日本看護倫理学会誌
Online ISSN : 2434-7361
9 巻, 1 号
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巻頭言
原著論文
  • 新納 美美
    2017 年 9 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    看護学が生来的にもっている規範および倫理の課題を明らかにし、その発展に有効な倫理理論選択への示唆を得ることを目的とした。Notes on Nursingにおけるoughtを用いた記述から、ナイチンゲールの認識に基づく八つの看護の規範が導出された。さらにそれらは行動的規範と、認識的規範に分類された。行動的規範はナースの行為に関する規範で、生命倫理の原則の一部が含まれていた。認識的規範は、科学的認識や管理的認識を含むナースの専門性に関する認識であり、ナースの行為の根拠となるものであった。しかし、道徳的行為の根拠となる倫理的思考法の原型は認められなかった。さらに、規範とlawとの関連は、ナースが神の法則に従いながらも健康を実現するために自律した管理行動をとることを示していた。徳倫理には司法看護領域に適用困難があり、義務論を許容する現代功利主義を検討の視野に入れることも必要と考えられた。

  • 長谷川 奈々子, 太田 勝正
    2017 年 9 巻 1 号 p. 12-21
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、入院患者の尊厳を測定する患者尊厳測定尺度日本版(J-PDS)を開発し、信頼性・妥当性を確認することを目的とした。文献検討と患者尊厳測定尺度国際版で用いた調査票の翻訳により尊厳の期待度と満足度を測定する35項目の日本語版調査票を作成し、14施設の入院患者を対象に質問紙調査を行った。307部の回答を得た(回収率47.5%、有効回答率99.7%)。項目分析および探索的因子分析の結果、期待度は5因子21項目、満足度は3因子21項目が抽出された。Cronbach’s α係数は期待度で0.92、満足度で0.94であった。ローゼンバーグ自尊感情尺度と一部の因子の間に有意な相関を認めた。確証的因子分析ではCFIが期待度で0.90、満足度で0.91というモデル妥当性を示した。以上よりJ-PDSは一定の信頼性と妥当性を備えた尺度であることが確認された。

  • 友竹 千恵, 浅井 さおり, 内山 孝子, 小野 光美
    2017 年 9 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    目的:看護管理者の臨床倫理ガイドライン導入の取り組みと、ガイドライン導入による看護管理者やチームの認識や行動の変化を明らかにする。方法:臨床倫理ガイドライン試行に参加した看護管理者10名を対象者とし、半構成的面接で得たデータを質的帰納的に分析した。結果:対象者の導入の取り組みと対象者が認識した変化として【導入に対する管理者の意識】【管理者が行った導入のための段取り】【管理者からスタッフへの働きかけ】【ガイドラインの活用方法】【管理者・チームの変化】の5カテゴリーが見いだされた。考察:臨床倫理ガイドラインには看護職に重要なことを想起させるreminderの機能や、日々のケアの振り返り、道標としての機能を有することが示唆された。また、導入により対象者やチームの倫理的感受性の向上や行動の変化があったと考えられた。チーム全体で倫理を中心に考えるために看護管理者が意思表明をする重要性が示唆された。

短報
  • 玉山 清美, 小野 美喜
    2017 年 9 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究は、整形外科の臨床場面で個人に委ねられている身体抑制を開始する際の判断基準の曖昧性を改善し、不必要な身体抑制をなくす対応を検討する際の基礎データを得るため、整形外科疾患をもつ高齢者に看護師が身体抑制を開始する際にどのような要件を判断材料としているのかを明らかにすることを目的とする。研究方法は、整形外科病棟に勤務している看護師に、無記名自記式質問紙調査による横断調査を実施した。身体抑制を行う際の悩みの程度で「高悩む群」と「低悩む群」に分類し、Mann–Whitney U検定で2群比較を行った。身体抑制の判断要件は「点滴・ドレーン類を自己抜去する」「ベッドから転落する」「尿留置カテーテルを自己抜去する」であった。「低悩む群」は、予防的に身体抑制を行う傾向にあった。点滴やドレーン類、尿留置カテーテルを早期に抜去し、せん妄や転倒転落ガイドラインでアセスメントを強化することが、身体抑制をなくす対応につながると示唆された。

  • 野口 恭子, 勝原 裕美子, 鈴木 恵理子, 番匠 千佳子, ウィリアムソン 彰子, 小笹 由香, 小島 操子, 細見 明代
    2017 年 9 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、東日本大震災後に派遣された災害支援ナースが支援活動時に感じた倫理課題を明らかにし、事前準備について考察することである。各都道府県看護協会から派遣された支援ナース850名を対象に2014年1月に自記式質問紙調査を実施した。返信346通中、倫理課題を記載していた201名の記述259個を帰納的に分析し、「平常時とは異なる看護実践への葛藤」「平常時なら可能な治療やケアの提供不能」「プライバシーの尊重が困難」「感染予防対策の実施困難」「資源配分・物資配布方法の未整備」「被災地における格差」「派遣元の求めに応じることの苦しさ」「派遣元の方針が不透明」などの16カテゴリに分類できた。支援ナースへの派遣前の準備として被災地の環境や自己完結型支援の特徴、他支援者との連携も含む実践がイメージできる研修、活動終了後のフォローアップなどにより、支援活動における葛藤や戸惑いを減らせる可能性が示唆された。

