1982年12月から1983年5月にかけて,奈良市•垂仁天皇陵のコサギの冬塒において就•離塒行動と気象要因の関連を調査して,次の結果を得た.
(1)冬塒におけるコサギの就•離塒行動は,照度がひきがね的要因となり,それに気温と採食度ないし空腹度がさらに微調整し,後2者のうちで気温の方が大きく影響するものと考えた.
(2)離塒開始時(日の出前平均16.1分)の照度(平均14.3lux)は,就塒開始時(平均して日没後3.3分)の照度(平均355.2lux)よりも低かった.
(3)離塒終了時(平均して日の出前2.1分)の照度(平均393.4lux)は,就塒終了時(日没後平均19.6分)の照度(平均4.7lux)よりも高かった.
(4)就塒と離塒はともに短時間に一斉に行われたが,就塒に要する時間(24.4分)は,離塒に要する時間(18.2分)よりも長い.就塒前集合(128.0分)に始まる一連の就塒行動には,離塒前活動(35.2分)に始まる一連の離塒行動よりもはるかに長い時間がかかった.
(5)気温が低いほど採食地で分散傾向のあることが示唆された.
(6)就塒行動と気象要因の関連につき分析して,次の結果を得た.
(i)就塒前集合の開始時刻は平均し七日没前125.3分で,照度は80%が14,000lux以下であった.(ii)就塒前集合数の70%が集合したときめ照度は,75.0%の調査日で700lux以下であった.(iii)気温が高いほど,より多くの個体が,より短い時間に,より少ない飛来回数で就塒前集合し,就塒時刻は遅くなった.(iv)林での集合部位には,気温の低いあいだ季節風の死角部が選ばれた.(V)就塒前集合に対する雨•霧•雪の直接的影響は,とくに認められなかった.
(7)離塒行動と気象要因の関連につき分析して,次の結果を得た.
(i)コサギには離塒前活動期(平均35.2分)があり,早朝に塒位置から聞えてくる「ゴアー」という鳴き声が離塒前活動開始の有効な指標である.(ii)離塒前活動は平均して日の出前40.2分(照度はOluxよりも低い)に始まった.(iii)気温が低ければ離塒の開始が早くなった.(iv)気温が低ければ離塒前活動期が短い傾向があった.(v)結氷の強い朝,いったん離塒してから塒の所在する林に引返して何時間もかけて採食地へ飛び立つという,結氷に対する適応と思われる行動が認められた.(vi)離塒の開始は単独飛び立ちであり,大きな群れで飛び立っても早い時期に分散する.(vii)雨のために照度が低下すれば,離塒終了が遅れた.
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