日本看護倫理学会誌
Online ISSN : 2434-7361
12 巻, 1 号
選択された号の論文の17件中1~17を表示しています
巻頭言
特別寄稿
  • Joan McCarthy, 宮原 香里, 二神 真理子, 柳澤 佳代, 森本 彩, 八尋 道子, 眞弓 尚也
    2020 年 12 巻 1 号 p. 4-10
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    道徳的苦悩は,道徳の分野の感情的な側面を浮かび上がらせ,道徳的主体性の社会政治的で文脈的な特徴に注意を向けるよう促す概念的ツールである。本稿は,道徳的苦悩に関する規範研究や実証研究の発展の歴史を手短に紹介する。もともと1984年にアンドリュー・ジェイムトンAndrew Jametonが描いた道徳的苦悩の標準的な定義と,この定義を採用した初期の実証研究にとくに注目する。最後に,現在道徳的苦悩がどのように考えられ,示され,また批評されているか,いくつかの視点をまとめる。

原著論文
  • 相原 ひろみ, 細田 泰子
    2020 年 12 巻 1 号 p. 11-19
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,看護大学生の看護実践における倫理的行動の様相を質的に検討することである。4年次学生10名,実習指導者9名,看護学教員7名を対象に,看護大学生の看護実践における倫理的行動について,半構成的面接法を用いてグループインタビューにてデータを収集し(2016年6月~11月),質的帰納的に分析した。3者のデータを統合して分析を進めた結果,267のコード,53のサブカテゴリー,15カテゴリー,5コアカテゴリー【尊重に基づく相互関係の構築】【患者の権利の擁護】【看護実践の責任ある遂行】【チームでの協働による看護実践の向上】【責任を自覚した学習姿勢】が抽出された。患者との関係を深める際に必要となる対象を尊重した行動や,患者のプライバシーを守るための行動や代弁者としての行動など,学生が看護実践の場で求められている倫理的な行動が明らかになった。

  • 柳井 圭子
    2020 年 12 巻 1 号 p. 20-29
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    「ICTを利用した死亡診断の補助」は,医師不在・医師確保困難な地域において,在宅での穏やかな看取りが困難な状況に対応するものである。課題は,死亡診断の場における看護師の役割を医師の補助に留めることなく看護ケアとして発展させていくことであろう。このような問題意識から,本稿では,他国で同様の業務を行っている国の状況から看護ケアへの発展への示唆を見出し若干の考察を行った。イギリスでは,看護師の死亡確認が承認されている。その実務の状況および実施者の経験を比しながら,日本での実務について検討した。結果は,日本の実務は医師と協同で科学的に公正に死亡確認と死後診察を行っていくことである。故人の擁護者となるこの実務を的確に行い,社会の信頼を得ることで看護師の専門性と自律性を活かす看護の役割拡大となるのである。

短報
  • 工藤 千賀子, 工藤 せい子
    2020 年 12 巻 1 号 p. 30-38
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究では,看護者が患者からセクハラを受けた実態と性役割態度と倫理的行動を明らかにする。方法は質問紙調査法で,内容は平等主義的性役割態度スケール短縮版:SESRA-Sと倫理的行動尺度である。対象は東北6県の看護者834名(女性94.8%,男性4.7%)であった。セクハラ体験の割合は62.6%であった。セクハラを受けた時の感じ方の回答632件中「不快感があった」が6割強であった。セクハラ体験の有無別に,SESRA-S得点および倫理的行動尺度得点に差がなかった。「SESRA-S」と「倫理的行動尺度」はρ=0.302と弱い正の相関があった。看護者が患者からセクハラを受ける原因が,看護者個人の性役割態度や倫理的行動にあるとは言えなかった。今後,日本の病院での看護者に対するセクハラ防止対策を立案する際,患者側の要因も考慮する必要があることが示唆された。

  • 安藤 満代, 山本 真弓, 関根 麻紀
    2020 年 12 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は精神科で働く看護師を対象として実施したリフレクションを含めた倫理研修が,看護師の道徳的感受性,倫理的行動,ストレスに及ぼす効果について調べることであった。研修は倫理原則や理論に関する内容と看護師の体験をリフレクションする内容から成っていた。1回90分を2回実施し,11名の看護師が参加した。看護師は,第1回目の研修開始前と第2回目の研修終了後に道徳的感受性質問紙,看護師の倫理的行動尺度,精神的健康調査票に回答した。道徳的感受性質問紙の3つの下位尺度のうち「道徳的強さ」は研修後にM=3.5からM=3.9に有意に上昇した(ρ<.05)。倫理的行動尺度の下位尺度の得点も有意ではなかったが,上昇していた。精神的健康調査票はM=16.8からM=12.8へと有意に低下した(ρ<.05)。これより,リフレクションを含めた倫理研修は「道徳的強さ」を高めること,ストレスを軽減することに有効であることが示唆された。