  • 有江 文栄, 桂川 純子, 佐伯 恭子, 大西 香代子
    2017 年 9 巻 1 号 p. 45-52
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、看護研究倫理支援の一端として行った交流集会で得られたデータから、研究者や研究を支援する人々の研究倫理に関する疑問や悩み、研究倫理教育に関するニーズについてまとめ、研究倫理の基本理念や既存の指針などに基づき研究倫理支援のあり方、特に教育に焦点を当てて考察するものである。交流集会参加者は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の理解、倫理審査に係る手続きや審査申請の基準について、またインフォームド・コンセントについて学ぶことを期待していた。研究倫理に関する疑問や悩みは、「研究倫理審査委員会の運営に関すること」、「倫理審査の申請手続きに関すること」、「研究の倫理的妥当性について」、「インフォームド・コンセントに関すること」、「データの取り扱いおよび研究利用について」、そして「研究支援や相談窓口に関すること」であった。また、交流集会で試みた対話も、研究倫理教育には効果的であることがわかった。段階的および継続的な教育、対話の機会提供、研究倫理相談窓口等の設置などが今後の課題として示唆された。

レター
日本看護倫理学会第9回年次大会
会長講演
基調講演
招聘講演
  • Christine Mitchell, 小西 恵美子, 宮内 信治
    2017 年 9 巻 1 号 p. 67-78
    発行日: 2017/03/20
    公開日: 2019/05/31
    ジャーナル フリー

    看護師は多くの場合、倫理は日常業務に直接活用できないと考えており、抽象的・学問的なものと捉えている。また、倫理の言葉や専門用語は、自分たちからは遠いものと認識し、実践で体験するごく普通の問題や、自分たちの判断や行いが正しいだろうかという悩みを言い表す言葉ではないと思っていることも多い。さらに、たとえ倫理について考える場合でも、看護における倫理的な問題や倫理的責任はわれわれの文化に特有なものであり、他国の看護師が抱えるものとは別の類のものであると考えている。本講演では、看護実践の倫理に関わるこれらの問題をまず取り上げる。すなわち、倫理は、(1)実用的ではなく抽象的なものと捉えられている、(2)現実の事柄を言い表す言葉ではなく遠くにあるものと捉えられている、および、(3)普遍的ではなく文化固有のものであると認識されている、の三つである。しかし、これらの三つは、次の四つ目の問題の単なる背景であるとも考えられる。その四つ目の問題とは、「生命倫理」全般、および特に「看護倫理」において、概してドラマチックで大きな倫理的ジレンマが取り上げられ、そのせいで、「倫理には正しい答えは存在しない」という考え方がささやかれている、ということである。本講演で私が便宜上「ネオン倫理」と名付けているこうした倫理が示唆する内容のせいで、解決が極めて困難で、分別ある人にとんでもないと思わせるような、話題性に富む倫理問題に関心が向けられている。このような派手な倫理に代わり、私は、まじめな看護師がいつも直面する「日々の倫理」に目を向ける。日々の倫理が扱うのは、障害をもつ患者の自己概念の再構築をどう手助けすればよいか、患者とその家族との間の緊張状態にどう関わることができるのか、あるいは、医師の指示が患者によくないと思われるとき、看護師はどう対処したらよいか、などである。最後に、倫理的な看護実践が試される世界共通の問題として、いわゆる看護師の「板ばさみ状態」を、問題の五つ目として取り上げる。これは、患者が求めること、患者の家族が望むこと、師長や同僚が考える「看護師としてなすべきこと」、また患者を診る医師が指示し期待することが相対立し、看護師はそれらの板ばさみになる、という問題である。そのような状態にある看護師は悲惨な立場に置かれていると思われがちだ。しかし実際には、こういった対立による板ばさみから絶対に逃れられないのは患者である。患者に今後どのようなことが起こるかを決める人々の間で意見が対立するという状態は、患者にとっては本当に恐ろしいことである。しかし幸いにも、患者には自分とともに板ばさみになってくれる看護師がいる。患者にとって、看護師はいつもそばにいて、擁護し、安楽を気遣い、ケアしてくれる人である。患者の病状の判断をし、処置をし、環境を整える、そういう日々の世話をしてくれる存在である。おそらく、患者を真にケアしようとするならば、「板ばさみ状態にある看護師」こそが最善の(またある意味では最も強力な)立ち位置にあるのである。

教育講演
シンポジウムI
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