や,参加者にとってより有意義なプログラム検討の場として討議を行うため,自主シンポジウムを企画・実施した.
  • ─介入機会としての性交・子育て─
    延原 稚枝, 名川 勝, 門下 祐子, 酒井 理香, 武子 愛
    2022 年 44 巻 1 号 p. 54-56
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    国連・障害者権利条約・第23条「家庭及び家族の尊重」,第25条「健康」,ならびに,世界性の健康学会・性の権利宣言等に,障害のある人における性と生殖に関する健康と権利(以下,SRHR)が謳われている.しかし, 今なお知的障害がある者(以下,知的障害者)における性に関する偏見は根深く,支援者や親は,青年期以降のライフコースにおいて標準的出来事であるはずの結婚,その前提としての異性とのかかわりを,知的障害者のライフコース上にありうる出来事とは位置付けていない5). 他方,知的障害者の性知識に係る先行研究では,既婚・未婚,性別によらず,避妊・妊娠の知識は自力での獲得が難しい実態がうかがえる1)4).さらに就労支援事業所を対象とした調査では,知的障害のある利用者の性行為等に関する事例が数多く確認されているが2),9 割の事業所は性教育を行っていない3). 本企画はこれらの実態をふまえ,知的障害者のSRHRについて検討することを目的として行った.
  • ─医療・福祉・教育から考える─
    橋本 創一, 横田 圭司, 志賀 利一, 丹野 哲也, 田中 里実, 霜田 浩信
    2022 年 44 巻 1 号 p. 57-59
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    軽度知的障害や境界域知能にある人が増加しているなかで,医療的視点(診断と治療等),福祉的視点(制度とサービス等),教育的視点(学校教育における支援等),家族の視点(子ども期の診断と障害受容,家族支援等)の 4 つの領域・視点から,現状と課題について討論した.理解・把握や支援の実際は,子ども~成人期,対象者が所属する学校・機関や生活フィールド等によりとらえ方や考え方の違いがあり,難しさが指摘されている.研究や支援する側において,どのような問題意識と論点整理が必要なのかについて明確にする必要がある.
  • 齊藤 宇開, 外岡 資朗, 德永 瑞季, 髙尾 希世美, 綱川 貴, 肥後 祥治
    2022 年 44 巻 1 号 p. 60-63
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    わが国では共生社会の実現に向けて,イン クルーシブ教育システムの充実が重要な課題となっている.特に,特別支援教育で培った専門性をどのように通常教育の場に活かしていくかは大きな課題である.インクルーシブ教育システムでは,従来の特別支援教育ではカバーしていなかった,より広範な教育的ニーズへの対応が必要となることが明らかであり,多様な専門性が求められる状況が生じることが予想される.このような状況のなか で,教育や福祉,そして地域資源の連携・協力が欠かせないが,異なる専門性をもつ専門家同士の連携・協力の形態の1つである「コンサルテーション」は特別支援教育の推進,ならびにインクルーシブ教育システムの実現 に有効な手段の1つであると言えよう. そこで本シンポジウムでは,アセスメントや授業の指導パッケージ(TASUC株式会社,以下TASUC)を用いた「コンサルテーション」事例を題材に,今後の学校や福祉機関へのコンサルテーション提供の社会的妥当性と普及に向けたアイディアを共有することを目的とした.指定討論では,学校コンサルテーションの効果や,インクルーシブ教育システムの実現にどのように寄与していくか議論した.
  • 大石 幸二, 小関 俊祐, 戸ヶ﨑 泰子, 佐々木 恵, 門田 光司, 神尾 陽子
    2022 年 44 巻 1 号 p. 64-66
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    公認心理師は「国民の心の健康の保持増進に寄与する」心理の国家資格である(法第1条).大石より保健医療・福祉・教育・産業 労働・司法犯罪等,日本発達障害学会の活動領域と関連の深い主要5分野で,科学者─実践家モデルの考え方を生かし,エビデンスに基づく実践を行う特徴があると説明された. また公認心理師には,その目的達成のために,多職種連携や地域における協働が求められることへの言及があった.そして,話題提供者は「公認心理師の会」(教育・特別支援教育部会)の役員を務め,科学者─実践家モデルに基づいて,公認心理師のスキルアップや職能発達の支援に従事していることが補足説明された.さらに,公認心理師による発達支援を推進するため,本シンポジウムが企画されたと説明がなされた.
