東京都東部および千葉県西部の都市化区域で、1974年4月より1978年3月まで、都市越冬鳥の食性としての果実と、種子散布動因としての鳥類との関係について研究した。果実食鳥の条件(飛来時期、探索行動、群サイズ、口径:本論文において上下階の接合点問の長さをいう)と果実の条件(果実の大きさ、色彩、cluster)との相互適応関係を調べ以下の結果を得た。
1.都市越冬鳥は35種が記録された。これらの中で、高頻度で出現した種はキジバト、ドバト、ヒヨドリ、スズメ(出現率100%)、ツグミ(78.6%)、カワラヒワ、モズ(71.4%)、ハクセキレイ、ウグイス、ハシブトガラス(64.3%)の12種であった。果実食鳥として重要なのはヒヨドリ、ムクドリ、ツグミ、オナガでありすべて体重50-100gの中型鳥であった。
2.ヒヨドリ、ムクドリ、ツグミの飛来は都市周辺の水元公園で12月上中旬より2月上旬であり、都心や市街地では2月上中旬であり、時期的なずれがみられた。都市公園から市街地への移動に伴い群サイズの小型化がヒヨドリ、ムクドリでみられた。
3.果実食鳥の糞内にみいだされた種子は39種であった。出現率50%以上、採集個体50個以上の優占種子は、トウネズミモチ、ネズミモチ、モチノキ、イヌツゲ、アオキ、ヘクソカズラ、エンジュ、ベニシタンの8種であった。これらの植物は都市環境の緑化や美化の目的で植栽されたもの、ツル性植物、有棘植物などであった。林縁植物構成種であるツル性植物や有刺植物は、独立木、垣根、林縁など、果実食鳥の止り木としての利用度が高いため種子散布されやすく、都市植生の破壊と鳥による種子散布およびマント•ソデ群落形成とが相互に関係しているものと考えられる。
4.都市環境では被食型種子散布がみられ、散布距離は約300m程度の短距離散布であった。これは、果実木での採食行動が人為の影響を受けやすく、果実木間や一時的避難場所への短距離移動がしばしば行われることと関係している。
5.鳥散布種子のうち、トウネズミモチは5月に一斉に発芽し、シュロ、エンジュ、ヘクソカズラ、ナツヅタも散布種子数は少いがよく発芽した。ただし、トウネズミモチでは、秋までに実生枯死が約70%に達した。枯死原因としては、散布地点の植生による日陰や夏期の乾燥の影響を受けたものと考えられる。
6.調査地域内で採集した52種の果実を果実食鳥の口径と採食効率の立場から次の4Typeに分類した。
TypeA〔果実短径25mm以上、丸のみにできず、被食型散布できない〕、園芸果実など5種。
TypeB〔果実短径10-15mm、のみこみ非効率、採食時に落下しやすい〕、センダンなど7種。
TypeC〔果実短径5-10mm、効率的にのみこめる〕、ネズミモチなど32種。
TypeD〔果実短径3-5mm、採食非効率型〕、ムラサキシキブなど8種。
一方、果実食鳥の口径はヒヨドリ15.40±0.66mm(13.8-17.0mm)、オナガ14.96±1.17mm(13.5-17.5mm)、ムクドリ12.86±1.70mm(11.0-15.0mm)、ツグミ11.72±0.78mm(10.3-13.8mm)であり、いづれもTypeCの果実を効率的にのみこめる大きさであり、しかも、TypeCの果実が32種(61.5%)で最も種数が多かった。
7.完熟した果実の色彩は赤系統(41.2%)、黒紫系統(29.4%)、オレンジ系統(21.6%)で、色彩的に鳥に目立つものが92.2%を占めた。しかも、果実木の果実のつき方は、葉茎から突出した部位に集合した状況を成すものが多く、70.6%の果実でclusterを形成していた。色彩的に目立ち、clusterを形成している果実は、果実食鳥の効果的な探索行動や採食を可能にしているものといえる。
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