【研究目的】生体腎移植ドナーに対する提供前後の身体的および心理的状態を調査し,ドナーのQOLについて心身健康科学の視点から検討することである.
【研究方法】A大学病院において生体腎移植のために腎臓を提供した270例を対象に,術前,術後2日目,および最終外来受診時の腎機能,そして提供前後の心理的反応についての情報を解析した.
【結果】研究対象者は2009年7月~2011年3月に腎臓を提供した男性100名と女性170名の計270名であった.推算糸球体濾過量の追跡が可能であった男性63名の提供前の平均は78.61 ± 11.33ml/min/1.73m
2であり,術後1日目は43.81 ± 6.50,術後2日目が最も低く43.21 ± 7.36,術後1年目は49.51 ± 9.11であった.同様に,女性97名の推算糸球体濾過量の平均は提供前が75.98 ± 11.40ml/min/1.73m
2であり,術後1日目は47.24 ± 6.46,術後2日目が最も低く45.45 ± 7.42,術後1年目は49.98 ± 8.57であった.
男女総数270名のドナーのうち心理的問題がみられた者は4名であった.そのうち,提供前は3名で,内容はパニック,落ち着きがない,いろいろ質問をする等であった.退院後は3名で,その内容は食欲低下から心療内科を受診した,パニック,落着けない等であった.3名のうち2名は提供前にも心理的問題がみられた.
【考察】提供後の推算糸球体濾過量の低値,そして術前後に心理的反応がみられるドナーは,数年にわたる外来受診の徹底と,生体腎移植ドナーの抱える心情をよく聞く,体制を整備することなど,心身健康面からのフォローアップが必要である.
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