  • 山本 麻記子, 太田 勝正
    2020 年 12 巻 1 号 p. 44-53
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,道徳的苦悩の軽減,あるいは道徳的回復力の育成への組織的支援について,看護師長の認識と実態を明らかにすることである。7つの先行文献から22の質問項目を抽出・精選した。属性,組織的支援に関する22の質問,福井らによる組織風土尺度で構成した調査票は,全国200床以上の病院に勤務する看護師長を対象に758部の回答を得た(回収率56.9%)。探索的因子分析では,看護師長の倫理的姿勢と態度』『病棟の倫理的体制』『看護部の倫理的体制』『病院の倫理的体制』の4因子22項目が抽出された。属性との検討で有効な有意差を示したのは,所属する診療科と組織風土分類のみであった。ただし「実施頻度」と組織風土分類については,全因子との関連でイキイキ型が有意に高いスコアを示した。本研究により,強制的・命令的な雰囲気が少なく,合理的な組織管理ができている職場風土では,看護師の道徳的回復力を育成できる可能性が示唆された。

  • 綾田 美紗姫
    2020 年 12 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,倫理的意思決定の局面における看護チームの実践を明らかにする目的で,大規模総合病院の中の1病棟の看護チームを対象に参与観察を実施した.流動的に変化する倫理的意思決定の局面において看護チームは,問題の本質の課題,患者の真意や価値について模索し,代弁者としての役割を果たそうとしていた.一方で,看護実践に影響を与える専門的価値の存在が浮き彫りとなった.専門的価値の影響から知らず知らずのうちに患者の願いより医療者としての価値を優先していることもあり,患者のみならず自身の価値の明確化の必要性と重要性が示唆された.

  • 蔡 小瑛
    2020 年 12 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本稿は,筆者が参加した台湾で行ったemicなアプローチによる「既発表よい看護師研究」の結果をeticなアプローチ,つまり,トラベルビー看護理論の視点から解析し,あわせて,「よい看護師」探求の意義を考察するものである。台湾がん患者から見た「よい看護師」の特質は,ケア技術よりも患者とのよい人間関係を築くことのできる看護師であった.また,「視病猶親」(古来の諺:病人を自分の身内として接する)という大きなカテゴリーがよい看護師の要素として見られた.ケア対象者を一人の人間として見るという徳の倫理を追求する「よい看護師」を台湾の患者が求めていることがわかった.それをトラベルビー看護理論から見れば,文化の違いはあれど,文化的普遍性をもつものもあることがわかった.今後の看護教育,実践および研究において無視のできない必要不可欠な課題になるであろう.

  • 小野 良子, 佐々木 久長, 伊藤 登茂子
    2020 年 12 巻 1 号 p. 67-72
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,身体抑制の倫理的問題に対する態度とクリティカルシンキングの関連について明らかにすることである。身体抑制の事例を作成し,クリティカルシンキング尺度を用いてA県内の急性期病院10施設の臨床看護師へ無記名自記式質問紙調査を実施した。分析対象者は202名(有効回答率27.0%)であった。「問題の認識」で「問題あり」の群と「道徳判断」で「規則・基準に基づく判断」をした群のクリティカルシンキング尺度得点が有意に高かった。「行動」においては,「身体抑制をする」「しない」「どちらともいえない」の3群間でクリティカルシンキング尺度得点に有意差は認められなかった。臨床看護師はクリティカルシンキングを用いて多面的な「問題の認識」をし、相対的に「道徳判断」をしていた。しかし,「行動」においてはクリティカルシンキングではなく組織倫理に影響を受けている可能性が示唆された。

  • 稲垣 聡, 大澤 歩, 吉川 あゆみ, 石原 逸子
    2020 年 12 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2020/03/20
    公開日: 2020/05/13
    ジャーナル フリー

    本研究は,臨床看護師が認識する倫理的風土を測定する日本語版倫理的風土測定尺度(J-HECS)を開発し,その信頼性と妥当性の検証を目的に行った。調査は,関西圏4病院で働く看護師を対象に300部配布し,184部の回答を得た。確証的因子分析の結果,オリジナル版の26項目では,尺度モデルの適合性が低いことが考えられた。そのため,質問項目が類似していると考えられた8項目を削除し,J-HECSを5因子18項目の構成とし,再分析を行った。その結果,尺度のCronbach’s 係数は0.94であり,高い信頼性が確認された。次に,適合度指標では,AGFI: 0.80,CFI: 0.92,RMSEA: 0.09となり,やや低いが概ねモデルの適合性が示された。また,J-HECSとJMDS-R(日本語改訂版倫理的悩み測定尺度)との間には,負の相関(r = -0.35,ρ<0.01)が観察された。以上により,J-HECSは一定の信頼性と妥当性を備えた尺度であることが確認され,日本語版としての使用可能性が示された。

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