  • ─教育現場における取組みの実際と課題─
    雲井 未歓, 中 知華穂, 古里 恵, 塚田 睦実, 有田 成志
    2022 年 44 巻 1 号 p. 67-69
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    読み書きの学習困難は学習障害の主要な症状であり,従来その背景要因や支援方法をめぐって多数の検討が行われてきた.学習障害には文字の読みや綴りの習得に困難が生じる発達性ディスレクシアのほか,漢字の書字に 特異的な困難を伴うタイプ,さらに文章の読解や作文の困難を主とするタイプ等があり,それぞれ背景要因や困難の顕在化する時期は多様である.また,通常の学級には,学習障害と判断されないが学習障害に類似した困難 を有する児も多くいると言われている.このため近年では,学習障害との判断に基づいた個別支援と並んで,一斉指導のなかで行う包括的な早期予防的支援の重要性が指摘されるようになった.この点については RTIモデ ルやリスクモデルに基づく研究と実践が進められ,通常学級での読み書きアセスメントや支援教材の効果が報告された.本シンポジウムは,こうした成果を広く地域の学校に資するものとするために,課題を明らかにする目 的で企画した.はじめに,リスクモデルに基づく早期予防的支援に早くから着手し,成果を示してきた東京都での取組み内容について話題提供をいただいた(中氏).次に,地方で行われた取組みの例として,鹿児島での読みのアセスメントの作成と実施について(古里氏),および,通常学級での流暢な単語読みスキルの支援の効果(塚田氏)について, それぞれ報告いただいた.その後,各報告に対して学校教育の現場の立場からコメントと指定討論をいただき,早期予防的支援を学校現場で広く行うための課題について検討した.
  • ─有病率調査とスクリーニング尺度について─
    竹之下 慎太郎, 桑野 良三, 井上 友和, 黒住 卓, 長壽 厚志, 寺田 整司, 末光 茂
    2022 年 44 巻 1 号 p. 70-74
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    わが国の人口全体の高齢化に伴って,知的障害者人口も急速に高齢化している.すでに障害者福祉の現場は,知的障害者の高齢化による支援ニーズの変化と,認知症による諸問題に直面している.適切な支援や対策が提供されるために,知的障害者における認知症の実態が明らかにされ る必要がある.なお,知的障害者の認知症は,元々併存している多様な障害のため,一般高齢者と同じ方法でスクリーニングすることができない.そのため,認知症を疑われながら,十分な評価を受けていない知的障害者が数多く存在する.知的障害者への使用を前提とした認知症スクリーニング方法の確立が必要である.2017 年から岡山大学と社会福祉法人旭川荘は,知的障害者における認知症の包括的研究に取り組んできた.これまでに実施した,知的障害者における認知症有病率調査と,認知症スクリーニング方法「DSQIID」の有用性を検証した研究について紹介する.
  • 荻野 昌秀, 前川 圭一郎
    2022 年 44 巻 1 号 p. 75-85
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    近年,特別な支援を要する児への早期支援が求められている.本研究では,就学移行支援としてのペアレントトレーニングを児童の就学予定の小学校にて実施し,効果を検討した.対象者は通常学級に就学予定で,個別療育を受けている,もしくは通級指導教室利用予定の年長児の保護者17名であった.全4回の講義および個別の対応検討の結果,対象児の不注意・多動・衝動性,行動問題の有意な低下が見られたが,行動問題は標準範囲内であった.保護者の養育ストレスは軽減した可能性があるが,精査が必要と考えられた.QOLについては有意な変化がなかった.一方で,インタビューの結果,本プログラムは短い学習時間で保護者が効果を実感し,家庭での実践も可能であることが明らかとなった.今後は保護者以外の第三者による評価や,評価尺度の検討,社会的妥当性の評価,対象児の行動の観察,フォローアップとその効果検証,小学校以外の場所で行うプログラムとの比較が望まれる.
  • ─短縮版ペアレントトレーニング・プログラムの効果と保護者の出席率が効果に及ぼす影響についての予備的検討─
    荻野 昌秀
    2022 年 44 巻 1 号 p. 86-99
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    近年,発達相談センターや保健センター等の地域機関での発達障害児の保護者に対するペアレントトレーニングの実践が進んでいるが,普及のために短縮版の実施,出席率や中断の分析が必要である.本研究では全7回の短縮版ペアレントトレーニング・プログラムを開発,実施した. 対象は小学生の母親30名であった.出席率70%以上の保護者20名は対応知識,抑うつ,養育ストレスが改善し,子どもは多動・衝動性や家族にかかわるQOLの改善が見られ,標準版と同様の効果が確認された.また将来の仕事等の情報が保護者の悲観の低下につながった可能性が考えられた.さらに感想の分析から,出席率と保護者の考え方が関連しており,出席率の低い保護者は個別相談が適している可能性があることが示唆された.今後は出席率が低い保護者の個別相談の経過を確認することや,フォローアップを行ってプログラムを実施する前後との比較を行うこと等が必要である.
  • 丸山 啓史
    2022 年 44 巻 1 号 p. 100-108
    発行日: 2022/05/31
    公開日: 2023/10/06
    ジャーナル フリー
    近年の英語文献をもとに,「障害者と気候変動」をめぐる議論や研究の動向を整理した. 障害者に対する気候変動の否定的影響が多様な側面から指摘されていることを概観し,移住をめぐる問題,気温と体温調節をめぐる問題についても議論や研究が見られることを示した.また,気候変動の影響による災害に関しての障害者の脆弱性,気候変動適応や防災・減災と障害者との関係への関心が強いことを見たうえで,気候変動対策への障害者の参画が重視されるようになってきていることを確認した.今後の研究の課題としては,気候変動の緩和策と障害者との関係を検討するこ と,気候変動対策への障害者の参画のあり方を検討すること,日本における実態や課題を把握すること,気候変動の影響によって機能障害が引き起こされる実態や可能性を把握すること等を挙げた.
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